説明

ピリジルエチルチオ化合物の製造方法、変性イオン交換体およびビスフェノール化合物の製造方法

【課題】収率の改善されたピリジルエチルチオ化合物の製造方法を提供する。
【解決手段】ビニルピリジンと硫黄含有化合物とを反応させてピリジルエチルチオ化合物を製造する方法に於いて、以下の一般式(1)で表される化合物の含有量が4重量%以下であるビニルピリジンを使用する。
【化1】

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ピリジルエチルチオ化合物の製造方法、変性イオン交換体およびその製造方法ならびにビスフェノール化合物の製造方法に関する。ピリジルエチルチオ化合物は、医薬、農薬などの合成中間体として有用な化合物であり、また、フェノールとアセトンとの縮合によりビスフェノールAを製造する際の触媒(酸性イオン交換体)の変性剤としても有用な化合物である。
【背景技術】
【0002】
ピリジルアルキルチオール類の合成については、従来から多くの報文が公表されている。例えば、2−(4−ピリジル)エタンチオールの合成に関しては、エタノール溶媒中でパラトルエンスルホン酸の存在下に4−ビニルピリジンとチオ尿素とを反応させてイソチウロニウム塩を生成させ、次いで、これをアンモニア水中で2−(4−ピリジル)エタンチオールに転化させる方法(例えば非特許文献1参照)が実用的であると考えられており、この方法の改良が進められている(例えば特許文献1及び2参照)。
【0003】
そして、水性溶媒中でイソチウロニウム塩の生成反応を行い、次いで、その液をアンモニア水溶液と反応させることにより、イソチウロニウム塩を単離することなく簡便に2−(4−ピリジル)エタンチオールを製造する方法も提案されている(例えば特許文献3参照)。
【0004】
そして、出発原料の1つである4−ビニルピリジンの一般的な製造方法としては、γ−ピコリンとホルムアルデヒドとのメチロール化反応によって2−(4−ピリジル)エタノールを生成させ、これをアルカリ存在下に脱水反応を行う方法が知られている(例えば特許文献4参照)。ここで製造された4−ビニルピリジンは、例えば蒸留によって精製されるが、製品中には数種類の不純物が含まれる。これらの不純物は、未反応原料であるγ−ピコリン、副生物であるエチルピリジン、イソプロペニルピリジン、プロペニルピリジン、ピリジン骨格にメチル基及びビニル基の付いたメチルビニルピリジン類である。
【0005】
上記の他、次の様な方法も知られている。すなわち、硫黄含有化合物として、尿素の代わりに、チオ酢酸を使用し、ビニルピリジンとチオ酢酸とを反応させ、ピリジルエチルチオ化合物としてピリジルエチルチオアセテートを得る方法(例えば特許文献5及び6参照)。また、硫黄含有化合物として硫化水素を使用し、ビニルピリジンと硫化水素とを反応させ、ピリジルエチルチオ化合物としてピリジルエタンチオールを得る方法(例えば特許文献7)。なお、上記のピリジルエチルチオアセテートは、酸の存在下に分解してピリジルエタンチオールに容易に変換し得るが、メルカプト基がアセチル基によって保護された誘導体のまま、フェノールとアセトンとの縮合によりビスフェノールAを製造する際の触媒の変性剤として使用することが出来る。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】ジャーナル・オブ・オーガニック・ケミストリー(J.Org.Chem.)26,82(1961)
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平11−228540号公報
【特許文献2】特開平11−255748号公報
【特許文献3】特開2002−220373号公報
【特許文献4】特開昭53−144577号公報
【特許文献5】米国特許第6,534,686号明細書
【特許文献6】米国特許第6,620,939号明細書
【特許文献7】米国特許第6,667,402号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、前記の方法に従って、ビニルピリジンと硫黄含有化合物とを反応させてピリジルエチルチオ化合物を製造した場合、ピリジルエチルチオ化合物の収率が予想外に低いという問題がある。
【0009】
ところで、従来の提案においては、ビニルピリジン、具体的には、4−ビニルピリジンに関し、その着色物質の除去、その重合物質の除去を目的とした単蒸留などの前処理について検討されているが、ピリジルエチルチオ化合物の収率の観点からの検討はなされていないのが現状である。
【0010】
本発明は、上記実情に鑑みなされたものであり、その目的は、収率の改善されたピリジルエチルチオ化合物の製造方法を提供することにある。
【0011】
本発明の他の目的は、変性剤として上記の製造方法で得られたピリジルエチルチオ化合物を使用して成る変性イオン交換体を提供することにある。
【0012】
本発明の更に他の目的は、触媒として上記の変性イオン交換体を使用するビスフェノール化合物の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、鋭意検討を重ねた結果、原料のビニルピリジン中の特定の不純物の濃度を一定の値以下にすることにより、ピリジルエチルチオ化合物の収率が改善されるとの知見を得た。本発明は、上記の知見に基づき完成されたものであり、互いに連関する複数の一群の発明から成り、各発明の要旨は次の通りである。
【0014】
本発明の第1の要旨は、ビニルピリジンと硫黄含有化合物とを反応させてピリジルエチルチオ化合物を製造する方法に於いて、以下の一般式(1)で表される化合物の含有量が4重量%以下であるビニルピリジンを使用することを特徴とするピリジルエチルチオ化合物の製造方法に存する。
【0015】
【化1】

【0016】
本発明の第2の要旨は、酸性イオン交換体の酸性基の少なくとも一部がピリジルエチルチオ化合物で保護された変性イオン交換体であって、酸性イオン交換体の変性剤として、上記の方法により製造されたメルカプトアルキルピリジン化合物またはそのメルカプト基が保護された誘導体を使用して成ることを特徴とする変性イオン交換体に存する。
【0017】
本発明の第3の要旨は、上記の変性イオン交換体の存在下、フェノール化合物とカルボニル化合物とを反応させることを特徴とするビスフェノール化合物の製造方法に存する。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、収率の改善されたピリジルエチルチオ化合物の製造方法が提供され、工業的に有利なビスフェノール化合物の製造方法が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0020】
先ず、本発明に係るピリジルエチルチオ化合物の製造方法について説明する。原料のビニルピリジンには、ビニル基の位置が異なる位置異性体が存在する。本発明においては、何れの異性体、例えば、2−ビニルピリジン、4−ビニルピリジンの何れであってもよいが、好ましくは4−ビニルピリジンである。他の原料の硫黄含有化合物の種類は、特に限定されず、ビニルピリジンとの反応の結果、ピリジルエチルチオ化合物を生成させるものであればよい。硫黄含有化合物の具体例としては、チオ尿素、チオ酢酸、硫化水素、硫化ナトリウム、チオ硫酸ナトリウム、チオール化合物などが挙げられるが、好ましくは、チオ尿素、チオ酢酸または硫化水素であり、更に好ましくは、チオ尿素またはチオ酢酸である。
【0021】
先行技術に示されている様に、原料の硫黄含有化合物の種類により生成物するピリジルエチルチオ化合物は異なる。本発明においては、ピリジルエチルチオ化合物として、イソチウロニウムエチルピリジニウム塩、ピリジルエタンチオール、ピリジルエチルチオアセテート等のメルカプト基が保護されたピリジルエタンチオール誘導体、アルキル(ピリジルエチル)スルフィド等を含む。原料の硫黄含有化合物として、チオ尿素、チオ酢酸または硫化水素を使用した場合の各々の反応の一例について以下に説明する。
【0022】
硫黄含有化合物としてチオ尿素を使用した場合は次の通りである。すなわち、酸の存在下にビニルピリジンとチオ尿素とを反応させ、ピリジルエチルチオ化合物として次の一般式(2)で表されるイソチウロニウム塩を得る。
【0023】
【化2】

【0024】
上記のイソチウロニウム塩は、アルカリの存在下に分解し、ピリジルエチルチオ化合物として次の一般式(3)で表されるピリジルエタンチオールに変換することが出来る。
【0025】
【化3】

【0026】
硫黄含有化合物としてチオ酢酸を使用した場合は次の通りである。すなわち、ビニルピリジンとチオ酢酸とを反応させ、ピリジルエチルチオ化合物として次の一般式(4)で表されるピリジルエチルチオアセテートを得る。
【0027】
【化4】

【0028】
上記のピリジルエチルチオアセテートは、酸の存在下に分解し、ピリジルエチルチオ化合物として一般式(3)で表されるピリジルエタンチオールに変換することが出来る。
【0029】
硫黄含有化合物として硫化水素を使用した場合は次の通りである。すなわち、ビニルピリジンと硫化水素とを反応させ、ピリジルエチルチオ化合物として一般式(3)で表されるピリジルエタンチオールを得る。
【0030】
前記の何れの反応も先行技術に開示され、本発明においては、先行技術に開示された反応条件をそのまま採用し得るが、硫黄含有化合物としてチオ尿素を使用した場合の好ましい反応条件について以下に説明する。
【0031】
酸としては、パラトルエンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、トリフルオロメタンスルホン酸などの有機酸、硫酸、塩酸、硝酸などの一般的な無機酸が使用される。これら中では、取り扱いの容易な点から、パラトルエンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸などの芳香族スルホン酸や硫酸が好ましく、特に、パラトルエンスルホン酸または硫酸が好ましい。
【0032】
酸は、ビニルピリジンに対し、前記の式で示される化学量論量以上となる様に使用されるが、大過剰に使用した場合は、副反応を起す可能性があるため、ビニルピリジンに対し、通常4当量以下、好ましくは3当量以下となる様に使用される。また、チオ尿素は、化学量論量ないしこれより若干過剰に使用されるが、ビニルピリジンに対し、通常1.5当量以下、好ましくは1.3当量以下である。
【0033】
反応は、アルコール等の有機溶媒または水性溶媒中に酸とチオ尿素を加えて溶解させた後、撹拌下にビニルピリジンを滴下して行えばよい。そして、好ましくは窒素などの不活性ガス雰囲気下で行う。酸の濃度は、反応操作の容易性が損われない限度で高い方が好ましく、パラトルエンスルホン酸であれば、通常5〜50重量%、好ましくは20〜40重量%である。また、反応温度は、通常30〜100℃、好ましくは50〜100℃のであり、反応時間は通常1〜10時間である。
【0034】
次いで、本発明においては、イソチウロニウム塩の生成反応が完了した後、得られたイソチウロニウム塩をアルカリの存在下に分解してピリジルエタンチオールを製造する。具体的には、前記の反応液にアルカリを加えて液性をアルカリ性にする。アルカリとしては、水酸化ナトリウム等を金属水酸化物を使用することも出来るが、アンモニアを使用するのが好ましい。アンモニアを使用した場合、分解反応は下記の様に進行する。
【0035】
【化5】

【0036】
アンモニアの所要量は、イソチウロニウム塩に対して化学量論上は2倍モルであるが、反応を十分に進行させるため、過剰に使用する。アンモニアの使用量は、具体的には、イソチウロニウム塩溶液中に存在する前工程の酸を中和するのに要する量に加え、原料として使用したビニルピリジンに対し、通常3〜15倍モル、好ましくは3〜5倍モルである。アンモニアの使用量が多過ぎる場合は一般に収率が低下するが、これは生成したピリジルエタンチオールが副反応を起すためと推定される。なお、アンモニアは、通常、取扱いの容易なアンモニア水として使用されるが、その濃度は、後続する濾過および抽出工程での操作性を考慮して適宜に決定すればよい。
【0037】
イソチウロニウム塩からピリジルエタンチオールへの転化反応は、撹拌下、30〜70℃の温度で0.5〜10時間で完了する。室温でも転化反応は進行するが反応速度が遅く、一方、高温で反応を行うと、副反応が起きて収率が低下する傾向となる。
【0038】
反応終了後は、酸として芳香族スルホン酸を使用した場合は、反応生成液を10℃程度まで冷却し、副生したグアニジニウム塩を析出させ、更にトルエン等の抽出溶媒を加えて濾過し、不溶物を除去する。濾滓は、更に抽出溶媒で洗浄し、洗浄液は濾液と合体させる。次いで、濾液を分液し、抽出溶媒相を回収する。
【0039】
一方、酸として硫酸などの無機酸を使用した場合は、冷却によってグアニジウム塩は析出しないため、濾過を省略し、直接に有機溶媒による抽出操作を行えばよい。また、条件によっては少量のポリマー状の不溶物が見られる場合があるが、この場合、少量の酸を添加して液性を中性にすれば不溶物は消失するので、そのまま抽出操作を行えばよい。
【0040】
上記の何れの場合も、水相は、更に抽出溶媒で抽出し、得られた抽出溶媒相を先に得られた抽出溶媒相と合体する。これから抽出溶媒を留去した後、残液を減圧蒸留することにより、目的とするピリジルエタンチオールを得ることが出来る。
【0041】
本発明の最大の特徴は、前述の様な、ビニルピリジンと硫黄含有化合物とを反応させてピリジルエチルチオ化合物を製造する方法に於いて、以下の一般式(1)で表される化合物の含有量が4重量%以下であるビニルピリジンを使用する点にある。
【0042】
【化6】

【0043】
前述の通り、一般的にビニルピリジンは、ピコリンとホルムアルデヒドとのメチロール化反応によってピリジルエタノールを生成させ、これをアルカリ存在下に脱水反応を行う方法で得られる。4−ビニルピリジンの場合は、γ−ピコリンとホルムアルデヒドとのメチロール化反応によって2−(4−ピリジル)エタノールを生成させる。そして、製品中には、不純物として、未反応原料であるγ−ピコリンの他、エチルピリジンや前記一般式(1)で表される化合物で表される各種の副生物、すなわち、イソプロペニルピリジン(R及びRがC(CH)=CH及びH)1−プロペニルピリジン(R及びRがCH=CH−CH及びH)、2−プロペニルピリジン(R及びRがCH−CH=CH及びH)、メチルビニルピリジン(R及びRがCH及びCH=CH)が含まれている。
【0044】
本発明者らの知見によれば、2−(4−ピリジル)エタンチオールを始めとする各種のピリジルエチルチオ化合物の製造工程において、γ−ピコリンやエチルピリジンは反応には関与せず反応終了後もそのまま存在するが、前記一般式(1)で表される化合物は、ビニルピリジンと硫黄含有化合物とを反応させる工程では殆ど反応に寄与せず残存し、生成したピリジルエチルチオ化合物と反応してスルフィド体を形成する。その結果、ピリジルエチルチオ化合物の回収率が低下している。前記一般式(1)で表される化合物の中でも特にイソプロペニルピリジンによる影響は大きい。
【0045】
原料ビニルピリジン中の前記一般式(1)で表される化合物の含有量を4重量%以下にする方法としては、特に制限されないが、通常は蒸留による精製手段が採用される。例えば、充填塔を備えた減圧蒸留設備を使用して精製を行う。具体的には、段数が通常2段相当以上、好ましくは3〜10段相当の充填塔を使用し、塔頂温度が80〜150℃となる様に圧力などの条件を調節して精製を行えばよい。
【0046】
また、生成物であるピリジルエチルチオ化合物の前記一般式(1)で表される化合物含有量は、好ましくは3重量%以下である。前記一般式(1)で表される化合物の含有量は、少ない程に好ましいが、極端な低濃度は、蒸留によるコストが掛かり過ぎ、原料ロスが発生する。従って、前記一般式(1)で表される化合物の含有量の下限は通常0.1%重量である。
【0047】
次に、本発明に係る変性イオン交換体について説明する。この変性イオン交換体は、酸性イオン交換体の酸性基の少なくとも一部がピリジルエチルチオ化合物で保護された変性イオン交換体であって、酸性イオン交換体の変性剤として、前記のピリジルエチルチオ化合物の製造方法により製造されたメルカプトアルキルピリジン化合物またはそのメルカプト基が保護された誘導体を使用して成ることを特徴とする。
【0048】
酸性イオン交換体としては、従来、ビスフェノールA製造の酸性触媒として使用されている公知のものを制限なく使用することが出来る。通常、スルホン酸型イオン交換樹脂が使用され、母体樹脂としては、スチレン−ジビニルベンゼン共重合体系、パーフルオロエチレン共重合体系、フェノール−ホルムアルデヒド重合体系などがあるが、スチレン−ジビニルベンゼン共重合体系が一般的である。また、樹脂以外には、例えば特開2003−24670号公報に記載されたスルホン酸基含有のポリシロキサンの他、スルホン酸基含有のメソポーラスシリカ等が挙げられる。
【0049】
一方、変性剤として、使用されるメルカプトアルキルピリジン化合物としては、メルカプトメチルピリジン、メルカプトエチルピリジン等が挙げられ、メルカプト基が保護された誘導体としては、ピリジルアルキルチオアセテート等が挙げられる。これらの変性剤の中では、メルカプトアルキルピリジン化合物、特に、2−(4−ピリジル)エタンチオールが好ましい。
【0050】
本発明においては、前記の酸性イオン交換体と変性剤とを反応させて酸性基の少なくとも一部がピリジルエチルチオ化合物で保護された変性イオン交換体を製造する。変性剤の使用量は、酸性イオン交換体中の酸基(スルホン酸基)に対し、通常2〜30モル%、好ましくは5〜20モル%である。斯かる条件下での反応により、酸基の一部が中和された変性イオン交換体が得られる。その他の反応条件は先行技術に記載の公知の条件を採用することが出来る。なお、変性剤としての使用に際し、例えば、ピリジルエチルチオアセテートは、脱保護することなく、そのまま使用することが出来るが、保護基の種類により、脱保護した後に使用する必要のある変性剤もあり、t−ブチルスルフィドはその一例である。
【0051】
次に、本発明に係るビスフェノール化合物の製造方法について説明する。この製造方法は、前述の変性イオン交換体の存在下、フェノール化合物とカルボニル化合物とを反応させることを特徴とする。
【0052】
本発明の典型例は、フェノール化合物としてフェノール、カルボニル化合物としてアセトンを使用したビスフェノールAの製造方法であるが、本発明においては、ビスフェノールAに限定されず、各種のフェノール化合物と各種の脂肪族または芳香族のケトン又はアルデヒドを使用し、各種のフェノール化合物を製造することが出来る。これらは、触媒として、前述の本発明に係る変性イオン交換体を使用する点を除き、従来公知の条件に従って製造することが出来る。ビスフェノールAの場合は、具体的には、フェノールとアセトンとを反応させてビスフェノールAを得、得られた反応生成物からビスフェノールAを含むフェノール溶液を回収し、回収されたビスフェノールAを含むフェノール溶液を冷却してビスフェノールAとフェノールとから成る結晶アダクトを生成させ、次いで、結晶アダクトからフェノールを除去する方法により製造される。
【実施例】
【0053】
以下、本発明を実施例により更に詳細に説明するが、本発明は、その要旨を超えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。
【0054】
実施例1:
200ml丸底フラスコに30%硫酸水溶液102g及びチオ尿素11.4gを仕込み、反応器内を窒素置換した後、攪拌下70℃まで昇温した。この液に、不純物としてイソプロペニルピリジンを0.2重量%含有する純度98.6%の4−ビニルピリジン15.8g(純分15.5g,148.5mmol)を1時間掛けて滴下し、滴下終了後、更に5時間反応させた。この反応液1gを採り、トルエン4g及び10%アンモニア水溶液0.5gを加えて攪拌した後、トルエン層を定量分析した結果、残存する4−ビニルピリジン転化率は99.9%、イソプロペニルピリジンは殆ど残存していなかった。
【0055】
反応終了後、20℃まで冷却し、28%アンモニア水45.6gを2時間掛けて加えた。その後、反応液を40℃に加熱し3時間反応させた。反応終了後、20℃まで冷却し、次いで、トルエンを使用して抽出を3回行った。回収したトルエン層をガスクロマトグラフィーで分析した結果、2−(4−ピリジル)エタンチオールが17.6g生成しており、4−ビニルピリジンの純分換算での収率は85.1%であった。
【0056】
実施例2:
実施例1において、原料中のイソプロペニルピリジンの含有量が1.9重量%(2.5mmol)である純度96.0%の4−ビニルピリジン15.8g(純分15.2g、144.0mmol)を使用した以外は、実施例1と同じ方法で反応を行った。アンモニア滴下前の反応液分析の結果、4−ビニルピリジン転化率は4−ビニルピリジン純分換算で99.9%であり、また、0.9mmolのイソプロペニルピリジンが残存していた。アンモニアを添加して分解反応終了後、トルエン抽出を行って回収したトルエン層をガスクロマトグラフィーで分析した結果、2−(4−ピリジル)エタンチオールの生成量は16.2g(4−ビニルピリジン純分換算での収率は83.8%)であった。
【0057】
比較例1:
実施例1において、原料中のイソプロペニルピリジンの含有量が4.5重量%(6.0mmol)である純度94.0%の4−ビニルピリジン15.8g(純分14.8g、141.0mmol)を使用した以外は、実施例1と同じ方法で反応を行った。その結果、アンモニア滴下前の反応液分析の結果、4−ビニルピリジン転化率は99.7%であり、また、1.3mmolのイソプロペニルピリジンが残存していた。アンモニアを添加して分解反応終了後、トルエン抽出を行って回収したトルエン層をガスクロマトグラフィーで分析した結果、2−(4−ピリジル)エタンチオールの生成量は15.9g(4−ビニルピリジン純分換算での収率は80.9%)であった。
【0058】
実施例3:
100ml三口フラスコに、窒素雰囲気下、チオ酢酸15.2gを仕込み、氷水で冷却した。フラスコ内液温度が5℃に冷却された後、4−イソプロペニルピリジンを1.1重量%含有した4−ビニルピリジン21.0gを1時間かけて滴下した。フラスコ内液温度は次第に上昇し、滴下終了時には11℃に達した。滴下終了後、更に攪拌を伴い反応を継続した。1時間経過後、反応液をガスクロマトグラフィーで分析した。その結果、4−ビニルピリジン転化率は94.7%であった。主生成物である4−ピリジルエチルチオアセテートは33.5g(生成物中の96.3重量%、)生成した。また、4−イソプロペニルピリジンとチオ酢酸との付加反応物である2−メチル−2−(4−ピリジル)エチルチオアセテートが、生成物中の0.9重量%生成した。
【0059】
比較例2:
実施例3において、チオ酢酸の仕込み量を7.6g、4−イソプロペニルピリジンを4.6重量%含有した4−ビニルピリジンの仕込み量を10.5gとした以外は、実施例3と同様に実施した。その結果、4−ビニルピリジンの転化率は94.0%であった。4−ピリジルエチルチオアセテートは32.1g(生成物中の92.7重量%)生成した。また、2−メチル−2−(4−ピリジル)エチルチオアセテートは生成物中の4.4重量%生成した。
【0060】
実施例4:
(触媒調製)
200ml四つ口フラスコ中に、湿潤状態の強酸性イオン交換樹脂(「ダイアイオンSK104H」:酸交換容量1.67mmol/g−湿潤状態、ダイアイオンは三菱化学の登録商標)40gおよび蒸留水80gを入れ、室温で攪拌し、イオン交換樹脂を洗浄した。洗浄液はデカンテーションにより廃棄し、再度蒸留水を導入した。この洗浄操作を5回繰り返した。
【0061】
次いで、洗浄液を廃棄した後、蒸留水80g(pH6.1)を加えた後、フラスコ内を窒素で置換した。そこへ、実施例1で得た2−(4−ピリジル)エタンチオール1.46g(10.5mmol)を攪拌下に一括投入し、更に、3時間、回転数250rpmの条件で攪拌して変性反応を行った。反応初期には2−(4−ピリジル)エタンチオールの懸濁液により反応液が若干濁っていたが、経時的に液の濁りが解消されて1時間程で殆ど濁りが取れ、更に継続すると、反応終了時には濁りがなくなっていた。
【0062】
反応終了後、デカンテーションにより液を廃棄した。このとき、廃棄した液のpHは5.0であった。フラスコ内に残存したイオン交換樹脂に蒸留水80gを加えて30分攪拌し、デカンテーションにより液を廃棄した。この触媒洗浄操作を5回繰り返した後、ろ過により液を除きイオン交換樹脂を回収した。イオン交換樹脂中のメルカプト基およびスルホン酸基の残存量を測定した結果、変性率は14.7%であり、スルホン酸残存率は84.4%であった。
【0063】
(反応評価)
次いで、内径12mmのガラス管に上記の触媒7.5mlを充填し、触媒中の水分をフェノールで置換した後、アセトン濃度4.5重量%のフェノール溶液を26.3ml/hの速度で流通させ、触媒層温度70℃で反応を行った。フェノール溶液の流通開始後6時間目に反応管出口で採取した反応液をガスクロマトグラフィーにより分析した結果、アセトンの濃度は0.71重量%(アセトン転化率84.3%)、生成したp,p−BPAの濃度は14.1重量%であった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ビニルピリジンと硫黄含有化合物とを反応させてピリジルエチルチオ化合物を製造する方法に於いて、以下の一般式(1)で表される化合物の含有量が4重量%以下であるビニルピリジンを使用することを特徴とするピリジルエチルチオ化合物の製造方法。
【化1】

【請求項2】
一般式(1)中のR及びRがイソプロペニル基および水素原子である請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
ビニルピリジンが、ピコリンとホルムアルデヒドとのメチロール化反応によってピリジルエタノールを生成させ、これをアルカリ存在下に脱水反応を行う方法によって得られたビニルピリジンである請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項4】
ビニルピリジンが4−ビニルピリジンであり、ピリジルエチルチオ化合物が2−(4−ピリジル)エタンチオールである請求項1〜3の何れかに記載の製造方法。
【請求項5】
酸性イオン交換体の酸性基の少なくとも一部がピリジルエチルチオ化合物で保護された変性イオン交換体であって、酸性イオン交換体の変性剤として、請求項1に記載の方法により製造されたメルカプトアルキルピリジン化合物またはそのメルカプト基が保護された誘導体を使用して成ることを特徴とする変性イオン交換体。
【請求項6】
請求項5に記載の変性イオン交換体の存在下、フェノール化合物とカルボニル化合物とを反応させることを特徴とするビスフェノール化合物の製造方法。

【公開番号】特開2011−144200(P2011−144200A)
【公開日】平成23年7月28日(2011.7.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−92265(P2011−92265)
【出願日】平成23年4月18日(2011.4.18)
【分割の表示】特願2004−215156(P2004−215156)の分割
【原出願日】平成16年7月23日(2004.7.23)
【出願人】(000005968)三菱化学株式会社 (4,356)
【Fターム(参考)】