説明

ピリジンスルフェンアミド化合物の製造方法

【課題】ピリジンスルフェンアミド化合物の新規製造方法の提供。
【解決手段】一般式(B)で表される2−スルフェナモイルニコチン酸エステル化合物に対しヒドロキシルアミン−O−スルホン酸を用いて硫黄原子のアミノ化反応をさせる。


(式中、置換基Rは、炭素数1〜8の鎖状あるいは炭素数3〜8の環状のアルキル基、炭素数1〜8のアルコキシル基、炭素数2〜12のアルコキシカルボニル基、フェニル基、及びハロゲン原子から選ばれる基又は原子を表す。Rは、炭素数1〜6のアルキル基を示す。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ピリジンスルフェンアミド化合物の新規製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ピリジンスルフェンアミド化合物の誘導体は、種々の生理活性があることが報告されている。たとえばスルフェンアミドの窒素上に置換基を有する誘導体には抗ガン作用(非特許文献1)があること知られている。
ピリジンスルフェンアミド化合物は、これらの生理作用を有するスルフェンアミドの窒素上に置換基を有する誘導体化合物の出発原料となる。したがって、ピリジンスルフェンアミド化合物を、効率的に合成するとことは重要なことである。
【0003】
従来から知られているピリジンスルフェンアミド化合物である2−スルフェナモイルニコチン酸エステル化合物を製造する方法として、2−メルカプトニコチン酸エステル化合物に塩素ガスを反応させて得られる塩化スルフェニル化合物とアンモニアやアミン類を反応させる方法(非特許文献1)、2−メルカプトニコチン酸エステル化合物にオキサジリジン化合物を反応させる方法(非特許文献2)等が知られている。
前記方法のうち塩素ガスを用いる方法は、塩素ガスが有毒性を有しており、取り扱いに困難さを有する欠点がある。またオキサジリジン化合物を用いる反応においては、オキサジリジンを効果的に合成するうえで問題がある。
このようなことから、安全しかも簡便な方法で目的のピリジンスルフェンアミド化合物を製造する方法が望まれてきた。
【0004】
【非特許文献1】M. J. Giol等,Bioorg. Med. Chem. Lett., 9, 2321-2324(1999).
【非特許文献2】S. Andreae, J. Prakt. Chem., 339, 152-158 (1997).
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の課題は、ピリジンスルフェンアミド化合物の効率的な製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、ピリジンスルフェンアミド化合物の製造方法について鋭意研究を重ねた結果、2−メルカプトニコチン酸エステル化合物に対してヒドロキシルアミン−O−スルホン酸を用いて硫黄原子のアミノ化反応を行うと、効果的に反応が進行してピリジンスルフェンアミド化合物を製造することができることを見いだして、本発明を完成させたものである。
【0007】
本発明によれば、以下の発明が提供される。
下記一般式(A)で表されるピリジンスルフェンアミド化合物を製造する方法において、下記一般式(B)で表される2−メルカプトニコチン酸エステル化合物に対してヒドロキシルアミン−O−スルホン酸を用いて硫黄原子のアミノ化反応を行うことを特徴とするピリジンスルフェンアミド化合物の製造方法。
【化3】

【化4】

(前記両式中、置換基Rは、炭素数1〜8の鎖状あるいは炭素数3〜8の環状のアルキル基、炭素数1〜8のアルコキシル基、炭素数2〜12のアルコキシカルボニル基、フェニル基、及びハロゲン原子から選ばれる基又は原子を表す。Rが複数ある場合は、各Rは互いに同一であっても異なっていてもよく、nは、0または1〜3の整数である。Rは、炭素数1〜6のアルキル基を示す。)
【発明の効果】
【0008】
本発明で得られるピリジンスルフェンアミド化合物は、生理作用を有するスルフェンアミドの窒素上に置換基を有する誘導体化合物の出発原料、除草剤や殺菌剤の原料となる。
本発明の方法で得られるピリジンスルフェンアミド化合物は、2−メルカプトニコチン酸エステル化合物に対して、ヒドロキシルアミン−O−スルホン酸を用いて硫黄原子のアミノ化反応させることにより、収率よくピリドピリジンスルフェンアミド化合物として合成することができる。
従来の製造方法である、塩素ガスを用いた塩化スルフェニル化合物を反応中間物質として用いる製造方法に比べ、本発明の方法は塩素ガスを使用しないので、製造過程で危険性もなく、反応の選択性もよい。したがって、従来知られている製造方法と比較して優れた方法であるということができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明の目的化合物は、以下の一般式(A)により示されるピリジンスルフェンアミド化合物である。
【化5】

前記式中、置換基Rは、炭素数1〜8の鎖状あるいは炭素数3〜8の環状のアルキル基、炭素数1〜8のアルコキシル基、炭素数2〜12のアルコキシカルボニル基、フェニル基、及びハロゲン原子から選ばれる基又は原子を示す。Rが複数ある場合は、各Rは互いに同一であっても異なっていてもよく、nは、0または1〜3の整数である。
またRは、炭素数1〜6のアルキル基を示す。
【0010】
前記Rのアルキル基の具体例としては、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、t−ブチル、イソブチル、ペンチル、イソペンチル、ヘキシル、イソヘキシル、ヘプチル、オクチル、シクロプロピル、シクロブチル、シクロペンチル、シクロヘキシル、シクロヘプチル、シクロオクチル基等が挙げられる。
前記Rのアルコキシル基の具体例としては、メトキシ、エトキシ、プロポキシ、イソプロポキシ、シクロプロポキシ、ブトキシ、イソブトキシ、t−ブトキシ、ペンチロキシ、ヘキシロキシ、シクロヘキシロキシル基等が挙げられる。
前記Rのアルコキシカルボニル基の具体例としては、メトキシカルボニル、エトキシカルボニル、プロポキシカルボニル、イソプロポキシカルボニル、シクロプロポキシカルボニル、ブトキシカルボニル、イソブトキシカルボニル、t−ブトキシカルボニル、ペンチロキシカルボニル、ヘキシロキシカルボニル、シクロヘキシロキシルカルボニル基等が挙げられる。
前記Rのハロゲン原子としては、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素が挙げられる。
前記式中、Rのアルキル基の具体例としては、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、t−ブチル、イソブチル、ペンチル、イソペンチル、ヘキシル、イソヘキシル、シクロプロピル、シクロブチル、シクロペンチル、シクロヘキシル基等が挙げられる。
【0011】
前記一般式(A)で表されるピリジンスルフェンアミド化合物を製造する方法は、以下の通りである。
下記一般式(B)で表される2−スルフェナモイルニコチン酸エステル化合物に対し、ヒドロキシルアミン−O−スルホン酸を用いて硫黄原子のアミノ化反応を行う。
【化6】

式中、置換基Rは、炭素数1〜8の鎖状あるいは炭素数3〜8の環状のアルキル基、炭素数1〜8のアルコキシル基、炭素数2〜12のアルコキシカルボニル基、フェニル基、及びハロゲン原子から選ばれる基又は原子を表す。Rが複数ある場合は、各Rは互いに同一であっても異なっていてもよく、nは、0または1〜3の整数である。
は、炭素数1〜6のアルキル基を示す。
【0012】
この反応で用いるアミノ化剤としては、ヒドロキシルアミン−O−スルホン酸が用いられる。加える量は2−メルカプトニコチン酸エステルに対して等モル量でよい。反応中に分解することがありえることを考慮して、1.2〜2.0倍モル等量を添加するのがよい。
【0013】
この反応は、反応溶媒中行われる。
溶媒としては、水、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、t−ブタノール等の水溶性溶媒が挙げることができる。これらの溶媒は、これらからなる混合溶媒として使用してもかまわない。
【0014】
反応温度は、−78℃〜60℃の範囲の温度で行うことができる。この温度範囲以下の低温の場合には反応時間が遅くなり、この範囲を超えて高すぎる場合には、異常な分解反応や副反応が多い結果となる。このようなことから、前記温度範囲は、−20℃〜20℃の範囲であることが好ましい。
反応時間は、反応温度により左右され、一概に定めることはできないが、通常は0.2〜2時間である。
【0015】
前記反応の原料物質である(B)は公知物質である。
(B)の製法の一例を挙げれば、2−メルカプトニコチン酸化合物のエステル化反応による製造方法を挙げることができる。
【0016】
本発明で得られるピリジンスルフェンアミド化合物の具体例について例示すると以下の化学式(1)〜(3)で示される化合物である。しかしながら、これらの化合物に限定されるものではない。
【化7】

【0017】
これら本発明の化合物は、生理作用を有するスルフェンアミドの窒素上に置換基を有する誘導体化合物の出発原料、除草剤や殺菌剤の原料となる。
【0018】
次に、本発明を実施例により詳細に説明する。
以下に述べる実施例は本発明の理解を容易にするために代表的な化合物の一例をあげたものであり、本発明はこれに限定されるものではない。また、製造された化合物(1)〜(3)は、前記で示した化合物(1)〜(3)に対応するものである。
【実施例1】
【0019】
内容積100mlのガラス製容器中に2−メルカプトニコチン酸メチル(169mg,1.0mmol)を水酸化カリウム水溶液(水酸化カリウム100gを水20mlに溶かしたもの)に溶解させ、ヒドロキシルアミン−O−スルホン酸(136mg,1.2mmol)を水酸化カリウム水溶液(水酸化カリウム150mgを水20mlに溶かしたもの)に溶かしたものを氷冷下滴下した。室温で45分間攪拌した後、析出した結晶をろ過により集め、減圧下乾燥させた。目的生成物である化合物(1)のピリジンスルフェンアミドを得た(収率:32%)。生成物は塩化メチレン−ヘキサンから再結晶をすることによりさらに精製することができた。融点134.5−136.1℃(文献値:137−138℃)。
1H−NMR (CDCl3): δ 2.96 (2H, br s), 3.95 (3H, s), 7.12 (1H, dd, J=7.8, 4.7 Hz), 8.23 (1H, dd, J=7.8, 1.7 Hz), 8.67 (1H, dd, J=4.7, 1.7 Hz); 13C−NMR (CDCl3): δ 52.4, 118.5, 120.9, 138.6, 152.3, 165.7, 168.5; IR (KBr): νmax 3339, 3257, 1715, 1557, 1291, 1071, 767, 676 cm-1.
【実施例2】
【0020】
内容積100mlのガラス製容器中に2−メルカプトニコチン酸エチル(183mg,1.0mmol)を水酸化カリウム水溶液(水酸化カリウム100gを水20mlに溶かしたもの)に溶解させ、ヒドロキシルアミン−O−スルホン酸(136mg,1.2mmol)を水酸化カリウム水溶液(水酸化カリウム150mgを水20mlに溶かしたもの)に溶かしたものを氷冷下滴下した。室温で30分間攪拌した後、析出した結晶をろ過により集め、減圧下乾燥させた。目的生成物である化合物(2)のピリジンスルフェンアミドを得た(収率:72%)。生成物は塩化メチレン−ヘキサンから再結晶をすることによりさらに精製することができた。融点116.0−117.7℃。
1H−NMR (CDCl3): δ 1.42 (3H, t, J=7.2 Hz), 2.96 (2H, br s), 4.41 (2H, q, J=7.1 Hz), 7.11 (1H, dd, J=7.6, 4.6 Hz), 8.24 (1H, dd, J=7.6, 1.8 Hz), 8.67 (1H, dd, J=4.6, 1.8 Hz); 13C−NMR (CDCl3): δ 14.3, 61.6, 118.5, 121.2, 138.5, 152.5, 165.8, 168.4; IR (KBr): νmax 3332, 3253, 1708, 1558, 1286, 1070, 766, 688 cm-1. C10Sとしての元素分析値(%)
測定値:C, 48.44; H, 5.04; N, 13.81. 計算値:C, 48.47; H, 5.08; N, 14.13.
【実施例3】
【0021】
内容積100mlのガラス製容器中に6−メチル−2−メルカプトニコチン酸エチル(197mg,1.0mmol)を水酸化カリウム水溶液(水酸化カリウム100gを水20mlに溶かしたもの)に溶解させ、ヒドロキシルアミン−O−スルホン酸(136mg,1.2mmol)を水酸化カリウム水溶液(水酸化カリウム150mgを水20mlに溶かしたもの)に溶かしたものを氷冷下滴下した。室温で30分間攪拌した後、析出した結晶をろ過により集め、減圧下乾燥させた。目的生成物である化合物(3)のピリジンスルフェンアミドを得た(収率:35%)。
1H−NMR (CDCl3): δ 1.40 (3H, t, J=7.2 Hz), 2.32 (2H, br s), 2.60(3H, s), 4.39 (2H, q, J=7.2 Hz), 6.93 (1H, d, J=7.9 Hz), 8.11 (1H, d, J=7.9 Hz); 13C−NMR (CDCl3): δ 14.3, 24.9, 61.3, 118.0, 118.4, 138.7, 162.0, 165.5, 167.3; IR (KBr): νmax 3336, 3264, 1704, 1578, 1290, 1066, 777, 690 cm-1.

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(A)で表されるピリジンスルフェンアミド化合物を製造する方法において、下記一般式(B)で表されるメルカプトニコチン酸エステル化合物に対してヒドロキシルアミン−O−スルホン酸を用いて硫黄原子のアミノ化反応をさせることを特徴とするピリジンスルフェンアミド化合物の製造方法。
【化1】

【化2】

(前記両式中、置換基Rは、炭素数1〜8の鎖状あるいは炭素数3〜8の環状のアルキル基、炭素数1〜8のアルコキシル基、炭素数2〜12のアルコキシカルボニル基、フェニル基、及びハロゲン原子から選ばれる基又は原子を表す。Rが複数ある場合は、各Rは互いに同一であっても異なっていてもよく、nは、0または1〜3の整数である。Rは、炭素数1〜6のアルキル基を示す。)


【公開番号】特開2007−210930(P2007−210930A)
【公開日】平成19年8月23日(2007.8.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−31795(P2006−31795)
【出願日】平成18年2月9日(2006.2.9)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】