説明

ピロティフレームを備えた建築物の耐震補強方法

【課題】ピロティフレームを備えた建築物の耐震性能の改善を図る。
【解決手段】 柱部材とこの柱部材につながる横部材とを組み合わせて区画形成した開口を有するピロティフレームを備えた建築物につき、その耐震補強を施すに当たり、前記開口に、柱部材に連係し横部材に向けて伸延する少なくとも2枚のプレートを配置して、そのプレートの相互間に該柱部材又は横部材とほぼ同等の幅を有する閉空間を形成し、次いで、該プレートを貫く緊結部材にて該プレートを仮止め固定したのち、前記閉空間内にコンクリートを充填して硬化させ、続いて該緊結部材を締め上げてプレートを通して硬化後のコンクリートに対してプレストレスを導入する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、柱部材とこの柱部材の上下につながる横部材(梁部材や床部材等)との組合せにて区画形成した開口を有するピロティフレームを備えた建築物の耐震補強方法に関するものである。
【0002】
ここに、ピロティフレームで構成された層(ピロティ層)が任意の階に存在する場合を一般にソフトストリーというが、とくにピロティ層が1階に存在する場合をピロティ建築物という。本発明は、ピロティ層が1階もしくは2階以上の任意の階に存在する建築物あるいは地下部分に存在する建築物をはじめ、ピロティフレームを部分的に備えた建築物の全てを対象とする。
【背景技術】
【0003】
壁をほとんど有せず柱部材によって建物の全体が支えられているピロティ建築物は、敷地が狭いところで駐車場を確保することができ、しかも、快適な居住性を確保することが可能であり従来から好んで建てられる傾向にあったが、その建築物のほとんどは地震に対して十分な耐震性能(強度と靭性)を有しているとは言えない。
【0004】
1995年1月発生した阪神・淡路大震災では、多くのピロティ建築物が大きな被害を受けたのみならず、1981年の新耐震設計法で設計していたピロティ建築物でさえも一部の建物で大破した。ピロティ建築物は地震に弱い、危険な建物と見なされ、1995年12月には建築基準法が一部改定され、ピロティ建築物の耐震設計が一段と強化された経緯がある。
【0005】
建築物のとくに鉄筋コンクリート柱の耐震補強に係わる技術としては、該柱の周りに補強用の鋼板を巻回固定した構造のものが知られている(例えば特許文献1参照)。
【0006】
また、ピロティフレームの耐震補強に係わる新規な技術についても、通常のRC造袖壁やRC造耐震壁の増設、または鉄骨ブレースやPC鋼棒ブレースなどの提案はすでになされている。
【特許文献1】特開平9−291510号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の課題は、多大なコストを伴うことなしに既存のピロティ建築物あるいはピロティフレームを部分的に有する建築物の耐震補強を図ることができる新規な方法を提案するところにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、柱部材とこの柱部材につながる横部材とを組み合わせて区画形成した開口を有するピロティフレームを備えた建築物につき、その耐震補強を施すに当たり、
前記開口に、柱部材に連係し該横部材に向けて伸延する少なくとも2枚のプレートを配置してそのプレートの相互間に該柱部材又は横部材とほぼ同等の幅を有する閉空間を形成し、次いで、該プレートを貫く緊結部材にて該プレートを仮止め固定したのち前記閉空間内にコンクリートを充填して硬化させ、続いて該緊結部材を締め上げてプレートを通して硬化後のコンクリートに対してプレストレスを導入する、ことを特徴とするピロティフレームを備えた建築物の耐震補強方法である。
【0009】
上記の構成になる方法において、前記プレートは開口の少なくとも一部分又は全部に配置されたものとするのが好ましい。
【0010】
また、前記閉空間における柱部材の側壁近傍域には、あと施工アンカーを用いて複数の縦筋と複数の横筋とを組み合わせた補強体を配置することができる。
【0011】
2枚のプレートを用いて袖壁タイプの壁を形成するような閉空間を形成するに際してその端部に開放端が形成される場合に、該開放端で該プレートを相互につなぐ型枠を兼ねた溝形タイプの補強材を用いると耐震性能がさらに増大する。
【0012】
また、前記閉空間における柱部材の側壁近傍域に、柱部材に沿って配置される添え筋と、この添え筋にて支持された横補強筋を配置することができる。この場合には上記のような溝形タイプの補強材を必要としない。
【0013】
前記柱部材及び横部材の両方又はその何れか一方には、予め、前記閉空間へ突出して硬化後のコンクリートとの一体化を図る連結部材としてのスタッドジベルを配置する。
【0014】
また、本発明においては、前記プレートを横部材の側面まで延長させ、該プレート及び横部材を貫通する緊結部材を締め上げることにより該プレートを横部材に圧着させるのが望ましく、さらには、前記プレートを横部材の側面まで延長させて、該プレートと横部材の側面の相互間に閉空間につながる隙間を形成するとともに該プレート及び横部材を貫通する緊締部材を配置し、該隙間内にコンクリートを充填、硬化させたのち該緊締部材を締め上げて該プレートを横部材に圧着させてもよい。
【0015】
さらに、柱部材とこの柱部材につながる横部材とを組み合わせて区画形成した開口を有するピロティフレームを備えた建築物につき、その耐震補強を施すに当たっては、前記開口に、柱部材に連係し横部材に向けて伸延する少なくとも2枚のプレートを配置してそのプレートの相互間に該柱部材又は横部材とほぼ同等の幅を有する閉空間を形成し、次いで、該プレートを貫く緊結部材にて該プレートを仮止め固定したのち前記閉空間内にコンクリートを充填して硬化させ、続いて該緊結部材を締め上げてプレートを通して硬化後のコンクリートに対してプレストレスを導入する一方、そのまま残存するピロティフレームの柱柱部材、梁部材若しくは柱梁接合部については、アングル鋼材を利用して簡易コーナーピースを構成し、これを柱部材、梁部材若しくは梁柱接合部の対向面あるいは各コーナー部に配置して緊結部材にて該簡易コーナーピースを相互に連結、締め上げることで柱部材、梁部材、柱梁接合部の変形能力の改善を図るようにしてもよい。
【発明の効果】
【0016】
ピロティフレームの開口にはプレート(鋼板)でサンドイッチされ、プレストレスが導入された極厚壁が形成されるため、建築物の水平耐力(強度)と靭性(ねばり)が大幅に改善される。
【0017】
コンクリートを増し打ちする前、プレートと緊結部材(PC鋼棒)が型枠やフォームタイ(型枠を所定の位置に維持するもの)の役割を果たすが、コンクリートが硬化後は鋼板が横補強材、PC鋼棒が緊張力を導入した横拘束材として機能することとなり、非常に合理的で無駄のない、簡便な補強法として耐震補強効果(耐力と靭性の両方を同時に)を発揮する。
【0018】
プレートを横部材の側面まで延長させ、それらを貫通する緊結部材を締め上げることで該プレートを横部材に直接あるいは充填コンクリートを介して圧着させると、横部材の破壊が抑制され建築物全体の水平耐力と靭性がともに大幅に改善される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、図面を用いて本発明をより具体的に説明する。
図1(a)(b)は1階部分の開口に耐震補強を施した建築物の模式図であり、図2は図1に示した建築物の側面を示した図である。
【0020】
図において1は建築物の骨格をなす柱部材、2は柱部材1の相互間をつなぐ梁部材(横部材)、3は床部材(横部材)、4は柱部材1と梁部材2、床部材3により1階部分において区画形成された開口であり、柱部材1、梁部材2及び床部材3にてピロティフレームを形成する。
【0021】
また、5は開口4の一部を塞ぐように形成された袖壁タイプの壁体である。この壁体5はその水平断面を拡大して図3に示すように、柱部材1を両側から挟み込むように配置、連係させてその相互間にて閉空間を形成するプレート(鋼板等)5aと、このプレート5aを貫通する緊結部材5b(ナットのねじ込みを可能とするPC鋼棒)と、プレート5aの密閉空間内にて充填されたコンクリート5cからなり(プレート5aとフレーム2、床部材3との間には構造計画、および施工上20−30mm程度の隙間を設けておく。)、プレート5aと柱部材1との間に隙間があれば、その隙間をなくすために必要に応じてグラウト材が注入される。
【0022】
6は開口4の全てを塞いだ壁体である。この壁体6はその水平断面を拡大して図4に示すように、柱部材1、梁部材2、床部材3に連係しその相互間にて閉空間を形成するプレート(鋼板等)6aと、このプレート6aを貫通する緊結部材6b(ナットのねじ込みを可能とするPC鋼棒)と、プレート6aの密閉空間内にて充填されたコンクリート6cと、柱部材1を3方において取り囲みプレート6aと重なってPC鋼棒を介して連結される溝形に加工した補強材6d(鋼板)からなる。
【0023】
壁体5、6を形成するには何れにおいても、まず、プレート5a、6aを柱部材1、梁部材2、床部材3に連係させて配置し、その相互間に閉空間を形成する。そして各プレート5a、6aを貫通する緊結部材5b、6bをタイバーまたはフォームタイとして機能させて該プレート5a、6aを仮止めする。
【0024】
そして、次に、プレート5a、6aによって形成された閉空間にコンクリート5c、6cを充填して硬化させ、しかるのち緊結部材5b、6bを締め上げて硬化後のコンクリート5c、6cに対してプレストレスを導入する。
【0025】
上記の要領によって壁体5、6を設けると、靭性(粘り)だけでなく水平耐力も大幅に改善され、ピロティフレームを備えた建築物の耐震性能が格段に向上することになる。
【0026】
開口4を全部について塞ぐ上掲図4に示すような壁体6を設ける場合、簡易な施工を実現するため複数枚のプレートを組み合わせるのが好ましい(図2参照)。
【0027】
袖壁タイプになる上掲図3に示したような壁体については、プレート5aの相互間において閉空間を形成する場合に、図5に示すように、壁体の端部に相当する部位に開放端tが設けられるので別途型枠を配置する必要があるが、図6、図7に示すように、予め型枠を兼ねた溝形タイプの補強材5d(鋼板)を配置することもでき、この場合、壁体の端部における強度が改善されるだけでなく型枠の取り付け取り外し作業が不要となる。
【0028】
上記型枠を兼ねた補強材5dと同等の構造的効果(壁体の端部における強度の改善効果)を得るためには図8に示すように縦筋5eを添え筋(アンカーのように固定はされていない)として設け、この縦筋5eの長手方向に沿って複数本の横補強筋5fを配筋することも可能である。この場合には壁体の端部に相当する部位に別途取り外し可能な型枠を配置する。
【0029】
図9に示すような構築物の隅部Pに位置する柱部材1については図10(a)に示す如く、該柱部材1の外周面で直交する2面を覆うL形に加工した補強材7を配置するとともにその内周面で直交するプレート5a、6aの相互間にL形タイプの補強材(アングル鋼材等)8を配置して、この補強材7、補強材8とプレート5a、6aとを、緊結部材5b、6bを介して連結する。これにより柱部材1と壁体は強固に一体化される。柱部材1の外周面に補強材7を配置する場合において隙間がある場合には、その隙間にグラウト材を充填する。なお、図10(a)にて示したプレート5a、6aは図10(b)に示すような溝形タイプの補強材5dに替えることも可能で、この場合には図6、図7において既に述べたとおり、壁体の端部における強度が改善されるとともに型枠の取り付け取り外し作業が不要となる利点がある。
【0030】
閉空間における柱部材2の側壁近傍域には、図11に示す如く、複数の主筋と帯筋とを組み合わせた補強体9を、あと施工アンカーを介して配置しておくことも可能であり、これにより横部材2、3との連結がより一層強固になるとともに、あと施工アンカーを介して配筋した補強筋により、ピロティフレームの耐力がさらに大きくなる。
【0031】
図12は図13に示す部位Pの柱部材1に適用可能な壁体であり、図14は図13に示す部位Pの柱部材1に適用可能な壁体である。
【0032】
図12は柱部材1の3面に袖壁タイプの壁体を設けたもの(T字)であり、図14は柱部材1の4面に袖壁タイプの壁体を設けたもの(十字型)である。図12、図14の何れにおいても壁体の角部に相当する部位に補強体として機能するL形タイプの補強材(アングル鋼材等)8を配置することができ、この構造においてもピロティフレームを有する建築物の水平耐力と靭性は共に著しく改善される。とくに、柱部材1の4面に袖壁または開口4の全部を閉塞させる壁体は、多スパンからなるピロティ建築物の中柱に利用できる。
【0033】
図15(a)(b)に本発明にしたがって耐震補強を行なったピロティ建築物における他の実施の形態を示したものである。この例は、全ての柱部材1に壁体を設けたものであり、この場合も、水平耐力と靭性は共に、著しく改善されることになる。実際、壁体を設ける場合は一部のピロティフレームのみでよい。
【0034】
開口4に壁体を形成するに当たって、壁厚さを上下の横部材2のサイズ(幅寸法)に合せる必要がある場合(通常、柱部材1よりも横部材2のサイズ(幅寸法)は小さい)には、図16に示すように、柱部材1を取り囲む溝形に加工した補強材10とプレート5a、6aの端部に形成される隙間に鋼管等を利用したスペーサー11を配置して溝形に加工した補強材10、スペーサー11、プレート5a、6aを、それらを貫通する緊結部材12にて連結する。
【0035】
柱部材1あるいは横部材2には、図17に示すように必要に応じてスタッドジベル13を設けることができる(開口を全て埋め尽くす壁体を形成する場合には、柱部材1、横部材2にそれぞれスタッドジベル13が等間隔に配置される場合もある)。スタッドジベル13は柱部材1、横部材2の両方又は何れか一方に予め固定してプレート5a、6aにて形成される閉空間に突出して配置されるもので、コンクリートの硬化後に柱部材1あるいは横部材2との一体化を図って、靭性の確保に役立てる。
【0036】
図18(a)(b)、図19(a)(b)はプレート5a、6aを梁部材2の側面を覆うように延長させ、その部位に該プレート5a、6a及び梁部材2を貫通する緊結部材5b、6bを配置、締め上げることによって該プレート5a、6aを梁部材2に圧着させた構造のものである。
【0037】
ピロティフレームに対して上記のような耐震補強を行うと、建築物の水平耐力と靭性が著しく改善され(梁部材2の破壊が抑制される)耐震性能が高められる。
【0038】
図20(a)(b)、図21(a)(b)は梁部材2の側面まで延長させたプレート5a、6aにつき、該プレート5a、6aと梁部材2との相互間に閉空間につながる隙間を形成し、閉空間にコンクリート5c、6cを充填するに際して該隙間内にもコンクリートを充填し、その硬化後に緊締部材5b、6bを締め上げた構造のものである。
【0039】
この構造のものは、緊結部材5bを締め上げる際に硬化後のコンクリート5c、6cにプレストレスが導入されるため、建築物の水平耐力、靭性がより一層改善される。
【0040】
プレート5a、6a、緊結部材5b、6bを使用した補強を施さない他のピロティフレームおいては、建築物の変形に追随し、かつ鉛直荷重を最後まで支えなければならず、そのためには変形に追随する靭性が要求される。したがって靭性に欠けるピロティフレームがある場合には、柱部材、梁部材、柱梁接合部についてはそれらを単独で補強する必要がある。梁部材2を補強するに当たっては図22に示すように寸法の短いアングル鋼材にてコーナーピース14を構成し、これを梁部材2の対向面(上下面)でその長手方向に沿いそれぞれ間隔を開けて複数配置し対向面同士のコーナーピース14を緊結部材15にて相互に連結、締め上げればよく、これにより変形に追随する靭性が確保され、結果として建物全体の耐震性能が確保されることとなる。該コーナーピース14は柱部材1の補強に際しても使用することができる。
【0041】
図23、図24は3つのアングル鋼材と三角形の補強板を組み合わせて相互に溶接し一体化を図ることで簡易コーナーピース16を構成し、これを柱部材1の各コーナー部に複数配置するとともに緊結部材17にて該簡易コーナーピース16を相互に連結、締め上げることで該柱部材1の補強を行なったものである。このような構成になる簡易コーナーピース16は柱部材1に連続して袖壁や腰壁があっても適用できるのはもちろん、梁部材2あるいは柱梁接合部に対しても適用できるものであり、これにより建築物の耐震性能が改善される。
【0042】
図25は図23に示した簡易コーナーピース16を各コーナー部で連続させた他の例を示したものである。この簡易コーナーピース18は上掲図23に示したものと同様に柱部材1、梁部材2、柱梁接合部の補強に有用であり、該簡易コーナーピース18は既存のアングル鋼材を利用できるのでそれにかかるコストが増大する不具合がなく、しかも、取り付け作業を効率よく行うことができる利点がある。
【0043】
図26(a)に床スラブ20を有する十字形の柱梁接合部に簡易コーナーピース16を配置して耐震強化を図った例を、また、図26(b)に床スラブ20を有するト形の柱梁接合部に簡易コーナーピース16を配置して耐震強化を図った例をそれぞれ示す。
【実施例】
【0044】
図27に示すような構造になるピロティフレーム(柱部材:幅250mm、せい250mm、内のり高さ1000mm、梁部材:幅200mm、高さ400mm、下スタブ部材(床と下
部梁相当):幅600mm、高さ500mm、柱部材の主筋:12−D10(主筋比Pg=1.36%)、帯筋:3.7φ−ピッチ105mm(せん断補強筋比Pw=0.08%)、コンクリート圧縮強度σ:28.1MPa、軸力比(N/(bDσ))、:0.1(N:軸力、b:柱の幅、D:柱のせい)、せん断スパン比(M/(VD)):2.0、梁部材の主筋:2−D13、1−D16(引っ張り鉄筋比Pt=0.57%)、帯筋:6φ−ピッチ100mm(せん断補強筋比Pw=0.32%)、下スタブ部材(床と下部梁相当)の引っ張り主筋:4−D19(引っ張り鉄筋比Pt=0.38%)、帯筋:4−D10、ピッチ100mm(せん断補強筋比Pw=0.48%)に図28〜30に示すような壁を形成して軸圧縮応力(柱の軸力比0.1)を加えた状態で加力装置にて梁部材を水平方向に正負繰り返し移動させた場合における水平耐力の変動状況(せん断力V(kN))と層間変形角R((水平移動量/高さ)×100%)との関係)についての検討を行った。
【0045】
水平方向に正負繰り返し移動させる際の水平力(最大で1000kNを確保)は変位制御で行ない、層間変形R=0.125%(1/800)、0.25%(1/400)を各1回、以降、0.5%、1.0%、1.5%、2.0%、2.5%、3.0%を各2回づつ正負繰り返す載荷プログラムを採用(それでも水平耐力の劣化が少ない場合には4%をさらに1回正負を繰り返す。)し、載荷の途中で損傷が大きくなった場合にその時点で載荷を停止した。
【0046】
図28の袖壁の仕様
厚さ3.2mm、縦寸法960mm(プレートと梁部材との間に20mmの隙間を設ける)、横寸法300mmの鋼板を用いそれによって形成される閉空間内にコンクリートを充填、硬化させて直径13mmになるPC鋼棒(片側2列10本)にて240MPaのプレストレス(ひずみ約1200μ)を導入、フレームの圧縮強度:σ=28.1MPa
【0047】
図29の袖壁の仕様
柱部材の横にあと施工アンカーを介して補強筋(主筋4−D16を、帯筋6φ−ピッチ100mm)を配筋し、図19に示すような補強体を形成し、厚さ3.2mm、縦寸法960mm(プレートと梁部材との間に20mmの隙間を設ける)、横寸法300mmの鋼板を用い、それによって形成される閉空間にコンクリートを充填(充填コンクリートの圧縮強度:σ=30.6MPa)、硬化させて直径13mmになるPC鋼棒(片側2列10本)にて240MPaのプレストレス(ひずみ約1200μ)を導入、フレームの圧縮強度:σ=28.1MPa
【0048】
図30の無開口壁の仕様
厚さ3.2mm、縦寸法480mm(プレートと梁との間に20mmの隙間を設ける)、横寸法1650mmの鋼板を2枚用い、それによって形成される閉空間内にコンクリートを充填(充填コンクリートの圧縮強度:σ=30.6MPa)、硬化させて直径13mmになるPC鋼棒(24本)にて240MPaのプレストレス(ひずみ1200μ)を導入、フレームの圧縮強度:σ=29.7MPa
【0049】
その結果を図31〜33に比較して示し、その際のピロティフレームの損傷状況を図34〜図36にそれぞれ示す。
【0050】
図31〜33より明らかな如く、本発明に従って補強を施したピロティフレームは、層変形角Rの変動にかかわりなく、高いせん断力Vで一定しており、水平耐力の劣化がほとんどないことが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0051】
柱部材を多用したピロティ建築物の水平耐力、靭性を大幅に改善し得る。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】耐震補強を図ったピロティ建築物を模式的に示した図であり、(a)は立面図、(b)はA−A断面図である。
【図2】図1の側面図である。
【図3】図1に示した建築物の壁体5の要部を拡大して示した断面図である。
【図4】図1に示した建築物の壁体6の要部を拡大して示した断面図である。
【図5】壁体の端部に相当する部位に形成される開放端を示したコンクリート増し打ち前の外観透視図である。
【図6】型枠を兼ねた溝形タイプの補強材を配置した本発明にしたがう他の補強要領の説明図である。
【図7】型枠を兼ねた溝形タイプの補強材を配置した本発明にしたがう他の補強要領の説明図である。
【図8】溝形タイプの補強材に替え、縦方向の添え筋に沿って横補強筋を配置した本発明にしたがう他の補強要領の説明図である。
【図9】柱部材の配置状況を示した平面図である。
【図10】(a)(b)は本発明における他の実施の形態を示した断面図である。
【図11】本発明における他の実施の形態を示した配筋図である。
【図12】本発明における他の実施の形態を示した断面図である。
【図13】柱部材の配置状況を示した平面図である。
【図14】本発明における他の実施の形態を示した断面図である。
【図15】耐震補強を図った多スパンピロティ建築物を模式的に示した図であり、(a)は立面図、(b)はB−B断面図である。
【図16】本発明における他の実施の形態を示した断面図である。
【図17】スタッドジベルの配置状況を示した配筋図である。
【図18】本発明における他の実施の形態を示した図であり、(a)は外観透視図であり、(b)はC−C断面図である。
【図19】本発明における他の実施の形態を示した図であり、(a)は外観透視図であり、(b)はD−D断面図である。
【図20】本発明における他の実施の形態を示した図であり、(a)は立面図であり、(b)はE−E断面図である。
【図21】本発明における他の実施の形態を示した図であり、(a)は立面図であり、(b)はF−F断面図である。
【図22】耐震強化を施した梁部材の外観透視図である。
【図23】耐震強化を施した柱部材の外観透視図である。
【図24】図23の水平断面を示した図である。
【図25】耐震強化を施した他の実施の形態を示した柱部材の外観透視図である。
【図26】(a)は十字形の柱梁接合部に簡易コーナーピースを適用した例を示した図であり、(b)はト形の柱梁接合部に簡易コーナーピースを適用した例を示した図である。
【図27】耐震補強実験に使用したピロティフレームの配筋図である。
【図28】耐震強化(袖壁)を施したピロティフレームの外観透視図である。
【図29】耐震強化(袖壁)を施したピロティフレームの外観透視図である。
【図30】耐震強化(無開口壁)を施したピロティフレームの外観透視図である。
【図31】図28に示したピロティフレームのせん断力Vと層間変形角Rとの関係を示したV−R履歴曲線図である。
【図32】図29に示したピロティフレームのせん断力Vと層間変形角Rとの関係を示したV−R履歴曲線図である。
【図33】図30に示したピロティフレームのせん断力Vと層間変形角Rとの関係を示したV−R履歴曲線図である。
【図34】図28に示したピロティフレームの損傷状況を示したひび割れ図である。
【図35】図29に示したピロティフレームの損傷状況を示したひび割れ図である。
【図36】図30に示したピロティフレームの損傷状況を示したひび割れ図である。
【符号の説明】
【0053】
1 柱部材
2 梁部材
3 床部材
4 開口
5 壁体(袖壁)
5a プレート
5b 緊結部材
5c コンクリート
5d 型枠を兼ねた溝形タイプの補強材
5e 縦筋
5f 横補強筋
6 無開口壁
6a プレート
6b 緊結部材
6c コンクリート
6d 溝形に加工した補強材
7 L形に加工した補強材
8 L形タイプの補強材(アングル鋼材等)
9 補強筋(あと施工アンカーを伴う)
10 溝形に加工した補強材
11 スペーサー
12 緊結部材
13 スタッドジベル
14 簡易コーナーピース
15 緊結部材
16 簡易コーナーピース
17 緊結部材
18 簡易コーナーピース
19 緊結部材
20 床スラブ
t 開放端

【特許請求の範囲】
【請求項1】
柱部材とこの柱部材につながる横部材とを組み合わせて区画形成した開口を有するピロティフレームを備えた建築物につき、その耐震補強を施すに当たり、
前記開口に、柱部材に連係し横部材に向けて伸延する少なくとも2枚のプレートを配置してそのプレートの相互間に該柱部材又は横部材とほぼ同等の幅を有する閉空間を形成し、次いで、該プレートを貫く緊結部材にて該プレートを仮止め固定したのち前記閉空間内にコンクリートを充填して硬化させ、続いて該緊結部材を締め上げてプレートを通して硬化後のコンクリートに対してプレストレスを導入する、ことを特徴とするピロティフレームを備えた建築物の耐震補強方法。
【請求項2】
前記プレートは開口の少なくとも一部分又は全部に配置されたものである請求項1記載の耐震補強方法。
【請求項3】
前記閉空間における柱部材の側壁近傍域に、あと施工アンカーを利用して複数の主筋と複数の帯筋とを組み合わせた補強体を配置する、請求項1又は2記載の耐震補強方法。
【請求項4】
少なくとも2枚のプレートをその開放端において相互につなぐ型枠を兼ねた溝形タイプの補強材を用いる、請求項1〜3の何れかに記載の耐震補強方法。
【請求項5】
前記閉空間における柱部材の側壁近傍域に、柱部材に沿って配置される添え筋と、この添え筋にて支持された横補強筋を配置する、請求項1又は2記載の耐震補強方法。
【請求項6】
前記柱部材及び横部材の両方又はその何れか一方に、前記閉空間へ突出して硬化後のコンクリートとの一体化を図る連結部材としてのスタッドジベルを配置する、請求項1〜5の何れかに記載の耐震補強方法。
【請求項7】
前記プレートを横部材の側面まで延長させ、該プレート及び横部材を貫通する緊結部材を締め上げることにより該プレートを横部材に圧着させる、請求項1〜6の何れかに記載の耐震補強方法。
【請求項8】
前記プレートを横部材の側面まで延長させて、該プレートと横部材の側面の相互間に閉空間につながる隙間を形成するとともに該プレート及び横部材を貫通する緊締部材を配置し、該隙間内にコンクリートを充填、硬化させたのち該緊締部材を締め上げることにより該プレートを横部材に圧着させる、請求項1〜6の何れかに記載の耐震補強方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【図27】
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【図28】
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【図29】
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【図30】
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【図31】
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【図32】
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【図33】
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【図34】
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【図35】
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【図36】
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【公開番号】特開2006−274783(P2006−274783A)
【公開日】平成18年10月12日(2006.10.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−205926(P2005−205926)
【出願日】平成17年7月14日(2005.7.14)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成17年3月1日 社団法人日本建築学会九州支部発行の「日本建築学会九州支部研究報告 第44号−1〔構造系]」に発表
【出願人】(504145308)国立大学法人 琉球大学 (100)
【Fターム(参考)】