説明

ピロリジン誘導体及びその製造方法

【課題】ピロリジン誘導体を合成する手法を確立すること。
【解決手段】
下記式(2)で示されるピロリジン誘導体とする。


(ここでRは、アリール基又はアルキル基、Rはアリール基、Rはアルキル基又はアリール基である。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ピロリジン誘導体及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
光学活性なアミノ酸およびその誘導体は、医薬品の開発に直結する化合物である。これら光学活性アミノ酸を触媒的不斉合成する技術は極めて重要であり、様々な手法が研究されている。中でもイミノエステルとアルケンを環化させる反応させてピロリジン誘導体を得る反応は魅力的である。
【0003】
例えば、従来の技術として銅触媒存在下、イミノエステルとニトロアルケンを用いる例が下記文献1、2に記載されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】X.−X.yan,Q.Peng,Y.Zhang,K.Zhang,W.Hong,X.−L.Hou,Y.−D.Wu,Angew.Chem.Int.Ed.2006,45.1979−1983.
【非特許文献2】S.Cabrera,R.G.Arrayas,B.Martin−Matute,F.P.Cossio,J.C.Carretero,Tetrahedron,2007,63,6587−6602.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記非特許文献に記載のいずれにおいても、得られるピロリジン誘導体はエンド体もしくはエキソ体のみであって、様々な医薬品開発のためには他の立体配置を有するピロリジン誘導体を得る反応系の開発が望まれる。
【0006】
そこで、本発明は、上記課題を鑑み、金属触媒を用いたマイケル−マンニッヒ反応及びそれにより得られるエキソ’体のピロリジン誘導体合成を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題について鋭意検討を行なっていたところ、金属にイミダゾリン配位子を配位させた触媒の存在下で、イミノエステルとニトロアルケンを反応させることで、下記のようにエキソ’体のピロリジン誘導体を得ることができる点を発見し、本発明を完成させるに至った。
【化1】

【0008】
即ち、本発明の一手段に係るエキソ’体のピロリジン誘導体を製造する方法は、下記式(1)で示される触媒の存在下で、イミノエステルとニトロアルケンを反応させる。
【化2】

【0009】
この結果、下記式(2)で示されるピロリジン誘導体を得ることができる。
【化3】

【0010】
(ここでRは、アリール基又はアルキル基、Rはアリール基、Rはアルキル基又はアリール基である。)
【発明の効果】
【0011】
以上、本発明により、金属触媒を用いたマイケル−マンニッヒ反応及びそれにより得られるエキソ’体のピロリジン誘導体を提供することが可能となり、得られるピロリジン誘導体のジアステレオマーの拡大を行なうことができる。また、本発明によると非常に高い収率を得ることもできるといった効果がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態について図面を参照しつつ説明する。ただし、本発明は多くの異なる態様で実施することが可能であり、以下に示す実施形態に限定されるものではない。
【0013】
(実施形態1)
下記式(1)で示される触媒の存在下で、イミノエステルと、ニトロアルケンを反応させる。
【化4】

【0014】
本実施形態において用いられる触媒における配位子は、その構成中に窒素で架橋されたイミダゾリン骨格とフェニル骨格とを有しているため、反応場が広い。またフェノール環にニトロ基を有する配位子(X=NO)から調製される触媒のほうが、X=Brの配位子から調製した触媒よりもルイス酸性が高い。
【0015】
また、配位子を配位させる金属としては、配位させることができる限りにおいてこれに限定されるわけではないが、例えば銅、ニッケル、コバルト、ルテニウム、ロジウム又は鉄を例示することができる。また配位子を金属に配位させる方法としては、周知の方法を採用することができ、限定されるわけではないが、金属塩と配位子を混合することで配位させることができる。金属塩としては、限定されるわけではないが、金属がニッケルである場合、NiCl、NiI、Ni(OAc)、Ni(ClO等を用いることができる。
【0016】
本実施形態に係る触媒は、イミノエステルを用いた不斉マイケル−マンニッヒ反応を行なうために用いることができる。具体的には、本実施形態に係る触媒の存在下で、下記式で示される反応のように、イミノエステルとニトロアルケンを反応させてピロリジン誘導体を合成することができる。
【化5】

【0017】
上記反応は、ジオキサン中において行なうことが好ましい。
【0018】
上記反応において、反応基質として用いられるニトロアルケンは下記式(3)で示される。ここにおいてRは限定されるわけではないが、例えばアリール基又はアルキル基を用いることができる。アリール基の場合、限定されるわけではないが、電子求引性基であることが好ましく、具体的にはフェニル基、トリル基、p−ブロモフェニル基、p−メトキシフェニル基、o−クロロフェニル基等を挙げることができるがこれに限定されない。またアルキル基の場合、炭素数3以上8以下の直鎖状の又は分岐を有するものであることが好ましく、具体的には、イソプロピル基、シクロヘキシル基、1−フェニルエチル基を挙げることができる。なお、上記反応において、用いるニトロアルケンの量は、アゾメチンイミンを1モルとした場合、0.7モル以上1.3モル以下の範囲にあることが好ましく、より好ましくは0.9モル以上1.1モル以下の範囲内である。
【化6】

【0019】
この結果、本実施形態に係る方法によると、下記式(2)で示すピロリジン誘導体を得ることができる。
【化7】

【0020】
(ここでRは、アリール基又はアルキル基、Rはアリール基、Rはアルキル基又はアリール基である。)
【0021】
(配位子の合成)
また本実施形態に係る配位子は、限定されるわけではないが、合成によって製造することができる。合成方法も、上記配位子を得ることができる限りにおいて限定されるわけではないが、例えば以下に示す方法により合成することができる。
【0022】
まず、下記式(4)で示されるジアミンに対し、酸存在のもと、クロロオルト酢酸トリエチルを反応させることで、下記式(5)で示されるハロゲン化されたメチル末端を有するイミダゾリンを得ることができる。
【化8】

【化9】

【0023】
次に、上記式(5)で示されるハロゲン化されたメチル末端を有するイミダゾリンに対し、塩基として有機アミンのもと、スルホニルクロライド又はアルキルハライドを反応させることで、下記式(6)で示される化合物を得ることができる。
【化10】

【0024】
次に、上記式(6)で示される化合物に対し、アルキルアミンを反応させることで下記式(9)により示される第二級アミン部位を持つイミダゾリン化合物を得ることができる。特に、上記式(6)において、Xがクロル基の場合、ヨウ化ナトリウムの存在の下に行なうのが好ましい。
【化11】

【0025】
次に、上記式(7)で示されるイミダゾリン化合物に対し、還元剤のもと3,5‐ジブロモサリチルアルデヒドもしくは3−ニトロ−5−ブロモサリチルアルデヒドを反応させることで上記式(1)の本実施形態に係る配位子を得ることができる。還元剤としては、シアノ水素化ホウ素ナトリウムが好適である。
【化12】

【0026】
以上、本実施形態に係る触媒によると、不斉触媒を用いて不斉マイケル−マンニッヒ反応と複数の化合物を一度に合成することが可能であり、より高効率で有用な不斉合成法、それに用いられる触媒更には配位子となる。
【実施例】
【0027】
ここで、上記実施形態に係る触媒の効果につき、実際に触媒を作成し、その効果を確認した。以下に具体的に説明する。なおもちろん、上記実施形態に係る触媒も多くの異なる実施が可能であり、以下に示す実施例に限定されるわけではない。
【0028】
(触媒の準備)
本実施例では、下記式(1)で示される配位子を合成し、その配位子を金属に配位させ、不斉マイケル−マンニッヒ反応に用いた。
【化13】

【0029】
(配位子の合成)
まず(S,S)−1,2−ジフェニル−1,2−エチレンジアミンを1g用意し、これに酸の存在下、クロロオルト酢酸トリエチルと室温で15時間反応させ、シリカゲルカラムクロマトグラフィーを用いて精製することでクロロメチル末端を有するイミダゾリンを1.01g得た。
【0030】
次に、上記で得たクロロメチル末端を有するイミダゾリンを0.271g用い、ジイソプロピルエチルアミン0.257mlの存在下、パラトルエンスルホニルクロライド0.248gと0℃で60分反応させ、シリカゲルクロマトグラフィーを用いて精製することでトシル化されたイミダゾリンを0.401g得た。
【0031】
次に、上記で得たトシル化されたイミダゾリンを0.543g用い、ヨウ化カリウムの存在下、(S)−1−フェニルエチルアミンと室温で14時間反応させ、シリカゲルクロマトグラフィーを用いて精製することで二級アミン部位を有するイミダゾリンを677g得た。
【0032】
次に、二級アミン部位を有するイミダゾリン0.509gを用い、3−ブロモ5−ニトロサリチルアルデヒド0.492gと1時間室温で攪拌した後、シアノ水素化ホウ素ナトリウム(1M in THF)を0℃にて2時間かけて2.0ml加え、その後室温にて30分攪拌した。反応後、シリカゲルカラムクロマトグラフィーを用いて精製し、上記式(1)で示される配位子を0.342g得た。
【0033】
なお、この結果得られた化合物について、プロトン核磁気共鳴分光法による測定を行ったところ、上記式(1)で示される化合物であることが確認できた。なおプロトン核磁気共鳴分光法による測定の結果を以下に示しておく。
【0034】
H NMR(500MHz,CDCl)δ1.54(d,3H),2.36(s,3H),3.79−3.85(m,1H),3.93−3.99(m,2H),4.01−4.05(m,1H),4,15(d,2H),4.70−4.72(m,1H),5.04−5.07(m,1H),6.91−6.94(m,2H),6.99−7.02(m,2H),7.12−7.15(m,2H),7.20−7.25(m、3H),7.33−7.45(m,8H),8.00−8.02(m,1H),8.37−8.39(m,1H),12.7(br,1H)
【0035】
そしてこの得られた配位子(X=NO)を0.0122g用い、これに酢酸ニッケル(II)を配位させることで触媒として不斉マイケル−マンニッヒ反応を行なった。
【0036】
(実施例1)
本実施例は、0.75mlの無水トルエン中に、トランス−β−ニトロスチレン0.022g、トリエチルアミン0.002ml、(E)-メチル−2−(ベンジリデンアミノ)アセテートを上記触媒の存在下、10℃、17時間反応させることで行なった。この結果、下記に示す化合物(2−1)を0.041g得ることができた。また(2−1)の収率は85%(91%ee)であった。
【化14】

【0037】
H NMR (500MHz,CDCl)δ7.46−7.49(m,2H),7.28−7.40(m,8H),4.86−4.92(m,2H),4.19−4.22(m,1H),4.14(d,J=5.5Hz,1H),3.81(s,3H),3.03(br,1H);13C NMR(125MHz、CDCl)δ173.6,139.3,138.5,129.2,128.9,128.0,127.3,126.7,98.5,67.1,65.7,54.0,52.7;Enantiomeric excess was determined by HPLC with a Chiralpac AD−H column (70:30 hexane:2−propanol,1.0mL/min,254nm);minor enantiomer t=7.1min,major enantiomer t=9.6min,91%ee, [a]20=+19.0(c=1.0,CHCl,80%ee); IR(neat)3341,3030,1737,1550cm−1
【0038】
(実施例2)
本実施例は、上記実施例1と、反応時間以外同じ条件で行なった。この結果、下記化合物(2−2)を0.043g得ることができた。また(2−2)の収率は71%(91%ee)であった。
【化15】

【0039】
H NMR(500MHz,CDCl)δ7.44−7.49(m,4H),7.33−7.40(m,3H),7.20(d,J=6.5Hz,2H),4.88−4.92(m,1H),4.80−4.84(m,1H),4.16(dd,J=6.7,5.6Hz,1H),4.14(d,J=5.6Hz,1H),3.81(s,3H),3.00(br,1H); 13C NMR(125MHz,CDCl)δ173.2,138.3,132.3,129.0,128.9,128.7,126.6,122.0,98.1,66.9,65.6,53.4,52.8; Enantiomeric excess was determined by HPLC with a Chiralpac AD−H column (70:30 hexane:2−propanol,1.0mL/min,254nm); minor enantiomer t=8.1min,major enantiomer t=12.5min,91%ee, [a]20=−3.1(c=1.0,CHCl,91%ee); IR(neat)3340,2954,1736,1548cm−1
【0040】
(実施例3)
本実施例は、上記実施例1と、反応時間以外同じ条件で行なった。この結果、下記化合物(2−3)を0.030g得ることができた。また(2−3)の収率は69%(81%ee)であった。
【化16】

【0041】
H NMR(400MHz,CDCl)δ7.32−7.40(m,5H),4.73(d,J=7.7Hz,1H),4.56(dd,J=7.7,6.6Hz,1H),3.84(s,3H),3.82(d,J=4.1Hz,1H),2.93(dt,J=6.6,4.1Hz,1H),2.71(br,1H),1.94−2.02(m,1H),1.04(d,J=6.7Hz,3H),0.99(d,J=6.7Hz,3H); 13C NMR(100MHz、CDCl)δ174.7,128.8,126.6,94.6,67.5,61.4,54.7,52.6,31.3,20.3,19.3; Enantiomeric excess was determined by HPLC with a Chiralcel OJ−H column (9:1 hexane:2−propanol,1.0mL/min,220nm); minor enantiomer t=10.2min,major enantiomer t=14.1min,81% ee, [a]20=+30.5(c=1.0,CHCl,81%ee); IR(neat) 3346,2960,1731,1551cm−1
【0042】
以上の通り、本実施例によると、不斉マイケル−マンニッヒ反応を行なうことができる有用な触媒が実現できることを確認した。
【0043】


また、配位子(1)として、X=Brのものを用いると、以下に示すような結果をえることができた。
【化17】

【表1】

【0044】
本反応の推定メカニズムを以下に記載する。
【化18】

【産業上の利用可能性】
【0045】
本発明は、これまでに報告例のない連続する立体中心を有するピロリジン化合物を非常に高い光学純度で供給できることから、医薬・農薬の開発と生産に有用であり、産業上の利用価値は非常に高い。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)で示される配位子を金属に配位させた触媒を用いて下記式(2)で示されるピロリジン誘導体を合成する方法。
【化1】

【化2】

(ここでRはアリール基又はアルキル基、Rはアリール基、Rはアルキル基又はアリール基である。)
【請求項2】
下記式(2)で示されるピロリジン誘導体。
【化3】

(ここでRは、アリール基又はアルキル基、Rはアリール基、Rはアルキル基又はアリール基である。)