説明

ピンタンブラー錠及びピンタンブラー錠付装置

【課題】外筒の構造を変えることなく抜け止め位置を変更できるようにし、単一の構成で複数の種類の抜け止め位置を実現でき、部品管理を容易化する。
【解決手段】外筒2の背面に開口する抜け止め孔23を設けた。抜け止め孔23に抜け止めピン6を挿入すると、ドライブ孔22Cのドライブピン4の外側に抜け止めピン6が当接し、ドライブピン4の外側への移動が規制される。内筒1のタンブラー孔12Cに収納されたタンブラーピン4の移動も規制され、内筒1が第2の回転位置にある時には鍵穴11からの鍵30の引き抜きが禁止される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、内筒に挿入された鍵の形状に応じて内筒内でタンブラーピンを半径方向に同移動させることで内筒を複数の回転位置のそれぞれで選択的に停止させるピンタンブラー錠、及び、ピンタンブラー錠の内筒の回転位置に応じて電気接点の開閉状態を変化させる鍵付セレクタスイッチ等のピンタンブラー錠付装置に関する。
【背景技術】
【0002】
制御盤等に配置されるセレクタスイッチとして、特定の操作者のみが操作できるようにすべく、タンブラー錠を備えた鍵付セレクタスイッチがある。鍵付セレクタスイッチは、前面から鍵が挿入される鍵穴を備えたロータ(内筒)、ロータを回転自在に収納したロータケース(外筒)、ロータと一体的に回転する回転カム、回転カムの回転によってロータの軸方向に変位する操作部材、操作部材が可動接点に当接する電気接点を備えている。
【0003】
鍵が挿入されたロータは、ロータケース内の複数の回転位置のそれぞれで選択的に停止できるようにされている。操作部材は、ロータの回転位置に応じて、ロータの背面側に配置されている電気接点の開閉状態を変化させる。
【0004】
鍵付セレクタスイッチでは、電気接点の開閉状態を変化させるためには、ロータの鍵穴に鍵が挿入されていなければならない。ロータの複数の回転位置のいずれでもロータの鍵穴から鍵を引き抜くことができることとすると、電気接点の開閉状態を即時に変化させることができない場合を生じうる。例えば、電源ラインに鍵付セレクタスイッチが接続された被制御機器の動作中に鍵穴から鍵が引き抜かれていると、被制御装置を停止させる場合にも鍵を鍵穴に挿入する操作が必要になり、緊急時に被制御装置を急停止させることができない。
【0005】
そこで、従来の鍵付セレクタスイッチでは、抜け止め構造を備えたものがある。抜け止め構造は、ロータが特定の抜け止め位置に停止しているときに、鍵穴からの鍵の引き抜きを禁止する(例えば、特許文献1参照。)。
【0006】
特許文献1に記載されている鍵付セレクタスイッチのように、板タンブラー錠を用いたものでは、ロータが特定の抜け止め位置にあるときにロータ内での板タンブラーの移動を規制する。
【0007】
即ち、板タンブラー錠では、ロータ内に複数枚の板タンブラーのそれぞれを半径方向に移動自在にして備え、ロータの複数の回転位置のそれぞれで板タンブラーに対向する半径方向の溝がロータケースに形成されている。板タンブラーが溝に対向する位置では、鍵の形状に応じた板タンブラーが半径方向に移動して溝内に進入することができ、ロータの鍵穴に鍵を抜き差しすることができる。
【0008】
ロータが抜け止め位置にあるときに板タンブラーが対向する溝には、抜け止め部材が挿入されている。ロータが抜け止め位置にあるときには、板タンブラーが溝内に進入できないため、ロータの鍵穴に対する鍵の抜き差しが規制される。
【0009】
鍵付セレクタスイッチは、種々の状況で使用される。このため、同一形状であっても使用状況等に応じて互いに異なる回転位置を抜け止め位置とした複数種類の鍵付セレクタスイッチを準備する必要がある。板タンブラー錠を用いた鍵付セレクタスイッチでは、複数の溝のうち抜け止め部材を挿入する溝を変えることで抜け止め位置を変更できる。抜け止め位置の種類に応じた数の鍵付セレクタスイッチを準備する必要がなく、部品管理が容易になる。
【特許文献1】特開平01−122527号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
近年、不正操作を防止すべく、鍵付セレクタスイッチには板タンブラー錠に代えてピンタンブラー錠が多用されている。
【0011】
しかし、ピンタンブラー錠では、構造上、抜け止め位置を容易に変更することができない問題がある。即ち、ピンタンブラー錠は、内筒及び外筒を備えている。内筒には、前面に開放した鍵穴が形成され、鍵穴と周面との間を半径方向に貫通するタンブラー孔が軸方向に沿って複数形成されている。複数のタンブラー孔のそれぞれにはタンブラーピンが半径方向に移動自在に保持されている。外筒は、内筒を回転自在に支持しており、内筒の複数の回転位置のそれぞれでタンブラーピンに対向する半径方向のドライブ孔を備えている。ドライブ孔内には、タンブラーピンを中心に向かって押圧するドライブピンが半径方向に移動自在に保持されている。
【0012】
従来のピンタンブラー錠では、内筒が抜け止め位置にある時にタンブラーピンに対向するドライブ孔を外筒に形成しないことでタンブラーピンが半径方向に移動できないようにし、鍵穴からの鍵の引き抜きを規制している。
【0013】
このため、ピンタンブラー錠を用いた場合には、抜け止め位置を変更するためには外筒の構成を変えることが考えられるが、抜け止め位置の種類に応じた数の鍵付セレクタスイッチを準備しておく必要があり、部品管理が煩雑化する。
【0014】
この発明の目的は、外筒の構造を変えることなく抜け止め位置を容易に変更できるようにし、単一の構成で複数の種類の抜け止め位置を実現でき、部品管理を容易化できるピンタンブラー錠及びピンタンブラー錠付装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
この発明のピンタンブラー錠は、内筒、外筒、抜け止めピンを備えている。内筒は、鍵穴に挿入された鍵の形状に応じて半径方向に変位するタンブラーピンを収納する。外筒は、内筒を回転自在に支持し、内筒の複数の回転位置のそれぞれでタンブラーピンに対向してタンブラーピンを内筒の中心に向かって押圧するドライブピンを収納する。抜け止めピンは、外筒内に背面側から挿脱自在にされ、複数のドライブピンのうち複数の回転位置の少なくとも1つの回転位置でタンブラーピンに対向するドライブピンの外側への移動を規制する。
【0016】
外筒内に背面側から抜け止めピンを挿入すると、ドライブピンの外側への移動が規制され、このドライブピンに対向するタンブラーピンは外側に移動できずに鍵に係合したままとなり、鍵穴から鍵を引き抜くことができなくなる。
【0017】
外筒には、ドライブピンを内筒の中心に向けて付勢する弾性部材が備えられる。抜け止めピンは、外筒内に挿入された際に、ドライブピンにのみ接触し、弾性部材には接触しないものとすることができる。抜け止めピンは、外筒内に背面側から容易に挿脱される。
【0018】
この発明のピンタンブラー錠付装置は、上記のピンタンブラー錠、回転カム、接点部を備えている。回転カムは、内筒の背面側に同軸上に固定され、内筒と一体的に回転する。接点部は、回転カムの回転に基づいて可動接点の動作を制御する。
【0019】
ピンタンブラー錠の内筒の回転により、回転カムが一体的に回転し、可動接点の動作が制御される。内筒の回転位置に応じて接点部の開閉状態が変化する。
【発明の効果】
【0020】
この発明によれば、複数の回転位置の何れかで外筒内に背面側から抜け止めピンを挿入することにより、その回転位置でのドライブピンの外側への移動を規制し、ピンを外側に移動できずに鍵に係合したままの状態とすることができる。抜け止めピンが挿入された回転位置を抜け止め位置とすることができ、複数の回転位置のいずれかに選択的に抜け止めピンを挿入することで、外筒の構造を変えることなく抜け止め位置を変更することができる。単一の構成で複数の種類の抜け止め位置を実現でき、部品管理を容易化できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
図1は、この発明の実施形態に係るピンタンブラー錠の正面図である。ピンタンブラー錠10は、内筒1及び外筒2を備えている。内筒1は、外筒2と同軸上で回転自在にして外筒2内に収納されている。内筒1の前面には、鍵穴11が開口している。
【0022】
内筒1は、第1の回転位置及び第2の回転位置で停止することができる。一例として、内筒1の前面における鍵穴11の長手方向は、第1の回転位置で垂直になり、第1の回転位置から内筒1を時計方向に90度回転させた第2の回転位置で水平になる。外筒2の前面には、抜き差し位置及び抜け止め位置が、一例として刻印24,25により示されている。
【0023】
図2は、上記ピンタンブラー錠の側面断面図である。図2(A)は第1の回転位置における側面断面図であり、図2(B)は第2の回転位置における側面断面図である。
【0024】
内筒1には、一例として3個のタンブラー孔12A〜12Cが中心軸に沿って一列に形成されている。各タンブラー孔12A〜12Cは、鍵穴11と内筒1の周面との間を内筒1の半径方向に貫通し、鍵穴11に挿入された鍵30の側面に対向する。各タンブラー孔12A〜12Cには、タンブラーピン3が内筒1の半径方向に移動自在にして収納されている。
【0025】
外筒2には、3個のドライブ孔21A〜21C及び3個のドライブ孔22A〜22Cが中心軸に沿ってそれぞれ一列に形成されている。各ドライブ孔21A〜21Cは、内筒1が第1の回転位置にあるときに各タンブラー孔12A〜12Cに対向する。各ドライブ孔22A〜22Cは、内筒1が第2の回転位置にあるときに各タンブラー孔12A〜12Cに対向する。各ドライブ孔21A〜21C及び22A〜22Cは、外筒2の半径方向に形成されている。
【0026】
各ドライブ孔21A〜21C及び22A〜22Cには、ドライブピン4が外筒2の半径方向に移動自在にして収納されており、各ドライブピン4の外側にコイルバネ5が配置されている。コイルバネ5は、この発明の弾性部材である。各ドライブピン4は、コイルバネ5の弾性力により、タンブラーピン3を内筒1の中心に向けて押圧する。各タンブラーピン3は、鍵30の側面の3カ所に形成された凹部31A〜31Cのそれぞれに嵌入する。
【0027】
鍵穴11に鍵30を挿入する際には、タンブラーピン3及びドライブピン4が一旦外側に移動した後、コイルバネ5の弾性力によって中心に向かって移動して凹部31A〜31Cに嵌入する。鍵穴11から鍵30を引き抜く際には、凹部31A〜31Cに嵌入しているタンブラーピン3をドライブピン4とともに外側に移動させ、凹部31A〜31Cに対するタンブラーピン3の嵌入状態を解除する必要がある。
【0028】
図3は、上記ピンタンブラー錠の背面図である。外筒2の背面には、抜け止め穴23が開口している。抜け止め穴23には、抜け止めピン6が背面側から外筒2内に挿入される。抜け止め穴23は、ドライブ孔22A〜22Cのうち少なくとも最も背面側のドライブ孔22Cの一部に開放している。抜け止め穴23に挿入された抜け止めピン6は、最も背面側のドライブ孔22Cで、ドライブピン4の外側に当接し、コイルバネ5には接触しない。抜け止め穴23に抜け止めピン6を挿入すると、ドライブ孔22C内でのドライブピン4の外側への移動が規制される。
【0029】
内筒1が第1の回転位置にあり、タンブラー孔12A〜12Cがドライブ孔21A〜21Cに対向する状態では、ドライブ孔21A〜21Cの全てでドライブピン4が外側に移動することができ、タンブラー孔12A〜12Cの全てでピン3が外側に移動できる。内筒1が第1の回転位置にある時には、タンブラーピン3の凹部31A〜31Cへの嵌入状態を解除することができ、鍵穴11に対して鍵30を挿脱することができる。
【0030】
抜け止め穴23に抜け止めピン6が挿入されている場合、内筒1が第2の回転位置にあり、タンブラー孔12A〜12Cがドライブ孔22A〜22Cに対向する状態では、最も背面側のタンブラー孔12C内でタンブラーピン3の移動が規制さる。内筒1が第2の回転位置にある時には、タンブラーピン3の凹部31Cへの嵌入状態を解除することができず、鍵穴11からの鍵30の引き抜きが禁止される。
【0031】
抜け止め穴32に抜け止めピン6を挿入するか否かを選択することにより、使用状況に応じて、内筒1の第2の回転位置を選択的に抜け止め位置とすることができる。
【0032】
抜け止め穴23に挿入された抜け止めピン6は、ドライブピン4の外側に当接し、コイルバネ5には接触しない。このため、抜け止めピン6を抜け止め穴23に容易に挿脱することができる。
【0033】
抜け止め穴23は、ドライブ孔22A〜22Cのうち最も背面側のドライブ孔22Cを含む複数又は全てに開放するように形成することもできる。複数のタンブラーピン3及び複数のドライブピン4の外側への移動を規制して鍵穴11からの鍵の引き抜きをより確実に禁止することができる。
【0034】
抜け止め穴23は、ドライブ孔22Cに開放する位置だけでなく、ドライブ孔21Cに開放する位置にも設けることができる。使用状況に応じて、内筒1の第1の回転位置又は第2の回転位置の何れかを選択的に抜け止め位置とすることができる。刻印24〜26が表記されたピンタンブラー錠10′のように(図4参照。)、内筒1が選択的に停止する第1〜第3の回転位置が設定されている場合にも、その一部又は全てに対応する位置に抜け止め穴23を設けることができる。内筒1が選択的に停止する4個所以上の回転位置が設定されている場合にも同様である。
【0035】
以上の構成により、単一の構造のピンタンブラー錠10を、使用状況に応じて、内筒1の複数の回転位置のうち任意の回転位置を抜け止め位置とすることができる。使用状況に応じて構造の異なる複数のピンタンブラー錠を準備する必要がなく、部品管理が容易になる。また、抜け止めピン6は、抜け止め穴23に挿脱可能であり、挿入したり引き抜いたりして再利用が可能である。
【0036】
図3に示した例では、抜け止め穴23が円形断面を呈し、抜け止めピン6が円柱形状を呈する。抜け止め穴23及び抜け止めピン6は、コイルバネ5に接触することなくドライブピン4の外側への移動を規制できることを条件として、他の形状とすることができる。例えば、図5(A)に示すようにコイルバネ5の両側に抜け止め穴23′を形成し、抜け止めピン6′を図5(B)に示す形状としてもよい。図5に示す形状とすることで、ドライブピン4の外側への移動をより確実に規制できる。
【0037】
図6は、この発明の実施形態に係るピンタンブラー錠付装置の一例であるセレクタスイッチの構成を示す側面断面図である。セレクタスイッチ20は、ピンタンブラー錠10、回転カム7、操作部材8、接点部9、外枠41、内枠42、ホルダ43、パッキン44、取付枠45、取付ナット46、止めネジ47及び固定枠48を備えている。
【0038】
ピンタンブラー錠10は、セレクタスイッチ20の使用状況に応じて、抜け止め穴23に抜け止めピン6を選択的に挿入することで、内筒1の複数の回転位置の少なくとも1個所を抜け止め位置としている。ピンタンブラー錠10は、ホルダ43に収納された後、パッキン44を介して外枠41内に保持される。
【0039】
回転カム7は、内筒1の背面に止めネジ47を介して同軸上に固定されている。回転カム7は、背面側の端部の軸方向の位置を周面に沿って変化させている。
【0040】
操作部材8は、固定枠48によって内枠42の内部で軸方向に移動自在に保持されている。操作部材8は、前面側端部を回転カム7の背面側の端部に当接させており、背面側端部が接点部9内に挿入されている。
【0041】
接点部9は、ピンタンブラー錠10の背面側において内枠42の背面に装着されて支持される。接点部9は、内部に固定接点及び可動接点を備えている。接点部9は、固定接点と可動接点との間で図示しない電気回路を開閉する。操作部材の背面側の端部は、接点部9内で可動接点に当接する。内枠42が、この発明の支持部材に相当する。
【0042】
セレクタスイッチ20は、外枠41の前面側のフランジ部と取付枠45との間にパネル板等を挟持して制御パネル等に取り付けられる。
【0043】
鍵穴11に挿入した鍵30を介して内筒1を回転させることにより、回転カム7が内筒1と一体的に回転する。回転カム7の回転により、回転カム7の背面側端部で操作部材8の前面側端部が当接する位置が変位する。操作部材8は、前面側端部が当接する回転カムの背面側端部の軸方向の位置に応じて軸方向に変位し、背面側端部によって内筒1の回転位置8に応じて可動接点を固定接点に向けて押圧する。
【0044】
ピンタンブラー錠10における内筒1の回転位置に応じて、接点部9内で電気回路を開閉することができる。接点部9の構成に応じて、内筒1の回転位置と接点の開閉状態との関係が種々変化し、内筒1の複数の回転位置のうち鍵穴11に挿入された鍵30の引き抜きを禁止すべき回転位置も変化する。接点部9の構成に応じて単一の構造のピンタンブラー錠10で抜け止めピン6を挿入する位置を適宜選択することにより、内筒1の回転位置と接点の開閉状態との関係の変化に対応することができ、部品管理が容易化される。
【0045】
なお、この発明のピンタンブラー錠付き装置は、内筒の背面側に同軸上に固定され、内筒と一体的に回転する回転カムと、回転カムの回転に基づいて可動接点の動作を制御する接点部とを備えたものであればよい。例えば、上記のように回転カムの回転に基づいて可動接点の動作が制御されるセレクタスイッチのほか、押しボタンスイッチ、安全スイッチ又は制御盤であってもよい。この発明を押しボタンスイッチに適用する場合、従来の押しボタンスイッチにピンタンブラー錠と回転カムとを備え、押しボタンを押すと接点がオン又はオフする位置で回転カムによって押しボタンの復帰が規制され、ピンタンブラー錠を作動させる構成(回転カムを回転させることによって押しボタンの復帰が許可される構成)とすることができる。
【0046】
図7は、この発明のさらに別の実施形態に係るピンタンブラー錠10′に使用される板鍵300の正面図である。図8は、板鍵300が使用されるピンタンブラー錠10′の構成及び動作を示す図である。図8(B)及び(D)は、それぞれ図8(A)及び(C)中の断面位置Z1−Z1及びZ2−Z2における断面図である。
【0047】
板鍵300は、平板錠を呈し、挿入部31及び操作部32からなる。挿入部31は、鍵穴11に挿入される。操作部32は、手指によって把持される。挿入部31には、凹部33A〜33C及び凹部34A〜34Cが鍵穴11に対する板鍵300の挿入方向Xに沿って3個ずつ2列に形成されている。板鍵300の裏面にも、前面と同様に凹部33A〜33C及び凹部34A〜34Cが形成されている。
【0048】
ピンタンブラー錠10′は、鍵穴11を挟んで両側に3個ずつ合計6個のタンブラーピン3を備えている。板鍵300がピンタンブラー錠10′の鍵穴11に挿入された際に、板鍵300の前面の凹部34A〜34C及び裏面の凹部33A〜33Cに、6個のタンブラーピン3のそれぞれが嵌入する。板鍵300が表裏反転して鍵穴11に挿入された際には、板鍵300の裏面の凹部34A〜34C及び前面の凹部33A〜33Cに、6個のタンブラーピン3のそれぞれが嵌入する。
【0049】
ピンタンブラー錠10′は、鍵穴11を挟む両側のそれぞれに3個ずつのタンブラーピン3を一定のピッチPAで備えている。板鍵300は、凹部33Aと凹部33Bとの間、凹部33Bと凹部33Cとの間、凹部34Aと凹部34Bとの間をピッチPAとし、凹部34Bと凹部34Cとの間をピッチPAよりも短いピッチPBとしている。凹部34Cは、この発明の所定の凹部である。
【0050】
なお、板鍵300を表裏反転して鍵穴11に挿入できるようにする必要がない場合、表面に凹部34A〜34Cのみを形成し、裏面に凹部33A〜33Cのみを形成してもよい。
【0051】
ピンタンブラー錠10′に抜け止め穴23を加工する際には、工作精度を考慮して、外筒2の背面における設計上の位置よりも半径方向の外側に公差が与えられる。抜け止め穴23が、外筒2の背面における設計上の位置よりも半径方向の内側に形成されると、ドライブピン4との干渉によって抜け止めピン6を挿入することができなくなるためである。したがって、抜け止め穴23は、外筒2の背面における設計上の位置と設計上の位置よりも公差分だけ半径方向の外側に偏った位置との間の誤差範囲内に形成されることになる。
【0052】
抜け止め穴23が所定の誤差範囲内に位置する可能性があるため、凹部33A〜33C及び凹部34A〜34Cの全てをピッチPAで配置した板鍵300′(図9参照。)では、抜け止め位置で鍵穴11からの引抜方向の力を作用させつつ回転させることができなくなる。
【0053】
即ち、凹部33A〜33C及び凹部34A〜34Cの全てをピッチPAで配置すると、図9(A),(B)に示すように、板鍵300′に引抜方向の力が作用していない状態で、凹部33A〜33C及び凹部34A〜34Cの全てに均等にタンブラーピン3が嵌入する。この時、ドライブピン4(所定のドライブピン)と抜け止めピン6との間には公差分の間隙がある。この状態から板鍵300′に引抜方向の力が作用すると、図9(C),(D)に示すように、凹部34Cに嵌入しているタンブラーピン3(所定のタンブラーピン)と凹部34Cの傾斜面とが当接した後、ドライブピン4が抜け止めピン6に当接するまで板鍵300′が引抜方向に移動する。この間に、凹部33A〜33Cに嵌入しているタンブラーピン3のそれぞれが凹部33A〜33Cの各傾斜面によって半径方向の外側に押し出され、内筒1と外筒2との間に跨がって位置する結果、内筒1を板鍵300′とともに回転させることができなくなる。
【0054】
そこで、抜け止めピン6が作用するタンブラーピン3が嵌入する凹部34Cとこれに隣接する凹部34BとのピッチPBをタンブラーピン3のピッチPAよりも小さくすることで、図8(A),(B)に示すように、板鍵300に引抜方向の力が作用していない状態で、凹部34Cに嵌入しているタンブラーピン3と凹部34Cの傾斜面とが当接するようにしておく。この状態から板鍵300に引抜方向の力が作用すると、図8(C),(D)に示すように、凹部34Cに嵌入しているタンブラーピン3が直ちに外側に移動し、ドライブピン4が抜け止めピン6に当接する。この間の板鍵300の引抜方向への移動量は僅かであるため、凹部33A〜33Cに嵌入しているタンブラーピン3のそれぞれは半径方向の外側に殆ど押し出されず、内筒1を板鍵300とともに回転させることができる。
【0055】
以上のように、図7に示すように、凹部34Bと凹部34Cとの間のピッチPBをタンブラーピン3のピッチPAよりも小さくすることで、板鍵300に引抜方向の力が作用した場合にも、板鍵300を介してピンタンブラー錠10′を確実に回転操作することができる。
【0056】
なお、ピッチPAとピッチPBとの差Sは、公差Dと凹部34Cの傾斜面の角θとから
S=PA−PB=D・tanθ
によって求められる。
【0057】
板鍵30′が使用されるピンタンブラー錠10′もピンタンブラー錠10と同様に、セレクタスイッチ、押しボタンスイッチ、安全スイッチ又は制御盤等のピンタンブラー錠付装置に適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0058】
【図1】この発明の実施形態に係るピンタンブラー錠の正面図である。
【図2】上記ピンタンブラー錠の第1の回転位置における側面断面図、及び、第2の回転位置における側面断面図である。
【図3】上記ピンタンブラー錠の背面図である。
【図4】この発明の別の実施形態に係るピンタンブラー錠の正面図である。
【図5】上記ピンタンブラー錠に適用される抜け止め穴及び抜け止めピンの他の例を示す図である。
【図6】この発明の実施形態に係るピンタンブラー錠付装置の一例であるセレクタスイッチの構成を示す側面断面図である。
【図7】この発明のさらに別の実施形態に係るピンタンブラー錠に使用される板鍵の正面図である。この発明の別の実施形態に係るピンタンブラー錠の正面図である。
【図8】同板鍵が使用されるピンタンブラー錠の構成及び動作を示す図である。
【図9】同板鍵に一定ピッチで凹部を形成した場合のピンタンブラー錠の構成及び動作を示す図である。
【符号の説明】
【0059】
1 内筒
2 外筒
3 タンブラーピン
4 ドライブピン
5 コイルバネ(弾性部材)
6 抜け止めピン
7 回転カム
8 操作部材
9 接点部
10 ピンタンブラー錠
11 鍵穴
12A〜12C タンブラー孔
20 セレクタスイッチ
21A〜21C ドライブ孔
22A〜22C ドライブ孔
23 抜け止め孔

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鍵穴に挿入された鍵の形状に応じて半径方向に変位するタンブラーピンを収納した内筒と、
前記内筒を回転自在に支持し、前記内筒の複数の回転位置のそれぞれで前記タンブラーピンに対向して前記タンブラーピンを前記内筒の中心に向けて押圧する複数のドライブピンを収納した外筒と、
前記複数のドライブピンのうち前記複数の回転位置の少なくとも1つの回転位置で前記タンブラーピンに対向するドライブピンの外側への移動を規制するように、前記外筒内に背面側から挿脱自在にされた抜け止めピンと、を備えたことを特徴とするピンタンブラー錠。
【請求項2】
前記外筒は、さらに、前記ドライブピンを前記内筒の中心に向けて付勢する弾性部材を前記ドライブピンと同軸上に備え、
前記抜け止めピンは、前記ドライブピンに接触し、前記弾性部材に接触しない位置に挿入される請求項1に記載のピンタンブラー錠。
【請求項3】
鍵穴に挿入された板鍵の形状に応じて半径方向に変位するタンブラーピンを、前記鍵穴を挟む両側のそれぞれに前記板鍵の挿入方向に沿って一定のピッチで複数ずつ収納した内筒と、
前記内筒を回転自在に支持し、前記内筒の複数の回転位置のそれぞれで前記複数のタンブラーピンのそれぞれに対向して前記複数のタンブラーピンのそれぞれを前記内筒の中心に向けて押圧する複数のドライブピンを収納した外筒と、
前記複数のドライブピンのうち前記複数の回転位置の少なくとも1つの回転位置で前記複数のタンブラーピンのうちの所定のタンブラーピンに対向する所定のドライブピンの外側への移動を規制するように、前記外筒内に背面側から挿脱自在にされた抜け止めピンと、を備え、
前記板鍵は、表面及び裏面のそれぞれに前記複数のタンブラーピンのそれぞれが嵌入する複数の凹部を前記挿入方向に沿って形成し、
前記複数の凹部のうち、前記所定のタンブラーピンが嵌入する所定の凹部以外の凹部を前記一定のピッチで配置し、前記所定の凹部以外の凹部と前記所定の凹部とのピッチを前記一定のピッチよりも小さくしたことを特徴とするピンタンブラー錠。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれかに記載のピンタンブラー錠と、前記内筒の背面側に同軸上に固定され、前記内筒と一体的に回転する回転カムと、前記回転カムの回転に基づいて可動接点の動作を制御する接点部と、を備えたことを特徴とするピンタンブラー錠付装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2008−50928(P2008−50928A)
【公開日】平成20年3月6日(2008.3.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−347696(P2006−347696)
【出願日】平成18年12月25日(2006.12.25)
【出願人】(000000309)IDEC株式会社 (188)
【出願人】(503004404)株式会社ファースト・ロック (7)