説明

ファイバーグレーティングの製造方法及び製造装置

【目的】 紫外線レーザー光を照射して作製するファイバーグレーティングにアポダイゼーションを付与するための新規の作製方法を提供する。
【解決手段】 位相マスクを用いて紫外線レーザー光を対称に2つのビーム束に分岐してそれぞれを対称に配置されたミラーで反射させ、光ファイバーの位置で交差させて干渉させる2光束干渉法装置を用いて、まず1つ目のファイバーグレーティングを形成し、その後、2つのミラーを対称に微小角回転させて、1つ目の上に重ね合せて2つ目のファイバーグレーティングを形成し、2つのファイバーグレーティングの屈折率変調の長手方向の位相がファイバーグレーティング中央部で同じで端部において180度ずれるようにミラー回転角を制御してファイバーグレーティングを形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光ファイバーに、特定の波長の光を反射させる回折格子であるファイバーグレーティングを、紫外線レーザー光を照射して形成する方法およびその装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
光ファイバーに形成したファイバーグレーティング(ファイバーブラッググレーティングともいう)は、光ファイバーのコア部に周期的な屈折率変化を与えたもので、入射した光の特定波長の光のみを反射し、他の光はすべて通過させる光フィルターである。例えば、非特許文献1および非特許文献2に述べられているように、ファイバーグレーティングは伝送損失が少なく、優れた反射特性および透過特性を有しており、光信号を利用する各種デバイス、装置、システムに、例えば、高密度波長多重光通信機器、レーザーダイオード外部共振器、ファイバーレーザー共振器、温度・歪み等の各種センサー等々に、広く応用展開されている。
【0003】
ファイバーグレーティングの反射波長λFBGは、光ファイバーのコア部の実効屈折率neffと屈折率変調の周期、すなわちグレーティング周期Λ、によって、
【0004】
【数1】

【0005】
として決まる。光ファイバーの屈折率をその長手方向に周期的に変化させてグレーティングを形成するには、通常、被覆樹脂を除去した光ファイバーにその長手方向に側面から、グレーティング周期に対応する周期的な強度分布を持たせた紫外線を照射し、光ファイバーのコア部にドープされているゲルマニウム(Ge)の紫外線に対する光誘起反応に基づく屈折率上昇の現象を利用してなされる。形成される屈折率変調の周期Λは、例えば、光ファイバーの実効屈折率neffが約1.447で、光通信によく用いられる波長の約1550nmに対しては、式(1)の関係式から、Λ=0.536μmとなる。良好な光信号の反射特性を得るためにファイバーグレーティングは、通常、この大きさの周期を約5mmから数10mmの長さに渡って形成され、10mm長のファイバーグレーティングではその周期の個数は、10mm/0.536μmとなり、すなわち約1万9千個のグレーティングが形成されている。
【0006】
このようなファイバーグレーティングを形成する方法としては、例えば、非特許文献1および非特許文献2に述べられているように、大きく分けて、位相マスク法と2光束干渉法が知られている。
位相マスク法では、光ファイバーを位相マスクに近接乃至は接触させて配置し、位相マスクを介して光ファイバーに紫外線レーザー光を照射し、位相マスクによって回折される+1次光と−1次光を光ファイバーの位置で干渉させ、周期Λの干渉縞からなる紫外光強度分布を形成し、これによって光ファイバーの長手方向に周期的屈折率変調をそのコア部に誘起させて形成する方法である。
後者の2光束干渉法は、紫外線レーザー光を2つのビームに分岐し、その後、2つのビームを光ファイバーの位置で交差させて干渉させ、周期Λの干渉縞からなる紫外光強度分布を形成し、これによって光ファイバーの長手方向に周期的屈折率変調をそのコア部に形成する方法である。この方法の最も基本的な実現方法は、特許文献1、特許文献2および非特許文献3に開示されており、そこでは入射紫外線レーザー光は、約50%を透過させ残りの約50%を反射させるビームスプリッタ−(ビーム分岐器ともいう)を用いて2つに分岐させ、それぞれのビームはミラーを用いて光ファイバーの位置で交差させる構成でなされる。2光束干渉法は、光ファイバーの位置で2つのビームが交差する角度を変えることで、干渉縞の周期Λを変えることができ、これに比例して式(1)の反射波長λFBGが変わるため、作製されるファイバーグレーティングの反射波長を制御することが容易に可能であると言う特徴を有している。
【0007】
非特許文献4では、位相マスクをビームスプリッタ−(ビーム分岐器ともいう)として用いて紫外線レーザー光を2つのビームに分岐し、2つのミラーでそれぞれのビームを反射させ光ファイバーの位置で交差させて干渉させる構成で、ミラーの角度を変えるだけでファイバーグレーティングの反射波長を約250nmにわたって変えることが可能であることを、透過阻止量が−28dBに達する強いファイバーグレーティングを実験で作製して示している。
【0008】
本発明でいう「紫外線レーザー光を位相マスクへ入射させ、その回折現象を利用して±1次回折光の2つのビーム束に分岐して、入射紫外線レーザー光の該位相マスクへの入射光軸に対して対称に配置された2つのミラーで2つのビーム束をそれぞれ反射させ、前方に配置された光ファイバーの位置において2つのビーム束を交差させ、干渉を誘起させる2光束干渉装置」とは、位相マスクをビーム分岐器として用い、入射紫外線レーザー光をその位相マスクによる回折現象を利用して2つの1次回折光のビーム束に対称に分岐して、入射紫外線レーザーの位相マスクへの入射光軸に対して対称に配置された2つのミラーで2つの分岐したビーム束をそれぞれ反射させ、光ファイバーの位置において交差させ、干渉を誘起させる2光束干渉法に基づきファイバーグレーティングを形成する装置(たとえば図4の構成)を意味する。
【0009】
このようにして光ファイバーに紫外線レーザー光を照射してファイバーグレーティングを形成する場合、非特許文献1および非特許文献2に記載されているように、光ファイバーのコア部に紫外線で誘起される屈折率変調が図1(a)に示すようにファイバーグレーティング長手方向全長に渡って一様なときは反射スペクトルにおいてサイドローブ(側波帯ともいう)が図1(b)のように反射中心波長のとなりに長波長側と短波長側に数多く出て来る。これに対して、屈折率変調の振幅が図1(c)のようにスムーズに上昇して下降する屈折率分布を与えれば、図1(d)のようにサイドローブは大きく抑えられるか、あるいは皆無とすることが可能である。このような屈折率分布を持たせることはアポダイゼーションと呼ばれ、より単一波長に近い良好なスペクトルが得られることが理論的にも知られ、例えば、非特許文献1および非特許文献2に詳述されている。屈折率変調の周期は通常数万個あるが、図1(a)および(c)では理解を容易にするため、その数を少なくして示した。
【0010】
このようなアポダイゼーションを付与したファイバーグレーティングを形成する1つの手法として、まず、紫外線レーザー光の干渉を用いて図2(a)に示すように屈折率変調を光ファイバー長手方向に形成し、次にこの長手方向屈折率変調分布の包絡線と逆の形状を持つ屈折率分布を紫外線レーザー光の干渉なしで図2(b)のように形成して、図2(a)に重畳させることで、図2(c)に示すようなアポダイゼーション付きファイバーグレーティングを形成する方法がある。ここで、図2(a)のグレーティングと図2(b)のバックグラウンドの屈折率分布は、順序は逆に形成してもよく、あるいは同時に形成してもよい。
【0011】
図2(a)に示すような屈折率変調を光ファイバー長手方向に形成するためには、照射する紫外線レーザーに光ファイバー長手方向に強度分布を持たせることが必要である。特許文献3では、位相マスク法で、光ファイバーを位相マスクに近接乃至は接触して配置し、位相マスク側から入射させる紫外線レーザー光を三角形状のスリットを通して照射し、この三角形状のスリットを光ファイバーと直角方向に駆動させて、強度分布を持たせてアポダイゼーションを付与する方法が開示されている。この特許文献3では三角形状のスリットが用いられているが、他の形状のスリットを用いたりあるいはスリットの駆動速度を制御してガウジアン分布やコサイン分布の強度分布を得ることは可能である。また、これらのスリットと同じ形状で、スリットによる光通過とスリットによる光阻止を逆にしたパターンのスリットを作製して、これを介して、位相マスクなしで紫外線レーザー光を光ファイバーに照射すれば、図2(b)のバックグラウンドの屈折率分布を得ることも可能であり、このこともこの特許文献3に開示されている。三角形状スリットと位相マスクを介して紫外線レーザー光を照射して図2(a)の屈折率変調を形成し、次に位相マスクをはずして同一形状三角形で逆パターンのスリットを介して同じ紫外線レーザー光を照射して図2(b)の屈折率を形成してアポダイゼーションを付与した図2(c)のファイバーグレーティングを形成する方法も、この文献に開示されている。
【0012】
特許文献4では、位相マスク法で、光ファイバーを位相マスクに近接乃至は接触して配置し、紫外線レーザー光をビームスプリッタ―で2つに分岐し、一方の紫外線レーザービームに強度分布を持たせて位相マスクの側から照射して、位相マスクによる回折光を干渉させて光ファイバーに干渉縞を形成し、同時に他方の紫外線レーザービームを光ファイバーの側から強度分布を持たせて、位相マスクなしで光ファイバーに照射して、アポダイゼーションを付与したファイバーグレーティングを形成する方法が開示されている。前者の紫外線レーザービームが図2(a)の屈折率分布を、後者の紫外線レーザービームが図2(b)の屈折率分布を形成し、その結果、図2(c)の屈折率分布が得られる構成であり、特許文献3と考え方は同じである。
【0013】
非特許文献5では、位相マスクを用いて入射ビームを対称に2分岐する2光束干渉法のファイバーグレーティング作製装置で、2つのビームが光ファイバーに入射して交差する前に、一方のビームの光路にくさび状光学位相板(ウェッジともいう)を挿入して他方のビームとの間に光路差および光路差の分布を持たせて光ファイバーで交差させる構成とし、まずファイバーグレーティングをくさび状光学位相板の挿入なしで形成し、続けて重ね描きで2つ目のファイバーグレーティングをくさび状光学位相板を挿入して形成し、これら2つのファイバーグレーティングの長手方向屈折率変調周期の位相をファイバーグレーティングの中央部で同じとし端部で逆位相となるようにくさび状光学位相板の断面形状と一方の光路への挿入量を調整して、ファイバーグレーティングの屈折率変調にモアレ干渉をもたせることでアポダイゼーション付与が可能であると述べている。しかしながら、この方法では、反射波長の異なるファイバーグレーティング作製に対しては、くさび状光学位相板の断面におけるくさび角度が異なるので、別のくさび角度のくさび状光学位相板にその都度取り替えなければならない。また、作製するファイバーグレーティングの長さが異なれば、このくさび角も、当然、変えなければならない。さらに、2光束干渉装置の2つのビーム束の一方だけの光路に挿入するため、ファイバーブグレーティングの長手方向にその中央部を中心に対称となるようにくさび状光学位相板の形状とその挿入量を選定しなければならず、これらの調整はきわめて煩雑である。位相マスクを用いて入射ビームを対称に2分岐する2光束干渉法装置の最大の特徴は、その光学部品のすべてが位相マスクへの入射光軸に対して対称に配置されていることでこれによって高い再現性で高精度のファイバーグレーティング製造が可能であるが、この非特許文献5のアポダイゼーション付与方法ではこの対称性をこわしてしまうという大きな欠点があり、高い再現性でのファイバーグレーティング製造が損なわれる可能性がある。
【0014】
【非特許文献1】Raman Kashyap: “Fiber Bragg Gratings Academic Press, (1999).
【非特許文献2】Andreas Othonos, Kyriacos Kalli; “Fiber Bragg Gratings Artech House, Inc., (1999).
【特許文献1】USP-4,725,110; William H. Glenn, Gerald Meltz, Elias Snitzer,“Method for impressing gratings within fiber optics”, February 16, 1988.
【特許文献2】USP-4,807,950; William H. Glenn, Gerald Meltz, Elias Snitzer,“Method for impressing gratings within fiber optics”, February 28, 1989.
【非特許文献3】G. Meltz, W. W. Morey, W. H. Glenn; “Formation of Bragg gratings in optical fibers by a transverse holographic method, Optics Letters, Vol. 14, No. 15, pp. 823-825 (1989).
【非特許文献4】R. Kashyap; “Assesment of tuning the wavelength of chirped and unchirped fibre Bragg grating with single phase mask, Electronic Letters, Vol. 34, No. 21, pp. 2025-2026 (1998). )
【特許文献3】特開2004−29488;村山学、竹田亨、藤田盛行、“ファイバーグレーティングの製造装置及び製造方法”(2004).
【特許文献4】特開2000−66041;今村一雄、中井忠彦、須藤恭秀、“ファイバーグレーティングの作製方法及び作製装置”(2000).
【非特許文献5】H. G. Frohlich, R. Kashyap; “Two methods of apodisation of fibre Bragg grating, Optics Communications, Vol. 157, pp. 273-281 (1998).
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
ファイバーグレーティングにアポダイゼーションを付与するために反射波長の異なる2つのファイバーグレーティングを重ね合せて1つのファイバーグレーティングを形成する手法は、図3に示すように、その理屈はきわめて明瞭でありかつシンプルである。すなわち、まず1つ目のファイバーグレーティング(図3(a)の実線)を形成し、反射波長が若干異なる2つ目のファイバーグレーティング(図3(a)の点線)を続けてその上に重ねて形成し、2つのファイバーグレーティングを重ね合わせた結果として図3(b)に示す屈折率分布が得られるようにできれば、良好なアポダイゼーションが付与されることになる。しかしながら、図3(b)に示すようなアポダイゼーション付き屈折率分布を実現するためには、2つのファイバーグレーティングの屈折率分布が正確に図3(a)のような位相関係になっていなければならない。なお、屈折率変調の周期は、通常、数万個あるが、図では理解を容易にするため、その数を少なくして示した。
【0016】
非特許文献5ではくさび状光学位相板を挿入して図3(b)を実現することが可能であると述べているが、くさび状光学位相板のくさび角度、断面でのくさび長、2光束の一方のビーム束に挿入する量が正確に制御されなければならない。アポダイゼーション付与ができたと主張されているが、ファイバーグレーティングの量産で必須となる再現性に関しては何ら説明がなされていない。さらに、反射波長の異なるファイバーグレーティングの作製に対しては、くさび状光学位相板の断面におけるくさび角度が異なるので、別のくさび角度のくさび状光学位相板に取り替えなければならなくなり、また、作製するファイバーグレーティングの長さが異なれば、このくさび角度とくさび長も変えなければならなくなることが、当然、推定される。従って、くさび状光学板を挿入して図3(b)を実現する非特許文献5に開示されている方法は、指定されたある1つの反射波長で、しかも指定されたある長さのファイバーグレーティングの作製のみに限定されるので、他の異なる反射波長のファイバーグレーティングや他の異なる長さのファイバーグレーティング作製には適していないという大きな欠点がある。
【0017】
図3に示す手法によるアポダイゼーション付与の方法は、きわめて明瞭でかつシンプルであり、大きな効果を発揮できる特徴を潜在的に有している。しかしながら、非特許文献5に開示されているくさび状光学位相板の挿入ではあまりにも制約条件が多く、図3に示す手法によるアポダイゼーション付与の特徴を充分に発現させることは困難である。我々は、非特許文献5に開示されている従来法に替わって、図3のアポダイゼーションの優れた潜在的特徴を発現させる方法を確立することに動機づけをみいだし、新規方法の研究開発を行い本発明に到った。すなわち、本発明の課題は、非特許文献5で述べられている諸制約条件から解放されて、任意の反射波長を有しかつ任意の長さを有するファイバーグレーティングを作製し、2光束干渉法装置の大きな特徴である2つのビーム束の対称性(図4における左右対称性)を維持し、高い精度でファイバーグレーティング作製パラメータを制御し、そして高い再現性をもって、図3(b)に示すアポダイゼーションを付与したファイバーグレーティングを作製する技術を提供し、併せてその量産に貢献できる新しい技術を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明の特徴を定量的に規定するためには、図3の理屈の定式化が必要である。以下にその定式化を述べ、その後に本発明の特徴を説明する。
【0019】
2つのファイバーグレーティングがあって、第1のファイバーグレーティングの長手方向屈折率変調をAとする。図3(a)の実線のように一様な振幅で、ファイバーグレーティング中央部で1の大きさに、端部で0の大きさになっているとすると、
【0020】
【数2】

【0021】
と表され、ファイバーグレーティングの左右両端の端部では、ファイバーグレーティングの長さをLFBG、変調の数をN個とすると、
【0022】
【数3】

【0023】
【数4】

【0024】
となる。第2のファイバーグレーティングの屈折率周期をΛ’とすると、屈折率変調は
【0025】
【数5】

【0026】
と表される。図3では第1と第2のファイバーグレーティングの右端での屈折率周期の位相差がπである場合であり、この位相差を任意の値Δとすると、Δは屈折率周期ΛおよびΛ’との間に
【0027】
【数6】

【0028】
の関係がある。式(5)の第2のファイバーグレーティングの屈折率変調はこの位相差Δを用いて、
【0029】
【数7】

【0030】
と表され、式(1)に関連して説明したように、変調屈折率の周期Λ、Λ’の大きさは約0.5μmで、ファイバーグレーティング長Lは数mmから数10mmであり、従って、Λ/LFBGは10−4乃至はそれ以下である。Δの大きさはπと同じオーダーであり、従って、式(7)の引数の括弧内の第2項は微小量である。すなわち、
【0031】
【数8】

【0032】
である。変調屈折率の周期がΛおよびΛ’の2つのファイバーグレーティングを重ねて得られるファイバーグレーティングの屈折率変調A
【0033】
【数9】

【0034】
と表され、これは三角関数の公式を用いて
【0035】
【数10】

【0036】
と書き直すことができる。2つの変調屈折率周期が近接している我々の課題に対して、これを式(2)と式(7)に適用すると、
【0037】
【数11】

【0038】
【数12】

【0039】
【数13】

【0040】
【数14】

【0041】
となるから、重ねて得られるファイバーグレーティングの振幅変調は
【0042】
【数15】

【0043】
と書き直すことができる。右辺後半のcos(2πy/Λ)が屈折率変調で、右辺前半のcos(Δ/LFBG・y)が屈折率変調の振幅の分布、すなわちアポダイゼーションの形状を表している。式(1)に関連して述べたように屈折率変調の周期の数Nはおおよそ数千乃至数万あるが、図3では理解を容易にするため十数個で示した。式(15)で表される2つのファイバーグレーティングの端部での屈折率変調の位相差Δがπの場合、中央部で強めあい、端部で打ち消しあって、その結果得られる重ね合わせたファイバーグレーティングは図3(b)に示すように、図1(c)に示す理想的なアポダイゼーションに近いコサイン型アポダイゼーションが付与されることになり、反射スペクトルのサイドローブは図1(d)のように抑制することが可能となる。
【0044】
2つのファイバーグレーティングの位相が、中央部で同じであり、端部で位相差がΔの場合、屈折率周期の差(Λ’−Λ)および反射波長の差δλ=(λFBG’−λFBG)は
【0045】
【数16】

【0046】
【数17】

【0047】
となる。ここでneffは式(1)で述べた光ファイバーの実効屈折率である。
【0048】
しかしながら、この理論に基づいて図3(b)に示すような良好なアポダイゼーションの付与を実現するには、ファイバーグレーティング作製方法において3つの条件が満足されなければならない。最初の条件は、「重ね合わせる2つのファイバーグレーティングの屈折率変調の位相差Δは、ファイバーグレーティングの長手方向中央部でゼロ、すなわち同位相であること」(条件1)であり、次に「この位相差Δは、ファイバーグレーティング端部へ向けて徐々に増え、端部でπの大きさ、すなわち、逆位相であること」(条件2)、そして3つ目が「重ね合わせる2つのファイバーグレーティングの屈折率変調の振幅が同じであること」(条件3)の3つの条件がすべて満足されなければ図3(b)の良好なアポダイゼーションは得られない。
【0049】
次に、位相マスクを用いて入射ビームを対称に2分岐する2光束干渉法装置を用いて、この干渉縞ピッチ制御によるアポダイゼーションを付与する方法の理屈を述べる。紫外線レーザー光を、回折格子周期がpである位相マスクに入射させると図4の位相マスク1の下に示すように角度θで+1次光と−1次光が左右対称に出射される。紫外線レーザー光の波長をλUVとすれば、角度θは
【0050】
【数18】

【0051】
である。2つのビーム束が2つのミラーでそれぞれ反射して、図4のように光ファイバーに角度βで入射するとき干渉縞の周期Λは
【0052】
【数19】

【0053】
の関係式で決まる。2つのミラーの互いに平行(すなわち位相マスクへの入射紫外線レーザー光の光軸と平行)な位置からの回転角度をαとすると、作製されるファイバーグレーティングの反射波長λFBGは、入射角βは図4から分かるようにβ=θ−2αであるから、式(1)および式(19)を用いて
【0054】
【数20】

【0055】
となる。2つのミラーの回転角度αを、微小角εだけ追加して回転させて(α+ε)へ回転させて得られる反射波長λFBG'および波長の差δλFBG=(λFBG−λFBG')は、ε<<α、|θ−2α|であることを用いて、
【0056】
【数21】

【0057】
【数22】

【0058】
式(18)乃至式(20)が2光束干渉法装置における条件である。式(22)と式(17)から、重ね合わせる2つのファイバーグレーティングの端部での位相差Δと、2つのミラーの微小回転角εとの関係式が得られる。
【0059】
【数23】

【0060】
重ね合わせる2つのファイバーグレーティングの端部での位相差Δがπのときは次式が得られる。
【0061】
【数24】

【0062】
以上は、反射波長がわずかに異なる2つのファイバーグレーティングを重ね合わせることによってアポダイゼーションを付与することができる理屈を定式化したものであるが、これは反射波長がわずかに少しずつ異なる複数のファイバーグレーティングをN個(Nは偶数)重ね合わせることによっても可能である。すなわち、反射波長がわずかに異なる2つのファイバーグレーティングをペアとして重ね合わせ、さらに反射波長がわずかに異なる2つのファイバーグレーティングを別のペアとして重ね合わせて形成すればよい。2つのペア(N=4、すなわち合計4つのファイバーグレーティング)に対する場合の理屈を図9に示す。図では図3と同様に、理解を容易にするため周期の数は少なくして示した。図9(a)および(b)に示すように、ペアとなる2つのそれぞれのファイバーグレーティングの長手方向屈折率分布変調は振幅が同じでその中央部で強め合いそしてその端部で互いに打ち消し合っているためアポダイゼーションが付与されたファイバーグレーティングを構成し、このペアを複数個(図9はペア2個(N=4)に対する場合である。)重ね合わせれば、良好なファイバーグレーティングを形成することが可能である。
ペアの数は任意であるが、ペアの中のそれぞれのファイバーグレーティングの長手方向屈折率変調の位相は、図10に示すように、互いにその端部でπだけ異なって打ち消しあっていることが必要である。図10(a)はペア1個(合計2個のファイバーグレーティング)で、(b)はペア2個(合計4個のファイバーグレーティング)で、図(c)はペアがN/2個(合計N個のファイバーグレーティング)の場合に対するファイバーグレーティング端部での屈折率変調位相差の関係を極座標で示した図である。ペアの数は任意で、この数を極度に多く取れば2つのミラーの微小角度回転を連続して行うことと等価になる。
【0063】
以上の本発明の定式化を踏まえて、本発明の特徴を次に述べる。
【0064】
本発明の第1の特徴は、紫外線レーザー光を照射して、光ファイバー長手方向の屈折率変調振幅にアポダイゼーションを付与したファイバーグレーティングを作製する方法及びその製造装置において、
(i)位相マスクを用いて入射ビームを対称に2分岐する2光束干渉装置を用いて、
(ii)光ファイバーを、その長手方向において入射紫外線レーザー光軸が作製されるファイバーグレーティングの中央となるように配置して、
(iii)紫外線レーザー光を照射して1つのファイバーグレーティングを形成し、
(iv)その後に続けて、光ファイバーは動かさずにそのまま保持した状態で、2光束干渉装置の2つのミラーを入射紫外線レーザー光軸に対して互いに対称に回転させ、
(v)1つ目のファイバーグレーティングの上に重ねて同じパワーの紫外線レーザー光を略同一時間連続して照射する
手段を有し、これらの手段によって、
(a)屈折率変調周期がわずかに異なる2つのファイバーグレーティングが重ね描きして形成され、
(b)2つのファイバーグレーティングの屈折率変調の長手方向位相がファイバーグレーティングの中央部で同位相であり、かつ端部で逆位相とすることにより、
これらの2つのファイバーグレーティングの重ね合わせによって、アポダイゼーションが付与される制御が可能である。
【0065】
本発明の第2の特徴は、ファイバーグレーティングの所望の長さLおよび反射波長λFBG、用いる位相マスクの1次光回折角θ、および2つのミラーの平行からの回転角度αを用いて式(24)で規定される微小回転角ε0を求めて、2つ目のファイバーグレーティング形成のときにこの微小回転角ε0を2つのミラーに対称に与えれば、図3(b)に図示するアポダイゼーションが得られる。ここでミラーを微小回転角ε0だけ回転する方向は、2つのミラーで対称であれば増やす方向でも減らす方向でもよい。
【0066】
本発明の第3の特徴は、上述第2の特徴に記載するミラー微小回転角度εが、式(24)で規定する大きさの角度ε0を用いて、
【0067】
【数25】

【0068】
の範囲にあることである。この範囲については、我々の実験結果である実施例2に基づくもので、この式は実施例2に記載する式(29)と同じである。
【0069】
本発明の第4の特徴は、上述第2の特徴に記載するファイバーグレーティングの所望の長さLFBGを用いて式(24)で規定する大きさの角度ε0回転させる場合において、ファイバーグレーティング長を0.75×LFBG以上でかつ1.25×LFBG以下の範囲内の大きさに設定することである。この範囲は、我々の実験結果である実施例2で求めた式(28)に基づくものである。
【0070】
本発明の第5の特徴は、上述第3および第4の特徴を、視点を変えてファイバーグレーティング反射波長の観点に立って等価的に規定したものであり、2つのファイバーグレーティングの反射波長がきわめて近接しており、その差Δλの大きさが次式の範囲内にあることである。
【0071】
【数26】

この式の導出の根拠は上述理論定式化における式(17)に基づくものであり、その範囲を、我々の実験結果である実施例2で求めた式(30)に基づくものである。
【0072】
本発明の第6の特徴は、上述第1の特徴における光ファイバーの配置位置について、入射紫外線レーザー光軸からのファイバーグレーティングの長手方向中央部のズレ量の大きさsがファイバーグレーティング長LFBGの1/5以下であるとするもので、この許容範囲は我々の実験の実施例3の結果である式(31)に基づくものである。
【0073】
本発明の第7の特徴によれば、上述第1の特徴における2つ目ファイバーグレーティング形成のための紫外線レーザー光照射時間T2と1つ目ファイバーグレーティング形成のための紫外線レーザー光照射時間T1の間に次式が成り立つようにそれぞれの照射時間T1およびT2を決めれば、良好なアポダイゼーションを付与したファイバーグレーティングが作製できる。この許容範囲は、我々の実験の実施例4の結果である式(32)に基づくものである。
【0074】
【数27】

【0075】
本発明の第8の特徴によれば、2つのミラーの回転を2段階として近接して反射波長の異なる2つのファイバーグレーティングを重ね合わせて形成する第1の特徴の工程を、多段階のミラー回転として近接して反射波長の異なる多数のファイバーグレーティングを重ね合わせることで、良好なアポダイゼーションを付与したファイバーグレーティングを作製することができる。反射波長がわずかに異なる2つのファイバーグレーティングをペアとして重ね合わせ、さらに反射波長がわずかに異なる2つのファイバーグレーティングを別のペアとして重ね合わせて形成すればよい。図9は、2つのファイバーグレーティングからなるペアを2つ、すなわち合計4つのファイバーグレーティングを重ね合わせた場合で、ペアの数は任意にできる。ペアの数は極度に多く取れば2つのミラーの微小角度回転を連続して行うことと等価になり、2つのミラーの微小角度回転は一定の回転速度で連続して行ってもよい。
【発明の効果】
【0076】
本発明の方法で、位相マスクを用いて入射ビームを対称に2分岐する2光束干渉法装置を用いてファイバーグレーティング作製を行えば、2つのビーム束の一方にのみくさび状光学位相板を挿入する等の従来法における多くの制約条件から解放されて、長さの異なるファイバーグレーティングや、反射波長の異なるファイバーグレーティング等を式(24)で規定される微小角度だけ2つのミラーを対称に回転することで、コサイン型アポダイゼーションを付与してサイドローブを大きく抑制したファイバーグレーティングを得ることができる。2光束干渉法装置に、従来法のようにくさび状光学位相板等の光学部品を新たに追加するわけではなく、すでに回転機構を有する2つのミラーに微小角の回転を与えるだけであるため、部品点数を増やすことなく、優れたアポダイゼーション付与を実現できる大きな効果が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0077】
本発明を実施するための最良の形態は、位相マスクを用いて入射ビームを対称に2分岐する2光束干渉法装置を用いて、ファイバーグレーティングの長手方向の位置が入射紫外線レーザー光軸で中央となるように配置し、紫外線レーザー光を照射して1つのファイバーグレーティングを形成し、その後、続けて2光束干渉法装置の2つのミラーを入射紫外線レーザー光軸に対して互いに対称に式(23)でΔ=πと置いて規定される大きさの角度εだけ回転させてから、1つ目のファイバーグレーティングの上に重ねてほぼ同じ時間同じパワーの紫外線レーザー光を連続して照射し、2つ目のファイバーグレーティングを形成することで実現できる。
【実施例1】
【0078】
我々の2光束干渉法装置を用いて本発明のアポダイゼーション付与ファイバーグレーティング作製実験を行った。2光束干渉法装置を図4に示す。位相マスク1に直角に入射する紫外線レーザー光5は、位相マスク1でその回折現象によって左右に角度θで対称に2つのビーム束に分岐され、それぞれのビーム束は左右に対称に配置されたミラー2で反射され、光ファイバー4の位置で交差し、2つのビーム束の干渉で干渉縞ができ、この干渉縞のパターンが光ファイバーに刻印されファイバーグレーティングが形成される。用いた紫外線レーザーは、波長λUVが248nmのKrFエキシマレーザー(ラムダフィジックス社製Compex−102MJ、不安定共振器付き)である。位相マスクは、StockerYale社製のLasiris位相マスク(回折格子ピリオドp=1071.29nm)である。位相マスクへの入射エキシマレーザー光は、位相マスクの前で、焦点距離451.9mmのシリンドリカルレンズ(図示せず)で絞り、さらにスリット6の開口幅を調整し光ファイバーの長手方向に整形して作製するファイバーグレーティングの長さを設定した。本実施例ではファイバーグレーティング長は5.5mmとした。位相マスク1と光ファイバー4の間隔LMFは300.3mmに、位相マスク1とミラー回転軸3の距離uは308.7mmに、2つのミラー回転軸間隔の半値sは35.74mmとした。これらの光学構成部品はすべて入射光5の光軸に対して対称に配置した。本実施例におけるミラー回転角αは略ゼロ度に、すなわち左右のミラーは平行となるように設定した。使用した光ファイバーには標準シングルモードファイバーSMF28を用い、エキシマレーザー光に対する感光性を高めるために、実験に先立って、100気圧の水素ガス雰囲気に室温で10日間保持し、水素ローディング処理を施した。エキシマレーザー出力は、1パルスあたりのエネルギーは30mJで、パルスくり返し周波数20Hzとした。ファイバーグレーティングの反射および透過スペクトルは、光ファイバーにASE光源(ファイバーラボ社製ASE−FL7004光源)の光を入れ、2台のスペクトラムアナライザー(アドバンテスト社製Q8384)でそれぞれ測定した。本実施例では2つのミラーは互いに平行であるため、作製されるファイバーグレーティングの反射波長は、式(1)で位相マスクのピリオドからΛ=p/2=1071.29nm/2とし、SMF28ファイバーの実効屈折率neff=1.447から、λFBG=1550.1nmと予測される。
【0079】
最良の実施形態は、2光束干渉装置で、まず1つのファイバーグレーティングを形成し、その後、続けて2つのミラーを入射紫外線レーザー光軸に対して互いに対称に式(23)でΔ=πと置いたときの角度εだけ回転させてから、2つ目のファイバーグレーティングを重ね描きで形成することで実現できる。位相マスクの1次回折角θは、式(18)からλUV=248nm、p=1071.29nmを用いて、θ=13.385度となる。ミラー回転角αは設定のゼロと置き、ファイバーグレーティング長L=5.5mmとして、式(23)で予測されるミラーの回転角度は、0.000664度となる。実験ではこの回転角度を0.00066度とし、エキシマレーザー光照射時間は1つ目のファイバーグレーティングに対して15秒間、2つ目のファイバーグレーティングに対して17秒間とした。その結果得られたファイバーグレーティングの反射スペクトルを図5(b)に太線データで示す。比較のため、ミラー回転を行わず同じ照射時間(15+17=32秒間)照射して作製したアポダイゼーション付与なしのファイバーグレーティング反射スペクトルを同図(図5(b))に細線で示す。アポダイゼーションなしで見られる多くのサイドローブ(側波体ともいう)は、アポダイゼーションを施した場合大きく抑制されていることが明瞭に分かる。本発明の方法の有効性がきわめて効果的であることが証明できた。
なお、反射中心における透過阻止量は、アポダイゼーション付与なしの場合、−2.9dBで、アポダイゼーション付与ありの場合、−1.3dBであった。アポダイゼーションありで透過阻止量の大きさが小さくなったのは、ファイバーグレーティング端部で2つのファイバーグレーティングの重ね描きで長手方向の屈折率変調が打ち消し合い、長手方向累積値が実効的に減ったためである。
【0080】
図5(a)はコンピューターシミュレーションの結果である。シミュレーションには、信頼性の優れている“IFO_grating”コンピューターソフトウェアー(Optiwave Corporation社)を用いた。このソフトウェアーでは、光ファイバーのコア部およびクラッド部の屈折率分布を与え、コア部に屈折率変調のグレーティングの周期Λとその長さおよび屈折率の変調成分と非変調成分をインプットして、このグレーティングに光が入ったときの反射および透過のスペクトルが計算される。アポダイゼーションに関しては、光ファイバー長手方向の屈折率変調振幅の分布に所望の依存性を持たせて入力できる。シミュレーションのための入力パラメータは、光ファイバーの屈折率分布は、実験で用いたSMF28シングルモードファイバーに合わせて、コア径8.14μm、クラッド径125μm、コア屈折率1.44955、クラッド屈折率1.4443のステップインデクス型とした。実効屈折率neffは1.447である。ファイバーグレーティングの周期Λは535.65nmとし、その長さは実験に合わせて5.5mmとし、アポダイゼーションの強度分布は式(15)のコサイン分布を持たせ、反射および透過のスペクトルを計算した。屈折率変調振幅の大きさはアポダイゼーションなしに対して反射率の実験値を参照値とし、Δn=0.0001として計算した。図5(b)の実験に合わせてシミュレーションしたこの結果を図5(a)に示す。図中の塗りつぶし挿絵は、長手方向のアポダイゼーション振幅の分布である。シミュレーション結果は実験結果と良好に対応しており、サイドローブ抑制の効果はハッキリと見て取れる。
【0081】
本実施例によって、本発明のアポダイゼーション付与方法の効果がきわめて大きいことが、理論的にも強く支持されて、明確に実証された。
【実施例2】
【0082】
本実施例では、実施例1の図5(b)の実験条件に対して、ファイバーグレーティング長を変えて、アポダイゼーション付与の効果のファイバーグレーティング長に対する依存性を実験で調べた。ファイバーグレーティング長は、図4のスリット6を左右へその開口幅を中心対称に広げたり狭めたりして変化させた。アポダイゼーション付与のための2つのミラーの回転条件は実施例1と同じにした。光ファイバーの位置での干渉縞のパターンは5.5mm長で半周期のコサイン型である。図6(a)はL=4mmからL=11mmまで変化させて測定した反射スペクトルで、図6(b)はそれぞれの実験条件に対応するシミュレーション計算結果のスペクトルである。1つ目と2つ目のファイバーグレーティング形成のためのエキシマレーザー光照射時間は、それぞれ15秒間と25秒間とした。図中の塗りつぶし挿絵は、長手方向のアポダイゼーション振幅の分布である。
【0083】
ファイバーグレーティングの端部で2つのファイバーグレーティングの屈折率周期の位相差Δがπのときで、L0=5.5mmのとき最適のアポダイゼーションが期待される。図6(a)の実験結果と図6(b)のシミュレーション計算結果から分かるように、期待されるファイバーグレーティング長L0=5.5mmよりも短いLmin=4mmでも、最適値ではないが、アポダイゼーションの効果は充分に見られる。また、長い方でもLmax=7mmでも見られる。しかし、最も良好にサイドローブが抑制されているのはL0=5.5mmのときである。この実験からファイバーグレーティング長は最適値から少々ずれていてもアポダイゼーションは得られ、本実施例で確認したその範囲は
【0084】
【数28】

【0085】
にあればよいことが分かる。なお、L=11mmにおいては、得られたスペクトルのピークは2つに分裂しており、これは2つのファイバーグレーティングの反射波長が異なりすぎているため、2つのスペクトルを単に重ねた状態に近づいていることを意味している。
【0086】
この実験ではミラーの回転角度を一定にしてスリットの開口幅を変えてファイバーグレーティング長依存性を見たが、前述の理論から分かるように、この実験はファイバーグレーティング長を一定としてミラーの回転角度を変えた場合と内容的には等価である。ファイバーグレーティング長をL0に固定し、ミラー回転角度εを式(23)で規定される角度ε0から変えた場合、同式を用いて式(28)を書き直せば、
【0087】
【数29】

【0088】
がミラー回転角度εの許容範囲となる。
【0089】
このミラー回転角度εの許容範囲は、重ね合わせる2つのファイバーグレーティングの反射波長の差Δλで等価的に表現することもできる。すなわち、式(23)を用いて、
【0090】
【数30】

と表すことができる。
【実施例3】
【0091】
2つのファイバーグレーティングを重ね合わせてコサイン型アポダイゼーションを付与するには、2つのミラーを対称に回転させる場合、実施例1で示したように、ファイバーグレーティングの長手方向の中央部の位置が入射紫外線レーザー光の光軸延長線上にあることが必要である。実施例2と同じように、この位置も、厳密に入射紫外線レーザー光の光軸延長線上になければならないわけでなく、許容範囲が考えられる。
【0092】
本実施例実験では、図4のスリット6(開口は5.5mm長)を左右にシフトさせてその影響を見た。その結果を図7に示す。sは、ファイバーグレーティングの長手方向の中央部の位置の、入射紫外線レーザー光の光軸延長線からのズレ量で、これをファイバーグレーティング長Lで規格化したのがs/Lである。実験ではs=0とs=2.75mmの2点しか押さえていないので、その間のスペクトルはコンピュータシミュレーションで補完して求めた。スリット6がなければ、光ファイバーの位置での2つのビーム束の干渉縞の振幅は、入射紫外線レーザー光の光軸延長線を中央にして対称に位相マスクの回折格子幅にわたってコサイン型を繰り返している。スリット6でそのうちの5.5mm長を図7(b)の挿絵のように切り出した屈折率変調分布が得られている。図6(b)はコンピュータシミュレーションによる反射スペクトルで、図6(a)は実測した反射スペクトルである。s/L=1/2の場合、反射スペクトルピークは2つにスプリットしており、シミュレーション結果も忠実にこの様子を再現している。シミュレーション結果はこのように信頼性が高いので、s/L=0とs/L=1/4の間はシミュレーション結果で補完した。図7(b)の結果から、アポダイゼーション効果の最適値はs/L=0で得られるが、s/Lの値は次式の範囲内にあれば充分に効果があることが分かる。
【0093】
【数31】

【実施例4】
【0094】
本発明の理論の定式化で書いたように重ね描きする2つのファイバーグレーティングの屈折率変調の振幅は同じであることが必要である。この振幅は、紫外線レーザー光の照射時間に比例することが予測される。1つ目と2つ目のファイバーグレーティング形成のためのエキシマレーザー光照射時間は、実施例1の実験では、それぞれ15秒間と17秒間とし、実施例2の実験では、それぞれ15秒間と25秒間とした。本実施例では、1つ目のファイバーグレーティング形成のためのエキシマレーザー光照射時間を15秒間として、2つ目の照射時間を0秒間から35秒間まで変える実験を行った。他の実験条件は実施例1と同じである。この結果を図8に示す。1つ目と2つ目のエキシマレーザー光照射時間をそれぞれT1およびT2とすると、サイドローブが最も効率よく抑制されているのはT2=15秒間乃至17秒間である。2つ目の照射時間T2が1つ目の照射時間Tより同じか少し長いということは、屈折率変調振幅は照射時間に対しておおよそ線形的に増えていくが、描き込み時間が長くなると描き込み効率が若干低下することを意味している。実験で確認された図8のスペクトルデータから、照射時間は最適の時間から少しずれていてもT2=10秒間乃至25秒間であればアポダイゼーション付与は良好に効いていることが分かる。この結果を数式化すると次式のようになる。
【0095】
【数32】

【実施例5】
【0096】
本発明の第8の特徴を実証するために、2つのミラーの微小角度回転を連続して行い、良好なアポダイゼーションを得ることができた実験結果について述べる。
本実施例の実験条件は、2つのミラー微小角度連続回転とエキシマ紫外線レーザー光照射時間に関する条件以外はすべて実施例1と同じである。2つのミラー回転角度を0.00066度だけ1分30秒かけて一定速度で回転させ、この1分30秒間の時間、エキシマ紫外線レーザー光を照射して、アポダイゼーションを付与したファイバーグレーティングの反射スペクトルを図11に太線で示す。この場合、透過阻止量は−12dBであった。この実験結果におけるアポダイゼーション付与の効果を見るため、2つのミラーを回転させず固定させてアポダイゼーションを付与しないで作製したファイバーグレーティングの反射スペクトルを同じ図11に細線で示す。エキシマ紫外線レーザー光照射時間は同じ1分30秒間である。この場合の透過阻止量は−24dBであった。
図の太線のデータ(アポダイゼーションあり)と細線(アポダイゼーションなし)のスペクトルを比較すれば、サイドローブが極めて顕著に明瞭に抑制されていることが分かる。アポダイゼーションなしの場合のサイドローブは短波長側で−7dBであるが、本発明の方法によるアポダイゼーションありでは長波長側で−22dBまで、−15dB抑制されている。このdB量は割合に換算すれば、10−15dB/10=3.2%となり、本発明の効果が極めて有効であることを示している。
【産業上の利用可能性】
【0097】
本発明の方法でファイバーグレーティングを作製すれば、その反射スペクトルにおけるサイドローブを大きく抑制して、ファイバーグレーティングが潜在的に有する優れた反射特性および透過特性を充分に発現させることができ、光信号を利用する各種デバイス、装置、システムに、例えば、高密度波長多重光通信機器、レーザーダイオード外部共振器、ファイバーレーザー共振器、温度・歪み等の各種センサー等々に広く応用され、重要な役割を果たすことができる。
【図面の簡単な説明】
【0098】
【図1】アポダイゼーションの原理について説明する図である。(a)および(c)は光ファイバー長手方向の屈折率分布で、(b)および(d)はファイバーグレーティングの反射スペクトルである。(a)および(b)はアポダイゼーションなしで、(c)および(d)はアポダイゼーションありのファイバーグレーティングに対するものである。
【図2】アポダイゼーションを付与する従来法の手順の一例である。
【図3】長手方向屈折率分布が(a)に示す点線と実線の2つのファイバーグレーティングを重ね合せて(b)に示すアポダイゼーション付与を得る方法を示す図である。
【図4】本発明の方法を実現する2光束干渉法ファイバーグレーティング作製装置の図である。本発明の実施例の実験に用いた2光束干渉法作製装置の平面図でもある。
【図5】本発明の方法で作製したファイバーグレーティングの反射スペクトル(b)とコンピュータシミュレーションで得られた反射スペクトル(a)である。図には、比較のため、アポダイゼーションありとなしを重ねて示す。実施例1で詳細に説明する。
【図6】本発明の方法で作製したファイバーグレーティングの反射スペクトル(a)とコンピュータシミュレーションで得られた反射スペクトル(b)で、この場合は2つのミラーの微小回転角度を一定にしてファイバーグレーティング長を変化させたスペクトルデータである。実施例2で詳細に説明する。
【図7】本発明の方法で作製したファイバーグレーティングの反射スペクトル(a)とコンピュータシミュレーションで得られた反射スペクトル(b)で、この場合はファイバーグレーティングの長手方向中央部を入射エキシマレーザー光軸からずらした実験の結果である。実施例3で詳細に説明する。
【図8】本発明の方法で作製したファイバーグレーティングの反射スペクトルで、1つ目のファイバーグレーティング作製のためのエキシマレーザー光照射時間を15秒間に固定し2つ目のファイバーグレーティング作製のためのエキシマレーザー光照射時間を変化させた結果である。実施例4で詳細に説明する。
【図9】2つのファイバーグレーティングを重ね合わせてアポダイゼーションを付与させる図3の方法に対して、さらに別の2つをファイバーグレーティングを、すなわちペアを2つ、合計4つのファイバーグレーティングを重ね合わせてアポダイゼーション付与を得る方法を示す図である。
【図10】重ね合わせて形成する2つのファイバーグレーティングのペアの数を増やした場合のファイバーグレーティングの端部における屈折率変調の位相差を極座標で示した図である。(a)は1と2で1つのペアを構成し、(b)は1と3で1つのペアを、2と4で別のペアを構成し、(c)は同じようにしてN/2個のペアに対する構成である。本発明の第8の特徴の説明で詳述する。
【図11】2つのミラーの微小角度回転を一定速度で行ってアポダイゼーションを付与したファイバーグレーティングの反射スペクトル(太線)とミラーを固定させてアポダイゼーションなしで作製したファイバーグレーティングの反射スペクトル(細線)を示す図である。実施例5で説明する。
【符号の説明】
【0099】
1 位相マスク
2 ミラー
3 ミラー回転軸
4 光ファイバー
5 紫外線レーザー光
6 スリット


【特許請求の範囲】
【請求項1】
紫外線レーザー光を照射して、光ファイバー長手方向の屈折率変調振幅にアポダイゼーションを付与したファイバーグレーティングを作製する方法及びその製造装置において、
紫外線レーザー光を位相マスクへ入射させ、その回折現象を利用して±1次回折光の2つのビーム束に分岐して、入射紫外線レーザー光の該位相マスクへの入射光軸に対して対称に配置された2つのミラーで2つのビーム束をそれぞれ反射させ、前方に配置された光ファイバーの位置において2つのビーム束を交差させ、干渉を誘起させる2光束干渉装置を用い、
紫外線レーザー光を、ファイバーグレーティング作製に必要な通常の照射時間の半分の時間照射した後、
2つのミラーを互いに対称に等量の微小角度回転させる制御を施し、
ファイバーグレーティングの両終端において最初のファイバーグレーティングとは逆位相となる2つ目のファイバーグレーティングを、残り半分の時間、同じ位置に、同じ長さにわたって、同一パワーの紫外線レーザー光を連続して照射して、
近接して異なる反射波長の2つのファイバーグレーティングを重ねて形成する
ことによりアポダイゼーションを付与することを特徴とするファイバーグレーティングの製造方法、
及びこの製造方法を具備してなる2光束干渉法ファイバーグレーティング製造装置。
【請求項2】
請求項1記載の2つのミラーの回転において、入射紫外線レーザー光軸に対して互いに対称に次式で指定される大きさの角度ε0と略同一の大きさの角度εだけ回転させ、
1つ目のファイバーグレーティングの上に重ねて、略同一時間、同じパワーの紫外線レーザー光を照射し、2つ目のファイバーグレーティングを形成する
ことによりアポダイゼーションを付与することを特徴とするファイバーグレーティングの製造方法、
及びこの製造方法を具備してなる2光束干渉法ファイバーグレーティング製造装置。
【数1】

ここでλFBGはファイバーグレーティングの反射波長で、neffは光ファイバーの実効屈折率で、LFBGはファイバーグレーティングの長さで、θは2光束干渉法装置における位相マスクの1次光回折角度で、αは2光束干渉装置における2つのミラーの入射光軸から互いに対称に回転する角度である。
【請求項3】
請求項2記載の回転角度εが、同項に規定する大きさの角度ε0を用いて、0.75×ε0以上で、かつ1.25×ε0以下の範囲内の大きさである
ことによりアポダイゼーションを付与することを特徴とするファイバーグレーティングの製造方法、
及びこの製造方法を具備してなる2光束干渉法ファイバーグレーティング製造装置。
【請求項4】
請求項2記載のファイバーグレーティング長を所望の長さLFBGとし、2つのミラーを対称に同項で規定する回転角度ε0回転させ、ファイバーグレーティング長が0.75×LFBG以上で、かつ1.25×LFBG以下の範囲内の大きさである
ことによりアポダイゼーションを付与することを特徴とするファイバーグレーティングの製造方法、
及びこの製造方法を具備してなる2光束干渉法ファイバーグレーティング製造装置。
【請求項5】
請求項1記載の、2つのファイバーグレーティングの反射波長がきわめて近接しており、その差Δλの大きさが次式の範囲内にある
ことによりアポダイゼーションを付与することを特徴とするファイバーグレーティングの製造方法、
及びこの製造方法を具備してなる2光束干渉法ファイバーグレーティング製造装置。
【数2】

【請求項6】
請求項1記載の光ファイバーの配置位置において、入射紫外線レーザー光軸からのファイバーグレーティングの長手方向中央部のズレ量の大きさsがファイバーグレーティング長LFBGの1/5以下である
ことによりアポダイゼーションを付与することを特徴とするファイバーグレーティングの製造方法、
及びこの製造方法を具備してなる2光束干渉法ファイバーグレーティング製造装置。
【請求項7】
請求項1記載の、2つ目のファイバーグレーティング形成のための紫外線レーザー光照射時間T2と1つ目ファイバーグレーティング形成のための紫外線レーザー光照射時間T1の間に次式の関係が成り立つ
ことによりアポダイゼーションを付与することを特徴とするファイバーグレーティングの製造方法、
及びこの製造方法を具備してなる2光束干渉法ファイバーグレーティング製造装置。
【数3】

【請求項8】
請求項1記載の、2つのミラーを互いに対称に等量の微小角度回転させる制御において、
該ミラー回転の回数を(N−1)回とし、
近接して異なる反射波長のN個(Nは整数で、かつ、2の倍数)のファイバーグレーティングを重ねて形成せしめ、
N個のファイバーグレーティングは両終端における位相ズレの総和が、両終端においてそれぞれ略ゼロとなるように(N−1)回の微小角度回転を施し、
それぞれのファイバーグレーティングには、ファイバーグレーティング作製に必要な通常の照射時間の1/Nの照射時間、同じ位置に、同じ長さにわたって、同一パワーの紫外線レーザー光を照射して、
近接して異なる反射波長のN個のファイバーグレーティングを重ねて形成する
ことによりアポダイゼーションを付与することを特徴とするファイバーグレーティングの製造方法、
及びこの製造方法を具備してなる2光束干渉法ファイバーグレーティング製造装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2007−114538(P2007−114538A)
【公開日】平成19年5月10日(2007.5.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−306602(P2005−306602)
【出願日】平成17年10月21日(2005.10.21)
【出願人】(502012705)伸興電線株式会社 (5)
【出願人】(592167411)香川県 (40)
【Fターム(参考)】