説明

フィブリノーゲンの新規な使用

【課題】激しい出血の処置および予防に用いられる医薬の製造でのフィブリノーゲンの使用。
【解決手段】上記医薬は、フィブリノーゲンの一回の投与量が少なくとも4.5gである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、産褥出血、外傷および外科(手術中)等での激しい出血を含む激しい出血(hemorrage aigue severe)の処置の分野に関するものである。
【背景技術】
【0002】
激しい出血(severe acute haemorrhages、SHA)は患者の血液容量の少なくとも20〜30%が数時間で急速に失われることと定義される。SHAは主として産科(基本的に産褥出血)、外傷および外科で起こるが、これらの状況に限定されるものではない。
【0003】
凝固障害(凝固障害)はSHA状況下でたびたび起こり、直接または間接的に出血とリンクする。凝血因子の中で先ず最初に血漿フィブリノーゲンのレベルが低下し、危険な値に到達する(非特許文献1参照)。この境界値は0.5〜1g/lで、これは安定な非出血性(non-haemorrhagic)状況で満足な血液凝固が得られない濃度に対応する。フィブリノーゲンレベルの低下に関するメカニズムは(1)直接的なロス、(2)容積交代溶液の希釈および(3)凝血形成用フィブリノーゲンの消費。
【0004】
フィブリノーゲンが血中濃度の低下の最初の凝血因子であるという事実の他に、フィブリノーゲンレベルの低下は臨床予後ファクタの低下であり、この低下はフィブリノーゲン濃度の低下を伴う患者の激しい経過症状を伴う (非特許文献2)。
【0005】
緊急時のSHA管理条件は個々のケースに適用されるが、多くの場合に見られる凝固障害の処置を含む一般的な客観性が有る。現在、血漿中のフィブリノーゲンアッセイが上記の危険な値に達した時にフィブリノーゲンを管理することが推薦されている。この置換アプローチは、多くの場合、汎発性血管内凝固(DIVC)段階にある全身の凝固障害の状況を改善するためのものである。この置換アプローチは遅く、実験室での反復テストが必要であり、獲得性フィブリノーゲン欠陥を診断して経過を文書化するのに長時間(約1時間)を必要とする。さらに、この置換アプローチでは反復決定結果で決定されたフィブリノーゲン管理時間でフィブリノーゲンを反復して投与しなければならない。フィブリノーゲンの投与量は複数回の輸血で投与でき、各回の投与量は希望する限界フィブリノーゲン血液値に対する定量化されたフィブリノーゲン欠陥比によって管理される。フィブリノーゲンは5ml/分以下の推薦された速度でゆっくりと投与されるが、この速度は非常事態の場合には不適当である。
【0006】
循環フィブリノーゲン・レベルが1g/L以下の場合には、正常な凝血が形成できるようにするために外因性フィブリノーゲンを投与する。供給する外因性フィブリノーゲンの量は2〜4グラムで、必要な量は上記凝固パラメータの一連のアセスメントの結果に応じてリアルタイムでケースバイケースで計算される。より正確には、従来は下記の式に従って注射するフィブリノーゲン量を計算する:
外因性フィブリノーゲン量(グラム)=[必要な循環フィブリノーゲンレベル(g/L)]−[処置前の循環フィブリノーゲンレベル(g/L)]×0.04×[患者体重(kg)]
【0007】
従って、処置中に連続して投与するフィブリノーゲンの量は凝固パラメータのアセスメントの関数で連続した時間で計算される。過剰な循環フィブリノーゲン・レベル、例えば5g/L以上の血栓を生じさせるようなフィブリノーゲンの循環を避けるためには、投与する外因性フィブリノーゲンの量を正確に計算する必要があることは理解できよう。
【0008】
フィブリノーゲンを供給しているにも係わらず出血が持続する場合の上記処置の追加の処置として血小板濃縮物の投与がある。現在用いられている産褥出血の処置のプロトコルは全体として満足ではあるが、激しい出血に関連する死亡または罹病のハイリスクを考慮すると、現在の解決方法に代る、または、それより改良した技術的解決策に対するニーズがある。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】Hippala et al., 1995, Anesth Analg, Vol. 81: 360-365; Torrielli et al., 1988, Rev Fr Gynecol Obstet, Vol. 83: 7-9
【非特許文献2】Charbit et al., 2006, Journal of Thrombosis and Haemostasis, Vol. 5: 266-273; Karlsson et al., 2008, Transfusion, Vol. 48 (10): 2152- 2158
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
外科的処置または激しい身体的外傷によって生じる激しい出血を含めた、激しい出血に対する他の改良されたタイプの処置を見出すというニーズがある。他の激しい出血はホメオスタシス障害を含めた産褥出血で共通のものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、激しい出血の処置で使用される医薬製品の製造でのフィブリノーゲンの使用であって、上記医薬製品は初期フィブリノーゲンレベルとは無関係に血液の凝固能を元に戻すのに十分な量のフィブリノーゲンを早期に迅速に供給するもの、例えば少なくとも4.5gに等しい量を30分以下の投与持続時間中に投与するものであることを特徴とする使用にある。
【0012】
本発明の激しい出血には分娩後出血(post-partum haemorrhage)、手術出血(peri-operative haemorrhage)および外傷後出血(post-traumatic haemorrhage)が含まれるが、これらに限定されるものではない。
【0013】
投与されるフィブリノーゲンの起源および種類は任意で、任意のフィブリノーゲンにすることができる。
【0014】
本発明はさらに、上記の使用および方法の適用に適したフィブリノーゲンを含む予防または治療用医薬組成物にも関するものである。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】はブタでのインビボ実験プロトコルの一連の時間的段階を示す図で、水平線は時間を表し、上側に記載の番号は一連のプロトコルの下記段階を表す:1:動物の麻酔および機器取付け段階。2:下記調査パラメータのベース測定:HR(心拍数)、MAP(平均動脈圧)、PAP(肺動脈圧)、PCWP(肺中央部血圧)℃VP(中心静脈圧)、ROTEM(登録商標)基準テスト:凝固、ヘモグロビン、ヘマトクリット、血小板。3:血液希釈段階、60%の血液容量を採り、それをMCF値が40mm以下になるまでHES 130/0.4組成物(Voluven、登録商標)で置換する。4:ヘモグロビン値が6g/dlになるまでの洗浄赤血球の再輸血段階。5:骨外傷段階。7:パラメータHR、MAP、PAP、PCWP、ROTEM(登録商標)、凝固、ヘモグロビン、ヘマトクリット、血小板の標準テストと、医薬品(各種投与量のフィブリノーゲンと、プラセボ組成物)投与後の15分、1時間、2時間および4時間後の血液ロスの測定。8:肝性外傷の実行。9:肝性外傷後の2時間後に行う最終段階で、測定パラメータ:HR、MAP、PAP℃VP、PCWP、ROTEM、血液凝固、ヘモグロビン、ヘマトクリット、血小板および血液ロスに関する標準テスト。
【0016】
【図2】は、ROTEM(登録商標)法によってINTEM凝固時間(CT)を測定した結果を示す図。[図2]の上側は下記のものを投与した動物で得られた結果を示す:(i) プラセボ組成物(中実ダイヤマーク)(ii) 37.7mg/kgのヒトフィブリノーゲン(中実正方形)(iii) 75mg/kgのヒトフィブリノーゲンの(中実三角)(iv) 150mg/kgのフィブリノーゲン(灰色逆三角)[図2]の下側は下記のものを投与した動物で得られた結果を示す:(i) プラセボ組成物(中実ダイヤマーク)(ii) 300mg/kgのヒトフィブリノーゲン(中実正方形)(iii) 450mg/kgのヒトフィブリノーゲンの(中実三角)(iv) 600mg/kgのフィブリノーゲン(灰色逆三角) 縦座標は凝集時間(CT)(秒)を表し、横軸は上記の一連のインビボ実験段階を示し、左から右にそれぞれ下記を示す:(i) 機器装着後で、動物処置前(ii) 血液希釈後、(iii) 医薬品投与から15分後(iv) 医薬品投与から1時間後(v) 医薬品投与から2時間後(vi) 医薬品投与から4時間後(vii)肝の外傷実行から2時間後または死亡前
【0017】
【図3】はROTEM(登録商標)法によってINTEM最大凝血硬度(Maximum℃lot firmness、MCF)を測定した結果を示す。[図3]の上側は下記のものを投与した動物で得られた結果を示す:(i) プラセボ組成物(中実ダイヤマーク)(ii) 37.7mg/kgのヒトフィブリノーゲン(中実正方形)(iii) 75mg/kgのヒトフィブリノーゲンの(中実三角)(iv) 150mg/kgのフィブリノーゲン(灰色逆三角)[図3]の下側は下記のものを投与した動物で得られた結果を示す:(i) プラセボ組成物(中実ダイヤマーク)(ii) 300mg/kgのヒトフィブリノーゲン(中実正方形)(iii) 450mg/kgのヒトフィブリノーゲンの(中実三角)(iv) 600mg/kgのフィブリノーゲン(灰色逆三角) 縦座標はINTEM最大凝血硬度(Maximum℃lot firmness、MCF)(ミリメートル)を表し、横軸は上記の一連のインビボ実験段階を示し、左から右にそれぞれ下記を示す:(i) 機器装着後で、動物処置前(ii) 血液希釈後、(iii) 医薬品投与から15分後(iv) 医薬品投与から1時間後(v) 医薬品投与から2時間後(vi) 医薬品投与から4時間後(vii)肝の外傷実行から2時間後または死亡前
【0018】
【図4】はROTEM(登録商標)法によって最大凝血硬度(Maximum℃lot firmness、MCF)PLASMA EXTEM(変成FibTEM)の測定結果を示す。[図4]の上側は下記のものを投与した動物で得られた結果を示す:(i) プラセボ組成物(中実ダイヤマーク)(ii) 37.7mg/kgのヒトフィブリノーゲン(中実正方形)(iii) 75mg/kgのヒトフィブリノーゲンの(中実三角)(iv) 150mg/kgのフィブリノーゲン(灰色逆三角)[図4]の下側は下記のものを投与した動物で得られた結果を示す:(i) プラセボ組成物(中実ダイヤマーク)(ii) 300mg/kgのヒトフィブリノーゲン(中実正方形)(iii) 450mg/kgのヒトフィブリノーゲンの(中実三角)(iv) 600mg/kgのフィブリノーゲン(灰色逆三角) 縦座標はINTEM最大凝血硬度(Maximum℃lot firmness、MCF)(ミリメートル)を表し、横軸は上記の一連のインビボ実験段階を示し、左から右にそれぞれ下記を示す:(i) 機器装着後で、動物処置前(ii) 血液希釈後、(iii) 医薬品投与から15分後(iv) 医薬品投与から1時間後(v) 医薬品投与から2時間後(vi) 医薬品投与から4時間後(vii)肝の外傷実行から2時間後または死亡前
【0019】
【図5】は血漿フィブリノーゲン濃度の測定結果を示す。曲線は下記のものを投与した動物で得られた結果を示す:(i) [図5]の底部に記載のプラセボ組成物(中実ダイヤマーク)(ii) 上記曲線の直ぐ上に記載の37.7mg/kgのヒトフィブリノーゲン(中実正方形)(iii) 上記曲線の直ぐ上に記載の75mg/kgのヒトフィブリノーゲンの(中実三角)(iv)上記曲線の直ぐ上に記載の150mg/kgのフィブリノーゲン(灰色逆三角)(v)上記曲線の直ぐ上に記載の300mg/kgのフィブリノーゲン(中実正方形)(vi)上記曲線の直ぐ上に記載の450mg/kgのフィブリノーゲン(中実灰色三角)(vii)[図5]の頂部に記載の上記曲線の直ぐ上に記載の600mg/kgのフィブリノーゲン(灰色三角) 縦座標は血漿フィブリノーゲン濃度(mg/dl)を表し、横軸は上記の一連のインビボ実験段階を示し、左から右にそれぞれ下記を示す:(i) 機器装着後で、動物処置前(ii) 血液希釈後、(iii) 医薬品投与から15分後(iv) 医薬品投与から1時間後(v) 医薬品投与から2時間後(vi) 医薬品投与から4時間後(vii)肝の外傷実行から2時間後または死亡前
【0020】
【図6】は動物に投与したフィブリノーゲン投与量を関数としたROTEM(登録商標)法によってINTEM最大凝血硬度(Maximum℃lot firmness、MCF)の測定結果を示す。縦座標は最大凝血硬度値(MCF)(ミリメートル表示)、横軸はヒトフィブリノーゲン濃度(mg/dl)を表す。
【0021】
【図7】は血液ロスと凝固能の測定結果を示す。縦座標は血液ロス値および凝血寸法(ml/kg)を表す。[図7]では動物に投与したヒトフィブリノーゲンの各濃度を上げた時およびプラセボ組成物の場合での凝血寸法(「凝血」)と血液ロス(「液体」)のそれぞれの値を隣接した棒で表してある。[図7]の左から右に向かって、隣接する棒の各ペアー(「凝血/液体」)はそれぞれ下記の値を表す(i) 37.5mg/kgのフィブリノーゲン(ii) 75mg/kgのフィブリノーゲン(iii) 150mg/kgのフィブリノーゲン(iv)300mg/kgのフィブリノーゲン(v)450mg/kgのフィブリノーゲン(vi)600mg/kgのフィブリノーゲン(vii)プラセボ組成物
【発明を実施するための形態】
【0022】
驚くことに、激しい出血の処置において、既知のフィブリノーゲン欠陥が無い場合でも、本発明を用いることによってフィブリノーゲンを多量の投与量で単一回で早い時期かつ早急(early and rapid)に投与することで、激しい出血を制御でき、非制御の出血の進行を防ぐことができる、ということを発見した。
【0023】
本発明では外因性フィブリノーゲンを大投与量で早期かつ急速に投与することで激しい出血、凝固(occult℃oagulooathy)を止めることができる。これは主として血液の凝固能(clotting℃apacity)を次第に低下させ、これ自体は主として内因性フィブリノーゲンの減少に起因し、それによって潜在性凝固障害で制御できない出血を引き起こす。
【0024】
本発明で定義の条件下で外因性フィブリノーゲンを投与することで、激しい出血の処置ができ、それが前進して制御できない出血に到るのを防ぐことができる。
【0025】
本発明では、従来の循環フィブリノーゲン・レベルを予め求める操作を行う必要なしに、所定料の外因性フィブリノーゲンで激しい出血を制御することができる。本発明の処置原則はフィブリノーゲン欠陥を補償すること、すなわち、効果的であると推定される目標の血液値を達成するのに臨界的な所定血液閾値をベースにしたフィブリノーゲン量を供給するのではなく、血液の凝固能をできるだけ速く元に戻すことにある。
【0026】
フィブリノーゲン投与の必要性を決め、投与すべきフィブリノーゲン量を決定するためのフィブリノーゲンアッセーではフィブリノーゲンの測定結果を医学チームが入手しなければならない。しかし、血液フィブリノーゲンレベルの測定結果は、例え突発事故の状況下でも、一般に血液サンプル採取後の少なくとも45分〜1時間後にした手に入らないということを指摘しれなければならない。突発事故の治療ではこの投与時間のロスは患者が生き残るチャンスに大きな影響を及ぼす(特に、測定結果が手に入った時に患者の血液フィブリノーゲン・レベル値が上記閾値以下であった場合に)。
【0027】
本発明者は、初期フィブリノーゲン血中濃度を予め知らなくてもフィブリノーゲン投与が有効であるということうを見つけた。すなわち、激しい出血であるという臨床診断がされた場合、従来行っていた血中濃度の測定を予めしなくても、フィブリノーゲンの早期投与でSHAの処置ができるということが分かった。
【0028】
本発明者は、血液の凝固能を元に戻すために(従って、患者に応じたフィブリノーゲン量の調整処置を必要とせずに)、激しい出血をしている患者へのフィブリノーゲン投与を一回のフィブリノーゲン投与量で与えられることが可能であるということを見出した。
【0029】
本発明者は特に、外因性フィブリノーゲンの所定量を投与することによって従来の循環フィブリノーゲン・レベルの決定検査を実行する必要なしに激しい出血をうまく処置できるということを見出した。
【0030】
驚くことに、循環フィブリノーゲン・レベルの定量をせずに、本発明に従って激しい出血の患者にフィブリノーゲンを大投与量で単一回で急速投与することで患者に起こり易い回復不能な出血トラブルの悪化を改善または予防することができ、しかも、血栓形成 (thromboss) もないということが分かった。
【0031】
さらに、少なくとも4.5gの大量投与量のフィブリノーゲンを単一回で早期かつ迅速に投与することによって激しい出血を処置することができるということが本発明によって示された。換言すれば、外因性フィブリノーゲンを全処置期間にわたって複数回に分けてシーケンシャルに投与し、および/または、患者に応じてフィブリノーゲン・レベルを関数としてフィブリノーゲン量を調整する必要はない。
【0032】
動物実験例では容積で60%を失血させ、それからヒドロキシエチル澱粉(HES)の6%溶液で置換した外傷性ショックを与えた血液希釈モデルに37.5mg/kgから600mg/kgのフィブリノーゲン投与量を投与した。その結果は凝固時間および最大凝血硬度が血液希釈によって大きく影響されることを示している。フィブリノーゲンの投与は全ての測定で投与量に依存する凝血硬度の増加を誘導する。実施例の結果は、出血した動物に50mg/kgのフィブリノーゲンを投与した処置することでフィブリノーゲン注射後の15分以内に凝血硬度の最大値に完全に戻り、この効果を実験の終わりまで維持した。
【0033】
フィブリノーゲンの大量投与ではEXTEM MCF値(ROTEM(登録商標)テスト)はプラトーになる。逆に、[図6]に示すように、フィブリノーゲンの投与量の増加と共にINTEM MCF値(ROTEM(登録商標)テスト:血小板とは独立した凝固)は増加を続ける。この実施例の結果はフィブリノーゲンを投与した動物でのトロンビンの生産量は対照群の動物でのトロンビンの生産量と異ならないことを示している。血液ロスの統計的解析は有意な用量応答効果(p = 0.02)を示す。これはフィブリノーゲンの投与量を増加させると全血液ロスが最大400mg/kgまで減少することを示し、[図7]に示すように、600mg/kgのフィブリノーゲン投与量でプラトーに達する。この実施例の結果はフィブリノーゲンを300mg/kg投与した動物で得られるフィブリノーゲン濃度は、出血をさせなかった対照動物で得られたベースラインの近くにあった。400mg/kgのフィブリノーゲンを処置した動物でのフィブリノーゲン濃度は同じグループの対照動物より高くさえあった。
【0034】
実施例で示されたさらに重要なことは、フィブリノーゲンを高投与量にしたとしても、生物学的組織パラメータの分析後に、凝固亢進(hypercoagulation)の徴候は全く観測されなかったことである。
【0035】
この実施例の結果から、凝血硬度は低いフィブリノーゲン・レベルによって影響を受け、使用した試験モデルでは希釈凝固障害(coagulopathie)によって低フィブリノーゲン・レベルが生じたことが確認された。実施例の結果はこのタイプの凝固障害でのフィブリノーゲンのキー的役割を証明している。フィブリノーゲンの役目は、フィブリノーゲンの単独投与が、投与量に依存する状態で凝固障害効果を修正するに固有ポテンシャルを有するという事実によっても確認される。
【0036】
同様に、実施例の結果は最適凝固を再確立するためにはフィブリノーゲン濃度をノーマルレベル(ROTEM(登録商標)テスト、EXTEM MCF)まで、またはノーマルレベルの少し上(INTEM MCFおよび凝血重量)まで少なくとも完全に回復させる必要がある。
【0037】
既に述べたように、フィブリノーゲンを高投与量で投与しても凝固亢進(hypercoagulation)の徴候が観測されなかったことは重要である。
【0038】
従って、実施例の結果は、投与前に循環フィブリノーゲン・レベルを求めなくても、フィブリノーゲンの単一回の大量投与量で凝血異常(trouble de haemostasis)の悪化を防ぐことが可能になり、それによって患者の安全が完全に確保され、しかも驚くことに、フィブリノーゲンを高投与量で投与しても凝固亢進の危険性は観測されない。
【0039】
さらに、本発明のフィブリノーゲンの単一回の高投与量での投与によって過敏性反応(血漿ヒスタミンレベルの測定値)を誘導しないことも確認されている。この血漿ヒスタミンレベルは全てのフィブリノーゲン投与量(37.5mg/kg 〜600mg/kg)で安定なままであった。
【0040】
さらにフィブリノーゲン投与後にTNF-αの血漿濃度は低下するか、安定のままである。最後に、エンドセリン(endothelin)-1は検出されたことがなった。
これらの結果は、激しい出血の処置でフィブリノーゲンを単一回で大量投与量で急速投与することが患者にとって無害であることを証明している。
【0041】
本発明は、医薬の一回の投与量でのフィブリノーゲン量を少なくとも4.5gにして迅速に投与する激しい出血の処置および予防に用いられる医薬の製造でのフィブリノーゲンの使用に関するものである。
【0042】
本発明はさらに、非経口投与、好ましくは経静脈投与される、激しい出血の予防または処置でのフィブリノーゲンの使用にも関するものである。
【0043】
本発明はさらに、少なくとも4.5gに等しい量のフィブリノーゲンを投与する段階を含む激しい出血の処置および予防方法に関するものである。
【0044】
激しい出血を予防または処置するには、少なくとも4.5gに等しい所定量のフィブリノーゲンを単一段階で投与すれば充分であることが示された。
【0045】
実施例から、少なくとも4.5gのフィブリノーゲンの所定量で有効であり、フィブリノーゲンの投与時間を速くすることで望ましくない作用は生じないということが確認されている。特に、実施例に示したブタの試験モデルでは600mg/kgの量のフィブリノーゲンが30分の持続時間内に投与される。この実施例の結果はヒトに置き換えた場合、6gのフィブリノーゲンの投与量を投与段階の持続時間を30分以下にして非常に迅速に投与することができるということを示す。
【0046】
本発明でのフィブリノーゲン投与段階の持続時間は30分以下であり、これは29、28、27、26、25、24、23、22、21、20、19、18、17、16、15、14、13、12、11、10、9、8、7または6分以下の持続時間を含む。
【0047】
実施例の場合には6gの量のフィブリノーゲンを投与段階で5分で投与して患者に望ましくない作用は生じなかった。
【0048】
本発明ではフィブリノーゲンの投与段階の持続時間は30分以下であり、この投与段階の持続時間は1分以上である。
【0049】
本発明のフィブリノーゲンの使用では、フィブリノーゲン投与前に患者の循環フィブリノーゲンレベルを決定する必要性がない。これは突発事故での患者の臨床面での予防または処置の点で重要な技術的利点となる。この場合、迅速な予防または治療は患者が生存するチャンスにとって決定的なものである。
【0050】
本発明のフィブリノーゲン使用の特徴は、患者に投与前に循環フィブリノーゲン・レベルを決定する検査をせずに、医薬品がフィブリノーゲンを少なくとも4.5gに等しい量の投与量で単一回で投与される点にある。従って、本発明の予防または処置方法は、フィブリノーゲンの投与段階前に循環フィブリノーゲン・レベルを検査または決定する段階が無いという点をさらに特徴とする。
【0051】
本発明のフィブリノーゲン使用のさらに他の特徴は患者で循環フィブリノーゲン・レベルを管理または決定せずに、フィブリノーゲンの投与量が少なくとも4.5gに等しい量となるように一回の投与で医薬品を投与する点にある。従って、本発明の予防または処置方法は、循環フィブリノーゲン・レベルを検査または決定する段階無しに、それに続いてフィブリノーゲン投与段階を行う点を特徴とする。
【0052】
循環フィブリノーゲン・レベルの決定段階がないので、予防または治療にかかる医療の総コストが減るという経済的な利点もある。
【0053】
フィブリノーゲンの量は少なくとも4.5g、4.6g, 4.7g, 4.8g, 4.9g, 5g, 5.1g, 5.2g, 5.3g, 5.4g, 5.5g, 5.6g, 5.7g, 5.8g or 5.9gにすることができる。
【0054】
投与されるフィブリノーゲンの最大量は決定的な特徴ではないが、好ましいフィブリノーゲンの量は15g以下、特に好ましくは12g以下である。
【0055】
フィブリノーゲンの量は約6gであるのが好ましく、これは5.5g〜6.5gの範囲のフィブリノーゲンの量を含み、5.8g〜6.2gを含む。
【0056】
本発明のフィブリノーゲンの使用は激しい出血の処置および予防に適している。本発明のフィブリノーゲンの使用は例えば産褥出血の処置に適している。
【0057】
従来の医学的意味では、産後出血は出産後24時間の間に500mLを超える容積の出血があることと定義される。
【0058】
現在では多くの産褥出血のリスクが知られている。その中でも持続的貧血、先天性ホメオスタシス失調の存在、子宮弛緩症状況(例えば多産、子宮過剰膨張、長時間または短時間出産、卵外膜以上(chorioamnionitis))、子宮退縮異常(例えば胎盤保持または凝血、子宮フィブロマトス(fibromatous)または奇形、癒着性胎盤)、獲得性ホメオスタシス失調、会陰切開術を含む産道病変、子宮内反症、子宮破裂または帝切が挙げられる。
【0059】
すなわち、産後出血のリスクのある患者で本発明のフィブリノーゲンの使用を予防的に実行できる。
【0060】
しかし、本発明のフィブリノーゲンの使用は産後出血がみられる患者で主として治療用に実行するのが効果的である。
【0061】
本発明のフィブリノーゲンの使用は、外科手術で生じ出血の予防および処置にも同様に適している。すなわち、外科医はその経験に基づいて外科手術で激しい出血を起すハイリスクがある場合を前もって知ることができる。
【0062】
従って、本発明のフィブリノーゲンの使用は外科手術で生じられる激しい出血の予防または処置すなわち外科にも適している。
【0063】
激しい出血を伴う他の緊急処置状況は大きな身体的外傷に伴う外傷性出血ショックであり、一般に急激かつ激しい貧血を伴う。外傷性出血の場合、患者の命は血液の消失容積と治療の迅速性とに直接に関係する。これがホメオスタシスを再確立することが一次治療戦略である激しい出血の他の状況である。
【0064】
従って、他の観点から、本発明のフィブリノーゲンの使用は、外傷性出血とよばれる物理的外傷によって生じる激しい出血の処置に適している。
【0065】
フィブリノーゲンはヒトフィブリノーゲンから成るのが特に好ましい。
【0066】
本発明の使用のある種の実施例では、フィブリノーゲンは天然物質を精製して得たフィブリノーゲンから成る。
【0067】
本発明の使用の他の実施例では、フィブリノーゲンが組換え型フィブリノーゲンから成る。例えば下記国際特許出願のいずれか一つに記載の方法で製造した組換え型フィブリノーゲンを使用することができる。
【特許文献1】国際特許第WO-207/103447号公報
【特許文献2】国際特許第WO-2005/010178号公報
【特許文献3】国際特許第WO-1996/07728号公報
【特許文献4】国際特許第WO-1995/022249号公報
【0068】
組換え型フィブリノーゲンは、組換え型フィブリノーゲンの分子を一種以上の薬学的に許容される賦形剤と組合せて医薬組成物の形にすることができる。
【0069】
本発明の使用の一つの実施例では、フィブリノーゲンは天然物質を精製したフィブリノーゲンから成り、このフィブリノーゲンは人の血漿から精製して得られ、必要に応じて一種以上の薬学的許容される賦形剤と組合される。
【0070】
例えば下記特許文献(欧州特許第EP1739093号公報)に記載の天然物質から精製されたフィブリノーゲンを使用することができる。
【特許文献5】欧州特許第EP1739093号公報
【0071】
この天然物質を精製したフィブリノーゲンは人の血漿の可溶化フラクションから下記の一連の工程で得られるフィブリノーゲン濃縮物の形にすることができる。
(a) 下記段階から成るクロマトグラフ精製:i) 上記可溶化フラクションに所定の塩基性pHイオン強度を有する緩衝液で平衡化した低塩基タイプのアニオン交換樹脂を入れ、ii)緩衝液のイオン強度を上げて生物学的接着物を溶出させ、
(b) 得られた生物学的接着物の溶出液の少なくとも一部にXIII因子を沈澱させる化学物質を添加してフィブリノーゲンからXIII因子を分離し、得られる精製されたフィブリノーゲン上澄み溶液を回収し、
(c) フィブリノーゲン溶液、生物学的接着物および溶液化したFXIIIを分離し、各溶液を凍結乾燥する。
【0072】
天然物質起源の精製フィブリノーゲンは特許文献6に記載の方法で製造したものを使用することができる。
【特許文献6】国際特許第WO-2005/004901号公報
【0073】
この方法で得られるものは、ヒト血漿の凍結沈殿可能タンパクの凍結乾燥物を熱処理するウイルス失活段階を有する精製方法で得られるフィブリノーゲン濃縮物の形をした天然起源の精製フィブリノーゲンである。この特許文献6(国際特許第WO-2005/004901号公報)に記載の特許文献6(国際特許第WO-2005/004901号公報)に記載されている方法の特徴は精製したフィブリノーゲン濃縮物の形にする前にアルギニンと、少なくとも一種の疎水性アミノ酸と、クエン酸三ナトリウム塩との混合物から成る安定化/可溶化配合物を加える点にある。
【0074】
特許文献5(欧州特許第EP1739093号公報)に記載の一般的方法で製造した天然物質由来の精製フィブリノーゲンを使用することもできる。この特許では特許文献7(国際特許第WO-2005/004901号公報)に記載の方法の形式のウイルス失活段階を用いている。
【0075】
特許文献5(欧州特許第EP1739093号公報)または特許文献7(国際特許第WO-2005/004901号公報)から選択される方法によって得た天然根源物質の精製されたフィブリノーゲンはヒトフィブリノーゲンの濃度が15g/l〜20g/lと高いヒト血漿のフィブリノーゲン濃縮物の形にするのが有利である。
【0076】
このタイプの濃縮物はフィブリノーゲン回収率が高いので、一回の量で少なくとも4.5gの多量のフィブリノーゲンの投与を必要とする本発明のフィブリノーゲンの使用ではヒトフィブリノーゲンの濃縮物(以下、「FGT1」と記載)が適している。このタイプの血漿起源のヒトフィブリノーゲン濃縮物の他の利点は他の血漿タンパクの含有量が低く、患者に与えられる血漿タンパクの総量を大幅に減らすことができる点にある。
【0077】
このタイプのヒト・フィブリノーゲンの濃縮物の追加の利点は対ウイルス安全性が高いことにある。
【0078】
本発明の一つの実施例では、フィブリノーゲンは凍結乾燥品の形をしており、必要に応じて一種以上の薬学的に許容される賦形剤を含む。
【0079】
本発明の一つの実施例では、フィブリノーゲンは凍結乾燥品の形をしており、必要に応じて一種以上の薬学的に許容される賦形剤を含み、それが大気圧以下の圧力に維持された容器中に収容される。容器中の空間は部分真空下に維持するのが有利である。
【0080】
上記の凍結乾燥したフィブリノーゲン濃縮物は減圧構成の器具中に収容するのが好ましい。患者に投与するフィブリノーゲン溶液は減圧下の瓶中で適当な容積の適切な溶剤(例えば水、滅菌、非発熱性食塩溶液)を加えて調製することができる。一般に、凍結乾燥したフィブリノーゲン濃縮物から再構成して得たフィブリノーゲン溶液は最大で7日間保存できる、好ましくは25℃で最大で24時間、好ましくは25℃で最大6時間保存できる。
【0081】
本発明の使用の一つの実施例のフィブリノーゲンは精製したフィブリノーゲンまたは組換え型フィブリノーゲンをリシン塩酸塩、トロメタモル(trometamol)、グリシン、枸櫞酸ナトリウムおよび塩化ナトリウムから選択される一つ以上の賦形剤と組合せた医薬組成物の形をしている。本発明の好ましい実施例ではフィブリノーゲンがリシン塩酸塩、トロメタモル、グリシン、枸櫞酸ナトリウムおよび塩化ナトリウムの賦形剤の全てと組合される。投与される液状医薬組成物に再構成するのに使われる溶剤は注射水から成るのが好ましい。
【0082】
本発明の使用の他の実施例のフィブリノーゲンは、精製したフィブリノーゲンまたは組換え型フィブリノーゲンを塩酸アルギニン、イソロイシン、リシン塩酸塩、グリシンおよび枸櫞酸ナトリウムから選択される一種以上の賦形剤と組み合わせた医薬組成物の形をしている。本発明の好ましい実施例ではフィブリノーゲンが塩酸アルギニン、イソロイシン、リシン塩酸塩、グリシンおよび枸櫞酸ナトリウムの賦形剤の全てと組合される。投与される液状医薬組成物に再構成するのに使われる溶剤は注射水から成るのが好ましい。
【0083】
100mlの注射水(WFI)を用いて再構成したフィブリノーゲン濃縮物「FGT1」のフラコン(瓶)は1.5gのフィブリノーゲンと、4gのアルギニンと、1gのイソロイシンと、0.2gのリシン塩酸塩と、0.2gのグリシンと、0.25gの枸櫞酸ナトリウムとを含む。
【0084】
本発明の使用の他の実施例のフィブリノーゲンは、精製されたフィブリノーゲンまたは組換え型フィブリノーゲンをヒトアルブミン、塩化ナトリウム、塩酸アルギニン、枸櫞酸ナトリウムおよび水酸化ナトリウムから選択される一種以上の賦形剤と組み合わせた医薬組成物の形をしている。
【0085】
本発明の他の実施例では、フィブリノーゲンがヒトアルブミン、塩化ナトリウム、塩酸アルギニン、枸櫞酸ナトリウムおよび水酸化ナトリウムの賦形剤の全てと組合される。投与される液状医薬組成物に再構成するのに使われる溶剤は注射水から成るのが好ましい。
【0086】
少なくとも4.5gに等しい量のフィブリノーゲンを投与する段階は、注射に適した医薬品、例えば上記医薬組成物を腸管外の経路で投与して実行するのが好ましい。
【0087】
本発明のフィブリノーゲンの使用の好ましい実施例では、投与に適した医薬品を静脈内経路(IV)で実行する。従って、本発明の予防または治療処置方法の好適な実施例では、少なくとも4.5gに等しい量のフィブリノーゲンを投与する段階を静脈内の経路する投与段階を有する。
【0088】
本発明の使用の一つの実施例では、1.5gの量のフィブリノーゲンを含む凍結乾燥したフィブリノーゲン濃縮物を含む減圧容器が使われる。これは4つの容器を使用して一回で約6gのフィブリノーゲンの所望量を投与するということを意味する。
【0089】
本発明の使用の一つの実施例では、ヒト・フィブリノーゲンを含む再構成した液体組成物が静脈内経路でから5〜30mL/分の投与速度で投与される。ヒトフィブリノーゲンの再構成し液体組成物は静脈内経路によって約20mL/分の流速で投与するのが好ましい。これには15〜25 mL/分の範囲が含まれる。この形のかなり高い流速の投与は激しい出血をしている患者のホメオスタシストラブルを減らすという緊急の必要性から正当化される。
【0090】
本発明はさらに、主成分としてフィブリノーゲンを含む医薬組成物にも関するものである。この医薬組成物の特徴は、非経口投与での一回の投与でのフィブリノーゲンの量が少なくとも4.5gに等しい量、好ましくはフィブリノーゲンの量が約6gである点にある。
以下、本発明の実施例を示すが、本発明が下記実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0091】
実施例1
分娩後出血(post-partum haemorrhage)処置
A. 材料および方法
患者
この研究は、妊娠から27週後に経膣または帝王切開で出産をし、産後の出血が激しかった320人の患者で行われた。激しい産後出血は出血容積が1000mL以上であることと、2ラインの子宮緊縮処置に対するレジスタンスで特徴付けられる。
血漿ヒトフィブリノーゲン濃縮物
患者には再構成直後に静脈経路で6gのFGT1のボーラス(bolus、瞬間大量投与)を注射で単一回で投与して処置をした。このヒトフィブリノーゲン濃縮物は1.5gのフィブリノーゲンを含む。
処置のプロトコール
循環フィブリノーゲンレベルを予め定量せずに6gのボーラスを投与した。
処置後の臨床観測
6gのFGT1を静脈経路で瞬間大量投与した後に失われた血液の容積とFGT1投与から出血の終わりまでの経過時間とをモニターした。最終処置、大量輸血に頼ることがなく、12時間後に死亡しなかった場合、療法は成功したと評価した。
【0092】
実施例2
ブタ出血モデルでの効果
A. 材料と方法
A.1 研究の目的
実施例2の研究ではブタにフィブリノーゲン組成物(ヒトフィブリノーゲン濃縮物組成物「FGT1」)を異なる投与量(37.5mg/kg〜600mg/kg)で投与して有効性を比較した。動物の骨および肝に標準化された外傷を加えた後に止血(haemostasis)および血液ロスに対する効果を測定した。
目的
実施例2の研究目的は下記を決定することにある:
(1)フィブリノーゲンのプロ凝固(pro-coagulation)処置の各濃度の有効性が止血および血液ロスに異なる効果を誘導するか否か、
(2)フィブリノーゲン濃縮物の単独投与が異なる血漿フィブリノーゲンレベルを誘導するか否か、および/または、フィブリノーゲンに対して異なる血漿半減期をもたらすか否か。
(3)フィブリノーゲンのプロ凝固(pro-coagulation)処置が後の血栓塞栓性(thromboembolic)合併症に関連する凝固亢進(hypercoagulation)状況を誘導するか否か
【0093】
A.2. 動物
この研究は12〜14週齢の体重が25〜35kgの42匹の健康なブタで実施した。動物モデルを使用して希釈凝固障害誘導後にフィブリノーゲンを投与した状況下での凝血硬度ダイナミックスと血液ロスとを決定した。
【0094】
A.3. 麻酔
実験開始の1時間前に動物へ前投薬としてアザペロン(azaperone)(4mg/kg、Stresnil(登録商標) Janssen, Vienna, Austriaを経筋注射)とアトロピン(筋肉内注射による0.1mg/kg)を投与した。麻酔維持への誘導はプロポホル(propofol)で実行した(静脈注射、1〜2mg/kg)。無痛誘導のためにピリトラミド(piritramide)を注射した(30mg、半減期が約4〜8時間のオピオイド、Dipidolor(登録商標)、Janssen, Vienna, Austria)。気管内麻酔後、筋弛緩を1時間毎に0.6mg/kgのロクロニウム(rocuronium)を使用して行った。
【0095】
気管内麻酔後に解剖で大腿動脈、鎖骨下動脈および2つの大腿静脈を調製した。液体交換に必要なベースライン(基準値)(4mg/kg体重)はクリスタロイド(Ringerラクテート溶液)を用いたテストで提供された。その後、これらベセルに下記観血カテーテルを置いた:
(1)大径カテーテル(長さ20cmのダブルルーメン型静脈アクセス)、
(2)Swan-Ganzカテーテル、
(3)動脈血圧測定の観血手段
次いで、ベースラインの初期値を測定した([図1]の時間No.2)。
【0096】
A.4. 血液希釈
動物に下記の機器を付けた後、HES 130/0.4 (Voluven(登録商標)、Fresenius Co., Bad Homburg, Germany) の6%溶液を用いて定容量性(normovolaemic)血液希釈を行った。各段階で大径カテーテルを用いて動物から血液を採取し、血液を1:1の比でコロイド溶液で置換した。全血液の約60%のロスと見積られる全血ロスを得るために、例えば30kgの体重の動物には6% HES 130/0.4溶液(Voluven(登録商標)、Co., Bad Homburg, Germany)を1700ml注入する。血液希釈後、回収した血液を「セルセーバ」タイプのシステム(Cats(登録商標)、Fresenius)で処理し、濃縮し、血行動力学に関連する貧血を防ぐために再度輸血した。サーモボエラストメトリー(thromboelastometry)の測定結果([図1]の時間番号3および4)が示すように、凝固障害が40mm以下の最大凝血硬度(MCF)値に達した時に定容量性Normovolaemic)血液希釈に達した。
【0097】
A.5. 標準化された骨損傷
標準化された骨損傷は、被テスト医薬投与の5分前に、骨髄を通すのに必要な深さに脛骨頭部に3mmの孔を明けて実施した。骨外傷から5分後にフィブリノーゲンを測定し([図1]の時間No.5)、被テスト医薬製品生成物を投与した([図1]の時間No.6)。過剰血液は骨および筋間の創傷表面から吸引して除去し、集めたセルと合わせた。止血に至るまでの時間も求めた。骨外傷に起因する血液ロスが500mlを超えた場合には標準的ガーゼ包帯を使用した圧迫によって出血を止め、血行力学的(haemodynamic)な見地から安定であることをその後4時間観測した。
被テスト医薬製品生成物を投与してから15分後に全ての測定パラメータを追加して決定した(時間パラメータNo.4)。さらに、被テスト医薬製品生成物投与から1時間、2時間および4時間後に全てのパラメータを測定した([図1]の時間No.7)。
【0098】
A.6. 標準化された肝損傷
被テスト医薬製品生成物を投与してから4時間後に、ジグを使用して肝臓中央葉に鎌状靱帯から中央切開する標準化された肝の外傷を付けた。この肝切開によって長さ約8cm、深さ約2cmの外傷を付けた([図1]の時間No.8)。カテコールアミン循環効果はなかった。この標準化された肝外傷は、凝固変更は生存性にネガティブな影響を及ぼすことを示すために選択した。肝外傷実行から2時間後または死亡直前に、全てのパラメータを測定した(図1の時間No.9)。肝外傷後2時間後にも生存していた動物にはカリウムを投与して安楽死させた。以前の試験研究結果から2時間の追跡調査の評価で充分であるとみなされる(Fries et al., 2006, Br. J. Anaesth., Vol. 97 (4): 460-467; Fries et al., 2005, Br. J. Anaesth., Vol. 95 (2): 172-177)。この研究は盲検テストで行った。
【0099】
A.7. 動物のランダム分布
適切なソフトウェアを使用して動物は1〜6のグループに任意(「ランダム化」)に分配した(1:37.5mg/kg、2:75mg/kg、3:150mg/kg、4:300mg/kg、5:450mg/kg、6:600mg/kg)。
【0100】
A.8. 実験プロトコル
実験的プロトコルは[図1]および以下の表に示す(この研究で使用した42匹のブタの処置の詳細が記載されている)。
【0101】
【表1】

フィブリノーゲンは30分の注入速度で投与した。
【0102】
A.9. 血液のサンプル化と解析方法
全ての血液サンプルは大腿動脈から集め、最初の5ml容積は廃棄した。ROTEM(登録商標)研究用および凝固解析用の血液サンプルはpH 5.5の枸櫞酸ナトリウム緩衝液を0.3ml(0.106モル/L)含む3mlのチューブに集めた(Sarstedt, Nuermbrecht, Germany)。血球計測用の血液サンプルは1.6mgのEDTA/mlを含む2.7mlのチューブに集めた(Sarstedt, Nuermbrecht, Germany)。全てのテストは同じ実験者が実行した。プロトロンビン時間(PT)、トロンビン世代時間(TGT)、部分トロンボプラスチン時間(PTT-LA1)、フィブリノーゲン濃度、アンチトロンビン(AT)およびトロンビン-アンチトロンビン(TAT)は適当なテスト(Dade Behring, Marburg, Germany)と、凝集度測定装置(Amelung Coagulometry)(Baxter, United Kingdom)を使用して標準的実験室法で決定した。D-二量体の測定にはD-dimer-0020008500(登録商標)テスト(Instrumentation Laboratory Company, Lexington, United States)を使用した。血球数はSysmex Poch-100i(登録商標)カウンタを使用して行った(Sysmex, Lake Zurich, Illinois, United States)。
【0103】
A.10. 回転スロンボエラストメトリー(thromboelastometry)(ROTEM(登録商標))
ROTEM(登録商標)はポイントオブケア(point of care)タイプの診断手段で、時間のかかる研究室でのテストを必要としない全血凝固テストである。この方法は標準的な凝集試験とは対照的に凝血の品質を評価でき、特に凝血硬度の情報が得られる。ROTEM(登録商標)は1948年にHartertが開発したトロンボエラストグラフィの概念を改良したもので、この方法は血液サンプルを収容したキュベット中に沈めた円柱形感応素子から成る。この感応素子はその縦軸に対して4.75°の角度で回転する。この運動はキュベットと感応素子との間にフィブリンのストランドが形成され始まると変化する。その抵抗を反射率の変化で連続的に検出し、ROTEM(登録商標)タイプの典型的な曲線に変換し、下記パラメータを求める:
(1)CT:秒で表される凝固時間(Clotting time)を示し、凝固開始までに経過した時間を表す。
(2)OFT:秒で表される凝血形成成時間(Clot Formation time)を示し、凝固開始から20mmまでの大きさになるまでの経過時間を表す。
(3)MCF:ミリメートルで表される最大凝血硬度(Maximum Clot Firmness)を示し、最大値を表す。
(4)極大溶解百分比(Maximum Lysis %)を示し、凝固開始から60分後の大きさ(MCF)の%を表す。
【0104】
ROTEM(登録商標)テスト
以下に記載のように、各種の凝固活性化因子試薬が入手多能である。実施例2で使用したテストはINTEMテストと改良FIBTEMテストである。
(1)INTEM:INTEMテスト実行時には固有路(voie intrinseque)で凝固を活性化させる。INTEM試薬は固有の凝固経路の強い活性化因子であるエラグ酸を含む。
(2)EXTEM:EXTEMテスト実行時には組織因子(facteur tissulaire)で凝固を活性化させる。
(3)FIBTEM:FIBTEMテストでは組織因子で凝固を活性化させると同時に、サイトカラシンDを加えて血小板の機能を変更する。これによって単にフィブリノーゲンだけによる起因する凝血形成となる。
(4)改良FIBTEMテストは上記実験でブタ血小板がサイトカラシンで完全にブロックできないことが示された場合に使う。そのためこのテストから血小板は完全に除去し、全血でなく、血漿サンプル上でEXTEMテストを実行する(改良FIBTEM)。
【0105】
A.11. 組織サンプル、保存、試験片作成、顕微鏡試験
各テストの終了時に動物を切開して組織(肺、心臓、腎臓、小腸、肝臓)から組織サンプルを採った。各サンプルは直ちに10%ホルマリン溶液に浸した。脱水後、アルコールサンプルを使って一連のシーケンス段階によってサンプルを7μm厚のパラフィン埋設スライスにカットした。試験片は通常のヘマトオキシリン/エオシン着色法で染色してから調べた。
【0106】
A.12. 統計解析
研究の各変量を正規分布させるためにシャピロ-ウィルクス(Shapiro Wilks)テストを用いた。正規分布の仮定は次のプロセス変量では拒否された:ZVD、WEDGE、SPO2、CT、ALPHA。これらのプロセス変量では非母数(non parametric)テストだけが有効である。
パラメータテスト:テストしたグループ間の差を評価するために繰返し測定値に対して分散分析(ANOVA)を用いた。有効グループ、測定値およびグループxの測定で0.05の有意値が得られた。
デュネット(Dunnett)のプロトコルを用いてプラセボグループに対して多重比較を評価した。
非母数テストはKruskal-Wallisテストを使用して行った:全てのグループを単一テストで比較した。統計的有意差レベルとして0.05が得られた。
【0107】
Wilcoxonテストでは各テストグループをプラセボグループと比較した。
Bonferroni多重比較プロトコルから、統計学的有意値として得られたP値が0.0084以下であった(0.05を比較数(6)で割ったもの)。
全血液ロスがフィブリノーゲンの投与量の増加と共に減るか否かを評価するためにJonckheere-Terpstraテストを使用した。全血液ロスの分布が正規でないため、処置グループに対しては縦座標の差に対する非母数テストが適当である(非母数統計法(Hollander and Wolfe, 1973))。Jonckheere-Terpstraテストはフィブリノーゲンを異なる投与量で受けたグループで全血液ロスの分布は相違しないというヌル仮定をテストする(各対照、37.5mg/kg、75mg/kg、150mg/kg、300mg/kg、450mg/kg、600mg/kg)。血液希釈後のパラメータ特性をベースライン値と比較するためにStudentテストを使用した。
【0108】
B. 結果
B.1. 凝集パラメー
1) ROTEM(登録商標)パラメータ
ROTEM(登録商標)パラメータはVoluven(登録商標)で血液希釈後にかなりの影響を受けた。Voluven(登録商標)注入後、凝固時間が延び、最大凝血硬度値が減少した(p<0.0001)。同様に、角度αが大きく減少し、凝血形成時間が大きく増加した(p<0.001)。フィブリノーゲン投与で凝固時間が短くならず、MCFが大きく増加し(フィブリノーゲン注射終了後15分で、プラセボに対して150mg/kg〜600mg/kgの投与量に対応するグループでp<0.001)、角度αは増加した(フィブリノーゲン注射終了後15分で、プラセボに対して全てのグループでp<0.05)。60%までの血液希釈の場合、150mg/kgのフィブリノーゲンの投与量で初期ベースラインのMCF値に完全に戻すことができることを結果は示している。フィブリノーゲンの投与量をさらに大きくするとINTEM MCF値は80mmまで増加し、プラトー値に達する([図2〜4]および[図6])。
【0109】
2) 標準凝集試験
血液希釈の後、PT値は11.11+/−0.7Isから17.43+/−1.9Isまで大きく上昇する(ベースライン値すなわち「BL」(base line)に対してp<0.0001)。フィブリノーゲン投与後、PTの値は血液希釈と比較して14.54+/−1.44sまでかなり増加する(p<0.0001)が、グループ間で有意差はなかった。
aPTT値は血液希釈後に初期の10.94+/−3.34sから21.7+/−2.72sへ増加した(p<0.001)。
フィブリノーゲン投与後、aPTT値は初期値と比較して上ったままであった。プラセボグループおよび他のグループと比較してaPTTが高いグループFを除いて、医薬品投与後の全て時期で、グループ間で差はなかった。
グループEおよびFではフィブリノーゲン投与後にプラセボと比較して4時間後にD-二量体値が大きく増加する(p<0.01)。グループA、D、EおよびFではD-二量体値は実験終了時に有意に増加した(グループAでp<0.05、グループD、EおよびFでp<0.001)。
TAT値およびトロンビン生成値(Calatzis法)はプラセボグループの値と差がなかった。
【0110】
3) 血漿フィブリノーゲン濃度
[図5]に示すように、血漿フィブリノーゲン濃度はベースライン値(p<0.0001)と比較して血液希釈後に大きく減る。少なくとも150mg/kgの投与量でフィブリノーゲン処置した全ての動物はプラセボと比較して処置後の15分、1時間、2時間および4時間後に血漿フィブリノーゲンレベルが有意に増加することが示された(p<0.001)。
グループBは処置後15分、1時間および4時間後にフィブリノーゲン濃度の有意な増加を示した(p<0.05)。全てのグループで肝性外傷後または死亡前の2時間前にフィブリノーゲンの減少を示したが、フィブリノーゲンを少なくとも300mg/kgの投与量で処置した動物はプラセボと比較して2時間フィブリノーゲン・レベルが大きく増加する。
【0111】
B.2. 血球計測
全血液量の60%を取り、血液をVoluven(登録商標)で交換した後のヘモグロビン値は3〜4g/dlのレベルに低下した(p<0.0001、ベース値「BL」に対して)。それと平行してヘマトクリットも11%〜13%の間の値に大きく低下した。赤血球の再輸血後にヘモグロビン値およびヘマトクリット値はそれぞれ5〜6g/dIおよび18%まで大きく増加した(両方のパラメータでベースライン「BL」に対してp<0.0001)。
【0112】
B.3. 血行動力学と酸素混合飽和
血液希釈後、静脈酸素混合飽和(saturation mixte en oxygene)は大きく増加し(ベースライン値「BL」に対してp<0.0001)、赤血球再輸血後のレベルに増加した(血液希釈後、p<0.01)。肝外傷後から2時間後または動物が死亡する直前に静脈酸素混合飽和は赤血球を再輸血した時に対して有意に増加した(p<0.001)。
【0113】
B.4. 血液ロス
骨外傷および肝外傷後の全血液ロスは以下の通り:
(1)アプラセボグループで42.12+/−18.792ml/kg
(2)37.5mg/kgのフィブリノーゲンで41.55+/−13.944ml/kg、
(3)75mg/kgのフィブリノーゲンで34.30+/−13.593ml/kg、
(4)150mg/kgのフィブリノーゲンで29.41+/−12.508ml/kg、
(5)300mg/kgのフィブリノーゲンで29.79+/−10.155ml/kg、
(6)450mg/kgのフィブリノーゲンで26.59+/−16.250ml/kg、
(7)600mg/kgのフィブリノーゲンで 28.02+/−10.325ml/kg
統計解析は、フィブリノーゲンの投与量の増加で全血液ロスが減少することを示す有意な用量作用を示している(p=0.02)。
150mg/kgまたはそれより高いフィブリノーゲン投与量を受けた動物は、[図7]に示すように、外傷後、肝臓表面に形成される凝血寸法の有意な増加によって示されるように、凝血形成能(un effet dose-reponse)が有意に増加することが分かる(150mg/kg:プラセボに対してp<0.05、300〜600mg/kg:プラセボに対してp<0.01)。
【0114】
B.6. 組織検査
動物の肺、腎臓、小腸、脾臓、心臓および肝臓の組織検査は血管中になんらの毛細血管性(microvascular)血栓も生じないことを示した。
【0115】
結論
塊状出血によって血漿フィブリノーゲン濃度は他のどの凝血因子より前に危険なレベルに達するということは知られている。急性出血の処置の最初のラインは正常血液量(normovolaemia)を維持するためにクリスタロイドおよびコロイドを投与することから成るが、コロイド、特にヒドロキシエチル澱粉(HES)の投与がフィブリンの重合に影響を及ぼすということは知られている。その結果、凝血耐性(レジスタンス)が低下し、その後、血液ロスに至る。
【0116】
実施例2の研究から得られる第1の結果はフィブリノーゲン投与が投与量依存状態で希釈凝固障害を反転させることができるということである。ROTEM(登録商標)測定結果は、最大凝血硬度(MCF)が増加し、フィブリノーゲン投与後に正規化されるということを明らかに示している。
INTEM値は、150mg/kgのフィブリノーゲンの投与で初期MCF値に完全に戻すことができることを示している。
改良FIBTEMテストは、MCF値に関しても同じ傾向があることを示すが、投与量が300、450および600mg/kgの場合にはMCF値は初期レベルを越える。
全ての動物で血漿フィブリノーゲン濃度は投与量に依存して増加し、これは実験全体で安定である。
血漿フィブリノーゲン濃度が初期レベルを越えて増加した場合でも、MCF INTEM値は直線状に増加しないという点に注意することは重要である。血漿フィブリノーゲン濃度が350mg/dlの時に、MCF値はプラトーに達し、フィブリノーゲン濃度がそれ以上増加してもMCF値は増加しない。
【0117】
上記の結果は、フィブリノーゲン過剰のバイオディスポニービリテ(biodisponibility)状況下での凝集過剰反応を防ぐ保護メカニズムの存在を暗示している。血漿EXTEM(実際に血小板は存在しない)のデータはこのタイプの挙動を示していないので、このメカニズムには血小板の存在が重要であると思われる。特に、高投与量(300〜600mg/kg)のグループではMCF値はベースライン値(「ベースライン」)を越えて増加する。
驚くことに、実施例2の結果は、マクロまたはミクロ(macroscopicallyまたはmicroscopically)な観点から見て、フィブリノーゲンは凝固亢進(hypercoagulation)状態を誘導せず、血栓塞栓性(thromboembolic)状態を誘導しないということを示している。
フィブリノーゲンはトロンビン生産またはTATに影響を及ぼさない。
【0118】
本発明者が知る限り、実施例2で示された結果は生体に投与可能なフィブリノーゲン投与量としてヒトで推薦されているフィブリノーゲン投与量(Austrian Society of Anaesthesiology, Reanimation and Intensive Care Medicine: 下記インターネットアドレスでアクセス可能:http://www.oeagri.at/dateiarchiv/116/ Traumainduziertes%20 Gerinnungsmanagement.pdf)の12倍以上であることを最初に示したものである。
【0119】
実施例2の結果はフィブリノーゲン投与後に血液ロスが減り、肝性外傷後に投与量依存状態で凝血サイズが増加することを示している。
これらの結果はフィブリノーゲン処置後のMCF値の増加に関するデータに対応し、フィブリノーゲン投与後に凝血形成能が改善されることを明らかに示している。特に、150mg/kg以上のフィブリノーゲン投与量で凝血サイズを大幅に増やすことができる。
【0120】
要約すると、実施例2の結果はヒト・フィブリノーゲン濃縮物(FGTW)の投与が投与量依存状態(maniere dose-dependante)で希釈凝固を反転(reverse)させることができるということを実証している。150mg/kgの投与量の処置でMCF値をベースライン値に完全に戻すことができる。実施例2の結果はさらに、血漿・フィブリノーゲン濃度が350mg/dlでMCF INTEM値はプラトーに達することを示している。血漿フィブリノーゲン濃度がさらにら高くなってもMCF値はそれ以上増加しない。フィブリノーゲン投与は肝性外傷後の血液ロスを大きく減し、投与量依存的に凝固能を増加させる。
【0121】
高凝固性が検出されなかった事実から、これらの結果はフィブリノーゲンの投与量をこれより高くしても、ヒトには完全に無害であることを示唆している。ヒトに対して推薦されている投与量の12倍の高い投与量の処置でも望ましくない効果、例えば血栓または肺動脈塞栓は生じない。実施例の結果はさらに、望ましくない効果を引き起こさずに、フィブリノーゲンを高い投与量で非常に短時間で投与できるということを示している。
【0122】
以下で詳細に示すように、実施例2の結果は、人間でのフィブリノーゲン投与に置き換えた時には6gのフィブリノーゲン投与量で5分の投与時間でフィブリノーゲンを投与することで、患者に望ましくない効果を起こさずに、出血を予防または阻止する効果があることを示している。より正確には、実施例2の結果は、600mg/kgの量のフィブリノーゲンを30分の投与持続時間で投与する、すなわちブタの試験モデルで0.02g/kg/分のフィブリノーゲン投与速度で投与することで、いかなる望ましくない効果も引起指すに、血行動力学的パラメータを再建するのに有効な効果が得られることを示している。実施例2で使用したフィブリノーゲン濃縮物(組成物「FGT1」)はヒトフィブリノーゲンを15g/lすなわち0.015グラム/ミリリットルの濃度で含む点に留意する必要がある。0.02g/kg/分のフィブリノーゲン投与量を得るためにはブタに上記組成物「FGT1」を1.33ml/kg/分で投与する。
【0123】
60kgの体重の人間の患者に置換えた場合、上記組成物「FGT1」を1.33ml/kg/分の投与量で投与するには上記組成物「FGT1」を80ml/分の投与速度で成人患者に投与することになる。従って、人間の成人患者に組成物「FGT1」を用いて6gの投与量でフィブリノーゲンを投与するには、患者に400mlの容積の組成物「FGT1」を80ml/分の投与速度で投与する必要がある。この投与速度で6gの投与量のフィブリノーゲンを投与する場合、人間の患者に5分間で投与ができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
医薬の一回の投与量でのフィブリノーゲン量を少なくとも4.5gにし且つ30分以下の投与持続時間で迅速に投与する、激しい出血の処置および予防に用いられる医薬の製造でのフィブリノーゲンの使用。
【請求項2】
上記医薬が腸管外経路、好ましくは静脈内経路によって投与するのにてきしたものである請求項1に記載の使用。
【請求項3】
上記医薬が初期フィブリノーゲンレベルとは独立して投与される請求項1または2に記載の使用。
【請求項4】
上記医薬が血液凝固能を元に戻すことができる医薬である請求項1〜3のいずれか一項に記載の使用。
【請求項5】
上記医薬が激しい出血を制御し、制御できない出血の進行を防ぐことができるものである請求項1〜3のいずれか一項に記載の使用。
【請求項6】
激しい産後の出血の処置用である請求項1〜3のいずれか一項に記載の使用。
【請求項7】
外科の激しい出血の予防または処置用である請求項1〜3のいずれか一項に使用。
【請求項8】
上記医薬が外傷後の激しい出血の処置用である請求項1〜3のいずれか一項に使用。
【請求項9】
上記医薬が上記以外の激しい出血の予防および処置用である請求項1〜3のいずれか一項に記載の使用。
【請求項10】
フィブリノーゲンが組換え型フィブリノーゲンおよび精製された天然のフィブリノーゲンの中から選択される請求項1〜9のいずれか一項に記載の使用。
【請求項11】
フィブリノーゲンがウイルス安全性の高いフィブリノーゲン濃縮物から成る請求項1〜9のいずれか一項に記載の使用。
【請求項12】
一回の投与量が少なくとも4.5gに等しい非経口投与に適した上記医薬の活性成分としてフィブリノーゲンを含む医薬組成物。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate


【公表番号】特表2012−519674(P2012−519674A)
【公表日】平成24年8月30日(2012.8.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−552495(P2011−552495)
【出願日】平成22年3月5日(2010.3.5)
【国際出願番号】PCT/FR2010/050380
【国際公開番号】WO2010/100385
【国際公開日】平成22年9月10日(2010.9.10)
【出願人】(511216008)ラボラトワール フランセ デュ フラクショヌマン エ デ ビオテクノロジ (1)
【Fターム(参考)】