説明

フィブリル化繊維製造装置およびフィブリル化繊維の製造方法

【課題】本発明においては、高圧力を要せずして、カット繊維に対しても微細なフィブリル化繊維を得ることができる製造装置と、製造方法を目的とする。
【解決手段】フィブリル化繊維製造装置が、繊維分散液を吸入する吸入口と吐出する吐出口が設けられ、吸入した原料を吐出するように円筒形の空間を形成するケーシング部と、前記ケーシング内に設置された高速で回転するローターと、前記ローターの外周縁と間隙を保持して繊維分散液の攪拌を行う領域を形成するように配置されたステーターと、を有することよりなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はフィブリル化繊維製造装置およびフィブリル化繊維の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
フィブリル化は、繊維をさらに微細繊維に枝分かれさせて、表面を毛羽立たせた構造とすることである。フィブリル化繊維はフィルター、吸収シート、電気化学素子用セパレータ、繊維強化プラスチック、ブレーキ装置の摩擦材、クラッチフェーシングなどに用いられている。フィルターの内、液体濾過用フィルター(濾材)は、濾材の内部で固体粒子を捕捉する構造である内部濾過タイプ、濾材の表面で固体粒子を捕捉する構造の表面濾過タイプに大別される。放電加工機やIC生産工程で使用される液体濾過用フィルターの濾材として、天然パルプと有機繊維の混抄シートにフェノール樹脂等を含浸処理したシートやポリエステル不織布等が使用されている。しかし、これらは固体粒子の濾過効率が低く、寿命が短い等の問題点がある。また、高性能の濾材として、フッ素樹脂等の多孔質シートがあるが、高価なために特殊用途に限定され、多量の液体を処理する濾材としては不適当であった。これらの問題を解決する濾材としてフィブリル化した繊維を用いる方法が提案されている(例えば、特許文献1〜4)。
また、吸収シートとしては、トップシートとバックシートの間に吸収シートを介在させた使い捨て失禁ライナーが下着類に装着して使用されている。水分や体液を吸収する吸収シートの吸収体主成分としては、フラット状木材パルプ(以下、単にパルプと記載する)と、いわゆる高分子吸収体(以下、SAPと記載する)との組み合わせが一般的である。しかし、パルプが嵩張る原因となっている。一方、SAPの比率が高くなるほど、水の吸収の際に、SAPの特性に基づくゲルブロッキング現象が起こり、吸収能力が充分発揮されない問題がある。そこで、セルロースあるいは、セルロース誘導体から得られる水和性を有するミクロフィブリル状微細繊維により、高分子吸収体粒子を被覆結合させた複合体組成物をシート状支持体上に形成させた高吸収性シート材料が提案されている(例えば、特許文献5)。
【0003】
電気化学素子の一例として、電気二重層キャパシタがあり、そのセパレータとしては、セルロースの叩解物を主体とするセパレータが使用されている。また、高耐熱用途には、耐熱性繊維が用いられる。耐熱性繊維とは、軟化点、融点、熱分解温度の何れもが、250℃以上の合成繊維をさす。上記したセパレータには、フィブリル化した繊維を抄造した不織布が用いられる。フィブリル化した繊維を用いると、不織布には微小な空隙が多数保持されるため、電解液保持性や電解液親和性が良くなり、電気化学素子の内部抵抗を下げることができる(例えば、特許文献6)。
従来、繊維強化プラスチックに含有させる強化材としては、優れた強度を有するガラス繊維が用いられてきた。しかし、繊維強化プラスチックを燃焼させて、熱エネルギーを回収するサーマルリサイクルを行う場合には、ガラス繊維が不燃物であるため、燃焼炉を損傷させたり、燃焼効率が低くなる問題があった。そこで対策として補強材に植物繊維を用いた繊維強化プラスチックが提案されている(例えば、特許文献7、8)。
補強材にセルロース繊維を用いた場合、ガラス繊維よりも強度が落ちるが、セルロースをフィブリル化することで、繊維間の密着性が向上し、結果として強化繊維プラスチックの強度が大きく向上することが報告されている(例えば、特許文献9)。
また、ブレーキパッドやクラッチフェーシング等に広く使用される摩擦材は、耐熱性の高分子繊維(有機繊維)、無機繊維、金属繊維等の繊維材料と無機・有機充填材、摩擦調整剤および熱硬化性樹脂バインダー等の粉末原料とを混合してなる出発原料を常温にて成形し、次いで所定温度にて熱成形し、硬化および仕上げ処理することにより所定の形状寸法に形成される。前記摩擦材には、フィブリル化した繊維が構成上必要であることも報告されている(例えば、特許文献10)。摩擦材の原料に加えられている繊維材料は、摩擦材の全体に均一に分散し、且つ、分散した繊維材料相互が互いに絡み合うことで、摩擦材の機械的な強度を向上させるために配合されていて、しかも摩擦材の材質を均質化するために各種配合成分が配合比に応じた比率で繊維材料に絡み付くように、繊維材料の表面を粉体が絡み付き易いようにフィブリル化させた構造とすることが好ましいとされている。
【0004】
上述のように、フィブリル化繊維は多方面での利用がされている。これまでにも、繊維フィラメントのフィブリル化方法およびフィブリル化装置についての報告がなされている(例えば、特許文献11〜13)が、装置の構造上、カット繊維(チョップド繊維)のフィブリル化には適していない。カット繊維をフィブリル化する既存の装置として、ビーター、PFIミル、シングルディスクリファイナー(SDR)、ダブルディスクリファイナー(DDR)、ボールミル、ダイノミル、ミキサー、高圧ホモジナイザーなどの叩解、分散設備が有効であることが知られている。
【特許文献1】特許第2633355号公報
【特許文献2】特許第3305372号公報
【特許文献3】特開平11−70305号公報
【特許文献4】特開2000−153116号公報
【特許文献5】特開平10−168230号公報
【特許文献6】特開2007−67389号公報
【特許文献7】特開平5−92527号公報
【特許文献8】特開2002−69208号公報
【特許文献9】特開2005−67064号公報
【特許文献10】特開2000−144546号公報
【特許文献11】特開2000−144547号公報
【特許文献12】特開2000−144548号公報
【特許文献13】特開2000−154438号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、前述のフィブリル化装置でも、SDR、DDRは繊維の大量処理には適するが、圧力調整ができず、微細なフィブリル化繊維を製造するには適していないという問題があった。また、高圧ホモジナイザーでは微細にフィブリル化することが可能であるが、70MPa〜200MPaの高圧力で製造する必要があり、設備費等の経済的負担が大きいという問題があった。
本発明においては、高圧力を要せずして、カット繊維に対しても微細なフィブリル化繊維を得ることができる製造装置と、製造方法を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のフィブリル化繊維製造装置は、繊維分散液を吸入する吸入口と吐出する吐出口を有し、円筒形の空間を形成するケーシング部と、前記ケーシング内に設置された回転するローターと、前記ローターの外周縁と間隙を保持して繊維分散液の攪拌を行う領域を形成するように配置されたステーターと、を有することを特徴とする。
前記フィブリル化繊維製造装置は、前記ローターの回転によって生じる吸入口と吐出口との圧力差によって、繊維分散液を吸入することを特徴とし、前記吐出口には開閉装置および吐出圧力の計測装置が設けられていることが好ましい。
【0007】
本発明のフィブリル化繊維の製造方法は、前記フィブリル化繊維製造装置を用いたものであって、前記繊維分散液に含まれる繊維が4質量%以下であることを特徴とし、前記吐出口の吐出圧力が1MPa以下であることが好ましい、前記繊維分散液の分散媒が水であることが好ましい。
本発明のフィブリル化繊維の製造方法は、前記繊維分散液に含まれる繊維の熱分解温度が250℃以上、700℃以下であることが好ましく、前記繊維はパラ系アラミド繊維であることがより好ましい。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、上述の高圧ホモジナイザーのような高圧力を条件とせずに、微細なフィブリル化繊維を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明の実施形態について、図1、2を用いて説明する。図1は本実施形態のフィブリル化繊維製造装置10の断面図であり、図2は第2ステーターと第2ローターの拡大図である。なお、図2は便宜上ローターとステーターを離して図示するが、使用時にはステーター内にローターは組み込まれている。
【0010】
ケーシング部12には吸入口14と吐出口16が設けられている。吸入口14ならびに吐出口16はそれぞれ図示されない送液パイプを介し、該送液パイプは図示されない繊維分散液の保管タンクへ接続されている。ケーシング部12の内部は、吸入口14側から見て円形となる円筒形を形成している。ケーシング部12内側は、第1ローター18と第1ステーター20が吸入口14を覆うように配置されている。ケーシング部12内部の第1ステーター20と吐出口16の間には攪拌部40が備えられている。モーターシャフト22は図示されないモーターと連結されてケーシング部内に備えられ、モーターシャフト22は第1ローター18、第1ステーター20、第2ローター42、第2ステーター48を貫通して、第1ローター18と第2ローター42に接続されている。
排出口16には、図示されない、吐出圧力を測定するブルドン管圧力計、ならびに繊維分散液の吐出液の吐出流量を調整するボールバルブを有する開閉装置が備えられている。
第1ローター18は、回転時に繊維分散液を吸入する流れを作るための複数の羽根(突起)が円盤状の部材に形成されたものである。第1ローター18は、該羽根が吸入口側に向かうように、第1ステーター内部に設置されている。
【0011】
攪拌部40について、図2を用いてさらに詳細に説明する。攪拌部40は第2ステーター48の内側に第2ローター42が組み込まれて形成されている。第2ローター42は粗砕用ローター44と磨砕用ローター46を備え、粗砕用ローター44は該ローター外周部にらせん状の突起物が形成されている。磨砕用ローター46は外周部に細かい凹凸部が形成されている。第2ステーター48は粗砕用ステーター50と磨砕用ステーター52を備えている。粗砕用ステーター50の内側には、ケーシング部12内部に設置された際に、モーターシャフト22と平行に溝が形成されている。磨砕用ステーター52の内側には細かい凹凸部が形成されている。このような第2ステーター48の内部に、第2ローター42を任意の間隙をもって組み込むことで、繊維分散液を攪拌する領域が形成されている。
【0012】
ついで、フィブリル化繊維製造装置10を用いたフィブリル化繊維の製造法の一例を説明する。第1ローター18は、図示されないモーターの回転が伝えられたモーターシャフト22により高速で回転し、送液パイプを介して接続された繊維分散液の保管タンクから、ケーシング部12内に繊維分散液を吸入する。吸入された繊維分散液は第1ローター18と第1ステーター20の間に設けられた間隙に入ると、繊維分散液に含まれるカット繊維は剪断・破砕されながら、攪拌部40に送液される。攪拌部40では第2ステーター48内で第2ローター42が高速で回転している。前記カット繊維は、粗砕用ローター44と粗砕用ステーター50との間隙で生じる剪断力・破砕・衝撃・乱流等の物理的作用を受けながら、磨砕用ローター46と磨砕用ステーター52により形成された間隙に送液される。ついで、磨砕用ローター46と磨砕用ステーター52との間隙で生じる、より大きな剪断力・破砕・衝撃・乱流等の物理的作用を受けることで、繊維がフィブリル化される。フィブリル化されたカット繊維を含む繊維分散液は、第1ローター18が繊維分散液を吸入することによって生じる吸入口14と吐出口16の圧力差により、吐出口16からケーシング部12外へ吐出される。吐出された繊維分散液は、送液パイプを通じて繊維分散液の保管タンクへ再度送液される。前記保管タンクは送液パイプにより吸入口14と接続しているため、再びケーシング部12内の攪拌部40へ送液され処理される。この作業を繰り返し行うことにより、主に繊維軸と平行な方向に、極めて細く分割され、少なくとも一部の繊維径が1μm以下である良好なフィブリル化繊維を得ることができる。
【0013】
本発明のフィブリル化繊維製造装置においては、第2ローター42の形状・寸法は特に規定されることはなく、繊維分散液の処理量や繊維の種類に応じて決定することができる。また、第2ローターと第2ステーターの間隙は特に規定されず、目的とするフィブリル化繊維の状態によって決定することが好ましい。一般的には、200μm未満であると第2ローターと第2ステーターが熱膨張により緩衝して繊維分散液の送液が困難となりやすく、400μmを超えると繊維を充分にフィブリル化することができない。したがって、200〜400μmであることが好ましい。
【0014】
フィブリル化繊維製造装置10内での圧力は、吐出口16における繊維分散液の圧力(吐出圧力)が1MPaを超えるような条件であると、高圧タイプのメカニカルシールにしなければならず、部品が高価になるという問題が生じる。したがって、最大でも1MPaであることが好ましい。
また、フィブリル化繊維製造装置10内での圧力は、吐出口16を閉じたり、第1ローター18および第2ローター42の周速を上げることによって、上昇させることが可能となっている。第1ローター18および第2ローター42のローターの周速は、下記(1)式で表されるが、これらローターの周速が遅いとフィブリル化繊維製造装置10内の圧力が小さすぎてフィブリル化しにくくなる。一方、ローターの周速が速すぎると、フィブリル化繊維製造装置10内の圧力が1MPaを超えて、上記のような問題が生じる。このため、フィブリル化繊維製造装置10内の圧力が100kPa〜300kPaとなるように、第1ローター18および第2ローター42の周速を調整することが好ましい。
ここで、吐出口16に設置した開閉装置を開閉することにより、前記吐出圧力を制御できる。したがって、第1ローターの周速を一定として、圧力計の値を監視しながら、開閉装置の開閉を調整することによりフィブリル化繊維製造装置内10内の圧力を制御することができる。
また、フィブリル化繊維製造装置10においては、吸入口14と吐出口16に圧力差が生じるため、ポンプ等の送液装置を設置することなく繊維分散液の循環が行える。
【0015】
【数1】

【0016】
<繊維分散液>
本発明における繊維分散液とは、フィブリル化する対象となるカット繊維を分散媒に分散したものを言う。
カット繊維は一定の長さに切り揃えた繊維を指すが、10mmを超えると装置内部での詰まりやすくなる。
また、繊維分散液中の繊維量は、4質量%を超えると繊維がローターとステーターの間隔に詰まり、フィブリル化が行えない。したがって、4質量%以下であることが好ましい。
【0017】
<繊維>
本発明において、フィブリル化可能な繊維には、セルロースや耐熱性繊維が挙げられる。
(セルロース)
本発明におけるセルロースとしては、溶剤紡糸セルロース、木材繊維や木材パルプ、リンター、リント、麻、柔細胞繊維などの非木材繊維や非木材パルプ、バクテリアセルロースなどが挙げられる。柔細胞繊維とは、植物の茎、葉、根、果実等に存在する柔細胞を主体とした部分を、アルカリで処理する等して得られるセルロースを主成分とし、水に不溶な繊維を指す。本発明のセルロースは、アセチルセルロース、メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、カルボキシメチルセルロースなどのセルロース誘導体であっても良いが、これらに限定されるものではない。カルボキシメチルセルロースは、Na、K、Ca、Al、NHなどの塩型であっても良い。
【0018】
(耐熱性繊維)
本発明における耐熱性繊維とは、熱分解温度が250℃以上、700℃以下である繊維を指す。具体的には、アラミド、全芳香族ポリエステル、全芳香族ポリエステルアミド、全芳香族ポリエーテル、全芳香族ポリカーボネート、全芳香族ポリアゾメチン、ポリフェニレンスルフィド(略称PPS)、ポリ(パラ−フェニレンベンゾビスチアゾール)(略称PBZT)、ポリベンゾイミダゾール(略称PBI)、ポリエーテルエーテルケトン(略称PEEK)、ポリアミドイミド(略称PAI)、ポリイミド、ポリテトラフルオロエチレン(略称PTFE)、ポリ(パラ−フェニレン−2,6−ベンゾビスオキサゾール)(略称PBO)などが挙げられ、これら単独でも良いし、2種類以上の組み合わせでも良い。PBZTはトランス型、シス型の何れでも良い。これらの繊維の中でも、液晶性のため均一に細くフィブリル化されやすいアラミド、特にパラ系アラミドと全芳香族ポリエステルが好ましい。
【0019】
(パラ系アラミド)
パラ系アラミドは、特に限定されるものではなく、最終製品の用途に応じて選択することができる。例えば、ポリ(パラ−フェニレンテレフタルアミド)、ポリ(パラ−ベンズアミド)、ポリ(パラ−アミドヒドラジド)、ポリ(パラ−フェニレンテレフタルアミド−3,4−ジフェニルエーテルテレフタルアミド)、ポリ(4,4′−ベンズアニリドテレフタルアミド)、ポリ(パラ−フェニレン−4,4′−ビフェニレンジカルボン酸アミド)、ポリ(パラ−フェニレン−2,6−ナフタレンジカルボン酸アミド)、ポリ(2−クロロ−パラ−フェニレンテレフタルアミド)、コポリ(パラ−フェニレン−3,4′−オキシジフェニレンテレフタルアミド)などが挙げられる。
【0020】
(全芳香族ポリエステル)
全芳香族ポリエステルは、特に限定されるものではなく、最終製品の用途に応じて選択することができる。例えば、芳香族ジオール、芳香族ジカルボン酸、芳香族ヒドロキシカルボン酸などのモノマーを組み合わせて、組成比を変えて合成される。例えば、p−ヒドロキシ安息香酸と2−ヒドロキシ−6−ナフトエ酸との共重合体やポリエチレンテレフタレート等が挙げられる。
【0021】
(分散媒)
繊維分散液の分散媒は、繊維の品質に影響しないものであれば特に規定されることはない。例えば、水、アルコール等が挙げられる。この内、高温時の安定性の観点から水を用いることが特に好ましい。
【0022】
(その他)
前記繊維分散液には、前記カット繊維および分散媒の他、分散剤や消泡剤を含んでいてもかまわない。
分散剤としては、例えば花王株式会社製のエマール20C(商品名)等が挙げられる。
また、消泡剤としては、例えば花王株式会社製の消泡剤No.8(商品名)等が挙げられる。
【0023】
本発明は、ステーターとローターとの間に形成された空隙における剪断力・破砕・衝撃・乱流等の作用と、数100kPaの圧力を繊維に与えることによりフィブリル化を行うため、数10MPaに耐えるような設備を要せずに、良好なフィブリル化繊維が得られる。また、吸入口と吐出口の圧力差により繊維分散液をフィブリル化繊維製造装置内へ吸入することができるため、ポンプ等の送液装置を別途配置する必要がなく、装置のコンパクト化が図れる。
加えて、吐出圧力の監視と、吐出口の開閉ならびにローターの周速の調整によりフィブリル化繊維製造装置内の圧力を制御することができ、微細なフィブリル化をすることができる。
【実施例】
【0024】
以下、本発明について実施例を挙げて具体的に説明するが、実施例に限定されるものではない。
(実施例1)
図1に例示するフィブリル化繊維製造装置(以下、本装置と記載する)を用いてフィブリル化を行った。本装置は、直径100mmのローターを用い、ローターとステーターの間隙を200μmに設定した。本装置の吸入口と吐出口には開閉バルブ付のステンレスホースを接続し、本装置に接続されていない該ステンレスホースの端部を同一のタンクに接続した。
パラ系アラミド繊維(商品名:ケブラー、熱分解温度400℃、東レ・デュポン株式会社製)を0.5質量部と、水99.5質量部を混合した0.5質量%パラ系アラミド繊維分散液30kgを調製した。調製した0.5質量%パラ系アラミド繊維分散液を、前記タンクに投入した。続いて、ローター回転数を5400回転(rpm)に設定した。ローターの周速(m/min)を前記(1)式により算出したところ、1696m/minであった。吐出圧力が200kPaになるように出口のバルブを調整した。
その後、1時間後に、吐出口からタンクに戻る箇所にて前記繊維分散液を所定時間採取し、メスシリンダで体積を測定して流量を計測したところ、15kg/minであった。0.5質量%パラ系アラミド繊維分散液の総質量が30kgであるので、2分で本装置を1pass(サイクル)する。本実施例では80pass時にパラ系アラミド繊維分散液を0.5g採取し、顕微鏡観察を行った。顕微鏡写真を図3に示す。
【0025】
(実施例2)
160pass時にパラ系アラミド繊維分散液を採取した他は、実施例1と同様に行った。顕微鏡写真を図4に示す。
【0026】
(実施例3)
240pass時にパラ系アラミド繊維分散液を採取した他は、実施例1と同様に行った。顕微鏡写真を図5に示す。
【0027】
(比較例1)
実施例1と同様に、0.5質量%パラ系アラミド繊維分散液30kgを調製した。調製した0.5質量%パラ系アラミド繊維分散液をタンクに入れた。本装置の吸入口と吐出口を閉じ、0.5質量%パラ系アラミド繊維分散液が内部に流入しないようにした。その後、タンク内で直径6cmの3枚のプロペラを有する攪拌装置を用い、2000rpmで攪拌を60分間行ったが本設備には入れず、繊維分散液を0.5gを採取し、顕微鏡観察を行った。顕微鏡写真を図6に示す。
【0028】
(比較例2)
パラ系アラミド繊維を4.5質量部と、水95.5質量部を混合した4.5質量%パラ系アラミド繊維分散液30kgを調製した。調製した4.5質量%パラ系アラミド繊維分散液を、本装置のタンクに投入した。実施例1と同条件で本装置を運転したところ、2分で本装置内部に繊維が詰ったため、運転を停止したので、繊維のフィブリル化ができなかった。
【0029】
図6の結果から、タンク内の攪拌機による攪拌程度ではフィブリル化が行えなかった。これに対し、図3〜5の結果から、80pass、160pass、240passのいずれも繊維直径の一部が1μm以下になっており、本発明により十分なフィブリル化が行えることがわかった。また、フィブリル化繊維製造装置の通過させる回数(pass回数)が多いほど、繊維が多く枝分かれし微細なフィブリル化ができることがわかった。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明の実施形態にかかるフィブリル化繊維製造装置の断面図である。
【図2】本発明の実施形態にかかるフィブリル化繊維製造装置の攪拌部拡大図である。
【図3】実施例1の80pass時におけるパラ系アラミド繊維の拡大写真である。
【図4】実施例2の160pass時におけるパラ系アラミド繊維の拡大写真である。
【図5】実施例3の240pass時におけるパラ系アラミド繊維の拡大写真である。
【図6】比較例1におけるパラ系アラミド繊維の拡大写真である。
【符号の説明】
【0031】
10 フィブリル化繊維製造装置
12 ケーシング部
14 吸入口
16 吐出口
18 第1ローター
20 第1ステーター
22 モーターシャフト
40 攪拌部
42 第2ローター
48 第2ステーター

【特許請求の範囲】
【請求項1】
繊維分散液を吸入する吸入口と吐出する吐出口を有し、円筒形の空間を形成するケーシング部と、
前記ケーシング内に設置された回転するローターと、
前記ローターの外周縁と間隙を保持して繊維分散液の攪拌を行う領域を形成するように配置されたステーターと、を有するフィブリル化繊維製造装置。
【請求項2】
前記ローターの回転によって生じる吸入口と吐出口との圧力差によって、繊維分散液を吸入することを特徴とする、請求項1記載のフィブリル化繊維製造装置。
【請求項3】
前記吐出口に開閉装置および分散液の吐出圧力の計測装置が設けられていることを特徴とする、請求項1または2に記載のフィブリル化繊維製造装置。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載のフィブリル化繊維製造装置を用いるフィブリル化繊維の製造方法であって、前記繊維分散液に含まれる繊維が4質量%以下であることを特徴とするフィブリル化繊維の製造方法。
【請求項5】
前記ケーシング部に設けられた吐出口の吐出圧力が1MPa以下であることを特徴とする、請求項4に記載のフィブリル化繊維の製造方法。
【請求項6】
前記繊維分散液の分散媒が水であることを特徴とする、請求項4または5に記載のフィブリル化繊維の製造方法。
【請求項7】
前記繊維分散液に含まれる繊維は、熱分解温度が250℃以上、700℃以下であることを特徴とする請求項4〜6のいずれか1項に記載のフィブリル化繊維の製造方法。
【請求項8】
前記繊維がパラ系アラミド繊維であることを特徴とする請求項4〜7のいずれか1項に記載のフィブリル化繊維の製造方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−35840(P2009−35840A)
【公開日】平成21年2月19日(2009.2.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−201990(P2007−201990)
【出願日】平成19年8月2日(2007.8.2)
【出願人】(000153591)株式会社巴川製紙所 (457)
【Fターム(参考)】