説明

フィラメントワインディング成形方法

【課題】 人体に安全な光線のみで短時間で硬化し、加熱装置等の付帯設備を必要とせず、反応性モノマーの揮発を抑え、大幅な成形サイクルアップが図れ、ポットライフの問題も解決でき、各種充填材を含有する組成物においても速やかな硬化が可能なフィラメントワインディング成形方法の提供。
【解決手段】 下記一般式(1)で示される有機ホウ素化合物と酸性化合物の組み合わせである重合開始剤を含有する、不飽和ポリエステル樹脂及び/またはビニルエステル樹脂を繊維材料に含浸させ、ワインディング後可視光領域及び赤外領域の熱を発生する光源で光照射を行い、硬化させるフィラメントワインディング成形方法。
【化1】


(式中、R1 、R2 、R3 及びR4 は、独立して飽和または不飽和の炭化水素基、シリル基、複素環基、ハロゲン原子、Z+ は陽イオンを示す)

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、光照射により短時間で硬化が可能なフィラメントワインディング成形方法に関する。さらに詳しくは、繊維材料としてガラス繊維を使用した厚物組成物やカーボン繊維、アラミド繊維などを使用した原料組成物でも、短時間の光照射のみで硬化し、反応性モノマーの揮発量を少なく、安全な可視光及び近赤外光を含む光照射のみで光硬化と熱硬化を同時に行い、後硬化を必要としないフィラメントワイディング成形方法に関する。
【0002】
【従来の技術】フィラメントワインディング成形法による繊維強化プラスチックの成形は、一般に熱硬化性樹脂を含浸させた繊維材料を、マンドレルにワインディングした後、この成形体を加熱硬化してなされる。フィラメントワインディング成形に使用される熱硬化性樹脂の中には、不飽和ポリエステル樹脂、ビニルエステル樹脂などの重合性不飽和基を有する樹脂があるが、通常これら樹脂の硬化は過酸化物触媒系を用いたラジカル重合が行われ、常温から中温硬化用の触媒を使用して室温である程度まで硬化させ後、後硬化を行ったり、高温硬化用の触媒を使用して加熱硬化を行っている。しかし、この方法では硬化に長時間を要し、大がかりな加熱装置が必要であり、さらに成形性の向上には多数のマンドレルや設備が必要となる。また、常温硬化である程度硬化を進める場合には、原料樹脂の可使時間の調整を行わなければならないため、使用前の硬化や硬化時間の不必要な延長などのトラブルが発生したり、また成形時に揮発性を有する反応性モノマー(スチレンモノマーなど)が揮発するため作業現場の環境汚染を招き易く、あるいは加熱装置内でも重合終了までにモノマーが揮発し、樹脂組成物の配合比率の変化による性能の低下、樹脂量の損失と引火等の危険性を招く。
【0003】これらの欠点を解決する手段として、いくつかの提案がある。まず成形サイクルアップのため特開平4−224929号公報では、マンドレル内部へ生石灰と水を入れ、その化学反応熱により樹脂の硬化を促進させるという方法が提案されているが、化学反応を利用するために、温度コントロールが困難であるといった問題点もあり、最終的には後硬化の工程が必要な場合があり根本的な解決に至っていない。また、反応性モノマーの揮発の問題に対しては、熱硬化性樹脂中にワックスまたは変性ワックスなどの添加剤を添加する方法の提案がある。この方法によれば反応性モノマーの揮発の問題は緩和ないし克服できるが、ワックスの浮きむらなどによるトラブルや2次接着性の問題は解決できない。
【0004】反応性モノマーの揮発の防止の問題点を解決するために、常温でも速硬化となる光硬化の利用が期待できる。不飽和ポリエステル樹脂やビニルエステル樹脂のFRPの光硬化の例としては、特公昭60−8047号公報、特開平6−298818などがあり、アシルフォスフィンオキシドやビスアシルフォスフィンオキシドを開始剤に不飽和ポリエステル樹脂組成物を、高圧水銀灯で12.7mmまで硬化させる例が示されている。しかし、ここでは人体に有害であり、透過性が低い紫外線を利用しているため、成形品がさらに厚くなったり、光が透過しにくい繊維強化材を使用したり、樹脂に顔料などの充填材を充填した場合の例は示されていない。またこの中では350〜500nmあるいは300〜450nmの光が有効で、光源としては高圧水銀灯や日光が有効であるとしているが、厚物などで有効な500nm以上の長波長を利用した例はない。またこの中では過酸化物触媒の併用の記載もあるが、過酸化物触媒を併用する場合は、過酸化物そのものの危険性を伴うばかりか、熱硬化性を有効に使うためには常温から中温硬化系にすると開始剤添加樹脂のポットライフが短く可視時間に問題が生じる。また、高温硬化系にすると成形物全体を高温に上げる必要があり光照射では難しい。
【0005】光硬化をフィラメントワインディング成形に応用とした例としては、Y.OKAMOTO,Society of Manufacturing Engineers,TECHNICAL PAPER,EM94−111(1994)や特開平5−208451、特開平5−269869、特開平5−24042、特開平6−190933、特開平6−34450などがあるが、いずれも透過性の低い紫外線を使っており照射のみでの完全硬化は得られていない。従来の光硬化を利用した成形では、いずれも紫外線から500nm程度の低波長の光を利用するため、光が透過しにくい繊維強化材を使用したり、樹脂に顔料などの充填材を含有する場合、あるいは成形品が厚くなった場合など繊維強化材や充填材に光を吸収されるときは、内部まで十分に硬化させることができない欠点があった。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】本発明はこうした現状を鑑み、人体に安全な光線を利用した光照射のみで短時間で硬化することが可能であり、加熱装置等の付帯設備を必要とせず、作業環境を悪化する反応性モノマーの揮発をできるだけ抑え、且つ大幅な成形サイクルアップが図れ、同時に原料熱硬化性樹脂の可使時間(ポットライフ)の問題も解決でき、さらに各種繊維や充填材を含有する組成物においても速やかな硬化が可能なフィラメントワインディング成形方法を提供することを目的とする。
【0007】
【課題を解決するための手段】本発明は、(1)下記一般式(1)で示される有機ホウ素化合物と酸性化合物の組み合わせである重合開始剤(A)を含有する、不飽和ポリエステル樹脂及び/またはビニルエステル樹脂(B)を繊維材料(C)に含浸させ、ワインディング後可視光領域及び赤外領域の熱を発生する光源で光照射を行い、硬化させるフィラメントワインディング成形方法、
【化2】


(式中、R1 、R2 、R3 及びR4 は、それぞれ独立してアルキル基、アリール基、アラルキル基、アルケニル基、アルキニル基、シリル基、複素環基、ハロゲン原子、置換アルキル基、置換アリール基、置換アリル基、置換アラルキル基、置換アルケニル基、置換アルキニル基または置換シリル基を示し、Z+ は陽イオンを示す)(2)重合開始剤、有機ホウ素化合物と酸性化合物の組み合わせである重合開始剤(A)に、さらにヘキサアリールビイミダゾール化合物を組み合わせた重合開始剤である(1)記載のフィラメントワインディング成形方法、(3)酸性化合物が、光照射、加熱、空気中の水分及び酸素の少なくとも一つの作用により酸を発生する潜在性酸発生剤である(1)または(2)記載のフィラメントワインディング成形方法、(4)光照射及び/または加熱により酸を発生する潜在性酸発生剤が、光照射及び/または加熱により酸を発生するスルホニウム化合物である(3)に記載のフィラメントワインディング成形方法、(5)重合開始剤(A)中の有機ホウ素化合物/酸性化合物の組成比が、0.1/5〜5/0.1である請求項1〜4のいずれかに記載のフィラメントワインディング成形方法、及び(6)繊維材料がガラス繊維及び/またはカーボン繊維及び/またはアラミド繊維であり、樹脂含浸した繊維材料の割合が10〜80vol%である(1)〜(5)のいずれかに記載のフィラメントワインディング成形方法を開発することにより上記の目的を達成した。
【0008】
【発明の実施の形態】本発明で使用される熱硬化性樹脂としては、不飽和ポリエステル樹脂及びビニルエステル樹脂(以下、両樹脂を併せて樹脂等と呼ぶこともある)のうち、少なくともその一つを使用する。不飽和ポリエステル樹脂の不飽和ポリエステルとしては、公知の方法により製造されるものでよく、具体的には無水フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、テトラヒドロフタル酸、アジピン酸、セバチン酸等の重合性不飽和結合を有していない飽和多塩基酸またはその無水物とフマル酸、無水マレイン酸、マレイン酸、イタコン酸等の重合性不飽和多塩基酸またはその無水物を酸成分とし、これとエチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、1,2−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、2−メチル−1,3−プロパンジオール、2,2−ジメチル−1,3−プロパンジオール、シクロヘキサン−1,4−ジメタノール、ビスフェノールAのエチレンオキサイド付加物、ビスフェノールAのプロピレンオキサイド付加物等の多価アルコールをアルコール成分として反応させて製造されるものである。
【0009】またビニルエステル樹脂(エポキシアクリレート系樹脂)のビニルエステルとしては、公知の方法により製造されるものであり、エポキシ樹脂に不飽和一塩基酸、例えばアクリル酸またはメタクリル酸を反応させて得られるエポキシ(メタ)アクリレートであり、この場合の原料としてのエポキシ樹脂としては、ビスフェノールAジグリシジルエーテル及びその高分子量同族体、ノボラック型ポリグリシジルエーテル類などが挙げられる。また飽和ジカルボン酸及び/または不飽和ジカルボン酸と多価アルコールから得られる末端カルボキシル基の飽和ポリエステルまたは不飽和ポリエステルに、エポキシ基を有するα、β−不飽和カルボン酸エステルを反応させて得られる飽和ポリエステルまたは不飽和ポリエステルのポリエステル(メタ)アクリレートである。
【0010】末端カルボキシルポリエステルに用いる飽和ジカルボン酸としては、活性不飽和基を有していないジカルボン酸、例えばフタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、テトラヒドロフタル酸、アジピン酸、セバチン酸などが挙げられる。不飽和ジカル酸としては、活性不飽和基を有しているジカルボン酸、例えばフマル酸、マレイン酸、無水マレイン酸、イタコン酸などが挙げられる。多価アルコール成分としては、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、1,2−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、2−メチル−1,3−プロパンジオール、2,2−ジメチル−1,3−プロパンジオール、シクロヘキサン−1,4−ジメタノール、ビスフェノールAのエチレンオキサイド付加物、ビスフェノールAのプロピレンオキサイド付可物などの多価アルコールなどが挙げられる。ポリエステル(メタ)アクリレートの製造に用いるエポキシ基を有するα、β−不飽和カルボン酸エステルとしては、グリシジルメタクリレートが代表例として挙げられる。
【0011】樹脂等に用いられる不飽和ポリエステルあるいはビニルエステルは、不飽和度の比較的高いものが好ましく、不飽和基当量(不飽和基1個当たりの分子量)が100〜800程度のものを用いる。不飽和基当量100未満のものは合成できない。しかし不飽和基当量が800を越えると高硬度の硬化物が得られない。
【0012】本発明において使用される不飽和ポリエステル樹脂あるいはビニルエステル樹脂は、通常、前記の不飽和ポリエステルあるいはビニルエステルにスチレンモノマーなどの反応性モノマーを配合したものである。本発明の樹脂等に配合される反応性モノマーは、複合材料を製造する際に樹脂の粘度を下げることにより、繊維材料、顔料、フィラーなどとの混練性、含浸性を高め、かつ成形製品の硬度、強度、耐薬品性、耐水性等を向上させるために重要である。反応性モノマーの配合量としては不飽和ポリエステル及び/またはビニルエステル100重量部に対して10〜250重量部、好ましくは20〜100重量部配合される。配合量が10重量部未満では、樹脂等が高粘度のため成形困難となり、一方250重量部を超える量では、高硬度の製品が得られず、耐熱性が不足し、FRP材料として好ましくない。この場合、スチレンモノマーの一部または全部を、クロルスチレン、メチルメタクリレート、エチレングリコールジメタクリレート等の他の重合性モノマーを本発明の主旨を損なわぬ範囲で代替し、使用することも可能である。
【0013】本発明で使用される繊維材料(B)は、有機及び/または無機繊維であり、例えばガラス繊維、炭素繊維、アラミド繊維、ポリエチレンテレフタレート繊維、ビニロン繊維等の公知のものが使用される。むろんこれらの繊維を組み合わせて使用してもよく、その使用量は一般に成形品の10〜80容量%、好ましくは40〜70容量%である。ロービング繊維強化材が80容量%を超えると樹脂が均一に含浸した成形品を得にくくなり、10容量%を下回ると成形品の機械的強度が低下する。
【0014】本発明で必要に応じて使用される顔料としては特に制限されないが、例えば有機顔料及び無機顔料を挙げることができ、その使用量は重合硬化性を考慮すると樹脂等100重量部に対して0〜20重量部、好ましくは0〜10重量部である。
【0015】本発明の光重合開始剤に使用される有機ホウ素化合物としては、下記の一般式(1)
【化3】


(式中、R1 、R2 、R3 及びR4 は、それぞれ独立してアルキル基、アリール基、アラルキル基、アルケニル基、アルキニル基、シリル基、複素環基、ハロゲン原子、置換アルキル基、置換アリール基、置換アリル基、置換アラルキル基、置換アルケニル基、置換アルキニル基または置換シリル基を示し、Z+ は陽イオンを示す)で表される。
【0016】陽イオン「Z+ 」の例としては、可視光及び近赤外光領域に感光性を有しない4級アンモニウム陽イオン、4級ピリジニウム陽イオン、キノリニウム陽イオン、ジアゾニウム陽イオン、テトラゾニウム陽イオン、キスホニウム陽イオン、(オキソ)スルホニウム陽イオン、ナトリウム、カリウム、リチウム、マグネシウム、カルシウム等の金属陽イオン、フラビリウム、ピラニウム塩等の酸素原子上に陽イオン電荷を持つ(有機)化合物、トロピニウム、シクロプロピリウム等の炭素陽イオン、ヨードニウム等のハロゲン陽イオン、砒素、コバルト、パラジウム、クロム、チタン、スズ、アンチモン等の金属化合物の陽イオンが挙げられる。
【0017】本発明で使用される酸性化合物としては、例えば一般にブレンステッド酸として知られている無機酸、例えば塩酸、硫酸、硝酸など、あるいは有機酸である酢酸、プロピオン酸、マレイン酸、アジピン酸、(メタ)アクリル酸、安息香酸、フタル酸類などのカルボン酸類、p−トルエンスルホン酸、メタンスルホン酸、トリフルオロメタンスルホン酸等のスルホン酸類等が挙げられる。またフェノール、アルコール類などの水酸基含有化合物、各種チオール類などのメルカプト基を有する化合物、及びルイス酸として知られる電子対を受け取って共有結合を作り得る物質、例えば塩化アルミニウム、塩化第二スズ、三塩化ホウ素、三臭化ホウ素などを用いることが出来る。これらの酸については、例えばモリソン・ボイド著「有機化学」第3判3項に詳細な説明がある。またこれ以外にも酸性イオン交換樹脂、カーボンブラック、アルミナなど固体表面に酸性の活性点を有する物質、あるいは塩化水素、亜硫酸ガスなどの酸性気体化合物も用いることが出来る。これらの酸性化合物の中で、(無水)マレイン酸、フマル酸、あるいはそれらのハーフェステル、(メタ)アクリル酸、イタコン酸などの重合性不飽和基を有する酸性化合物あるいはそれらの官能基を有するオリゴマーあるいはポリマー類などが好んで用いられる。
【0018】さらにそのもの自体は酸性物質ではなく、加熱、空気中の水分、酸素などの作用により分解あるいは反応して酸性化合物を発生する化合物も本発明の潜在性酸性化合物に該当する。光照射により分解して酸性化合物を発生する物質も知られており、例えば光カチオン重合開始剤と呼ばれている化合物も本発明の光潜在性酸性化合物に該当する。光カチオン開始剤は、ジアゾニウム化合物、スルホニウム化合物、ヨードニウム化合物金属錯体化合物など様々な化合物が知られており、「機能材料」1985年10月号5項、「UV・EB硬化技術の応用と市場」シーエムシー社1989年発行78項などに詳細な記述がある。これらの潜在性酸性化合物と呼ぶべき化合物の中では、入手の容易性、経済性、組成物中の安定性、操作性などを勘案すると光あるいは熱によって酸を発生する化合物が望ましい。さらに好ましくは熱によっての酸発生であり、特に加熱により分解して酸を発生する有機スルホニウム化合物が好適である。この有機スルホニウム化合物は一般に3個の置換基(アルキル基、アリール基など)を有するスルホニウム陽イオン部分と、対イオンである陰イオンとのイオン対から構成されるが、化合物の安定性、酸性化合物の発生能、発生する酸性化合物の酸強度などの観点からスルホニウム塩の置換基の、少なくとも1個が(置換)フェニル基、(置換)ナフチル基などのアリール基であることが望ましい。例えば好ましい化合物としてトリフェニルスルホニウム、ジフェニルスルホニウムなどの陽イオン部分を持つスルホニウム化合物が挙げられる。開始剤を配合した樹脂組成物の可使時間(ポットライフ)が十分に長い時間必要とされる場合などは、有機ホウ素化合物と酸性化合物が開始剤の配合時に反応の開始が始まるような場合は好ましくないので、潜在性酸性化合物としては熱あるいは光などの刺激によって酸性化合物を用いることが望ましい。
【0019】また、有機ホウ素化合物と酸性化合物にヘキサアリールビイミダゾール化合物を組み合わせて光照射すると、硬化がより促進され著しい効果が見られる。ヘキサアリールビイミダゾール化合物として具体的には、ビス(2,4,5−トリフェニル)イミダゾール、ビス(2−o−クロロフェニル−4,5−ジフェニル)イミダゾール、ビス(2−o,p−ジクロロフェニル−4,5−ジフェニル)イミダゾール、ビス(2−o−ブロモフェニル−4,5−ジフェニル)イミダゾール等が挙げられる。ヘキサアリールビミダゾール化合物に関して、詳しくは特公昭41−3545に記載がある。
【0020】有機ホウ素化合物と(潜在性)酸性化合物及び/またヘキサアリールビイミダゾールを組み合わせた重合開始剤の使用量は、樹脂等の種類、繊維材料の種類、量、厚み等によって最適値が異なるが、一般には樹脂等100重量部に対して0.01〜20重量部、好ましくは0.05〜15重量部である。重合開始剤組成物の使用量が0.01重量部未満では、重合が不十分になり易く、また20重量部を超える量では経済的に不利な上、硬化物の物性低下などが起こる。樹脂等が酸性化合物をあらかじめ含有する場合においては、不飽和ポリエステル樹脂あるいはビニルエステル樹脂に含まれる(無水)マレイン酸、フマル酸、あるいはそれらのハーフエステル、(メタ)アクリル酸、イタコン酸、末端にそれらカルボン酸のカルボキシル基を有するオリゴマー、あるいはポリマーであってもよく、また樹脂等に任意の酸性化合物を添加した形のものであっても良い。この場合、不飽和ポリエステル樹脂またはビニルエステル樹脂としての酸価が0.1〜100mgKOH/g、好ましくは5〜50mgKOH/gである。
【0021】重合開始剤中の有機ホウ素化合物と(潜在性)酸性化合物の組成比は、重量比で0.1/5〜5/0.1、好ましくは0.5/5〜5/0.5である。有機ホウ素化合物及び/または潜在性酸性化合物がこの比率よりも少なすぎる場合は、十分に硬化ができず、また有機ホウ素化合物及び/または潜在性酸性化合物がこの比率よりも多すぎる場合は、経済的に不利な上、硬化物の物性低下などが起こる。また、さらに速硬化にするために有機ホウ素化合物と酸性化合物にヘキサアリールビイミダゾールを組み合わせる場合、有機ホウ素化合物/ヘキサアリールビイミダゾール比は、重量比で0.1/5〜5/0.1、好ましくは0.5/5〜5/0.5である。ヘキサアリールビイミダゾールがこの比率よりも少なすぎる場合はその効果が現れず、多すぎる場合は経済的に不利な上、可視光下での可使時間(ポットライフ)が短くなり、硬化物の物性低下などが起こる。
【0022】本発明において、可視光とは380〜780nmの波長領域の光線を示す。本発明の成形方法に使用される光源としては、380〜780nmの波長領域の光を出し、且つ熱を発生する光源であればよく、例えばメタルハライドランプ、キセノンランプ、近赤外光ランプ、ナトリウムランプ、ハロゲンランプ、白熱灯、陽光ランプ、太陽光等を使用することができる。また、各種ランプを組み合わせて使用することもできる。また、より早い硬化速度を得るためにはエネルギー順位の高い短波長の領域の光が有効であるが、樹脂組成物の厚さが厚い時、短波長領域の光を透過しにくいカーボン繊維、アラミド繊維等の繊維強化材や顔料などを使用した場合は、裏面が完全硬化し難い。この場合には380nm以上の波長で長波長領域に分布が多く熱がでる光源の光の照射が有効であり、ハロゲンランプ、近赤外光ランプ、赤外ランプ等がある。
【0023】光照射時間としては、光源の有効波長、出力、組成物の厚さ、充填物の量あるいは重合開始剤の配合量などにより異なるため、一概に規定できないが、0.01時間以上、好ましくは0.05時間以上になるように調整すればよい。
【0024】本発明のフィラメントワインディング成形方法においては、有機ホウ素化合物と酸性化合物またはこの重合開始剤にヘキサアリールビイミダゾールを組み合わせることにより行うことができ、この重合開始剤を添加した樹脂組成物はポットライフも長く可使時間の問題がなく、且つ光源からでる穏やかな熱の作用により、可視光の透過し難い部分も完全硬化できるため、ワインディング終了後に可視光及び熱を発生する光源で光照射することにより、加熱装置等付帯設備を必要とせず、短時間で硬化が可能で、大幅な成形サイクルアップをすることができる。このため成形体も高温にならないので反応性モノマーの揮発に依る作業環境の悪化を避けることができ、光透過を阻害する各種繊維を充填した組成物においても低温で速やかに硬化することが可能であり、経済性にも優れ、重合に使用する光も人体に安全な可視光及び熱を発生する光源で十分である。
【0025】
【実施例】以下に示す実施例、比較例により、本発明の内容を詳細に説明するが、各例中の「部」、「%」は重量基準を示す。
(実施例1)ビニルエステル樹脂[商品名リポキシR−802:昭和高分子(株)製]:100部に、テトラ−n−ブチルアンモニウム・トリフェニル−n−ブチルボレート[昭和電工(株)製:以下P3Bと略す。ホウ素化合物]:0.5部と、光/熱潜在性酸発生剤(スルホニウム化合物)[CI−2624:日本曹達(株)製]:1.0部を混合したものを、ガラスロービング[4026TX:日東紡(株)製]に含浸させ、その後十分に余剰樹脂を除き、ガラスロービング含有量50vol%に樹脂の含浸したガラスロービングを、平板状のマンドレルに厚さが20mmとなるまで、マンドレル回転速度24回転/分で繊維が一方向となるようにワインディングを行った。ワインディング終了後、380〜1200nmの波長領域を含む光源である、2KWメタルハライドランプ[商品名 ダイナビーム2:東芝ライテック(株)製:以下ランプ1と称す。]を使用して1mの距離でマンドレルを回転速度24回転/分で回転させながら光を照射したところ40分で裏面の温度が60℃に達し硬化した。JIS K−6911によるバーコル硬度の測定を934−1型で行い、また曲げ強度も測定したところ、バーコル硬度、曲げ強度は実用レベルにあり、表裏の差は全くなかった。その結果を表1に示す。
【0026】(比較例1)ビニルエステル樹脂[商品名リポキシR−802:昭和高分子(株)製]:100部に、紫外光から可視光領域まで感光性を有するアシルフォスフィンオキサイド系光重合開始剤[商品名 イルガキュアー1700:チバガイギー(株)製、以下I−1700と称す。]:2.0部を混合したものを使用した以外は、実施例1と全く同様の操作を行なったが、80分間光照射しても裏面の硬化が出来なかった。裏面の温度は45℃であった。結果を表1に示す。
【0027】(実施例2)不飽和ポリエステル樹脂[商品名 G−200:昭和高分子(株)製]:100部に、P3B:1.0部、熱潜在性酸発生剤[CP−66:旭電化工業(株)製]:0.7部、2,2, ービス(o−クロロフェニル)−4,5,4, ,5,−テトラフェニル−1,2, −ビスイミダゾール[和光純薬工業(株)製、以下BImと略す。]:0.5部を混合し、さらにグレーの顔料[商品名 リゴラックカラーRC843グレー:昭和高分子(株)製]:0.5部を混合したものを、ガラスロービング[4026TX:日東紡(株)製]に含浸させ、その後十分に余剰樹脂を除き、ガラスロービング含有率が50vol%となるように樹脂の含浸したガラスロービングを、平板状のマンドレルに厚さが10mmとなるまで、マンドレル回転速度24回転/分で繊維が一方向となるようにワインデイングを行った。ワインディング終了後1.2mの距離で、マンドレルを回転速度24回転/分で回転させながらランプIで光照射したところ30分で裏面の温度が55℃に達し硬化した。JIS K−6911によるバーコル硬度の測定を934−I型で行い、また曲げ強度も測定したところ、バーコル硬度、曲げ強度は実用レベルにあり、表裏の差は全くなかった。その結果を表1に示す。
【0028】(比較例2)不飽和ポリエステル樹脂[商品名G−200:昭和高分子(株)製]:100部に過酸化物触媒[パーヘキサ3M:日本油脂(株)製]:1.0部を混合したものを使用した以外は、実施例2と全く同様の操作を行ったが、60分間光照射しても裏面の硬化ができなかった。裏面の温度は41℃であった。結果を表1に示す。
【0029】
【表1】


【0030】(実施例3)ビニルエステル樹脂[商品名 リポキシH−630:昭和高分子(株)製]:100部に、P3B:0.5部、光/熱潜在性酸発生剤(スルホニウム化合物)[CI−2855:日本曹達(株)製]:0.8部、BIm:0.4部を混合したものを、カーボンロービング[商品名 トレカT300B:6000−50B:東レ(株)製]に含浸させ、その後十分に余剰樹脂を除き、カーボンロービング含有率50vol%となるように樹脂の含浸したガラスロービングを、平板状のマンドレルに厚さが2mmとなるまで、マンドレル回転速度24回転/分で繊維が一方向となるようにワインディングを行った。ワインディング終了後、ランプ1と近赤外光領域に主分光分布を持つ光源である1KWハロゲンランプ[商品名 AL−スポットライト:アールディエス(株)製:以下ランプ2と称す]を同時に1mの距離で、マンドレルを回転速度24回転/分で回転させながら光を照射したところ20分で裏面の温度が51℃に達し硬化した。JIS K−6911によるバーコル硬度の測定を934−1型で行ったところ、バーコル硬度は表裏の差はなく、また曲げ強度も測定したところ、バーコル硬度、曲げ強度は実用レベルであった。その結果を表2に示す。
【0031】(比較例3)ビニルエステル樹脂[商品名 リポキシH−630:昭和高分子(株)製]:100部にI−1700:2.0部を混合したものを使用することと光照射にランプ1のみを使用した以外は、実施例3と全く同様の操作を行ったが、80分間光照射しても裏面まで硬化が出来なかった。裏面の温度は51℃であった。結果を表2に示す。
【0032】(実施例4)ビニルエステル樹脂[商品名 リポキシR−808:昭和高分子(株)製]:100部に、P3B:0.5部、p−トルエンスルホン酸メチルエステル[和光純薬工業(株)製、以下PTSMと略す]:1.0部、BIm:0.1部を混合したものを、アラミドロービング[商品名 テクノーラT−240:帝人(株)製]に含浸させ、その後十分に余剰樹脂を除き、アラミドロービング含有率50vol%となるように樹脂の含浸したアラミドロービングを平板状のマンドレルにマンドレル回転速度24回転/分で厚さが3mmとなるまで繊維が一方向になるようにワインディングを行った。ワインディング終了後、ランプ1とランプ2を同時に1mの距離で、マンドレルを回転速度24回転/分で回転させながら光を照射したところ15分で裏面の温度が56℃に達し硬化した。JIS K−6911によるバーコル硬度の測定を934−1型で行ったところ、バーコル硬度は表裏の差はなく、また曲げ強度も測定したところ、バーコル硬度、曲げ強度は実用レベルであった。その結果を表2に示す。
【0033】(比較例4)ビニルエステル樹脂[商品名 リポキシR−808:昭和高分子(株)製]:100部に常温硬化剤[パーメックN:日本油脂(株)製]/ナフテン酸コバルトを1.2部/0.5部の割合で混合したものを使用したこと以外は、実施例4と全く同様の操作を行ったところ、光照射して30分後にようやく硬化したが、JIS K−6911により測定したバーコル硬度、曲げ強度は十分でなかった。裏面の温度は47℃であった。その結果を表2に示す。
【0034】
【表2】


【0035】
【発明の効果】本発明は、有機ホウ素化合物と酸性化合物の組み合わせである光重合開始剤(A)を含有する不飽和ポリエステル樹脂及び/またはビニルエステル樹脂(B)を、繊維材料(C)に含浸させ、ワインディング成形後、可視光及び熱を発生する光源で光照射を行い、硬化させるフィラメントワインディング成形方法である。光源としては、人体に悪影響のある紫外線を使用せずに、簡単に入手できるメタルハライドランプ、ハロゲンランプ、太陽光などの安全度の高い光源を使用でき、この光で十分に速やかに硬化できる。また、繊維材料、顔料、充填材などが配合された不飽和ポリエステル樹脂またはビニルエステル樹脂組成物を使用した場合、あるいは厚物の成形体であっても、紫外線よりはるかに透過性に優れている可視光及び近赤外光を照射することにより常温で硬化でき、かつ過酸化物系重合開始剤を使用し、加熱硬化した時と比較して同等以上の硬い成形体を得ることができる。さらに比較的低温で短時間で硬化することができるため、不飽和ポリエステル樹脂またはビニルエステル樹脂中の反応性モノマーの揮散を低く抑えることができるので作業環境の悪化を防止できること並びに生産性が高く、エネルギーの消費も少なくて済むところからトータルコストを低く抑えることができる優れた成形方法である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】 下記一般式(1)で示される有機ホウ素化合物と酸性化合物の組み合わせである重合開始剤(A)を含有する、不飽和ポリエステル樹脂及び/またはビニルエステル樹脂(B)を繊維材料(C)に含浸させ、ワインディング後可視光領域及び赤外領域の熱を発生する光源で光照射を行い、硬化させることを特徴とするフィラメントワインディング成形方法。
【化1】


(式中、R1 、R2 、R3 及びR4 は、それぞれ独立してアルキル基、アリール基、アラルキル基、アルケニル基、アルキニル基、シリル基、複素環基、ハロゲン原子、置換アルキル基、置換アリール基、置換アリル基、置換アラルキル基、置換アルケニル基、置換アルキニル基または置換シリル基を示し、Z+ は陽イオンを示す)
【請求項2】 重合開始剤、有機ホウ素化合物と酸性化合物の組み合わせである重合開始剤(A)に、さらにヘキサアリールビイミダゾール化合物を組み合わせた重合開始剤である請求項1記載のフィラメントワインディング成形方法。
【請求項3】 酸性化合物が、光照射、加熱、空気中の水分及び酸素の少なくとも一つの作用により酸を発生する潜在性酸発生剤である、請求項1及び2のいずれかに記載のフィラメントワインディング成形方法。
【請求項4】 光照射及び/または加熱により酸を発生する潜在性酸発生剤が、光照射及び/または加熱により酸を発生するスルホニウム化合物である請求項3に記載のフィラメントワインディング成形方法。
【請求項5】 重合開始剤(A)中の有機ホウ素化合物/酸性化合物の組成比が、0.1/5〜5/0.1である請求項1〜4のいずれかに記載のフィラメントワインディング成形方法。
【請求項6】 繊維材料がガラス繊維及び/またはカーボン繊維及び/またはアラミド繊維であり、樹脂含浸した繊維材料の割合が10〜80vol%である請求項1〜5のいずれかに記載のフィラメントワインディング成形方法。

【公開番号】特開平10−182769
【公開日】平成10年(1998)7月7日
【国際特許分類】
【出願番号】特願平8−357153
【出願日】平成8年(1996)12月26日
【出願人】(000187068)昭和高分子株式会社 (224)
【出願人】(000002004)昭和電工株式会社 (3,251)