説明

フィラー入りポリテトラフルオロエチレン造粒粉末の製造法

【発明の詳細な説明】
[産業上の利用分野]
本発明はポリテトラフルオロエチレン(PTFE、以下同様)のフィラー入り造粒粉末の製造法に関する。
[従来の技術]
PTFE成形粉末は懸濁重合してえられる粗粉を微粉砕したもので、圧縮成形またはラム押出法による成形に使用される。粉砕後の粒径(一次粒径)はせいぜい5μm以上、大きなもので1000μm程度まであるが、通常は100μm以下である。この成形粉末に、親水性または半親水性フィラーを均一配合させたフィラー入りPTFE成形粉末はPTFEそのものより、成形品の耐摩耗性、硬度などの向上に効果のあるものとして使用されている。
PTFEへのフィラーの均一混合は、特殊な混合機器を用いて達成可能であるが、近年成形の自動化が重視して行なわれるのに伴ない、粉末の取扱い性とくに粉末流動性を改良し、高い見掛密度を有するフィラー入り成形粉末として集塊化造粒タイプのものが製造され使用されるようになってきた。
かかる集塊化造粒の方法には、大別して乾式法と湿式法とがある。このうち前者は水を使用しない方法をいい、後者の方法は水を使用する方法をいう。後者の代表例としてPTFE、フィラーおよび有機液体の混合物を水中で攪拌する方法が知られている。この湿式法は乾式法に比べ処理後の水の分離乾燥などの工程が加わるとはいうものの、工程の生産の自動化が比較的容易である点ですぐれている。
ところがこの方法は水を使うため、ガラス粉末などの親水性または半親水性フィラーは水相に移行しやすく、PTFEに均一に混合しにくい、すなわち使用した親水性フィラーなどの全部がPTFEと混合した集塊化粉末がえられず、一部処理水中に残留するという難点がある。この現象はフィラーの分離とよばれる。また、えられた造粒粉末においても、粉末の取扱い時にフィラーが脱離することがある。
この問題に対処し、親水性または半親水性フィラーにあらかじめ疎水化表面処理を施して、その表面活性を低下させてPTFEの表面活性に近づけておいてから水中攪拌を行なうか、または攪拌の際このような作用のある物質を水性媒体へ添加して攪拌を行なうなどの方法が採用される。
この種の方法に用いられるケイ素化合物としてはアミノ官能基を含む有機シランまたはシリコーン樹脂が知られている(特公昭53−47269号公報、特公昭54−40099号公報、特公昭57−7164号公報、特公昭60−21694号公報)。
一方、この湿式法で用いる有機液体としては、25℃における表面張力が約35ダイン/cm以下のもので沸点が約30〜150℃のものが適当であるとされている(特公昭44−22619号公報、特公昭54−40099号公報、特公昭57−18730号公報ほか)。そうした有機液体の具体例としては脂肪族炭化水素や芳香族炭化水素のほかフッ化塩化炭化水素があげられている。かかるフッ化塩化炭化水素としてはトリクロロトリフルオロエタン、モノフルオロトリクロロメタン、ジフルオロテトラクロロエタン、Cl(CF2CFCl)nCl、トリクロロペンタフルオロプロパンなどのパーハロゲン化炭化水素が例示され、実際の造粒にもパーハロゲン化炭化水素が主として使用されている。
[発明が解決しようとする課題]
パーハロゲン化炭化水素は湿式造粒法に用いる有機液体として不燃性、溶剤の回収効率などの点から好ましいが、概して沸点が高く(80〜130℃)、有機液体を回収する際に高温となり、造粒粉末に熱がかかりすぎるため粒子が硬くなり、その結果、成形品の表面の肌が荒れたり、引張強さや伸び、ガス透過性、電気絶縁性などが低下する。また、回収にエネルギーコストがかかり、この点でも不利である。さらに、パーハロゲン化炭化水素はオゾン層の破壊の一因であるとされ、その使用は望ましくないとされている。
本発明はフィラーの分離がなく、かつえられた造粒粉末中にフィラーが均一に分散し、オゾン層に与える影響が少なく、しかも造粒粉末および成形品の諸物性が向上したPTFEのフィラー入り造粒粉末の製造法を提供するものである。
[課題を解決するための手段]
すなわち本発明は、平均粒径100μm以下のPTFE粉末と、アミノ官能基を含む有機シランまたはシリコーン樹脂で表面処理された親水性または半親水性フィラー(以下、(半)親水性フィラーという)とを、水と2,2−ジクロロ−1,1,1−トリフルオロエタン、1,1−ジクロロ−1−フルオロエタン、1,1−ジクロロ−2,2,3,3,3−ペンタフルオロプロパンおよび1,3−ジクロロ−1,1,2,2,3−ペンタフルオロプロパンよりなる群から選ばれた少なくとも1種のハロゲン化炭化水素(以下、特定のハロゲン化炭化水素という)とからなる2相液体媒質中で均一に混合することを特徴とするPTFEのフィラー入り造粒粉末の製造法に関する。
[作用および実施例]
本発明の製造法においては、PTFE粉末、(半)親水性フィラー、アミノ官能基を含む有機シランまたはシリコーン樹脂、特定のハロゲン化炭化水素、水、および必要に応じて他の添加物が使用される。
本発明に用いるPTFE粉末としては、たとえばテトラフルオロエチレン(TFE、以下同様)の単独重合体、2重量%以下の共重合可能な単量体で変性されたTFEの共重合体が含まれる。前記変性剤の例としては、炭素数の3〜6個のパーフルフロアルケン(たとえばヘキサフルオロプロピレン)、炭素数3〜6個のパーフルオロ(アルキルビニルエーテル)(たとえばパーフルオロ(プロピルビニルエーテル))、クロロトリフルオロエチレンなどがあげられ、これらで変性された共重合体はPTFE同様、溶融加工性を有しない。これら重合体は平均粒径100μm以下に粉砕した粉末として使用される。以上のPTFE粉末のほかに本発明の方法においては、平均粒径0.1〜0.5μmのPTFEコロイド状分散液を少割合に使用することができ、その使用はフィラーの分離防止のうえで効果を発揮するから、とくにフィラーの配合割合が多いばあいに有用である。コロイド状PTFEの使用量はPTFE粉末に対し0.1〜5重量%が好ましい。またその添加時期は特定のハロゲン化炭化水素を添加する前が適当である。
本発明に使用される(半)親水性フィラーとしては、粉末状のガラス繊維、ガラスビーズ、溶解シリカ粉末、結晶シリカ粉末、ホワイトカーボン粉末、アルミナ粉末、青銅粉末などの親水性フィラーやチタン酸カリウム繊維粉末、タルク粉末、炭酸カルシウム粉末、酸化亜鉛粉末、酸化スズ粉末、三チッ化ホウ素粉末、カーボン繊維粉末、二硫化モリブデン粉末、グラファイト粉末などの半親水性フィラーなど一般にPTFEのフィラーとして使用されている通常粒径が200メッシュ以下の粉末である。(半)親水性フィラーのPTFE粉末に対する充填量は5〜40重量%、好ましくは15〜25重量%である。充填量が5重量%より少ないばあいは成形品の耐摩擦性、耐クリープ性などの改善効果が少なく、また40重量%を超えるばあいは成形品の抗張力、伸びなどの物性が低下しすぎる。なお、本発明においては青銅粉末、カーボン繊維粉末、二流化モリブデン粉末、グラファイト粉末などの有色粉末をフィラーとするときに特に有用である。
本発明で用いるフィラーの表面処理剤としては、たとえばγ−アミノプロピルトリエトキシシラン、m−またはp−アミノフェニルトリエトキシシラン、γ−ウレイドプロピルトリエトキシシラン、γ−アニリノプロピルトリメトキシシラン、γ−(2−アミノエチル)アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−(2−アミノエチル)アミノプロピルメチルジメトキシシランなどのアミノ官能基を含む有機シラン、ジメチルシロキサン、フェニルメチルシロキサン、モノフェニルシロキサン、プロピルフェニルシロキサンなどの水溶性シリコーン樹脂があげられる。これらの表面処理剤の使用量は限定されないが、通常(半)親水性フィラーに対して0.001〜10重量%、好ましくは0.1〜1.0重量%である。
特定のハロゲン化炭化水素はオゾン層に与える影響が少なく、沸点も高すぎずまた低すぎず、しかも表面張力(25℃)が約35ダイン/cm以下のものである。具体的には、2,2−ジクロロ−1,1,1−トリフルオロエタンが表面張力17ダイン/cmで沸点27℃、1,1−ジクロロ−1−フルオロエタンが20ダイン/cmで32℃、1,1−ジクロロ−2,2,3,3,3−ペンタフルオロプロパンが16ダイン/cmで51℃、1,3−ジクロロ−1,1,2,2,3−ペンタフルオロプロパンが18ダイン/cmで56℃である。これらのうち、とりわけジクロロペンタフルオロプロパンが溶剤回収の経済性、粉体特性、成形品の諸物性がより一層改善される点から好ましい。沸点が高くなると前記のとおり造粒粉末が硬くなり、一方、沸点が低くなりすぎると凝集が不完全となり、小さい外力で壊れやすくなる傾向にある。特に好ましい沸点範囲は40〜60℃である。これらの特定のハロゲン化炭化水素は1種または2種以上組み合わせて使用される。また、必要に応じて従来より使用されている他の有機液体を併用してもよい。
特定のハロゲン化炭化水素は水と合わせて2相液体媒質を形成する。水の配合割合は特定のハロゲン化炭化水素の種類および目的とする平均粒径などによっても異なるが、通常、水/特定のハロゲン化炭化水素(重量%)は20/1〜3/1、好ましくは10/1〜5/1である。この2相液体媒質はPTFE粉末とフィラーの合計量1kgあたり、水約2〜10■および特定のハロゲン化炭化水素約0.2〜2.0■量用いる。
本発明の方法においては前記以外の疎水性フィラーであるカーボンブラックなどを適宜に依存させることができ、これらは本発明の目的に対しなんら障害とならない。
本発明における(半)親水性フィラーの表面処理用溶剤としてはケトン類、アルコール類、水などの極性溶剤が好ましい。また表面処理法としては種々の方法が採用できるが、たとえば(半)親水性フィラーをアミノ官能基を含む有機シランなどの水溶液に浸漬してひきあげたのち、望ましくは遠心脱水処理し、ついで、100℃以上好ましくは約110〜180℃で乾燥し、同時に加熱する方法が好ましく採用される。アミノ官能基を含む有機シランまたはシリコーン樹脂の水溶液の濃度としては約0.001〜10重量%、好ましくは0.1〜1.0重量%程度が適当である。
本発明の製造法の好ましい実施態様では、かくして調製された各原料をつぎの手順で配合し混合して造粒粉末を製造する。
まず、PTFE粉末と表面処理(半)親水性フィラーとを均一に混合する。この混合粉末を水−特定のハロゲン化炭化水素からなる2相液体媒質中で攪拌混合して分散させスラリー化し、ついで凝集し造粒する。かかる混合造粒方法は、手順としては従来公知の方法が採用できる。そうした方法としては、たとえば特公昭44−22619号公報、特公昭47−1549号公報、特公昭49−17855号公報、特開昭47−34936号公報などに記載された方法があげられる。
かくしてえられるPTFEのフィラー入り造粒粉末は、フィラーが均一に混入している平均粒径約200〜800μm、見掛密度約0.50〜1.000g/ccのものであり、粉末流動性に優れた取り扱いやすいものである。この造粒粉末を用いてえられた成形品は引張り強さや伸びという機械的性質にも優れたものである。
つぎに本発明の製造法および造粒粉末を実施例および比較例に基づいて説明するが、本発明はかかる実施例のみに限定されるものではない。
実施例1〜5および比較例1〜2(フィラーの表面処理)
第1表に示す(半)親水性フィラーを同表に示すアミノ官能基を含む有機シランまたはシリコーン樹脂の1.0重量%水溶液に浸漬し、充分攪拌してから静置し、沈降したフィラーを濾取し、これを120℃の加熱炉中で12時間乾燥し、表面処理(半)親水性フィラーをうる。
(PTFEのフィラー入り造粒粉末の製造)
容量が3■で中央に平ブレード2枚羽根の攪拌機を有する邪魔板2枚付きのステンレス製円筒形造粒槽に、第1表に示す量の水と同表に示す有機媒体の混合液を入れる。さらに、平均粒径35μmのグラニュラータイプのPTFE粉末(粉末流動度:1)と表面処理された(半)親水性フィラーとの混合粉末(重量比:80/20)600gを造粒槽に入れ、回転数1200rpmで5分間撹拌を続けたのち、回転数を600rpmに落として、さらに30分間攪拌し、PTFE粉末およびフィラーを共凝集して造粒する。
撹拌終了後、造粒物を60メッシュ金網で濾過し、濾過された固形物をそのまま150℃の乾燥炉中で16時間乾燥して造粒粉末をうる。
えられた造粒粉末の平均粒径、見掛密度および粉末流動度を調べた。また、各造粒粉末を使用して作製した成形品について、成形品の着色、引張強さおよび伸びを調べた。なお、(半)親水性フィラーの造粒中における分離の程度を調べるため、造粒物を60メッシュ金網で濾過したのちの濾液を濾紙で濾過し、この濾紙ごと乾燥して濾液中に遊離したフィラーの重量を求め、その量をフィラーの全使用重量で除した値(%)(フィラー分離度という)を調べた。
これらの結果を第1表に示す。また、前記の試験はつぎの要領で測定した。
平均粒径:上から順に10、20、32、48、60および80メッシュ標準フルイを重ね、10メッシュフルイ上に粉末をのせてふるい、各フルイ上に残る粉末の重量を基め、この各重量に基づいて対数確立紙上での50%粒径を平均粒径(μm)と定める。
見掛密度:JIS K−6891に準じる(内容積100ccのステンレス製円筒容器にダンパーより落として平板で擦り落とした試料の重さ(g)を内容積(cc)で割った値を見掛密度(g/cc)と定める)。
粉末流動度:特公昭60−21694号公報に詳細に記載された方法により測定し、評価する。この方法は上下に2個のホッパーを設け、上部ホッパーから下部ホッパーに粉末を落とし、ついでこの粉末を下部ホッパーから落とすことによって粉末の流動性を調べる方法である。PTFEは量が多くなるほど流動しにくくなるので、ホッパーから落下しうる量が多いものほど流動性が良好ということになる。この測定法では0から7(7を超えるときは8<と表記)の数字で表わし、大きくなるほど流動性がよいことを示す。
成形品の着色:まず、500kg/cm2の圧力下で予備成形を行ない、380℃で24時間焼成したのち、炉外で放冷してえられた直径256mm、高さ250mmの円柱状成形品の中央不を輪切りにして、切断面の中心部の着色または変色状態を目視にて判定する(○−着色および変色がない;△−少し着色または変色がある;×−著しい着色および変色がある)。
引張強さおよび伸び:500kg/cm2の圧力下で予備成形を行ない、380℃で3時間焼成したのち、炉外で放冷してえられた厚さ1.5mmのシートよりJIS K−6031に規定されたダンベル状3号型で打ち抜いた試料による破断時の強度および伸びを測定した値を引張強さ(kg/cm2)および伸び(%)と定める。


[発明の効果]
本発明のPTFEのフィラー入り造粒粉末の製造法によれば、造粒時に(半)親水性フィラーの分離が効率的に防止できかつオゾン層に悪影響を与えることが少なく、えられる造粒粉末、さらには成形品に有効かつ均一に含有させることができる。その結果、えられるPTFEの成形品は機械的性質はもちろんのこと、外観も優れたものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】平均粒径100μm以下のポリテトラフルオロエチレン粉末と、アミノ官能基を含む有機シランまたはシリコーン樹脂で表面処理された親水性または半親水性フィラーとを、水と2,2−ジクロロ−1,1,1−トリフルオロエタン、1,1−ジクロロ−1−フルオロエタン、1,1−ジクロロ−2,2,3,3,3−ペンタフルオロプロパンおよび1,3−ジクロロ−1,1,2,2,3−ペンタフルオロプロパンよりなる群から選ばれた少なくとも1種のハロゲン化炭化水素とからなる2相液体媒質中で均一に混合することを特徴とするフィラー入りポリテトラフルオロエチレン造粒粉末の製造法。

【特許番号】第2952958号
【登録日】平成11年(1999)7月16日
【発行日】平成11年(1999)9月27日
【国際特許分類】
【出願番号】特願平2−124615
【出願日】平成2年(1990)5月15日
【公開番号】特開平4−20555
【公開日】平成4年(1992)1月24日
【審査請求日】平成9年(1997)4月30日
【出願人】(999999999)ダイキン工業株式会社
【参考文献】
【文献】特開 平4−218534(JP,A)
【文献】特開 昭50−75645(JP,A)
【文献】特公 昭60−21694(JP,B2)
【文献】特公 昭57−7164(JP,B2)
【文献】特公 昭54−40099(JP,B2)
【文献】特公 昭53−47269(JP,B2)