説明

フィルターおよびフィルターエレメント

【課題】
水中のウイルス等も除去可能な繊維製の濾過精度の高いフィルターを提供する。
【解決手段】
濾過層が繊維径1nm〜500nmである繊維を含んでなり、ポアサイズの分布において最大頻度を示す値が10nm〜2μmであることを特徴とするフィルター。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は動作圧力が低く、濾過精度の優れたフィルターおよびフィルターエレメントに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、世界的な水の消費量増大を背景に、海水淡水化や汚排水の再利用など、水の浄化システムに関する要求が高まっている。この様な水浄化システムにおいては、プレフィルターとしての精密濾過膜や淡水化を行う逆浸透膜など、膜を利用したフィルターが大量に使用されている。しかし、このような膜を利用したフィルターは動作に必要な圧力が高く、大型の装置が必要となるため、動作圧力の低い濾過装置が求められている。また、大型プラントの普及に伴い、濾過効率の一層の向上が求められている。
【0003】
低圧力損失で動作圧力の低いフィルターとして、繊維のメッシュや不織布からなるフィルターが知られている。しかし、従来の繊維フィルターは濾過精度が低く、水中のウイルス等を除去できないため、水処理等の精密濾過の必要な分野では使用することができなかった。繊維フィルターの濾過精度を向上させるためには、フィルターを構成する繊維を細くする必要があるが、現在フィルター用として広く用いられているメルトブロー不織布では、特開2002−201560号公報などに開示されるように樹脂の粘度等を工夫することにより極細化を図っても繊維径は1μm程度が下限であり、ウイルス等のナノサイズの異物を捕集できるフィルターを得ることはできなかった。
【0004】
一方で、極細繊維を製造する方法として、ブレンド繊維をメルトブロー法により作成し、海成分樹脂を除去することにより、極めて細い繊維から成る不織布を得る方法も開示されている(特許文献1)。この方法によると最も細い繊維の直径は5nmと非常に細くできる一方で、0.5μmと非常に太い繊維も混入した不織布となった。このように非常に太い繊維が混入すると、その繊維の周囲に空間が生まれてしまうため、濾過精度は300nm程度となってしまい10〜100nmの大きさである水中のウイルスを除去することができなかった。
【0005】
近年、細い繊維を得る方法として、高分子溶液を噴霧して極細繊維の不織布を成型する方法が開発されている(特許文献2)。これは、高分子を溶媒に溶解させることにより粘度を低下させ、引き延ばしやすくすることにより極細繊維の作製を試みたものである。しかし、高分子溶液を単純にスプレーするだけでは繊維径は0.1〜100μmと非常にばらつきが大きくなり、均一な極細繊維を得ることはできなかった。さらに繊維を極細化する方法として、電界を利用して高分子溶液を引き延ばすエレクトロスピニング法が知られている(非特許文献1)。同手法によれば高分子溶液を効果的に延伸することが可能であるためより細い繊維が得られる。ここで、エレクトロスピニング法により製造される繊維の形態は高分子溶液の粘度により形態が異なっており、粘度の低い溶液を用いると超極細繊維である”string”が節のような”bead”により連結されている形態となり、不織布を構成する繊維の繊度のばらつきが大きくなる。また、粘度の高い溶液を用いると”string”の分率が増加し繊度のばらつきは小さくなるが、得られる繊維の直径は太くなる。このため、エレクトロスピニング法においても繊度が細く繊度のばらつきの小さな繊維は得られておらず、微小な異物を捕集するフィルターを得ることはできなかった。
【0006】
以上のように、動作圧力が低い繊維フィルターにおいて水中のウイルス等を除去可能な濾過精度の高いフィルターが求められていた。
【特許文献1】特開平5−71006号公報
【特許文献2】特開2001−129331号公報
【非特許文献1】Polymer,Vol.43,4403(2002)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は水中のウイルス等も除去可能な繊維製の濾過精度の高いフィルターを提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的は、濾過層が繊維径1〜500nmの繊維を含んでなり、ポアサイズの分布において最大頻度を示す値が10nm〜2μmであることを特徴とするフィルターによって達成される。
【発明の効果】
【0009】
本発明のフィルターは、水中のウイルス等も除去可能な繊維製で、かつ動作圧力の低い精密濾過フィルターである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明のフィルターにおける濾過層は、熱可塑性樹脂からなる繊維を含んでなることが好ましい。熱可塑性樹脂からなる繊維を含むことで、ヒートシールが可能となり、製造プロセスを簡略化し接着強度を向上させることができる。また、熱セットにより形態の保持性が高まることから、プリーツ加工時の動作圧力を高く設定することが可能となり、単位時間当たりの処理量を増加させることが可能となる。また、廃棄時のリサイクルが容易である。
【0011】
熱可塑性樹脂としては例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリ乳酸(PLA)等のポリエステル、ナイロン6(N6)、ナイロン6,6(N66)、ナイロン12(N12)等のポリアミド、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)等のポリオレフィン、ポリフェニレンスルフィド(PPS)等のポリアリーレン等が挙げられる。
【0012】
熱可塑性樹脂の融点としては、160℃以上であること好ましい。水処理の用途においては使用時の温度が100℃以下であるため汎用の熱可塑性樹脂であればよいが、オイル等の高沸点の液体を処理する際には融点の高い樹脂を使用することが好ましく、融点の高い熱可塑性樹脂を採用することでフィルターの使用範囲の制約が少なくなるからである。ここで、融点とは、結晶性樹脂の場合結晶が融解する温度を指すが、明確な融点を示さない非晶性樹脂においてはビカット軟化点や熱変形温度などを融点に相当するものとする。例えば、PLAは170℃、PETは255℃、N6は220℃、PPSは280℃である。
【0013】
また、フィルターの濾過層を形成する熱可塑性樹脂の耐薬品性が高ければ、薬品を含んだ廃液等の処理も可能となるため好ましい。例えば、N6やN66はアルカリに対して耐性があるため好ましく、PE、PP、PPSは酸・アルカリ両方に耐性があるためより好ましい。
【0014】
熱可塑性樹脂には必要に応じて粒子、難燃剤、耐電防止剤等の添加物を含有させても良く、他の成分が共重合されていても良い。
【0015】
本発明のフィルターは、濾過層が繊維径1〜500nmの超極細繊維を含んでなることが重要である。かかる超極細繊維は、従来のメルトブロー法により製造されるフィルターにおける極細繊維の1/10〜1/1000という細さであり、従来の繊維系フィルターでは成し得なかった微細物質の除去が可能になる。
また、その動作圧力は従来の多孔膜を利用した精密濾過フィルターと比較して格段に低いものとすることができる。一方、1nm未満の繊維ばかりでは、繊維の製造が困難であるばかりか繊維強度が極めて低くなるため、フィルターとして加工できない。
【0016】
上記超極細繊維の平均直径としては10〜300nmが好ましく、より好ましくは10〜150nmである。10nm以上とすることで安定した製糸性を得ることができる。また、300nm以下とすることで、超極細繊維による微細空隙により微細物質に対する高い捕集性能を得ることができる。
【0017】
超極細繊維を得るための方法としては例えば、以下のような方法を採用することができる。
【0018】
すなわち、溶剤に対する溶解性の異なる2種以上のポリマーから、易溶解性ポリマーを海(マトリックス)、難溶解性ポリマーを島(ドメイン)とするポリマーアロイ溶融体となし、これを紡糸した後、冷却固化して繊維化する。そして必要に応じて延伸・熱処理を施し、ポリマーアロイ繊維を得た後、易溶解性ポリマーを好ましくは99.9%以上、溶剤で除去することにより超極細繊維を得ることができる。
【0019】
この方法においては、超極細繊維の前駆体であるポリマーアロイ繊維における島(ドメイン)のサイズにより超極細繊維の直径がほぼ決定される。
【0020】
島(ドメイン)のサイズの制御は、ポリマーの混練の制御によって行うことができ、混練押出機や静止混練器等によって高混練することが好ましい。
【0021】
また、ポリマーの組み合わせも、島(ドメイン)のサイズに影響する。島(ドメイン)を円形に近づけるためには、島(ドメイン)ポリマーと海(マトリックス)ポリマーとは互いに非相溶であることが好ましい。しかしながら、単なる非相溶ポリマーの組み合わせでは島(ドメイン)ポリマーを十分に超微分散化させることが難しい。そこで、ポリマーの組み合わせは溶解度パラメーター(SP値)を指標として選ぶとよい。SP値とは、(蒸発エネルギー/モル容積)1/2で定義される物質の凝集力を反映するパラメータである。2つのポリマーのSP値の差が1〜9(MJ/m31/2であると、非相溶化による島(ドメイン)の円形化と超微分散化とを両立させやすく好ましい。例えば、ナイロン6(N6)とポリエチレンテレフタレート(PET)とはSP値の差が6(MJ/m3 1/2
度であり、好ましい例であるが、N6とポリエチレン(PE)とはSP値の差が11(MJ/m31/2程度であり、好ましくない例として挙げられる。
【0022】
また、溶融粘度も、島(ドメイン)のサイズに影響する。島成分を形成するポリマーの溶融粘度を海成分のそれに比べて低く設定すると、剪断力による島成分ポリマーの変形が起こりやすいため、島成分ポリマーの微分散化が進みやすく超極細繊維化の観点からは好ましい。ただし、島成分ポリマーを過度に低粘度にすると海化しやすくなり、繊維全体に対するブレンド比を高くできないため、島成分ポリマーの粘度は海成分ポリマー粘度の1/10以上とすることが好ましい。
【0023】
海(マトリックス)ポリマーを溶解し島(ドメイン)ポリマーを溶解し難い溶剤としては、アルカリ溶液、酸性溶液、有機溶媒、超臨界流体等を挙げることができる。例えば、ナイロンとポリエステルとの組み合わせにおいて、アルカリ溶液に対しては、ナイロンが難溶解性を示し、ポリエステルが易溶解性を示す。
【0024】
濾過層における超極細繊維の含有量としては、1〜70質量%が好ましく、より好ましくは3〜65質量%、さらに好ましくは5〜60質量%である。1質量%以上とすることで、微細物質の除去の実効を得ることができる。また、70質量%以下とすることで、動作圧が高くなるのを防ぐことができる。さらに、5質量%以上とすることで、濾過層において、超極細繊維の偏在を抑えることができる。
【0025】
濾過層には、前記超極細繊維の他に、繊維径0.5μm超、70μm以下の繊維を含んでなることが好ましい。繊維径0.5μm超の繊維によって、濾過層の基本骨格を形成し、濾過層の形態安定性を付与することが可能になり、製造工程におけるハンドリング性やフィルターとしての使用におけるフィルター機能の安定性を向上できる。一方、繊維径が70μm超であると繊維間空隙が広く、また不陸となり、均一な孔を形成することが困難になる。
【0026】
濾過層の形状としては、メッシュ、不織布等を採用することができる。生産性の面からは不織布が好ましい。
【0027】
本発明のフィルターは、濾過層のポアサイズの分布において最大頻度を示す値が10nm〜2μmであることが重要である。濾過層のポアサイズの分布において最大頻度を示す値を前記範囲内にすることによって、極めて多くの微細な孔を有することで濾材としての圧力損失が低減でき、フィルターとして用いたときに極めて低い動作圧を達成することができる。ポアサイズの分布において最大頻度を示す値が10nm未満であるとその濾過精度は高くなるが、濾過抵抗が高くなり過ぎたり、捕捉した粒子によってその開孔が閉塞され、使用中に圧力損失が急激に上昇するといった問題が生じる可能性がある。また、2μm超であると十分な濾過精度を得ることができないといった問題がある。濾過層のポアサイズの分布において最大頻度を示す値は、超極細繊維を散在させることによって、上記範囲内とすることができる。
【0028】
さらに、濾過層のポアサイズの最大値(バブルポイント径)が50nm〜10μmであることが好ましい。最大値が10μmを超えると捕捉対象物を捕捉できずにフィルターの下流側へ流出する可能性が高くなり、捕集効率が低下する。50nm未満になると細孔が小さくなりすぎ、フィルターの圧力損失が高くなる。さらに濾材のポアサイズの最大値が分布において最大頻度を示す値の近傍にあることによって、分布において最大頻度を示す値近傍で均一的な細孔が存在することで濾過媒体の流れを乱すことなく圧力損失を低く保つことが可能となる。
【0029】
本発明のフィルターの濾過層において、超極細繊維が濾過層の厚み方向わたって分散していることが好ましい。すなわち、2次元的に超極細繊維が配置されているだけでは、すぐに捕集粒子によって目詰まりを起こし、使用できなるが、濾過層の厚み方向わたって分散されていることで、3次元的に配置され、濾過層の厚み方向で捕集することが可能になり、フィルターの長寿命化が可能となる。
【0030】
超極細繊維から成る不織布を作製する手順としては、ポリマーアロイ繊維から超極細繊維を取り出してその超極細繊維から不織布を作成しても良いし、ポリマーアロイ繊維から成る不織布を形成してその後海成分ポリマーを溶出することで超極細繊維からなる不織布を作成しても良いが、超極細繊維の一本一本が分散したフィルターを得やすいという点では前者が好ましい。
【0031】
超極細繊維から不織布を作製する方法としては例えば、湿式抄紙法を挙げることができる。
【0032】
湿式抄紙法の例としては、まずポリマーアロイ繊維から形成される超極細繊維は凝集して束状になっているため、分散性の向上のために当該束を0.1〜10mmにカットすることが好ましい。カットした超極細繊維の束に対し、パルパー、ビーター、リファイナー等を用いて叩解することも好ましい。束状の凝集体をほぐして更に分散性を向上させるためである。
【0033】
また、さらに分散性を向上させるため界面活性剤を用いることも好ましい。
【0034】
界面活性剤は、アニオン系、カチオン系、ノニオン系、両性に分類される。アニオン系界面活性剤としては、例えば、カルボン酸塩、硫酸エステル塩、スルホン酸塩、リン酸エステル塩などが挙げられる。カチオン系界面活性剤としては、アミン塩、アンモニウム塩などが挙げられる。ノニオン系界面活性剤としては、エーテル型、エステル型、アミノエーテル型などが挙げられる。両性界面活性剤としては、ベタイン型などが挙げられる。これらの中から、繊維の分散性の良好な物を適宜選択して用いればよい。また、均一に混合分散した繊維の分散安定性を向上させるために、アニオン性のポリアクリルアミド系粘剤等を繊維分散液に添加することも好ましい。
【0035】
湿式抄紙は、一般紙や湿式不織布を製造するための抄紙機、例えば、長網抄紙機、円網抄紙機、傾斜ワイヤー式抄紙機などの湿式抄紙機で行うことができる。この時、後述する支持層上に直接に抄紙を行い、直接に複合不織布を作成してもよい。
【0036】
抄紙後の乾燥には、シリンダードライヤー、スルードライヤー、赤外線ドライヤーなどの乾燥機を用いることができる。
【0037】
湿式抄紙により得られた不織布は超極細繊維が非常に緻密に充填され単繊維の脱落が起こりにくいため、そのままでも十分にフィルターとして利用可能であるが、必要に応じて各種バインダーを付与し、強度、剛性を向上させること好ましい。
【0038】
バインダーとしては、樹脂バインダーや、例えばポリエステル系の繊維バインダーを使用することができる。
【0039】
バインダーの濾過層に対する量としては、20〜40質量%が好ましく、より好ましくは30%以下である。20質量%以上とすることで、フィルターの強度向上の実効を得ることができる。また40質量%以下とすることで、圧力損失の増大を押さえ、フィルターの寿命を維持できる。
【0040】
また、バインダーと架橋剤とを併用してもよい。
【0041】
本発明のフィルターは、濾過層のみから構成されていてもよいが、濾過層および支持層が複合されて構成されていることも形態保持の点で好ましい。
【0042】
支持層の目付としては、形態保持性から30〜500g/mであることが好ましく、より好ましくは50〜200g/mである。
【0043】
支持層は濾過層の上流側に設置しても下流側に設置しても良いし、支持層で濾過層を挟み込んでも良いが、支持層を濾過層より上流側に設ける態様は、支持層で粗大粒子を補足できるために濾過層の目詰まりが抑制されフィルター寿命が長くなるので好ましい。
【0044】
積層された濾過層と支持層の結合方法としては、熱融着、ニードルや水流を利用した繊維同士の交絡等を採用することができる。
【0045】
積層された濾過層と支持層との結合の態様としては、結合部分をドット状に分散させると、濾過流体の通過を妨げないので好ましい。
【0046】
また、本発明のフィルターには、用途や目的に応じて親水処理などの表面処理を行うことが好ましい。液体の処理においてはフィルター材と液体との親和性が圧力損失や捕集効率に影響するからである。
【0047】
フィルターの形態としては、平板のまま積層してエレメントとしてもよいが、プリーツ型、スパイラル型、封筒型に加工してエレメントとすることが好ましい。
【実施例】
【0048】
[測定方法]
(1)ポアサイズ
ASTM F316−86に規定される方法によって、測定した。具体的には、PMI社製“パームポロメーター”を用いて測定し、得られたポアサイズ分布から1nm刻みで分布において最大頻度を示す値と最大値を得た。
【0049】
(2)ポリマーの溶融粘度
キャピラリー式レオメーター(東洋精機製“キャピログラフ”1B)により、各実施例・比較例の紡糸温度に対応した、剪断速度1216sec−1での溶融粘度を測定した。サンプル投入から測定開始までのポリマーの貯留時間は10分とした。
【0050】
(3)融点
Perkin Elaer DSC−7を用いて2nd runでポリマーの融解を示すピークトップ温度をポリマーの融点とした。昇温温度は16℃/分、サンプル量は10mgとした。
【0051】
(4)フィルター断面観察
フィルターの断面を切り出して、その断面に白金−パラジウム合金を蒸着し、走査型電子顕微鏡(SEM)(日立社製 S−4000型)でフィルター断面を観察した。
【0052】
(5)フィルターを構成する繊維の直径
SEMによる濾過層断面写真から極細繊維の直径を計算し、それの単純な平均値を求めた。
濾過層について、2つの異なる倍率で5つの視野で観察した。すなわち、倍率1000倍・視野サイズ600μm角の視野を異なる箇所で5つとり、その視野内で無作為抽出した50本の直径1nm〜500nmの繊維の直径を10nm刻みで観察した。また、同じ層で倍率200倍・視野サイズ3mm角の視野を異なる箇所で5つとり、その視野内で無作為抽出した50本の直径が500nmを超える繊維の直径を1μm刻みで観察した。
そして、2種の倍率×5箇所の計10視野について、視野サイズ及び層の厚みを考慮して、層の単位断面積あたりの繊維径の分布をとり、本発明で規定する極細繊維の平均直径を算出した。
【0053】
(6)フィルターを構成する繊維の質量比率
上記(5)で得た繊維径の分布データに対し、繊維の直径の刻み区間の直径の代表値と当該区間において占める繊維の素材(ナイロン6等)の密度とから繊維の単位長さあたりの重量を算出し、本数による頻度から重量による頻度の重み付けをした。当該重量による頻度の重み付けをした繊維径の分布データから、本発明で規定する極細繊維の重量比率を算出した。
【0054】
(7)ポリマーアロイ繊維の力学特性
ポリマーアロイ繊維10mの重量をn=5回測定し、これから繊繊度(dtex)を求めた。そして、室温(25℃)で、初期試料長200mm、引っ張り速度200mm/分の条件で、JIS L 1013により荷重−伸度曲線を求め、破断時の荷重値を初期の繊度で割って強度とし、破断時の伸びを初期試料長で割って伸度とした。
【0055】
(8)濾過精度
ラテックス粒子(ポリスチレン系ポリマー、直径88nm、ダウケミカル社製)を2質量部、ドデシル硫酸ナトリウムを20質量部、イオン交換水を978質量部の割合で混合し、均一分散液とした。
測定するフィルターを25mmに打ち抜き、界面活性剤溶液に浸漬し、親水化を行い、次いで水と置換した。
試験片をフィルターホルダーに組み込み、均一分散液を差圧49kPaで供給し、その透過した濾液を10mL採取した。
濾過前後の均一分散液260nm波長光に対する吸光度をUV吸光度計にて測定し、濾液中の粒子濃度を求めた。同様の方法で測定される濾過前の均一分散液中の粒子濃度と濾過後の均一分散液中の粒子濃度とから、フィルターの粒子阻止率を計算した。
【0056】
(9)透水量
濾過精度の測定と同様の手順でフィルターをフィルターホルダーに組み込み、25℃のイオン交換水を差圧49kPaで供給し、その透過流量を測定した。
【0057】
[実施例1]
ポリブチレンテレフタレート(PBT)(溶融粘度200Pa・s(245℃、121.6sec−1)、融点225℃)20質量%と、溶融粘度210Pa・s(245℃、121.6sec−1)の2−エチルヘキシルアクリレートを22mol%共重合したポリエスチレン(co−PS)(溶融粘度60Pa・s(245℃、1216sec−1))80質量%とを、2軸混練押出機を用いて混練温度235℃で溶融混練し、ポリマーアロイチップを得た。
【0058】
このポリマーアロイチップをプレッシャーメルタを備えた溶融紡糸装置に投入し、溶融温度260℃、紡糸温度260℃(口金面温度245℃)、単孔吐出量1.0g/分、紡糸速度1200m/分の条件で溶融紡糸を行った。ここで、口金としては吐出孔上部に直径0.3mmの計量部を備えた、吐出孔径が0.7mmのものを用いた。得られた未延伸糸を延伸温度100℃、延伸倍率2.49倍、熱セット温度115℃の条件で延伸熱処理した。作成されたポリマーアロイ繊維は80dtex、24フィラメントであり、強度1.0cN/dtex、伸度33%であった。このポリマーアロイ繊維を4万dtexに引きそろえ、枷に巻きつけた後、トリクロロエチレンに1時間浸漬することでポリマーアロイ繊維中のco−PS成分の99%以上を溶解除去した。さらに水洗、乾燥することで超極細繊維束を作製した。得られた超極細繊維束の力学特性は、強度1.7cN/dtex、伸度60%であった。
【0059】
得られた極細繊維束を長さ2mm長に切断して、超極細繊維のカット繊維を得た。タッピースタンダードナイヤガラ試験ビーター(東洋精機製)に水23Lと先ほど得られたカット繊維30gを仕込み、5分間予備叩解し、その後余分な水を切って繊維を回収した。この繊維の重量は250gであり、その含水率は88%であった。含水状態の繊維250gをそのまま自動式PFIミル(熊谷理機製)に仕込み、回転数1500回転、クリアランス0.2mmで6分間叩解した。ファイバーミキサーMX−X103(ナショナル製)に叩解した繊維4.2g、分散剤としてノイゲンEA−87(第一工業製薬製)を0.5g、水500gを仕込み、5分間撹拌してPBTナノファイバーの水分散体を得た。上記で得られた水分散体250g、水20Lをセミオートマチック角型シートマシン(熊谷理機製)に仕込み、No.2定性用ろ紙(アドバンテック製)の上に抄紙し、そのまま高温用回転型乾燥機(熊谷理機製)を用いて110℃で乾燥して、ろ紙から繊維シート部分をはがして厚さ0.3mmの不織布を作成し、濾過層とした。
【0060】
この濾過層断面をSEMにより解析した結果、繊維径1〜500nmの繊維のみで構成されていた。この不織布をフィルターとして濾過精度と透水量を測定した。結果を表1に示す。
【0061】
この不織布を用いたフィルターは直径88nm以上の粒子をほぼ完全に阻止する、濾過精度に優れたフィルターとなった。また、透水量も0.04L/hr・m・Paと多く、優れたフィルターであった。
【0062】
[実施例2]
ナイロン6(N6)(溶融粘度53Pa・s(262℃、剪断速度121.6sec−1)、融点220℃)20質量%と、溶融粘度310Pa・s(262℃、剪断速度121.6sec−1)、融点225℃のイソフタル酸を8mol%、ビスフェノールAを4mol%共重合した融点225℃の共重合ポリエチレンテレフタレート(co−PET)(溶融粘度180Pa・s(262℃、1216sec−1))(80質量%)を2軸混練押出機で260℃で混練してポリマーアロイチップを得た。
【0063】
このポリマーアロイチップを1軸押出機を備えた溶融紡糸装置に投入し、溶融温度275℃、紡糸温度280℃(口金面温度262℃)、単孔吐出量2.9g/分、紡糸速度900m/分の条件で溶融紡糸を行った。ここで、口金は実施例1と同じものを用いた。得られた未延伸糸を延伸温度90℃、延伸倍率3.2倍、熱セット温度130℃の条件で延伸熱処理した。作成されたポリマーアロイ繊維は240dtex、24フィラメント、強度4.0cN/dtex、伸度35%であった。このポリマーアロイ繊維を4万dtexに引きそろえ、枷に巻きつけた後、90℃の3質量%水酸化ナトリウム水溶液にて2時間浸漬することでポリマーアロイ繊維中のco−PET成分の99%以上を加水分解除去した。さらに酢酸で中和後、水洗、乾燥することで超極細繊維束を作製した。この超極細繊維束の力学特性は、強度2.0cN/dtex、伸度50%であった。
【0064】
得られた極細繊維束を長さ2mmにカットした繊維2gと繊維径0.6dtexのポリエステル繊維を同じく、長さ2mmにカットした繊維2gとを混合し、実施例1と同様に超極細繊維が単分散した水溶液を作製した。得られた水分散体250g、水20Lをセミオートマチック角型シートマシン(熊谷理機製)に仕込み、No.2定性用ろ紙の上に抄紙し、そのまま高温用回転型乾燥機(熊谷理機製)を用いて110℃で乾燥して、ろ紙から繊維シート部分をはがして厚み0.4mmの不織布を作成し、濾過層とした。
【0065】
この濾過層断面をSEMにより解析した結果、繊維径1〜500nmの繊維が50%含まれて構成されていた。この不織布をフィルターとして濾過精度と透水量を測定した。結果を表1に示す。
【0066】
この不織布を用いたフィルターは直径88nm以上の粒子をほぼ完全に阻止する、濾過精度に優れたものであった。また、透水量も0.05L/hr・m・Paと多く、優れたフィルターであった。
【0067】
[実施例3]
ナイロン6(N6)(溶融粘度87Pa・s(235℃、剪断速度121.6sec−1)、融点220℃)20質量%と、ポリL乳酸(PLA)(溶融粘度75Pa・s(235℃、剪断速度121.6sec−1)、融点170℃)80質量%とを、230℃に設定した2軸混練押出機で混練してアロイ樹脂を得た。なお、このPLAの225℃、1216sec−1での溶融粘度は52Pa・sであった。
【0068】
このポリマーアロイチップを1軸押出機を備えた溶融紡糸装置に投入し、溶融温度230℃、紡糸温度230℃(口金面温度215℃)、単孔吐出量0.7g/分、紡糸速度1350m/分の条件で溶融紡糸を行った。ここで、口金には吐出孔径0.3mmのものを用いた。得られた未延伸糸を延伸温度90℃、延伸倍率3.04倍、熱セット温度130℃の条件で延伸熱処理した。作成したポリマーアロイ繊維は85dtex、48フィラメント、強度3.0cN/dtex、伸度36%であった。このポリマーアロイ繊維を4万dtexに引きそろえ、枷に巻きつけた後、90℃の3質量%水酸化ナトリウム水溶液にて2時間浸漬することでポリマーアロイ繊維中のPLA成分の99%以上を加水分解除去した。さらに酢酸で中和後、水洗、乾燥することで超極細繊維束を作製した。この超極細繊維束の力学特性は、強度1.3cN/dtex、伸度17%であった。
【0069】
得られた極細繊維束を長さ2mmにカットした繊維1gと、繊維径0.6dtexのポリエステル繊維を同じく、長さ2mmにカットした繊維3gとを混合し、実施例1と同様に超極細繊維が単分散した水溶液を作製した。得られた水分散体250g、水20Lをセミオートマチック角型シートマシン(熊谷理機製)に仕込み、No.2定性用ろ紙の上に抄紙し、そのまま高温用回転型乾燥機(熊谷理機製)を用いて110℃で乾燥して、ろ紙から繊維シート部分をはがして厚み0.4mmの不織布を作成し、濾過層とした。さらにこの濾過層に支持層として東レ(株)製“アクスターG2100”を超音波によりドット状に接着し、フィルターとした。
【0070】
この濾過層断面をSEMにより解析した結果、繊維径1〜500nmの繊維が25%含まれて構成されていた。濾過層と支持層の積層されたフィルターを用いて濾過精度と透水量を測定した。結果を表1に示す。
【0071】
このフィルターは直径88nm以上の粒子をほぼ完全に阻止する、濾過精度に優れたフィルターとなった。また、透水量も0.05L/hr・m・Paと多く優れたフィルターであった。
【0072】
[比較例1]
プレッシャーメルタを2つ備えた複合紡糸装置を用いて、海成分がPS、島成分がPETで繊維全体における島成分の割合が35質量%である高分子配列体繊維を作製した。得られた繊維を液浴延伸機を用いて延伸温度90℃、熱セット温度130℃、延伸倍率3.0倍の条件で延伸し、58dtex、24フィラメントの高分子配列体繊維とした。この時、該高分子配列体繊維中におけるPET成分の単糸繊度は0.05dtexであった。この高分子配列体繊維を4万dtexに引きそろえ、枷に巻きつけた後、トリクロロエチレンに1時間浸漬することでポリマーアロイ繊維中のPS成分の99%以上を溶解除去した。さらに水洗、乾燥することで極細繊維束を作製した。この極細繊維束の力学特性は、強度4.4cN/dtex、伸度45%であった。この極細繊維束を長さ3mmにカットした以外は実施例1と同様に湿式抄紙を行い、厚さ1.5μmの不織布を作製した。
【0073】
この不織布断面をSEMにより解析した結果、繊維の直径は2.2μm(0.05dtex)であった。この不織布をフィルターとして濾過精度と透過流量を測定した。結果を表1に示す。
【0074】
この不織布を用いたフィルターは透過流量こそ15.2L/hr・m・Paと高い値をしめすものの、濾過精度は低いものであった。
【0075】
[比較例2]
特開平5−71006号公報の記載に従い、熱可塑性ポリビニルアルコール(メルトフローレート(MFR) 190℃:50、重合度:400、鹸化度:62%)とポリプロピレン(MFR 230℃:80)をチップの状態で等量混合してメルトブロー紡糸機に投入し、紡糸温度230℃、単孔吐出量0.3g/minで吐出し、230℃、圧力2.2kg/cmの空気を噴射して金網コンベアー上に目付100g/cmのウエブを形成した。このウエブを70kg/cmの高圧水流で処理して不織布としたのち、80℃の温水浴中で20分間超音波を照射することにより、ポリビニルアルコールを溶出除去して極細繊維を発生させると共に、極細繊維の分散・交絡を行い、目付50g/cmの不織布を作成した。
【0076】
この不織布断面をSEMにより解析した結果、極細繊維の数による単糸直径は43nmであった。この不織布をフィルターとして濾過精度と透過流量を測定した。結果を表1に示す。
【0077】
この不織布を用いたフィルターは88nmの粒子の阻止率が47%と低く、濾過精度に劣るものであった。
【0078】
[比較例3]
アクリロニトリル91.5質量%、アクリル酸メチル8.0質量%、メタクリル酸ソーダ0.5質量%からなる極限粘度1.2の共重合体16質量%および重量平均分子量3,000のポリエチレングリコール(和光純薬社製、PEG4000)8質量%を、N−メチル−2−ピロリドンに溶解して均一溶液とした。この均一溶液をガラス基板上に厚さ400μmに流延し、N,N−ジメチルアセトアミド90%と水10%との混合溶液からなる60℃の凝固浴中に流延面を浸漬し、凝固させて多孔質膜を形成した。この多孔質膜をフィルターとして濾過精度と透過流量を測定した。結果を表1に示す。
【0079】
このフィルターは88nmの粒子も完全に阻止する濾過精度に優れたフィルターであったが、透水量は0.01L/hr・m・Paと極めて低く、濾過効率に劣るものであった。
【0080】
【表1】

【0081】
上記表から明らかなように、本発明の繊維フィルターは精密濾過膜として利用可能な濾過精度を有しながら透水量が大きく、濾過精度と透水量のバランスに優れた濾過フィルターである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
濾過層が繊維径1〜500nmの繊維を含んでなり、ポアサイズの分布において最大頻度を示す値が10nm〜2μmであることを特徴とするフィルター。
【請求項2】
ポアサイズの最大値が50nm〜10μmである、請求項1記載のフィルター。
【請求項3】
繊維径1〜500nmの繊維が濾過層の厚み方向にわたり分散している、請求項1または2記載のフィルター。
【請求項4】
濾過層において、繊維径1〜500nmの繊維を1〜70質量%含んでなる、請求項1〜3のいずれか記載のフィルター。
【請求項5】
濾過層が繊維径0.5μm超、70μm以下の繊維を含んでなる、請求項1〜4のいずれか記載のフィルター。
【請求項6】
濾過層が抄紙法によって得られたものである、請求項1〜5のいずれか記載のフィルター。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか記載のフィルターを使用したことを特徴とするフィルターエレメント。

【公開番号】特開2008−136896(P2008−136896A)
【公開日】平成20年6月19日(2008.6.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−323290(P2006−323290)
【出願日】平成18年11月30日(2006.11.30)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】