説明

フィルタ

【課題】難燃剤性樹脂等を繊維に付着することなく、ダスト捕集効率に優れ、長寿命で、さらには難燃性に優れた嵩高な短繊維不織布よりなるフィルタを提供することにある。
【解決手段】限界酸素指数が20以上である芯鞘型複合熱接着短繊維と、限界酸素指数が20以上である被接着短繊維からなる、目付が10〜400g/m、見掛け密度が0.007〜0.04g/cmである難燃性短繊維不織布。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、優れたダスト捕集効率を有し、長寿命で、難燃性に優れた嵩高な短繊維不織布よりなるフィルタに関する。
【背景技術】
【0002】
ビル空調や事務機器等のフィルタは、メンテナンス性の問題から高いダスト捕集効率、および長寿命が必要とされることはもちろんのこと、用途に応じ難燃性の規格をクリアする必要がある。
【0003】
このような高捕集、高寿命、及び難燃性を有するフィルタとしては、例えば特許文献1では、繊維の交点周りに塩化ビニル基からなる重合体等の難燃性樹脂が接着された不織布が提案されている。しかし、かかる従来技術は、難燃性樹脂が環境に悪影響を与える問題がある点と、難燃性樹脂を付着させることにより、フィルタの空隙率が低くなり圧力損失が高くなるという問題があった。また、難燃性樹脂を付与する工程において、浸漬及び絞り加工又は難燃性樹脂を付与したあとにサクション工程にて難燃性樹脂を吸引する方法があるものの、不織布の厚みが減少することで、ダストを捕集する繊維表面積が減少し、捕集効率の低下と寿命が低下することが問題であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平05−068824号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、かかる従来技術の課題を背景になされたものである。すなわち、本発明の目的は、難燃剤性樹脂等を繊維に付着することなく、ダスト捕集効率に優れ、長寿命で、さらには難燃性に優れた嵩高な短繊維不織布よりなるフィルタを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは鋭意検討した結果、以下に示す手段により、上記課題を解決できることを見出し、本発明に到達した。すなわち、本発明は、以下の構成からなる。
【0007】
1.限界酸素指数が20以上である芯鞘型複合熱接着短繊維と、限界酸素指数が20以上である被接着短繊維からなる、目付が10〜400g/m、見掛け密度が0.007〜0.04g/cmである難燃性短繊維不織布。
【0008】
2.熱接着短繊維の鞘成分を構成する樹脂と、被接着短繊維を構成する樹脂の融点の差が80℃以上である上記1に記載の難燃性短繊維不織布。
【0009】
3.熱接着短繊維と被接着短繊維の混繊比率が60:40〜95:5である上記1または2に記載の難燃性短繊維不織布。
【発明の効果】
【0010】
本発明により、難燃剤性樹脂等を繊維に付着することなく、ダスト捕集効率に優れ、長寿命で、さらには難燃性に優れた嵩高な短繊維不織布よりなるフィルタを実現することが可能となった。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明を詳述する。本発明の難燃性を有する嵩高なフィルタは、少なくとも芯鞘型複合熱接着短繊維と被接着短繊維からなり、熱接着短繊維の鞘成分が溶融することで、被接着繊維と接着する短繊維不織布である。
芯鞘型複合熱接着短繊維は、鞘部分が低融点樹脂であって、芯部分が高融点樹脂である芯鞘型の複合繊維とすることで、被接着短繊維と良好に接着することができる。芯鞘型複合短繊維以外のサイドバイサイド型複合短繊維等の場合は、外表面に存在する高融点樹脂が溶融せず接着に寄与しないため、繊維交点の接着力不足が発生し、短繊維不織布の毛羽や剛性不足といった問題が生じる。
【0012】
本発明の短繊維不織布の芯鞘型複合熱接着短繊維の芯成分樹脂と鞘成分樹脂の融点の差は、80℃以上あることが好ましい。80℃以上融点の差がない場合、不織布製造時の熱接着工程において、熱接着短繊維の鞘成分樹脂の融点以上の温度の熱風にて、鞘成分を溶融することにより熱接着させる際に、芯成分樹脂が軟化又は溶融する場合がり、その場合熱風の風圧により得られる短繊維不織布の厚みが極端に減少してしまう。
【0013】
本発明の短繊維不織布を構成する短繊維は、限界酸素指数(以下LOI値と言う)が20以上のものである必要がある。それLOI値が20未満の場合は、大気中において、燃焼し易く、UL94発泡材料水平燃焼試験(ASTM D4986)の難燃性試験において、HF−1の基準をクリアできなくなる。
【0014】
芯鞘型複合熱接着短繊維としては、LOI値が20以上必要であるため、特に限定はしないが鞘成分が低融点ポリエステル、芯成分が高融点ポリエステルからなる芯鞘型複合繊維が好ましい。一般的に知られているポリエチレン(鞘)/ポリプロピレン(芯)、ポリエチレン(鞘)/ポリエステル(芯)、低融点ポリエステル繊(鞘)/高融点ポリエステル(芯)で構成される芯鞘型複合熱接着短繊維では、不織布の難燃性が不十分となるためである。
【0015】
被接着短繊維としては、LOI値が20以上必要であるため、ポリエステル繊維、ナイロン繊維、アラミド繊維、ポリフェニレンサルファイド繊維等の繊維が挙げられる。特に限定はされないが、被接着短繊維は、芯鞘型複合熱接着短繊維に鞘成分が低融点ポリエステル、芯成分が高融点ポリエステルからなる繊維を使用した場合、繊維交点の接着性、リサイクル性の面より高融点ポリエステル繊維を使用することが好ましい。
【0016】
本発明の短繊維不織布の目付は10〜400g/mであり、好ましくは15〜300g/mである。目付が10g/m未満ではフィルタの効果を発現し難く、目付が400g/mを超えるとフィルタとして圧力損失が高くなり設置する環境が限定される問題がある。
【0017】
本発明の短繊維不織布の見掛け密度は0.007〜0.04g/cmであり、好ましくは、0.01〜0.03g/cmである。見掛け密度が0.007g/cm未満では必要とするダスト捕集性と寿命を満足するために、フィルタの厚みを増加させる必要があり、取り扱い性が低下する。見掛け密度が0.04g/cmを越えると、UL94発泡材料水平燃焼試験(ASTM D4986)の難燃性試験において、HF−1の基準をクリアできなくなる。さらに見掛け密度が0.04g/cmを越えると繊維の接着交点及び接着面が大きくなることにより、繊維表面積の低下につながりダストの捕集性能が低下する問題も発生する。
【0018】
本発明の短繊維不織布の製造方法は、短繊維を通常のカード工程に通して開繊したウエブを、レイヤー工程で積層し、芯鞘型複合熱接着短繊維の鞘成分樹脂の融点以上、被接着短繊維を構成する樹脂の融点以下の温度の熱風をウエブに吹きつけ、繊維交点を熱接着させる。本発明の短繊維不織布の製造方法では、繊維を交絡させるニードルパンチ加工及び水流交絡法はウエブの厚みが減少するために実施しないことが好ましい。
【0019】
本発明の短繊維不織布は、嵩高性を必要とするため、熱接着工程において熱風の風圧を下げてウエブの厚みが小さくならないように熱接着させる必要がある。厚みの減少を抑制するために、構成繊維として、繊維径が5〜20dtexの太繊度の繊維を10%〜50%混綿することが好ましい。より好ましくは繊維径が6〜10dtexの繊維を20%〜40%混綿する。太繊度の繊維径が5dtex未満であると通気抵抗が大きくなり熱接着工程にてウエブの厚みが小さくなり、20dtexを超えると繊維重量当りの繊維表面積が小さくなりダスト捕集性が低くなる。また混綿比率が10%未満では、ウエブ通気抵抗の低下の効果を発現し難く、50%を超えると、繊維重量当りの繊維表面積が小さくなりダスト捕集性が低くなる。
【0020】
本発明の短繊維不織布の芯鞘型複合熱接着短繊維の鞘成分樹脂と被接着短繊維を構成する樹脂の融点の差は、80℃以上であることが好ましい。80℃以上融点の差がない場合、不織布製造時の熱接着工程において、熱接着短繊維の鞘成分樹脂の融点以上の温度の熱風にて、鞘成分を溶融することにより熱接着させる際に、被接着短繊維が軟化し、熱風の風圧により得られる短繊維不織布の厚みが極端に減少してしまうおそれがある。
【0021】
本発明の短繊維不織布の芯鞘型複合熱接着短繊維と被接着短繊維の混繊比率は、60:40〜95:5であることが好ましい。熱接着短繊維の混繊比率が5%未満では、不織布製造時の熱接着工程において、ウエブの嵩高性を維持することが困難となる。熱接着短繊維の混繊比率が60%を越えると、接着交点が減少することによって、不織布の毛羽や剛性不足の問題が発生することがある。
【実施例】
【0022】
以下本発明を実施例によって更に詳細に説明するが、下記実施例は本発明を限定する性質のものではなく、前・後記の趣旨に沿って設計変更することはいずれも本発明の技術的範囲に含まれるものである。実施例、比較例中のフィルタ性能特性は以下に示す方法にて評価をおこなった。
【0023】
[見掛け密度]
150mm×150mmサイズの試料にて不織布重量を測定し、目付を算出した。次に該試料の中心部分3箇所の厚みを荷重2.55g/cm、測定圧子直径50mmにて測定し、その平均を厚みとした。目付と厚みより見掛け密度を算出した。
見掛け密度 = 目付/厚み
【0024】
[難燃性]
UL94発泡材料水平燃焼試験(ASTM D4986)の難燃性試験の規格に準じて合否判断を行った。HF−1合格レベルを○、それ以外を×とした。
【0025】
[不織布表面毛羽観察]
150mm×150mmの試料にて不織布の表面状態を観察し、表面より5mm以上突出している繊維を毛羽としてその本数をカウントした。毛羽の本数が10個以上を不合格(×)、5〜10個を△、5個以下を合格(○)として判断した。
【0026】
[ダスト捕集性能]
ASHRAE 52.1−1992に準じて試験を行った。試験条件は、試料サイズ150mm×150mm、JIS8種粉塵を供給し、風速0.3m/sec、終期圧損8mmAqの条件にて評価を実施した。
【0027】
<実施例1>
芯鞘型複合熱接着短繊維として、芯成分に融点が255℃のポリエステル樹脂、鞘成分に融点110℃のポリエステル樹脂を用いた、繊度2.2dtex、繊維長51mmの短繊維を80重量%と、被接着短繊維として、融点が255℃のポリエステル樹脂からなる繊度6.6dtex、繊維長51mmの短繊維を20重量%混合した後、カード加工を実施する。次に、140℃のエアースルの熱処理によって、熱接着短繊維を溶融し、被接着短繊維と接着させることで、短繊維不織布を作製した。得られた不織布は、目付300g/m、見掛け密度は0.02g/cmであり難燃性と毛羽が合格、ダスト捕集効率は92%、ダスト保持率は5.9gとなり、フィルター特性として良好な結果が得られた。
【0028】
<実施例2>
被接着短繊維を、融点が285℃のポリフェニレンサルファイド樹脂からなる繊度6.6dtex、繊維長51mmとした以外は、実施例1と同様にして短繊維不織布を製造した。測定により得られた結果を表1にまとめた。
【0029】
<比較例1>
芯鞘型複合熱接着短繊維の鞘成分を融点が130℃のポリエチレン樹脂を用いた以外は、実施例1と同様にして短繊維不織布を製造した。測定により得られた結果を表1にまとめた。
【0030】
<比較例2>
芯鞘型複合熱接着短繊維を55重量%、被接着短繊維を45重量%混合した以外は、実施例1と同様にして短繊維不織布を製造した。測定により得られた結果を表1にまとめた。
【0031】
<比較例3>
芯鞘型複合熱接着短繊維を97重量%、被接着短繊維を3重量%混合した以外は、実施例1と同様にして短繊維不織布を製造した。測定により得られた結果を表1にまとめた。
【0032】
<比較例4>
芯鞘型複合熱接着短繊維を、融点が255℃のポリエステル樹脂と融点が110℃のポリエステル樹脂を用いたサイドバイサイド型複合熱接着短繊維に変えた以外は、実施例1と同様にして短繊維不織布を製造した。測定により得られた結果を表1にまとめた。
【0033】
<比較例5>
得られる短繊維不織布の厚みを変更することで、見掛け密度を0.047g/cmとした以外は、実施例1と同様にして短繊維不織布を製造した。測定により得られた結果を表1にまとめた。
【0034】
<比較例6>
得られる短繊維不織布の目付が5g/mとなるようにしたこと以外は、実施例1と同様にして短繊維不織布を製造した。測定により得られた結果を表1にまとめた。
【0035】
<比較例7>
得られる短繊維不織布の目付が450g/mとなるようにしたこと以外は、実施例1と同様にして短繊維不織布を製造した。測定により得られた結果を表1にまとめた。
【0036】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0037】
メンテナンス性の問題から高いダスト捕集効率、および長寿命が必要とされることはもちろんのこと、用途に応じ難燃性の規格をクリアする必要があるビル空調や事務機器等のフィルタに使用可能な、ダスト捕集効率に優れ、長寿命で、さらには難燃性に優れた嵩高な短繊維不織布よりなるフィルタを提供することが可能となり、産業界へ寄与すること大である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
限界酸素指数が20以上である芯鞘型複合熱接着短繊維と、限界酸素指数が20以上である被接着短繊維からなる、目付が10〜400g/m、見掛け密度が0.007〜0.04g/cmである難燃性短繊維不織布。
【請求項2】
熱接着短繊維の鞘成分を構成する樹脂と、被接着短繊維を構成する樹脂の融点の差が80℃以上である請求項1に記載の難燃性短繊維不織布。
【請求項3】
熱接着短繊維と被接着短繊維の混繊比率が60:40〜95:5である請求項1または2に記載の難燃性短繊維不織布。


【公開番号】特開2011−256491(P2011−256491A)
【公開日】平成23年12月22日(2011.12.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−132792(P2010−132792)
【出願日】平成22年6月10日(2010.6.10)
【出願人】(000003160)東洋紡績株式会社 (3,622)
【Fターム(参考)】