説明

フィルムマルチ栽培における苗の植付け又は播種の方法及び農業機械、農業機械用アタッチメント

【課題】フィルムマルチ栽培において、農業機械を使用して植播を行う前に、植播箇所のフィルムに打抜穴や切れ目等のフィルムの引き破り阻止又は防止要素を形成して、植播するときのフィルム屑の発生を防止し、ひいては収穫された作物にフィルム屑が混入することを防止する。
【解決手段】農業機械は、走行部10と、周期的に昇降して苗の植付け又は播種をする器具20を有する第2の装置2と、を備える。前記器具20の昇降行程の下死点又はその近傍で、前記器具20がフィルムマルチ栽培用のフィルムで被覆されている土壌中に突入して土壌に穴を形成し、当該穴の中に苗を植付け又は播種する。前記第2の装置2より進行方向前部側には、前記器具20の突入箇所に前記フィルムの引き破り阻止又は防止要素を形成する第1の装置3を備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フィルムマルチ栽培における苗の植付け又は播種(以下、「植播」という。)方法及び農業機械、農業機械用アタッチメントに関するものである。
更に詳しくは、フィルムマルチ栽培において、農業機械を使用して植播を行う前に、植播箇所のフィルムに打抜穴や切れ目等のフィルムの引き破り阻止又は防止要素を形成して、植播するときのフィルム屑の発生を防止し、ひいては収穫された作物にフィルム屑が混入することを防止するものに関する。
【背景技術】
【0002】
土壌水分の蒸散を防いだり、雑草の発生を抑制したり、或いは降雨時の泥跳ねを防止して作物の汚れや土壌病害の発生を抑制するために、土壌表面をプラスチックフィルムで覆った畝で作物を栽培するフィルムマルチ栽培が行われている。フィルムマルチ栽培では、フィルムを畝の土壌表面に張った後、作業者による手作業の他、農業機械を使用した機械作業によって植播作業が行われており、その関連技術として、例えば特許文献1又は2に記載されたものがある。
【0003】
特許文献1には、立ち姿勢で操作可能とする操作杆を備えると共に、ポリマルチに植付け孔を打ち抜く筒状打抜き本体の内側に配設されたホルダー部下端の突刺し刃で、打ち抜かれた打抜き片を突刺し、そのままホルダー部に蓄積状としてしまうことを可能にする土壌マルチング用孔打抜き器が記載されている。
【0004】
また、特許文献2には、植付具が周期的に昇降し、昇降の下死点もしくはその近傍でフィルムを貫通し土中に突入すると共に、植付具の内部には受け入れた種子を下部の先端中央に向けて案内するガイド部材が設けられており、土中に突入したときに下部が開いて種子植付用の穴を開け、植付具が播種作業をも行うことができる農作業機が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平10−313707
【0006】
【特許文献2】特開2002−233213
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1記載の土壌マルチング用孔打抜き器は、作業者による手作業でフィルムに打抜穴を形成するものであり、穴を開けた後には、作業者の手作業によって苗を植えるなど、作業者の身体に負担がかかるだけでなく作業効率も悪い課題がある。
【0008】
これに対して特許文献2の農作業機は、植付具がフィルムを突き破った後、その先部が開いて苗や種を土壌中に落として植播するため、植付作業の機械化が図られ、作業者の肉体への負担は軽減される利点はある。
【0009】
しかし、フィルムが植付具で突き破られる際には、フィルムは植付具の先端部分で延伸されながら突き破られるので土壌表面に張られたフィルムの一部がちぎれてフィルム屑が生じたり、ちぎれないまでも細片が生じ、この細片がその後フィルムからちぎれてフィルム屑となる場合が生じる。
【0010】
このフィルム屑が収穫した作物に混入するとそれを取り除く作業が必要となる。例えば、煙草葉の栽培においては、製品である煙草にフィルム屑が混入するとフィルム屑が燃えたときに有毒ガスが発生し危険であるので、煙草葉の収穫や加工においてはきわめて入念な選別作業が必要になる課題がある。
【0011】
(本発明の目的)
そこで本発明の目的は、フィルムマルチ栽培において、農業機械を使用して植播を行う前に、植播箇所のフィルムに打抜穴や切れ目等のフィルムの引き破り阻止又は防止要素を形成して、植播するときのフィルム屑の発生を防止し、ひいては収穫された作物にフィルム屑が混入することを防止することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するために本発明が講じた手段は次のとおりである。
本発明は、
農業機械を使用して、フィルムマルチ栽培用のフィルムで被覆されている土壌中に一定間隔で植播する方法であって、
植播箇所に、前記農業機械が備える第1の装置(以下、「要素形成装置」という。)で前記フィルムの引き破り阻止又は防止要素を形成し、
次いで、前記農業機械が進行し、前記引き破り阻止又は防止要素が形成された箇所に、前記農業機械が備える第2の装置(以下、「植播装置」という。)の苗の植付け又は播種をする器具(以下、「植播具」という。)が前記フィルムを通り抜けて土壌に突入して穴を形成し、
その後前記穴に植播を行う、
フィルムマルチ栽培における植播方法である。
【0013】
フィルムの引き破り阻止又は防止要素は、一定間隔に形成されている打抜穴又は切れ目であるのが好ましい。
【0014】
本発明は、
走行部と、周期的に昇降して植播をする植播具を有する植播装置と、を備え、前記植播具の昇降行程の下死点又はその近傍で、前記植播具がフィルムマルチ栽培用のフィルムで被覆されている土壌中に突入して土壌に穴を形成し、当該穴の中に植播する農業機械であって、
前記植播装置より進行方向前部側には、前記植播具の突入箇所に前記フィルムの引き破り阻止又は防止要素を形成する要素形成装置を備えている、
農業機械である。
【0015】
要素形成装置は、
一定間隔で又は周期的に昇降する昇降体と、
走行部を駆動する駆動力を利用して回転し、前記昇降体と係合して昇降体を上昇させる上昇駆動手段と、
を備えており、
前記上昇駆動手段と上昇した前記昇降体とが脱係合状態となったときに上昇した昇降体は自重で落下して又は上昇に伴って付勢された付勢体で射出されてフィルムに打抜穴又は切れ目を形成するものであることが推奨される。
【0016】
フィルムの打抜穴又は切れ目の形成と、植播具の土壌突入による穴の形成が、同時又はほぼ同時に行われるようにするのが好ましい。
【0017】
要素形成装置が打抜穴を形成する装置である場合には、打ち抜きによって生じたフィルム片を収拾する手段を備えていることが推奨される。これによって、別に収拾する作業が不要になる。
【0018】
本発明は、
走行部と、周期的に昇降して植播をする器具を有する植播装置と、を備え、前記器具の昇降行程の下死点又はその近傍で、前記器具がフィルムマルチ栽培用のフィルムで被覆されている土壌中に突入して土壌に穴を形成し、当該穴の中に植播する農業機械に装着して使用され、フィルムが引き破られるのを阻止又は防止するアタッチメントであって、
前記農業機械の前記植播装置より進行方向前部側に装着され、前記植播をする器具の突入箇所のフィルムに打抜穴又は切れ目を形成する、
農業機械用アタッチメントである。
【0019】
(作用)
本発明に係る農業機械の作用を説明する。なお、ここでは、説明で使用する各構成要件に、後述する実施の形態において各部に付与した符号を対応させて付与するが、この符号は、特許請求の範囲の各請求項に記載した符号と同様に、あくまで内容の理解を容易にするためであって、各構成要件の意味を上記各部に限定するものではない。
【0020】
農業機械Aの走行に伴い要素形成装置3による打抜穴50又は切れ目52が形成され、植播装置2による植播部での植播を並行して行うことにより、あらかじめフィルム5に形成された打抜穴50又は切れ目52からフィルム5を破ることなく土壌中に植播ができる。
【0021】
これにより、従来の農作業機のように植播の際に植播具がフィルムを突き破ることから生じるフィルム屑の発生を防ぎ、収穫された作物にフィルム屑が混入することを防止することができる。
【0022】
要素形成装置3が昇降体35を有し、昇降体35が打抜穴50又は切れ目52の形成に十分な自重を有するものは、自然落下によって打抜穴50又は切れ目52は形成される。
昇降体35が前記形成に十分な自重を有しない場合は、昇降体35の上昇に伴って付勢された付勢体で射出されてフィルム5に打抜穴50又は切れ目52を形成する。
【0023】
また、要素形成装置3が打抜穴50を形成する装置の場合は、フィルム片収拾手段356を備えることによって、フィルム5から打ち抜かれたフィルム片51はフィルム片収拾手段356によって収拾され畝4上から取り除かれるので、植付作業後の人の手による収拾の手間を省くことができ、より効率のよい作業ができる。
【0024】
なお、前記農業機械用アタッチメントは、既存の農業機械に装着して使用することができる。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、フィルムマルチ栽培において、農業機械を使用して植播を行う前に、植播箇所のフィルムに打抜穴や切れ目等のフィルムの引き破り阻止又は防止要素を形成して、植播するときのフィルム屑の発生を防止し、ひいては収穫された作物にフィルム屑が混入することを防止することができる。
【0026】
また、引き破り阻止又は防止要素を形成する要素形成装置が打抜穴を形成する装置であり、フィルムの打ち抜きによって生じたフィルム片を収拾する手段を備えているものは、打ち抜きによって生じたフィルム片を収拾できるため、別に収拾する作業が不要になる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明に係る農業機械の一実施の形態を示す概略側面図。
【図2】農業機械の概略平面図。
【図3】農業機械の概略正面図。
【図4】農業機械の要素形成装置の動きを示し、爪具の係合爪部が押し上げ始点にある状態の説明図。
【図5】爪具の係合爪部が押し上げ終点にある状態の説明図。
【図6】爪具の係合爪部の係合が外れ、昇降体が下方へ射出されて、カッターがフィルムを打ち抜いている状態の説明図。
【図7】農業機械の走行中に昇降体による打ち抜きを停止している状態の説明図。
【図8】フィルムに形成された打抜穴と植播具の先端との関係を示す説明図。
【図9】本発明に係る農業機械の他の実施の形態を示す要部模式図。
【図10】フィルムに形成された切れ目と植播具の先端との関係を示す説明図。
【発明を実施するための形態】
【0028】
〔実施の形態1〕
本発明を図面に示した実施の形態1に基づき詳細に説明する。
図1乃至図7を参照する。自走式の作業機である農業機械Aは、走行部であるクローラ10を有する機枠1と、機枠1の進行方向後部に設けられている植播装置2とを備えている。機枠1の進行方向前部には、前記植播装置2で植播が行われる箇所に、要素形成装置3が設けられている。本実施の形態に係る要素形成装置は、打抜穴形成装置である。
【0029】
要素形成装置3は、フィルムを円形に打ち抜いて打抜穴を形成すると共に、打ち抜きにより分離したフィルム片を収拾する装置を備えている。
なお、農業機械Aにおいて、前記要素形成装置3を除く他の部分は公知のものを採用しているので、それらの構造については概略又は必要な箇所を説明するに止める。
【0030】
前記クローラ10は、畝の間を走行するもので、機枠1の左右両側(幅方向両側)に設けられている。機枠1には、各クローラ10の間に門型の補強枠11が設けられている。補強枠11には、植播装置2で植播する苗又は種を供給する供給装置や棚(何れも図示省略)が取り付けられている。また機枠1には、各クローラ10の間に前記植播装置2が設けられ、その後方にハンドル12が設けられ、更に各クローラ10の後方にそれぞれ座席13、14が設けられている。
【0031】
前記植播装置2は、各クローラ10と共に原動機(図示省略)により駆動され、クラッチ機構(図示省略)を介し作動及び停止の切り替えができる構造である。植播装置2は、三台の植播具20を有し、各植播具20を縦方向に間欠的に回転させながら、下部に降りた植播具20の先端部を開いて畝の土壌に穴を開け、この穴に苗又は種を落として植え又は播くことができる。なお、苗又は種は作業者によって植播具20に投入される。
【0032】
要素形成装置3は、機枠1の植播装置2より前方(進行方向側)に設けられ、植播装置2で植播が行われる前にフィルム5に打抜穴を形成するものである。要素形成装置3によって打抜穴を形成する穴形成部P1と、植播装置2によって苗を植える植播部P2の距離は、穴形成部P1でフィルムに形成される穴の間隔(ストローク)の整数倍(本実施の形態では三倍)の距離である。また、各穴形成部P1でフィルム5に形成される穴の間隔と、各植播部P2で苗が植えられ又は種が播かれる間隔は同じ間隔となるように設定されている。
これによって、植播の際に植播具20がフィルム5を引き破るのを防止できる。
【0033】
要素形成装置3には、チェーン駆動により前記植播装置2の各植播具20を回転させる回転軸21の回転力が伝えられる。機枠1の要素形成装置3寄りには、中継回転軸15が機枠1の左右両側に設けられた軸受16により軸支されている。中継回転軸15には、前記回転軸21に設けられたスプロケット210と同じ歯数のスプロケット150、151が設けられている。
【0034】
中継回転軸15の一方のスプロケット150と回転軸21のスプロケット210にはチェーン152が回し掛けられており、中継回転軸15は、回転軸21と同期回転をする。なお、中継回転軸15は、前記ハンドル12に設けられているグリップ等(図示省略)でワイヤチューブ(図示省略)を介し駆動力の接続・切断を行うクラッチ機構(図示省略)を備えている。
【0035】
要素形成装置3は、機枠1の前端部に立設固定された門型の基部枠30を有している。基部枠30の上部の左右両側には、前方へ向けて水平に腕枠300が設けられている。腕枠300の先端寄りには、軸受31により回転軸32が軸支されている。回転軸32の一方の先端部には、スプロケット320が固定されている。スプロケット320と前記中継回転軸15の他方のスプロケット151にはチェーン153が回し掛けられており、回転軸32は中継回転軸15と同期回転をする。
【0036】
回転軸32の軸線方向の中間部には、所要間隔をおいて二枚の板状の爪具(カム)33、33aが固定されている。爪具33、33aは、後述するようにフィルム5に穴を開けた後、直ちに昇降体35を上昇させる上昇駆動手段を構成し、それぞれ回転軸周方向へ等角度で三箇所に係合爪部330が設けられている。
【0037】
係合爪部330は、図4に示すように、爪具33、33aの回転方向とは反対方向へやや湾曲して形成されている。また、爪具33、33aにおいては、それぞれの係合爪部330の回転軸周方向の位置が同じ(同角度)になるように設定されている。
【0038】
基部枠30の腕枠300より下方には、台板301が水平に固定されている。台板301の中央には、台板301を上下に貫通してガイド管34が鉛直方向に立設固定されている。ガイド管34の下端は、台板301の下面側へ若干突き出て開口されている。ガイド管34の台板301より上方側の左右両側には、壁部を貫通して所要長さのガイド長孔340が鉛直方向に設けられている。
【0039】
また、ガイド管34の下部側の後部には、後述するワイヤチューブ370で進退操作される係止ピン37が挿通される挿通孔341が設けられている。更に、ガイド管34の上端には、キャップ342が着脱自在に取り付けられている。キャップ342を取り外せば、潤滑用のグリスをガイド管34内部に注入することができる。
【0040】
ガイド管34には、ガイド管34の内径よりやや径小な所要長さの射出ロッド350とその先端に設けてあるカッター351からなる昇降体35が昇降自在に収容されている。
【0041】
射出ロッド350の上端寄りの左右両側には、ローラ352が設けられている。各ローラ352は、前記ガイド長孔340を貫通した軸353のガイド長孔340外部側に設けられている。射出ロッド350が上下動できるストロークは、軸353がガイド長孔340の上下端部に当たることにより、ガイド長孔340の長さの範囲内に制限されるようになっている。
【0042】
また、射出ロッド350の長さは、射出ロッド350が最下部まで降りたとき、後述するカッター351がフィルムを打ち抜くことができる長さに設定されている。そして、前記爪具33、33aは、各係合爪部330がガイド管34の両側を各ローラ352に接触しながら下から上方向に回転するようにしてある。
【0043】
射出ロッド350の下端部には、フィルムを円形に切断し打ち抜くカッター351が取付具354により着脱自在に取り付けられている。カッター351は円筒形状であり、その下端縁部には細かな鋸刃状の刃部355が全周にわたり設けられている。
【0044】
また、取付具354には、カッター351の中心を通るフィルム片収拾具356が鉛直方向に設けられている。フィルム片収拾具356は、下端部が矢尻状であり、突き刺したフィルム片が抜け落ちないように止める戻り357が設けられている。
【0045】
射出ロッド350の中間部よりやや下方の後部側(進行方向と反対側)には、所要深さ及び所要長さの係合溝358が縦方向に設けられている。係合溝358には、後述する係止ピン37が係合するようになっている。
【0046】
また、射出ロッド350の上端には、コイルバネである射出バネ359がガイド管34内に収容され固定されている。なお、射出バネ359は、必ずしも射出ロッド350に固定する必要はなく、射出ロッド350上方のガイド管34内にスライド自在(上下移動自在)に収容してもよい。
【0047】
射出バネ359の長さは、射出ロッド350が爪具33、33aの係合爪部330で押し上げられて最上部に位置したときに、ガイド管34内のキャップ342下部と射出ロッド350上端との間で圧縮されることにより、射出ロッド350を下方へ射出できる十分な付勢力が得られるように設定されている。
【0048】
台板301の後部は、基部枠30の中央部から後方へやや張り出しており、この部分には係止ピン37が取り付けられている。係止ピン37は、先端部が前記ガイド管34の挿通孔341に向けられており、前記ハンドル12に設けられているグリップ等(図示省略)でワイヤチューブ370を介し進退操作(後退時はロック)される。
【0049】
係止ピン37は、前進位置ではバネ371で前方へ付勢され、係止ピン37に先端側から力が加わるとバネ371の付勢力に抗して後退するようになっている。係止ピン37が前進操作されると、ガイド管34の挿通孔341を通り、先端が射出ロッド350の後面に当たるようになっており、その状態で射出ロッド350が上昇すると係止ピン37は係合溝358に入り係合する。係止ピン37が係合溝358に係合した状態では、射出ロッド350の上下動範囲は係合溝358の長さに制限される。
【0050】
なお、要素形成装置3は、農業機械とは別体とし、植播を行う既存の農業機械の機枠等に対しボルト・ナット等の取付手段を利用して取り付けができるアタッチメント(参考:図4乃至図7、符号は省略)としてもよい。その場合は、アタッチメントと共に前記中継回転軸15、軸受16、スプロケット151、スプロケット210、チェーン152、153等を含む駆動力の伝達構造も新たに取り付けられる。これによれば、既存の農業機械を本実施の形態の農業機械Aと同等の構造及び機能を有する農業機械に改造することができる。
【0051】
(作用)
図1乃至図7を参照して農業機械Aの作用を説明する。
農業機械Aを走行させ、植播を行う畑の畝の一端側に位置させる。座席13、14には、一人又は二人の作業者が座って、農業機械Aの運転と操作を行う。
【0052】
作業者は、ハンドル12側の操作で中継回転軸15のクラッチ機構を接続する。また、ハンドル12側の操作で係止ピン37を後退位置でロックしておき、昇降体35の射出ロッド350の上下動が係止ピン37で制限されないようにしておく。
次に、農業機械Aを走行させ、植播装置2を作動させる。中継回転軸15のクラッチ機構を接続していることにより、植播装置2の作動と同時に要素形成装置3が作動する。
【0053】
植播装置2による植播は、作業者が手作業で三台の各植播具20に順に苗又は種を入れることにより行われ、最下部に降りた植播具20が植播部P2のフィルム5を突き破り、土壌にできた穴に苗又は種を落とす。なお、植播具20が植播部P2のフィルム5を突き破るのは、植播部P2の位置が進行方向前方の要素形成装置3による最初の穴形成部P1に到達するまでであり、以降は植播具20がフィルム5を突き破ることはない。
【0054】
前記したように、植播装置2の作動と共に、その進行方向前方において要素形成装置3が作動している。これによりフィルム5には、図8に示すように一定間隔で打抜穴50が形成される。植播装置2と要素形成装置3の作動は、前記のように同期がとられており、例えば植播装置2で各植播具20が一回転し苗を三回植播る間に、要素形成装置3は各植播具20が植播するタイミングと同じタイミングで昇降体35を三回射出し、カッター351によってフィルム5に三回穴が開けられる。
【0055】
しかも、穴形成部P1で開けられるフィルム5の打抜穴50の間隔と植播部P2で苗が植えられ又は種が播かれる間隔は同じであり、穴形成部P1と植播部P2の距離が穴形成部P1で開けられるフィルム5の打抜穴50間隔の整数倍であることにより、農業機械Aの走行によって穴形成部P1で開けられる打抜穴50の箇所の土壌に植播部P2で植播される。
【0056】
要素形成装置3の動きは次の通りである。
(1)まず、図4を参照する。図4は、昇降体35が下方へ射出されて、畝4の土壌表面に張設されているフィルム5にカッター351で打抜穴50を開けた直後の状態を示している。この時点では、爪具33、33aの係合爪部330が各ローラ352に下側から接触し、押し上げ始点にある。
【0057】
(2)この状態から爪具33、33aが矢印方向へ回転し、係合爪部330が各ローラ352を押し上げ、射出ロッド350が上昇する。そして、図5に示すように、爪具33、33aが係合爪部330による押し上げ終点まで回転し、射出ロッド350は最上部に位置すると、射出ロッド350上端に固定された射出バネ359がガイド管34内のキャップ342下部と射出ロッド350上端との間で圧縮され、射出ロッド350を下方へ射出できる十分な付勢力が得られる。
【0058】
(3)爪具33、33aが矢印方向へ更に回転し、各ローラ352から係合爪部330の係合が外れると、射出バネ359の付勢力により射出ロッド350が瞬時に下方へ射出され、先端のカッター351でフィルム5が円形に打ち抜かれて打抜穴50が開けられる。図6に示すように、打抜穴50が開けられると同時に打ち抜かれた円形のフィルム片51にフィルム片収拾具356が突き刺さって貫通し、フィルム片51は戻り357で止まってフィルム片収拾具356から外れない。
【0059】
(4)昇降体35は、カッター351がフィルム5を打ち抜くと同時か略同時に、図4に示すように爪具33、33aの係合爪部330が各ローラ352に下側から接触し、押し上げ始点にくる。これにより、カッター351が一部土壌に埋まった状態で農業機械Aの走行により引きずられてフィルム5を破ったり、カッター351自身が破損することを防止できる。
【0060】
農業機械Aによれば、前記のように、農業機械Aの走行に伴い要素形成装置3による穴形成部P1での打抜穴50の形成と、植播装置2による植播部P2での植播を並行して行うことにより、フィルム5を破ることなく植播することができる。すなわち、穴形成部P1で開けられるフィルム5の打抜穴50の間隔と植播部P2で植播される間隔は同じであり、穴形成部P1と植播部P2の距離が穴形成部P1で開けられるフィルム5の打抜穴50の間隔の整数倍であることにより、農業機械Aの走行によって穴形成部P1で開けられる打抜穴50の箇所の土壌に植播部P2で植播される。
【0061】
フィルム5の穴はカッター351で縁が滑らかできれいな円形に打ち抜かれ、打ち抜かれたフィルム片51はフィルム片収拾具356によって収拾されて畝4上から取り除かれる。これにより、フィルム5の穴の縁部に捲れたり捻れたりする部分がなく傷みにくいので、経時劣化により又は人為的にちぎれる等したフィルム屑が生じにくく、作物の収穫時において作物にフィルム屑が混入することを防止することができる。
【0062】
また、前記のように農業機械Aによる苗の植播を行う際、別の畝に移るときは、要素形成装置3の駆動を停止する。また、植播装置2については、駆動を停止するか又は植播具20に対する苗又は種の投入をやめるようにする。
【0063】
このときの要素形成装置3の具体的な操作は次の通りである。
要素形成装置3の穴形成部P1が畝4の端部へ来た際は、ハンドル12側の操作で係止ピン37を前進位置に切り替える。これにより、係止ピン37はバネ371により射出ロッド350側へ付勢され、先端が射出ロッド350の周壁を押圧するように接触する。
【0064】
この状態で、射出ロッド350が上昇又は下降し、図7に示すように射出ロッド350の係合溝358が係止ピン37の位置に合うと、バネ371の付勢力で係止ピン37の先端部が更に突出し、係合溝358と係合する。これにより、射出ロッド350の上下動範囲は、係合溝358と係止ピン37が係合した高さ位置において、係合溝358の長さと同じストロークに制限され、例えば昇降体35が下に落ちて農業機械Aを別の畝へ移動させる際の邪魔になることを防止できる。
【0065】
なお、係合溝358と係止ピン37を係合させて射出ロッド350の上下動範囲を制限しているときには、爪具33、33aは支障なく回転することができるようになっているので、必ずしも前記中継回転軸15のスプロケット151の回転を止める必要はないが、クラッチ機構を切って駆動力を切断することもできる。
なお、要素形成装置3を停止させた後は、そのまま農業機械Aを走行させてフィルム5の打抜穴50の箇所の土壌に植播装置2で植播してもよいが、場合によっては植播装置2を停止して、残った打抜穴50の所だけ手作業で植播してもよい。
【0066】
〔実施の形態2〕
本実施の形態に係る要素形成装置は、切れ目形成装置であり、図9(a)は切れ目形成装置の要部を示す正面視説明図、(b)は(a)の右側面視説明図である。
実施の形態1に示す要素形成装置がフィルム5に打抜穴を形成するカッター351を備えているのに対して、本実施の形態に示す装置では、カッター351に代え、切れ目を形成する刃60を備えている。
【0067】
刃60の刃先62は、農業機械Aの進行方向に向って上方に傾斜しており、フィルム5に農業機械Aの進行方向と並行又は略並行な切れ目52を形成する。刃60で切れ目を形成するため、打ち抜かれたフィルム片51は生じないから、それを収拾するフィルム片収拾具356は備えていない。
その他の構成は、実施の形態1の場合と同じであるので、詳細な説明は省略する。
【0068】
(作用)
前記カッター351と同様に刃60は、一定の間隔で昇降し、上昇状態にある刃60が降下することによって、フィルム5には、図10に示すように一定間隔で農業機械Aの進行方向に並行又は略並行に切れ目52が形成される。
【0069】
降下した植播具20の下端はフィルム5の切れ目52と交差状態に当接し、フィルム5の切れ目52の縁を柔らかい土壌中に押し込みながら更に降下する。この押し込みによって切れ目52の縁は両側に開かれ、その間から植播具20が土壌中に突入して土壌に穴を形成し、その後穴の中に植播する。
【0070】
切れ目52は農業機械の進行方向に並行又は略並行に形成されているために、植播具20の下端が切れ目52と交差状態に当接する箇所が、切れ目52の中央部分でなくても、植播具20の押し込みによって切れ目52の縁は両側に開かれるために、フィルム5が引き破られるのを阻止又は防止できる。
【0071】
また、前記のように、刃先62は農業機械Aの進行方向に向って上方に傾斜しており、農業機械Aの経年使用によって昇降体35の上昇するタイミングが多少遅れても、フィルム5を切るだけであり、引きずりによる破損が防止できる。
その他の作用は、実施の形態1の場合と大体同じであるので、詳細な説明は省略する。
【0072】
なお、本明細書で使用している用語と表現は、あくまでも説明上のものであって、なんら限定的なものではなく、本明細書に記述された特徴およびその一部と等価の用語や表現を除外する意図はない。また、本発明の技術思想の範囲内で、種々の変形が可能であるということは言うまでもない。
【符号の説明】
【0073】
A 農業機械
1 機枠
10 クローラ
11 補強枠
12 ハンドル
13、14 座席
15 中継回転軸
150 スプロケット
151 スプロケット
152 チェーン
153 チェーン
16 軸受
2 植播装置
20 植播具
21 回転軸
210 スプロケット
3 要素形成装置
30 基部枠
300 腕枠
301 台板
31 軸受
32 回転軸
320 スプロケット
33、33a 爪具
330 係合爪部
34 ガイド管
340 ガイド長孔
341 挿通孔
342 キャップ
35 昇降体
350 射出ロッド
351 カッター
352 ローラ
353 軸
354 取付具
355 刃部
356 フィルム片収拾具
357 戻り
358 係合溝
359 射出バネ
37 係止ピン
370 ワイヤチューブ
371 バネ
P1 穴形成部
P2 植播部
4 畝
5 フィルム
50 打抜穴
51 フィルム片
52 切れ目
60 刃
62 刃先

【特許請求の範囲】
【請求項1】
農業機械を使用して、フィルムマルチ栽培用のフィルムで被覆されている土壌中に一定間隔で苗の植付け又は播種する方法であって、
苗の植付け又は播種箇所に、前記農業機械が備える第1の装置で前記フィルムの引き破り阻止又は防止要素を形成し、
次いで、前記農業機械が進行し、前記引き破り阻止又は防止要素が形成された箇所に、前記農業機械が備える第2の装置の苗の植付け又は播種をする器具が前記フィルムを通り抜けて土壌に突入して穴を形成し、
その後前記穴に苗の植付け又は播種を行う、
フィルムマルチ栽培における苗の植付け又は播種方法。
【請求項2】
フィルムの引き破り阻止又は防止要素が、一定間隔に形成されている打抜穴又は切れ目である、請求項1記載のフィルムマルチ栽培における苗の植付け又は播種方法。
【請求項3】
走行部と、周期的に昇降して苗の植付け又は播種をする器具を有する第2の装置と、を備え、前記器具の昇降行程の下死点又はその近傍で、前記器具がフィルムマルチ栽培用のフィルムで被覆されている土壌中に突入して土壌に穴を形成し、当該穴の中に苗を植付け又は播種する農業機械であって、
前記第2の装置より進行方向前部側には、前記器具の突入箇所に前記フィルムの引き破り阻止又は防止要素を形成する第1の装置を備えている、
農業機械。
【請求項4】
フィルムの引き破り阻止又は防止要素が打抜穴又は切れ目である、請求項3記載の農業機械。
【請求項5】
第1の装置は、
一定間隔で又は周期的に昇降する昇降体と、
走行部を駆動する駆動力を利用して回転し、前記昇降体と係合して昇降体を上昇させる上昇駆動手段と、
を備えており、
前記上昇駆動手段と上昇した前記昇降体とが脱係合状態となったときに上昇した昇降体は自重で落下して又は上昇に伴って付勢された付勢体で射出されてフィルムに打抜穴又は切れ目を形成する、
請求項3又は4記載の農業機械。
【請求項6】
第1の装置は、打抜穴を形成する装置であり、フィルムの打ち抜きによって生じたフィルム片を収拾する手段を備えている、
請求項5に記載の農業機械。
【請求項7】
走行部と、周期的に昇降して苗の植付け又は播種をする器具を有する第2の装置と、を備え、前記器具の昇降行程の下死点又はその近傍で、前記器具がフィルムマルチ栽培用のフィルムで被覆されている土壌中に突入して土壌に穴を形成し、当該穴の中に苗を植付け又は播種する農業機械に装着して使用され、フィルムが引き破られるのを阻止又は防止するアタッチメントであって、
前記農業機械の前記第2の装置より進行方向前部側に装着され、前記植付け又は播種をする器具の突入箇所のフィルムに打抜穴又は切れ目を形成する、
農業機械用アタッチメント。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2012−34657(P2012−34657A)
【公開日】平成24年2月23日(2012.2.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−179661(P2010−179661)
【出願日】平成22年8月10日(2010.8.10)
【出願人】(510218076)
【Fターム(参考)】