説明

フィンライン型導波管構造、偏波分離器およびフィンライン型導波管構造の製造方法

【課題】フィンライン型導波管構造を有する導波管部品の特性を向上させる。
【解決手段】フィルムUは、フィン体(フィン10、20)の一方の表面(図2では上側面)の、しかも導波管内部(空間)に対向する部分に設けられている。フィルムLは、フィン体の他方の表面(図2では下側面)の、しかも導波管内部(空間)に対向する部分に設けられている。このようにして、フィン10、20の互いの位置ズレを防止することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フィンライン型導波管構造、偏波分離器およびフィンライン型導波管構造の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
単方向通信や双方向通信の伝送容量増を実現する偏波多重方式では、水平偏波と垂直偏波を分離し異なるポートに出力する偏波分離器が必要となる。
【0003】
図4(a)は、従来の偏波分離器の構造を示す断面図であり、図4(b)は、図4(a)の符号Mで示す部分の拡大図である。
【0004】
同図の偏波分離器は、フィンライン型導波管構造を有するものであり、フィン体(フィン10、20)を導波管用の溝が形成された金属ブロック1、2で挟み込んだ構成である。例えば、水平偏波はフィン間に閉じ込められ、垂直偏波に対して分離される。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】IEEE microwave magazine Volume: 7 Issue: 6 Date: Dec. 2006 Page(s): 74-84, Low-noise 6-8 GHz receiver, Pandian, J.D, Baker, L, Cortes, G, Goldsmith, P.F, Deshpande, A.A, Ganesan, R, Hagen, J, Locke, L, Wadefalk, N, Weinreb, S
【非特許文献2】IRE Transactions on microwave theory and techniques Date:October.1956 Page(s): 263-267 Recent Advances in Finline Circuits Sloan D. Robertson
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、図4(b)に示すように各フィンの位置が互いにずれることがある。偏波分離器を組み立てる時にフィンへ不用意な外力が加わったことや、偏波分離器を装置へ組み込む時などに偏波分離器に衝撃が加わったことで、フィンが曲がり、各フィンの位置が互いにずれるのである。
【0007】
この位置ずれにより、従来の偏波分離器にあっては、水平偏波をフィン間に閉じ込める効果が低下し、分離特性(アイソレーション)が悪化する。
【0008】
本発明は、上記の課題に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、フィンライン型導波管構造を有する導波管部品の特性を向上させる技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の課題を解決するために、第1の本発明に係るフィンライン型導波管構造は、2つのフィンを含むフィン体を備えるフィンライン型導波管構造であって、前記フィン体の一方の表面に設けられるフィルムを備えることを特徴とする。
【0010】
例えば、前記フィン体の他方の表面にもフィルムを設ける。
【0011】
例えば、偏波分離器に上記のフィンライン型導波管構造を設ける。
【0012】
第2の本発明に係るフィンライン型導波管構造の製造方法は、2つのフィンを含むフィン体を備えるフィンライン型導波管構造の製造方法であって、前記フィン体の一方の表面にフィルムを設ける工程を備えることを特徴とする。
【0013】
例えば、前記フィン体の他方の表面にもフィルムを設ける。
【0014】
例えば、前記表面にフィルムを設ける工程は、前記表面に当該フィルムより大きいフィルムを設ける工程と、当該大きいフィルムを最終的な形状を残して切除する工程とを備える。
【0015】
例えば、前記表面にフィルムを設ける工程は、当該フィルムより大きいフィルムを最終的な形状を残して切除する工程と、当該残った最終的な形状のフィルムを表面に設ける工程とを備える。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、フィン体の一方の表面に設けられるフィルムを備えることで、フィルムによりフィンの位置ズレが防止され、特性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の実施の形態に係る偏波分離器の概略的な構造を示す平面図である。
【図2】本発明の実施の形態に係る偏波分離器の概略的な構造を示す断面図である。
【図3】本発明の実施の形態に係る偏波分離器においてフィンにフィルムを設ける方法を示す説明図である。
【図4】従来の偏波分離器の構造を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施の形態を図面を参照して説明する。
【0019】
図1、2は、本発明の実施の形態に係る偏波分離器の概略的な構造を示す図である。図1は、図2のBB線で示す面を矢印の方向に見た平面図である。図2は、図1のAA線で示す面を見た断面図である。以下、かかる偏波分離器を単に偏波分離器という。
【0020】
偏波分離器は、金属ブロック1、2と、フィン10、20(フィン体と総称する)と、フィルムU、Lとを備える。フィンは電気的抵抗を有する金属板などである。
【0021】
偏波分離器は、フィンライン型導波管構造を有するものであり、フィン10、20を導波管用の溝が形成された金属ブロック1、2で挟み込んだ構成である。
【0022】
フィルムUは、フィン体の一方の表面(図2では上側面)の、しかも導波管内部(空間)に対向する部分に設けられている。フィルムLは、フィン体の他方の表面(図2では下側面)の、しかも導波管内部(空間)に対向する部分に設けられている。
【0023】
フィルムは、例えば、低誘電率(例えば、比誘電率3以下)、且つ、低tanδ(例えば、0.001以下)の誘電体である。フィルムは、例えば、ポリイミド系の50μmの厚さのものである。
【0024】
フィン10とフィン20の間の箇所には、最も強い電界が発生するので、その箇所にフィルムが存在しない領域が生じて誘電率が不均一になると、伝播特性が劣化する可能性がある。
【0025】
そこで、フィルムには流動性の高い材質を用い、そのフィルムでフィン10、20を強く挟むことで、フィン10、20の間の空隙にフィルムの材料を流れ込ませ、その結果、図2に示すように、フィン10、20の間において、フィルムが存在しない領域が生じないようにするのが好ましい。
【0026】
図1において、符号P1、P2、P3で示す導波管内部の空間をそれぞれポートP1、P2、P3という。各ポートの幅は、ミリ波を扱う場合、数ミリメートルである。
【0027】
次に、偏波分離器の製造方法を説明する。
【0028】
まず、フィンにフィルムを設ける方法を説明する。フィン体にフィルムを設ける方法としては、2つの方法がある。
【0029】
図3(a)は、一方の方法を示す図である。
【0030】
まず、例えば、フィン体より大きいフィルムの上にフィン10、20を載置し、フィンとフィルムを互いに固着する。これにより、以降は、フィン10、20の位置ズレを防止することができる。次に、フィン10、20の上にフィン体より大きいフィルムを載置し、フィンとフィルムを互いに固着する。これにより、フィン10、20の位置ズレを防止する効果が高まる。なお、上記のように、フィルムでフィン10、20を強く挟むことで、フィン10、20の間において、フィルムが存在しない領域が生じないようにするのが好ましい。
【0031】
次に、レーザ光などで一方のフィルムをフィルムUの形状を残して切除する。フィルムUは残っているので、フィンの位置ズレを防止する効果は維持される。また、レーザ光などで他方のフィルムをフィルムLの形状を残して切除する。フィルムLは残っているので、フィンの位置ズレを防止する効果は維持される。
【0032】
図3(b)は、他方の方法を示す図である。
【0033】
まず、フィルムUより大きいフィルムをフィルムUの形状を残して切除する。また、フィルムLより大きいフィルムをフィルムLの形状を残して切除する。
【0034】
一方、フィン10、20を互いにずれないように治具(図示せず)などで位置決めする。
【0035】
次に、フィン体におけるフィルムUの位置にフィルムUを付し、フィン体とフィルムを互いに固着する。これにより、以降は、フィン10、20の位置ズレを防止することができる。また、フィン体におけるフィルムLの位置にフィルムLを付し、フィン体とフィルムを互いに固着する。これにより、フィン10、20の位置ズレを防止する効果が高まる。なお、上記のように、フィン10、20の間において、フィルムが存在しない領域が生じないようにするのが好ましい。
【0036】
図3(a)、(b)に示すいずれかの方法で、フィン体とフィルムは一体化される。これにより、これらを1部品として扱うことができる。よって、フィンを不用意に落下させ、フィンが曲げるというような事故の防止を図ることができる。
【0037】
次に、一体化されたフィンとフィルムを、フィルムが導波管内に位置するように金属ブロック1、2で挟み込む。こうして、偏波分離器が完成する。
【0038】
次に、偏波分離器の作用を説明する。
【0039】
図1のポートP1には、方向Hの電界を有する水平偏波と方向Hに垂直な電界を有する垂直偏波とを含むミリ波などが導入される。垂直偏波は、フィン10、20を透過し、ポートP2へ伝播される。一方、水平偏波は、フィン10、20の間の隙間に閉じ込められ、ポートP3へ伝播される。フィルムによりフィンの位置ズレが防止されるので、水平偏波は、フィン10、20の間の隙間に確実に閉じ込められ、ポートP3へ伝播される。したがって、分離特性を向上させることができる。
【0040】
以上説明したように、偏波分離器のフィンライン型導波管構造によれば、フィン体の一方の表面に設けられるフィルムUと、フィン体の他方の表面に設けられるフィルムLとを備えることで、フィルムによりフィンの位置ズレが防止され、分離特性を向上させることができる。
【0041】
2つのフィルムに関しては、例えば、その一方だけを設けるようにしてもよいが、両方を設けた方が好ましい。両方のフィルムを設けることで、導波管内部を構造的に対称にできる。フィルムは導波管内部の伝播特性に影響を与える誘電体などであるが、導波管内部が構造的に対称ならば、分離特性への影響を少なくできる。
【符号の説明】
【0042】
1、2…金属ブロック
10、20…フィン(金属板)
U、L…フィルム
P1、P2、P3…ポート

【特許請求の範囲】
【請求項1】
2つのフィンを含むフィン体を備えるフィンライン型導波管構造であって、
前記フィン体の一方の表面に設けられるフィルム
を備えることを特徴とするフィンライン型導波管構造。
【請求項2】
前記フィン体の他方の表面に設けられるフィルム
を備えることを特徴とする請求項1記載のフィンライン型導波管構造。
【請求項3】
請求項1または2記載のフィンライン型導波管構造を備えることを特徴とする偏波分離器。
【請求項4】
2つのフィンを含むフィン体を備えるフィンライン型導波管構造の製造方法であって、
前記フィン体の一方の表面にフィルムを設ける工程
を備えることを特徴とするフィンライン型導波管構造の製造方法。
【請求項5】
前記フィン体の他方の表面にフィルムを設ける工程
を備えることを特徴とする請求項4記載のフィンライン型導波管構造の製造方法。
【請求項6】
前記表面にフィルムを設ける工程は、
前記表面に当該フィルムより大きいフィルムを設ける工程と、
当該大きいフィルムを最終的な形状を残して切除する工程と
を備えることを特徴とする請求項4または5記載のフィンライン型導波管構造の製造方法。
【請求項7】
前記表面にフィルムを設ける工程は、
当該フィルムより大きいフィルムを最終的な形状を残して切除する工程と、
当該残った最終的な形状のフィルムを表面に設ける工程と
を備えることを特徴とする請求項4または5記載のフィンライン型導波管構造の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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