説明

フェノキシ酢酸誘導体の合成

本発明は置換2−(4−カルボニルメトキシ−2,5−ジ置換可フェニル)アセトアルデヒドの製造のための改良方法に関するものである。特に、2−(4−アルコキシカルボニルメトキシ−2,5−ジ置換可フェニル)アセトアルデヒドと、置換可2−〔4−〔2−〔〔2−ヒドロキシ−2−(4−ヒドロキシフェニル)−1−メチルエチル〕アミノ〕エチル〕−2,5−ジ置換可フェノキシ〕酢酸誘導体、又はその塩の製造におけるそれらの使用に関するものであり、それらは医薬活性物質として用いられる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は置換2−(4−カルボニルメトキシ−2,5−ジ置換−フェニルオキシ)アセトアルデヒドの工業スケールにおける製造のための改良方法に関するものである。特に、2−(4−アルコキシカルボニルメトキシ−ジ置換−フェニルオキシ)アセトアルデヒド及び置換可2−〔4−〔2−〔〔2−ヒドロキシ−2−(4−ヒドロキシフェニル)−1−メチルエチル〕アミノ〕エチル〕−2,5−ジ置換フェノキシ〕酢酸誘導体、又はその塩の工業製造における使用を請求する。特に本発明は医薬活性物質として用いてもよい、(−)−2−〔4−(2−{〔(1S,2R)−2−ヒドロキシ−2−(4−ヒドロキシフェニル)−1−メチルエチル〕アミノ}エチル)−2,5−ジメチルフェニルオキシ〕酢酸エチル及び(−)−2−〔4−(2−{〔(1S,2R)−2−ヒドロキシ−2−(4−ヒドロキシフェニル)−1−メチルエチル〕アミノ}エチル)−2,5−ジメチルフェニルオキシ〕酢酸、並びにその塩に関する。
【背景技術】
【0002】
式(I)の化合物は、EP 1 095 932、特開2002−338513及び他の刊行物から公知である。それらはβ−アドレナリン受容体刺激作用を有し(β−アドレナリン受容体アゴニスト)、肥満症、脂肪過多、高血糖症、腸管運動亢進に起因する疾患、腸管運動過剰症に起因する疾患、頻尿、尿失禁、鬱病、胆汁酸胆石に起因する運動亢進もしくは胆道の運動亢進、及びコレステロール胆石を予防又は治療するための薬剤として興味深い。最も好ましい適応領域は過活動膀胱、腹圧性尿失禁、切迫性尿失禁又はそれらの混合型のいずれのタイプである、尿失禁である。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明の課題は、下記式(I):
【化1】


(式中、Rは水素原子、枝分かれ状又は非枝分かれ状のC1−6アルキル、又は置換されても良いベンジルであり、好ましくは枝分かれ状又は非枝分かれ状のC1−6アルキル、又は置換されても良いベンジルである。)
で表される2−〔4−〔2−〔〔2−ヒドロキシ−2−(4−ヒドロキシフェニル)−1−メチルエチル〕アミノ〕エチル〕−2,5−ジ置換フェノキシ〕酢酸誘導体の工業スケールでの合成である。
【課題を解決するための手段】
【0004】
1−6アルキルとしては、好ましくはメチル、エチル又はプロピルであり、より好ましくはプロピル又はエチルであり、もっとも好ましくはエチルである。
式(I)による化合物の製造後、Rが元々水素原子でない場合には、当業者に知られている加水分解により水素原子へ変換することができ、又は当業者に知られている方法により、NH,NHC1−6アルキル又はN(C1−6アルキル)(C1−6アルキルは上記に定義された通りである。)へ変換できる。
【0005】
又はXは互いに独立して、水素原子、ハロゲン原子又は枝分かれ状もしくは非枝分かれ状のC1−6アルキルである。
ハロゲン原子は、好ましくはフッ素原子、塩素原子又は臭素原子である。
1−6アルキルとしてのX又はXは、好ましくはメチル、エチル又はプロピルであり、より好ましくはメチル又はエチルであり、もっとも好ましくはX又はXがそれぞれメチルである。
【0006】
本明細書において、「置換されても良いベンジル」とは、ベンジル基の芳香環が、枝分かれ状又は非枝分かれ状のC1−6アルキル及び/又はC1−6アルコキシ(どちらも互いに独立してフッ素原子、塩素原子、臭素原子及びヨウ素原子からなる群から選択されるハロゲン原子によって置換されていてもよい)に、特に好ましくはメチル、エチル又はトリフロロメチル、互いに独立してフッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子から選択される1〜6個のハロゲン原子、−CN、ニトロ、ヒドロキシ、又はC1−6アルキルにより置換されてもよいアミノ(特にジメチルアミノ又はジエチルアミノである。)によって置換されても良いことを意味する。
【0007】
本発明によって製造される好ましい化合物は、
1) X = Br、X = H、R = H
2) X = Cl、X = H、R = H
3) X = Cl、X = Cl、R = H
4) X = H、X = H、R = H
5) X = Cl、X = H、R = H
7) X = Cl; X = Cl、R = Et
8) X = Me; X = Me、R = Et
9) X = Me; X = Me、R = H
である。
【0008】
好ましい立体特異的な詳細は、式(II):
【化2】


(式中、X、X及びRは上記定義した通りであり、すべての好適態様は上記記載の通り(特に化合物1〜9)である。)に示される。
式(II)により請求されている化合物は、(−)−2−〔4−〔2−〔〔(1S,2R)−2−ヒドロキシ−2−(4−ヒドロキシフェニル)−1−メチルエチル〕アミノ〕エチル〕−2−X,5−Xフェノキシ〕酢酸Rエステル、対応する酢酸誘導体(R= H)又はそれらのいずれかの薬理学的に許容な塩として挙げられる。
【0009】
明瞭性及び完全性の目的ため、特定の用語が以下に使われる。
一般式(I)で示される化合物は、明確に記載された態様及び全ての化学的又は薬理学的に等価なものを含む。化合物はその薬理学的に許容される塩に変換することができる。この明細書の対象である各化合物に対する薬理学的に活性な塩の例には、それに制限されることは無く、有機酸及び無機酸を含む薬理学的に許容される酸より製造される塩を含む。望ましい薬理学的に許容される塩には、酢酸、ベンゼンスルホン酸(ベシル酸)、安息香酸、p-ブロモフェニルスルホン酸、カンファースルホン酸、炭酸、クエン酸、エタンスルホン酸、フマル酸、グルコン酸、グルタミン酸、臭化水素酸、塩酸、ヨウ化水素酸、イセチオン酸、乳酸、マレイン酸、リンゴ酸、マンデル酸、メタンスルホン酸(メシル酸)、ムチン酸、硝酸、シュウ酸、パモン酸、パントテン酸、リン酸、コハク酸、硫酸、酒石酸、p−トルエンスルホン酸などが含まれる。
【0010】
いうまでもなく、合成ルートにおいて鍵となる中間体として新しい種類の化合物が用いられ、それもまた本発明の対象である。その化合物は、2−(4−(置換カルボニル)メトキシ−2,5−ジ置換フェニル)アセトアルデヒドであり、それは本発明のもう一つの目的である。
それらは構造式(V);
【化3】


(式中、R、X及びXは上記記載の通りである)によって表される。
【0011】
式(I)に示される化合物を製造する方法は、EP 1 095 932及び特開2002−338513において開示されている。
特開2002−338513において開示される合成ルートは、式:
【化4】


(式中、X及びXは共にメチルであり、Wはアルキル基である。)
の化合物から始まる5つのステップを必要とする。再結晶した式(I)の最終製品までは、3つの独立した中間体を経る。それらはアセタール又はセミアセタールであり、温度のような特定の物理的性質に影響され易いことが判明しており、そのことが工業的標準における技術的な製造プロセスを複雑かつ難しくしている。
【0012】
したがって、従来技術から知られている合成を改善することが、本発明の1つの目的である。
【0013】
本発明のもう一つの面としては、式(I)の化合物を工業的標準において高収量で生産するための製造プロセスを示すことである。
【0014】
本発明のもう一つの目的としては、長い貯蔵寿命時間を安定に経過するような、式(I)の化合物を生産するための製造プロセスを提示することである。
【0015】
もう一つの目的は良好な製造特性を有する製造プロセスを作製することである。つまり、本発明のもう一つの目的としては、工程数の減少を伴い、そして最後に製品の最適化された収率を伴う製造プロセスを作製することである。
【0016】
これらの目的は本発明による方法によって達成される。その理由は、新規なルートが式(III)で示される化合物から最終製品(式I)まで3つの工程しか含まず、安定な中間体を与え、そのために、貯蔵が複雑ではないことにある。
加えて、本発明の合成ルートは、高収量及び工業的標準で、式(I)で示される化合物の生産を可能にする。
【0017】
スキーム1に本発明による製造方法について概要を示す:
【化5】

【0018】
上記スキームにおいて、
は、好ましくは枝分かれ状又は非枝分かれ状のC1−6アルキル又は水素原子である;好ましくはC1−6アルキルであり、その中で、メチル、エチル及びプロピルが好ましい。より好ましいのはプロピル及びエチルであり、もっとも好ましいのはエチルである。;
: 互いに独立して枝分かれ状又は非枝分かれ状のC1−6アルキルであるか、両方のRが共に1,3−ジオキサニル又は1,3−ジオキソラニル等の飽和5又は6員環を形成する。;好ましくはC1−6アルキル(中でもメチル、エチル及びプロピル)である。より好ましくはメチル及びエチルであり、最も好ましくはメチルである。;
又はXは互いに独立して前記記載の通りであり、好ましくはC1−6アルキル(中でもメチル、エチル及びプロピルが好ましい)である。より好ましくはメチル及びエチルであり、最も好ましくはメチルである。
【0019】
本発明のもう一つの面としては、中間体V自体と同様に、式(IV)(工程b)である化合物から始まる式(II)の化合物の合成である。
【0020】
式(III)の化合物は、例えば特開2002−338513に記載されている方法を通じて入手できる。特に、特開2002−338513の実施例1は、X及びXがRと同様にメチルである式(III)の化合物の合成を記載している。そのために、本合成ルートも同様に適用することができる。
【0021】
スキーム1に概説された本発明による方法とは異なった工程としては、当然公知の手順、特に以下の手順で行っても良い。明確にするために、本願明細書において記載されている構成要素及び中間体は、最終的に同じ最終製品を得るための当該技術水準に従って変更しても良いことを指摘しておくことにする。このような変更は、特定の工程を意図するものではないが、適当な保護基の可逆的導入又は当該基の可逆的変換等によって、一つ以上の基を保護することを含むが、これに限定されるものではない。本発明は、このような当業者にとって容易に成し遂げられる代替法及び等価な方法に関連する。
【0022】
工程 a:
上記一般式(IV)によって表されるフェノキシ酢酸エステル誘導体は、一般式(III)のフェノール誘導体を式(IV)の化合物と反応させることによって製造できる。
【化6】


(式中、Zはハロゲン原子(例えば塩素又は臭素)、トシレート又はCOのような置換基を表し、Rは上記定義の通りである。)
好ましい反応条件は、不活性溶媒中、及び/又は0〜100℃の温度で、及び/又は1〜24時間の反応時間からなる。Zがハロゲン原子の場合には、触媒量のヨウ化ナトリウムを反応混合物に加えてもよい。
【0023】
この反応に適している不活性溶媒は、例えばテトラヒドロフランのようなエーテル類、アセトン及びメチルエチルケトンのようなケトン類、アセトニトリル、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド及びそれらの混合物を含む。混合物は上述の溶媒のうちの2つ以上を含んでもよい。塩基としては、無機又は有機塩基を用いてもよい。無機塩基としては、ナトリウム又はカリウムの水酸化物、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム及び炭酸セシウムが挙げられる。有機塩基としては、トリエチルアミン又はエチルジイソプロピルアミンが挙げられる。この反応はまた相転移条件下で行ってもよい。通常、一般式(III)の化合物に対しそれぞれ1〜5当量の一般式(VI)の化合物と塩基が用いられる。式(VI)の化合物と塩基のモル比率に関しては、通常等モルで使われるが、どちらかを過剰に使うこともできる。
【0024】
反応終了後、通常の方法によって反応生成物を抽出し、濃縮して所望の一般式(V)のフェノキシ酢酸エステル誘導体を得る。フェノキシ酢酸エステル誘導体(IV)は次の工程に行く前に精製しても良いが、精製せず次の工程でそれを使用することも可能である。
【0025】
好ましい工程のバリエーションにおいては、式(III)の化合物と約1.2当量のZが臭素原子である上記一般式VIの化合物を、アセトン中約1.3当量の炭酸カリウムと触媒量のヨウ化ナトリウムの存在下、約3時間還流下に反応させることにより、式IVの化合物を与える。
【0026】
工程b:
上記一般式(V)のフェノキシ酢酸エステル誘導体は、その後同時に及び/又はその後の水酸基の還元でアセタールをアルデヒドに変えることによって、一般式(V)のアルデヒドに変換される。
水酸基の還元は式(V)の化合物の水酸基を脱離基に変換することにより行っても良い。例えば一般式(IV)の化合物をトリメチルクロロシラン、メチルジフェニルクロロシラン、tert−ブチル−ジメチルクロロシラン又はtert−ブチル−ジフェニルクロロシラン等のトリアルキルハロシランと反応させることによって、対応するトリアルキルシリルオキシ誘導体が得られる。このようなシリル基は、続いて還元条件下で切断することができる。シリル化のため、2〜5当量のトリアルキルハロシランを用いることができ、約3.1当量の使用が好ましい。加えて、ヨウ化ナトリウムは、トリアルキルハロシランと同様の量を加えてもよい。この反応に適している溶媒は、好ましくはアセトニトリルであるが、これに限定されるものではない。この反応は通常−50℃から25℃の間で行われ、好ましくは−40℃から0℃の間で、もっとも好ましくは−15℃から−25℃の間であり、特に約−20℃が好ましい。反応時間は1〜24時間の間で変えてもよく、大概1〜3時間であり、特に約2時間あれば反応完結には十分である。反応混合物をその後酢酸ナトリウム及びチオ硫酸ナトリウムの水溶液によって洗浄してもよい。反応終了後、反応生成物を通常の方法によって抽出し、濃縮する。
ジメトキシ基の除去の前に、得られた残渣を適切な溶媒(例えばテトラヒドロフラン、ジオキサン、メタノール、エタノール、トルエン等)を使用して、適宜活性炭処理してもよい。このように得られる精製された溶液、又は活性炭処理に適している溶媒の一つに溶解している精製していない残渣は、水及びシュウ酸、過塩素酸、硫酸、塩酸、p-トルエンスルホン酸を用い、室温で数時間処理される。一般に、1〜10当量のシュウ酸が用いられ;約3.4当量が好ましい。後処理は通常の方法によってなされる。
【0027】
工程c:
最終生成物を製造するために、一般式(II)のアルデヒドを、対応するアミン、好ましくは以下の構造のアミン、4−ヒドロキシノルエフェドリン(HNE)と反応させる。
【化7】


代替ルートでは、その化合物のエナンチオマー又はジアステレオマーも、ラセミ体と同様に使うことができる。その方法に従って製造した場合、2つの不斉中心がHNEに存在する点を指摘しておく。HNEがラセミ体の場合には、ラセミ体の分離は、(1S,2R)の立体配置である好ましい最終生成物の製造を完了するための次のステップで行ってもよい。当該技術水準として開示されているような適当な保護基によってOH基を保護することも可能である。
(V)とアミン(好ましくはHNE)のカップリング反応は、不活性溶媒中、還元剤の存在下行われる。温度は反応が完結するか止まるまで、好ましくは−20℃から60℃に保たれる。反応時間は、通常1〜48時間の間である。
適切な還元剤は、NaBH、NaCNBH、NaBH(OAc)及びNaBH(OMe)のような水素化ホウ素アルカリ金属や、BH・ピリジン及びBH・N,N−ジエチルアミンのようなボラン化合物を含む。それらは必要に応じて酢酸、p−トルエンスルホン酸、メタンスルホン酸、硫酸もしくは塩酸のような酸又はトリエチルアミンのような塩基の存在下に使用することができる。さらには、5〜10%のパラジウム炭素、ラネーニッケル、酸化白金、パラジウムブラック又は10%白金炭素(硫黄で被毒された)のような触媒量の金属触媒を水素雰囲気下に用いることができる。ボランのような水素化ホウ素アルカリ金属を還元剤として用いたときに、その量は式Vのアルデヒドに対し0.5〜5当量の範囲で適宜選ばれる。この反応のために用いることができる不活性溶媒は、例えば、テトラヒドロフラン、1,2−ジメトキシエタン及びジオキサンのようなエーテル類、塩化メチレン及び1,2−ジクロロエタンのようなハロゲン化炭化水素、酢酸のような有機カルボン酸、トルエンのような炭化水素、メタノール及びエタノールのようなアルコール類、及びアセトニトリルを含む。これらの溶媒は単独で又はそれらのうち2つ以上を混合して用いることができる。反応の完結後、必要に応じて、不溶物を除去し、通常の方法によって生成物を抽出し、濃縮して所望の式Iのフェノキシ酢酸誘導体を得る。
【0028】
好ましい還元剤は水素雰囲気下でのパラジウム炭素であり、特に10%の濃度のものがよい。溶媒としてはテトラヒドロフランが好ましい。
【0029】
式(I)のフェノキシ酢酸誘導体は、所望により、通常の方法によって生理学的に許容される塩に変換できる。その塩は、塩酸、臭化水素酸、ヨウ化水素酸、硫酸及びリン酸のような無機酸との酸付加塩、同様にギ酸、酢酸、メタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、p−トルエンスルホン酸、プロピオン酸、クエン酸、コハク酸、酒石酸、フマル酸、酪酸、シュウ酸、マロン酸、マレイン酸、乳酸、リンゴ酸、炭酸、グルタミン酸及びアスパラギン酸のような有機酸との酸付加塩を含む。
好ましくは、式(I)の化合物の塩酸付加塩を製造する。
【0030】
任意の工程d:
適宜更なる精製のために、一般式(I)の化合物又はこのように得られた酸付加塩は、適切な溶媒を使用して再結晶してもよい。このような適切な溶媒は、メタノール、エタノール、ブタノール、t-ブタノール又はイソプロパノールのようなアルコール類と、メチルtert-ブチルエーテル又はジエチルエーテルのようなエーテル類を含む。
【0031】
工程dの好ましいバリエーションにおいて、式(I)の化合物の塩酸塩を、40容量%のエタノールと60容量%のメチルtert−ブチルエーテルの混合溶媒から再結晶する。単離した結晶は、エタノールとメチルtert−ブチルエーテルの氷冷混合物(母液中よりメチルtert−ブチルエーテルがさらに多い)、メチルtert−ブチルエーテル単独で順次洗浄する。
【0032】
さらにもう一つの任意の工程は、まだ所望の塩で無い場合に、工程c又はdによる生成物を塩に変換する工程eである。その方法を実施するには、従来技術、特に上記記載の技術を参照する。
【0033】
上述したように、Rがアルキルである式(I)又は(II)で示される化合物は、従来知られる加水分解方法により遊離酸へ、又はアミノ化方法によりアミドへ任意に変えることができる。
【発明の効果】
【0034】
従来技術より本発明が特に優れている点は:
・工業スケールの化学プロセスにおいて、全収率が大幅に改善される。
・セミアセタールのような不安定な中間体が回避できる。
・製法が1工程短縮できる。
・容積−時間効率が改善される。容積とは反応容器の容積量(m)に関連し、時間とは1kgの物質を製造するために必要な反応時間を指す。
【0035】
大きな改善点は全収率の向上で、特に工業スケールの化学プロセスでは非常に重要である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0036】
以下の実施例は、より詳細に本発明を例示することを目的とする:
【実施例】
【0037】
実施例1
2−〔4−(2,2−ジメトキシ−1−ヒドロキシエチル)−2,5−ジメチルフェノキシ〕酢酸エチル
【化8】


4−(2,2−ジメトキシ−1−ヒドロキシエチル)−2,5−ジメチルフェノール(20.0g、88.3mmol、1.0当量)、KCO(15.9g、115mmol、1.3当量)、ブロモ酢酸エチル(17.7g、106mmol、1.2当量)及びNaI(触媒量)を、アセトン(20ml)中、室温で混合する。懸濁物を3時間還流撹拌する。トリエチルアミン(5ml、35mmol、0.4当量)を加えた後に、混合物をトルエン(150ml)で希釈し、NaOH水溶液(0.5M、100ml)、及び水(100ml)で洗浄する。有機層を濃縮して油状残渣とし、シクロヘキサン(400ml)を55℃で加える。0℃に冷却した後、白色結晶をろ取する。シクロヘキサン(60ml)にて洗浄し、減圧下45℃にて乾燥する。
収量: 24.8 g、79.5mmol、90%
融点: 83℃
【0038】
実施例2
2−(4−エトキシカルボニルメトキシ−2,5−ジメチルフェニル)アセトアルデヒド
【化9】


NaI(29.8g、197mmol、3.1当量)及びトリメチルクロロシラン(21.6g、197mmol、3.1当量)をアセトニトリル(50ml)中、5℃にて15分間撹拌し、懸濁物を−20℃まで冷却する。2−〔4−(2,2−ジメトキシ−1−ヒドロキシエチル)−2,5−ジメチルフェノキシ〕酢酸エチル(20.0g、63.0mmol、1.0当量)のアセトニトリル(50ml)溶液を加え、2時間撹拌する。後処理として、NaHCO水溶液(150ml)、及び飽和Na水溶液(90ml)を加え、混合物をトルエン(140ml)で希釈し、5℃まで加温する。有機層を分離し、Na水溶液(40ml)及び水(2×40ml)にて洗浄する。有機層の溶媒を減圧下に完全に留去し、油状残渣をTHF(50ml)で希釈する。溶液を活性炭処理し、ろ過後、有機層を水(170ml)及びシュウ酸(20.0g、218mmol、3.4当量)で処理する。反応は3.5時間で完了し、トルエン(140ml)を加える。層分離の後、有機層を水(2×40ml)、NaHCO水溶液(40ml)、及び再び水(2×40ml)で洗浄する。最後に粗生成物を濃縮する。
収量: 13.1 g、52.3mmol、83%
【0039】
実施例3
(−)−2−〔4−〔2〔〔(1S,2R)−2−ヒドロキシ−2−(4−ヒドロキシフェニル)−1−メチルエチル〕アミノ〕エチル〕−2,5−ジメチルフェノキシ〕酢酸エチル 塩酸塩
【化10】


2−(4−エトキシカルボニルメトキシ−2,5−ジメチルフェニル)アセトアルデヒド(30.0g、120mmol、1.1当量)、4−ヒドロキシ−ノルエフェドリン(18.4g、110mmol、1.0当量)及びPd/C(10%Pd、50%水、7.6g)を室温でテトラヒドロフラン(THF)(300ml)中混合し、反応が終わるまで、Hを懸濁物へ送り込む。ろ過後濃縮し、トルエン(300ml)で洗浄し、有機層を水(3×150ml)で洗浄する。溶液を濃縮し、2−ブタノール(60ml)を加える。70℃でHCl(〜1.5mol/Lの1,4−ジオキサン溶液、60ml、0.85当量)を反応混合物に滴下し、懸濁物を50℃まで冷却する。それから、メチルtert−ブチルエーテル(300ml)をゆっくり加える。結晶は終夜撹拌し、ろ取し、エタノール/メチルtert−ブチルエーテル(1:5、60ml)及びメチルtert―ブチルエーテル(60ml)によって洗浄し、減圧下75℃にて乾燥する。
収量: 39.0 g、89.0mmol、81%
融点: 176℃
【0040】
実施例4
(−)−2−〔4−〔2〔〔(1S,2R)−2−ヒドロキシ−2−(4−ヒドロキシフェニル)−1−メチルエチル〕アミノ〕エチル〕−2,5−ジメチルフェノキシ〕酢酸エチル 塩酸塩の再結晶
(−)−2−〔4−〔2〔〔(1S,2R)−2−ヒドロキシ−2−(4−ヒドロキシフェニル)−1−メチルエチル〕アミノ〕エチル〕−2,5−ジメチルフェノキシ〕酢酸エチル 塩酸塩(例えば実施例3から)(20.0g、45.6mmol)を、78℃でエタノール(110ml)に溶解する。透明な溶液を58℃に冷却し、メチルtert―ブチルエーテル(172ml)をゆっくり加える。0℃に冷却した後、結晶をろ取し、氷冷エタノール/メチルtert−ブチルエーテル(1:5、50ml)及びメチルtert−ブチルエーテル(50ml)によって洗浄する。白色結晶を減圧下70℃にて乾燥する。
収量: 16.6 g、37.9mmol、83%
融点: 196−197℃
【0041】
他の化合物はそれに準じて製造することができる。実施例に示される化合物の合成が好ましい。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式 :
【化1】


(式中、Rは枝分かれ状又は非枝分かれ状のC1−6アルキル又は水素原子;好ましくは枝分かれ状又は非枝分かれ状のC1−6アルキルであり、中でもメチル、エチル又はプロピルが好ましく、より好ましくはプロピル又はエチルであり、もっとも好ましくはエチルであり;
又はXは互いに独立してC1−6アルキルであり、好ましくはメチル、エチル又はプロピルであり、より好ましくはメチル又はエチルであり、もっとも好ましくはメチルである。)
の化合物又はその塩の製造方法であって、
該方法が、以下の工程を含む製造方法:
a)一般式:
【化2】


(式中、X又はXは前記記載の通りであり、Rは互いに独立して枝分かれ状又は非枝分かれ状のC1−6アルキルであり、好ましいC1−6アルキルはメチル、エチル又はプロピルであり、より好ましくはメチル又はエチルであり、もっとも好ましくはメチルであり;又は両方のRが共に1,3−ジオキサニルもしくは1,3−ジオキソラニルのような飽和5もしくは6員環を形成する。)の化合物と、
一般式(VI):
【化3】


(式中、Zは置換基を表し、Rは前記記載の通りである。)の化合物を反応させる工程;
b)一般式(IV):
【化4】


(式中、R,R,X及びXは前記の通りである。)で表される、上記工程により得られた化合物を、以下の方法により
一般式(V):
【化5】


(式中、R,R,X及びXは上記の通りである。)のアルデヒドへ変換する工程、
i)一般式(IV)の化合物の遊離水酸基を脱離基へ変換する工程、及び
ii)還元条件下、前記で得られた化合物の脱離基を除去する工程;
c)得られた式(V)のアルデヒドと1−(4−ヒドロキシフェニル)−1−ヒドロキシ−2−プロピルアミン、好ましくは4−ヒドロキシ−ノルエピネフリンと反応させ、一般式(I)の化合物を製造する工程;
及び
d)必要に応じて、得られた生成物を再結晶する工程;
及び/又は
e)必要に応じて、得られた生成物を塩酸塩のような薬理学的に許容される塩へ変換する工程。
【請求項2】
,R,X及びXがそれぞれ直鎖状又は枝分かれ状のC1−3アルキル基である、請求項1記載の方法。
【請求項3】
がエチルであり、かつR,R,X及びXがそれぞれメチルである、請求項1記載の方法。
【請求項4】
Zが塩素原子又は臭素原子であり、かつ工程a)が塩基の存在下で行われる、請求項1〜3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
塩基が炭酸ナトリウム、炭酸カリウム及び炭酸セシウムからなる群から選択されるものである、請求項4記載の方法。
【請求項6】
工程a)が触媒量のヨウ化ナトリウムの存在下で行われる、請求項4及び5のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
工程b)の脱離基がトリアルキルシリルオキシ基である、請求項1〜3のいずれかに記載の方法。
【請求項8】
工程c)が還元剤の存在下で行われる、請求項1〜3のいずれかに記載の方法。
【請求項9】
還元剤が水素化ホウ素アルカリ金属、ボラン化合物及び金属触媒の存在下水素雰囲気からなる群から選ばれるものである、請求項8記載の方法。
【請求項10】
水素雰囲気下でパラジウム炭素を還元剤として用いる、請求項9記載の方法。
【請求項11】
工程c)が酸の付加又は存在(好ましくは酸が塩酸である。)を伴い、かつ工程e)が行われない、請求項1〜10のいずれかに記載の方法。
【請求項12】
工程d)において、式(I)の化合物、好ましくは(−)−2−〔4−(2−{〔(1S,2R)−2−ヒドロキシ−2−(4−ヒドロキシフェニル)−1−メチルエチル〕アミノ}エチル)−2,5−ジメチルフェニルオキシ〕酢酸エチル 塩酸塩を、必要に応じて、エタノール及びメチルブチルエーテルの混合溶媒中で再結晶する、請求項1〜11のいずれかに記載の方法。
【請求項13】
式(I)の化合物、好ましくは(−)−2−〔4−(2−{〔(1S,2R)−2−ヒドロキシ−2−(4−ヒドロキシフェニル)−1−メチルエチル〕アミノ}エチル)−2,5−ジメチルフェニルオキシ〕酢酸エチルを、必要に応じて再結晶し、単離生成物を塩(好ましくは塩酸塩である。)へ変換する、請求項1〜12のいずれかに記載の方法。
【請求項14】
工程b)、c)、及び任意にd)及び/又はe)のいずれかの工程を含む、請求項1,2,3,7,8,9,10,11及び12のいずれかに記載の方法。
【請求項15】
式:
【化6】


(式中、Rはエチルであり、R,X及びXはそれぞれメチルである。)
の化合物の製造方法であって、該方法が以下の工程を含む、請求項1〜14のいずれかに記載の製造方法:
工程a)が、Zが塩素原子又は臭素原子を示す場合、炭酸カリウムのような塩基及び必要に応じて触媒量のヨウ化ナトリウムの存在下行われ、
工程b)において、一般式(V)の化合物の水酸基が脱離基としてのトリメチルシリルオキシ基へ変換され、
工程c)において、式(II)記載のアルデヒドをTHFに溶解し、パラジウム炭素と4−ヒドロキシ−ノルエピネフリンの存在下、水素雰囲気下にHNEと縮合し、後処理として塩化水素−1,4−ジオキサン溶液を用い、上に示された目的物を得、及び、必要に応じて、
工程d)において、得られた生成物をエタノール及びメチルtert−ブチルエーテルの混合溶媒を用いて再結晶する。
【請求項16】
一般式(V):
【化7】


(式中、Rは枝分かれ状又は非枝分かれ状のC1−6アルキル又は置換されてもよいベンジルであり、好ましくはC1−6アルキルであり、また好ましくはメチル、エチル又はプロピルであり、より好ましくはメチル又はエチルであり、もっとも好ましくはエチルであり、X又はXは互いに独立して水素原子、ハロゲン原子又は枝分かれ状もしくは非枝分かれ状のC1−6アルキルであり、好ましくはメチル、エチル又はプロピルであり、より好ましくはメチル又はエチルであり、もっとも好ましくはメチルである。)で表される化合物の製造方法であって、
特に式(Va):
【化8】


の化合物の製造方法であって、
該方法は、以下の工程を含む製造方法:
a)一般式:
【化9】


(式中、R,X及びXは前記の通りであり、Rは互いに独立して直鎖状又は枝分かれ状のC1−6アルキル基である。)
の化合物の遊離水酸基を脱離基へ変換する工程;及び
b)還元条件下、前記で得られた化合物の脱離基を除去する工程。
【請求項17】
,X,X及びRが互いに独立して直鎖状又は枝分かれ状のC1−3アルキル基である、請求項16記載の方法。
【請求項18】
がエチルであり、かつX,X及びRがそれぞれメチルである、請求項17記載の方法。
【請求項19】
脱離基がトリアルキルシリルオキシ基である、請求項16〜19のいずれかに記載の方法。
【請求項20】
一般式(V):
【化10】


(式中、Rは直鎖状もしくは枝分かれ状のC1−6アルキル又は水素原子;好ましくはC1−6アルキルであり、その中でもC1−3アルキルが好ましく、その中でもメチル、エチル又はプロピルがより好ましく、その中でも特に好ましくはメチル又はエチルであり、もっとも好ましくはエチルであり;かつX又はXは互いに独立してC1−6アルキルであり、好ましくはメチル、エチル又はプロピルであり、より好ましくはメチル又はエチルであり、もっとも好ましくはメチルである。)である化合物。
【請求項21】
が直鎖状又は枝分かれ状のC1−3アルキル基であり、X及びXはそれぞれメチルである、請求項20記載の化合物。
【請求項22】
式(Va):
【化11】


(式中、Rはエチルである。)で表される、請求項20記載の化合物。
【請求項23】
一般式(I):
【化12】


(式中、X及びXは請求項1〜15のいずれかに記載された通りで、DはOH又はNH,NHC1−6アルキル又はN(C1−6アルキル)であり、C1−6アルキルは請求項1〜15のいずれかに記載された通りである。)である化合物を、請求項1〜19に記載のいくつかの方法と、続く加水分解又はNH,NH(C1−6アルキル)又はN(C1−6アルキル)によるアミノ化を適用することにより製造する方法。

【公表番号】特表2008−517886(P2008−517886A)
【公表日】平成20年5月29日(2008.5.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−537209(P2007−537209)
【出願日】平成17年10月20日(2005.10.20)
【国際出願番号】PCT/EP2005/011269
【国際公開番号】WO2006/045519
【国際公開日】平成18年5月4日(2006.5.4)
【出願人】(000104560)キッセイ薬品工業株式会社 (78)
【Fターム(参考)】