説明

フェノール及びメチルエチルケトンの製造方法

(a)s−ブチルベンゼン、又は(b)s−ブチルベンゼンとクメンとの組合わせから選ばれた1種以上のアルキルベンゼンを含む酸化用原料を酸化反応器に供給して、酸化用混合物を生成する工程、該酸化用混合物を酸化して、(a)s−ブチルベンゼンヒドロパーオキシド、又は(b)s−ブチルベンゼンヒドロパーオキシドとクメンヒドロパーオキシドとの組合わせから選ばれたヒドロパーオキシド生成物を含有する酸化生成物流を生成する工程、該ヒドロパーオキシド生成物を開裂して、(a)フェノール及びメチルエチルケトン(MEK)、又は(b)フェノール、アセトン及びMEKを含む開裂生成物を生成する工程、該開裂生成物から、フェノールを含有する粗フェノールフラクションと、(a)粗MEK流、又は(b)MEK及びアセトンを含有する粗アセトン/MEK流とを分離する工程、及びMEK及び/又はアセトンから選ばれた1種以上の生成物を回収する工程を含む(a)フェノール及びMEK、又は(b)フェノール、アセトン及びMEKを制御可能な収量で製造する方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フェノール及びメチルエチルケトン(MEK)の製造方法に関する。生成物は、アセトン、アセトフェノン及びそれらの組合わせを含有してよい。
【背景技術】
【0002】
フェノールは、広い使用範囲を有する重要な化学的出発物質である。例えばフェノールは、フェノール樹脂、ビスフェノールA、カプロラクタム、アジピン酸、アルキルフェノール及び可塑剤の製造に使用される。
【0003】
一般にフェノールは、クメンを酸化してクメンのヒドロパーオキシドを形成し、次いでクメンヒドロパーオキシドを硫酸のような無機酸で開裂して、クメンヒドロパーオキシド開裂生成物を形成することにより製造されている。クメンヒドロパーオキシド開裂生成物は、一般にフェノール、アセトン、α−メチルスチレン(AMS)、クメン、クミルフェノール(CP)、ジメチルベンジルアルコール(DMBA)、アセトフェノン(AP)、AMS二量体(AMSd)、タール及び重質物、並びに硫酸のような無機酸等の種を含有する。このグループでは、アセトン、アセトフェノン及びフェノールが主要生成物である。この方法では、等モル量のアセトン及びフェノールが生成する。
【0004】
アセトンは多様の用途を有するが、フェノールほど大きい需要はない。MEKは、例えばラッカーや樹脂の溶剤として使用される工業的に重要なケトンである。MEKは、フェノールの製造において(むしろクメンよりも)s−ブチルベンゼンを使用した場合、生成し得る高価値のケトンである。フェノールの製造において、同時(co−)生成物として、MEKを製造する方法が商業的に実施可能であることは現在まで証明されていない。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
フェノールの製造中、特に市場の需要に応じて、MEKの収量の増減を制御できる方法でフェノール及びMEK(更に所望ならば、アセトン)を制御可能な収量で生成する商業的に実施可能な方法が必要である。
【0006】
このような方法は、特定のアルキルベンゼンを酸化する工程、及びこの酸化生成物を特定の手法で開裂し、分離する工程を含む方法でフェノール、アセトン及びMEKを製造することにより得られることが意外にも見い出された。
【課題を解決するための手段】
【0007】
図1は、本出願方法の構成図である。図2は、パイプラインループ反応器及び押出し流れ反応器を含む好ましい開裂反応器システムの概略図である。図3は、例2で説明したように、NH無添加の対照サンプル、NHを添加した実験サンプル、及び乾燥NHを、予想される酸の生成量に対し330:1で添加したサンプルで得られたアセトフェノン対全ヒドロパーオキシド比を示す図である。
【0008】
図4は、例2で説明したように、NH無添加の対照サンプル及びNHを添加した実験サンプルで得られた(DMBA+EMBA)対全ヒドロパーオキシド比を示す図である。図5は、例2で説明したように、NH無添加の対照サンプル及びNHを添加した実験サンプルで得られたフェノール対全ヒドロパーオキシド比を示す図である。
【0009】
したがって、本発明は、
(a)s−ブチルベンゼン、又は(b)s−ブチルベンゼンとクメンとの組合わせから選ばれた1種以上のアルキルベンゼンを含む酸化用原料を酸化反応器に供給して、酸化用混合物を生成する工程、
該酸化用混合物を酸化して、(a)s−ブチルベンゼンヒドロパーオキシド、又は(b)s−ブチルベンゼンヒドロパーオキシドとクメンヒドロパーオキシドとの組合わせから選ばれたヒドロパーオキシド生成物を含有する酸化生成物流を生成する工程、
該ヒドロパーオキシド生成物を開裂して、(a)フェノール及びメチルエチルケトン(MEK)、又は(b)フェノール、アセトン及びMEKを含む開裂生成物を生成する工程、
該開裂生成物から、フェノールを含有する粗フェノールフラクションと、(a)粗MEK流、又は(b)MEK及びアセトンを含有する粗アセトン/MEK流とを分離する工程、及び
MEK及び/又はアセトンから選ばれた1種以上の生成物を回収する工程、
を含む、(a)フェノール及びMEK、又は(b)フェノール、アセトン及びMEKを制御可能な収量で製造する方法を提供する。
【0010】
一実施態様では、本発明は、(a)フェノール及びメチルエチルケトン(MEK)、及び(b)フェノール、アセトン及びMEK、よりなる群から選ばれた生成物の組合わせを制御可能な収量で製造する方法を提供する。この方法は、
(a)或る含有量のs−ブチルベンゼン、及び(b)或るクメン対s−ブチルベンゼン重量比のs−ブチルベンゼンとクメンとの組合わせ、よりなる群から選ばれた1種以上のアルキルベンゼンを含む酸化用原料を酸化反応器に供給して、酸化用混合物を生成する工程、
該酸化用混合物を、(a)s−ブチルベンゼンヒドロパーオキシド、及び(b)s−ブチルベンゼンヒドロパーオキシドとクメンヒドロパーオキシドとの組合わせ、よりなる群から選ばれたヒドロパーオキシド生成物を含有する酸化生成物流を生成するのに効果的な酸化条件に曝す工程、
該ヒドロパーオキシド生成物を、(a)フェノール及びMEK、及び(b)フェノール、アセトン及びMEK、よりなる群から選ばれた組合わせを含む開裂生成物を生成するするのに効果的な開裂条件下で開裂する工程、
該開裂生成物を、フェノールを含有する粗フェノールフラクションと、(a)粗MEK流、及び(b)MEK及びアセトンを含有する粗アセトン/MEK流、よりなる群から選ばれた粗ケトン流とに分離するのに効果的な分離条件下で分離する工程、及び
(a)MEK生成物、及び(b)MEK生成物及びアセトン生成物を含む組合わせ、よりなる群から選ばれた1種以上の生成物を回収する工程、
を含む。
【0011】
好ましい実施態様では、本発明は、(a)フェノール及びMEK、及び(b)フェノール、アセトン及びMEK、よりなる群から選ばれた生成物の組合わせを制御可能な収量で製造する方法を提供する。この方法は、以下の工程を含む。
【0012】
(a)或る含有量のs−ブチルベンゼン、及び(b)或るクメン:s−ブチルベンゼン比でs−ブチルベンゼン及びクメンを含む組合わせ、よりなる群から選ばれた1種以上のアルキルベンゼンを含む酸化用原料を、一連の連続式酸化反応器に供給して酸化用混合物を生成し、次いで該酸化用混合物に分子状酸素を供給する工程、
【0013】
該酸化用混合物を、(a)s−ブチルベンゼンヒドロパーオキシド、及び(b)s−ブチルベンゼンヒドロパーオキシド及びクメンヒドロパーオキシドを含む組合わせ、よりなる群から選ばれたヒドロパーオキシド生成物を含有する酸化生成物流を生成するのに効果的な酸化条件に曝す工程、
【0014】
該酸化生成物流を、OB及び酸化蒸気塔頂物を生成するのに効果的な酸化分離条件下で分離する工程、
【0015】
該OB及び或る量の水を1つ以上のストリッパーに供給すると共に、該OBを、ヒドロパーオキシド生成物を濃縮するには効果的であるが、分解するには無効のストリッピング条件に曝す工程であって、該ストリッピング条件は、ストリッパー塔頂物と該ヒドロパーオキシドを含むストリッパー塔底物とを生成するのに効果的であり、該水量は、該第一ストリッパー塔頂物中に水、エタノール、メタノール、メチルヒドロパーオキシド、エチルヒドロパーオキシド及びそれらの組合わせ、の大部分を含む第一凝縮器蒸気相を生成するのに効果的である該工程、
【0016】
更に該ストリッピング条件は、
第一ストリッパー塔底物と、該1種以上のアルキルベンゼンの一部を含む第一ストリッパー塔頂物とを生成するのに効果的な第一ストリッパー条件、
第二ストリッパー塔頂物と、第一ストリッパー塔底物とを生成するのに効果的な第二ストリッパー条件、及び
第三ストリッパー塔頂物と、第三ストリッパー塔底物とを生成するのに効果的な第三ストリッパー条件、
を含むと共に、
第三ストリッパー圧力<第二ストリッパー圧力<第一ストリッパー圧力の順に大きいストリッパー圧力を有する、
【0017】
第一ストリッパー塔頂物を、第一ストリッパー塔頂物凝縮温度及び第一ストリッパー塔頂物凝縮圧力を有する第一ストリッパー塔頂物凝縮器条件に曝す工程であって、該第一ストリッパー塔頂物凝縮器条件は、第一ストリッパー塔頂物中の1種以上のアルキルベンゼンの大部分を凝縮させて、第一凝縮器有機相を生成するのに効果的であり、該第一ストリッパー塔頂物凝縮器条件及び該水量は、該第一ストリッパー塔頂物中に水、エタノール、メタノール、メチルヒドロパーオキシド、エチルヒドロパーオキシド及びそれらの組合わせ、の大部分を生成するのにも効果的である該工程、
【0018】
該第一凝縮器有機相から第一凝縮器蒸気相を分離する工程、
【0019】
該第一凝縮器蒸気相に対し、第二凝縮器有機相と、第一凝縮器蒸気相中のエタノール、メタノール、メチルヒドロパーオキシド、エチルヒドロパーオキシド及びそれらの組合わせの各大部分を含む第二凝縮器水性相とを生成するのに効果的な第二凝縮条件を施す工程、
【0020】
該第二凝縮器水性相を、エチルヒドロパーオキシド、メチルヒドロパーオキシド及びそれらの組合わせよりなる群から選ばれたヒドロパーオキシドを分解するのに効果的な、熱分解温度80〜250℃及び熱分解圧力100〜200psigを含む熱分解条件下で分解して、アルコール、アルデヒド、カルボン酸及びそれらの組合わせを含む熱分解生成物を生成する工程、
【0021】
該第三ストリッパー塔底物の少なくとも一部と、s−ブチルベンゼンヒドロパーオキシド、クメンヒドロパーオキシド及びそれらの組合わせよりなる群から選ばれたヒドロパーオキシドの開裂を触媒するのに効果的な酸触媒とを第一開裂反応器に供給して、第一開裂反応混合物を生成する工程、
【0022】
該第一開裂反応混合物を、第一開裂反応温度45〜70℃、該第一開裂反応混合物を液相に維持するのに十分高い第一開裂反応圧力及び第一開裂反応滞留時間1〜10分を含む、第一開裂反応生成物を生成するのに効果的な第一開裂反応条件に曝す工程、
【0023】
該第一開裂反応生成物を、第二開裂反応温度60〜130℃、該第二開裂反応混合物を液相に維持するのに十分高い第二開裂反応圧力及び第一開裂反応滞留時間5秒〜1分を含む、第二開裂反応生成物を生成するのに効果的な第二開裂反応条件に曝す工程、
【0024】
該第二開裂反応生成物を、中和第二開裂反応生成物を生成するのに効果的な第二開裂反応生成物中和条件であって、第二開裂反応生成物を液相に維持するのに十分な第二開裂反応生成物中和圧力を含む該第二開裂反応生成物中和条件下、第二開裂反応生成物中和用塩基で冷却、中和する工程、及び
【0025】
該中和第二開裂反応生成物を中和第二開裂反応生成物水性フラクションと、中和第二開裂反応生成物有機フラクションを含むCKC原料とに分離する工程、
【0026】
該CKC原料を粗ケトン塔(CKC)に供給し、次いで該CKC原料を、CKC原料中の該1種以上のアルキルベンゼン、AMS、AES、2P2B、の2〜5重量%を含む粗フェノールフラクションと、CKC原料中の該1種以上のアルキルベンゼン、水、AMS、AES、2P2B及びそれらの組合わせ、の殆どを含むCKC蒸気蒸留物とを生成するのに効果的なCKC条件に曝す工程、
【0027】
該CKC蒸気蒸留物を凝縮して、CKC蒸気凝縮物を生成する工程であって、該工程は、CKC蒸気蒸留物をCKC蒸気凝縮器に供給し、次いで該CKC蒸気蒸留物に対し、CKC蒸気凝縮物を生成するのに効果的なCKC蒸気凝縮器条件を施す工程を含む、
【0028】
該CKC蒸気凝縮物を、CKC蒸気凝縮物有機相及びCKC蒸気凝縮物水性相を生成するするのに効果的なCKC蒸気凝縮物分離条件に曝す工程、
【0029】
該CKC蒸気凝縮物水性相のCKC再循環部分をCKC塔に再循環点で供給する工程、
【0030】
該CKC蒸気凝縮物水性相の残部をCKC蒸気凝縮物有機相と混合して、フェノールを2重量%以下含有するCKC蒸気凝縮物混合物を形成する工程、
【0031】
(a)MEK生成物、及び(b)MEK生成物とアセトン生成物との組合わせ、よりなる群から選ばれた生成物を回収する工程。
【0032】
他の実施態様では、本発明は、フェノール、アセトン及びメチルエチルケトンを制御可能な収量で製造する下記工程を含む方法を提供する。
【0033】
クメンの量がs−ブチルベンゼンに比べて、15重量%よりも多く、30重量%よりも少ない、クメン及びs−ブチルベンゼンを含有する組合わせを含む酸化用原料を酸化反応器に供給して、酸化用混合物を生成する工程、
【0034】
該酸化用混合物を、s−ブチルベンゼンヒドロパーオキシド及びクメンヒドロパーオキシドを含む酸化生成物流を生成するのに効果的な酸化条件に曝す工程、及び
【0035】
該ヒドロパーオキシド生成物をフェノール、アセトン、メチルエチルケトンを含有する開裂生成物を生成するのに効果的な開裂条件下で開裂する工程、
【0036】
該開裂生成物を、フェノールを含む粗フェノールフラクションと、メチルエチルケトン(MEK)及びアセトンを含む粗ケトン流とに分離するのに効果的な分離条件下で分離する工程、及び
【0037】
該粗ケトン流に対し、アセトン生成物及びメチルエチルケトン生成物を生成するのに効果的なケトン分離条件を施す工程。
【0038】
他の実施態様では、本発明は、下記工程を含むフェノール、メチルエチルケトン及びアセトンの製造方法を提供する。
【0039】
クメン:s−ブチルベンゼンを1:8(又は12.5重量%クメン)〜2:1(又は66.7重量%クメン)の重量比で含む酸化用原料を酸化反応器に供給して、酸化用混合物を生成する工程、
【0040】
該酸化用混合物を、s−ブチルベンゼンヒドロパーオキシド及びクメンヒドロパーオキシドを含む酸化生成物流を生成するのに効果的な酸化条件に曝す工程、
【0041】
該ブチルベンゼンヒドロパーオキシドを、フェノール、アセトン及びメチルエチルケトンを含む開裂生成物を生成するのに効果的な開裂条件下で開裂する工程、
【0042】
該開裂生成物を、フェノールを含有する粗フェノールフラクションと、メチルエチルケトン(MEK)及びアセトンを含有する粗ケトン流とに分離するのに効果的な分離条件下で分離する工程、及び
【0043】
該粗ケトン流に対し、アセトン生成物及びメチルエチルケトン生成物を生成するのに効果的なケトン分離条件を施す工程。
【0044】
本発明は、フェノール及びメチルエチルケトン(MEK)を含む制御可能生成物スレート(slate)の製造方法に関する。この生成物は、アセトン、アセトフェノン及びそれらの組合わせも制御可能な収量で含有してよい。
【0045】
ここで使用した“炭化水素”は、クメン、ブチルベンゼン、AMS、α−エチルスチレン(AES)、2−フェニル−2−ブテン(2P2B)及びそれらの組合わせの1種以上を含むいずれかの混合物を言う。
【発明を実施するための最良の形態】
【0046】
酸化帯
図1を参照すると、この方法は、1つ以上の酸化反応器を備えた酸化帯10を有する。酸化反応器は、バッチ式反応器でも連続式反応器でもよい。好ましい実施態様では、酸化帯10は、一連の連続式反応器を有する。
【0047】
酸化用原料は、酸化反応器に供給される。酸化用原料は、(a)s−ブチルベンゼン、又は(b)或る量のクメン及び或る含有量のs−ブチルベンゼンを含有する組合わせ、のいずれかを含む。酸化反応器では、酸化用原料は、分子状酸素、好ましくは空気により酸化されて、酸化生成物流を生成する。酸化生成物流は、酸化反応器中で酸化塔底物及び酸化蒸気塔頂物に分離される。
【0048】
酸化用原料がs−ブチルベンゼンの場合、酸化生成物流は、s−ブチルベンゼンヒドロパーオキシドを含有するが、通常、相当量のクメンヒドロパーオキシドは含有しない。操作条件は、若干量のアセトフェノン(AP)を同時生成するように調節できる。
【0049】
酸化用原料が、クメン及びs−ブチルベンゼンの両方を含む場合、酸化生成物流は、s−ブチルベンゼンヒドロパーオキシド及びクメンヒドロパーオキシドを高選択率で含有する。この酸化生成物流は、必ずしも限定されるものではないが、アセトフェノン、ジメチルベンジルカルビノール(DMBA)及びエチルメチルベンジルカルビノール(EMBA)を含む特定の大部分の副生物を含有する。最終的に、酸化生成物流は、必ずしも限定されるものではないが、ジクミルパーオキシド、ジ−s−ブチルパーオキシド、クミル−s−ブチルパーオキシド、蟻酸、酢酸、メタノール、エタノール、メチルヒドロパーオキシド、エチルヒドロパーオキシド、フェノール、アセトン、及びMEKを含む小部分の副生物を含有してもよい。
【0050】
好ましい実施態様では、酸化用混合物は、クメン:s−ブチルベンゼンを1:8〜2:1の重量比で含有する。%換算では、前記比は、12.5重量%クメン〜66.7重量%クメンで表わされる。他の実施態様では、クメンの量は、s−ブチルベンゼンの含有量に比べて、15重量%より多く、30重量%より少ない。
【0051】
一請求項で明確に述べない限り、特許請求の範囲を特定の作用機構に限定することなく、大部分及び小部分の前記副生物を形成する主要機構は、酸化生成物中のs−ブチルベンゼンヒドロパーオキシド及び(存在すれば)クメンヒドロパーオキシドのフリーラジカル分解であると考えられる。
【0052】
酸化反応器では、酸化用混合物は、s−ブチルベンゼン及び(存在すれば)クメンを酸化するのに効果的な酸化温度を含む酸化条件下で酸素含有ガスと接触して、それぞれのヒドロパーオキシドを生成する。殆どの酸化圧力で好適な酸化温度は、90〜150℃である。好ましい温度は、酸化反応器の種類及び酸化用原料の組成に応じて変化する。クメンヒドロパーオキシド及びs−ブチルヒドロパーオキシドへの転化率及び選択率は、酸化用原料中のクメン:s−ブチルベンゼン比の増加に従って増大する。転化率は、酸化温度の上昇でも増大する。
【0053】
バッチ式酸化反応器では、酸化温度は、反応期間中、酸化反応の選択性を最大化するように調節できる。バッチ式反応器での好適な酸化圧力は、0〜100psig、好ましくは15〜40psigである。
【0054】
連続式酸化反応器では、各酸化反応器の酸化温度は、選択性を最大化するように選択され、酸化用原料の組成に依存する。連続式酸化反応器を用いた場合、好適な酸化圧力は、0〜100psig、好ましくは15〜40psigである。酸化用原料中のクメン:s−ブチルベンゼンの重量比が2:1の場合、連続式酸化反応器での好ましい酸化温度は、100〜115℃である。酸化用原料中のクメン:s−ブチルベンゼンの重量比が1:8の場合、連続式酸化反応器での好ましい酸化温度は、110〜130℃である。
【0055】
酸化反応時間は、5〜25時間で変化する。バッチ式反応器での酸化反応時間は、あらゆるクメン:s−ブチルベンゼン比、及び選択性を最大化するように調節した酸化温度で6〜11時間が好ましい。
【0056】
酸化反応器が連続式酸化反応器の場合、“反応時間”は、通常、全滞留時間としている。全滞留時間は、使用した全部の連続式反応器間で分割する。例えば5つの連続式酸化反応器を直列で操作した場合、各酸化反応器での滞留時間は、所望の転化率に達するように適切に選択した各連続式反応器の酸化反応温度では、1〜5時間である。全滞留時間は、複数の酸化反応器間で均等又は不均等に分配できる。
【0057】
バッチ式酸化反応器及び連続式酸化反応器の両方とも、所望のヒドロパーオキシド、好ましくは少なくともs−ブチルベンゼンヒドロパーオキシド、また好ましくはクメンヒドロパーオキシドとs−ブチルベンゼンヒドロパーオキシドとの組合わせを含むヒドロパーオキシドへの合計転化率は5%以上になる。好ましい全転化率は、10〜30%、更に好ましくは15〜25%である。
【0058】
多数連続式反応器で反応を行う際は、いかなる数の連続式反応器も採用できる。生成物選択率は、連続式反応器の増加に従って増大する。例えば2つの連続式反応器を使用した場合、ただ1つの連続式反応器を使用した場合よりも所望ヒドロパーオキシドの収量は増大する。好ましい実施態様では、3〜8つの連続式反応器が直列で使用される。例えばクメン:s−ブチルベンゼン比が2:1の酸化用原料の場合、4つの反応器を使用することが好ましい。これに対し、クメン:s−ブチルベンゼン比が1:8の酸化用原料の場合、5つ又は6つの反応器を使用することが好ましい。
【0059】
酸化反応器が1つ以上の連続式反応器の場合、連続式反応器の種類は、必ずしも限定されるものではないが、撹拌式タンク反応器又は気泡塔反応器に種々変化できる。
【0060】
酸化反応器が撹拌式タンク反応器の場合、酸化用原料の添加及び酸化塔底物の取出しは、どこの位置からでもよい。好ましい実施態様では、酸化用原料は、撹拌式タンク反応器の羽根領域に添加される。撹拌式タンク反応器では、バブルの形成及びバブル表面積全体を最大化することが重要である。
【0061】
酸化反応器が気泡塔反応器の場合、酸化生成物は、容器のどの位置からも取り出せるが、容器の底部から取り出すのが好ましい。気泡塔反応器の底部付近には、小気泡を生成するように設計したスパージャーから空気を加えることが好ましい。気泡の大きさは、好適には10mm以下、好ましくは5mm以下である。
【0062】
通常、酸化副生物として、アセトフェノン(AP)、ジメチルベンジルアルコール(DMBA)及びエチルメチルベンジルアルコール(EMBA)と共に、蟻酸及び酢酸が生成する。蟻酸及び酢酸は、所望生成物を作るための主要酸化路の毒(又は禁止剤)となるフェノールの生成を触媒する。蟻酸及び酢酸、したがってフェノールは、副生物に比べて、所望生成物の生成低下を引き起こす。
【0063】
酸化用混合物に中和用塩基(又は“酸化用塩基”)を必ずしも使用する必要はないが、少量の酸化用塩基の添加により、ヒドロパーオキシドの収量が増大し、また随伴する副生物(例えばAP、DMBA、EMBA)の生成が減少する。酸化用塩基を使用すると、生成した状態の酢酸や蟻酸のような酸も中和する。このようにして、酸によるフェノールの生成が防止され、所望ヒドロパーオキシドの収量は最大化される。
【0064】
酸化用塩基を使用した場合、酸化条件で生成した酸を中和するのに十分な量の酸化用塩基溶液を酸化用混合物に添加することが好ましい。酸化用塩基を使用した場合、酸化用塩基の一部を、好ましくは各酸化反応器、最も好ましくは一連の連続式酸化反応器に別々に添加する。
【0065】
塩基溶液は、好ましくは酸化用塩基の担体として働くのに十分であるが、酸化用混合物を水性相及び有機相に分離するには不十分な濃度の水を含有する。酸化用混合物中の水の量は、好ましくは400ppm〜2重量%である。
【0066】
酸化用塩基は、塩基対酸のモル比が0:1〜6:1、好ましくは0.5:1〜4:1となるのに十分な量で添加される。好適な酸化用塩基は、1〜10重量%水溶液でpH8〜12.5のものであり、必ずしも限定する必要はないが、アルカリ塩基、無水アンモニア及び水性アンモニアが挙げられる。好ましいアルカリ塩基としては、必ずしも限定する必要はないが、アルカリ金属炭酸塩及びアルカリ金属重炭酸塩が挙げられる。好適なアルカリ金属は、カリウム及びナトリウムである。好ましいアルカリ塩基は、炭酸ナトリウムである。
【0067】
アンモニアも好ましい酸化用塩基である。アンモニアは、ガス状無水アンモニアとして、少量の水を同伴したガス状無水アンモニアとして、或いは水性アンモニアとして添加できる。
【0068】
特定の作用機構への利用に限定するものではないが、酸化用混合物中の少量の水は、酸化用混合物への酸化用塩基の溶解性を向上して、酸化用塩基が一層容易に中和できるようにしたものと考えられる。
【0069】
酸化は発熱反応であり、反応中、反応熱は酸化反応混合物から除去する。例えば若干の熱は、炭化水素、生成物及び水(酸化反応混合物中に水が存在する場合)の蒸発により、反応器を通る空気中に除去され、一方、大部分の熱は、酸化用混合物と冷却流体との熱交換により除去される。酸化反応器には、内部冷却コイルが使用できる。酸化反応混合物は、酸化反応器外部の熱交換器に再循環させることが好ましい。
【0070】
酸化蒸気塔頂物は、1つ以上の冷却段階を通過し、その間に、存在すれば、未反応炭化水素及び水性材料は凝縮し、互いに分離される。炭化水素は回収し、再循環させる。水性材料は、通常、かなりの量のエタノール、メタノール、エチルヒドロパーオキシド及び/又はメチルヒドロパーオキシドを含有する。
【0071】
好ましい実施態様では、酸化蒸気塔頂物は、再循環可能の酸化蒸気塔頂物有機フラクション(“OVO−OF”)と、酸化蒸気塔頂物“水性”フラクション(“OVO−AF”)とに分離される。OVO−AFは、エチルヒドロパーオキシド及びメチルヒドロパーオキシドを分解するのに効果的な熱分解条件下で分解されて、熱分解生成物を生じる。熱分解生成物は、アルコール、アルデヒド及び/又はカルボン酸を含有する。熱分解条件は、熱分解温度80〜250℃、更に好ましくは150〜200℃、及び圧力100〜200psigを含む。
【0072】
一実施態様では、熱分解条件は、OVO−AFに無機酸を、分解を促進するのに効果的な濃度で添加する工程を含む。効率の目的から、好ましい無機酸は、硫酸、好ましくは濃硫酸である。無機酸は、OVO−AF中の無機酸の濃度が20〜100ppmになるように添加される。分解終了後、無機酸はアルカリ塩基で中和する。アルカリ塩基のpHは、11以下が好ましく、更に好ましくは10〜11である。好ましい塩基は、水酸化ナトリウム及び炭酸ナトリウムよりなる群から選ばれる。
【0073】
熱分解生成物に対しては、熱分解生成物有機蒸留物(TDP−OD)及び熱分解生成物“水性”塔底物(TDP−AB)を生成するのに効果的な熱分解生成物蒸留条件(TDP−蒸留条件)下で蒸留を行う。TDP−蒸留条件は、第一分解生成物からカルボン酸以外の有機種を除去するのに効果的なTDP−蒸留温度を含む。TDP−蒸留は、好適には大気圧で行う。
TDP−ODは、適当な手段を用いて廃棄物として処分する。
【0074】
酸化生成物分離帯
図1を参照すると、酸化塔底物(OB)及び或る量の水が酸化生成物分離帯12に供給される。酸化工程に酸化用塩基を供給しない場合、好ましい酸化生成物分離帯12は、1つ以上のストリッパーである。酸化生成物分離帯12に供給する水の量は、第一凝縮器蒸気相(下記)中のメタノール、エタノール、メチルヒドロパーオキシド及びエチルヒドロパーオキシドを回収するのに十分である。一般に、酸化塔底物の0.1〜1.5重量%と同等の水量で十分である。
【0075】
酸化工程に酸化用塩基を供給する場合、好ましい酸化生成物分離帯12は、酸化で形成された塩の除去に使用される1つ以上の洗浄デカンター、及び後続の1つ以上のストリッパーである。この実施態様では、酸化生成物、水及び/又は塩基が洗浄デカンターに供給される。酸化生成物中の塩は、デカンターの水性層中に抽出される。若干の水は、洗浄工程中、酸化生成物中に溶解する。酸化生成物中に溶解した水の量は、第一凝縮器蒸気相(下記)中のメタノール、エタノール、メチルヒドロパーオキシド及びエチルヒドロパーオキシドを回収するのに十分である。
【0076】
1つ以上のストリッパー中で、OBは、s−ブチルベンゼンヒドロパーオキシド及び(存在すれば)クメンヒドロパーオキシドを濃縮するには効果的であるが、分解するには無効のストリッピング条件に曝される。ストリッピング条件は、s−ブチルベンゼンヒドロパーオキシド及び(酸化にクメンを供給すれば)クメンヒドロパーオキシドを含むストリッパー塔底物と、未反応炭化水素、水、及びs−ブチルベンゼンヒドロパーオキシド及びクメンヒドロパーオキシドよりも低沸点の有機種を含むストリッパー塔頂物とを生成する。ストリッパー塔頂物中で除去される有機種としては、必ずしも限定する必要はないが、前述の小部分副生物及び少量のDMBA、EMBA及びアセトフェノンが挙げられる。通常、s−ブチルベンゼンヒドロパーオキシド及び(存在すれば)クメンヒドロパーオキシドは、ストリッパー塔底温度120℃未満で最小化又は回避される。
【0077】
1つのストリッパーを使用することは本発明に包含されるが、好ましい実施態様は、多数ストリッパー、更に好ましくは3つの直列のストリッパーにOBを供給する工程を含む。好ましい実施態様では、OBは、ストリッパー塔頂物及びストリッパー塔底物を生成するため、連続的に低下する圧力で操作する多数ストリッパーに供給される。この好ましい実施態様では、ストリッピング条件は、塔底温度120℃以下、好ましくは120℃未満;第一ストリッパー圧力40〜60mmHg;第二ストリッパー圧力25〜35mmHg;第三ストリッパー圧力10〜20mmHgを含む。最も好ましい実施態様では、第一ストリッパー条件は、第一ストリッパー圧力50mmHg;第二ストリッパー圧力30mmHg;第三ストリッパー圧力15mmHgを含む。OB中の炭化水素の90重量%よりも多く、酸化反応器に戻し、再循環させる。
【0078】
好ましい実施態様では、第一ストリッパー条件は、OB中のクメン(存在すれば)の一部及びs−ブチルベンゼンの一部、OBと共に供給された水の99重量%以上、OB中のメタノールの99重量%以上、 OB中のエタノールの99重量%以上、OB中のメチルヒドロパーオキシドの99重量%以上、及びOB中のエチルヒドロパーオキシドの99重量%以上を含む第一ストリッパー塔頂物を生成するのに効果的である。最も好ましい実施態様では、OB中の水の全量、メタノールの全量、エタノールの全量、メチルヒドロパーオキシドの全量、及びエチルヒドロパーオキシドの全量が、第一ストリッパー塔頂物中に塔頂ストリッピングされる。
【0079】
第一ストリッパーは、好ましくは少なくとも第一ストリッパー塔頂物凝縮器、好ましくは多数第一ストリッパー塔頂物凝縮器システムを有する。第一ストリッパー塔頂物凝縮器は、ここでは第一ストリッパー塔頂物凝縮器条件と呼ぶ部分凝縮条件下で操作される。第一ストリッパー塔頂物凝縮器条件は、第一ストリッパー塔頂物中のクメン(存在すれば)の大部分及びs−ブチルベンゼンの大部分を凝縮させて、第一凝縮器有機相を生成するのに効果的な第一ストリッパー塔頂物凝縮温度及び第一ストリッパー塔頂物凝縮圧力を含む。好ましくは第一ストリッパー塔頂物凝縮器条件は、第一ストリッパー塔頂物中のs−ブチルベンゼンの90重量%以上及びクメン(存在すれば)の85重量%以上を第一ストリッパー塔頂物第一凝縮器有機相に凝縮するのに効果的な条件である。第一ストリッパー塔頂物凝縮器条件は、第一ストリッパー塔頂物中の水、エタノール、メタノール、メチルヒドロパーオキシド及びエチルヒドロパーオキシド、の大部分、好ましくは95重量%以上を含む第一凝縮器蒸気相を生成するのに効果的な温度及び圧力を含む。
【0080】
第一凝縮器蒸気相は、第一凝縮器有機相から分離され、この第一凝縮器蒸気相に対し、第二凝縮器有機相と、第一凝縮器蒸気相中のエタノール、メタノール、メチルヒドロパーオキシド及びエチルヒドロパーオキシド、の大部分、好ましくは90重量%以上を含む第二凝縮器“水性”相を生成するのに効果的な第二凝縮条件を施す。
【0081】
第二凝縮器水性相は、第二凝縮器有機相から分離され、この第二凝縮器水性相に対し、メチルヒドロパーオキシド及びエチルヒドロパーオキシドを分解するのに効果的な熱分解条件を施して、アルコール、アルデヒド及び/又はカルボン酸を含む熱分解生成物を生成する。この熱分解条件は、酸化蒸気塔頂物水性フラクション(OVO−AF)の熱分解について先に説明した条件と同じである。第二凝縮器水性相は、独立に熱分解されるか、或いはOVO−AFと第二凝縮器水性相とを組合わせて、分解混合物を生成した後、この混合物を熱分解条件に曝す。
【0082】
開裂帯
s−ブチルベンゼンヒドロパーオキシド及びクメンヒドロパーオキシドの1種以上を含有するストリッパー塔底物は、開裂帯14(図1)に供給される。開裂帯14は、1つ以上の開裂反応器を有し、ここでストリッパー塔底物に対し、第一開裂反応及び第二開裂反応を行う。
【0083】
酸化用原料がs−ブチルベンゼンを含む場合、酸化生成物は、一般にエチルメチルベンジルカルビノール(EMBA)を含有する。クメン酸化生成物は、一般にジメチルベンジルアルコール(DMBA)を含有する。開裂中、酸化生成物中のDMBAのα−メチルスチレン(AMS)への転化率及び酸化生成物中のEMBAのα−メチルスチレン(AMS)及び2−フェニル−2−ブテン(2P2B)への転化率は、最大化することが望ましい。これらの化合物は、水素化して、酸化反応器に戻し再循環させるためのクメン及びs−ブチルベンゼンを生成し、これにより全体の添加効率を向上できるからである。
【0084】
不運にも、多くの開裂反応は、比較的高い反応温度で操作される。例えば通常の沸騰容器反応の反応温度は、75〜85℃である。このように高い反応温度では、かなりの量のDMBA、EMBA、生成物AMS、生成物AES及び生成物2P2Bのかなりの量は、“回収不能の副生物”に転化される。本出願は、 DMBA及びEMBAの回収不能副生物の生成を減少させるため、s−ブチルベンゼンヒドロパーオキシド、クメンヒドロパーオキシド又はそれらの組合わせから選ばれた1種以上のヒドロパーオキシドを開裂する方法を提供する。
【0085】
開裂帯14の開裂反応原料は、ストリッパー塔底物;水;及びアセトン流、MEK流又はアセトン/MEK混合流よりなる群から選ばれたケトン流である。ストリッパー塔底物は、s−ブチルベンゼンヒドロパーオキシド、クメンヒドロパーオキシド及びそれらの組合わせから選ばれたヒドロパーオキシドを含有する。MEK回収帯からの原料は、DMBA及び/又はEMBAからの回収不能副生物の生成を減少させる助けとなることが見い出された。反応を緩やかにするため、水を原料残部重量に対し0.5〜2%の量、添加する。
【0086】
単一反応器中で、開裂反応が起こると、開裂反応原料は、まず、比較的低い温度を含む第一開裂反応条件(下記)に曝され、引き続き同じ反応器中の第二開裂反応条件(下記)に曝される。好ましい実施態様では、ストリッパー塔底物は、第一開裂反応器15(図2)の第一開裂反応器原料32である。
【0087】
開裂反応器は、種々の反応器であってよい。好ましい反応器としては、必ずしも限定する必要はないが、押出し流れ反応器(“PFR”)、再循環付き押出し流れ反応器(“PFRR”)及び連続撹拌式タンク反応器(“CSTR”)が挙げられる。
【0088】
第一開裂反応器15は、第一開裂反応混合物を第一開裂反応温度に維持するのに効果的な内部又は外部熱交換装置を同伴した撹拌式タンク反応器であってよい。好ましい実施態様では、第一開裂反応器15は、第一開裂反応混合物を第一開裂反応温度に維持するのに十分な冷却を行うために、適当な所に1つ以上の熱交換器20、22を有するパイプラインループ反応器である。一般に第一開裂反応温度は、45〜70℃である。好ましい実施態様では、第一開裂反応温度は、45〜60℃、更に好ましくは45〜55℃である。第一開裂反応圧力は、第一開裂反応混合物を液相に維持するのに十分高く維持される。一般に0.5気圧以上で操作すれば、第一開裂反応混合物を液相に維持するのに十分である。
【0089】
第一開裂反応混合物の再循環流を第一開裂反応器15中に再循環するため、パイプラインループにはポンプ24を設ける。第一開裂反応混合物の第二部分である“第一開裂反応生成物”は、パイプラインループ反応器から取出し点26の所で取り出される。この取出し点は、第一開裂反応器原料32用の原料点28の少し離れた上流に位置する。第一開裂反応器15のパイプラインループ内の再循環流30は、第一開裂反応器原料32の流れ(“第一開裂反応器原料流32”と言うことがある)よりも遥かに大きい。再循環流30と第一開裂反応器原料流32との比は、重量基準で好ましくは10:1〜100:1、更に好ましくは20:1〜40:1である。
【0090】
第一開裂反応条件は、s−ブチルベンゼンヒドロパーオキシド、クメンヒドロパーオキシド及びそれらの組合わせよりなる群から選ばれたヒドロパーオキシドの95〜98%を開裂するのに効果的な第一開裂反応滞留時間を含む。第一開裂反応混合物中に存在するヒドロパーオキシドに応じて、このヒドロパーオキシドは、フェノールと;メチルエチルケトン(MEK)、アセトン及びそれらの組合わせよりなる群から選ばれた化合物とに転化する。一般に第一開裂反応滞留時間は、1〜10分である。
【0091】
第一開裂反応条件は、s−ブチルベンゼンヒドロパーオキシド及び(存在すれば)クメンヒドロパーオキシドの開裂を触媒するのに効果的な酸触媒を含む。好適な酸触媒としては、必ずしも限定する必要はないが、硫酸、無水硫酸、過塩素酸及び燐酸が挙げられる。好ましい酸触媒は硫酸である。好ましい実施態様では、酸触媒(好ましくは濃硫酸)は、反応混合物側流33に1つ以上の添加点34の所で添加される。反応混合物側流33は、第一開裂反応生成物取出し点26と第一開裂反応器原料点32間に位置する。
酸触媒は、第一開裂反応器原料流32に対し、0.005〜0.1重量%の量で使用される。濃硫酸及び他の好適な酸触媒は、種々の供給源から市販されている。
【0092】
第一開裂反応生成物40は、第二開裂反応器38、好ましくは貫流(once through)押出し流れ反応器に供給され、第二開裂反応混合物を生成する。第二開裂反応器38は、第二開裂反応生成物44を生成するのに効果的な第二開裂反応条件で操作される。第一開裂反応生成物44は、好ましくは第二開裂反応温度に加熱され、第二開裂反応器38中に、以下の機能の1つ以上、好ましくは全てを達成するのに効果的な第二開裂反応滞留時間維持される。前記機能は、第一開裂反応生成物中に存在する残存ヒドロパーオキシドの95重量%以上を開裂;第一開裂反応生成物中のDMBA(存在すれば)のAMSへの70重量%以上、好ましくは75重量%以上、好ましくは85重量%以上の転化;及び第一開裂反応生成物中のEMBA(存在すれば)のAES及び2P2Bへの70重量%以上、好ましくは75重量%以上、好ましくは85重量%以上の転化である。この好ましい実施態様では、DMBAのAMSへの転化の選択性及び/又はEMBAのAES及び2P2Bへの転化の選択性は最大化する。一般に第二開裂反応滞留時間は、5秒〜1分である。
【0093】
好適には、第二開裂反応条件は、60〜130℃、好ましくは70〜120℃の第二開裂反応温度を含む。第二開裂反応条件は、第二開裂反応温度との組合わせで、第二開裂反応混合物を液相に維持するのに十分な第二開裂反応圧力も含む。前記温度では、30psig以上で十分である。第二開裂反応生成物44は、第二開裂反応器38から取り出し、開裂生成物を回収するため、別の段階に通す。
【0094】
最初の低温開裂により、AMS、AES及び2P2Bの収率が向上すると共に、所定量のフェノール及びMEK及び/又はアセトンの同時(co−)生成に必要なs−ブチルベンゼン及びクメンの量は減少する。転化効率は向上し、また開裂中の回収不能副生物の生成は減少する。
【0095】
s−ブチルベンゼンヒドロパーオキシドとクメンヒドロパーオキシドとの比に応じて、この開裂では、アセトン:フェノールのモル比が0.8:1〜0.23:1の第二開裂反応生成物44が生成する。第二開裂反応生成物44中のMEK:フェノールのモル比は、0.2:1〜0.77:1である。最も好ましい実施態様では、第二開裂反応生成物44中のアセトン対フェノール比は、0.44:1〜0.25:1で変化する。
【0096】
低温で起こる反応は、初期の開裂段階、好ましくは第一開裂反応器15での第一開裂反応で起こる。第一開裂反応器15では、ヒドロパーオキシドのフェノール及びMEK及び/又はアセトンへの転化率95〜98%が達成される。高温を必要とする反応は、後の開裂段階、好ましくは第二開裂反応器38で起こる。DMBAのAMSへの転化及びEMBAのAES及び2P2Bへの転化には、70〜130℃の比較的高温を必要とし、またこれらの反応は、好ましくは第一開裂反応生成物40が第二開裂反応器38に達するまで、延びる。この点では、ヒドロパーオキシドは殆ど開裂されて、残っていない。第二開裂反応条件は、DMBAのAMSへの転化率及びEMBAのAES及び2P2Bへの転化率を最大化するよう、最適化できる。
【0097】
好ましい実施態様では、他の実施態様に比べて、開裂反応の安全性が向上する。第一開裂反応器15としてパイプラインループ反応器を使用することにより、多数発熱量測定を行って、反応が適切に進行していることを確認すると共に、第一開裂反応混合物側流33への酸触媒の添加量36を制御することが可能である。通常の沸騰容器開裂反応器では、酸添加は、通常、硫酸添加点で行った、ただ1つの発熱量測定により制御される。この1つの発熱量測定は、開裂反応器の中から少量の開裂反応混合物を酸添加点にポンプ送りし、この少量の開裂反応混合物を酸と混合することにより行われる。酸添加で生じた発熱量を測定するのは、プロセス制御のため、及び安全目的から運転停止を必要とするかどうかを決めるためである。反応が良好に進行していれば、測定発熱量は丁度よい(通常、15℃)。反応の進行が早すぎれば、発熱量は測定されない。発熱量が大きければ(25℃以上)、反応の進行が遅すぎる。反応の進行が遅すぎると、更に酸を加えた際、暴走反応が起こる危険性がある。
【0098】
押出し流れ反応器(PFR)及び再循環付き押出し流れ反応器(PFRR)は、多数発熱量測定に特に適応可能である。多数発熱量測定に基づいて酸添加の制御を行うと、誤動作の制御システム部品での間違った発熱量測定による酸触媒の過大量又は過小量添加の危険性が低下し、制御部品と安全部品との結合を本質的に解除する。
【0099】
好ましい実施態様では、発熱量は多数の箇所を横断して測定することが好ましい。発熱量は、1箇所以上の反応混合物発熱量測定点、好ましくは反応混合物側流33沿いの測定点52〜測定点54の温度上昇を測定することにより測定される。また発熱量は、1箇所以上の第一開裂反応器(FCR)発熱量測定点を横断して第一開裂反応器15内で、好ましくは第一開裂反応器15沿いの測定点35〜測定点37の温度上昇を測定することにより、測定することも好ましい。また発熱量は、第二開裂反応器を横断して、好ましくは測定点48〜測定点41の温度上昇を測定することにより、測定することも好ましい。
【0100】
第二開裂反応生成物44は、好ましくは熱交換器50により、冷却され、中和装置(図示せず)に供給され、ここで、第二開裂反応生成物44に対し、中和第二開裂反応生成物を生成するのに効果的な中和用塩基を含む中和条件を施す。中和条件は、温度40〜60℃、好ましくは45〜50℃、及び第二開裂反応生成物を液相に維持するのに十分な圧力を含む。この目的には、大気圧以上で十分である。中和装置は、第二開裂反応生成物と塩基とを確実に十分接触させる。好適な中和装置としては、必ずしも限定する必要はないが、撹拌機及びパイプミキサーを備えた容器が挙げられる。
【0101】
いかなる好適な中和用塩基も使用してよい。好ましい中和用塩基は、アルカリ塩基である。好適なアルカリ塩基は、必ずしも限定する必要はないが、ナトリウム、カリウム及びリチウムの水酸化物、炭酸塩、重炭酸塩及びフェナート、及びそれらの組合わせが挙げられる。アルカリ塩基は、中和した水性フラクション(次のパラグラフで説明する)を5〜11のpH、好ましくは5〜5.5のpHに維持するのに十分な量で使用される。
【0102】
中和第二開裂反応生成物は、中和有機フラクション及び中和“水性”フラクションに分離される。中和有機フラクションと中和“水性”フラクションとの重量比は、1:3〜3:1である。
【0103】
中和“水性”フラクションの少なくとも一部は、中和装置に戻し、再循環させる。中和“水性”フラクションの残部は、廃棄するか、又はこの方法の他の何らかの部分に再循環させてよい。中和“水性”フラクション中の塩濃度は、経時により高くなるが、好ましくは1〜30重量%に維持する。
【0104】
開裂生成物分離帯
好ましい実施態様では、開裂生成物分離帯は、粗ケトン塔(CKC)を有する。中和有機フラクション又は“CKC原料”は、CKC16(図1)に供給され、塔底粗フェノールフラクション及びCKC蒸気蒸留物を生成するのに効果的なCKC条件に曝される。
【0105】
CKC条件は、中和有機フラクション中の水(存在すれば)、クメン、s−ブチルベンゼン及びAMS、の殆どを含むCKC蒸気蒸留物を生成するのに効果的である。CKC条件は、好ましくは、中和有機フラクション中に存在するあらゆる水の99重量%以上、好ましくは全部を含むCKC蒸気蒸留物を生成するのに効果的である。CKC条件は、好ましくは、中和有機フラクション中のヒドロキシケトンの75%以上、好ましくは75%よりも多く含むCKC蒸気蒸留物を生成するのも効果的である。CKC条件は、s−ブチルベンゼン、AMS、AES及び2P2Bの組合わせ、の2〜5重量%を含む粗フェノールフラクションを生成するのにも効果的である。
【0106】
好ましい実施態様では、CKC条件は、CKC塔頂温度190〜220℃、好ましくは203〜207℃;及びCKC塔頂圧力0〜10psig、好ましくは3〜7psigを含む。好ましい実施態様では、CKC原料と中和第二開裂反応生成物水性フラクションとの重量比は、1:3〜3:1である。
粗フェノールフラクションは、既知の方法を用いて粗フェノール精製帯18でフェノール生成物に生成される。
【0107】
CKC蒸気蒸留物は、CKC蒸気凝縮器に供給され、この蒸留物に対し、CKC蒸気凝縮物を生成するのに効果的なCKC蒸気凝縮器条件を施す。CKC蒸気凝縮物は、CKC蒸気凝縮物有機層及びCKC蒸気凝縮物水性層に分離される。“CKC再循環部分”と呼ばれるCKC蒸気凝縮物水性層は、CKC塔に再循環点の所で供給される。再循環点は、CKC塔の種々の位置が可能であるが、最も好ましい再循環点は、中和有機フラクションをCKC塔に供給するトレーと同じトレーである。CKC再循環部分は、CKC蒸気水性層の50〜95重量%、好ましくは75〜80重量%を含有する。CKC蒸気凝縮物水性層の残部とCKC蒸気凝縮物有機層とは混合して、フェノールを2重量%以下、好ましくは1重量%以下含むCKC蒸気凝縮物混合物を形成する。この程度のフェノール分離を行うためのCKC最小質量還流比は、0.05/1である。好ましい実施態様では、CKC条件は、質量還流比0.1/1〜0.2/1を含む。
【0108】
MEK回収帯
MEK生成物及び(存在すれば)アセトンは、MEK回収帯20(図1)で回収される。
反応混合物にクメンが供給されない場合:
クメンが酸化反応に供給されない場合、CKC蒸気凝縮混合物は、かなりの(significant)アセトン成分を含有しないが、MEK回収のため処理される。この場合、CKC蒸気凝縮物混合物は、MEK含有(with)CKC蒸気凝縮物混合物中のアルデヒドの凝縮を触媒するのに効果的な量及び濃度の水性塩基、好ましくはアルカリ塩基、更に好ましくはナトリウム含有塩基と混合させる。塩基は、CKC蒸気凝縮物混合物中のフェノールと反応して、フェナート、好ましくはナトリウムフェナートを形成するのに十分な量で供給される。得られた混合物(ここでは“MEK回収用混合物”と言う)に対し、MEK生成物を分離するのに効果的なMEK分離条件を施す。
【0109】
MEK分離条件は、MEK回収用混合物を35〜55℃、好ましくは40〜45℃に冷却して、冷却MEK回収用混合物を生成する工程を含む。冷却MEK回収用混合物は、MEK回収用混合物デカンターに供給され、ここで冷却MEK回収用混合物は、MEKデカンター水性流及びMEKデカンター有機流に分離される。MEKデカンター水性流は、開裂中和装置に再循環することが好ましい。MEKデカンター有機流は、MEK、炭化水素、その他の有機種、及びあれば溶解水を含有する。MEKデカンター有機流に対し、最低2回の水性洗浄を施す。第一洗浄は、MEKデカンター有機流を水性アルカリ塩基で洗浄して、痕跡フェノールを除去し、第一洗浄MEKデカンター有機流を生成する工程を含む。
【0110】
第一洗浄MEKデカンター有機流は、第一洗浄MEKデカンター水性相及び第一洗浄MEKデカンター有機相を生成するのに効果的な第一洗浄MEKデカンター有機流分離条件に曝される。第一洗浄MEKデカンター有機相に対し、水による第二洗浄を施して、痕跡アルカリ塩基を除去し、二回洗浄MEKデカンター有機流を生成する。二回洗浄MEKデカンター有機流は、再び、最終MEKデカンター水性相と、最終MEKデカンター有機相を含むMDC原料とに分離される。
【0111】
MDC原料は、MEK脱水塔(又は“MDC”)と呼ばれる蒸留塔に供給される。MDC原料は、MEK、炭化水素、水及びその他の有機種を含有する。このMDC原料に対し、水及び前記MEKから分離すべきMEKよりも十分沸点の低い有機種を含有するMDC塔頂物と、MEK含有MDC塔底物とを生成するのに効果的なMDC条件を施す。MEKよりも十分沸点の低い有機種としては、必ずしも限定する必要はないが、メタノール及びエタノールが挙げられる。
【0112】
好ましい実施態様では、MDC条件は、MDCに共留剤を供給して、MDC塔頂物中のMEKの損失を最小にして、MDC原料から前記水を除去する工程を含む。好ましい実施態様では、共留剤は、ヘキサン、シクロヘキサン、ヘプタン及びそれらの組合わせよりなる群から選ばれる。最も好ましい共留剤は、シクロヘキサンである。
MDC塔底物は、MEKの他、一般に炭化水素、及びMEKの沸点と同じか、それ以上の沸点を有するその他の有機種を含有する。MEKの沸点は、79.6℃である。
【0113】
MDC条件は、互いに変化する、温度及び圧力を含む。例えばMDC圧力は、3〜10psigであり、またMDC温度は、75〜90℃である。好ましい実施態様では、MDC圧力は、6〜7psigであり、またMDC温度は、80〜85℃である。
MDC条件は、還流流れ対塔頂水流を基準とするMDC最小モル還流比5/1も含む。好ましい実施態様では、このMDCモル還流比は、10/1〜20/1である。
【0114】
MDC塔底物は、MEK生成物塔(“MPC”)に供給され、この塔底物に対し、MDC塔底物をMPC塔底物、及びMEK生成物含有MPC塔頂物に分離するのに効果的なMPC条件を施す。一実施態様では、MPC塔頂物は、MEK生成物である。好ましい実施態様では、MPC塔頂物は、若干のMEKを含むMPCパージ流である。この実施態様では、MPCパージ流は、MPCからMEKよりも低沸点の有機種をパージするのに効果的である。この実施態様では、ほぼ純粋なMEK生成物がサイドドローとして取り出される。パージを行う場合、MPCパージ流は、前述の開裂にとって利益を与えるため、第一開裂反応器に戻し、再循環される。
【0115】
MPC条件は、互いに変化する、温度及び圧力を含む。例えばMPC圧力が0〜10psigの場合、MPC塔頂部温度は、85〜101℃である。好ましくは、MPC圧力が4〜6psigの場合、MPC塔頂部温度は、92〜95℃である。MPC条件は、還流流れ対生成物流を基準とするMPCモル還流比0.15以上、好ましくは0.15より大きいを更に含む。好ましい実施態様では、MPCモル還流比は1である。
MPC塔底物は、炭化水素、及びMEKよりも高沸点のその他の有機種を含む。MPC塔底物に対しては、酸化反応器に戻す前に、フェノール/アセトンプロセス中の類似流に標準的な後処理を施す。
【0116】
酸化反応にクメンが供給される場合:
酸化反応にクメンが供給される場合、粗アセトン/MEKフラクションは、MEK回収帯20(図1)でアセトン/MEK分離条件に曝される。好ましい実施態様では、MEK回収帯は、アセトン生成物塔(APC)を有し、またAPC原料は、CKC蒸気凝縮混合物である。
APC原料は、通常、アセトンを14〜45重量%、MEKを46〜15重量%、水(存在すれば)を14重量%及び炭化水素を23重量%、種々の副生物と一緒に含有する。一実施態様では、酸化用混合物がクメンを15〜30重量%含有する場合、APC原料は、次の組成を有する。
【0117】
【表1】

【0118】
アセトン生成物は、APC塔からAPC塔頂物として、又はAPCサイドドローとして回収される。アセトン生成物がAPC塔頂物として回収される場合、アセトン生成物は、アセトンよりも低沸点の“軽質”有機種で汚染されている可能性がある。好ましい実施態様では、APC塔頂物は、若干のアセトンを含有するパージ流を含む。この実施態様では、APC塔頂物は、APC塔頂物中のアセトンより低沸点の軽質有機種をパージし、APC塔からほぼ純粋なアセトン生成物がサイドドローとして取り出される。この実施態様では、APC塔頂物は、便宜上、“APCパージ流”と言うことがある。APCパージ流は、前述の開裂にとって利益を与えるため、第一開裂反応器に再循環することが好ましい。
【0119】
APC条件は、好ましくは、APC塔にAPC塩基を供給する工程を含む。APC塩基は、好ましくはアルカリ塩基、更に好ましくはアルカリ塩基の水溶液、最も好ましくは水酸化ナトリウムの水溶液である。APC塩基は、MEK及びアセトンを含有するAPC原料中のアルデヒドの凝縮を触媒して、凝縮生成物を生成するのに効果的である。APC塔底物は、この凝縮反応生成物を含有する。APC塩基は、APC塔底物中のフェノールと反応して、ナトリウムフェナートを形成するのにも効果的である。したがって、好ましい実施態様では、APC条件は、MEK、水、炭化水素、凝縮反応生成物及びナトリウムフェナート、並びにそれらの組合わせを含むAPC塔底物を生成するのに効果的である。
【0120】
APC条件は、APC圧力400〜500mmHg及びAPC温度30〜50℃、好ましくはAPC圧力450mmHg及びAPC温度40℃を含む。APC条件は、好ましくは、還流流れとサイドドロー生成物流とのモル基準の比率として計算して、モル還流比15以上を含む。
【0121】
APC塔底物に対しては、MEK生成物を分離するのに効果的なMEK分離条件を施す。MEK分離条件は、好ましくは、APC塔底物を35〜55℃、好ましくは40〜45℃の温度に冷却して、冷却APC塔底物を生成する工程を含む。冷却APC塔底物は、APC塔底物デカンターに供給され、ここで冷却APC塔底物は、APCデカンター水性流及びAPCデカンター有機流に分離される。APCデカンター水性流は、開裂中和装置に再循環することが好ましい。MEKデカンター有機流と同様、APCデカンター有機流は、MEK、炭化水素、その他の有機種、及びあれば溶解水を含有する。またMEKデカンター有機流と同様、APCデカンター有機流に対し、最低2回の水性洗浄を施す。第一洗浄は、APCデカンター有機流を水性アルカリ塩基で洗浄して、痕跡フェノールを除去し、第一洗浄APCデカンター有機流を生成する工程を含む。
【0122】
第一洗浄APCデカンター有機流は、第一洗浄APCデカンター水性相及び第一洗浄APCデカンター有機相を生成するのに効果的なデカンター分離条件に曝される。第一洗浄APCデカンター有機相に対し、水による第二洗浄を施して、痕跡アルカリ塩基を除去し、二回洗浄APCデカンター有機流を生成する。二回洗浄APCデカンター有機流は、再び、“ MDC原料”を含む最終APCデカンター有機相と、最終APCデカンター水性相とを含むとに分離される。
【0123】
MDC原料は、MEK、炭化水素、水及びその他の有機種を含有する。MDC原料は、MEK脱水塔又は“MDC”と呼ばれる蒸留塔に供給され、このMDC原料に対し、水及び前記MEKから分離すべきMEKよりも十分沸点の低い有機種を含有するMDC塔頂物と、MEK含有MDC塔底物とを生成するのに効果的なMDC条件を施す。MEKよりも十分沸点の低い有機種としては、必ずしも限定する必要はないが、メタノール及びエタノールが挙げられる。
【0124】
好ましい実施態様では、MDC条件は、MDCに共留剤を供給して、MDC塔頂物中のMEKの損失を最小にして、MDC原料から前記水を除去する工程を含む。好ましい実施態様では、共留剤は、ヘキサン、シクロヘキサン、ヘプタン及びそれらの組合わせよりなる群から選ばれる。最も好ましい共留剤は、シクロヘキサンである。
MDC塔底物は、MEKの他、一般に炭化水素、及びMEKの沸点と同じか、それ以上の沸点を有するその他の有機種を含有する。この方法の残りの部分は、前記“反応混合物にクメンが供給されない場合”と題する対応部分の説明と同じである。
本出願は、以下の実施例を参照すれば、一層よく理解されよう。
【実施例1】
【0125】
例1
転化率対時間及び選択率に対する反応温度の影響を測定するため、バッチ式酸化を行った。s−ブチルベンゼン対クメンの重量比が7〜1の炭化水素混合物を、酸素量7容量%の消費(deleted)空気を用いて、大気圧で酸化した。これらの結果を下記表に示す。第1A表は、110℃の結果を表わす。
【0126】
【表2】

第1B表は、125℃の結果を表わす。
【0127】
【表3】

以上の結果から判るように、反応温度を15℃上昇させると、所定の全ヒドロパーオキシド転化率に達するまでの時間は半分となった。
【0128】
例2
sec−ブチルベンゼン(sBB)300g、及びsBB:クメン重量比が3.4:1となるのに効果的なクメン量を含む基準酸化用混合物を製造した。この酸化用混合物は、開始剤としてクメンヒドロパーオキシドも1%含有する。酸化用混合物を、温度130℃;500cc/分のN中7%O含有酸化剤;及び定常圧力40psigを含む酸化条件に曝した。実験は全て500ccBuchiタイプII反応器中、撹拌速度1300rpmで行った。
【0129】
前記基準酸化用混合物は、酸化反応に対するアンモニアの影響を評価するため、対照として酸化した。この対照混合物には、アンモニア又は水は添加しなかった。8時間後、この混合物は、蟻酸438重量ppm、酢酸860重量ppm及びフェノール1510重量ppmを含有していた。
第一比較実験では、酸化中、基準酸化用混合物にガス状アンモニアを、予想される酸の生成量に対し9.2:1の重量比で泡立たせた。この時のアンモニアの供給速度は3.26cc/分であった。
【0130】
第二比較実験では、基準酸化用混合物に水を1.25重量%装入した。酸化中、ガス状アンモニアを、予想される酸の生成量の73%を中和するのに十分な量で泡立たせた(予想される酸の生成量に対するアンモニアのモル比は0.73:1)。この時のアンモニアの供給速度は0.26cc/分であった。
【0131】
対照混合物から2時間毎に採取したサンプル及び比較実験混合物から1時間毎に採取したサンプルについて、クメンヒドロパーオキシド(CHP)、s−ブチルベンゼンヒドロパーオキシド(sBBHP)、アセトフェノン(AP)、DMBA及びEMBAの測定を行い、下記結果を得た。
【0132】
【表4】

【0133】
【表5】

【0134】
【表6】

以上の改良結果を下記表にまとめ、図3に示す。
【0135】
【表7】

【0136】
8時間後、アンモニアを装入した酸化用混合物中のヒドロパーオキシド収率は対照よりも13.5%高く、またフェノール毒は対照よりも44%低かった。各酸化用混合物が20重量%ヒドロパーオキシドに達した後、アンモニア装入酸化用混合物は対照よりも36%低いAP生成量を示し、またDMBA及びEMBAは対照よりも37%低かった。これらの結果は、図3〜5に示した。図3は、乾燥NHを、予想酸の生成量に対し330:1の比で添加した場合の結果も含むことに注目。この実験では、APは対照よりも高かった。
【図面の簡単な説明】
【0137】
【図1】本発明方法の構成図である。
【図2】パイプラインループ反応器及び押出し流れ反応器を含む、本発明方法で使用される好ましい開裂反応器システムの概略図である。
【図3】例2において、NH無添加の対照サンプル、NHを添加した実験サンプル、及び乾燥NHを、予想される酸の生成量に対し330:1で添加したサンプルで得られたアセトフェノン対全ヒドロパーオキシド比を示す図である。
【図4】例2において、NH無添加の対照サンプル及びNHを添加した実験サンプルで得られた(DMBA+EMBA)対全ヒドロパーオキシド比を示す図である。
【図5】例2において、NH無添加の対照サンプル及びNHを添加した実験サンプルで得られたフェノール対全ヒドロパーオキシド比を示す図である。
【符号の説明】
【0138】
15 第一開裂反応器又はパイプラインループ反応器
20 熱交換器
22 熱交換器
24 ポンプ
26 第一開裂反応生成物取出し点
28 原料点
30 再循環流
32 第一開裂反応器原料
33 反応混合物側流
35 発熱量測定点
36 酸触媒の添加点
37 発熱量測定点
38 第二開裂反応器
40 第一開裂反応生成物
41 発熱量測定点
44 第二開裂反応生成物
48 発熱量測定点
50 熱交換器
52 発熱量測定点
54 発熱量測定点

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)s−ブチルベンゼン、又は(b)s−ブチルベンゼンとクメンとの組合わせから選ばれた1種以上のアルキルベンゼンを含む酸化用原料を酸化反応器に供給して、酸化用混合物を生成する工程、
該酸化用混合物を酸化して、(a)s−ブチルベンゼンヒドロパーオキシド、又は(b)s−ブチルベンゼンヒドロパーオキシドとクメンヒドロパーオキシドとの組合わせから選ばれたヒドロパーオキシド生成物を含有する酸化生成物流を生成する工程、
該ヒドロパーオキシド生成物を開裂して、(a)フェノール及びメチルエチルケトン(MEK)、又は(b)フェノール、アセトン及びMEKを含む開裂生成物を生成する工程、
該開裂生成物から、フェノールを含有する粗フェノールフラクションと、(a)粗MEK流、又は(b)MEK及びアセトンを含有する粗アセトン/MEK流とを分離する工程、及び
MEK及び/又はアセトンから選ばれた1種以上の生成物を回収する工程、
を含む(a)フェノール及びMEK、又は(b)フェノール、アセトン及びMEKを制御可能な収量で製造する方法。
【請求項2】
前記酸化用混合物を、1つ以上の連続式酸化反応器に供給し、次いで分子状酸素の供給源を該酸化用混合物に供給する工程を含む請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記酸化生成物流を分離して、酸化塔底物(OB)及び酸化蒸気塔頂物を生成する工程を更に含む請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
クメンとs−ブチルベンゼンとの重量比が1:8〜2:1である請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記酸化反応器がバッチ式酸化反応器であり、かつ前記酸化条件が、酸化温度90〜150℃、酸化圧力0〜100psig、及び酸化反応時間6〜11時間を含む請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記酸化条件が、酸化温度100〜130℃、酸化圧力0〜100psig、及び各連続式反応器での合計滞留時間1〜5時間を含む請求項2〜4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
前記一連の連続式酸化反応器が、3〜8の直列連続式反応器である請求項2〜4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
クメンとs−ブチルベンゼンとの重量比が1:8であり、かつ前記一連の連続式酸化反応器が、5又は6の直列連続式酸化反応器である請求項4に記載の方法。
【請求項9】
前記酸化蒸気塔頂物を、酸化蒸気塔頂物−有機フラクション(OVO−OF)と酸化蒸気塔頂物−水性フラクション(OVO−AF)とに分離する工程、
該OVO−AFを、熱分解温度80〜250℃及び熱分解圧力100〜200psig下で分解して、アルコール、アルデヒド、カルボン酸及びそれらの組合わせを含む熱分解生成物を生成する工程、
を更に含む請求項3に記載の方法。
【請求項10】
前記分解工程において、前記OVO−AFにOVO−AF無機酸を添加し、次いで該OVO−AF無機酸を、pH10〜11のOVO−AFアルカリ塩基で中和する工程、及び
前記熱分解生成物を蒸留して、熱分解生成物有機蒸留物及び熱分解生成物水性塔底物を生成する工程、
を更に含む請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記OB、及び前記酸化塔底物の0.1〜1.5重量%と同等の水を1つ以上のストリッパーに供給して、ストリッパー塔頂物及びヒドロパーオキシドを含有するストリッパー塔底物を生成する工程を更に含む請求項3、4又は6に記載の方法。
【請求項12】
OBを、連続的に降下する圧力で操作する多数ストリッパーに供給して、ストリッパー塔頂物及びストリッパー塔底物を生成する工程を更に含む請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記開裂生成物からの中和有機フラクションを含む粗ケトン塔(CKC)原料を、開裂生成物分離帯に供給し、次いでCKC原料を分離して、
前記1種以上のアルキルベンゼン、AMS、AES及び2P2Bの組合わせの2〜5重量%含む粗フェノールフラクション、及び
CKC原料中の前記水、前記1種以上のアルキルベンゼン、AMS、AES、2P2B、及びそれらの組合わせ、の殆どを含むCKC蒸気蒸留物、
を生成する工程を更に含む請求項1〜12のいずれか1項に記載の方法。
【請求項14】
前記分離工程が、
CKC塔頂温度190〜220℃、好ましくは203〜207℃;
CKC塔頂圧力0〜10psig、好ましくは3〜7psig;及び
最小質量還流比0.05/1、好ましくは0.1/1〜0.2/1;
を含む請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記CKC蒸気蒸留物を凝縮して、CKC蒸気凝縮物を生成する工程、及び
該CKC蒸気凝縮物を分離して、CKC蒸気凝縮物有機層及びCKC蒸気凝縮物水性層を生成する工程、
を更に含む請求項13又は14に記載の方法。
【請求項16】
前記CKC蒸気凝縮物水性層のCKC再循環部分をCKC塔に再循環点で供給する工程を更に含む請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記CKC蒸気凝縮物水性層の残部をCKC蒸気凝縮物有機層と混合して、フェノールを2重量%以下含有するCKC蒸気凝縮物混合物を形成する工程を更に含む請求項16に記載の方法。
【請求項18】
前記MEKが、
前記CKC蒸気凝縮混合物を、MEK含有CKC蒸気凝縮物混合物中のアルデヒドの大部分を凝縮すると共に、CKC蒸気凝縮物混合物中のフェノールの大部分をナトリウムフェナートに転化し、これによりMEK回収用混合物を生成するのに効果的な量のMEK回収用アルカリ塩基と混合する工程、及び
該MEK回収用混合物をMEK生成物に分離する工程、
を含む工程により回収される請求項15〜17のいずれか1項に記載の方法。
【請求項19】
前記MEK分離工程が、
前記MEK回収用混合物を35〜55℃、好ましくは40〜45℃の温度に冷却する工程、及び
該冷却したMEK回収用混合物をMEK第一MEK水性流及び第一MEK有機流に分離する工程、
を含む請求項18に記載の方法。
【請求項20】
前記第一MEK水性流を前記開裂中和装置に再循環する工程を更に含む請求項19に記載の方法。
【請求項21】
前記アセトン/MEK分離工程が、前記アセトン/MEK流をアセトン生成物塔(APC)にAPC原料として供給し、次いで該APC原料をアセトン含有APCバージ流を含むAPC塔頂物と、更にサイドドローとしてほぼ純粋なアセトン生成物とを含有するAPC生成物に分離する工程を含む請求項1〜20のいずれか1項に記載の方法。
【請求項22】
前記APC分離工程が、前記APC塔に、MEK及びアセトンを含有するAPC原料中のアルデヒドの凝縮を触媒して、MEK、炭化水素、APC凝縮反応生成物、ナトリウムフェナート、及びそれらの組合わせを含むAPC塔底物を生成するのに効果的なAPC塩基を供給する工程、及び
該APC塔底物をMEK生成物に分離する工程、
を含む請求項21に記載の方法。
【請求項23】
前記APCが、
APC塔頂圧力400〜500mmHg、好ましくは450mmHg;
APC塔頂温度30〜50℃、好ましくは40℃;及び
最小APCモル還流比が還流流れとサイドドロー生成物流とのモル基準の比率として計算して、12/1、好ましくは15/1〜27/1、更に好ましくは21/1以上;
を含む条件で操作される請求項21又は22に記載の方法。
【請求項24】
前記酸化用混合物が、別の水性相を作るには不十分な量の水を含む酸化用塩基を含有する請求項1〜23のいずれか1項に記載の方法。
【請求項25】
水が400ppm〜2重量%の量で存在する請求項24に記載の方法。
【請求項26】
前記酸化用塩基が、塩基対酸比0:1〜6:1、好ましくは0.5:1〜4:1を得るのに十分な量で存在する請求項24又は25に記載の方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公表番号】特表2006−517967(P2006−517967A)
【公表日】平成18年8月3日(2006.8.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−503495(P2006−503495)
【出願日】平成16年2月11日(2004.2.11)
【国際出願番号】PCT/US2004/004009
【国際公開番号】WO2004/074230
【国際公開日】平成16年9月2日(2004.9.2)
【出願人】(390023685)シエル・インターナシヨネイル・リサーチ・マーチヤツピイ・ベー・ウイ (411)
【氏名又は名称原語表記】SHELL INTERNATIONALE RESEARCH MAATSCHAPPIJ BESLOTEN VENNOOTSHAP
【Fターム(参考)】