説明

フェノール樹脂の製造方法

【課題】 三フッ化ホウ素錯体を用いてフェノール化合物とジシクロペンタジエンとの反応により得られるフェノール樹脂の製造において、工業的に環境に影響を与えず、かつ物性の良好なフェノール樹脂が得られるフェノール樹脂の製造方法を提供する。
【解決手段】 ジシクロペンタジエンとフェノールとを三フッ化ホウ素錯体化合物存在下で反応させる反応工程、反応系内の水分を0.3%以下、フェノールを30%以上含有した樹脂溶液として、樹脂溶液の温度を60℃以上150℃以下で、無機炭酸塩を添加混合することで三フッ化ホウ素錯体触媒を中和処理し、中和処理後に無機炭酸塩を除去する触媒除去工程及び蒸留工程を含むフェノール樹脂の製造方法であって、無機炭酸塩は炭酸リチウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸マグネシウム及び炭酸カルシウムからなる群より選ばれる1種以上であることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はフェノール樹脂の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電子産業を中心とする科学技術の急速な進歩に伴い、各製品とその原料に対する要求性状は益々厳しくなっている。なかでも半導体関連技術の進歩はめざましく、半導体のメモリーの集積度は益々向上し、それに伴い配線の微細化、チップサイズの大型化が進んでおり、更には実装方法もスルーホール実装から表面実装への移行が進んでいる。しかしながら、表面実装の自動化ラインにおいては、リード線の半田付けの際に半導体パッケージが急激な温度変化を受け、半導体封止材用樹脂成形部にクラックが生じたり、リード線樹脂間の界面が劣化して耐湿性が低下するという問題がある。
【0003】
耐湿性の低下を改善する目的で、フィラーの形状を変えることによりフィラーの高充填化を図る方法が提案されているが、この方法では半導体パッケージの弾性率が高くなり熱衝撃に対してクラックが生じ易くなるという問題がある。そこで、半導体パッケージを半田浴に浸漬した際の熱衝撃を緩和するために、樹脂へのシリコーン化合物の添加、熱可塑性オリゴマーの添加あるいはシリコーン変性などの樹脂組成物の変性方法が提案されているが、いずれの方法も半田浴浸漬後、成形物にクラックが生じ、信頼性のある半導体封止材用樹脂組成物が得られるには至っていない。
【0004】
また半導体封止材用樹脂組成物中には、エポキシ樹脂の硬化剤としてフェノール樹脂が用いられており、フェノール樹脂としてはノボラックフェノール樹脂やノボラッククレゾール樹脂が使用されている。しかしこのようなフェノール樹脂を用いた場合、半導体パッケージの吸湿性が強く、その結果としても前述のような半田浴浸漬時におけるクラックの発生が避けられないという問題がある。
【0005】
そこで最近では、半導体封止材用樹脂組成物の耐熱性を改善するために、エポキシ樹脂の硬化剤であるフェノール樹脂を改良する検討がなされている。特許文献1において、フェノール類とジシクロペンタジエンとの反応により得られるフェノール樹脂を提案しており、このようなフェノール樹脂を硬化剤として用いることにより、前述の問題が解消できることを報告している。
【0006】
このような樹脂製造方法として最も好ましい触媒は三フッ化ホウ素系触媒であり、公知技術で専ら使用されている触媒は三フッ化ホウ素およびその錯塩である。しかし、この三フッ化ホウ素の欠点は、水分の存在による分解等で極めて腐蝕性の強い物質が生成するため、製造時の水分量を管理する必要がある。また、他のルイス酸触媒を用いた場合にも共通する欠点は、触媒およびその分解物が重合体中に残存することである。このことは、半導体封止剤等の電子材料分野においては重大な欠陥として問題となる。公知技術のうち特許文献2では、上記問題点を解消するために反応後、溶剤を加えて多量の水で洗浄する方法を提案している。しかしながら、この方法では、触媒成分とともに未反応フェノールを水洗除去しなければならず、溶剤の回収とともに多量のフェノール化合物を含む洗浄水の無公害化が必要となってくる。このように、公知の三フッ化ホウ素触媒を使用する方法では、得られる重合体の品質や製造上に多くの問題点がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平5−17550号公報
【特許文献2】特開昭63−99224号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、三フッ化ホウ素錯体を用いてフェノール化合物とジシクロペンタジエンとの反応により得られるフェノール樹脂の製造において、未反応のフェノール性水酸基含有化合物と触媒残渣をほぼ完全にかつ簡便に除去する方法を確立し、工業的に環境に影響を与えず、かつ物性の良好なフェノール樹脂が得られるフェノール樹脂の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
このような目的は、次の[1]〜[2]に記載の本発明により達成される。
[1] ジシクロペンタジエンとフェノールとを三フッ化ホウ素錯体化合物存在下で反応させる反応工程、反応系内の水分を0.3%以下、フェノールを30%以上含有した樹脂溶液として、樹脂溶液の温度を60℃以上150℃以下で、無機炭酸塩を添加混合することで三フッ化ホウ素錯体触媒を中和処理し、中和処理後に無機炭酸塩を除去する触媒除去工程及び蒸留工程を含むことを特徴とするフェノール樹脂の製造方法。
[2] 無機炭酸塩が炭酸リチウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸マグネシウム及び炭酸カルシウムからなる群より選ばれる1種以上である[1]記載のフェノール樹脂の製造方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明のフェノール樹脂の製造方法によれば、未反応のフェノール性水酸基含有化合物と触媒残渣をほぼ完全にかつ簡便に除去することができ、工業的に環境に影響を与えず、かつ物性の良好なフェノール樹脂を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明のフェノール樹脂の製造方法について説明する。
【0012】
本発明のフェノール樹脂の製造方法は、反応工程、触媒除去工程、蒸留工程を含み、以下にそれぞれの工程について詳しく説明する。
【0013】
まず、反応工程について説明する。反応工程では、先ず三フッ化ホウ素錯体化合物存在下、フェノールとジシクロペンタジエンとを反応させる。
三フッ化ホウ素錯体化合物としては、例えば三フッ化ホウ素・エーテル錯体、三フッ化ホウ素・フェノール錯体、三フッ化ホウ素・水錯体、三フッ化ホウ素・アルコール錯体、三フッ化ホウ素・アミン錯体、または、これらの混合物等が用いられる。このなかでも特に好ましいものは、三フッ化ホウ素、三フッ化ホウ素・フェノール錯体、三フッ化ホウ素・エーテル錯体である。
反応に使用する触媒の濃度は、フェノールとジシクロペンタジエンの反応機構や付加位置に影響を与えるため、フェノール、ジシクロペンタジエンおよび触媒の合計重量に対して0 .0 5 〜 1 質量% 以下とするのが好ましい。例えば、フェノールとジシクロペンタジエンとを三フッ化ホウ素・フェノール錯体の存在下に反応させる場合は、フェノール、ジシクロペンタジエンおよび三フッ化ホウ素・フェノール錯体の合計重量に対して、三フッ化ホウ素が1 質量% 以下となるようにする。触媒濃度が1 質量% より多い場合、反応の進行が速くなる反面、分解などの副反応を起こしやすく、最終製品の性状に影響を与える可能性があるため好ましくない。また触媒濃度が0.05質量%未満の場合、反応が十分に進行せず、下記一般式(1)、(2)で示される一官能性成分を副生する怖れがあり、最終的に得られるフェノール樹脂中の一官能性成分の含有量が2質量%より多くなり、硬化性を悪化させる恐れがあるので好ましくない。
【0014】
【化1】

【化2】

【0015】
尚、触媒濃度は反応の全工程にわたって維持する必要がある。したがって、フェノールと触媒を先に反応器に仕込み、ジシクロペンタジエンを滴下して加えることにより反応させる場合、反応開始時点の触媒濃度は、実際上フェノールに対する濃度となるが、反応開始時から終了時まで上記の触媒濃度の範囲が維持されるようにする。
【0016】
また、上記触媒濃度領域においては、水分が反応生成物の組成に大きく影響すると共に、触媒の分解による腐食性の強い物質の発生にも寄与する為、反応開始前〜触媒失活までにおける反応系内の水分濃度を0.3%以下とすることが必要である。フェノールは極性基を含む性質上水分を含有し易いため、適宜、脱水操作を行って水分を制御することが重要である。脱水方法としては例えば、窒素気流下においてフェノールを必要に応じて有機溶剤とともに共沸する方法等が挙げられるが、反応系内の脱気などの処理の際にかえって吸湿したりすることがあり、脱水操作には十分な注意が必要である。水分量の確認は系内からのサンプリング等によって行う。また必要に応じてジシクロペンタジエンも脱水して用いる必要がある。反応に際しては、通常、反応器内を窒素、アルゴン等の不活性ガスで置換する。不活性ガスで置換された密閉系において反応を行うのが好ましいが、反応器内に不活性ガスを供給しつつ開放系で反応を行なうこともできる。反応においては、系内に水分が入り込まないようにして、反応系中の水分量を0.3%以下とすることが肝要である。
【0017】
反応温度および反応時間は、樹脂中の一官能性成分の含有率および製造効率に影響するため、以下のように制御するのが好ましい。すなわち、フェノールとジシクロペンタジエンの反応を2段階に分けてそれぞれの反応条件を制御することにより、本発明の高純度フェノール樹脂を効率的に製造することができる。第1段階は、触媒の存在下に、フェノールにジシクロペンタジエンを滴下する工程である。この際の温度は、50℃〜110℃ の範囲で行うのが好ましい。低温では反応の進行が著しく遅くなり、110℃ 以上では不飽和環状炭化水素の分解などにより低分子量の不純物が生成するため好ましくない。反応時間は特に制限されるものではないが、通常は10分〜60時間の範囲から適宜に選択することができる。作業効率を向上させるという点から、特に1時間〜3時間の範囲で完結させるのが好ましい。
【0018】
ジシクロペンタジエンの滴下終了後の第2段階として、樹脂を所望の性状にするため第1段階より高温で加熱処理を行う。反応温度は、110〜170℃の範囲とするのが好ましく、特に140〜150℃で反応させると効率よく一官能性成分を少なくすることができる。170℃を超える場合には、触媒の分解又は副反応が起こり、また110℃未満の場合には、反応に長時間を要し効率が悪くなるので好ましくない。反応時間は特に制限されるものではないが、通常は1時間〜3時間の範囲から適宜に選択することができる。反応の終点は反応液中の樹脂組成を確認することによって決められる。
【0019】
次に、触媒除去工程について説明する。上記反応は触媒を失活させることにより終了させる。その際、反応を確実に停止させることが重要である。失活の手段は特に制限されないが、最終的に得られるフェノール樹脂中のホウ素、フッ素等のイオン性不純物の残存量が100ppm以下となるような手段を用いるのが好ましい。失活剤として、アルカリ金属、アルカリ土類金属もしくはそれらの酸化物、水酸化物、炭酸塩、水酸化アンモニウム、アンモニアガス等の無機塩基類等を用いることができるが、より好ましくは速く簡潔な処理が可能で、かつ処理後のイオン性不純物の残存量も少なく、安価であることから無機炭酸塩を失活剤として用いるのが好ましい。無機炭酸塩としては炭酸リチウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸マグネシウム、炭酸カルシウムが挙げられる。
【0020】
上記失活剤を用いて触媒を失活させた後、触媒と共に無機炭酸塩を除去する工程が必要となる。除去方法は特に限定されないが、最も簡便な方法はろ過である。ろ過による除去方法では反応液の粘度が重要となり、フェノールを30%以上含有した樹脂溶液として、樹脂温度60℃以上150℃以下の条件下でろ過するのが望ましい。フェノールの含有量が30%を下回ってしまうと反応液の粘度が高くなりろ過が困難となる。また、樹脂温度が60℃を下回った場合も同様に粘度が高くなる。逆に温度が高くなり過ぎると失活した触媒種の分解又は副反応が起こり易く、樹脂中の触媒種の除去が困難となることから、150℃以下とすることが望ましい。
【0021】
次に、蒸留工程について説明する。蒸留工程では、未反応のフェノールが回収されるとともに一官能性成分等の不純物が除去され、高純度フェノール樹脂が得られる。蒸留条件は、蒸留系内の温度や圧力と蒸気圧との関係から一定の条件が定められるものではないが、以下の条件で行うことにより最も効率的な蒸留が可能となる。すなわち、系内温度については、樹脂の分解が起こらない範囲であれば特に制限されるものではないが、250℃以下が好ましく、さらに好ましくは180〜250℃の範囲である。
系内圧力については、常圧、減圧、加圧のいずれの条件下で実施しても良いが、前記の温度範囲で蒸留を円滑にかつ迅速にすませるために系内を減圧下にすることが好ましい。具体的には、66.5kPa以下の範囲が好ましく、特に10kPa以下にすることが好ましい。
さらに、樹脂中の一官能性成分および未反応フェノールを効率良く除去するために、減圧条件下において系内に溶媒を添加しながら行うのが好ましい。系内に導入する溶媒については特に限定されるものではないが、具体的には水や有機溶媒、またはそれらを混ぜ合わせたものであることが好ましく、より好ましくは用いられる有機溶媒の沸点が110℃以上であり、水と混合した場合に効率よく不純物を除去できる。
【0022】
蒸留方法は特に制限されるものではないが、好ましい蒸留方法として以下の例が挙げられる。ろ過を行った反応液(ろ液)を蒸留を行う釜に移送した後、加熱を開始すると同時に系内を連続的に減圧していく。系内が200℃に到達した時点で系内をフル減圧とし、10kPa以下とする。任意の時間、この状態で蒸留を行った後、減圧下において上記溶媒を系内に添加し、最終的に水蒸気を残留させないよう窒素を吹き込むことにより蒸留を終了する。蒸留の終了点は、GPC分析により、未反応フェノールおよびポリスチレン換算数平均分子量320以下の領域に検出される一官能性成分の量を確認することによって決定される。フェノール樹脂中における一官能性成分の含有量は、2質量%以下になっていることが必要である。また、未反応フェノールの含有量は製品を使用する際の環境への配慮の点からは少ない方が好ましいが、生産効率および品質の面から、樹脂中の残存量が500ppm以下になるようにすれば十分であり好ましくは200ppm以下、さらに好ましくは100ppm以下である。すなわち、500ppm より多い場合は、樹脂の性能や環境への影響の面から好ましくなく、一方、より少なくしようとすると蒸留時間が長くなる等の問題があるため、それらのバランスを考慮することが大切である。
以上のように、反応工程および蒸留工程において一官能性成分の量を制御することにより、本発明の高純度フェノール樹脂を得ることが可能となる。
【0023】
本発明の方法に適用できる反応装置としては、ガラス製またはガラスライニング装置、SUS304、SUS316等の汎用材質から成る装置が使用できる。これは、従来から用いられていた三弗化ホウ素系触媒が、いずれの反応器材質に対しても腐蝕が大きいために使用に耐えないのに対して大きな利点である。
【実施例】
【0024】
本発明の方法を工業的に実施するために、つぎの様なSUS材の腐蝕試験を行った。
試験材料:SUS304 テストピース
SUS316 テストピース
浸漬液:フェノール 70g、三フッ化ホウ素フェノール錯塩 2.00g
水分量:0.1%、0.3%、1.0%
試験条件:150℃、168時間
【0025】
[実施例1]
フェノール70.0g、三フッ化ホウ素フェノール錯塩2.00g、水0.072g(全体の0.1%)を所定の耐圧容器に入れ、150℃に加温した。これにSUS304(40×20×3mm)テストピースを入れ、168時間放置した。試験前後のテストピースの減少重量、厚み変化を測定した結果、減少重量は0.0025g、厚み変化は0.0015mmであり、単位あたり換算ではそれぞれ0.008g/m・hr、0.02mm/yであった。
[実施例2〜6]
表1に従って実施例2〜6の試験を行い、試験前後のテストピースの減少重量、厚み変化を測定した。試験結果も併せて表1に示す。
この結果、水分量が0.3%以下であれば試験条件が150℃の過酷な条件にもかかわらず、1年間の腐蝕速度が0.01〜0.10mmと低い水準であり、また、テストピースの表面状態も良好であることから、これらの材料は本発明の方法で使用可能と判定される。
【0026】
【表1】

【0027】
以下、本発明のフェノール樹脂の製造方法について、実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
[実施例11]
【0028】
[フェノールノボラック樹脂A]
フェノール1500gと三フッ化ホウ素・フェノール錯体11.0gを還流冷却器を備えた容量3リットルの反応器に仕込み、100℃ に加熱して、ジシクロペンタジエン190gを1.5時間かけて徐々に滴下し、滴下終了後、140℃で3時間反応を行った。反応終了後、得られた反応生成物の水分量0.10%、未反応フェノール量55%であることを確認した後、炭酸カルシウム13.0gを添加し、60℃まで冷却しながら30分間攪拌して触媒を失活させた後、反応液を濾過した。この時、反応液の粘度が高く、操作性が悪かったが、ろ過することは可能であった。得られた反応液を250℃、5KPaの減圧下で蒸留し、続いて減圧下で4時間反応液中に水とキシレン混合液を逐添した。本操作によってフェノール樹脂(A)500gを得た。
[実施例12]
【0029】
[フェノールノボラック樹脂B]
フェノール1500gと三フッ化ホウ素・フェノール錯体11.0gを還流冷却器を備えた容量3リットルの反応器に仕込み、100℃ に加熱して、ジシクロペンタジエン420gを1.5時間かけて徐々に滴下し、滴下終了後、140℃で3時間反応を行った。反応終了後、得られた反応生成物の水分量0.28%、未反応フェノール量42%であることを確認した後、炭酸カルシウム13.0gを添加し、100℃まで冷却しながら30分間攪拌して触媒を失活させた後、反応液を濾過した。この時、反応液の粘度は十分低く、速やかにろ過することが可能であった。得られた反応液を250℃、5KPaの減圧下で蒸留し、続いて減圧下で4時間反応液中に水とキシレン混合液を逐添した。本操作によってフェノール樹脂(B)740gを得た。
[実施例13]
【0030】
[フェノールノボラック樹脂C]
フェノール1000gと三フッ化ホウ素・フェノール錯体7.3gを還流冷却器を備えた容量3リットルの反応器に仕込み、100℃ に加熱して、ジシクロペンタジエン560gを1.5時間かけて徐々に滴下し、滴下終了後、140℃で3時間反応を行った。反応終了後、得られた反応生成物の水分量0.16%、未反応フェノール量31%であることを確認した後、炭酸カルシウム8.7gを添加し、100℃まで冷却しながら30分間攪拌して触媒を失活させた。この時、反応液の粘度が高くなり過ぎてしまった為、温度を150℃まで昇温した後、ろ過を行った。得られた反応液を250℃、5KPaの減圧下で蒸留し、続いて減圧下で4時間反応液中に水とキシレン混合液を逐添した。本操作によってフェノール樹脂(C)1200gを得た。
[比較例1]
【0031】
[フェノールノボラック樹脂D]
フェノール1500gと三フッ化ホウ素・フェノール錯体11.0gを還流冷却器を備えた容量3リットルの反応器に仕込み、100℃ に加熱して、ジシクロペンタジエン420gを1.5時間かけて徐々に滴下し、滴下終了後、140℃で3時間反応を行った。反応終了後、得られた反応生成物の水分量0.35%、未反応フェノール量45%であることを確認した後、炭酸カルシウム13.0gを添加し、100℃まで冷却しながら30分間攪拌して触媒を失活させた後、反応液を濾過した。この時、反応液の粘度は十分低く、速やかにろ過することが可能であった。得られた反応液を250℃、5KPaの減圧下で蒸留し、続いて減圧下で5時間反応液中に水とキシレン混合液を逐添した。本操作によってフェノール樹脂(D)650gを得た。
[比較例2]
【0032】
[フェノールノボラック樹脂E]
フェノール1500gと三フッ化ホウ素・フェノール錯体11.0gを還流冷却器を備えた容量3リットルの反応器に仕込み、100℃ に加熱して、ジシクロペンタジエン190gを1.5時間かけて徐々に滴下し、滴下終了後、140℃で3時間反応を行った。反応終了後、得られた反応生成物の水分量0.11%、未反応フェノール量56%であることを確認した後、炭酸カルシウム13.0gを添加し、55℃まで冷却しながら30分間攪拌して触媒を失活させた後、反応液を濾過した。この時、反応液の粘度は非常に高く、反応液を濾過することが出来なかった。
[比較例3]
【0033】
[フェノールノボラック樹脂F]
フェノール1500gと三フッ化ホウ素・フェノール錯体11.0gを還流冷却器を備えた容量3リットルの反応器に仕込み、100℃ に加熱して、ジシクロペンタジエン560gを1.5時間かけて徐々に滴下し、滴下終了後、140℃で3時間反応を行った。反応終了後、得られた反応生成物の水分量0.16%、未反応フェノール量25%であることを確認した後、炭酸カルシウム13.0gを添加し、150℃まで昇温しながら30分間攪拌して触媒を失活させた後、反応液を濾過した。この時、反応液の粘度が非常に高く、反応液をろ過することが出来なかった。
上記実施例1〜3、比較例1で得られたフェノール樹脂について、軟化点、水酸基当量、数平均分子量、一般式(1)、(2)で表される1分子中にフェノール性水酸基を1つのみ含有する一官能性成分量、残存ホウ素量、残存フッ素量、操作性(粘度)を次の方法で測定した。その結果を表2に示した。
(1) 軟化点:JIS K−2531に準じて測定した。
(2) 水酸基当量(OH当量):得られたフェノール樹脂をピリジン−無水酢酸混合溶液中で加熱還流し、反応後の溶液を水酸化ナトリウムで逆滴定することにより測定した。
(3) 化学式(1)で表される成分の含有量:テトラヒドロフランを溶出溶媒として使用し、流量1.0ml/分、カラム温度40℃の条件で、測定した。装置は、本体:東ソー製HLC−8020、分析用カラム:東ソー製TSKgelG1000HXLを2本、G3000HXLを1本使用した。
(4) 化学式(2)で表される成分の含有量:上記化学式(1)測定方法と同様の方法にて測定した。
(5) 数平均分子量(Mn):上記化学式(1)測定方法と同様の方法にて測定した。
(6) 残存ホウ素量:製造した樹脂6gに対して純水40gを加え、125℃で20時間かけて抽出した上澄み液をキャピラリー電気泳動装置(大塚電子製 CAPI-3300)にて測定した。
(7) 残存フッ素量:上記(6)測定方法と同様にして測定した。
(8) 操作性(粘度):樹脂製造時、触媒除去工程において、ろ過のしやすさを系統的に判断した。(20分以内でスムーズにろ過可能なものを○、20〜40分程度かけることでろ過可能なものを△、40分を超えてもろ過困難であるものを×とした。)
【0034】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0035】
本発明のフェノール樹脂の製造方法により得られるフェノール樹脂は触媒残渣に由来するイオン性不純物ならびに一官能性成分の含有量が極めて低く、例えば半導体封止剤等の電子材料分野において非常に有用な高純度のフェノール樹脂類を製造することが可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ジシクロペンタジエンとフェノールとを三フッ化ホウ素錯体化合物存在下で反応させる反応工程、反応系内の水分を0.3%以下、フェノールを30%以上含有した樹脂溶液として、樹脂溶液の温度を60℃以上150℃以下で、無機炭酸塩を添加混合することで三フッ化ホウ素錯体触媒を中和処理し、中和処理後に無機炭酸塩を除去する触媒除去工程及び蒸留工程を含むことを特徴とするフェノール樹脂の製造方法。
【請求項2】
無機炭酸塩が炭酸リチウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸マグネシウム及び炭酸カルシウムからなる群より選ばれる1種以上である請求項1記載のフェノール樹脂の製造方法。

【公開番号】特開2011−74206(P2011−74206A)
【公開日】平成23年4月14日(2011.4.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−226799(P2009−226799)
【出願日】平成21年9月30日(2009.9.30)
【出願人】(000002141)住友ベークライト株式会社 (2,927)
【Fターム(参考)】