説明

フェライト焼結磁石及びモータ

【課題】フェライト焼結磁石の発塵性及び変色を低減し、フェライト焼結磁石を機器に組み込む際の汚れを低減することを課題とする。
【解決手段】フェライト焼結磁石1は、例えば、磁性粉末とバインダ樹脂とを混合して得られた磁性粉末混合物を、磁場を印加した金型の内部に射出成形して成形体を作製し、この成形体を焼成することによって製造される。焼結磁石1の表面粗さRzは、3.5μm以下である。表面粗さRzは、十点平均粗さである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フェライト焼結磁石の発塵を低減することに関する。又は、モータの汚れを低減することに関する。
【背景技術】
【0002】
フェライト焼結磁石は、家電製品や自動車等に搭載される電動機を始めとして、広く利用されている。特許文献1には、フェライト焼結磁石の表面にガラス質の釉薬を塗布して焼き付ける技術が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平10−125519号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
通常の工程で製造されたフェライト焼結磁石は、運搬時において、互いに接触し摩擦される結果、磁性の塵が発生し、フェライト焼結磁石の表面が変色する場合がある。この塵の発生を抑制し、フェライト焼結磁石の変色を抑えるために、運搬の際にフェライト磁石を個別に梱包する等の作業が必要となるとともに梱包費が上昇する。また、フェライト焼結磁石を各種機械に組み付ける際にも、フェライト焼結磁石と固定治具とが接触することでフェライト焼結磁石の表面が擦れ、その結果塵が発生する。例えば電動機(モータ)のケースにフェライト焼結磁石を挿入し、取り付けを行う際に、ケースとフェライト焼結磁石とが擦れて塵が発生し、電動機に塵による汚れが生じる。特許文献1の技術は、発生する磁性粉による汚れを防止することを目的としている。しかし、特許文献1の技術のように、通常のフェライト焼結磁石を製造する工程の後に、さらに釉薬の塗布工程及び焼き付け工程を行うと、工程数が増加するとともに、材料費も増大するため、製造コストが上昇する。
【0005】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであり、簡便にフェライト焼結磁石の発塵及び変色を低減し、フェライト焼結磁石を機器へ組み込む際における機器の汚れを低減することを目的とする。又は、汚れの低減されたモータを得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係るフェライト焼結磁石は、表面粗さRzが3.5μm以下であることを特徴とする。これにより、簡便にフェライト焼結磁石の発塵及び変色を低減し、フェライト焼結磁石を機器へ組み込む際における機器の汚れを低減できる。
【0007】
本発明の好ましい態様として、前記表面粗さRzが、2.0μm未満であることが好ましい。これにより、簡便に、フェライト焼結磁石の発塵と変色を著しく低減し、フェライト焼結磁石を機器へ組み込む際における機器の汚れを著しく低減できる。
【0008】
また、本発明に係るモータは、上記フェライト焼結磁石を用いたことを特徴とする。これにより、モータの汚れを低減することができる。
【0009】
本発明に係るフェライト焼結磁石の製造方法は、磁性粉末と少なくともバインダ樹脂とを混合して、磁性粉末混合物を得る工程と、前記磁性粉末混合物が接触する面の表面粗さが2.0μm以下の金型に磁場を印加した状態で、前記金型の内部で前記磁性粉末混合物を射出成形して成形体を得る工程と、前記成形体を焼成する工程と、を含むことを特徴とする。
【0010】
このフェライト焼結磁石の製造方法は、磁性粉末混合物が接する部分の表面粗さが2.0μm以下の金型を用い、磁性粉末混合物を前記金型の内部に射出成形することにより成形体を得る。そして、得られた成形体を焼結することにより、焼結磁石を製造する。このような金型から得られた成形体を焼結することにより、表面粗さが3.5μm以下のフェライト焼結磁石を簡単に製造できる。
【発明の効果】
【0011】
本発明は、簡便にフェライト焼結磁石の発塵及び変色を低減し、フェライト焼結磁石を機器へ組み込む際の機器の汚れを低減できる。また本発明に係るモータは、汚れが低減される。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】図1は、本実施形態に係るフェライト焼結磁石の斜視図である。
【図2】図2は、本実施形態に係るフェライト焼結磁石の製造方法の手順を示すフローチャートである。
【図3】図3は、本実施形態に係るフェライト焼結磁石の製造方法に用いる射出成形機の断面図である。
【図4】図4は、フェライト焼結磁石の汚れ低減効果の評価法について説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明につき図面を参照しつつ詳細に説明する。なお、以下の説明により本発明が限定されるものではない。以下の説明における構成要素には、当業者が容易に想定できるもの、実質的に同一のもの、いわゆる均等の範囲のものが含まれる。また、以下に開示する構成は、適宜組み合わせることが可能である。
【0014】
本実施形態において、表面粗さRzは、十点平均粗さである。十点平均粗さとは、粗さ曲線からその平均線の方向に基準長さだけを抜き取り、この抜き取り部分の平均線から縦倍率の方向に測定した、最も高い山頂から5番目に高い山頂までの標高(Yp)の絶対値の平均値と、最も低い谷底から5番目に低い谷底までの標高(Yv)の絶対値の平均値との和を求め、この値をμmで表したものをいう。
【0015】
図1は、本実施形態に係るフェライト焼結磁石の斜視図である。フェライト焼結磁石1は、例えば、モータのステーターに用いられる永久磁石である。本実施形態に係るフェライト焼結磁石の適用対象は、モータに限定されるものではなく、発電機、スピーカやマイク、マグネトロン管、MRI用磁場発生装置、ABSセンサ、燃料・オイルレベルセンサ、ディストリビュータ用センサ、マグネットクラッチ等に用いる永久磁石に対しても広く適用できる。フェライト焼結磁石1の形状は、図1に示すような断面C型のものに限定されるものではない。
【0016】
本実施形態に係るフェライト焼結磁石は、比較的高い磁気特性を有しつつ、安価であることから広く使用されている。フェライト焼結磁石の種類は特に限定されるものではなく、バリウム系、ストロンチウム系、カルシウム系等、いずれでもよい。
【0017】
次に、本実施形態に係るフェライト焼結磁石の製造方法を説明する。本実施形態においては、表面粗さRzが3.5μm以下であるフェライト焼結磁石が製造できることが必要であり、このようなフェライト焼結磁石が製造できれば、製造方法は以下のものに限定されるものではない。
【0018】
図2は、本実施形態に係るフェライト焼結磁石の製造方法の手順を示すフローチャートである。出発原料の粉末(原料粉末)を準備して秤量したら、原料粉末を、例えば、湿式アトライターで粉砕しながら混合する(ステップS11)。原料粉末は、特に限定されない。粉砕されながら混合された原料粉末は、乾燥された後に整粒されてから、仮焼される(ステップS12)。仮焼において、原料粉末は、例えば、空気中で、1000℃から1350℃で1時間から10時間程度、焼成される。原料粉末を仮焼することによって、顆粒状の仮焼体が得られる。
【0019】
得られた仮焼体は粗粉砕されて(ステップS13)、仮焼粉末が得られる。本実施形態において、仮焼体は、例えば、振動ミルを用いて乾式粗粉砕されるが、仮焼体を粉砕する手段はこれに限定されるものではない。例えば、前記手段として乾式アトライター(媒体撹拌型ミル)、乾式ボールミル等を使用することもできる。粗粉砕の時間は、粉砕手段に応じて適宜決定すればよい。乾式粗粉砕は、仮焼体の粒子に結晶歪を導入して保磁力HcJを小さくする効果もある。保磁力HcJの低下により粒子の凝集が抑制され、分散性が向上する。また、配向度も向上する。粒子に導入された結晶歪は、後述する焼結によって解放され、これによって本来の硬磁性に戻って永久磁石となる。
【0020】
粗粉砕が終了したら、得られた仮焼粉末が微粉砕される(ステップS14)。本実施形態において微粉砕を実行するにあたり、仮焼粉末と分散剤と水とを混合させ、粉砕用スラリーを作製する。そして、ボールミルを用いて粉砕用スラリーを湿式粉砕する。微粉砕の手段はボールミルに限定されるものではなく、例えば、アトライター、振動ミル等を用いることができる。微粉砕の時間は、粉砕手段に応じて適宜決定すればよい。粉砕用スラリーには、界面活性剤(例えば、一般式C(OH)+2で表される多価アルコール)が添加されてもよい。多価アルコールは、炭素数nが4以上、好ましくは4から100、より好ましくは4から30、さらに好ましくは4から20、最も好ましくは4から12である。
【0021】
微粉砕が終了した後の粉砕用スラリーは乾燥されて(ステップS15)、磁性粉末が得られる。ステップS15における乾燥温度は、好ましくは80℃から150℃、さらに好ましくは100℃から120℃である。また、ステップS15における乾燥時間は、好ましくは60分から600分間、さらに好ましくは300分から600分間である。得られた磁性粉末は、バインダ樹脂及びワックス類及び滑剤及び可塑剤と混ぜ合わされて、ニーダーを用いて加熱環境下(本実施形態では150℃前後の温度)で所定時間(2時間前後)混練されることにより(ステップS16)、混練物が得られる。なお、磁性粉末は、少なくともバインダ樹脂と混練されていればよい。
【0022】
バインダ樹脂としては、熱可塑性樹脂等の高分子化合物が用いられ、熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン酢酸ビニル共重合体、アタクチックポリプロピレン、アクリルポリマー、ポリスチレン、ポリアセタール等が用いられる。ワックス類としては、例えば、カルナバワックス、モンタンワックス、蜜蝋等の天然ワックス以外に、パラフィンワックス、ウレタン化ワックス、ポリエチレングリコール等の合成ワックスが用いられる。滑剤としては、例えば、脂肪酸エステル等が用いられ、可塑剤としては、フタル酸エステルが用いられる。
【0023】
上述した手順によって得られた混練物は、ペレタイザ(例えば、2軸1軸押出機等)で成形される。これによって、バインダ樹脂中に磁性粉末が分散した磁性粉末混合物(以下、ペレットという)が得られる。得られたペレットは、射出成形されて(ステップS17)、磁性粉末の成形体が得られる。次に、射出成形に用いる射出成形機を説明する。
【0024】
図3は、本実施形態に係るフェライト焼結磁石の製造方法に用いる射出成形機の断面図である。この射出成形機2は、CIM(Ceramic Injection Molding)成形を利用した射出成形機であり、磁場印加装置3によって磁場中で射出成形ができる。射出成形機2は、磁場印加装置3と、投入口4と、スクリュー5と、押出機6と、金型8とを有する。投入口4は、磁性粉末のペレット7が投入される。押出機6は、筒状の筐体6Cと、筐体6Cの内部に回転可能に配置されるスクリュー5とを有する。投入口4と筐体6Cとはペレット7が通過する通路で連結されており、投入口4に投入されたペレット7は、筐体6Cの内部へペレット7を導入する。押出機6は、筐体6Cの内部へ導入されたペレット7を加熱して溶融させながら、スクリュー5によって射出口6Hまで搬送する。
【0025】
射出口6Hは、金型8のキャビティ9と連通している。押出機6は、溶融したペレット7(溶融体)を射出口6Hから金型8内のキャビティ9へ射出する。金型8が有するキャビティ9は、フェライト焼結磁石の外形形状が転写された形状である。金型8の周囲には、磁場印加装置3が配置されており、金型8に磁場を印加した状態で射出成形ができるようになっている。射出成形において、金型8への射出前に金型8は閉じられるとともに、磁場印加装置3によって金型8には磁場が印加される。射出成形において、ペレット7は、押出機6の内部で、例えば、160℃から230℃程度に加熱されて溶融され、スクリュー5によって金型8のキャビティ9内に射出される。金型8の温度は、例えば、20℃から80℃程度である。金型8へ印加する磁場は、例えば、400kA/mから1200kA/m程度とする。
【0026】
キャビティ9の表面は、溶融したペレット(磁性粉末混合物)7が接触する面(ペレット接触面)である。射出成形を用いてフェライト焼結磁石を製造する場合、キャビティ9の表面の形状が成形体の表面に転写されるため、キャビティ9のペレット接触面の表面粗さRzは、製造しようとするフェライト焼結磁石の表面粗さと同程度にする必要がある。本実施形態においては、フェライト焼結磁石の表面を3.5μm以下、好ましくは2.0μm未満にする必要がある。フェライト焼結磁石は、ステップS17における射出成形によって得られた成形体を焼結することによって得られるが、焼結によって焼結体の体積は成形体よりも小さくなる。焼結による体積収縮を考慮して、キャビティ9のペレット接触面は、表面粗さRz(十点平均粗さ)が2.0μm以下であることが好ましい。このようにすれば、射出成形によって得られた成形体を焼結するのみで、研磨を要することなく、表面粗さRzが3.5μm以下のフェライト焼結磁石を得ることができる。これによって、フェライト焼結磁石の生産性が向上する。なお、キャビティ9のペレット接触面の表面粗さRzは、製造するフェライト焼結磁石の表面粗さRzに応じて適宜変更することができる。
【0027】
本実施形態においては、射出成形によって磁性粉末の成形体を得るので、当該成形体の形状の自由度が高くなるという利点もある。このため、本実施形態に係るフェライト焼結磁石の製造方法では、複雑な三次元形状のフェライト焼結磁石を製造することもできる。
【0028】
ステップS17の射出成形によって成形体が得られたら、当該成形体を脱バインダ処理する(ステップS18)。脱バインダ処理は、例えば、得られた成形体を大気中において所定温度(例えば、300℃から600℃程度)かつ所定時間(例えば、1時間から60時間程度)保持する処理である。脱バインダ処理後の成形体は、例えば、大気中で焼結されて(ステップS19)、焼結体が得られる。成形体の焼結温度は、例えば1100℃から1250℃、より好ましくは1160℃から1220℃である。焼結時間は、例えば、0.2時間から3時間程度である。
【0029】
得られた焼結体は、必要に応じてバリ取り、あるいは加工や研磨が施されて、フェライト焼結磁石が完成する(ステップS20)。なお、フェライト焼結磁石は、この後に着磁される。本実施形態では、射出成形によって焼結前の成形体を作製するので、原則として成形体を焼結するのみで、フェライト焼結磁石が完成する。これにより、焼結体の研磨や加工を省略できるので、生産性が向上する。また、射出成形によって焼結前の成形体を作製することにより、複雑な三次元形状のフェライト焼結磁石を製造する場合にも複雑な加工が不要になるので、生産性が極めて高くなる。
【0030】
上記説明においては、CIMを用いて成形体を作製したが、本実施形態に係るフェライト焼結磁石の製造方法で成形体を作製する手法はこれに限定されるものではない。例えば、次のような手順でフェライト焼結磁石を製造してもよい。まず、ステップS14の微粉砕において、粉砕用スラリーを湿式粉砕した後、得られた粉砕用スラリーを成形して成形体を作製する。得られた成形体を焼結して焼結体を得た後、当該焼結体の表面を研磨することによって、表面粗さが3.5μm以下のフェライト焼結磁石を製造する。
【0031】
フェライト焼結磁石を製造する際、工程の途中で助剤としてSi等が加えられることがあるが、これらの元素は、焼結するとほとんどがフェライト焼結磁石の結晶粒界に集まり、表面にはほとんど現れない。また、フェライト焼結磁石は、焼結後において通常熱処理は施されない。このため、フェライト焼結磁石においては、フェライト焼結磁石の表面にSi等を含んだガラス状態の異相を出現させて表面粗さRzを低減させることはできない。したがって、フェライト焼結磁石自身の表面粗さRzを低減させることが必要である。
【0032】
射出成形は、金型が有するキャビティのペレット接触面の表面粗さRzを調整することにより、表面粗さRzの小さい成形体を容易かつ大量に作製できる。このため、射出成形は、作製された成形体を焼結するのみで、得られたフェライト焼結磁石の表面を研磨することなしに表面粗さRzが小さいフェライト焼結磁石を容易かつ大量に製造することができる。
【0033】
[評価]
表面粗さの異なるフェライト焼結磁石を製造して、摩擦による発塵及び変色の度合いを評価した。フェライト焼結磁石は、射出成形によって製造された。以下における比較例は、従来例を意味するものではない。まず、フェライト焼結磁石の製造方法を説明する。出発原料として、Fe粉末と、SrCO粉末と、La(OH)粉末と、CaCO粉末と、Co粉末とを準備した。これらを所定量秤量し、添加物と共に、湿式アトライターで粉砕した後、乾燥させて整粒した。その後、空気中において、1230℃で3時間焼成して顆粒状の仮焼体を得た。
【0034】
得られた仮焼体を振動ミルにより乾式粗粉砕して、仮焼粉末を得た。次に、分散剤としてソルビトールを用い、仮焼粉末100質量部に対し、ソルビトールを0.5質量部、SiOを0.6質量部、CaCOを1.4質量部の割合で添加した後、水と共に混合して粉砕用スラリーを作製した。ボールミルを用いて、この粉砕用スラリーを湿式粉砕した。湿式粉砕の時間は40時間とした。湿式粉砕後の粉砕用スラリーを100℃で10時間乾燥させ、磁性粉末を得た。得られた磁性粉末の平均粒子径は0.3μmであった。
【0035】
得られた磁性粉末を、バインダ樹脂(ポリアセタール)と、ワックス類(パラフィンワックス)と、滑剤(脂肪酸エステル)と、可塑剤(フタル酸エステル)と共に、ニーダーで150℃、2時間の条件で混練して混練物を得た。このとき、磁性粉末100質量部に対して、バインダ樹脂を7.5質量部、ワックス類を7.5質量部、滑剤を0.5質量部配合した。また、バインダ樹脂100質量部に対して、可塑剤を1質量部配合した。得られた混練物をペレタイザで成形してバインダ樹脂中に磁性粉末が分散したペレット(磁性粉末混合物)を作製した。
【0036】
次に、得られたペレットを射出成形して成形体を作製した。成形体は、断面が円弧状(C型形状)のである。金型は、このような形状のキャビティを有するものを用いた。得られたペレットは、射出成形機の投入口から投入された後、160℃に加熱された押出機内に導入された。このペレットは、射出成形機の押出機の内部で加熱されて溶融し、スクリューによって、磁場が印加された金型のキャビティ内に射出された。これによってC型形状の成形体が得られた。
【0037】
この成形体は、大気中において、500℃で48時間保持する脱バインダ処理が施された。脱バインダ処理された成形体は、大気中において、1200℃で1時間焼成された。これによって、La0.4Ca0.2Sr0.4Co0.3Fe11.319の組成を有するフェライト焼結磁石が得られた。得られたフェライト焼結磁石を、粒度を変えた砥石で研磨することによって、表面粗さの異なるフェライト焼結磁石の試料を得た。#80/100の砥石で研磨すると、表面粗さRzが5.70μm〜6.50μmである試料を得られた。#100/120の砥石で研磨すると、表面粗さRzが4.50μm〜5.70μmである試料を得られた。#140/170の砥石で研磨すると、表面粗さRzが2.50μm〜3.50μmである試料を得られた。また、キャビティが有するペレット接触面の表面粗さRzが調整された金型を使用して射出成型を行うことによっても、表面粗さの異なるフェライト焼結磁石の試料を得ることができた。表面粗さRzが2.00μm未満である試料は、表面粗さRzが調整された金型を使用した射出成型により得られたものである。得られた試料の表面粗さは以下のようにして測定された。
【0038】
表面粗さRzは、表面の凸凹の大きさを測定する触針式表面粗さ計を用いて測定された。その際の基準長さを0.7mm、カットオフ値を0.8mm、触針の走査速度を0.3mm/sec.とした。
【0039】
[発塵性の度合いの評価法]
発塵性の度合いは、以下のように評価した。同粒度の砥石により同条件で研磨された試料の2片、又は未研削の試料の2片を100回擦り合わせた。その後、試料の表面に透明テープを貼付してはがし、白色の紙片上に再貼付した。目視によってテープに付着した塵の量を3段階に判別し、多量の塵が付着したテープが得られた試料の評価を、×(発塵低減効果なし)、塵の付着がわずかであるテープが得られた試料の評価を○(発塵低減効果あり)、塵の付着がほとんどないテープが得られた試料の評価を◎(著しい発塵低減効果あり)とした。
【0040】
発塵性の度合いについて補足すると、×は、だれが見ても明らかにマグネット表面に多量の微粉が付着していることが確認でき、手でマグネット表面を触ると多量の微粉が手に付着する程度である。○は、良く見るとマグネット表面に微粉がわずかに付着していることが確認でき、かつ手でマグネット表面を触るとわずかに微粉が手に付着する程度である。◎は、マグネットの表面に微粉が付着しておらず、手でマグネット表面を触っても微粉は手に付着しない程度である。
【0041】
[変色の度合いの評価法]
変色の度合いは、発塵性の度合いの評価において得られたテープの茶色の濃度を目視で判別することにより評価した。茶色のテープが得られた試料の評価を×(変色低減効果なし)、薄茶色のテープが得られた試料の評価を○(変色低減効果あり)、変色がほとんど確認できないテープが得られた試料の評価を◎(著しい変色低減効果あり)とした。
【0042】
[汚れの度合いの評価法]
試料を機器に組み付ける際の汚れの度合いは、以下のようにして評価した。図4は、フェライト焼結磁石による汚れの、低減効果の評価法について説明する図である。汚れ低減効果は、直流ブラシモータのモータケース101に試料100を挿入した後に生じた、モータケース101内面の塵の存在及び汚れを、目視により3段階に判別して評価した。試料100の外周面102がモータケース101の内側に接するようにして、モータケース101の開口部から試料100を挿入した。同粒度の砥石により同条件で研磨された試料又は未研削の試料100個を、同条件の試料と100回擦り合わせた後、同一寸法のモータケースにそれぞれ挿入し、評価を行った。モータケース内面に塵が付着し、汚れの発生が見られる試料の評価を×(汚れ低減効果なし)、モータケース内面に塵がわずかに付着し、汚れの発生がわずかである試料の評価を○(汚れ低減効果あり)、モータケース内面に塵が付着せず、ほとんど汚れを発生させない試料の評価を◎(著しい汚れ低減効果あり)とした。表1に発塵性の度合い、変色の度合い及び汚れの度合いの評価結果を示す。
【0043】
【表1】

【0044】
表1の評価結果から、表面粗さRzが3.5μm以下であるフェライト焼結磁石は、発塵性及び変色が低減され、機器に組み込む際の汚れを低減させることがわかる。さらに、表面粗さRzが2.0μm未満であるフェライト焼結磁石は、著しく発塵性及び変色が低減され、機器に組み込む際における機器の汚れを低減させることがわかる。また、表面粗さRzが3.5μm以下であるフェライト焼結磁石又は表面粗さRzが2.0μm未満であるフェライト磁石を組み込んだモータは、汚れが低減されていることがわかる。
【符号の説明】
【0045】
1 フェライト焼結磁石
2 射出成形機
3 磁場印加装置
4 投入口
5 スクリュー
6 押出機
6C 筐体
6H 射出口
7 ペレット
8 金型
9 キャビティ
100 試料
101 モータケース

【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面粗さRzが3.5μm以下であることを特徴とするフェライト焼結磁石。
【請求項2】
前記表面粗さRzは、2.0μm未満である請求項1に記載のフェライト焼結磁石。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載のフェライト焼結磁石を用いたモータ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−216674(P2012−216674A)
【公開日】平成24年11月8日(2012.11.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−80726(P2011−80726)
【出願日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【出願人】(000003067)TDK株式会社 (7,238)
【Fターム(参考)】