説明

フォトマスクブランク及びフォトマスク

【課題】フォトマスクブランク上に形成された遮光層に対して事後的に導電性を付与することで、パターン位置精度の向上が可能な遮光層を備えるフォトマスクブランクの提供を目的とする。
【解決手段】フォトマスクブランクの遮光膜中にイオン注入または熱拡散にて添加物をドープし、遮光膜に導電性を付与したことを特徴とするフォトマスクブランクであって、イオン注入によりドープされる添加物が、リン、ボロン、砒素、ゲルマニウムの中から選択されたいずれかで、熱拡散によりドープされる添加物が、リンまたはボロンの中から選択されたいずれかで、遮光膜が、酸化クロム、モリブデン、シリコン、モリブデンシリコン、ジルコニウム、タンタルの中から選択された少なくとも1種により組成されていることを特徴とするフォトマスクブランクである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体素子の製造に使用するフォトマスク及び該フォトマスクの製造に使用するフォトマスクブランクに係わり、特にはフォトマスクブランク上に形成された遮光層の導電率を事後的に向上させる技術に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体素子作製はシリコンウエハにレジストを塗布し、フォトマスクを介して露光して製造するが、フォトマスク上に遮光層として形成されるパターンの位置精度が半導体素子の品質、歩留まりに大きく影響を及ぼしている。
【0003】
また、近年微細化への対応策としてダブルパターニング技術が広く採用されており、フォトマスク上パターンの位置精度への要求がより厳しいものとなっている。
【0004】
フォトマスク上パターンの位置精度悪化の原因の一つとして、フォトマスク作製にて行われる電子線描画工程において、電子線レジストやフォトマスクブランク表面に電荷が帯電することで所定の位置にパターンが描かれないという問題があった。
【0005】
この問題にはフォトマスクブランク遮光膜表面の導電性が影響しており、電子線レジストの、チャージアップを防ぐために導電性の高い膜をブランク表面に用いることが有効とされている。例えば、特許文献1においては、ハロゲン化銀を含む樹脂膜がフォトマスクブランク上に形成されてパターニングがなされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平6−83025号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1において遮光膜として使用されている上記材料は、材料自体が最初から導電性を有する特殊なものであって、昨今の微細化と所望の導電率を得るという目的には適合しないという問題がある。
【0008】
そこで、本発明は、フォトマスクブランク上に形成された遮光層に対して事後的に導電性を付与することで、パターン位置精度の向上が可能な遮光層を備えるフォトマスクブランクの提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
請求項1記載の発明は、フォトマスクブランクの遮光膜中にイオン注入または熱拡散にて添加物をドープして、遮光膜に導電性を付与したことを特徴とするフォトマスクブランクとしたものである。
【0010】
請求項2記載の発明は、前記イオン注入によりドープされる添加物が、リン、ボロン、砒素、ゲルマニウムの中から選択されたいずれかであることを特徴とする請求項1に記載のフォトマスクブランクとしたものである。
【0011】
請求項3記載の発明は、前記熱拡散によりドープされる添加物が、リンまたはボロンの中から選択されたいずれかであることを特徴とする請求項1に記載のフォトマスクブラン
クとしたものである。
【0012】
請求項4記載の発明は、前記遮光膜が、酸化クロム、モリブデン、シリコン、モリブデンシリコン、ジルコニウム、タンタルの中から選択された少なくとも1種により組成されていることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか1項に記載のフォトマスクブランクとしたものである。
【0013】
請求項5記載の発明は、請求項1から請求項4のいずれか1項に記載のフォトマスクブランクを使用して製造したことを特徴とするフォトマスクとしたものである。
【発明の効果】
【0014】
本発明になる請求項1の発明は、フォトマスクブランク11を水平位置から7°〜8°傾けて、イオン注入によりイオン化させた添加物を遮光膜中にドープして、遮光膜中の正孔や電子の濃度を調整して導電性を向上するものである。遮光膜の導電性を増大させることで、電子線描画にて遮光層上のレジストパターンを露光する際に蓄積する過剰な電子を逃げやすくして、レジスト及び遮光膜表面に帯電されることを防ぐものである。
また、熱拡散炉を用いて添加物をドープすることでも、同様の効果が得られる。
【0015】
イオン化させた添加物に電圧を印加して加速させ、フォトマスクブランクに添加物のドープを行うが、加速電圧を調整することで遮光膜の所望の深さに添加物をドープし、電気炉にて加熱処理を行い、遮光膜の結晶性を回復させることで遮光膜の導電率の調整が可能となる。熱拡散においても熱処理温度および熱処理時間を調節することで、遮光膜内の深さ方向の拡散分布をある程度調整することでき遮光膜内の導電性を制御することができる。
【0016】
また、請求項2に記載の発明によれば、イオン注入の添加物としてリン、ボロン、砒素、ゲルマニウムのいずれかを4×1015cm−3以上ドープすることで遮光膜に十分な導電性を付与することができる。
【0017】
また、請求項3に記載の発明によれば、熱拡散させる添加物としてリンまたはボロンのいずれかを4×1015cm−3以上ドープすることで遮光膜に十分な導電性を持たせることができる。また、熱拡散に用いる添加物は気体または固体のどちらの形態でも可能であり、固体添加物を用いる場合は、添加物をフォトマスクブランク遮光膜に密接させて熱処理を行う必要がある。
【0018】
また、請求項4に記載の発明によれば、クロム、酸化クロム、モリブデン、シリコン、モリブデンシリコン、ジルコニウムおよびタンタルのうち、1つまたは複数を組み合わせた組成の遮光膜とすることで、微細パターンであって且つ位置精度のたかい遮光膜パターンを形成できる。
【0019】
また、請求項5に記載の発明によれば、フォトマスクブランクが上記に記載したように十分に制御された導電性を有する遮光膜を備えているので、該フォトマスクブランクに電子線レジストを塗布して所定の電子線リソグラフィー工程を適用しても、レジストや遮光膜が帯電しない結果、所定の位置にパターンが描かれ、位置精度の高い遮光層パターンを有するフォトマスクが得られる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の第1の実施形態を説明するための図。
【図2】本発明の第2の実施形態を説明するための図。
【図3】本発明の第3の実施形態を説明するための図。
【図4】本発明の第4の実施形態を説明するための図。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照して説明する。
【実施例1】
【0022】
図1は、第1の実施形態を説明するための断面視の図である。遮光膜が形成されたフォトマスクブランク11をイオン注入装置内に設置する。設置の際、チャネリング現象を抑制するため、フォトマスクブランクを水平位置から7°〜8°傾けて設置する。
【0023】
次に、イオン化させた添加物に電圧を印加して加速させ、フォトマスクブランクの遮光膜に照射して添加物のドープを行う。イオン注入処理後、電気炉にて加熱処理を行い、遮光膜の結晶性を回復させることで所定量の電荷を付加させ、導電性を付与する。これにより、電子線描画におけるフォトマスクブランク表面への電荷の帯電を防止することが可能となり、位置精度の劣化を防ぐことができる。
【0024】
(膜組成とドーピング条件他)
遮光膜組成 :モリブデンシリコン
遮光膜膜厚 :750Å
添加物 :リン
イオン注入ドーズ量 :5×1015cm−3
イオン注入加速電圧 :15keV
アニール温度 :800℃
アニール時間 :40分
レジスト :化学増幅型ポジ型レジスト
レジスト膜厚 :1500Å
【0025】
上記条件にて作製されたフォトマスクブランクにレジストを塗布し、電子線描画機にて描画を行い、ドライエッチングにてパターン形成・レジスト剥膜後、位置精度の測定を行った。レジストには、化学増幅型レジストとして一般的なものを使用した。従来のモリブデンシリコン膜を最表面に使用したフォトマスクの位置精度が最大位置ズレ量で9nmであったのに対して、上記条件にて作製したフォトマスクでは4nmと改善が見られた。
【実施例2】
【0026】
図2は、第2の実施形態を説明するための断面視の図である。遮光膜が形成されたフォトマスクブランク11をイオン注入装置内に水平位置から7°〜8°傾けて設置する。この後、イオン化させた添加物に電圧を印加して加速させ、フォトマスクブランクの遮光膜に添加物のドープを行うが、加速電圧を調整することで遮光膜の所望の深さにのみ添加物をドープし、電気炉にて加熱処理を行い、遮光膜の結晶性を回復させることで所定量の電荷を所望の深さに付加させた。これによって、遮光膜表面における導電率を所定の値に決定することができ、電子線描画における帯電の影響を防ぐことができる。また、加熱処理温度および処理時間を調節することで、遮光膜内の深さ方向14の拡散分布15を調整することができる。
【0027】
(膜組成とドーピング条件他)
遮光膜組成 :モリブデンシリコン
遮光膜膜厚 :750Å
添加物 :リン
イオン注入ドーズ量 :5×1015cm−3
イオン注入加速電圧 :5keV
アニール温度 :900℃
アニール時間 :10秒
但し、アニールはRTA(Rapid Thermal Anneal)を使用した。
【0028】
上記条件にて作製されたフォトマスクブランクの表面抵抗値を、4端子測定法にて測定を行ったところ、実施例1記載の処理を行ったモリブデンシリコン膜の表面抵抗値が350Ω/□であったのに対して、上記条件にて作製したフォトマスクでは表面抵抗値が220Ω/□と改善が見られた。
【実施例3】
【0029】
図3は、第3の実施形態を示す。遮光膜が形成されたフォトマスクブランク11を熱拡散炉16内に設置し、気体状の添加物17を充満させて加熱処理を施すことで、遮光膜表面18に添加物がドープされ電荷が付加される。これによって、遮光膜表面のシート抵抗値を任意の値に決めることができ、電子線描画における帯電の影響を防ぐことができる。また、温度を調節して遮光膜内の深さ方向の拡散分布を調整することで、所望の領域に電荷分布18を持たせることができ、フォトマスク表面の導電性を制御することができる。
【0030】
(膜組成と熱拡散条件他)
遮光膜組成 :モリブデンシリコン
遮光膜膜厚 :750Å
添加物 :リン
拡散温度 :850℃
拡散時間 :90分
【0031】
上記条件にて作製されたフォトマスクブランクの表面抵抗値を、4端子測定法にて測定を行ったところ、従来のモリブデンシリコン膜を最表面に使用したフォトマスクの表面抵抗値が50kΩ/□であったのに対して、上記条件にて作製したフォトマスクでは表面抵抗値が250Ω/□と改善が見られた。
【実施例4】
【0032】
図4は、第4の実施形態を示す。遮光膜が形成されたフォトマスクブランク11を熱拡散炉16内に設置し、固体状の添加物19を遮光膜と密接させて加熱処理を施すことで、遮光膜表面に添加物がドープされ電荷が付加される。これによって、遮光膜表面の導電率を所定の値に決めることができ、電子線描画における帯電の影響を防ぐことができる。
また、アニール温度を調節して遮光膜内の深さ方向の拡散分布を調整することで、所望の領域に電荷分布を持たせることができ、フォトマスク表面の導電性を制御することができる。
【0033】
以上、実施例により本発明に係るフォトマスクブランクとその製造方法及びこれを使用したフォトマスクについて説明したが、上記実施例は本発明を説明するための例にすぎず、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。これらの実施例を種々変形することは本発明の範囲内であり、本発明の範囲内において他の様々な態様が可能であることは上記記載から明らかである。
【符号の説明】
【0034】
11…フォトマスクブランク
12…フォトマスクブランクの水平位置からの傾き
13…イオン化された添加物のドープ
14…遮光膜の深さ方向
15…遮光膜内における添加物の拡散分布
16…熱拡散炉
17…ガス状添加物
18…遮光膜内における所望領域の電荷分布
19…固形添加物

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フォトマスクブランクの遮光膜中にイオン注入または熱拡散にて添加物をドープして、遮光膜に導電性を付与したことを特徴とするフォトマスクブランク。
【請求項2】
前記イオン注入によりドープされる添加物が、リン、ボロン、砒素、ゲルマニウムの中から選択されたいずれかであることを特徴とする請求項1に記載のフォトマスクブランク。
【請求項3】
前記熱拡散によりドープされる添加物が、リンまたはボロンの中から選択されたいずれかであることを特徴とする請求項1に記載のフォトマスクブランク。
【請求項4】
前記遮光膜が、酸化クロム、モリブデン、シリコン、モリブデンシリコン、ジルコニウム、タンタルの中から選択された少なくとも1種により組成されていることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか1項に記載のフォトマスクブランク。
【請求項5】
請求項1から請求項4のいずれか1項に記載のフォトマスクブランクを使用して製造したことを特徴とするフォトマスク。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−63585(P2012−63585A)
【公開日】平成24年3月29日(2012.3.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−207843(P2010−207843)
【出願日】平成22年9月16日(2010.9.16)
【出願人】(000003193)凸版印刷株式会社 (10,630)
【Fターム(参考)】