説明

フォトマスク用合成石英ガラス基板又はフォトマスクブランクの保管方法、運搬方法及び保管ケース

【課題】保管ケースからのアウトガス成分のフォトマスク用合成石英ガラス基板及びフォトマスクブランクへの吸着を防ぎ、同時に、基板等表面への微小異物の固着を抑える。
【解決手段】
フォトマスク用合成石英ガラス基板又はフォトマスクブランクの保管方法であって、保管ケースを用意することと、セルロース系不織布に包装された吸着剤を前記保管ケースの内部に設置することと、前記フォトマスク用合成石英ガラス基板又はフォトマスクブランクを、前記保管ケース内に収納することを含むフォトマスク用合成石英ガラス基板又はフォトマスクブランクの保管方法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フォトマスク用合成石英ガラス基板又はフォトマスクブランクの保管方法、運搬方法及び保管ケースに関する。
【背景技術】
【0002】
半導体デバイスの高集積化が進むにつれ、フォトリソグラフィ工程での微細化に対する要求が高まってきている。フォトリソグラフィに用いるフォトマスクは、合成石英ガラス基板にクロム等からなる遮光性薄膜を成膜し、更にレジストを塗布した後、電子ビーム等での描画、現像、エッチング等の工程を経て製造される。描画前の合成石英ガラス基板に遮光膜が形成された状態のものをフォトマスクブランクという。
【0003】
半導体デバイスにおける配線パターンの微細化に伴い、合成石英ガラス基板への遮光膜の成膜及びフォトマスクブランクへのレジスト塗布において、成膜ムラや塗布ムラを起こさない技術が求められている。このような要求から、合成石英ガラス基板及びフォトマスクブランク(以下、必要に応じて「基板等」と記す)についても、極めて高い清浄度が要求される。このため、基板等の保管は、基板等に異物等が付着するのを抑制し、出来るだけ高い清浄度に維持する必要がある。
【0004】
ところで、基板等の保管ケースは、例えばポリアクリロニトリル等の樹脂板をアセトニトリル等の有機溶剤で溶かして接合することにより、すなわち、溶着により形成される。そして、保管ケースの樹脂材料由来のアウトガスの化学成分が、その中に保管される基板等の表面に吸着することが問題となる。溶着した樹脂板の接合部からのアウトガスは特に多い。
【0005】
化学成分の基板への吸着を防ぐ提案として、特許文献1〜3は活性炭を含むフィルターを装着したケースやそのフィルター機構について開示している。これらによれば、ケース内外の気圧差を解消することにより輸送時に生じる気圧差による外部環境からの汚染を防ぐことができる。一方、特許文献4では、有機物を除去するために保管ケース内に活性炭を配置している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2004−153221号公報
【特許文献2】特開2004−179449号公報
【特許文献3】特開2004−193272号公報
【特許文献4】特開2009−55005号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1〜3に開示される技術では、保管ケースの材質に起因するアウトガス対策としては不十分である。また、特許文献4では、活性炭の包材に合成樹脂系不織布を使用している。合成樹脂系不織布のガスの透過能力は低いため、特許文献4に開示される技術では化学成分を十分に吸着できない。また活性炭の包材である合成樹脂系不織布からは、微小な塵が発生する。保管中の基板等の表面に微小異物が付着して固着すると、洗浄によって除去できなくなる。
【0008】
そこで、本発明は上記課題を解決するためになされたもので、フォトマスク用合成石英ガラス基板及びフォトマスクブランクの保管方法において、保管ケースからのアウトガス成分の基板等への吸着を防ぎ、同時に、基板等の表面への微小異物の固着を抑制することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の第1の態様によれば、フォトマスク用合成石英ガラス基板又はフォトマスクブランクの保管方法であって、保管ケースを用意することと、セルロース系不織布に包装された吸着剤を前記保管ケースの内部に設置することと、前記フォトマスク用合成石英ガラス基板又はフォトマスクブランクを、前記保管ケース内に収納することを含むフォトマスク用合成石英ガラス基板又はフォトマスクブランクの保管方法を提供する。
【0010】
本発明の第2の態様によれば、第1の態様のフォトマスク用合成石英ガラス基板又はフォトマスクブランクの保管方法により、前記フォトマスク用合成石英ガラス基板又はフォトマスクブランクを保管した状態で運搬するフォトマスク用合成石英ガラス基板又はフォトマスクブランクの運搬方法を提供する。
【0011】
本発明の第3の態様によれば、フォトマスク用合成石英ガラス基板又はフォトマスクブランクの保管ケースであって、前記保管ケースの内部に、セルロース系不織布により包装された吸着剤が設置されているフォトマスク用合成石英ガラス基板又はフォトマスクブランクの保管ケースが提供される。
【発明の効果】
【0012】
本発明の態様のフォトマスク用合成石英ガラス基板又はフォトマスクブランクの保管方法では、通気性が高いセルロース系不織布で吸着剤を包装するので、吸収剤のガス吸収能力が十分に発揮できる。これにより、効率よく保管ケース内のアウトガスは吸収され、アウトガス成分の基板等の吸着を抑制できる。この結果、保管される基板等への遮光膜の成膜ムラ及びフレジスト塗布ムラを防止できる。また、セルロース系不織布は、それ由来の塵が基板等の表面に付着しにくく、且つ付着しても洗浄で容易に除去できる。したがって、基板等表面への微小異物の固着も抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】第1の実施形態のフォトマスク用合成石英ガラス基板の保管方法を説明するフローチャートである。
【図2】第1の実施形態で用いたフォトマスク用合成石英ガラス基板の保管ケースの概略図である。
【図3】(a)及び(b)は、第1の実施形態で用いたフォトマスク用合成石英ガラス基板の保管ケースの断面図である。(c)は、保管ケースを構成するケース本体の上面図である。
【図4】第1の実施形態で用いたフォトマスク用合成石英ガラス基板及びその保管ケースの斜視図である。
【図5】第1の実施形態で用いた包装体の概略図である。
【図6】第1の実施形態で用いた包装体を圧搾により製造する様子の概略図である。
【図7】実施例1で用いたフォトマスク用合成石英ガラス基板の接触角の測定位置を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
[第1の実施形態]
本発明の第1の実施形態として、図1に従ってフォトマスク用合成石英ガラス基板の保管方法を説明する。フォトマスク用合成石英ガラス基板とは、フォトリソグラフィの原盤となるフォトマスクを形成するための基板である。そして、フォトマスク用合成石英ガラス基板上にクロム等からなる遮光膜が形成されたものが、フォトマスクブランクである。本実施形態においては、フォトマスク用合成石英ガラス基板の保管方法について説明するが、同様の方法でフォトマスクブランクの保管も可能である。また、石英ガラス基板は酸化チタン等の添加物を加えたものを用いることもできるが、特に限定されない。
【0015】
まず、フォトマスク用合成石英ガラス基板10(以下、必要に応じて「基板10」と記す)を保管する保管ケース1を用意する(ステップ1)。図2から図4に示すように、本実施形態の保管ケース1は、例えば、上面が開口した直方体の箱型形状を有し、矩形板状の基板10を内部に収納する箱型のケース本体2と、ケース本体2の開口を覆ってケース本体2に着脱可能に装着される蓋3とから主に構成される。ケース本体2は、矩形の底板21と、底板21の長辺と連結し且つ互いに対向する一対の第1側壁22と、底板21の短辺と連結し且つ互いに対向する一対の第2側壁23からなる。第2側壁23は、互いに対向する一対の第1側壁22同士を連結する。保管ケース1は、基板10を略垂直に立てて保管する縦型保管ケースである。底板21、第1側壁22及び第2側壁23について、保管ケース1の内側を形成する面をそれぞれの「内面」とし、保管ケース1の外側を形成する面をそれぞれの「外面」とする。基板10の保管時において、第1側壁22の内面は基板10の表面と対向する。一方、第2側壁23の内面は基板10の端面と対向し、後述する支持部材27を介して基板10を保持する。
【0016】
第1及び第2側壁22及び23の外面には、鍔24が突出して設けられる。鍔24は、第1及び第2側壁22及び23の4つの外面に亘ってケース本体2の外側を一周するように連結して設けられる。鍔24より上面側(開口側)に位置するケース本体2の部分を嵌合部25とする。
【0017】
蓋3は、下面が開口した直方体の箱体であり、上板31と、上板31に連結し且つ互いに対向する2対の蓋側壁32及び33からなる。上板31及び蓋側壁32、33について、保管ケース1の内側を形成する面をそれぞれの「内面」とし、保管ケース1の外側を形成する面をそれぞれの「外面」とする。蓋側壁32及び33の外面の下側端部(開口側の端部)は、外側に突出して鍔34を形成する。鍔34は、蓋側壁32及び33の4つの外面に亘って蓋3の外側を一周するように連結して設けられる。
【0018】
図3に示すように、蓋3は、その下面の開口にケース本体2の嵌合部25を嵌合させてケース本体2へ装着される。このとき、ケース本体2と蓋3の互いの鍔24及び34は接触する。保管ケース1の密閉性を高めるため、ケース本体2は鍔24の内方縁に沿って環状の弾性部材26を有している。
【0019】
更に、第2側壁23及び底板21の内面には、基板10の収納時に基板10を支持する支持部材27が設けられる。支持部材27は、中央に凹部を有する棒状の部材で、中央の凹部は支持部材27の長手方向に沿って延在する。つまり、支持部材27の長手方向と垂直な断面は凹形であり、この凹部に基板10の端部を挟持して基板10を支持する。また、蓋3の上板31の内面には、チューブ37が設けられる。蓋3をケース本体2に装着したとき、チューブ37は基板10の上部端面(蓋側の端面)に接触する。基板10は、蓋側のチューブ37とケース本体側の支持部材27によって支持される。
【0020】
ケース本体2、蓋3、支持部材27及びチューブ37を構成する材料としては、例えばポリエチレン(PE)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリプロピレン(PP)、ポリアクリロニトリル(PAN)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリウレタン(PU)、ポリスチレン(PS)、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリメタアクリロニトリル(PMAN)、ポリアクリル酸メチル(PMA)、ポリエチルメタクリレート(PEMA)等の樹脂、あるいはこれらの共重合体からなる合成樹脂から適宜選ばれる。このうち、ケース本体2及び蓋3の材質としては、ポリカーボネート(PC)又はポリアクリロニトリル(PAN)が、加工が容易で製造コストが低いため好ましく、支持部材27及びチューブ37の材質としては、高密度ポリエチレン(HDPE)又はポリテトラフルオロエチレン(PTFE)が化学成分ガスの放出が少ないため好ましい。また、弾性部材26としては、例えば、ポリオレフィンエラストマー、ポリエステルエラストマーを用いることができる。
【0021】
保管ケース1は、溶剤や接着剤等を用いて樹脂板を接合させて形成できる。例えば、ポリアクリロニトリル等の樹脂板をアセトニトリル等の有機溶剤で溶着して形成する。
【0022】
次に、用意した保管ケース1の内部に、セルロース系不織布に包装された吸着剤を設置する(ステップ2)。図5に示すように、本実施形態では、扁平な袋状に加工したセルロース系不織布41の内部に吸着剤42が包装される包装体4を作製し、図2および図3に示すように、5個の包装体4を第1側壁22の内面に粘着剤を用いて接着した。
【0023】
セルロース系不織布とは、植物のセルロース由来の繊維を織らずに絡み合わせたシート状のものをいう。植物のセルロース由来の繊維とは、例えば、木綿、麻、ジュート、紙等の天然植物繊維、レーヨン、キュプラ等の再生セルロース繊維である。特に、繊維密度0.002〜0.004g/cmの再生セルロースが、吸着能力の点で好ましい。
【0024】
セルロース系不織布は、従来から吸着剤の包装材として用いられていたポリエステル等の合成樹脂と比較して通気性が高く、セルロース系不織布に包装された吸着剤は、ガス吸収能力を十分に発揮できる。上述のように、合成石英ガラス基板の保管ケースは合成樹脂から形成されており、これに含まれる可塑剤、溶着に用いた溶剤または接着剤成分が、アウトガス成分として保管ケース内に発生する。合成石英ガラス基板の表面が、アウトガス成分の吸着により汚染されると表面に遮光膜を均一に成膜することができない。同様に、フォトマスクブランクの表面がアウトガス成分で汚染されると、レジスト膜を均一に塗布できない。合成石英ガラス基板等の表面に吸着したアウトガス成分は、洗浄によっては取り除くことが出来ないため、表面への吸着を抑制する必要がある。本実施形態では、セルロース系不織布に包含された吸着剤を保管ケース内に設置することにより、保管ケース内のアウトガス濃度が低下するので、アウトガス成分の基板等への吸着を抑制することができる。この結果、保管される基板等への遮光膜の成膜ムラ及びフレジスト塗布ムラを防止できる。
【0025】
更に、セルロース系不織布は、それ由来の塵が基板表面に付着しにくい。セルロース系不織布から発生する塵は、セルロール系不織布を形成するセルロース繊維であり、合成樹脂系不織布の繊維と比較して繊維長が長い。そのため、セルロース系不織布由来の塵は大きく、表面積が小さいので基板に対する吸着力が低い。更に、セルロース系不織布由来の塵は基板表面に付着しても、吸着力が弱いので洗浄で容易に除去でき、固着しにくい。したがって、セルロース系不織布に包含された吸着剤を用いて基板等を保管すると、基板等表面への微小異物の固着も抑えることができる。このように、基板等表面への微小異物の固着を抑制する観点からは、セルロース系不織布の繊維長の長さは、500μm〜5000μmが好ましい。
【0026】
セルロース系不織布による吸収剤の包装の形態は、種々の形態を用いることが可能であるが、セルロース系不織布を袋状に加工し、その中に吸着剤を保持してもよい。加工性の点からは、セルロース系不織布を扁平な袋状に加工することが好ましい。「扁平な袋」とは襠を有さない袋を意味する。本実施形態では、図5及び図6に示すように、セルロース系不織布41で吸着剤42を挟み、吸着剤の周囲をバーコード状に圧搾することで封止し、包装体4を作製する。圧搾機の圧搾部5の材質としては、例えばステンレス鋼、鋳鉄、などの金属材料が好ましく、形状としては、山型の形状、凹凸形状とすることができる。セルロース系不織布は熱に強いため、従来の合成樹脂系不織布のように熱溶着で袋状に加工できないが、圧搾することで扁平な袋に加工することができる。
【0027】
吸着剤42としては、例えば、粉末活性炭、粒状活性炭、球状活性炭、繊維状活性炭等の様々な形態の活性炭、シリカゲル、塩化カルシウム、ゼオライトを用いることができるが、吸着能力及びコストの観点から、繊維状活性炭が好ましい。
【0028】
包装体4は、取り扱い性の観点から、40×40〜150×150mmの大きさであって、吸収剤が5〜50g程度収納したものが好ましいが、必要に応じて包装体の大きさや吸収剤の量は適宜選択できる。
【0029】
包装体4は、保管ケース1に保管される基板10に接触しない位置に設置する。包装体4が基板10に接触することで、基板10が汚染されることを防止するためである。また、基板10は、保管ケース1に保管された状態で運搬される場合がある。したがって、包装体4は、保管ケース1に運搬による振動が伝わっても設置位置が変わらないよう、保管ケース1の内部に固定されることが好ましい。本実施形態では、図2及び図3に示すように、第1側壁22の内面に包装体4を粘着剤により固定する。基板10を保管ケース1に収納したとき、包装体4は、基板10の表面と対向して位置し、接触することはない。また、保管ケース1の内部に固定されているので、保管ケース1に振動が与えられても基板10に接触することはない。
【0030】
尚、本実施形態では、5個の包装体4を用いているが、設置数は保管ケース1の容積と吸収剤5のガス吸着能力の関係により適宜選定される。設置場所も、本実施形態では、一対の第1側壁22の一方にのみ設置したが、対向する他方の内面に設置してもよい。また、本実施例では、包装体4を保管ケース1の内面に粘着剤で固定したが、包装体4の保管ケース1への設置方法は、これに限定されるものではない。例えば、保管ケース1の内部に予め、包装体4を固定できる設置場所を作製しておき、その設置場所に包装体を固定する方法等が考えられる。
【0031】
次に、基板10を保管ケース1内部に収納する(ステップ3)。まず、一般的な治具を用いて、基板10を本体ケース2の中に収納する。このとき、ケース本体2の第2側壁23に設けられた支持部材27が、基板10をケース本体2の奥へ導くガイドとして働く。この観点からは、基板1が支持部材27の上を容易に摺動するように、支持部材27はPTFEで形成されていることが好ましい。基板10を本体ケース2の中に収納する際には、基板10の表面の汚染を防ぐため、基板10が保管ケース1内に設置した包装体4に接触しないようにする。そして、基板10を本体ケース2の中に収納した後、本体ケース2に蓋3を装着する。蓋体3のチューブ37は基板10の上部端面(蓋体側の端面)に接触し、基板10は蓋体側のチューブ37とケース本体側の支持部材27によって支持される。更に、保管ケース1の周囲1周に亘って、本体ケース2及び蓋3の鍔24、34の接触部分(合わせ目)に粘着テープを巻く。これにより、本体ケース2と蓋3の嵌合を強固にし、保管ケース1の密閉性を高めることができる。
【0032】
基板10は、短辺300mm以上、長辺400mm以上の矩形板状体の基板を用いることができる。例えば基板サイズが短辺(mm)×長辺(mm)で、330×450、370×450、420×520、420×530、430×530、440×520、500×750、520×610、520×800、620×720、650×750、650×800、700×800、800×920、700×1,100、800×960、830×960、850×1,000、830×1,196、850×1,200、830×1,396、810×1,380、850×1,400、1,220×1,400、1,620×1,780等のフォトマスク用合成石英ガラス基板である。
【0033】
[第2の実施形態]
本発明の第2の実施形態は、第1の実施形態の保管方法により保管しているフォトマスク用合成石英ガラス基板を運搬するフォトマスク用合成石英ガラス基板の運搬方法である。本実施形態では、保管ケースからのアウトガス成分の基板への吸着を防ぎ、清浄な状態で基板を運搬できる。この結果、運搬される基板への遮光膜の成膜ムラを防止できる。
【0034】
また、運搬時は、運搬による振動が保管ケースに伝わるため、静置している場合と比較して、セルロース系不織布から発生する塵が増加すると予想される。しかし、セルロース系不織布から発生する塵はサイズが大きく、基板に付着しにくく、且つ洗浄で容易に除去できる。したがって、本実施形態の運搬方法は、基板表面への微小異物の固着も防止できる。
【0035】
[第3の実施形態]
本発明の第3の実施形態は、図2及び図3に示すように、保管ケースの内部にセルロース系不織布により包まれた吸着剤が設置されているフォトマスク用合成石英ガラス基板の保管ケースである。本実施形態の保管ケースは、第1の実施形態の保管方法に用いる保管ケースである。通気性の高いセルロース系不織布により包装された吸着剤が効率よくアウトガスを吸収するので、アウトガス成分吸着に基づく基板の汚染を抑制できる。また、セルロース系不織布から発生する塵は大きいため、基板表面に付着しにくく且つ洗浄で容易に除去できる。したがって、本実施形態の保管ケースは、そこに保管される基板表面への微小異物の固着も防止する。
【0036】
尚、第1から第3の実施形態において、合成石英ガラス基板の保管方法、運搬方法及び保管ケースについて説明したが、フォトマスクブランクについても、同様の方法で保管及び運搬が可能であり、同様の効果を奏する。また、第1から第3の実施形態において、基板を地面に対して略垂直な状態で立たせて保管する縦型保管ケースについて説明したが、保管ケースは、保管ケース内で基板を地面に対して略水平な状態に寝かせて保管する横型保管ケースであってもよい。更に、第1から第3の実施形態において、1枚の基板を保管する保管ケースについて説明したが、保管ケースは、2枚又はそれ以上の複数枚の基板を保管する保管ケースでもよい。
【実施例】
【0037】
以下、実施例及び比較例により本発明を具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に制限されるものではない。
[実施例1]
図2に示す保管ケース1に合成石英ガラス基板10を一定期間保管し、保管の前後における基板10表面の接触角を測定した。
【0038】
まず、保管ケース1として、850mm×1200mm×10mmの矩形板状の合成石英ガラス基板10、1枚を地面に対して略垂直な状態で立たせて保管する縦型保管ケースを用意した。基板1を収納する保管ケース1の内部空間の大きさは、約850mm×約1200mm×約130mmである。ケース本体2及び蓋3の材質はポリアクリロニトリル(PAN)、支持部材27及びチューブ37の材質はポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、弾性部材26の材質はポリオレフィンエラストマーであった。
【0039】
次に、吸着剤をセルロース系不織布で包装した包装体4を第1側壁22の内面上に設置した。第1側壁22の内面は、互いに対向して2面存在するが、本実施例においては、1面にのみ包装体4を設置した。包装体4は、図5に示すように、繊維状の活性炭(吸着剤)42をセルロース系不織布41で包み、不織布41の端をバーコード型の凹凸で圧搾することで封止した。活性炭42として東洋紡製、Kフィルター(活性炭7.5g/個)を、不織布41として旭化成せんい株式会社製、ベンコットM−3IIを用いた。包装体4の設置位置は、第1側壁22の内面の4つのコーナーから縦横50mmずつ内側に入った位置と、ほぼ中心位置の5箇所である。
【0040】
保管ケース1に保管する合成石英ガラス基板10を用意し、洗浄後、接触角測定器を用いて純水での接触角を測定した。図7に示すように、合成石英ガラス基板表面の4つのコーナーから縦横50mmずつ内側に入った位置(測定位置11〜14)と基板表面のほぼ中心位置(測定位置15)の5点の接触角を測定した。結果を表1に示す。
【0041】
次に、上述の包装体4を設置した保管ケース1に基板10を収納した。保管ケース1内において、基板10はその端面を第2側壁23に設けられた支持部材27によって支持され、基板10表面の測定位置11〜15は第1側壁22に設けられた包装体4と対向する。基板10の表面と対向する保管ケース1の内面(第1側壁22の内面)との間の距離は60mmであった。
【0042】
基板10をケース本体2に収納後、ケース本体2に蓋3を装着し、更にケース本体2と蓋3の合わせ目にテープを巻いて密閉し、保管ケース1全体を包装袋で梱包した状態で、基板10を22日間保管した。これらの収納作業及び保管は、ULPAフィルターで清浄化されたクリーンルーム内で行った。
【0043】
22日間の保管後、保管ケース1をクリーンルーム内で開封して基板10を保管ケース1から取り出した。取り出した基板10表面の測定位置11〜15の接触角を先に説明した方法と同様の方法で測定した。結果を表1に示す。
【0044】
[比較例1]
包装体4を設置していない保管ケースを用いた以外は、実施例1と同様の方法で合成石英ガラス基板を22日間保管した。保管の前後において、基板表面の測定位置11〜15の5点の接触角を測定した。結果を表1に示す。
【0045】
[比較例2]
包装体4の代わりに、活性炭をポリエステル系不織布で包装した包装体を配置した保管ケースを用いた以外は、実施例1と同様の方法で合成石英ガラス基板を22日間保管した。保管の前後において、基板表面の測定位置11〜15の5点の接触角を測定した。結果を表1に示す。
【0046】
表1に示すように、実施例1、比較例1及び比較例2の保管前の基板表面の接触角は、それぞれ、4.5°、4.2°及び4.3°で、ほぼ同様であった。保管の後の接触角は、実施例1が11.8°であるのに対して、比較例1及び比較例2では、それぞれ、28.1°及び23.5°と大きく増加した。つまり、実施例1と比較して、比較例1及び比較例2では、保管によって保管前より基板表面の撥水性が高くなった。
【0047】
基板の撥水性の向上は、基板表面に何らかの化学成分等が吸着したことを意味し、基板表面は保管ケース由来のアウトガスの吸着によって汚染されたと推測される。何ら吸着剤が配置されていない保管ケースを用いた比較例1と比較して、実施例1の保管後の基板表面の接触角が低く抑えられていることから、セルロース系不織布に包装された吸着剤が、保管ケースから発生するアウトガスを吸着除去し基板の汚染を抑制したことがわかる。
【0048】
また、活性炭の包材としてポリエステル系不織布を用いた比較例2と比較しても、保管後の実施例1の接触角は低く抑えられている。これから、活性炭の包材としてポリエステル系不織布よりも、セルロース系不織布の方が優れており、基板の汚染抑制に有効であることがわかる。
【0049】
【表1】

【0050】
[実施例2]
実施例1と同様の方法で合成石英ガラス基板を22日間保管し、引き続き合成石英ガラス基板を保管した状態で、外気温度約0℃での夜間輸送(4tトラックで一般道を12時間走行)を行った。輸送後、合成石英ガラス基板を保管ケースから取り出し、その表面を目視で観察した。その結果、基板表面には数個の付着物が確認できた。その後、基板を洗浄すると付着物は減少、または移動していることが分かった。
【0051】
[比較例3]
比較例2と同様の方法で合成石英ガラス基板を22日間保管し、引き続き合成石英ガラス基板を保管した状態で、外気温度約0℃での夜間輸送(4tトラックで一般道を12時間走行)を行った。輸送後、合成石英ガラス基板を保管ケースから取り出し、その表面を目視で観察した。その結果、基板表面には数百個の付着物が観察された。その後、基板を洗浄したが付着物は、ほとんど減少することはなかった。
【0052】
実施例2は、比較例3と比較して、基板上の付着物が少なく、かつ、付着物の洗浄除去が容易であることがわかった。実施例2及び比較例3で観察された基板表面の付着物は、それぞれ、セルロース系不織布由来の塵及びポリエステル系不織布由来の塵であると推測される。ポリエステル系不織布由来の塵と比較して、セルロース系不織布由来の塵は、サイズが大きいので、基板に対して吸着しにくい。このため、実施例2では基板表面に付着物が少なかったと考えられる。また、セルロース系不織布由来の塵は、静電気による付着がしづらいため、実施例2の基板上の付着物が少なく、また付着物は洗浄によって除去が容易であったと考えられる。
【0053】
[参考例]
セルロース系不織布及び合成樹脂系不織布、それぞれから発生する塵の観察を行った。セルロース系不織布として、実施例1及び2に用いたものと同様の旭化成せんい株式会社製、ベンコットM−3II(試料A)、合成樹脂系不織布として、ポリエチレンテレフタラート(PET)(試料B)及びポリプロピレン(PP)(試料C)を用いた。
【0054】
試料A〜Cを叩いて、それらに振動を与えて塵を発生させた。そして、それぞれから発生した塵を光学顕微鏡で観察した。試料A〜Cから発生した塵は、全て繊維状の形状であり、その繊維長は、試料A:1450〜1900μm、試料B:130〜430μm及び試料C:100〜280μmであった。
【0055】
以上の結果から、試料A〜Cから発生する塵は、それぞれの不織布を構成する繊維であることがわかる。また、セルロース系不織布(試料A)の繊維長は、合成樹脂系不織布(試料B及びC)の繊維長より長いことがわかる。したがって、セルロース系不織布(試料A)から発生する塵は、合成樹脂系不織布(試料B及びC)から発生する塵と比較して、基板表面に付着しにくく、付着したとしても、洗浄で容易に除去でき、固着しにくいと考えられる。
【符号の説明】
【0056】
1 保管ケース
2 ケース本体
3 蓋
4 包装体
5 圧搾機の圧搾部
10 フォトマスク用合成石英ガラス基板
11、12、13、14、15 基板上の測定位置
21 底板
22 第1側壁
23 第2側壁
24 鍔
25 嵌合部
26 弾性部材
27 支持部材
31 上板
32、33 蓋側壁
34 鍔
37 チューブ
41 セルロース系不織布
42 吸着剤

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フォトマスク用合成石英ガラス基板又はフォトマスクブランクの保管方法であって、
保管ケースを用意することと、
セルロース系不織布に包装された吸着剤を前記保管ケースの内部に設置することと、
前記フォトマスク用合成石英ガラス基板又はフォトマスクブランクを、前記保管ケース内に収納することを含むフォトマスク用合成石英ガラス基板又はフォトマスクブランクの保管方法。

【請求項2】
前記セルロース系不織布は、袋状である請求項1に記載のフォトマスク用合成石英ガラス基板又はフォトマスクブランク保管方法。

【請求項3】
前記セルロース系不織布は、圧搾により扁平な袋状に加工される請求項2に記載の合成石英ガラス基板又はフォトマスクブランク保管方法。

【請求項4】
前記吸着剤が活性炭である請求項1から3のいずれか一項に記載のフォトマスク用合成石英ガラス基板又はフォトマスクブランクの保管方法。

【請求項5】
前記セルロース系不織布に含まれるセルロース繊維の繊維長が、500μm〜5000μmである請求項1から4のいずれか一項に記載のフォトマスク用合成石英ガラス基板又はフォトマスクブランクの保管方法。

【請求項6】
前記保管ケースは、合成樹脂を有機溶剤によって溶着して形成された保管ケースである請求項1から5のいずれか一項に記載のフォトマスク用合成石英ガラス基板又はフォトマスクブランクの保管方法。

【請求項7】
前記フォトマスク用合成石英ガラス基板又はフォトマスクブランクは、短辺300mm以上、長辺400mm以上の矩形板状体である請求項1〜6のいずれか一項に記載のフォトマスク用合成石英ガラス基板又はフォトマスクブランク保管方法。

【請求項8】
前記保管ケースは、
底板と、該底板と連結し互いに対向する1対の第1側壁と、該底板と連結し該第1側壁同士を連結する、互いに対向する1対の第2側壁からなり、該底板と対向する上面が開口した箱体であって、前記フォトマスク用合成石英ガラス基板又はフォトマスクブランクを収納するケース本体と、
前記開口を覆ってケース本体に着脱可能に装着される蓋を備える保管ケースであって、
前記セルロース系不織布により包装された吸着剤は、前記ケース本体内部における前記第1側壁の表面に設置され、
前記フォトマスク用合成石英ガラス基板又はフォトマスクブランクは、その端面を前記第2側壁によって支持されて、前記ケース本体内部に収納される請求項1〜7のいずれか一項に記載のフォトマスク用合成石英ガラス基板又はフォトマスクブランクの保管方法。

【請求項9】
請求項1〜8のいずれか一項に記載のフォトマスク用合成石英ガラス基板又はフォトマスクブランクの保管方法により、前記フォトマスク用合成石英ガラス基板又はフォトマスクブランクを保管した状態で運搬するフォトマスク用合成石英ガラス基板又はフォトマスクブランクの運搬方法。

【請求項10】
フォトマスク用合成石英ガラス基板又はフォトマスクブランクの保管ケースであって、
前記保管ケースの内部に、セルロース系不織布により包装された吸着剤が設置されているフォトマスク用合成石英ガラス基板又はフォトマスクブランクの保管ケース。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−234100(P2012−234100A)
【公開日】平成24年11月29日(2012.11.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−103870(P2011−103870)
【出願日】平成23年5月6日(2011.5.6)
【出願人】(000004112)株式会社ニコン (12,601)
【Fターム(参考)】