説明

フォロア軸受の潤滑装置

【課題】 板ばねSを潤滑部材Lに一体化した状態で組み付けられるようにする。
【解決手段】 潤滑部材Lは、外輪2に接触する一対の突部9,9と、この突部9,9を形成した側面とは反対側に一対の壁面13,13とを形成している。そして、板ばねSは、断面形状を山形にするとともに、その山形の裾の部分に上記潤滑部材Lの上記壁面13,13に接触する一対の突片14,14を形成し、この突片14,14が一対の壁面13,13を挟み込むようにしている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、フォロア軸受の外輪を潤滑する潤滑装置に関する。
【背景技術】
【0002】
この種のフォロア軸受の潤滑装置として、特許文献1に示されたものが従来から知られているが、この従来の装置を図6に示している。
図6に示した従来の潤滑装置Dは、ケーシングCと、このケーシングCに組み込む潤滑部材Lと、ケーシングCの側面をふさぐプレート部材Pを備えている。
そして、ケーシングCに上記潤滑部材Lを組み込んだ状態で、プレート部材PをケーシングCにねじ止めするもので、この図6に示した潤滑装置Dは、ケーシングCとプレート部材Pとを別部材で構成している。
【0003】
この図6に示した従来の潤滑装置Dは、ケーシングCとプレート部材Pとを別部材で構成している分、部品点数が多くなるとともに、その組み付け工数も多くなるので、その問題を解消するために、図3,4に示した潤滑装置が開発されたもので、この潤滑装置のケーシングCは、金属製のリングrと樹脂を金型で一体成形したものである。
なお、この潤滑装置Dを用いるフォロア軸受Bは、支持軸1の周囲に外輪2を回転自在に設けるとともに、支持軸1の一端にはねじ部1aを一体に設け、このねじ部1aを上記外輪2の外方に突出させている。
【0004】
上記フォロア軸受BはケーシングCに組み込まれるとともに、図5に示すように転動面となる支持対象Mを支持するものである。すなわち、固定部材Fに上記ねじ部1aを貫通させるとともに、その貫通部分にナットをねじ止めして固定する。このように固定部材Fに固定されたフォロア軸受Bは支持対象Mに接触し、固定部材Fと支持対象Mとが相対移動する時に回転して、軸受機能を発揮する。
【0005】
一方、上記外輪2を潤滑するための潤滑部材Lを保持するケーシングCには、軸孔4を形成するとともに、この軸孔4にフォロア軸受Bの支持軸1を貫通させた状態で、底面5が外輪2と対向する構成にしている。そして、この底面5の中央には、支持軸1の軸線に平行にした位置決め凹部6を形成しているが、この位置決め凹部6はその断面形状を山形にしている。
【0006】
さらに、上記ケーシングCであって、底面5の両側には側面7,7を形成し、この側面7,7のそれぞれには、掛け止め段部8,8を形成している。
上記のようにしたケーシングCには、潤滑剤を含浸させた多孔質構造の焼結樹脂部材からなる潤滑部材Lを組み込む。なお、この潤滑部材Lは、ポリエチレンやポリプロピレン等の熱可塑性樹脂材の粉末と、油あるいはグリースからなる潤滑剤とを混合して過熱固化したものを使用してもよい。
【0007】
そして、この潤滑部材LをケーシングCに組み込んだ状態において、外輪2と対向する側面に、所定の間隔を保持した一対の突部9,9を、支持軸1の軸線に平行に設けるとともに、これら突部9,9を外輪2と接触させるが、それらの接触面を円弧面にしている。このようにした突部9,9の円弧面を外輪2に接触させることにより、外輪2を潤滑するとともに、このときに外輪2に付着した潤滑剤で、上記支持対象Mの転動面も同時に潤滑できる。
【0008】
さらに、上記潤滑部材Lは、上記突部9,9を形成した側面とは反対側の面に、下方に向かって開口する凹部10,10を形成するとともに、この凹部10,10の外側には、上記掛け止め段部8,8に引っ掛かる掛け止め突部11,11を形成している。
上記のようにした潤滑部材Lは、上記底面5との間に板ばねSを介在させてケーシングCに組み込むが、この板ばねSは、その断面形状を山形にしてその頂部12が、上記位置決め凹部6に一致する構成にしている。
【0009】
そして、上記潤滑部材LをケーシングCに組み込むときには、ケーシングCを図4に示すように底面5を下にし、板ばねSを、その頂部12を位置決め凹部6に一致させた状態でセットする。板ばねSを組み込んだ状態に保って潤滑部材Lを、板ばねSのばね力に抗して、ケーシングC内に押し込むとともに、その掛け止め突部11,11をケーシングCの掛け止め段部8、8に掛けとめる。
さらに、潤滑部材Lを上記のようにして組み込んだケーシングCには、その軸孔4に支持軸1のねじ部1aを貫通させるとともに、このねじ部1aを、図5に示す固定部材Fに設けた孔に通し、ばね座金を入れてナットで固定する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特許第4278659号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
上記図3,4に示した従来のフォロア軸受では、板ばねSはその頂部12を位置決め凹部6に置くだけなので、潤滑部材Lを組み込むまでは、当該板ばねSが非常に不安定な状態に保たれる。そのために、潤滑部材Lを組み込んだときに、板ばねSの頂部12が位置決め凹部6から外れてしまうことがある。しかし、潤滑部材Lを一度組み込んでしまえば、板ばねSの組み付け状況を外から確認できないので、板ばねSがずれた状態で組み込まれると、そのまま出荷されてしまう。また、板ばねSがずれたまま強引に組み込むと、板ばねが変形することもあるが、板ばねSが変形していても、それに気づかずに出荷されることもある。
【0012】
もし、板ばねSがずれたり変形したりしたままであれば、外輪2に対して、潤滑部材Lに設けた突部9,9の圧接力のバランスがくずれてしまう。そのために外輪2に偏荷重が作用し、軸受機能が損なわれるといった問題があった。
【0013】
また、上記板ばねSは1枚ずつ位置決め凹部6に入れて組み込むが、ややもすると2枚重ねたまま組み込んでしまうことがある。板ばねSを2枚重ねたまま組み込んでしまえば、その分、ばね力が強くなりすぎるので、この場合にも、軸受としての機能を損なうという問題があった。しかも、2枚重ねにすれば、それだけ必要以上の板ばねSが使われるので、コスト的にも問題があった。
【0014】
なお、図6に示したケーシングCとプレート部材Pとを別部材にしているときには、上記のように板ばねSがずれたり変形していたりしても、プレート部材Pを取り付けるときに、確認することができる。しかし、ケーシングCを一体化した構造のもとでは、板ばねSのずれや変形は確認できない。
つまり、図3,4に示した潤滑装置の上記課題は、ケーシングCを一体構造にしたことにより新たに発生したものである。
【0015】
この発明の目的は、板ばねを、常時正規の状態にセットでき、しかも、不用意に2枚重ねをしないフォロア軸受の潤滑装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0016】
この発明は、支持軸に相対回転自在にした外輪と、支持軸を貫通させる軸孔を形成するとともにこの軸孔に支持軸を貫通させた外輪を覆うケーシングと、このケーシング内に組み込んだ潤滑剤を含浸させてなる樹脂製の潤滑部材と、上記ケーシングと潤滑部材との間に組み込まれ、潤滑部材を外輪に圧接させる板ばねとを備えたフォロア軸受の潤滑装置に関する。
【0017】
そして、第1の発明における上記潤滑部材は、上記外輪に接触する一対の突部と、この突部を形成した側面とは反対側に一対の壁面とを形成し、上記板ばねは、断面形状を山形にするとともに、その山形の裾の部分に上記潤滑部材の上記壁面に接触する一対の突片を形成し、この突片が一対の壁面を挟み込む構成にしている。
【0018】
第2の発明は、上記外輪と対向するケーシングの底面に、板ばねの頂部を保持する位置決め用凹部を形成している。
【発明の効果】
【0019】
第1の発明によれば、板ばねはその両側に形成した突片で、潤滑部材の壁面を挟み込む構成にしたので、板ばねを潤滑部材に組み付けて、それらを一体化した状態で、ケーシングに組み付けることができるので、従来のように板ばねがずれたり変形したりしなくなる。したがって、潤滑部材が外輪に対して偏荷重を作用させたりすることもなく、軸受としての機能が損なわれたりしない。
【0020】
また、板ばねを潤滑部材にあらかじめセットできるので、板ばねを2枚重ねにしたまま、セットしてしまうこともない。したがって、板ばねを2枚重ねしたままセットしたときのような問題も生じない。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】この発明の潤滑装置のケーシングの一部を切り欠いた斜視図である。
【図2】この発明のケーシングと、板ばねを組みつけた潤滑部材とを分離した状態の一部断面図である。
【図3】従来のフォロア軸受の潤滑装置のケーシングの一部を切り欠いた斜視図である。
【図4】従来の潤滑装置におけるケーシングと、板ばねを組み付けた潤滑部材の一部断面図である。
【図5】従来のフォロア軸受の取り付け状態を示す図である。
【図6】従来のフォロア軸受の潤滑装置を示す分解斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
図1,2に示した実施形態は、その板ばねSの構造が従来と異なるが、その他の構成は従来と同じである。そこで、以下には、従来と同一の構成要素に関しては、同一符号を付して説明する。
この実施形態に用いるフォロア軸受Bは、支持軸1の周囲に外輪2を回転自在に設けるとともに、支持軸1の一端にはねじ部1aを一体に設け、このねじ部1aを上記外輪2の外方に突出させている。なお、図中符号3はねじ部1aを回転させるための六角穴で、この六角穴3に図示していない六角レンチをはめ込んでねじ部1aを回転させるものである。
【0023】
一方、フォロア軸受Bを保持するとともに、上記外輪2を潤滑するための潤滑部材Lを保持する潤滑装置DのケーシングCは、軸孔4を形成するとともに、この軸孔4に外輪2のねじ部1aを貫通させた状態で、底面5が外輪2と対向する構成にしている。そして、この底面5の中央には、支持軸1の軸線に平行にした位置決め凹部6を形成しているが、この位置決め凹部6はその断面形状を山形にしている。
さらに、上記ケーシングCであって、上記位置決め凹部6と平行な側面7,7そのそれぞれには、掛け止め段部8,8を形成している。
【0024】
上記のようにしたケーシングCには、潤滑剤を含浸させた多孔質構造の焼結樹脂部材からなる潤滑部材Lを組み込む。この潤滑部材Lは、ポリエチレンやポリプロピレン等の熱可塑性樹脂材の粉末と、油あるいはグリースからなる潤滑剤とを混合して過熱固化したものである。また、この潤滑部材Lは、ポリエチレンやポリプロピレン等の熱可塑性樹脂材の粉末と、油あるいはグリースからなる潤滑剤とを混合して過熱固化したものを使用してもよい。
そして、この潤滑部材LをケーシングCに組み込んだ状態において、外輪2と対向する側面に、所定の間隔を保持した一対の突部9,9を、支持軸1の軸線に平行に設けるとともに、これら突部9,9は、外輪2との接触面を円弧面にしている。
【0025】
さらに、上記潤滑部材Lは、上記突部9,9を形成した側面とは反対側の面に、下方に向かって開口する凹部10,10を形成するとともに、この凹部10,10の外側には、上記掛け止め段部8,8に引っ掛かる掛け止め突部11,11を形成している。また、上記凹部10,10内の両側の壁面であって、内側に位置する平行な壁面13,13としている。
【0026】
上記のようにした潤滑部材Lは、上記底面5との間に板ばねSを介在させてケーシングCに組み込むが、この板ばねSは、その断面形状を山形にしてその頂部12が、上記位置決め凹部6に一致する構成にしている。
そして、この実施形態の最大の特徴は、山形にした板ばねSの裾の部分に、上記潤滑部材Lの上記壁面13,13に接触する一対の平行な突片14,14を形成し、この突片14,14が上記一対の壁面13,13を挟み込むようにしている。
【0027】
上記のようにした潤滑部材LをケーシングCに組み込むときには、先ず、板ばねSの一対の平行な突片14,14で、潤滑部材Lの両壁面13,13を挟み込み、図2に示すように、潤滑部材Lに板ばねSを組み付けてそれら両者を一体化する。なお、上記一対の突片14,14は、潤滑部材Lの両壁面13,13を挟み込む締め代分の力さえあれば、正確に平行を維持する必要はない。
【0028】
このように板ばねSと一体化した潤滑部材Lを、ケーシングCに押し込むようにして、潤滑部材Lの掛け止め突部11,11を、ケーシングCに形成した掛け止め段部8,8に引っ掛ける。
なお、上記掛け止め突部11,11は、底面5側の先端からテーパー状になっているが、上記凹部10があるために中央側に弾性変形して、ケーシングCの掛け止め段部8,8の狭い間に容易に押し込むことができる。
【0029】
なお、この実施形態では、掛け止め突部11,11が、掛け止め段部8,8にしっかりと引っ掛けられたとき、板ばねSの頂部12が位置決め凹部6に必然的に一致する構成にしている。
【0030】
したがって、この実施形態によれば、潤滑部材Lを組み付ける際には、潤滑部材Lと板ばねSとを一体化しているので、従来のように板ばねSをケーシングC内にあらかじめセットしておいてから潤滑部材Lを押し込むのとは異なり、潤滑部材Lの組み付け過程で、板ばねSの位置がずれたりしない。
また、板ばねSを潤滑部材Lにあらかじめ取り付けて一体化できるので、板ばねSを間違って2枚重ねにするようなこともなくなる。たとえ、2枚重ねにしたとしても、その一枚を簡単に取り外すことができる。
【符号の説明】
【0031】
2 外輪
C ケーシング
4 軸孔
5 底面
6 位置決め凹部
L 潤滑部材
9 突部
S 板ばね
12 頂部
13 壁面
14 突片

【特許請求の範囲】
【請求項1】
支持軸に相対回転自在にした外輪と、支持軸を貫通させる軸孔を形成するとともにこの軸孔に支持軸を貫通させた外輪を覆うケーシングと、このケーシング内に組み込んだ潤滑剤を含浸させてなる樹脂製の潤滑部材と、上記ケーシングと潤滑部材との間に組み込まれ、潤滑部材を外輪に圧接させる板ばねとを備えたフォロア軸受の潤滑装置において、上記潤滑部材は、上記外輪に接触する一対の突部と、この突部を形成した側面とは反対側に一対の壁面とを形成してなり、上記板ばねは、断面形状を山形にするとともに、その山形の裾の部分に上記潤滑部材の上記壁面に接触する一対の突片を形成し、この突片が一対の壁面を挟み込む構成にしたフォロア軸受の潤滑装置。
【請求項2】
上記外輪と対向するケーシングの底面に、板ばねの頂部を保持する位置決め凹部を形成した請求項1記載のフォロア軸受の潤滑装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−58600(P2011−58600A)
【公開日】平成23年3月24日(2011.3.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−211467(P2009−211467)
【出願日】平成21年9月14日(2009.9.14)
【出願人】(000229335)日本トムソン株式会社 (96)
【Fターム(参考)】