説明

フタロシアニン化合物及びそれを含有してなる光記録媒体

【構成】 下記一般式(1)


〔式(1)中、R1は、炭素数1〜10の直鎖または分岐のアルコキシ基を表し、R2及びR3は、各々独立に水素原子、炭素数1〜5の直鎖または分岐のアルキル基を表し、R4は、炭素数1〜5の直鎖または分岐のアルキル基を表し、Metは2個の水素原子、2価の金属原子、3価1置換金属原子、4価2置換金属原子、オキシ金属原子を表す。〕で示されるフタロシアニン化合物、及びそれを記録層中に含有してなる光記録媒体。
【効果】 アルコシ基及びアルケニル基の導入により、通常記録のみならず、高速記録及び高密度記録における感度及び記録特性に優れた光記録媒体の記録層形成化合物として著しい効果を示した。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、新規な光ディスク用記録材料、情報記録、表示センサー、保護眼鏡等のオプトエレクトロニクス関連に重要な役割を果たす近赤外線吸収剤として有用な化合物と、それを記録層に含有して形成される光ディスク及び光カード等の光記録媒体に関する。
【0002】
【従来の技術】光ディスク、光カ−ド装置等における書き込み及び読み取りのためにレーザー光が利用されている。特にこれらの装置で用いられる光記録媒体の記録方式は、実用レベルとしては通常、光・熱変換を経たヒートモード記録(熱記録)が採用されており、そのために記録層としては低融点金属、有機高分子、さらには融解、蒸発、分解、あるいは昇華等の物理変化または化学変化を起こす有機色素が種々提案されている。なかでも融解、分解等の温度が低い有機色素系は記録感度上好ましいことから、シアニン系色素、フタロシアニン系色素、ナフタロシアニン系色素、アゾ系色素などを中心に記録層として開発されてきている。
【0003】例えば、特開平2-147286号公報において、記録層にシアニン系色素を含む光記録媒体が提案されている。しかしながら、この媒体系は長期保存性および耐光性に劣り、さらには記録特性も不十分であった。
【0004】アントラキノン色素(例えば、特開昭58-224448号公報)、ナフトキノン色素(例えば、特開昭58-224793号公報)を記録層に含む光記録媒体も提案されているが、いずれもシアニン系色素と同様に長期保存性および耐光性に劣り、さらには記録特性も不十分であった。
【0005】特開昭61-25886号公報、特開平2-43269号公報(USP4960538)、特開平2-296885号公報等においては、記録層にナフタロシアニン色素を含む光記録媒体が提案されている。この媒体系では、耐光性は優れるが、記録層の反射率が低く、記録特性も不十分であった。
【0006】また、光記録媒体の記録層に、フタロシアニン色素、特にアルコキシ置換フタロシアニンを利用する技術は、特開昭61-154888号公報(EP186404)、同61-197280号公報、同61-246091号公報、同62-39286号公報(USP4769307)、同63-37991号公報、同63-39388号公報等により広く知られている。これらの特許に開示されているフタロシアニン色素を用いた光記録媒体においては、感度、記録特性において十分な性能を有しているとは言い難かった。それを改良したのが特開平3-62878号公報(USP5124067)であるが、その改良化合物においても、レーザー光による高速記録及び高密度記録時の誤差が大きく未だ実用上十分ではなかった。
【0007】特開平2-43269号公報(USP4960538)及び特開平2-296885号公報においてアルコキシ置換ナフタロシアニン、特開昭63-37991号公報において脂肪族炭化水素オキシ置換フタロシアニン、特開昭63-39388号公報においてはアルケニルチオ置換フタロシアニンの、光記録媒体への利用を提案しているが、感度、記録特性に効果があるということは記載されていない。
【0008】尚、その他の公知の色素を用いた光記録媒体の記録特性においても十分な性能を有しているものは見出されていない。
【0009】光記録媒体への書き込み及び読み出しは400〜900nmのレーザー光を利用するので、記録材料の使用レーザー発振波長近傍における吸収係数、屈折率等の制御及び書き込み時における精度の良いピット形成が重要である。このことは、最近願望されている高速記録、高密度記録においては特に重要である。そのため、構造安定性が高く、レーザー発振波長近傍の光に対して屈折率が高く、分解特性が良好で、かつ感度の高い光記録媒体用色素の開発が必要となる。しかし、従来開発された光記録媒体用色素は、記録媒体に用いた時、特に高速記録、高密度記録の感度(C/N比、最適記録パワー)、記録特性(ジッター、デビエイション)について欠点を有するという問題があった。
【0010】
【発明が解決しようとする課題】本発明の目的は、上記欠点を改善し、高速記録、高密度記録時においても感度が高く、記録特性並びに耐光性の良好な光記録媒体を提供しうる色素を供給することである。
【0011】
【課題を解決するための手段】本発明者らは、前項の課題を解決すべく鋭意検討した結果、本発明を完成するに至った。即ち、本発明は、■ 下記一般式(1)で表されるフタロシアニン化合物、
【0012】
【化2】


〔式(1)中、R1は、炭素数1〜10の直鎖または分岐のアルコキシ基を表し、R2及びR3は、各々独立に水素原子、炭素数1〜5の直鎖または分岐のアルキル基を表し、R4は、炭素数1〜5の直鎖または分岐のアルキル基を表し、Metは2個の水素原子、2価の金属原子、3価1置換金属原子、4価2置換金属原子、オキシ金属原子を表す。〕で示されるフタロシアニン化合物。
【0013】■ 一般式(1)において、R1の置換位置が各々1又は4、5又は8、9又は12、及び13又は16であるフタロシアニン化合物。
【0014】■ 一般式(1)において、Metで表される中心金属が、Pd,Cu,Ru,Pt,Ni,Co,Rh,Zn,VO,TiO,Si(Y)2,Sn(Y)2,Ge(Y)2,(Yはハロゲン原子、アルコキシ基、アリールオキシ基、アシルオキシ基、ヒドロキシ基、アルキル基、アリール基、アルキルチオ基、アリールチオ基、トリアルキルシリルオキシ基、トリアルキルスズオキシ基、またはトリアルキルゲルマニウムオキシ基を表す。)であるフタロシアニン化合物。
【0015】■ 一般式(1)のフタロシアニン化合物を含有してなる光記録媒体。
【0016】■ 基板上に、一般式(1)のフタロシアニン化合物を含有する記録層、その上に金またはアルミニウムからなる反射層、さらにその上に保護層を積層した構成である光記録媒体に関するものである。
【0017】本発明のフタロシアニン化合物は、アルコキシ基及びアルケニル基がフタロシアニン環に置換したため、基板にスピンコート法により塗布する際に使用する溶剤への溶解性が向上した。また、フタロシアニン環に置換したアルケニル基は、フタロシアニン環と共役するために、吸収波長領域の制御がし易くなると共に、記録時に色素の分解・溶融が制御され精度の高いピット形成が行われたこと、分解発熱量の減少により記録媒体の樹脂基板へのダメージが減少したこと、反射層を有する記録媒体の場合は記録層と反射層である金属層との密着性向上に寄与し、従来の記録法のみならず、従来に比較して高速である記録、あるいは高密度の記録法においても光記録媒体の感度、記録特性の向上に効果を上げた。
【0018】本発明のフタロシアニン化合物は、650〜900nmにシャープな吸収を有し、分子吸光係数は200,000以上と高く、長期安定性および耐光性にも優れるため、半導体レーザーを用いる光記録媒体(光ディスク、光カード等)の記録材料に好適である。
【0019】以下に本発明の好ましい態様を詳述する。
【0020】一般式(1)中、−CR2=CR34で示される置換基の位置は、R1の置換位置が1の時は2又は4の位置に、4の時は1又は3の位置に、5の時は6又は8の位置に、8の時は5又は7の位置に、9の時は10又は12の位置に、12の時は9又は11の位置に、13の時は14又は16の位置に、16の時は13又は15の位置への置換が好ましい。
【0021】一般式(1)中、R1で示される炭素数1〜10の直鎖または分岐のアルコキシ基の具体例としては、、メトキシ基、エトキシ基、n-プロポキシ基、iso-プロポキシ基、n-ブトキシ基、iso-ブトキシ基、sec-ブトキシ基、t-ブトキシ基、n-ペンチルオキシ基、iso-ペンチルオキシ基、neo-ペンチルオキシ基、2-メチルブチル-3-オキシ基、ペンチル-2-オキシ基、ペンチル-3-オキシ基、n-ヘキシルオキシ基、cyclo-ヘキシルオキシ基、2-メチルペンチル-4-オキシ基、2-メチルペンチル-3-オキシ基、3-メチルペンチル-4-オキシ基、n-ヘプチルオキシ基、ヘキシル-3-オキシ基、2-メチルヘキシル-5-オキシ基、2,4-ジメチルペンチル-3-オキシ基、2-メチルヘキシル-3-オキシ基、ヘプチル-4-オキシ基、n-オクチルオキシ基、2-エチルヘキシル-1-オキシ基、2,5-ジメチルヘキシル-3-オキシ基、2,4-ジメチルヘキシル-3-オキシ基、2,2,4-トリメチルペンチル-3-オキシ基、n-ノニルオキシ基、3,5-ジメチルヘプチル-4-オキシ基、2,6-ジメチルヘプチル-3-オキシ基、2,4-ジメチルヘプチル-3-オキシ基、2,2,5,5-テトラメチルヘキシル-3-オキシ基、1-cyclo-ペンチル-2,2-ジメチルプロピル-1-オキシ基、1-cyclo-ヘキシル-2,2-ジメチルプロピル-1-オキシ基等が挙げられる。
【0022】一般式(1)中、R2、R3及びR4で示される炭素数1〜5の直鎖または分岐のアルキル基の具体例としては、、メチル基、エチル基、n-プロピル基、iso-プロピル基、n-ブチル基、iso-ブチル基、sec-ブチル基、t-ブチル基、n-ペンチル基、iso-ペンチル基、neo-ペンチル基等が挙げられる。
【0023】また、式(1)中、Metで示される2価金属の例としては、Cu,Zn,Fe,Co,Ni,Ru,Rh,Pd,Pt,Mn,Sn,Mg,Pb,Hg,Cd,Ba,Ti,Be,Ca等が挙げられ、1置換の3価金属の例としては、Al−F,Al−Cl,Al−Br,Al−I,Ga−F,Ga−Cl,Ga−Br,Ga−I,In−F,In−Cl,In−Br,In−I,Tl−F,Tl−Cl,Tl−Br,Tl−I,Al−C65,Al−C64(CH3),In−C65,In−C64(CH3),Mn(OH),Mn(OC65),Mn〔OSi(CH33〕,Fe−Cl,Ru−Cl等が挙げられ、2置換の4価金属の例としては、CrCl2,SiF2,SiCl2,SiBr2,SiI2,SnF2,SnCl2,SnBr2,ZrCl2,GeF2,GeCl2,GeBr2,GeI2,TiF2,TiCl2,TiBr2,Si(OH)2,Sn(OH)2,Ge(OH)2,Zr(OH)2,Mn(OH)2,TiA2,CrA2,SiA2,SnA2,GeA2〔Aはアルキル基、フェニル基、ナフチル基およびその誘導体を表す〕,Si(OA’)2,Sn(OA’)2,Ge(OA’)2,Ti(OA’)2,Cr(OA’)2〔A’はアルキル基、フェニル基、ナフチル基、トリアルキルシリル基、ジアルキルアルコキシシリル基およびその誘導体を表す〕,Si(SA”)2,Sn(SA”)2,Ge(SA”)2〔A”はアルキル基、フェニル基、ナフチル基およびその誘導体を表す〕等が挙げられ、オキシ金属の例としては、VO,MnO,TiO等が挙げられる。好ましくは、Pd,Cu,Ru,Pt,Ni,Co,Rh,Zn,VO,TiO,Si(Y)2,Sn(Y)2,Ge(Y)2,(Yはハロゲン原子、アルコキシ基、アリールオキシ基、アシルオキシ基、ヒドロキシ基、アルキル基、アリール基、アルキルチオ基、アリールチオ基、トリアルキルシリルオキシ基、トリアルキルスズオキシ基、またはトリアルキルゲルマニウムオキシ基を表す。)であり、特に好ましい例としては、Cu,Ni,Co,Mg,Zn,Pd,Pt,VO等である。
【0024】一般式(1)で示されるフタロシアニン化合物の合成法としては、下式(2)又は(3)
【0025】
【化3】


〔式(2)及び(3)中、R1、R2、R3及びR4は一般式(1)と同じ意味を表す。〕で示される化合物を、例えば1,8−ジアザビシクロ[5,4,0]−7−ウンデセン(DBU)存在下に、金属誘導体とアルコール中で加熱反応する。あるいは、金属誘導体とクロルナフタレン、ブロムナフタレン、トリクロルベンゼン等の高沸点溶媒中で加熱反応することで得られる。
【0026】本発明のフタロシアニン化合物を用いて光記録媒体を製造する方法には、透明基板上に本発明のフタロシアニン化合物を含む1〜3種の化合物を1層または2層に塗布、あるいは蒸着する方法があり、塗布法としては、バインダー樹脂20重量%以下、好ましくは0%と、本発明のフタロシアニン化合物0.05〜20重量%、好ましくは0.5〜20重量%となるように溶媒に溶解し、スピンコーターで塗布する方法等がある。また蒸着方法としては10-5〜10-7torr、100〜300℃にて基板上にフタロシアニン化合物を堆積させる方法等がある。
【0027】基板としては、光学的に透明な樹脂であればよい。例えば、アクリル樹脂、ポリエチレン樹脂、塩化ビニル樹脂、塩化ビニリデン樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリオレフィン共重合樹脂、塩化ビニル共重合樹脂、塩化ビニリデン共重合樹脂、スチレン共重合樹脂等が挙げられる。また基板は熱硬化性樹脂または紫外線硬化性樹脂により表面処理がなされていてもよい。
【0028】光記録媒体(光ディスク、光カード等)を作製する場合、コストの面、ユーザーの取り扱いの面より、基板はポリアクリレート基板またはポリカーボネート基板を用い、かつスピンコート法により塗布されるのが好ましい。
【0029】基板の耐溶剤性より、スピンコートに用いる溶剤は、ハロゲン化炭化水素(例えば、ジクロロメタン、クロロホルム、四塩化炭素、テトラクロロエチレン、ジクロロジフルオロエタン等)、エーテル類(例えば、テトラヒドロフラン、ジエチルエーテル、ジプロピルエーテル、ジブチルエーテル、ジオキサン等)、アルコール類(例えば、メタノール、エタノール、プロパノール等)、セロソルブ類(例えば、メチルセロソルブ、エチルセロソルブ等)、炭化水素類(例えば、ヘキサン、シクロヘキサン、エチルシクロヘキサン、シクロオクタン、ジメチルシクロヘキサン、オクタン、ベンゼン、トルエン、キシレン等)、あるいはこれらの混合溶媒が好適に用いられる。
【0030】記録媒体として加工するには、上記の様に基板で覆う、あるいは2枚の記録層を設けた基板に、エアーギャップを設けて対向させて張り合わせる、または、記録層上に反射層(アルミニウムまたは金)を設け、熱硬化性または光硬化性樹脂の保護層を積層する方法などがある。保護層として、Al23,SiO2,SiO,SnO2等の無機化合物を利用してもよい。
【0031】
【実施例】以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明の実施の態様はこれにより限定されるものではない。
【0032】実施例1撹拌器、還流冷却器および窒素導入管を備えた容器に、3−(2−ペントキシ)−4−(1−プロペニル)フタロニトリル25.4g(0.1モル)、DBU15.2g(0.1モル)、及びn−アミルアルコール125gを装入し、窒素雰囲気下で、100℃まで昇温させた。次に、同温度で塩化パラジウム5.3g(0.03モル)を添加し、95〜100℃で20時間反応させた。反応終了後、冷却し、不溶物を濾別した。濾液を減圧濃縮して溶媒を回収した後、カラム精製(シリカゲル500g、溶媒トルエン)し、下記式(4)で示されるフタロシアニン化合物17.7g(収率63%)を得た。可視吸光スペクトル及び元素分析の結果は以下の通りであった。
【0033】可視吸収: λmax=708nmεg=2.7×105cm2g-1(溶媒:トルエン)
元素分析:C647284Pd

【0034】
【化4】


【0035】上記フタロシアニン化合物のn−オクタン溶液(10g/l)をスパイラルグルーブ(ピッチ1.6μm、溝幅0.6μm、溝深0.18μm)付きの外形120mm、厚さ1.2mmのCD−R用ポリカーボネート基板上に500〜1000rpmでスピンコート成膜した。その上に30nmの金をスパッタ蒸着して反射層を形成し、続いて光硬化型ポリアクリル樹脂によりオーバーコート後光硬化させ保護層を形成してCD−R型媒体を作製した。この媒体に、波長780nmの半導体レーザーを用いて、線速1.4m/sでEFM信号を6.0mWのパワーで書き込んだときのエラーレートは0.2%未満であり、カ−ボンア−ク灯63℃、200時間の耐久試験においても変化はなかった。
【0036】実施例2実施例1と同様の容器に、3−(3−ヘキシルオキシ)−4−(1−プロペニル)フタロニトリル26.8g(0.1モル)、DBU15.2g(0.1モル)およびn−アミルアルコール120gを装入し、窒素雰囲気下で100℃まで昇温させた。次に、同温度で塩化パラジウム5.3g(0.03モル)を添加し、95〜100℃で20時間反応させた。反応終了後、冷却し、不溶物を濾別した。濾液を減圧濃縮して溶媒を回収した後、カラム精製(シリカゲル500g、溶媒トルエン)し、下記式(5)で示されるフタロシアニン化合物19.2g(収率65%)を得た。可視吸光スペクトル及び元素分析の結果は以下の通りであった。
【0037】可視吸収: λmax=709nmεg=2.2×105cm2g-1(溶媒:トルエン)
元素分析:C688084Pd

【0038】
【化5】


【0039】上記フタロシアニン化合物のジブチルエ−テル溶液(10g/l)を実施例1と同様にスピンコーターによりCD−R用ポリカーボネート基板上に塗布し、その上に金をスパッタ蒸着し、続いてUV硬化樹脂を用いて保護層を形成し、CD−R型媒体を作製した。この媒体に780nmの半導体レーザーを用いて線速1.4m/sでEFM信号を6.0mWのパワーで書き込んだときのエラーレートは0.2%未満であり、0.5mWの再生光で百万回再生を行っても変化がなかった。また80℃/85%の条件で1000時間経過後も記録・再生に支障はなかった。
【0040】実施例3実施例1と同様の容器に、3−(2−ペントキシ)−4−(1−プロペニル)フタロニトリル25.4g(0.1モル)、DBU15.2g(0.1モル)、及びn−アミルアルコール125gを装入し、窒素雰囲気下で、100℃まで昇温させた。次に、同温度で塩化第一銅3.0g(0.03モル)を添加し、95〜100℃で10時間反応させた。反応終了後、冷却し、不溶物を濾別した。濾液を減圧濃縮して溶媒を回収した後、カラム精製(シリカゲル500g、溶媒トルエン)し、下記式(6)で示されるフタロシアニン化合物21.6g(収率80%)を得た。可視吸光スペクトル及び元素分析の結果は以下の通りであった。
【0041】可視吸収: λmax=729nmεg=2.4×105cm2g-1(溶媒:トルエン)
元素分析:C647284Cu

【0042】
【化6】


【0043】上記フタロシアニン化合物10gをジブチルエ−テルとジイソプロピルエーテルの3:1(体積比)混合溶媒500mlに溶解し、スピンコーターによりポリカ−ボネート製光カード基板上に厚み100nmで塗布し、続いて塗布面にUV硬化樹脂を用いて保護層を形成し、光カ−ドを作製した。この媒体に780nm、線速2m/s,4mWの半導体レーザー光により記録したとき、CN比は61dBであった。また、線速2m/s,0.8mWのレーザ−光により再生可能で、再生光安定性を調べたところ、105回の再生が可能であった。さらにこの光カ−ドは保存安定性も良好なものであった。
【0044】実施例4実施例1と同様の容器に、3−(2−ブトキシ)−4−(1−プロペニル)フタロニトリル24.0g(0.1モル)、DBU15.2g(0.1モル)およびn−アミルアルコール120gを装入し、窒素雰囲気下で100℃まで昇温させた。次に、同温度で三塩化バナジウム4.7g(0.03モル)を添加し、95〜100℃で10時間反応させた。反応終了後、冷却し、不溶物を濾別した。濾液を減圧濃縮して溶媒を回収した後、カラム精製(シリカゲル500g、溶媒トルエン)し、下記式(7)で示されるフタロシアニン化合物12.7g(収率50%)を得た。可視吸光スペクトル及び元素分析の結果は以下の通りであった。
【0045】可視吸収 λmax=750nmεg=2.3×105cm2g-1(溶媒:トルエン)
元素分析:C606485

【0046】
【化7】


【0047】上記フタロシアニン化合物のエチルシクロヘキサン溶液(20g/l)を実施例1と同様にスピンコーターによりCD−R用ポリカーボネート基板上に塗布し、その上に金をスパッタ蒸着し、続いてUV硬化樹脂を用いて保護層を形成し、CD−R型媒体を作製した。この媒体に780nmの半導体レーザーを用いて線速2.8m/sでEFM信号を6.0mWのパワーで書き込んだときのエラーレートは0.2%未満であり、0.5mWの再生光で百万回再生を行っても変化がなかった。また80℃/85%の条件で1000時間経過後も記録・再生に支障はなかった。
【0048】実施例5実施例1と同様の容器に、3−(3−メチル−ブトキシ)−4−(2,4−ジメチル−1−プロペニル)フタロニトリル28.2g(0.1モル)、DBU15.2g(0.1モル)およびn−アミルアルコール120gを装入し、窒素雰囲気下で100℃まで昇温させた。次に、同温度で塩化マグネシウム4.7g(0.03モル)を添加し、95〜100℃で15時間反応させた。反応終了後、冷却し、不溶物を濾別した。濾液を減圧濃縮して溶媒を回収した後、カラム精製(シリカゲル500g、溶媒トルエン)し、下記式(8)で示されるフタロシアニン化合物16.2g(収率56%)を得た。可視吸光スペクトル及び元素分析の結果は以下の通りであった。
【0049】可視吸収 λmax=721nmεg=2.4×105cm2g-1(溶媒:トルエン)
元素分析:C728884Mg

【0050】
【化8】


【0051】上記フタロシアニン化合物を用いて実施例1と同様にしてCD−R型媒体を作製した。この媒体に、波長780nmのレーザーを用いて、線速1.4m/sでEFM信号を6.0mWのパワーで書き込んだときのエラーレートは、0.2%未満であった。
【0052】実施例6実施例1と同様の容器に、3−(2−ペントキシ)−4−(1−プロペニル)フタロニトリル25.4g(0.1モル)、DBU15.2g(0.1モル)、及びn−アミルアルコール125gを装入し、窒素雰囲気下で、100℃まで昇温させた。次に、同温度で塩化亜鉛4.1g(0.03モル)を添加し、95〜100℃で25時間反応させた。反応終了後、冷却し、不溶物を濾別した。濾液を減圧濃縮して溶媒を回収した後、カラム精製(シリカゲル500g、溶媒トルエン)し、下記式(9)で示されるフタロシアニン化合物18.1g(収率67%)を得た。可視吸光スペクトル及び元素分析の結果は以下の通りであった。
【0053】可視吸収: λmax=723nmεg=2.5×105cm2g-1(溶媒:トルエン)
元素分析:C647284Cu

【0054】
【化9】


【0055】上記フタロシアニン化合物を用いて実施例1と同様にしてCD−R型媒体を作製した。この媒体に、波長780nmのレーザーを用いて、線速1.4m/sでEFM信号を6.0mWのパワーで書き込んだときのエラーレートは、0.2%未満であった。
【0056】実施例7実施例1と同様の容器に、3−(2,4−ジメチル−3−ペントキシ)−4−(1−プロペニル)フタロニトリル28.2g(0.1モル)、DBU15.2g(0.1モル)、及びn−アミルアルコール125gを装入し、窒素雰囲気下で、100℃まで昇温させた。次に、同温度で塩化パラジウム5.3g(0.03モル)を添加し、95〜100℃で25時間反応させた。反応終了後、冷却し、不溶物を濾別した。濾液を減圧濃縮して溶媒を回収した後、カラム精製(シリカゲル500g、溶媒トルエン)し、下記式(10)で示されるフタロシアニン化合物18.5g(収率60%)を得た。可視吸光スペクトル及び元素分析の結果は以下の通りであった。
【0057】可視吸収: λmax=709nmεg=2.6×105cm2g-1(溶媒:トルエン)
元素分析:C728884Pd

【0058】
【化10】


【0059】上記フタロシアニン化合物を用いて実施例1と同様にしてCD−R型媒体を作製した。この媒体に、波長780nmのレーザーを用いて、線速1.4m/sでEFM信号を6.0mWのパワーで書き込んだときのエラーレートは、0.2%未満であった。
【0060】比較例1下記構造式(A)で示される特開平3−62878号公報(USP5124067)の例示化合物を用いて実施例1と同様にして作製した媒体を評価した結果を表−1に示す。
【0061】
【化11】


【0062】本発明のフタロシアニン化合物を用いた光記録媒体は、通常記録の6.0mWレーザーパワー及び3.6mW低レーザー、高速記録及び高密度記録において良好な感度、記録特性を示した。なお、条件は以下の通りである。
通常記録:線速度1.4m/s(1倍速)で63分の情報を記録する。
高速記録:線速度5.6m/s(4倍速)で63分の情報を記録する。
高密度記録:線速度1.2m/sで74分の情報を記録する。
【0063】尚、通常記録の時のみ6.0と3.6mWの2つのレーザーパワーで記録し、他の記録方法の時は6.0mWで記録した。
【0064】さらに、記録感度(C/N比)、ジッター及びデビエイションをそれぞれCDデコーダーDR3552(ケンウッド社製)、LJM−1851ジッターメーター(リーダー電子製)及びTIA−175タイムインターバルアナライザー(ADC社製)を用いて計測した。
【0065】評価基準感度(C/N比)A: ≧55dBB: <55dBジッターA:3Tピットジッター及び3Tランドジッターが <35nsB:3Tピットジッター又は3Tランドジッターが ≧35nsデビエイションA:−50ns< 3T及び11Tデビエイション <50nsB: 3T又は11Tデビエイション≧50ns又は 3T又は11Tデビエイション≦−50ns
【0066】
【表1】


【0067】
【発明の効果】本発明のフタロシアニン化合物は、アルコキシ基及びアルケニル基がフタロシアニン環に置換したため、基板にスピンコート法により塗布する際に使用する溶剤への溶解性が向上した。また、フタロシアニン環に置換したアルケニル基は、フタロシアニン環と共役するために、吸収波長領域の制御がし易くなると共に、記録時に色素の分解・溶融が制御され精度の高いピット形成が行われたこと、分解発熱量の減少により記録媒体の樹脂基板へのダメージが減少したこと、反射層を有する記録媒体の場合は記録層と反射層である金属層との密着性が向上に寄与し、従来の記録法のみならず、従来に比較して高速である記録、あるいは高密度の記録法においても光記録媒体の感度、記録特性の向上に効果を上げた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】 下記一般式(1)
【化1】


〔式(1)中、R1は、炭素数1〜10の直鎖または分岐のアルコキシ基を表し、R2及びR3は、各々独立に水素原子、炭素数1〜5の直鎖または分岐のアルキル基を表し、R4は、炭素数1〜5の直鎖または分岐のアルキル基を表し、Metは2個の水素原子、2価の金属原子、3価1置換金属原子、4価2置換金属原子、オキシ金属原子を表す。〕で示されるフタロシアニン化合物。
【請求項2】 一般式(1)において、R1の置換位置が各々1又は4、5又は8、9又は12、及び13又は16である請求項1記載のフタロシアニン化合物
【請求項3】 一般式(1)において、Metで表される中心金属が、Pd,Cu,Ru,Pt,Ni,Co,Rh,Zn,VO,TiO,Si(Y)2,Sn(Y)2,Ge(Y)2,(Yはハロゲン原子、アルコキシ基、アリールオキシ基、アシルオキシ基、ヒドロキシ基、アルキル基、アリール基、アルキルチオ基、アリールチオ基、トリアルキルシリルオキシ基、トリアルキルスズオキシ基、またはトリアルキルゲルマニウムオキシ基を表す。)である請求項1記載のフタロシアニン化合物。
【請求項4】 請求項1〜3のいずれかに記載のフタロシアニン化合物を含有してなる光記録媒体。
【請求項5】 基板上に、請求項1〜3のいずれかに記載のフタロシアニン化合物を含有する記録層、その上に金またはアルミニウムからなる反射層、さらにその上に保護層を積層した構成である請求項4記載の光記録媒体。