説明

フタロシアニン近赤外線吸収剤及びそれを用いた光記録媒体

【構成】 適宜ハロゲン化されたアルコキシフタロシアニン化合物〔例えば下記記載の式(1)〕、及びこの化合物を記録層に含有してなる光記録媒体。


【効果】 CD−WO用色素として必要な770〜800nmの光の吸収能、屈折率を大きくさせると共に、媒体の記録特性がハロゲン原子導入によるフタロシアニンの分解性が促進されることにより、低パワーの半導体レーザーで記録可能となる。さらにハロゲンの導入により色素の分解をコントロールすることで、記録のシンメトリー性が良くなり、信号振幅を大きくかつ信号歪を小さくし、記録時のレーザーのパルス補正を小さくできる。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、650〜750nmに最大吸収波長(λmax)を有するフタロシアニン近赤外線吸収剤とそれを記録層中に含有してなる光ディスク(WORM、CD−WORM、相変化型書き替えディスク)及び光カードなどの光記録媒体に関する。
【0002】
【従来の技術】光ディスクや光カードなどの光記録媒体の記録層に、フタロシアニン色素、特にアルコキシ置換フタロシアニンを利用する技術は、特開昭61−154888号公報(EP 186404)、同61−197280号公報、同61−246091号公報、同62−39286号公報(USP 4,769,307)、同63−37991号公報、同63−39888号公報などに開示されている。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら、上述したような公報に開示されている化合物では、光記録媒体を作製したときに、感度、反射特性、記録特性において、十分な性能を有しているとは言い難かった。
【0004】
【課題を解決するための手段】本発明者らは、前項の課題を解決すべく鋭意検討の結果、下式(I)〜(IV)で示される近赤外線吸収剤を見出した。
【0005】即ち本発明は、式(I)
【0006】
【化5】


または式(II)
【0007】
【化6】


または式(III)
【0008】
【化7】


または式(IV)
【0009】
【化8】


〔式(I)、(II)、(III)及び(IV)中、Y1, Y2, Y3, Y4, Y5, Y6,Y7, Y8, Y9, Y10, Y11, Y12, Y13, Y14, Y15及びY16は各々独立にアルコキシ基またはアルキルチオ基を表わし、群A:R1, R2, R3, R4, R5, R6, R7, R8, R9, R10, R11及びR12群B:R13, R14, R15, R16, R17, R18, R19, R20, R21, R22, R23及びR24群C:R25, R26, R27, R28, R29, R30, R31, R32, R33, R34, R35及びR36群D:R37, R38, R39, R40, R41, R42, R43, R44, R45, R46, R47及びR48上記群A〜Dの各群において、1〜8個、特に好ましくは1〜4個の置換基がハロゲン原子またはニトロ基を表わし、その他の置換基は各々独立に、水素原子、置換または未置換のアルキル基、置換または未置換のアリール基を表わし、Metは2個の水素原子、2価の金属原子、3価又は4価の金属誘導体を表わす。〕で示されるフタロシアニン及びその互変異性体である近赤外線吸収剤が光記録媒体を作製する上で優れた特性(大きなモル吸光係数、溶剤溶解性、薄膜とした時に大きな屈折率を有する、光記録媒体とした時の感度、反射率、記録特性及び耐久性)を有していることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】特に、Y1〜Y16で示されるアルコキシ基またはアルキルチオ基が、炭素原子、酸素原子及びイオウ原子の原子数の和が5〜12であり、2級または3級の炭化水素であることが好ましい。
【0011】また、Metで表される中心金属が、Pd,Cu,Ru,Pt,Ni,Co,Rh,Zn,VO,TiO,Si(Y)2,Sn(Y)2,Ge(Y)2(Yはハロゲン原子、アルコキシ基、アリールオキシ基、アシルオキシ基、ヒドロキシ基、アルキル基、アリール基、アルキルチオ基、アリールチオ基、トリアルキルシリルオキシ基、トリアルキルスズオキシ基またはトリアルキルゲルマニウムオキシ基を表わす)であることが特に好ましい。
【0012】式(I)、(II)、(III)及び(IV)中、R1〜R48で示されるハロゲン原子としては、フッ素、塩素、臭素または沃素であり、特に臭素が好ましい。置換または未置換のアルキル基としては、直鎖または分岐のアルキル基、アラルキル基、アルケニル基、アルコキシアルキル基、アルコキシアルコキシアルキル基、アルコキシアルコキシアルコキシアルキル基、アルコキシカルボニルアルキル基、アルコキシカルボニルオキシアルキル基、アルコキシアルコキシカルボニルオキシアルキル基、ヒドロキシアルキル基、ヒドロキシアルコキシアルキル基、ヒドロキシアルコキシアルコキシアルキル基、アシルオキシアルキル基、アシルオキシアルコキシアルキル基、アシルオキシアルコキシアルコキシアルキル基およびハロゲン化アルキル基の群から選ばれる直鎖または分岐のアルキル基の例としては、炭素数1〜20の炭化水素基で、ポリカーボネート基板、2P基板、アクリル基板、エポキシ基板等への塗布による加工性を考慮すれば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、n-ブチル基、n-ヘキシル基、4-エチルペンチル基、2-エチルヘキシル基、3,5,5-トリメチルヘキシル基、n-オクチル基、2-メチル-1-iso-プロピルブチル基、3-メチル-1-iso-ブチルブチル基などが挙げられる。
【0013】アルコキシアルキル基としては、メトキシメチル基、エトキシメチル基、プロポキシメチル基、ブトキシメチル基、メトキシエチル基、エトキシエチル基、プロポキシエチル基、ブトキシエチル基、n-ヘキシルオキシエチル基、4-エチルペントキシエチル基、1,3-ジメチルブトキシエチル基、2-エチルヘキシルオキシエチル基、n-オクチルオキシエチル基、3,3,5-トリメチルヘキシルオキシエチル基、2-メチル-1-iso-プロピルオキシエチル基、3-メチル-1-iso-プロピルブチルオキシエチル基、2-エトキシ-1-メチルエチル基、3-メトキシブチル基などの総炭素数2〜20のアルコキシアルキル基が挙げられる。
【0014】アルコキシアルコキシアルキル基としては、メトキシエトキシエチル基、エトキシエトキシエチル基、プロポキシエトキシエチル基、ブトキシエトキシエチル基、ヘキシルオキシエトキシエチル基、1,2-ジメチルプロポキシエトキシエチル基、3-メチル-1-iso-ブチルブトキシエトキシエチル基、2-メトキシ-1-メチルエトキシエチル基、2-ブトキシ-1-メチルエトキシエチル基、2-(2'-エトキシ-1'-メチルエトキシ)-1-メチルエチル基などが挙げられる。
【0015】アルコキシアルコキシアルコキシアルキル基としては、メトキシエトキシエトキシエチル基、エトキシエトキシエトキシエチル基、ブトキシエトキシエトキシエチル基、2'-(2''-エトキシ-1''-メチルエトキシ)-1'-メチルエトキシエチル基などが挙げられる。
【0016】アルコキシカルボニルアルキル基の例としては、メトキシカルボニルメチル基、エトキシカルボニルメチル基、ブトキシカルボニルメチル基、メトキシカルボニルエチル基、エトキシカルボニルエチル基、ブトキシカルボニルエチル基などが挙げられる。
【0017】アルコキシカルボニルオキシアルキル基の例としては、メトキシカルボニルオキシエチル基、エトキシカルボニルオキシエチル基、ブトキシカルボニルオキシエチル基などが挙げられる。
【0018】アルコキシアルコキシカルボニルオキシアルキル基の例としては、メトキシエトキシカルボニルオキシエチル基、エトキシエトキシカルボニルオキシエチル基、ブトキシエトキシカルボニルオキシエチル基などが挙げられる。
【0019】ヒドロキシアルキル基の例としては、2-ヒドロキシエチル基、4-ヒドロキシブチル基、2-ヒドロキシ-3-メトキシプロピル基、2-ヒドロキシ-3-クロロプロピル基、2-ヒドロキシ-3-エトキシプロピル基、3-ブトキシ-2-ヒドロキシプロピル基、2-ヒドロキシ-3-フェノキシプロピル基、2-ヒドロキシプロピル基、2-ヒドロキシブチル基などが挙げられる。
【0020】ヒドロキシアルコキシアルキル基の例としては、ヒドロキシエトキシエチル基、2-(2'-ヒドロキシ-1'-メチルエトキシ)-1-メチルエチル基などが挙げられ、ヒドロキシアルコキシアルコキシアルキル基の例としては、ヒドロキシエトキシエトキシエチル基、[2'-(2''-ヒドロキシ-1''-メチルエトキシ)-1'-メチルエトキシ]エトキシエチル基などが挙げられる。
【0021】アシルオキシアルキル基の例としては、アセトキシエチル基、プロピオニルオキシエチル基、ブチリルオキシエチル基、バレリルオキシエチル基、1-エチルペンチルカルボニルオキシエチル基、2,4,4-トリメチルペンチルカルボニルオキシエチル基などが挙げられ、アシルオキシアルコキシアルキル基の例としては、アセトキシエトキシエチル基、プロピオニルオキシエトキシエチル基、バレリルオキシエトキシエチル基、1-エチルペンチルカルボニルオキシエトキシエチル基、2,4,4-トリメチルペンチルカルボニルオキシエトキシエチル基などが挙げられ、アシルオキシアルコキシアルコキシアルキル基の例としては、アセトキシエトキシエトキシエチル基、プロピオニルオキシエトキシエトキシエチル基、バレリルオキシエトキシエトキシエチル基、1-エチルペンチルカルボニルオキシエトキシエトキシエチル基などが挙げられる。
【0022】ハロゲン化アルキル基の例としては、クロロメチル基、クロロエチル基、2,2,2-トリフルオロエチル基、トリフルオロメチル基、ブロモメチル基、ヨウ化エチル基などが挙げられる。
【0023】置換または未置換のアリール基の例としては、フェニル基、ナフチル基、トリル基などの置換または未置換のフェニル基誘導体、ナフチル基誘導体、チオフェン、オキサゾール、チアゾール、チアジアゾール、フラン、ピロール、キノリン、ピリジンなどの置換または未置換のヘテロ環が挙げられる。
【0024】Y1〜Y16で示されるアルコキシ基の例としては、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、ブトキシ基などであり、特に炭素数4〜11の、炭化水素で置換されたアルコキシ基が好ましい。例えば、tert-ブトキシ基、1,3-ジメチルブトキシ基、2-メチル-1-iso-プロピルプロポキシ基、2,2-ジメチル-1-iso-プロピルプロポキシ基、2,2-ジメチル-1-iso-プロピルブトキシ基、1-tert-ブチル-2,2-ジメチルプロポキシ基、3-メチル-1-iso-プロピルブトキシ基、1-iso-ブチル-3-メチルブトキシ基、2-エチルヘキシロキシ基などが挙げられる。
【0025】Y1〜Y16で示されるアルキルチオ基の例としては、メチルチオ基、エチルチオ基などであり、特に炭素数4〜11の、炭化水素で置換されたアルキルチオ基が好ましい。例えば、tert-ブチルチオ基、1,3-ジメチルブチルチオ基、2-メチル-1-iso-プロピルプロピルチオ基、2,2-ジメチル-1-iso-プロピルプロピルチオ基、2,2-ジメチル-1-iso-プロピルブチルチオ基、1-tert-ブチル-2,2-ジメチルプロピルチオ基、3-メチル-1-iso-プロピルブチルチオ基、1-iso-ブチル-3-メチルブチルチオ基、2-エチルヘキシルチオ基などが挙げられる。
【0026】又、Met で表わされる2価金属の例としては、Cu(II),Zn(II),Fe(II),Co(II),Ni(II),Ru(II),Rh(II),Pd(II),Pt(II),Mn(II),Mg(II),Be(II),Ca(II),Ba(II),Cd(II),Hg(II),Sn(II),など、1置換3価金属の例としては、Al−Cl,Al−Br,Al−F,Al−I,Ga−Cl,Ga−F,Ga−I,Ga−Br,In−Cl,In−Br,In−I,In−F,Tl−Cl,Tl−Br,Tl−I,Tl−F,Al−C65,Al−C64CH3,In−C65,In−C64CH3,In−C107,Mn(OH)などが挙げられる。
【0027】2置換の4価金属の例としては、CrCl2,SiCl2,SiBr2,SiF2,SiI2,ZrCl2,GeCl2,GeBr2,GeI2,GeF2,SnCl2,SnBr2,SnI2,SnF2,TiCl2,TiBr2,TiF2,Si(OH)2,Ge(OH)2,Zr(OH)2,Mn(OH)2,Sn(OH)2,TiR2,CrR2,SiR2,SnR2,GeR2[Rはアルキル基、フェニル基、ナフチル基及びその誘導体を表わす]、Si(OR')2,Sn(OR')2,Ge(OR')2,Ti(OR')2,Cr(OR')2[R'はアルキル基、フェニル基、ナフチル基、トリアルキルシリル基、トリアルキルスズ基、トリアルキルゲルマニウム基、ジアルキルアルコキシシリル基、アシル基の誘導体を表わす]、Si(SR")2,Sn(SR")2,Ge(SR")2[R"はアルキル基、フェニル基、ナフチル基及びその誘導体を表わす]などが挙げられる。
【0028】オキシ金属の例としては、 VO,MnO,TiOなどが挙げられる。
【0029】式((I)〜(IV)で示されるフタロシアニン化合物の合成法としては、下式(V)又は(VI)
【0030】
【化9】


〔式(V)及び(VI)におけるベンゼン環は、前述の(I)〜(IV)式にて述べたような置換基を有していてよい。〕で示される化合物の1〜4種を混合して、例えば1,8-ジアザビシクロ[5.4.0]-7-ウンデセン(DBU)の存在下にブタノール中で加熱下反応することによりフタロシアニン誘導体を得、さらに、得られたフタロシアニン誘導体を適当な溶媒(例えば、酢酸、四塩化炭素)中でハロゲン化あるいはニトロ化することにより本発明の式(I)〜(IV)で表されるフタロシアニン化合物またはその互変異性体を得ることができる。
【0031】本発明の近赤外線吸収剤を用いて光記録媒体を製造する方法には、透明基板上に本発明の近赤外線吸収剤を含む1〜3種の化合物を1層または2層に塗布或は蒸着する方法があり、塗布法としては、バインダー樹脂20重量%以下、好ましくは0%と、本発明の近赤外線吸収剤0.05重量%〜20重量%、好ましくは0.5重量%〜20重量%となるように溶媒に溶解し、スピンコーターで塗布する方法などがある。また蒸着方法としては、10-5〜10-7torr、100〜300℃にて基板上に近赤外線吸収剤を堆積させる方法などがある。
【0032】基板としては、光学的に透明な樹脂であればよい。例えばアクリル樹脂、ポリエチレン樹脂、塩化ビニル樹脂、塩化ビニリデン樹脂、ポリカーボネート樹脂、エチレン樹脂、ポリオレフィン共重合樹脂、塩化ビニル共重合樹脂、塩化ビニリデン共重合樹脂、スチレン共重合樹脂などが挙げられる。
【0033】また基板は熱硬化性樹脂又は紫外線硬化性樹脂により表面処理がなされていてもよい。
【0034】光記録媒体(光ディスク、光カード等)を作製する場合、コストの面、ユーザーの取り扱い面より、基板はポリアクリレート基板又はポリカーボネート基板を用い、かつ、スピンコート法により塗布されるのが好ましい。
【0035】基板の耐溶剤性より、スピンコートに用いる溶媒は、ハロゲン化炭化水素(例えば、ジクロロメタン、クロロホルム、四塩化炭素、テトラクロロエチレン、ジクロロジフルオロエタンなど)、エーテル類(例えば、テトラヒドロフラン、ジエチルエーテル、ジプロピルエーテル、ジブチルエーテルなど)、アルコール類(例えば、メタノール、エタノール、プロパノールなど)、セロソルブ類(メチルセロソルブ、エチルセロソルブなど)、炭化水素類(ヘキサン、シクロヘキサン、オクタン、ベンゼン、トルエン、キシレンなど)が好適に用いられる。
【0036】記録媒体として加工するには、上記の様に基板で覆う、あるいは2枚の記録層を設けた基板をエアーギャップを設けて対向させて張り合わせる、または記録層上に反射層(アルミニウムまたは金)を設け、熱硬化性(光硬化性)樹脂の保護層を積層する方法などがある。
【0037】
【実施例】以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明の実施の態様はこれにより限定されるものではない。なお、実施例中の部は全て重量部を示す。
【0038】実施例1下記式(A)
【0039】
【化10】


(融点:118〜124℃、分解開始温度:329℃、λmax:715nm、最大吸収波長における吸光係数(εmax):1.5×105-1 cm-1)で示されるフタロシアニン1部をジブチルエーテル200部に溶解し、ポリカーボネート光ディスク基板に塗布した。この上に金を蒸着し、続いて光硬化型ポリアクリル樹脂によりオーバーコートして光硬化させた。このようにして作製した光ディスクは、線速1.4m/sec、レーザーパワー7mWにおいてC/N比60dBであり、良好な感度であった。また、フェードメーター 63℃/100時間照射後、記録層の劣化は観察されなかった。
【0040】実施例2下記式(B)
【0041】
【化11】


(融点:240〜250℃、分解開始温度:290℃、λmax:721nm、εmax:1.4×105-1cm-1)で示されるフタロシアニン5部をn-オクタン250部に溶解し、スピンコーターにより、CD−WO用ポリカーボネート基板上に乾燥膜厚150nmで塗布した。その上に30nmの金をスパッター蒸着により付け、UV硬化型樹脂をコートしてUV硬化させることにより保護層を形成し、CD−WO媒体を作製した。
【0042】このようにして作製されたCD−WO媒体は反射率70%、線速1.3m/secで、6.5mW、790nmのレーザー光によりC/N比60dBの記録が書き込めた。また、この記録媒体は、カーボンアーク灯63℃、200時間の耐光試験においても変化しなかった。
【0043】実施例3下記式(C)
【0044】
【化12】


(融点:100〜110℃、分解開始温度:280℃、λmax:705nm、εmax:1.2×105-1cm-1)で示されるフタロシアニン5部をn-オクタン150部に溶解し、スピンコーターによりCD−WO用ポリカーボネート基板に塗布した。膜厚は120nmであった。この上に50nmの金を蒸着し、続いてUV硬化型樹脂を用いて保護層を形成した。
【0045】このようにして作製したCD−WO媒体は、線速1.3 m/sec、7mWの780nmのレーザーにより記録したところ、C/N比55dBの記録が得られた。
【0046】また、この媒体にキセノンランプ50℃による耐光性試験を行ったところ、200時間経過しても変化がないことが確認された。
【0047】実施例4下記式(D)
【0048】
【化13】


(融点:148〜155℃、分解開始温度:260℃、λmax:695nm、εmax:1.2×105-1cm-1)で示されるフタロシアニン5部をジブチルエーテルとジイソプロピルエーテルの3:1混合物300部に溶解し、スピンコーターによりPMMAのCD−WO用基板に厚み120nmで塗布し、続いて金を20nmスパッタリングし、最後にUV硬化型樹脂にて保護層を形成し、記録媒体を作製した。
【0049】得られた媒体は、線速1.4m/sec、8mW,780nmのレーザーで記録したところ、C/N比60dBの記録が得られた。
【0050】実施例5下記式(E)
【0051】
【化14】


で示されるフタロシアニン5部をジブチルエーテル300部に溶解し、スピンコーターによりPMMAの光カード基板に厚み100nmで塗布し、続いてUV硬化型樹脂にて保護層を形成し、記録媒体を作製した。
【0052】得られた媒体の反射率は33%であり、780nm,10mWのレーザーで信号を記録したところ、C/N比55dBが得られた。
【0053】実施例6下記式(F)
【0054】
【化15】


(λmax:754nm、εmax:1.5×105-1cm-1)で示されるフタロシアニン5部をエチルシクロヘキサン250部に溶解し、CD−WO基板にスピンコートした。その上にスパッタリング法により金層を作製し、続いてUV硬化型樹脂にて保護層を形成し、記録媒体を作製した。
【0055】得られた媒体の反射率は67%であり、830nm,6mWの半導体レーザーにより、C/N比55dBの記録ができた。
【0056】実施例7下記式(G)
【0057】
【化16】


(λmax:756nm、εmax:1.6×105-1cm-1)で示されるフタロシアニンを用いて、実施例5と同様に光カードを作製した。得られた光カードの反射率は50%であり、830nmの半導体レーザーで記録したところC/N比57dBの信号が得られた。
【0058】実施例8下記式(H)
【0059】
【化17】


(λmax:700nm、εmax:1.5×105-1cm-1)で示されるフタロシアニンを用いて、実施例1と同様にCD−WO用媒体を作製した。775nm,8mWの半導体レーザーで記録したところC/N比55dBの信号が得られた。
【0060】比較試験以上得られた光記録媒体と公知のアルコキシフタロシアニンを用いた光記録媒体についてその性能を比較した。本発明の媒体として、実施例2および4で作製した媒体を使用し、比較例として下記4種の公知アルコキシフタロシアニンを用い、実施例2と同様にして作製した媒体を使用した。
【0061】比較例1: 下記構造式にて示されるアルコキシフタロシアニン
【0062】
【化18】


比較例2:特開昭62−39286号公報、例示化合物XIX
【0063】
【化19】


比較例3:特開昭61−197280号公報、例示化合物(10)
デカ-(OC511)−H2Pc比較例4:特公昭59−1311号公報(特開昭50−85630号公報)、実施例23ドデカクロル-テトラフェノキシ銅フタロシアニン。
【0064】但し、表1中、1)シンメトリーは記録パワー5〜90mWにおいて、変動率5%以下を○、変動率5%以上を×、2)パルス幅補正は4Tの信号(231×4=924nsec)を書いたときに必要な補正幅が0〜−100nsecの時を○、−100〜−200nsecの時を△、−200nsec以上の時を×とし、3)記録のひずみは記録波形のひずみをオシロスコープにより測定し、顕微鏡による記録ピットの観察により金層のひずみを見た結果、ひずみのないものを○、あるものを×とした。
【0065】
【表1】


【0066】
【発明の効果】以上説明したように、本発明の近赤外線吸収剤は、アルコキシフタロシアニンを適宜ハロゲン化することにより、CD−WO用色素として必要な770〜800nmの光の吸収能、屈折率を大きくさせると共に、媒体の記録特性がハロゲン原子導入によるフタロシアニンの分解性が促進されることにより、低パワーの半導体レーザーで記録可能となる。さらにハロゲンの導入により色素の分解をコントロールすることで、記録のシンメトリー性が良くなり、信号振幅を大きくかつ信号歪を小さくし、記録時のレーザーのパルス補正を小さくできるものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】 式(I)
【化1】


または式(II)
【化2】


または式(III)
【化3】


または式(IV)
【化4】


〔式(I)、(II)、(III)及び(IV)中、Y1, Y2, Y3, Y4, Y5, Y6,Y7, Y8, Y9, Y10, Y11, Y12, Y13, Y14, Y15及びY16は各々独立にアルコキシ基またはアルキルチオ基を表わし、群A:R1, R2, R3, R4, R5, R6, R7, R8, R9, R10, R11及びR12群B:R13, R14, R15, R16, R17, R18, R19, R20, R21, R22, R23及びR24群C:R25, R26, R27, R28, R29, R30, R31, R32, R33, R34, R35及びR36群D:R37, R38, R39, R40, R41, R42, R43, R44, R45, R46, R47及びR48上記群A〜Dの各群において、1〜8個の置換基がハロゲン原子またはニトロ基を表わし、その他の置換基は各々独立に、水素原子、置換または未置換のアルキル基、置換または未置換のアリール基を表わし、Metは2個の水素原子、2価の金属原子、3価又は4価の金属誘導体を表わす。〕で示されるフタロシアニン及びその互変異性体である近赤外線吸収剤。
【請求項2】 式(I)、(II)、(III)及び(IV)において、Y1〜Y16で示されるアルコキシ基またはアルキルチオ基の、炭素原子、酸素原子及びイオウ原子の原子数の和が5〜12であることを特徴とする請求項1記載の近赤外線吸収剤。
【請求項3】 式(I)、(II)、(III)及び(IV)において、Y1〜Y16で示されるアルコキシ基またはアルキルチオ基が、2級または3級の炭化水素であることを特徴とする請求項2記載の近赤外線吸収剤。
【請求項4】 Metで表わされる中心金属が、Pd,Cu,Ru,Pt,Ni,Co,Rh,Zn,VO,TiO,Si(Y)2,Sn(Y)2,Ge(Y)2(Yはハロゲン原子、アルコキシ基、アリールオキシ基、アシルオキシ基、ヒドロキシ基、アルキル基、アリール基、アルキルチオ基、アリールチオ基、トリアルキルシリルオキシ基、トリアルキルスズオキシ基またはトリアルキルゲルマニウムオキシ基を表わす)であることを特徴とする請求項3記載の近赤外線吸収剤。
【請求項5】 群A〜Dの各群において、置換基の1〜4個が臭素原子であることを特徴とする請求項4記載の近赤外線吸収剤。
【請求項6】 請求項1ないし5のいずれかに記載の近赤外線吸収剤を含有してなる光記録媒体。
【請求項7】 基板上に近赤外線吸収剤を含有する記録層、その上に金またはアルミニウムからなる反射層、さらにその上に保護層を積層した構成である請求項6に記載の光記録媒体。

【公開番号】特開平5−1272
【公開日】平成5年(1993)1月8日
【国際特許分類】
【出願番号】特願平3−99730
【出願日】平成3年(1991)4月5日
【出願人】(000003126)三井東圧化学株式会社 (49)
【出願人】(000179904)山本化成株式会社 (70)