説明

フッ化カルボニルの製造方法

【課題】連続操作による合成効率が高いフッ化カルボニルの製造方法を提供すること。
【解決手段】本発明に係るフッ化カルボニルの製造方法は、下記一般式(1)で示されるパーフルオロポリエーテル化合物の少なくとも1種類から選ばれる化合物からなる原料を、キャリアガスとして空気を用いて、連続的に反応管内に誘導し、該反応管内を通過する間に前記化合物を350℃〜530℃の温度で熱分解することを特徴とする。
一般式(1)


〔一般式(1)において、Rfは炭素数1〜3のパーフルオロアルキル基であり、aは1〜3の自然数であり、bは1〜2の自然数であり、cは0〜30までの整数である。〕

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はフッ化カルボニルの製造方法に関し、詳しくは連続操作による合成効率が高いフッ化カルボニルの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、半導体製造装置のクリーニングガスやドライエッチングガスとして、あるいは有機合成における中間体として、有用な化合物であるフッ化カルボニルを、安全で安価に製造することが求められている。
【0003】
フッ化カルボニルは、金属フッ化物存在下で、一酸化炭素とフッ素ガスを反応させることにより製造できることが既に開示されている(特許文献1)。しかしながら、可燃性の一酸化炭素と、反応性に富む支燃性ガスであるフッ素ガスを気相で反応させるため、反応が爆発的に進むおそれもあり、安全性の確保にコストがかかる。また、触媒である金属フッ化物の定期的な交換が必要であるなど工業プロセス化は困難である。
【0004】
特許文献2には、二酸化炭素とフッ素ガスを反応させてフッ化カルボニルを得る方法が開示されているが、フッ素ガスを使用する限り安全性の確保が困難である。
【0005】
別法として、一酸化炭素をフッ化水素などフッ素含有化合物と高温のプラズマ状態で反応させ、これを急冷してフッ化カルボニルを得る方法も開示されているが(特許文献3)、反応温度が1500℃の高温であり、工業プロセス化は非常に困難である。
【0006】
さらに、ホスゲンとフッ化水素を反応させて、塩化フッ化カルボニル及びフッ化カルボニルの混合物とし、塩化フッ化カルボニルを金属フッ化物と反応させてフッ化カルボニルを経済的に製造する方法も開示されているが(特許文献4)、ホスゲンとフッ化水素を反応させる第一反応槽、第一反応槽で生じた塩化フッ化カルボニルとフッ化カルボニル、及び未反応ホスゲンを分離する蒸留器、さらには塩化フッ化カルボニルと金属フッ化物を反応させる第二反応槽が必要であるため、設備化においては複雑なシステムが必要となり、工業化は容易ではない。
【0007】
特許文献5には、別法としてフルオロプロピレンオキサイドを合成した際の副生成物であるパーフルオロポリエーテル化合物を四級アンモニウム塩などの触媒存在下で熱分解することより、フッ化カルボニルを得る方法が開示されている。
【特許文献1】特開2003−221214号公報
【特許文献2】特開平11−116216号公報
【特許文献3】特表2002−515011号公報
【特許文献4】特開2004−262679号公報
【特許文献5】特開2003−313016号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献5では、副生成物を利用してフッ化カルボニルを製造するので、経済性に優れるが、触媒を必要とすること、副生成物であるパーフルオロポリエーテル化合物には過酸化物がある割合で含まれており、これをバッチ式で加熱するため、安全性の確保が困難である。
【0009】
本発明者らは以上の問題点に鑑み、鋭意検討を行なった結果、従来の特許文献5のように熱分解において四級アンモニウム塩などの触媒を必要とせず、パーフルオロポリエーテル化合物(PFPE)を連続的にキャリアガスで反応管内に誘導し、少量ずつパーフルオロポリエーテル化合物を熱分解することにより、一時に大量の過酸化物を加熱することなく、安全性が高く、合成効率も向上させることができることを見出した。
【0010】
そこで、本発明の課題は、連続操作による合成効率が高いフッ化カルボニルの製造方法を提供することにある。
【0011】
本発明の他の課題は以下の記載によって明らかになる。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題は以下の各発明によって解決される。
【0013】
(請求項1)
下記一般式(1)で示されるパーフルオロポリエーテル化合物の少なくとも1種から選ばれる化合物からなる原料を、キャリアガスとして空気を用いて、連続的に反応管内に誘導し、該反応管内を通過する間に前記化合物を350℃〜530℃の温度で熱分解することを特徴とするフッ化カルボニルの製造方法。
一般式(1)
【化2】

〔一般式(1)において、Rfは炭素数1〜3のパーフルオロアルキル基であり、aは1〜3の自然数であり、bは1〜2の自然数であり、cは0〜30までの整数である。〕
【0014】
(請求項2)
前記一般式(1)で示される化合物が、ヘキサフルオロプロピレンを酸化してヘキサフルオロプロピレンオキサイドを製造する際に蒸留残渣として副生する化合物であることを特徴とする許求項1記載のフッ化カルボニルの製造方法。
【0015】
(請求項3)
原料導入量Fと反応管内容積Vの比であるF/Vが10〜50g/ml・minの範囲で連続反応を行った際に、前記原料のうちの未反応原料の回収率が、10%以下であることを特徴とする許求項1又は2記載のフッ化カルボニルの製造方法。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、連続操作による合成効率が高いフッ化カルボニルの製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明の実施の形態を説明する。
【0018】
本発明のフッ化カルボニルの製造方法は、下記一般式(1)で示されるパーフルオロポリエーテル化合物の少なくとも1種から選ばれる化合物からなる原料を、キャリアガスとして空気を用いて、連続的に反応管内に誘導し、該反応管内を通過する間に前記化合物を350℃〜530℃の温度で熱分解することを特徴とする。
【0019】
一般式(1)
【化3】

【0020】
<一般式(1)の説明>
一般式(1)において、Rfは炭素数1〜3のパーフルオロアルキル基であり、好ましくは、パーフルオロプロピル基である。
【0021】
aは1〜3の自然数であり、好ましくは3である。
【0022】
bは1〜2の自然数であり、好ましくは2である。
【0023】
cは0〜30までの整数であり、好ましくは10〜20である。
【0024】
前記一般式(1)で示される化合物は、特に限定されないが、ヘキサフルオロプロピレンの酸化により、ヘキサフルオプロピレンオキサイド(HFPO)を製造する際に蒸留残渣(副生成物)として得られる化合物、例えばフッ化カルボニルが重合して生成されるオリゴマー化合物などは、適度な濃度の過酸化物を含むので好適である。
【0025】
また、ヘキサフルオロプロピレンオキサイドの蒸留釜からパーフルオロポリエーテル化合物(PFPE)を連続的にキャリアガス(空気)で反応管内に直接誘導し、反応管内を通過する間にPFPEを熱分解してフッ化カルボニル(COF)に構造変換できるので、連続的で効率がよく、製造コストも抑えられる。
【0026】
本発明のフッ化カルボニルの製造方法では、従来の特許文献5のように熱分解において四級アンモニウム塩などの触媒を必要とせず、パーフルオロポリエーテル化合物(PFPE)を連続的にキャリアガス(空気)で反応管内に誘導し、少量ずつパーフルオロポリエーテル化合物を熱分解するため、一時に大量の過酸化物を加熱することなく、安全性が高く、合成効率も向上させることができる。
【0027】
一般式(1)で示される化合物は、ある一定の割合で酸素原子同士の結合を持ち、過酸化物を形成している。過酸化物試験紙で測定した活性酸素濃度は100ppm〜500ppm程度であることが望ましい。
【0028】
<反応管の説明>
本発明においては、反応管として、連続反応床を採用することが、一時に大量の過酸化物を加熱することなく少量ずつパーフルオロポリエーテル化合物を熱分解する上で、好ましい。連続反応床は、例えば、反応管内に静的混合器やラシヒリングなどの充填材を装填して形成できる。
【0029】
熱分解を行なう反応管の長さ、口径は、パーフルオロポリエーテル化合物の導入量により決定され、特に限定はされない。
【0030】
<反応効率の評価>
本発明のような連続式反応系の場合には、反応効率の評価は、反応系内における原料の「滞留時間」を考慮し、「F/V」値をパラメータとして行うことができる。
【0031】
「F」は原料導入量、「V」は反応管内容積をそれぞれ意味し、本発明に適用できるF/V値の範囲は10〜50(g/ml・min)、好ましくは、20〜35(g/ml・min)である。
【0032】
10(g/ml・min)より小さいと、反応管サイズに対して、導入量が少なくなり、装置全体の合成効率が低下する。一方、50(g/ml・min)より大きいと、相対的に滞留時間が短くなり、未反応原料が増加してしまう。
【0033】
<反応温度の説明>
本発明において、反応温度は、350℃〜530℃の範囲であり、COF収率が60%以上を達成できる上で、450〜530℃の範囲であることが好ましい。
【0034】
反応温度が350℃未満では、未反応で回収されるパーフルオロポリエーテル化合物が増加し、収率の低下を招く。一方、530℃より高温すぎる場合は四フッ化炭素やアセチルフロライドの副生を招くため好ましくない。
【0035】
<COF収率と未反応原料回収率の説明>
本発明では、高い「COF収率」を実現できると共に、「未反応原料回収率」が10%未満を実現できる点に特徴がある。
【0036】
「COF収率」と「未反応原料回収率」に着目すると、「COF収率」はほぼ同等であっても、「未反応原料回収率」は操作条件によって大きく影響を受け、本発明の製法によってのみ10%未満を実現できる。
【0037】
「未反応原料回収率」が10%未満を実現できる理由は、後述の実施例において詳細に説明されているが、本発明の構成要件であるキャリアガスと反応温度が重要な役割を果たしている。
【0038】
即ち、キャリアガスに着目すると、反応温度が300℃の場合でも酸素を含む乾燥空気を使用すると、窒素ガスを使用した場合に比べ、「未反応原料回収率」は26.0%から17.2%に減少した。更に反応温度を400℃に上昇させると、酸素を含む乾燥空気を使用すると、窒素ガスを使用した場合に比べ、「未反応原料回収率」は10.1%から8.1%に減少し、10%未満を実現できる。
【0039】
以上のように、キャリアガスは、高温で安定なガスの中でも酸素を含む乾燥空気を用いることが本発明の効果を発揮する上で望ましい。
【0040】
このキャリアガスは、熱分解反応時、生じたガスを効率よく反応管から取り出す役割も果たす。
【0041】
本発明の製法以外では、未反応原料回収率が10%以上となり、本発明の目的を達成できないが、未反応原料回収率が10%以上となる理由としては、多段の熱分解工程が必要となって、消費エネルギーならびに処理時間が増加することが挙げられる。高温になると「未反応原料回収率」が逆に増加する理由としては、COF成分が反応系内で飽和になって、逆反応が優先してくるためと考えられる。
【0042】
以上説明した本発明の分解反応により得られたフッ化カルボニルは、精留等、公知の方法によって精製、高純度化することができる。
【実施例】
【0043】
以下に本発明の実施例を説明するが、本発明はかかる実施例によって限定されない。
【0044】
実施例1
加温設備、原料導入ポンプ、回収タンクの付帯した内面研磨されたSUS316L製の反応管(長さ300mm、内径200mm、内容積V=0.0942L)を使用し、下記原料導入量Fを2.2g/min、反応温度400℃、キャリアガスとして酸素を含む乾燥空気(流量50mL/min:露点−60℃以下)を用い、反応を行った。
【0045】
原料:ヘキサフルオロプロピレンの酸化により、ヘキサフルオプロピレンオキサイド(HFPO)を製造する際に蒸留残渣(副生成物)として得られるパーフルオロポリエーテル化合物(PFPE)を使用した。
【0046】
反応条件及び生成ガス組成、COF収率、未反応原料回収率、F/Vを表1に示す。
【0047】
なお、COF収率=(生成ガス中のCOF組成)×(1−未反応原料の回収率)、F/V=F(原料導入量)/V(反応管内容積)で計算できる。
【0048】
実施例2
原料導入量Fを2.3g/min、反応温度500℃とした以外は、実施例1と同様に反応を行った。
【0049】
反応条件及び生成ガス組成、COF収率、未反応原料回収率、F/Vを表1に示す。
【0050】
実施例3
長さ100mm、内径50mm、内容積(V)1.96Lの反応管を使用し、原料導入量Fを28g/min、反応温度450℃で、実施例1と同様に反応を行った。
【0051】
反応条件及び生成ガス組成、COF収率、未反応原料回収率、F/Vを表1に示す。
【0052】
比較例1
反応温度を300℃、キャリアガスを窒素として実施例1と同様に反応を行った。 反応条件及び生成ガス組成、COF収率、未反応原料回収率、F/Vを表1に示す。
【0053】
比較例2
原料導入量Fを2.1g/min、反応温度300℃とした以外は実施例1と同様に反応を行った。反応条件及び生成ガス組成、COF収率、未反応原料回収率、F/Vを表1に示す。
【0054】
比較例3
原料導入量Fを2.0g/min、キャリアガスを窒素として実施例1と同様に反応を行った。反応条件及び生成ガス組成、COF収率、未反応原料回収率、F/Vを表1に示す。
【0055】
比較例4
原料導入量Fを2.5g/min、反応温度を500℃、キャリアガスを窒素として実施例1と同様に反応を行った。反応条件及び生成ガス組成、COF収率、未反応原料回収率、F/Vを表1に示す。
【0056】
比較例5
原料導入量Fを2.9g/min、反応温度を550℃として実施例1と同様に反応を行った。反応条件及び生成ガス組成、COF収率、未反応原料回収率、F/Vを表1に示す。
【0057】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で示されるパーフルオロポリエーテル化合物の少なくとも1種から選ばれる化合物からなる原料を、キャリアガスとして空気を用いて、連続的に反応管内に誘導し、該反応管内を通過する間に前記化合物を350℃〜530℃の温度で熱分解することを特徴とするフッ化カルボニルの製造方法。
一般式(1)
【化1】

〔一般式(1)において、Rfは炭素数1〜3のパーフルオロアルキル基であり、aは1〜3の自然数であり、bは1〜2の自然数であり、cは0〜30までの整数である。〕
【請求項2】
前記一般式(1)で示される化合物が、ヘキサフルオロプロピレンを酸化してヘキサフルオロプロピレンオキサイドを製造する際に蒸留残渣として副生する化合物であることを特徴とする許求項1記載のフッ化カルボニルの製造方法。
【請求項3】
原料導入量Fと反応管内容積Vの比であるF/Vが10〜50g/ml・minの範囲で連続反応を行った際に、前記原料のうちの未反応原料の回収率が、10%以下であることを特徴とする許求項1又は2記載のフッ化カルボニルの製造方法。