説明

フッ化リン酸モノエステル塩の製造方法及びフッ化リン酸モノエステル塩

【課題】、容易に入手できる原料から極めて少ない工程で合成でき、収率が高く、単離操作も容易なフッ化リン酸モノエステル塩の製造方法を提供する。
【解決手段】下記一般式(1)で示されるリン酸ジアリールエステル(ただし、Ar及びAr´は置換基を有してもよいアリール基を示し、ArとAr´とが化学結合して環状構造となっている場合も含む。また、Rは置換基を有してもよいアルキル基を示す。)とフッ化四級アンモニウム及び/又はアルカリ金属のフッ化物とを反応させることにより、フッ化リン酸モノエステル塩を得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フッ化リン酸モノエステル塩の製造方法及びにフッ化リン酸モノエステル塩関する。
【背景技術】
【0002】
リン原子に直接フッ素原子が結合したフッ化リン酸ジエステル(a)は、神経伝達系に作用する薬物として知られている。
【化1】

【0003】
例えば、上記フッ化リン酸ジエステル(a)におけるRがイソプロピル基の化合物は、イソフルロフェートと呼ばれる緑内障治療薬として用いられている。
【0004】
一方、上記フッ化リン酸ジエステル(a)と構造的によく似た化合物であるフッ化リン酸モノエステル塩(c)は、Rがエチル基及びテトラヒドロフリル骨格を有する置換基についてのみ知られている(非特許文献1)。このフッ化リン酸モノエステル塩(c)は、下記反応式に示すように、0,0,S-チオホスホトリエステル(b)を経由して合成することができる(非特許文献1)。
【化2】

【0005】
【非特許文献1】C.Sund,JChattopadhyaya、tetraheadoron,,45,45,7523(1989)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記フッ化リン酸ジエステル(a)は水への溶解度が低いため、治療薬としては細胞浸透性が低く、細胞内への吸収が遅いと考えられる。
【0007】
これに対し、上記フッ化リン酸モノエステル塩(c)は塩の形であるため水溶性となり、体内への細胞浸透性に優れると考えられる。また、このフッ化リン酸モノエステル塩は、リン原子に水酸基が結合した遊離酸の形ではなく、塩の形となっているため、pHはさほど低くならず、生体へ投与した場合、細胞に与えるダメージも少ない。このため、フッ化リン酸モノエステル塩(c)は神経伝達系に作用する医薬品のための化合物ライブラリーを構築するのに好適な重要な化合物群であるといえる。
【0008】
また、フッ化リン酸モノエステル塩(c)は中性な分子であり、リン原子上の電子密度が高くなっているため、有機金属化合物と反応しないという性質を有している。このため、フッ化リン酸モノエステル塩(c)のアルコキシ基やアミノ基にキラルな置換基を結合させれば、不斉合成反応の新たな光学活性配位子として、極めて有望な化合物となる。
【0009】
また、リン酸塩は近年、硝酸塩に代わる難燃剤として注目されており、フッ化リン酸モノエステル塩(c)を難燃剤として利用することも考えられる。
【0010】
以上のように、フッ化リン酸モノエステル塩(c)は医薬品、有機合成、難燃剤等の様々な利用が見込まれる有用な化合物である。しかし、上記非特許文献1に記載のフッ化リン酸モノエステル塩(c)の製造方法では、原料となる0,0,S-チオホスホトリエステル(b)を合成するのに多段階を要し、トータルでの収率は低く、極めて手間がかかる製造方法しか知られていなかった。
【0011】
本発明は、上記従来の実情に鑑みてなされたものであり、容易に入手できる原料から極めて少ない工程で合成でき、収率が高く、単離操作も容易なフッ化リン酸モノエステル塩の製造方法及び新たなフッ化リン酸モノエステル塩を提供することを解決すべき課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明のフッ化リン酸モノエステル塩の製造方法は、下記一般式(1)で示されるリン酸ジアリールエステル(ただし、Ar及びAr´は置換基を有してもよいアリール基を示し、ArとAr´とが化学結合して環状構造となっている場合も含む。また、Rは置換基を有してもよいアルキル基を示す。)とフッ化四級アンモニウム及び/又はアルカリ金属のフッ化物とを反応させることを特徴とする。
【化3】

【0013】
本発明のフッ化リン酸モノエステル塩の製造方法において、原料となるリン酸ジアリールエステル並びにフッ化四級アンモニウム及び/又はアルカリ金属のフッ化物は、試薬として一般に市販されており、入手が極めて容易である。また、リン酸ジアリールエステルとフッ化四級アンモニウム及び/又はアルカリ金属のフッ化物とは、混合することによって、温和な条件で反応が進行し、高い収率でフッ化リン酸モノエステル塩を得ることができる。
【0014】
反応機構については、必ずしも明確にはなっていないが、次のように考えられる。すなわち、まずフッ素イオンがリン酸ジアリールエステル(1)のリン元素を求核攻撃し、脱離容易なArOが脱離して、フッ化リン酸ジエステル(2)となる。さらにArOが水と反応して水酸化物イオンが生じ、この水酸化物イオンがフッ化リン酸ジエステル(2)を加水分解してフッ化リン酸モノエステル(3)となる。そして、このフッ化リン酸モノエステルがフッ素イオンによって水素イオンを奪われ、目的のフッ化リン酸モノエステル塩(4)となる。
【化4】

【0015】
本発明のフッ化リン酸モノエステル塩の製造方法における反応溶媒は、非プロトン性極性溶媒であることが好ましい。非プロトン性極性溶媒中ではフッ素イオンや水酸イオンの求核性が高まり、リン元素への求核攻撃及びArOの脱離が容易となるからである。非プロトン性極性溶媒としては、例えばテトラヒドロフラン、アセトニトリル、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド等が挙げられる。発明者らは、反応溶媒としてテトラヒドロフランを用いることにより、高い収率でフッ化リン酸モノエステル塩が得られることを確認している。
【0016】
フッ化リン酸モノエステル塩は、以下の方法によって製造することができる。すなわち、本発明のフッ化リン酸モノエステル塩の製造方法は、下記一般式(1)で示されるリン酸ジアリールエステル(ただし、Ar及びAr´は置換基を有してもよいアリール基を示し、ArとAr´とが化学結合して環状構造となっている場合も含む。また、Rは置換基を有してもよいアルキル基を示す。)とフッ化四級アンモニウム及び/又はアルカリ金属のフッ化物とを反応させる反応工程と、該反応工程で得られた反応液を水で抽出する水抽出工程と、該抽出工程で得られた水層を有機溶媒で抽出する有機溶媒抽出工程と、を備えることを特徴とする。
【化5】

【0017】
反応工程で生成したフッ化リン酸モノエステル塩は、水にも溶解するが、ハロゲン化炭化水素にはさらに溶解しやすい。このため、反応工程で得られた反応液中のフッ化リン酸モノエステル塩を水で抽出し、さらにその水層をハロゲン化炭化水素で抽出することにより、極めて容易に目的のフッ化リン酸モノエステル塩を単離することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
本発明において原料となるリン酸ジアリールエステル(1)は、市販されている塩化リン酸ジアリールエステル(5)と脂肪族アルコール(6)とをトリアルキルアミン又はピリジンの存在下でリン酸エステル化させることにより、容易かつ高収率で得ることができる(下記反応式参照)。
【0019】
【化6】

【0020】
ただし、リン酸ジアリールエステル(1)におけるArとAr´とが化学結合して環状構造となっている場合には、塩化リン酸ジアリールエステルのリン元素に二重結合で結合する酸素がセレンで置き換わった酸塩化物を用い、最後に過酸化水素で酸化してリン酸ジアリールエステルとする方が、収率良く相当するリン酸ジアリールエステルを得ることができる。例えば、ビナフチル基の場合を例に挙げれば、以下のとおりである。
【0021】
【化7】

【0022】
また、フッ素源としてアルカリ金属のフッ化物を用いる場合には、クラウンエーテルを添加することも好適である。こうであれば、アルカリ金属のフッ化物の溶解度を高めることができるとともに、フッ素イオンの求核性も高まり、反応がさらに進みやすくなるからである。
【0023】
以下、本発明を具体化した実施例を詳細に述べる。
(実施例1)
実施例1では、下記化学式に示す方法により、O-3-フェニルブチルフッ化リン酸テトブ
チルアンモニウム塩(6a)を合成した。
【化8】

【0024】
<反応工程>
ビナフチル基を有するリン酸エステル5a(480 mg, 1 mmol)THF 溶液 (4 mL)にフッ化テトラブチルアンモニウムTHF溶液 (1M solution, 1.2 mL, 1.2 mmol)を
0 °Cで加え、混合物を室温で3時間撹拌した。
<水抽出工程>
反応混合液を濃縮し、水に注ぎ、エーテルで洗浄を行った。
<有機溶媒抽出工程>
ついで水層を塩化メチレンで抽出し、有機層を硫酸マグネシウムで乾燥、濃縮し、 O-3-フェニルブチルフッ化リン酸テトラブチルアンモニウム塩6aを黄色オイルとして(331 mg, 70%)得た。以下に、そのスペクトルデータを示す。
【0025】
IR(neat): 2963, 2876, 2197, 1711, 1603, 1460, 1383, 1280, 1112, 1063, 1029, 1010,930, 909, 765, 731, 702, 641, 552, 499 cm-1; 1H NMR (CDCl3):0.92(t, J = 7.2 Hz, 12H, CH2CH3), 1.18 (d, J= 7.2 Hz, 3H, CHCH3), 1.36 (sex, J = 7.3 Hz, 8H, CH2CH3),1.53-1.61 (m, 8H, CH2CH2CH3), 1.84 (q, J= 6.9 Hz, 2H, CHCH2), 2.88 (sex, J = 7.2 Hz, 1H, CH),3.20-3.24 (m, 8H, NCH2), 3.78-3.87 (m, 2H, OCH2),7.05-7.18 (m, 5H, Ar); 13C NMR (CDCl3):13.7 (CH2CH3),19.7 (CH2CH3), 21.9 (CHCH3),24.0 (CH2CH2CH3), 35.9 (CHCH2CH2),39.1 (d, J = 7.2 Hz, CHCH2), 58.8 (NCH2),64.2 (d, J = 4.8 Hz, OCH2), 125.7, 127.1, 128.3, 147.4(Ar); 19F NMR (CDCl3):-78.1 (d, JP-F =920.9 Hz); 31P NMR (CDCl3):-4.6 (d, JP-F= 920.9 Hz); MS (FAB+): m/z: 242: [M+], (FAB-):m/z: 231: [M-];
【0026】
(実施例2)
実施例2では、下記化学式に示す方法により、O-1-メチル-3-フェニルプロピルフッ化リン酸テトラブチルアンモニウム塩(6b)を合成した。
【化9】

【0027】
<反応工程>
ビナフチル基を有するリン酸エステル5b(480 mg, 1 mmol)THF 溶液 (4 mL)にフッ化テトラブチルアンモニウムTHF溶液 (1M solution,
1.2 mL, 1.2 mmol)を 0 °Cで加え、混合物を室温で3時間撹拌した。
<水抽出工程>
反応混合液を濃縮し、水に注ぎ、エーテルで洗浄をおこなった。
<有機溶媒抽出工程>
ついで水層を塩化メチレンで抽出し、有機層を硫酸マグネシウムで乾燥、濃縮し、 O-1-メチル-3-フェニルプロピルフッ化リン酸テトラブチルアンモニウム塩6bを黄色オイルとして(357 mg, 76%)得た。以下に、そのスペクトルデータを示す。
【0028】
IR(neat): 2962, 2875, 2736, 2514, 1945, 1795, 1641, 1603, 1488, 1462, 1267, 1111,1081, 1055, 1028, 989, 920, 884, 806, 749, 701, 592, 554, 504, 494, 459, 433,412, 403 cm-1; 1H NMR (CDCl3):1.00 (t, J= 7.4 Hz, 12H, CH2CH3), 1.33 (d, J = 6.0Hz, 3H, CHCH3), 1.44 (sex, J = 7.3 Hz, 8H, CH2CH3),1.61-1.69 (m, 8H, CH2CH2CH3), 1.74-1.98(m, 2H, CHCH2), 2.64-2.72 (m, 1H, CHCH2CH2),2.80-2.87 (m, 1H, CHCH2CH2), 3.29-3.33 (m, 8H, NCH2),4.46 (sep, J = 6.6 Hz, 1H, OCH), 7.12-7.25 (m, 5H, Ar); 13CNMR (CDCl3):13.6 (CH2CH3),19.6 (CH2CH3), 21.8 (CHCH3),23.9 (CH2CH2CH3), 31.8 (CHCH2CH2),39.1 (d, J = 6.3 Hz, CHCH2), 58.6 (NCH2),72.3 (d, J = 6.3 Hz, OCH), 125.4, 127.0, 128.2, 147.3, 147.4(Ar);19F NMR (CDCl3):-78.2 (d, JP-F = 919.1 Hz); 31P NMR(CDCl3):-5.2 (d, JP-F = 919.1 Hz); MS (FAB+):m/z: 242: [M+], (FAB-): m/z: 231: [M-];
【0029】
(実施例3)
実施例3では、下記化学式に示す方法により、O-2-ナフチルエチルフッ化リン酸テトラブチルアンモニウム塩(6c)を合成した。
【化10】

【0030】
<反応工程>
フェニル基を有するリン酸エステル5c(194 mg, 0.5 mmol)THF 溶液 (1 mL)にフッ化テトラブチルアンモニウムTHF溶液 (1M solution,
0.6 mL, 0.6 mmol)を 0 °Cで加え、混合物を室温5時間撹拌した。
<水抽出工程>
反応混合液を濃縮し、水に注ぎ、エーテルで洗浄をおこなった。
<有機溶媒抽出工程>
ついで水層を塩化メチレンで抽出し、有機層を硫酸マグネシウムで乾燥、濃縮し、O-2-ナフチルエチルフッ化リン酸テトラブチルアンモニウム塩6cを黄色オイルとして(214 mg, 86%)得た。以下に、そのスペクトルデータを示す。
【0031】
IR(neat): 3052, 2962, 2875, 2193, 1632, 1601, 1508, 1469, 1382, 1113, 1067, 1038,931, 887, 856, 819, 784, 731, 640, 533, 498, 478 cm-1; 1HNMR (CDCl3):0.98 (t, J = 7.4 Hz, 12H, CH2CH3),1.18 (d, J = 7.2 Hz, 3H, CHCH3), 1.40 (sex, J =7.4 Hz, 8H, CH2CH3), 1.55-1.63 (m, 8H, CH2CH2CH3),3.15 (t, J = 7.4 Hz, 2H, OCH2CH2),3.20-3.25 (m, 8H, NCH2), 4.27 (dt, J = 7.6 Hz, 7.5 Hz,2H, OCH2CH2), 7.38-7.45, 7.70-7.79 (m, 5H, Ar); 13CNMR (CDCl3):13.7 (CH2CH3), 19.7 (CH2CH3),24.0 (CH2CH2CH3), 37.4 (d, J =6.8 Hz, OCH2CH2), 58.8 (NCH2),66.5 (d, J = 5.4 Hz, OCH2), 125.1, 125.7, 127.3,127.6, 127.7, 127.9, 132.1, 133.6, 136.5 (Ar); 19F NMR (CDCl3):-78.0(d, JP-F = 923.2 Hz); 31P NMR (CDCl3):-5.0(d, JP-F = 923.2 Hz).
【0032】
(実施例4)
実施例4では、下記化学式に示す方法により、O-2-ナフチルエチルフッ化リン酸テトラブチルアンモニウム塩(6d)を合成した。
【化11】

【0033】
<反応工程>
ビナフチル基を有するリン酸エステル5d(122 mg, 0.25 mmol)THF 溶液 (1 mL)にフッ化テトラブチルアンモニウムTHF溶液 (1M
solution, 0.3 mL, 0.3 mmol)を 0 °Cで加え、混合物を室温3.5時間撹拌した。
<水抽出工程>
反応混合液を濃縮し、水に注ぎ、エーテルで洗浄をおこなった。
<有機溶媒抽出工程>
ついで水層を塩化メチレンで抽出し、有機層を硫酸マグネシウムで乾燥、濃縮し、O-[(1R,2S,5R)-5-メチル-2-(1-メチルエチル)シクロヘキシルフッ化リン酸テトラブチルアンモニウム塩6dを白色固体として(81mg, 68%)得た。以下に、その融点及びスペクトルデータを示す。
【0034】
mp:48-49°C; IR (KBr): 2967, 2872, 2733, 2360, 2341, 1645, 1487, 1383, 1281, 1179,1151, 1094, 1078, 1060, 1028, 1000, 931, 884, 825, 807, 750, 552, 520, 495,453, 413 cm-1; 1H NMR (CDCl3):0.70-0.77 (m,1H), 0.74 d, J = 7.2 Hz, 3H, OCHCH2CHCH3),0.79 d, J = 6.8 Hz, 3H, OCHCH2CHCH(CH3)2),0.80 d, J = 7.2 Hz, 3H, OCHCH2CHCH(CH3)2),0.86-1.02 (m, 1H), 0.94 (t, J = 7.4 Hz, 12H, CH2CH3),1.16-1.23 (m, 1H), 1.38 (sex, J = 7.3 Hz, 8H, CH2CH3),1.33-1.63 (m, 4H), 1.53-1.63 (m, 8H, CH2CH2CH3),2.25-2.28 (m, 2H), 3.24-3.28 (m, 8H, NCH2), 3.93-4.01 m, 1H,OCH); 13C NMR (CDCl3):13.6 (CH2CH3),15.8, 19.6 (CH2CH3), 21.2, 22.1, 22.9, 23.9 (CH2CH2CH3),25.2, 31.4, 34.5, 43.0, 48.8 (d, J = 7.2 Hz), 58.6 (NCH2),75.7 (d, J = 6.3 Hz, OCH); 19F NMR (CDCl3):-74.7(d, JP-F = 919.5 Hz); 31P NMR (CDCl3):-5.4(d, JP-F = 919.5 Hz).
【0035】
(実施例5)
実施例5では、下記化学式に示す方法により、O-(1-メチルエテニル)-5-メチル-4-ヘキセニルフッ化リン酸テトラブチルアンモニウム塩(6e)を合成した。
【化12】

【0036】
<反応工程>
フェニル基を有するリン酸エステル5e(138 mg, 0.35 mmol)THF 溶液 (1 mL)にフッ化テトラブチルアンモニウムTHF溶液 (1Msolution, 0.42 mL, 4.2 mmol)を 0 °Cで加え、混合物を室温4 時間撹拌した。
<水抽出工程>
反応混合液を濃縮し、水に注ぎ、エーテルで洗浄をおこなった。
<有機溶媒抽出工程>
ついで水層を塩化メチレンで抽出し、有機層を硫酸マグネシウムで乾燥、濃縮し、O-[(1R,2S,5R)-5-メチル-2-(1-メチルエチル)シクロヘキシルフッ化リン酸テトラブチルアンモニウム塩6eを白色固体として(107mg, 64%)得た。以下に、そのスペクトルデータを示す。
【0037】
IR (KBr): 2963, 2876, 2360, 1648, 1460,1384, 1275, 1114, 1051, 887, 849, 797, 497, 453, 435, 423 cm-1; 1HNMR (CDCl3):1.00 (t, J = 7.4 Hz, 12H, CH2CH3),1.44 (sex, J = 7.4 Hz, 8H, CH2CH3), 1.58(s, 3H, CH3C=CH2), 1.61-1.69 (m, 8H, CH2CH2CH3),1.68 (s, 6H, CHC(CH3)2), 1.99-2.07 (m, 1H, OCH2CHCH2),2.25-2.32 (m, 1H, OCH2CHCH2), 2.41 (quin, J= 7.0 Hz, 1H, OCH2CH), 3.29-3.33 (m, 8H, NCH2),3.86-3.97 (m, 2H, OCH2), 4.71-4.76 (m, 1H, C=CH2),4.76-4.78 (m, 1H, C=CH2), 5.04-5.07 (m, 1H, (CH3)2C=CH);13C NMR (CDCl3):13.7 (CH2CH3),17.9 ((CH3)2C=CH), 19.7 (CH2CH3),20.1 (CH2=CHCH3), 24.0 (CH2CH2CH3),25.8 (OCH2CHCH2), 28.4 ((CH3)2C=CH),47.9 (d, J = 7.7 Hz, OCH2CH), 58.6 (NCH2),68.0 (d, J = 5.8 Hz, OCH2), 111.8 (CH3C=CH2),122.5 ((CH3)2C=CH), 131.9 ((CH3)2C=CH),145.7 (CH3C=CH2); 19F NMR (CDCl3):-78.7(d, JP-F = 921.0 Hz); 31P NMR (CDCl3):-4.7(d, JP-F = 921.0 Hz).
【0038】
上記実施例1〜5では、フッ素イオン源としてフッ化テトラブチルアンモニウムを用いたが、アルカリ金属のフッ化物(フッ化ナトリウム、フッ化カリウム、フッ化セシウム及びフッ化ルビジウム)を用いることもできる。
【0039】
(実施例6)
実施例6では、フッ素源としてアルカリ金属のフッ化物であるフッ化カリウムを用いた下記反応式に示す方法により、フッ化リン酸モノエステルカリウム塩7を得た。
【化13】

【0040】
<反応工程>
すなわち、ビナフチル基を有するリン酸エステル5d(243 mg, 0.5 mmol)THF 溶液 (2.5 mL)にフッ化カリウム (58 mg, 1 mmol)及び18-クラウン-6-エーテル(132mg, 0.5 mmol)を室温で加え、混合物を4時間加熱還流を行うことにより、フッ化リン酸モノエステルカリウム塩7を得た(変換率44%)。構造確認のために行った31P NMRのスペクトルデータは以下のとおりであった。31P NMR (CDCl3)-4.66(1JP-F = 904.5 Hz).
【0041】
この発明は、上記発明の実施例の説明に何ら限定されるものではない。特許請求の範囲の記載を逸脱せず、当業者が容易に想到できる範囲で種々の変形態様もこの発明に含まれる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で示されるリン酸ジアリールエステル(ただし、Ar及びAr´は置換基を有してもよいアリール基を示し、ArとAr´とが化学結合して環状構造となっている場合も含む。また、Rは置換基を有してもよいアルキル基を示す。)とフッ化四級アンモニウム及び/又はアルカリ金属のフッ化物とを反応させることを特徴とするフッ化リン酸モノエステル塩の製造方法。
【化1】

【請求項2】
反応溶媒は非プロトン性極性溶媒であることを特徴とする請求項1記載のフッ化リン酸モノエステル塩の製造方法。
【請求項3】
下記一般式(1)で示されるリン酸ジアリールエステル(ただし、Ar及びAr´は置換基を有してもよいアリール基を示し、ArとAr´とが化学結合して環状構造となっている場合も含む。また、Rは置換基を有してもよいアルキル基を示す。)とフッ化四級アンモニウム及び/又はアルカリ金属のフッ化物とを反応させる反応工程と、
該反応工程で得られた反応液を水で抽出する水抽出工程と、
該抽出工程で得られた水層を有機溶媒で抽出する有機溶媒抽出工程と、
を備えることを特徴とする請求項1又は2記載のフッ化リン酸モノエステル塩の製造方法。
【化2】

【請求項4】
有機溶媒抽出工程で用いられる有機溶媒は、ハロゲン化炭化水素であることを特徴とする請求項3記載のフッ化リン酸モノエステル塩の製造方法。
【請求項5】
下記一般式(4)で示されるフッ化リン酸モノエステル塩。(ここで、M+はカチオンを示し、Rは置換基を有してもよいアルキル基(ただしエチル基及びテトラヒドロフリル骨格を有する置換基を除く)を示す)。
【化3】


【公開番号】特開2008−231026(P2008−231026A)
【公開日】平成20年10月2日(2008.10.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−72920(P2007−72920)
【出願日】平成19年3月20日(2007.3.20)
【出願人】(304019399)国立大学法人岐阜大学 (289)
【Fターム(参考)】