説明

フッ素ガス濃度の測定方法

【課題】市販のフッ素ガス濃度計の感度を大幅に向上させ、各種試料ガスに対して高感度でフッ素ガスの濃度測定が可能なフッ素ガス濃度の測定方法を提供する。
【解決手段】フッ素ガスとの接触により選択的発光反応を生じる反応体を備えたフッ素ガス濃度計の前記反応体に、フッ素及び水分を実質的に含有しないガスを接触させ、前記反応体の含有水分量を、未使用時の状態から低減させた状態でフッ素ガス濃度の測定を行う。また、前記反応体に、ある特定の吸収帯が消失し、別の吸収帯が出現するような改質処理を行ってからフッ素ガス濃度の測定を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フッ素ガス濃度の測定方法に関し、詳しくは、WF、NF等の特殊材料ガス(純ガス)や、OベースNF等の特殊材料ガスをフッ素ガスを全く含まない酸素、窒素、アルゴン等のバルクガスにて希釈した混合ガス、プラズマCVD装置の後段に設置された除害装置排ガス等に含まれる微量フッ素ガスの濃度を測定するための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
各種ガス中に含まれる微量フッ素ガスの濃度をリアルタイムに計測することは困難であったが、最近になって、特定の物質、例えば有機物とフッ素ガスとの選択的発光反応を利用したフッ素ガス濃度計が市販されている。このフッ素ガス濃度計は、前記発光反応がガス中に含まれるフッ素ガスの濃度に依存することから、発生した光を光電子増倍管等で増幅して濃度を検出するものであり、フッ素ガスそのものを高感度かつリアルタイムに計測できる分析器として有望視されている。このフッ素ガス濃度計の感度(検出下限)は、概ね数十ppbである(例えば、非特許文献1参照。)。
【非特許文献1】三洋貿易株式会社、科学機器事業部、メーカー別製品案内、米URS Corporation、フッ素ガス濃度計[平成17年9月21日検索]、インターネット<URL:http://www.sanyo-si.com/maker/u_urs.html>
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかし、前記特殊材料ガス(純ガス)中のフッ素ガスの測定に要求される分析計の感度(検出下限)は、概ねサブppmから10ppb程度であり、前記濃度計は充分な感度を有しているといえる。ただし、これらの特殊材料ガスは、反応性や腐食性、毒性を有するガスであり、分析計自体への悪影響、例えば、これらのガスと接した部分の劣化や吸着等によるメモリー効果等や、分析計の後段に通常設置されている除害装置への負荷等を踏まえると、分析の際に使用するガス量はできるだけ少ない方が望ましいといえる。しかしながら、前記濃度計に試料ガスを導入する際のガス流量は通常1〜4L/minであり、この流量を保ちつつ前記試料ガスの流量をできるだけ少なくするためには、前記試料ガスをフッ素を全く含まないガスにて希釈後に前記濃度計へ導入する必要があり、このときのフッ素ガス濃度は、前記濃度計の検出下限以下になってしまう。
【0004】
また、特殊材料ガスを、フッ素ガスを全く含まないバルクガスにて希釈した混合ガスを試料ガスとする場合、希釈前の純ガスの状態での不純物管理のための分析と同等の分析を行うためにも、前記濃度計の感度アップは重要である。
【0005】
さらに試料ガスが除害装置排ガスの場合、分析の際に求められる感度は0.1ppm程度であり(ACGIH(米国産業衛生専門家会議)のフッ素ガスの許容濃度は1ppm、日本産業衛生学会はデータ無し。)、試料ガス流量として前記流量が確保できる場合には特段問題はないものの、流量確保ができない場合、すなわち、排ガス流量が非常に少ない除害装置においては、前記濃度計への流量を必要流量とするため、排ガスをフッ素ガスを全く含まないガスで希釈してから前記濃度計へ導入する必要があり、この場合も濃度計の感度アップが重要である。
【0006】
以上のように、フッ素ガス濃度の測定が要求される各種の試料ガスは、分析計、濃度計や関連設備の負荷軽減のために試料を希釈することが望ましい試料、試料そのものが元来フッ素ガス濃度を測定したいガスを希釈した試料、ガス流量の制限から試料ガスを希釈しなければならない試料であることもあり、これらの場合には、前記フッ素ガス濃度計では感度(検出下限)が不充分であり、該濃度計の感度の向上が求められていた。
【0007】
そこで本発明は、前記フッ素ガス濃度計の感度を向上させ、各種試料ガスに対して高感度でフッ素ガスの濃度測定が可能なフッ素ガス濃度の測定方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため、本発明のフッ素ガス濃度の測定方法は、フッ素ガスとの接触により選択的発光反応を生じる反応体を備え、該反応体とフッ素ガスとの選択的発光反応により生じた光の強度を検出することによってフッ素ガスの濃度を測定するフッ素ガス濃度計を使用したフッ素ガス濃度の測定方法であって、前記反応体に、フッ素及び水分を実質的に含有しないガスを接触させ、前記反応体の含有水分量を、未使用時の状態から低減させた状態でフッ素ガス濃度の測定を行うことを特徴とするものであり、特に、前記反応体の含有水分量を、未使用時の状態に対して20%以下に低減することを特徴としている。
【0009】
また、本発明のフッ素ガス濃度の測定方法は、上述のような含有水分量の低減等の処理を行うことにより、前記反応体を、1190〜1230、1640〜1680及び2090〜2130cm−1に特徴的な吸収ピークを持つ物質に変化させたり、800〜860、960〜1000及び1360〜1400cm−1に吸収ピークを持たない物質に変化させたりした状態でフッ素ガス濃度の測定を行うことを特徴としている。
【発明の効果】
【0010】
本発明のフッ素ガス濃度の測定方法によれば、前記フッ素ガス濃度計の感度を大幅に向上させることができ、試料ガス中の極微量のフッ素ガス濃度を正確に測定することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
まず、前記フッ素ガス濃度計を使用し、フッ素ガスをまったく含まない窒素ガスから、フッ素ガスを50ppb含む窒素ガスに切り換えて発光強度を連続的に測定した。その結果、図1に示す結果が得られた。すなわち、フッ素ガスを全く含まない窒素ガスを前記濃度計へ導入した際の発光強度は、500photns/sec程度であったものが、フッ素ガスを50ppb含む窒素ガスへ切り換えたときには、1800photns/sec程度となり、両者では発光強度に有意な差があるものとなった。
【0012】
また、図2はppb領域での前記フッ素ガス濃度計の検量線データである。このデータから、フッ素ガス濃度が一桁ppbあるいはそれ以下の場合、該濃度計の発光強度が1000photns/sec以下になると予測される。この予測と図1におけるフッ素ガス濃度が一定であるガスの発光強度のばらつきとを考慮すると、フッ素を全く含まないガスと一桁ppbあるいはそれ以下の濃度のフッ素ガスを含むガスとの発光強度の差をこの濃度計にて識別することは不可能であることが分かる。すなわち、この濃度計を用いて一桁ppbあるいはそれ以下の濃度のフッ素ガスを計測することはできないことが分かる。
【0013】
図3及び図4は、前記フッ素ガス濃度計に用いられているフッ素ガスと選択的発光反応を起す反応体の表面のFTIR(フーリエ変換赤外分光光度計)スペクトルである。図3は、前記反応体が未使用、つまり、フッ素ガス等のガスと接触していない新品時のスペクトルであり、図4は、フッ素ガスを含むガスをある程度流した使用後のスペクトルである。
【0014】
両者を比較すると、両者共に吸収波長800〜860、960〜1000及び1360〜1400cm−1のところに特徴的な吸収ピークが存在することが分かる。また、両スペクトルでは、共に1190〜1230、1640〜1680及び2090〜2130cm−1には特徴的な吸収ピークは存在していない。さらに、スペクトル全体を見ても両者は非常によい一致を示していることから、通常の使用において起こるフッ素ガスとの選択的発光反応は、前記反応体のFTIRスペクトルに変化を起す反応ではないことが分かる。
【0015】
一方、図5は、未使用状態の前記反応体にフッ素及び水分を実質的に含有しないガスを接触させる処理を行った後の反応体のスペクトルを示している。このスペクトルは、前記図3及び図4に示した二つのスペクトルとは異なり、吸収波長800〜860、960〜1000及び1360〜1400cm−1のところの特徴的な吸収ピークが消失し、新たに吸収波長1190〜1230、1640〜1680及び2090〜2130cm−1に特徴的な吸収ピークが出現していることが分かる。
【0016】
すなわち、前述のような処理を行うことにより、通常の使用では起こり得ない前記反応体のFTIRスペクトルに変化を起す反応が生じ、反応体を構成する有機物がこのような特性を有する物質に変化したことになる。
【0017】
図6は、上述のようにして前記反応体を改質したフッ素ガス濃度計を使用し、前記同様に、フッ素ガスをまったく含まない窒素ガスから、フッ素ガスを50ppb含む窒素ガスに切り換えて発光強度を連続的に測定した結果を示すものである。この図6の結果から、フッ素ガスを50ppb含む窒素ガスへ切り換えたときの発光強度が約1.8×10photons/secになっていることが分かる。すなわち、図1と対比すると、同一濃度のフッ素ガスを同じフッ素ガス濃度計で測定した際の発光強度が、約1000倍に向上していることが分かる。
【0018】
なお、前述のような反応体の改質は、前述の未使用状態の前記反応体にフッ素及び水分を実質的に含有しないガスを接触させる処理に限らず、反応体が前記同様に改質されるならば、加熱や冷却、他の成分との接触等、各種処理を利用することができる。
【0019】
前述の未使用状態の前記反応体にフッ素及び水分を実質的に含有しないガス(以下、ドライガスという。)を接触させる処理は、含有水分量が一桁ppbレベルで、フッ素ガスをまったく含まないガス、例えば高純度の窒素ガスを前記ドライガスとして使用し、このドライガスを前記フッ素ガス濃度計に長時間流通させて反応体とドライガスとを接触させることにより、ドライガスに接触した反応体から水分を取り除き、反応体の含有水分量を未使用時の状態から低減させる処理である。
【0020】
反応体の水分の低減量は、未使用時の反応体における含有水分量を100%として、含有水分量を40%以下、特に、20%以下まで低減することが望ましい。図7は、反応体の水分含有率(未使用時=100%)と発光強度との関係を示すもので、図7から分かるように、水分含有率が40%を切った付近から発光強度の増加現象が見られるようになり、20%付近で発光強度が飛躍的に増加し、20%以下では一定となることが分かった。
【0021】
したがって、反応体の水分含有率を20%以下に低減することにより、発光強度を約1000倍に向上させることができ、より低濃度のフッ素ガスを確実に測定できることが分かる。
【0022】
反応体の水分を低減させる処理として、まず、通常に使用していたフッ素ガス濃度計において、反応体となる有機物が塗布されたセンサ部品を新品に交換後、水分濃度が5ppbでフッ素ガスを全く含まない窒素ガスを、大気圧及び室温で1L/minの流量にて45日間連続して流通させた。反応体の変化をカールフィッシャー水分計及びFTIRにて調査した結果、含有水分量は、未使用時に比べて13.2%に減少していることが確認され、かつ、FTIRの測定においては、前述の図5に示したようなスペクトルが得られた。すなわち、反応体が改質されたことにより、ある特定の吸収帯が消失し、別の吸収帯が出現したことになる。
【0023】
この改質された反応体を使用したフッ素ガス濃度計を使用し、フッ素ガスをまったく含まない窒素ガスから、フッ素ガスを50ppb含む窒素ガスに切り換えて発光強度を連続的に測定した結果が、前述の図6に示すものである。すなわち、図1における発光強度である約1.8×10photons/secに比べると、図6における発光強度は約1.8×10photons/secであるから、発光強度は約1000倍となっている。
【0024】
一方、水分低減処理を行わずに、通常の状態で約1か月使用した後のフッ素ガス濃度計で前記同様の測定を行ったところ、図8に示すように、フッ素ガス濃度50ppbにおける発光強度は約1.3×10photons/secであり、僅かに低下していた。このことから、単なる時間の経過では、前述のような反応体の改質は生じることはなく、ドライガスとの接触等の処理をあらかじめ行ってからフッ素ガス濃度の測定を行うことにより、高感度な測定が可能になることが分かる。また、1か月使用後の反応体にドライガスを接触させたが、前述のような改質効果はほとんど見られず、未使用の反応体にドライガスを接触させて水分を低減しなければ、充分な効果が得られないことが分かった。
【0025】
これらのことから、フッ素ガス濃度計におけるセンサを構成する有機物からなる反応体に対して、前述のようなスペクトルの変化が生じるような改質を行ったり、含有水分量を未使用時に比べて低減、特に、20%以下にまで低減したりすることにより、フッ素ガス濃度計の感度を大幅に向上させることができることがわかる。これにより、フッ素ガス濃度計の負荷軽減のために希釈された試料ガス、それ自体が既に希釈された状態となっている試料ガス、流量を増加させるために希釈された試料ガス、その他の各種ガス中の極微量のフッ素ガスを高感度で測定することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】通常の状態のフッ素ガス濃度計を使用し、フッ素ガスをまったく含まない窒素ガスから、フッ素ガスを50ppb含む窒素ガスに切り換えて発光強度を連続的に測定した結果を示す図である。
【図2】同じくフッ素ガス濃度計のppb領域における検量線データを示す図である。
【図3】同じくフッ素ガス濃度計における反応体が新品時のFTIRスペクトルを示す図である。
【図4】同じくフッ素ガスを含むガスをある程度流した使用後の反応体のFTIRスペクトルを示す図である。
【図5】未使用状態の反応体にフッ素及び水分を実質的に含有しないガスを接触させる処理を行った後の反応体のFTIRスペクトルを示す図である。
【図6】反応体を改質したフッ素ガス濃度計を使用し、フッ素ガスをまったく含まない窒素ガスから、フッ素ガスを50ppb含む窒素ガスに切り換えて発光強度を連続的に測定した結果を示す図である。
【図7】反応体の水分含有率(未使用時=100%)と発光強度との関係を示す図である。
【図8】通常の状態で約1か月使用した後のフッ素ガス濃度計を使用し、フッ素ガスをまったく含まない窒素ガスから、フッ素ガスを50ppb含む窒素ガスに切り換えて発光強度を連続的に測定した結果を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フッ素ガスとの接触により選択的発光反応を生じる反応体を備え、該反応体とフッ素ガスとの選択的発光反応により生じた光の強度を検出することによってフッ素ガスの濃度を測定するフッ素ガス濃度計を使用したフッ素ガス濃度の測定方法であって、前記反応体に、フッ素及び水分を実質的に含有しないガスを接触させ、前記反応体の含有水分量を、未使用時の状態から低減させた状態でフッ素ガス濃度の測定を行うことを特徴とするフッ素ガス濃度の測定方法。
【請求項2】
前記反応体の含有水分量を、未使用時の状態に対して20%以下に低減することを特徴とする請求項1記載のフッ素ガス濃度の測定方法。
【請求項3】
フッ素ガスとの接触により選択的発光反応を生じる反応体を備え、該反応体とフッ素ガスとの選択的発光反応により生じた光の強度を検出することによってフッ素ガスの濃度を測定するフッ素ガス濃度計を使用したフッ素ガス濃度の測定方法であって、前記反応体を、1190〜1230、1640〜1680及び2090〜2130cm−1に特徴的な吸収ピークを持つ物質に変化させた状態でフッ素ガス濃度の測定を行うことを特徴とするフッ素ガス濃度の測定方法。
【請求項4】
フッ素ガスとの接触により選択的発光反応を生じる反応体を備え、該反応体とフッ素ガスとの選択的発光反応により生じた光の強度を検出することによってフッ素ガスの濃度を測定するフッ素ガス濃度計を使用したフッ素ガス濃度の測定方法であって、前記反応体を、800〜860、960〜1000及び1360〜1400cm−1に吸収ピークを持たない物質に変化させた状態でフッ素ガス濃度の測定を行うことを特徴とするフッ素ガス濃度の測定方法。
【請求項5】
前記反応体の前記物質への変化を、前記反応体にフッ素及び水分を実質的に含有しないガスを接触させることによって行うことを特徴とする請求項3又は4記載のフッ素ガス濃度の測定方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2007−212379(P2007−212379A)
【公開日】平成19年8月23日(2007.8.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−34915(P2006−34915)
【出願日】平成18年2月13日(2006.2.13)
【出願人】(000231235)大陽日酸株式会社 (642)
【Fターム(参考)】