説明

フッ素化カーボナート類とその製造方法

【課題】本発明は、リチウム電池、リチウムイオン電池、電気二重層キャパシタ等の電気化学ディバイスに用いられる電解液もしくは電解液への添加剤、機能性材料中間体、医農薬中間体及び有機溶剤等としての使用が期待される新規なフッ素化カーボナート類を提供する。またこれらを効率良く高い収率で得るための新規な製造法を提供する。
【解決手段】本発明は、新規化合物である(1−フルオロエチル)メチルカーボナートを提供する。また鎖状カーボナート類をフッ化物イオンを含む化合物の存在下、電解フッ素化することによる、フッ素化カーボナート類の新規製造方法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウム電池、リチウムイオン電池、電気二重層キャパシタ等の電気化学ディバイスに用いられる電解液もしくは電解液への添加剤、機能性材料中間体、医農薬中間体及び有機溶剤等としての使用が期待されるフッ素化カーボナート類とその製造法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年の携帯機器の発展に伴い、その電源としてリチウム電池、リチウムイオン電池、電気二重層キャパシタ等の電気化学的現象を利用した電気化学ディバイスの開発が盛んに行われるようになった。これらの電気化学ディバイスは、一般に一対の電極とその間を満たすイオン伝導体から構成される。このディバイスのイオン伝導体には溶媒中に電解質と呼ばれる塩類を溶解したものが用いられる。この電解質は溶解することにより、カチオンとアニオンに解離して、イオン伝導する。ディバイスに必要なイオン伝導度を得るためには、この電解質が溶媒に十分な量、溶解することが必要である。この溶媒として水や有機溶媒を用いる場合が多い。有機溶媒としては、例えばエチレンカーボナート、プロピレンカーボナート、ジメチルカーボナート、ジエチルカーボナート、エチルメチルカーボナート、γ-ブチロラクトン、ジメトキシエタン、ジエトキシエタン、テトラヒドロフラン等が用いられている。しかしながら、水は酸化還元に弱いため、使用できる電極材料に限りがある。また、上記のような有機溶媒は、その使用温度範囲、粘度、電気化学的な安定性等に問題がある。
【0003】
このような問題を解決するために、当初含フッ素環状カーボナート類が提案され、盛んに研究されるようになった(例えば特許文献1〜4)。また、最近では電気化学ディバイスの性能を更に向上させるため、溶媒に含フッ素鎖状カーボナートを含む電解液が研究されている(例えば特許文献5〜9)。
【0004】
これらの中でも特に、化合物中にフッ素を1つだけ含む含フッ素鎖状カーボナート(モノフルオロ鎖状カーボナート)は有用である。例えばフルオロメチルメチルカーボナートに関しては、特許文献10に、これを用いて作成したリチウム二次電池が、一般に用いられるジメチルカーボナート(DMC)を用いて作成した電池よりも、リチウム極の充放電効率が高く、サイクル寿命が長く、さらに低温において非常に高い放電容量を有していることが示されている。また、特許文献11には、フルオロメチルメチルカーボナートとエチレンカーボナート(またはフルオロエチレンカーボナート)を1:1の体積比で混合した溶媒に(C25SO22NLiを溶解した電解液を用いて作成したリチウム二次電池において、高い放電容量残存率が発現することが開示されている。さらに特許文献12には非水系電解液二次電池にエチル(1−フルオロエチル)カーボナートを添加することによって高い保存特性が得られることが開示されている。
【0005】
しかしながら、これら有用なモノフルオロ鎖状カーボナートの製造法の報告例は極めて少ない。特許文献13においては、ジメチルカーボナートやジエチルカーボナート中に窒素ガスで希釈したフッ素ガスを導入することで、フルオロメチルメチルカーボナートやエチル(2−フルオロエチル)カーボナートを得る方法が開示されている。非特許文献1においては、2−フルオロエタノールとメチルクロロカーボナートをピリジンを用いて縮合させ、(2−フルオロエチル)メチルカーボナートを得る方法が開示されている。
【0006】
このように、エチル基を有するカーボナートの場合、末端の炭素(エチル基の2−位)にフッ素を有するモノフルオロ鎖状カーボナートの製造法は知られているが、酸素に隣接する炭素(エチル基の1−位)にフッ素を有するモノフルオロ鎖状カーボナート、例えば(1−フルオロエチル)メチルカーボナートやエチル(1−フルオロエチル)カーボナートの製造法はこれまで知られていない。
【特許文献1】特開昭62−290071号公報
【特許文献2】特開昭62−290072号公報
【特許文献3】特開平9−251861号公報
【特許文献4】特開平7−165750号公報
【特許文献5】特開平9−147911号公報
【特許文献6】特開平9−306530号公報
【特許文献7】特開平10−144346号公報
【特許文献8】特開平10−247519号公報
【特許文献9】特開2002−175948号公報
【特許文献10】特開平10−144346号公報
【特許文献11】特開平10−247519号公報
【特許文献12】特開2004−14134号公報
【特許文献13】特開2004−10491号公報
【非特許文献1】電気化学および工業物理化学,第71巻,第12号,1201頁〜1204頁,2003年(日本)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
一般に鎖状カーボナートを製造するには二通りの主要な方法がある。一つはピリジンのような塩基の存在下でホスゲンまたはその同等物、例えばトリホスゲンとアルコールとを反応させる方法である。この方法では毒性の高いホスゲン類を使用する点で問題がある。また、この方法でモノフルオロ鎖状カーボナートを製造する場合にはモノフルオロアルコールが必要になるが、モノフルオロアルコールも毒性が高いので問題がある。さらにアルコールの酸素に隣接した炭素上にはフッ素を導入し難く、高価となるため、利用できるアルコールの種類にも制限が多いという課題がある。
【0008】
もう一つの主要な製造法は、非特許文献1で用いられているような、アルキルハロゲノカーボナートとアルコールとをピリジンのような塩基の存在下縮合させる方法である。この方法を用いてモノフルオロ鎖状カーボナートを製造する場合には、アルコールかアルキルハロゲノカーボナートに前もってフッ素が導入されていなければならない。非特許文献1ではアルコールとして2−フルオロエタノールを用いているが、このようなモノフルオロアルコールは前述のように毒性が高いので問題がある。また、モノフルオロアルキルハロゲノカーボナートは高価であるので工業的には適さない。
【0009】
このように、フッ素が導入された前駆体を用いてモノフルオロ鎖状カーボナートを製造する方法には課題が多い。
【0010】
一方で、既に構築されたカーボナート類をフッ素化して目的とするモノフルオロ鎖状カーボナートを製造する方法が考えられる。非特許文献13に開示されている方法では、フッ素ガスを用いてジメチルカーボナートやジエチルカーボナートをフッ素化している。しかし、一般にフッ素ガスは非常に反応性が高く、取扱いが困難で、生成物の選択性が制御しにくいという問題がある。実際に特許文献13に開示された実施例を参照しても、原料であるジメチルカーボナートやジエチルカーボナートの変換率は必ずしも高くなく、目的生成物への選択率も満足のいくものではない。また、大量のジフルオロ体が生成することから、原料、モノフルオロ体、そしてジフルオロ体の分離精製が困難である。
【0011】
このように、これまでモノフルオロ鎖状カーボナートを効率良く高い収率で得ることができ、工業的に大量生産しうる方法は知られていなかった。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、有用な新規化合物である(1−フルオロエチル)メチルカーボナートを提供する。また、有用なモノフルオロ鎖状カーボナートを効率良く高い収率で得るための新規な工業的製造法を提供する。
【0013】
本発明者らは、上記課題を解決するため鋭意検討を行った。その結果、工業的に安価で容易に入手しえて、しかも毒性の低い、一般式[1]で表される鎖状カーボナート類
【0014】
【化3】

(式中、a,b,c,dは、それぞれ独立に、0〜2の整数を表し、(a+b)≦(c+d)の関係が成り立つ。)
を、フッ素源としてフッ化物イオンを含む化合物の存在下、電解フッ素化することによって、これまでフッ素導入の難しかった部位にフッ素が効率よく導入され、一般式[2]で表されるモノフルオロ鎖状カーボナート
【0015】
【化4】

(式中のa,b,c,dの意味は、式[1]と同じ。)
を高い選択性で得られることを見出した。
【0016】
本発明の電解フッ素化の大きな特徴は、フッ素化を通じて高い生成物選択性が発現し、カーボナートの酸素に隣接する炭素(1位炭素)に1原子のフッ素が結合した化合物が選択性よく得られる、という点にある。
【0017】
すなわち原料として、対称形のカーボナート(両側のアルキル基が同一の基であるカーボナート)を用いた場合は、一方のアルキル基の1位炭素上にフッ素原子が1個導入されたモノフルオロ鎖状カーボナートを主生物として製造できる。例えばジメチルカーボナートを原料とした場合、フルオロメチルメチルカーボナートが製造でき、ジエチルカーボナートを原料とした場合、エチル(1−フルオロエチル)カーボナートが製造できる。
【0018】
一方、原料が非対称な鎖状カーボナートの場合、両側のアルキル基の1位炭素上の炭素−水素結合の最高被占有分子軌道(HOMO)のエネルギー準位を比較して、それがより高い方の水素原子(すなわちイオン化ポテンシャルの高い方の水素原子)が優先的にフッ素原子と置き換わり、モノフルオロ鎖状カーボナートが得られる。
【0019】
具体的には、両側のアルキル基の炭素数が異なる場合には、炭素数の多い方のアルキル基がフッ素化を受けた生成物を得ることができる(式[2]を参照)。また、炭素の数が同数で、一方が直鎖アルキル基(例えばn−プロピル基、n−ブチル基)、もう一方が分岐鎖アルキル基(i−プロピル基、i−ブチル基、t−ブチル基)である場合、分岐鎖のアルキル基がフッ素化を受けた生成物が得られる。両方のアルキル基とも分岐鎖のアルキル基である場合は、一方がフッ素化された生成物が2種類、異性体として得られる。
【0020】
この特徴は、アルキル基の一方がメチル基であり、もう一方がメチル基以外の基であるとき、特に顕著で、この場合、特に選択性高く、「メチル基以外の基」側がフッ素化を受けた生成物が得られる。特にエチルメチルカーボナートを原料とした場合、エチル基側でフッ素化が起こり、これまで全く知られていなかった(1−フルオロエチル)メチルカーボナートが高い選択率で得られる。
【0021】
以上の原則に従って、メチルプロピルカーボナートを原料とした場合には、(1−フルオロプロピル)メチルカーボナートが、イソプロピルメチルカーボナートを原料とした場合には、(1−フルオロ−1−メチルエチル)メチルカーボナートが、イソプロピルエチルカーボナートを原料とした場合には、エチル(1−フルオロ−1−メチルエチル)カーボナートが、プロピルイソプロピルカーボナートを原料とした場合には、(1−フルオロ−1−メチルエチル)プロピルカーボナートがそれぞれ主生成物として得られる。
【0022】
電解フッ素化法はクリーンな電気エネルギーを利用して、有機化合物をフッ素化できる有機フッ素化合物の合成手段であり、電流や電圧を制御することで、反応を有効に制御できる特徴を有している。
【0023】
このため本発明は、この電解フッ素化法を鎖状カーボナートに適用し、有用な含フッ素化合物を効率よく製造するための、優れた方法である。
【0024】
本発明者らは、上述の電解フッ素化が、特定の条件下で特に好ましく進行することを見出し、本発明を完成させた。
【0025】
すなわち本発明は、新規なモノフルオロ鎖状カーボナートであるモノフルオロ鎖状カーボナート(1−フルオロエチル)メチルカーボナートを提供する。
【0026】
また本発明は、一般式[1]で表される鎖状カーボナート類
【0027】
【化5】

(式中、a,b,c,dは、それぞれ独立に、0〜2の整数を表し、(a+b)≦(c+d)の関係が成り立つ。)
をフッ化物イオンを含む化合物の存在下、電解フッ素化することを特徴とする、一般式[2]で表されるフッ素化カーボナート類
【0028】
【化6】

(式中のa,b,c,dの意味は、式[1]と同じ。)
の製造方法を提供する。
【0029】
また本発明は、上記製造方法において、原料の鎖状カーボナートが特定の化合物である、フッ素化カーボナートの製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0030】
本発明のフッ素化カーボナート類とその製造方法は、工業用原料として入手の容易な鎖状カーボナート類を、電解フッ素化法を用いてフッ素化し、リチウム電池、リチウムイオン電池、電気二重層キャパシタ等の電気化学ディバイスに用いられる電解液もしくは電解液への添加剤、機能性材料中間体、医農薬中間体及び有機溶剤等としての使用が期待されるフッ素化カーボナート類を、従来よりも格段に効率よく製造できるという効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0031】
以下、本発明につき、さらに詳細に説明する。本発明の出発原料となる一般式[1]で表される鎖状カーボナート類としては、特に制限はないが、入手のし易さを考慮すると、式中の(a+b)の値が0,1または2であり、かつ(c+d)の値が0,1または2であるものが好ましい。このようなものの具体例としては、ジメチルカーボナート、ジエチルカーボナート、ジプロピルカーボナート、ジイソプロピルカーボナート、エチルメチルカーボナート、メチルプロピルカーボナート、エチルプロピルカーボナート、メチルイソプロピルカーボナート、エチルイソプロピルカーボナート、プロピルイソプロピルカーボナート等が挙げられる。これらのうち、入手の容易さ、生成物の有用性などから、ジメチルカーボナート、ジエチルカーボナート、エチルメチルカーボナートが特に好ましい。
【0032】
前述のように、本発明の電解フッ素化は、原料である鎖状カーボナートの、−O(C=O)O−基部位に結合している2つのアルキル基のうち、それぞれの1位炭素上の炭素−水素結合の最高被占有分子軌道(HOMO)のエネルギー準位を比較して、それがより高い方の水素原子(すなわちイオン化ポテンシャルの高い方の水素原子)が優先的にフッ素原子と置き換わるという特徴を有する。このため原料の鎖状カーボナートの構造が決まれば、生成するモノフルオロカーボナートの種類も定まる。
【0033】
本発明の電解フッ素化において、フッ素源化合物として、フッ化物イオンを含む化合物を用いる。フッ素源化合物としては、フッ化水素(HF)、ピリジンポリフッ化水素塩化合物であるピリジン・nHF(nは、ピリジン1モルあたりフッ化水素をnモル混合させた物質という意味であり、1〜20が好ましく、5〜15がさらに好ましく、9〜10が特に好ましい)1〜3級のアルキルアミンとフッ化水素との会合体である、アルキルアミンポリフッ化水素塩化合物R3N・nHF(ここでRは水素原子、もしくは炭素数1〜6の直鎖または分岐のアルキル基を表す。nは、アミン1モルあたりフッ化水素をnモル混合させた物質という意味であり、1〜20が好ましく、1〜10がさらに好ましく、3〜6が特に好ましい)、またはフッ化4級アンモニウム塩とフッ化水素との会合体であるテトラアルキルアンモニウムフロリドポリフッ化水素化合物R4NF・nHF(ここでRは水素原子、もしくは炭素数1〜6の直鎖または分岐のアルキル基を表す。nは、フッ化4級アンモニウム塩1モルあたりフッ化水素をnモル混合させた物質という意味であり、1〜20が好ましく、1〜10がさらに好ましく、3〜6が特に好ましい)等を好ましく用いることができる。
【0034】
アルキルアミンポリフッ化水素塩化合物R3N・nHFの具体例としては、トリエチルアミン・3HF(Et3N・3HF)、トリエチルアミン・4HF(Et3N・4HF)、トリエチルアミン・5HF(Et3N・5HF)、トリブチルアミン・4HF(Bu3N・4HF)などが挙げられる。テトラアルキルアンモニウムフロリドポリフッ化水素化合物の具体例としては、フッ化テトラエチルアンモニウム・3HF(Et4NF・3HF)、フッ化テトラエチルアンモニウム・4HF(Et4NF・4HF)、フッ化テトラエチルアンモニウム・5HF(Et4NF・5HF)、フッ化テトラブチルアンモニウム・3HF(Bu4NF・3HF)、フッ化テトラブチルアンモニウム・4HF(Bu4NF・4HF)、フッ化テトラブチルアンモニウム・5HF(Bu4NF・5HF)等が挙げられるが、これらに限定されない。複数のフッ素源化合物を同時に使用しても差し支えない。
【0035】
これらのフッ素源化合物の使用量は、原料化合物(鎖状カーボナート類)1モルに対し、0.1〜10モル、好ましくは0.2〜5モルである。この使用量はフッ素源化合物に含まれるフッ化物イオンの量(主としてフッ化水素の量(n))に依存する。フッ化物イオン(F-)の量に着目した場合、原料化合物(鎖状カーボナート類)1当量に対し、フッ化物イオン(F-)の必要量は1〜20当量、好ましくは1〜5当量である。これ以上加えることも可能であるが、反応性に有意な向上が見られず、経済的に不利であるから好ましくない。
【0036】
これらの化合物が支持電解質の役割も兼ねるため、本発明の方法においては別途、支持電解質を添加する必要はない。
【0037】
本発明の電解フッ素化は溶媒を使用して行うこともできる。しかしながら溶媒を使用する場合には、溶媒の電気化学的安定性によって、溶媒の分解による不純物や副生物が生じる場合がある。また単位容積あたりの収量が減少すること、経済的に不利であることなどから溶媒の使用は好ましくない。
【0038】
本発明の電解フッ素化を実施するためのその他の条件は、公知の方法に従えばよく、特別な制限はない。通常、温度は−50〜+100℃の範囲が好ましく、−10〜+40℃がより好ましい。電流密度は10〜500mA/cm2の範囲が好ましく、50から200mA/cm2の範囲がより好ましい。
【0039】
電解槽は特に限定されず、公知のものが使用できる。その材質は、鉄、ステンレス鋼、ニッケルおよびニッケル合金等が使用できる。フッ素源化合物として、上述のR3N・nHFもしくはR4NF・nHF等を用いる場合で、nの数が3より小さいときはガラス製の材質も使用できる。フッ素源化合物として遊離のHFを使用する場合、そしてR3N・nHFもしくはR4NF・nHF等を用いる場合で、nの数が4より大きいときにはガラスが腐食するので、ガラス製の材質は不適である。このような場合にはフッ素樹脂製もしくはフッ素樹脂でライニングされた電解槽や、少量の場合にはプラスティック製の電解槽が使用できる。
【0040】
本発明の電解反応においては、無隔膜式あるいは隔膜式のいずれの電解槽も使用可能である。また定電流電解、定電位電解のいずれも有効である。定電流電解を行う場合には、上述した電流密度となるよう電流値を設定すればよく、定電位電解の場合には銀/塩化銀型参照電極に対して3〜5Vの電位範囲内で、上述した電流密度となるような電位に設定すればよい。電極としては白金電極、炭素電極、二酸化鉛電極、銀電極、銅電極、ニッケル電極、鉄電極、またはそれらの合金電極等を用いることができる。特に陽陰極に白金電極を用いると収率よく目的物を得ることができる。反応中には撹拌を行うと、反応を特に円滑に実施できる。
【0041】
電解反応ではまず、本反応の理論通電量である2F/molを通電する。その後は薄相クロマトグラフィー、ガスクロマトグラフィー、NMR等の分析手段で電解液の組成を測定しながら継続するのが望ましく、原料の鎖状カーボナート類の変換率に対して、目的生成物への選択率が減少し始めた点で反応を終了するのが好ましい。あまり長時間、電解を続けると、高次のフッ素化物や分解生成物が副生することがあるので、好ましくない。
【0042】
反応終了後の反応混合物から目的物を単離する方法は公知の手法に従えばよく、特に限定されない。例えば、電解反応終了後、電解液をそのまま常圧蒸留するか、もしくはエーテルなどの有機溶媒にて抽出を行ってフッ素源化合物と目的物とを分離した後に、カラムクロマトグラフィー、蒸留等を行うことにより、目的物を単離することができる。
【実施例】
【0043】
以下に実施例をもって本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施態様に限られない。
【0044】
[実施例1]エチル(1−フルオロエチル)カーボナートの製造
無隔膜円筒状のプラスティック製電解槽にジエチルカーボナート2.36g(20mmol)とEt4NF・5HF 2.5g(10.0mmol)を加え電解液とした。陽陰極には白金板(2×2cm2)を用いて、電流密度100mA/cm2のもと定電流電解を行った。反応温度は5〜15℃で制御した。理論通電量である2F/molを通電した時点での電解液の組成は原料であるジエチルカーボナート 39%に対し、目的物であるエチル(1−フルオロエチル)カーボナート 59%であり、選択率は97%であった。2.5F/molを通電した時点での電解液の組成はジエチルカーボナート 19%に対し、目的物であるエチル(1−フルオロエチル)カーボナート 69%であり、選択率は85%であった。3F/molを通電した時点での電解液の組成は、原料であるジエチルカーボナート 11%に対し、目的物であるエチル(1−フルオロエチル)カーボナート 73%であり、選択率は82%であった。この電解液を常圧蒸留してエチル(1−フルオロエチル)カーボナートとEt4NF・5HFを分離し、その後カラムクロマトグラフィーによってエチル(1−フルオロエチル)カーボナートを単離した。
【0045】
[実施例2]フルオロメチルメチルカーボナートの製造
ジエチルカーボナートの代わりにジメチルカーボナート 2.70g(30mmol)を用いる以外は、実施例1と同様に電解反応を行った。理論通電量である2F/molを通電した時点での電解液の組成は、原料であるジメチルカーボナート 27%に対し、目的物であるフルオロメチルメチルカーボナート 47%であり、選択率は64%であった。この電解液を常圧蒸留してフルオロメチルメチルカーボナートとEt4NF・5HFを分離し、その後カラムクロマトグラフィーによってフルオロメチルメチルカーボナートを単離した。
【0046】
[実施例3](1−フルオロエチル)メチルカーボナートの製造
ジエチルカーボナートの代わりにエチルメチルカーボナート 2.60g(25mmol)を用いる以外は、実施例1と同様に電解反応を行った。理論通電量である2F/molを通電した時点での電解液の組成は、原料であるエチルメチルカーボナート 34%に対し、目的物である(1−フルオロエチル)メチルカーボナート 47%であり、副生物であるエチルフルオロメチルカーボナート 2%であった。原料の変換率に対する(1−フルオロエチル)メチルカーボナートの選択率は71%であった。この電解液を常圧蒸留して(1−フルオロエチル)メチルカーボナートとEt4NF・5HFを分離し、その後カラムクロマトグラフィーによって(1−フルオロエチル)メチルカーボナートを単離した。
[(1−フルオロエチル)メチルカーボナートの物性]
常温で無色透明液体。1H−NMR(基準物質:TMS、溶媒:CDCl3)σ(ppm):6.35(dq,J=56Hz,4.9Hz,1H),3.85(s,3H),1.57(dd,J=21Hz,4.6Hz,3H)。13C−NMR(基準物質:TMS、溶媒:CDCl3)σ(ppm):155.6,104.18(d,J=222Hz),54.57,19.65(d,J=23.4Hz)。19F−NMR(基準物質:CCl3F、溶媒:CDCl3)σ(ppm):−44.57(dq,J=55Hz,20Hz,1F)。MS(m/z):122(M+),121,103,77。HRMS m/z 計算値 C47FO3:122.0379,実測値:122.0365。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(1−フルオロエチル)メチルカーボナート。
【請求項2】
一般式[1]で表される鎖状カーボナート類
【化1】

(式中、a,b,c,dは、それぞれ独立に、0〜2の整数を表し、(a+b)≦(c+d)の関係が成り立つ。)
を、フッ化物イオンを含む化合物の存在下、電解フッ素化することを特徴とする、一般式[2]で表されるフッ素化カーボナート類
【化2】

(式中のa,b,c,dの意味は、式[1]と同じ。)
の製造方法。
【請求項3】
ジエチルカーボナートを、フッ化物イオンを含む化合物の存在下、電解フッ素化することを特徴とする、エチル(1−フルオロエチル)カーボナートの製造方法。
【請求項4】
ジメチルカーボナートを、フッ化物イオンを含む化合物の存在下、電解フッ素化することを特徴とする、フルオロメチルメチルカーボナートの製造方法。
【請求項5】
エチルメチルカーボナートを、フッ化物イオンを含む化合物の存在下、電解フッ素化することを特徴とする、(1−フルオロエチル)メチルカーボナートの製造方法。
【請求項6】
請求項2乃至請求項5の何れかにおいて、フッ化物イオンを含む化合物が、フッ化テトラエチルアンモニウム・4HF(Et4NF・4HF)、フッ化テトラエチルアンモニウム・5HF(Et4NF・5HF)から選ばれるものであることを特徴とする、請求項2乃至請求項5の何れかに記載のフッ素化カーボナート類の製造方法。
【請求項7】
請求項2乃至請求項6の何れかにおいて、電解フッ素化を電流密度10〜500mA/cm2の範囲で行うことを特徴とする、請求項2乃至請求項6の何れかに記載のフッ素化カーボナート類の製造方法。
【請求項8】
請求項2乃至請求項7の何れかにおいて、電解フッ素化を−50〜+100℃で行うことを特徴とする、請求項2乃至請求項7の何れかに記載のフッ素化カーボナート類の製造方法。

【公開番号】特開2006−1843(P2006−1843A)
【公開日】平成18年1月5日(2006.1.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−176630(P2004−176630)
【出願日】平成16年6月15日(2004.6.15)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成16年1月7日 東京工業大学主催の「博士論文発表会」において文書をもって発表
【出願人】(000002200)セントラル硝子株式会社 (1,198)
【Fターム(参考)】