説明

フッ素化炭化水素溶剤の乾燥方法

【課題】 被洗物に付着したフッ素化炭化水素を、短時間に、なおかつ装置外への飛散ロスを最小限に抑える乾燥方法を提供する。
【解決手段】 フッ素化炭化水素溶剤を使用する洗浄装置において、沸点が50〜150℃の範囲であるフッ素化炭化水素の過熱蒸気を被洗物に噴射させることにより、被洗物に付着しているフッ素化炭化水素溶剤を気化させることを特徴とする、被洗物に付着したフッ素化炭化水素溶剤の乾燥方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フッ素化炭化水素溶剤を使用する洗浄装置における、被洗物に付着しているフッ素化炭化水素溶剤の乾燥、詳細には、洗浄目的で使用され、被洗物に付着したフッ素化炭化水素溶剤を、短時間に、なおかつ装置外への飛散ロスを最小限に抑える乾燥方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、フッ素化炭化水素溶剤を使用する洗浄装置としては、たとえば特許文献1や特許文献2などが知られている。
一方、近年環境保護の観点から、洗浄装置、洗浄方法も省エネルギー、省消費量が要求されており、これを満たすため、インライン工程での洗浄装置外への飛散を抑えた洗浄方式が望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】米国特許第3881949号明細書
【特許文献2】特公昭63−62276号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1で開示されている装置は、洗浄方法がバッチ方式であり、また蒸気による乾燥時間も長く必要である。また、最近では溶剤の装置外への持ち出し飛散を抑制するため、被洗物をフリーボードゾーンで数十秒から数分間静置して乾燥しなければならず、フリーボードゾーンにとどまる時間が数秒程度である連続方式による短時間洗浄に、このような従来の装置は応えられない。
【0005】
また、特許文献2で開示されている装置は、乾燥用の溶剤として露点が20〜50℃の塩化フッ化エタンを用いているため、常時高濃度の“湿り溶剤蒸気”が槽上部に滞留し、それにより乾燥速度、被処理物品に制限が加わるという問題があった。
【課題を解決するための手段】
【0006】
そこで、本発明者は、上記問題を解決するため、鋭意研究を行った結果、沸点が50〜150℃の範囲であるフッ素化炭化水素の過熱蒸気を被洗物に噴射させることにより、短時間でのフッ素化炭化水素溶剤の乾燥が可能となることを見出し、本発明に至ったものである。
【0007】
即ち、本発明は以下の方法に関するものである。
1.フッ素化炭化水素溶剤を使用する洗浄装置において、沸点が50〜150℃の範囲であるフッ素化炭化水素の過熱蒸気を被洗物に噴射させることにより、被洗物に付着しているフッ素化炭化水素溶剤を気化させることを特徴とする、被洗物に付着したフッ素化炭化水素溶剤の乾燥方法。
2.フッ素化炭化水素がフッ素、炭素および水素からなることを特徴とする上記1.記載のフッ素化炭化水素溶剤の乾燥方法。
3.フッ素化炭化水素がさらに酸素、窒素および硫黄の中から選ばれる少なくとも1つの原子を含有することを特徴とする上記1.または2.記載のフッ素化炭化水素溶剤の乾燥方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、被洗物に付着したフッ素化炭化水素を短時間に気化させることができ、装置外への飛散ロスを最小限に抑えることが可能であるため、被洗物のインライン工程における連続方式の洗浄工程を最小限の飛散ロスで実施することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】洗浄装置を示した概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明のフッ素化炭化水素溶剤の乾燥方法は、フッ素化炭化水素の過熱蒸気を被洗物に噴射させて短時間にフッ素化炭化水素を蒸発気化させることを特徴とする。
本発明において、「フッ素化炭化水素溶剤を使用する洗浄装置」とは、フッ素化炭化水素溶剤を使用して電子・電気・機械部品等、例えば、自動車の小型部品のように形状が小さく連続的に生産、洗浄されるべきものを洗浄する洗浄装置であり、例えば、特許文献1および2に記載されるものをいう。
【0011】
本発明において、「フッ素化炭化水素」とは、沸点が50℃〜150℃、好ましくは50〜130℃、より好ましくは50℃〜110℃の範囲である、フッ素および炭素、またはフッ素、炭素および水素からなる化合物であって、場合により、さらに酸素、窒素および硫黄からなる群より選ばれる少なくとも1つの原子を含む化合物である。本発明における好適な「フッ素化炭化水素」としては、例えば、1,1,1,2,2,3,4,5,5,5−デカフルオロペンタン、3−H,4−H−パーフルオロヘプタン、メチルトリスデカフルオロヘキシルエーテル、ヘキサフルオロプロピルヘキサフルオロブチルエーテル等が挙げられる。
【0012】
本発明において、「フッ素化炭化水素」は環状であっても鎖状であってもよく、また飽和化合物であっても不飽和化合物であってもよい。
【0013】
本発明において、「フッ素化炭化水素」は単一品であっても2種以上の混合品であってもよい。混合品の場合にその混合比率は特に制限されるものではなく、その洗浄の目的にかなった最適の混合比率でよい。また、その混合物が共沸混合物を形成するのであれば、その混合物の混合比率の保持のために、共沸組成が好ましい。
【0014】
本発明において、「フッ素化炭化水素」は他の溶剤との混合物であってもよく、例えば、メタノールやエタノールなどのアルコール類、アセトンやメチルエチルケトンなどのケトン類、ヘキサメチルジシロキサンなどのシリコーン類、酢酸エチルなどのエステル類、エチレングリコールモノメチルエーテルなどのグリコールエーテル類、ジエチルエーテルなどのエーテル類、など適宜その目的に応じた添加物を混合するこができる。混合物中の他の溶剤の濃度の範囲は、1〜50質量%であって、混合しても不燃性を維持する組成が好ましい。また、共沸混合物を作るものはその共沸組成が望ましい。
【0015】
本発明において、「過熱蒸気」とは、蒸気をさらに加熱した熱量の高い蒸気である。液体は、圧力一定のもとで加熱すると温度が上昇し、一定温度に達すると蒸発し始めるが、加熱を続けても全部の液体が蒸発するまで温度は一定である。液体と蒸気とが共存しているときは湿り飽和蒸気といい、全部蒸気になったものを乾き飽和蒸気というが、乾き飽和蒸気をさらに加熱して蒸気の温度を高くしたものが過熱蒸気である。
本発明において、「乾燥」とは、被洗物に付着したフッ素化炭化水素溶剤を取り去ることを意味する。
【0016】
本発明において、「被洗物」とは、特に限定されるものではないが、電子・電機・機械部品等、例えば、自動車の小型部品のように形状が小さく連続的に生産、洗浄されるべきもの等をいう。
【実施例】
【0017】
以下、実施例、比較例を挙げて、本発明を更に詳しく説明するが、本発明は、これらの例に限定されるものではない。
【0018】
実施例1
図1に示すような洗浄装置を用いて、被洗物表面のフッ素化炭化水素溶剤が乾燥するまでに要する時間を測定した。すなわち特許文献1に示されている従前よりフッ素化炭化水素溶剤が使用されている装置の蒸気層内に、過熱されたフッ素化炭化水素を噴射できる装置を用いた。1,1,1,2,2,3,4,5,5,5−デカフルオロペンタンに4質量%のエタノールを混合した溶剤(沸点52度、商品名バートレル(R)XE、三井・デュポンフロロケミカル製)を上記装置内に満たし、ヒーター7にて沸騰槽1内のバートレル(R)XEを沸騰させ、気化したバートレル(R)XEを冷却管4により再度凝縮させて超音波槽2に戻し、オーバーフローにより沸騰槽に戻した。また超音波槽よりバートレル(R)XEの一部をポンプを使用してヒーターゾーン5に送り込み、バートレル(R)XEの過熱蒸気をつくって過熱蒸気ライン6を経て蒸気層3内にバートレル(R)XEの過熱蒸気を噴射させた。過熱蒸気噴射口温度は約60℃となるようヒーターゾーンを調節した。
被洗物を予め40℃に調節された超音波槽に30秒間浸漬した後、バートレル(R)XEの過熱蒸気噴射口より50mm離れた場所で3秒間過熱蒸気をあて、素早く取り出して被洗物質量を測定し、被洗物がテスト前の質量に戻るまでの時間を測定した。被洗物として、自動車用金属部品−1(ニードル)、自動車用金属部品−2(ボディー)、自動車用金属部品−3(吸入シート)を用いた。
【0019】
比較例として、実施例1と同様な装置を用い、過熱蒸気を噴射させずに蒸気層内に3秒間静置し、素早く被洗物を取り出して、被洗物がテスト前の重量に戻るまでの時間を測定した。
結果を表1に示す。
【0020】
【表1】

【0021】
実施例2
60mm×6mm×1mmのよく磨いたステンレススチール(SUS304)に、切削油(カットアーバスKZ260、ユシロ化学製)を4.25mg付着させた。そのスチールに80℃の1,1,1,2,2,3,4,5,5,5−デカフルオロペンタン(沸点55度、商品名バートレル(R)XF、三井・デュポンフロロケミカル製)の過熱蒸気を30秒間噴射させたのち、スチールに残っている油分量を測定した。
比較例として、実施例2と同じテストサンプルをバートレル(R)XFの蒸気(55度)に30秒間噴射した後、テストサンプルに残っている油分量を測定した。
結果を表2に示す。
【0022】
【表2】

過熱蒸気を使用した場合、通常蒸気を使用した場合と比較して油分除去率がはるかに高く、短時間での乾燥に加え、短時間での洗浄も達成された。
【産業上の利用可能性】
【0023】
本発明は、被洗物に付着したフッ素化炭化水素を短時間に気化させることができ、装置外への飛散ロスを最小限に抑えることが可能であるため、部品等のインライン工程における連続方式の洗浄工程を最小限の飛散ロスで実施することができる洗浄装置の用途に好適に用いることができる。
【符号の説明】
【0024】
1沸騰槽
2超音波槽
3蒸気層
4冷却管
5ヒーターゾーン
6過熱蒸気ライン
7ヒーター
8超音波

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フッ素化炭化水素溶剤を使用する洗浄装置において、沸点が50〜150℃の範囲であるフッ素化炭化水素の過熱蒸気を被洗物に噴射させることにより、被洗物に付着しているフッ素化炭化水素溶剤を気化させることを特徴とする、被洗物に付着したフッ素化炭化水素溶剤の乾燥方法。
【請求項2】
フッ素化炭化水素がフッ素、炭素および水素からなることを特徴とする請求項1記載のフッ素化炭化水素溶剤の乾燥方法。
【請求項3】
フッ素化炭化水素がさらに酸素、窒素および硫黄の中から選ばれる少なくとも1つの原子を含有することを特徴とする請求項1または2記載のフッ素化炭化水素溶剤の乾燥方法。

【図1】
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【公開番号】特開2011−152517(P2011−152517A)
【公開日】平成23年8月11日(2011.8.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−16092(P2010−16092)
【出願日】平成22年1月28日(2010.1.28)
【出願人】(000174851)三井・デュポンフロロケミカル株式会社 (59)
【Fターム(参考)】