説明

フッ素含有光ファイバ母材の製造方法及びフッ素含有光ファイバ母材

【課題】 径方向にフッ素を均一に添加することができ、径方向への比屈折率差Δのばらつきの小さいフッ素含有光ファイバ母材の製造方法及びフッ素含有光ファイバ母材を提供する。
【解決手段】 多孔質ガラス堆積体を塩素系ガス雰囲気中で加熱処理して脱水する第一工程と、フッ素源を含むガス雰囲気中で加熱処理してフッ素添加を行う第二工程と、フッ素源を含むガス雰囲気中で前記第二加工程よりも高い温度で加熱処理して透明ガラス化する第三工程とからなる焼結工程を経てフッ素含有光ファイバ母材を製造する方法であって、前記第一工程、第二工程及び第三工程の処理温度をそれぞれ順にT、T、T(K)とし、前記第二工程及び第三工程のフッ素源ガス濃度を順にC、C(%)とし、パラメータQが下記[数1]式で表されるとき、パラメータQの値がQ>0.14の範囲となる処理温度、フッ素源ガス濃度で製造することを特徴としている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フッ素が添加された光ファイバ用ガラス母材の製造方法に係り、特には、母材の径方向にフッ素が均一に添加された、径方向への比屈折率差Δのばらつきを抑えたフッ素含有光ファイバ母材の製造方法及びフッ素含有光ファイバ母材に関する。
【背景技術】
【0002】
光ファイバは、光を伝播するコアの外側を光の漏洩を防ぐためのクラッドが覆う構造になっており、コアの部分の屈折率をクラッド部分よりも高くしている。光ファイバの特性は屈折率分布によって決まり、所望の特性を得るために、合成石英製の光ファイバに、屈折率を高くするゲルマニウム(Ge)や、屈折率を低くするフッ素(F)を添加することが一般的に行われている。フッ素添加の手法としては、VAD法などで製造した多孔質ガラス堆積体をフッ素化合物ガス雰囲気中で加熱処理する方法が知られている。
フッ素添加工程の後、処理温度を上げてさらに加熱処理を行ない、多孔質ガラス堆積体を透明ガラス化してフッ素含有光ファイバ母材とされる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、多孔質ガラス堆積体の外径が大きい場合、及び/又は目標のフッ素添加濃度が大きい場合は、前工程で添加したフッ素が透明ガラス化工程での高温によって脱離・揮散し、光ファイバ母材の径方向への濃度が均一にならないという問題があった。
【0004】
本発明は、上記問題点を解決すべくなされ、径方向にフッ素を均一に添加することができ、径方向への比屈折率差Δのばらつきの小さいフッ素含有光ファイバ母材の製造方法及びフッ素含有光ファイバ母材を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明のフッ素含有光ファイバ母材の製造方法は、多孔質ガラス堆積体を塩素系ガス雰囲気中で加熱処理して脱水する第一工程と、フッ素源を含むガス雰囲気中で加熱処理してフッ素添加を行う第二工程と、フッ素源を含むガス雰囲気中で前記第二加工程よりも高い温度で加熱処理して透明ガラス化する第三工程とからなる焼結工程を経てフッ素含有光ファイバ母材を製造する方法であって、前記第一工程、第二工程及び第三工程の処理温度をそれぞれ順にT、T、T(K)とし、前記第二工程及び第三工程のフッ素源ガス濃度を順にC、C(%)とし、パラメータQが下記[数1]式で表されるとき、パラメータQの値がQ>0.14の範囲となる処理温度、フッ素源ガス濃度で製造することを特徴としている。
[数1] Q=C×exp(−T/T
+ C×exp(−T/T
【0006】
本発明のフッ素含有光ファイバ母材は、前記製造方法で得られたフッ素含有光ファイバ母材であって、石英レベルを基準としたフッ素添加層の比屈折率差Δの径方向の変動係数(標準編差;算術平均)が0.03以内であることを特徴としている。
【発明の効果】
【0007】
本発明の光ファイバ母材の製造方法によれば、多孔質ガラス堆積体の外径が大きい場合、及び/又は目標とするフッ素添加濃度が大きい場合でも、フッ素添加層の径方向への比屈折率差Δの変動係数(標準偏差;算術平均)を極めて小さくすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】パラメータQの値と、フッ素添加層の比屈折率差Δの変動係数の関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の光ファイバ母材の製造方法は、多孔質ガラス堆積体を塩素系ガスを用いて脱水する第一工程、フッ素添加を行う第二工程、さらにフッ素源を含むガス雰囲気中で透明ガラス化する第三工程からなる焼結工程を経てフッ素含有光ファイバ母材を製造する方法であり、第一工程、第二工程及び第三工程の処理温度をそれぞれ順にT、T、T(K)とし、第二工程及び第三工程のフッ素源ガス濃度をそれぞれC、C(%)とし、[数1]式のパラメータQの値がQ>0.14の範囲となる処理温度、フッ素源ガス濃度で製造するものである。
この時、パラメータQの値をQ>0.14の範囲とするのは、Q値が0.14以下では、フッ素添加層の径方向への比屈折率差Δの変動係数を0.03以内に収めることができず、光学特性の優れた光ファイバを得ることができないためである。
【0010】
本発明による多孔質ガラス堆積体へのフッ素添加、透明ガラス化について、以下に実施例と共に比較例を挙げて詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されず様々な態様をとることができる。
【実施例】
【0011】
(実施例1)
まず、多孔質ガラス堆積体を炉心管内に挿入しヒーターより上方に配置して、1100℃(1373K)に加熱した後、不活性ガス(He)と共に塩素系ガスとしてClを炉心管内に導入し、多孔質ガラス堆積体をヒーター上方より下方へ徐々に移動させて、多孔質ガラス堆積体の下端から脱水処理を行った(第一工程)。
続いて、多孔質ガラス堆積体を再度ヒーターより上方に配置し、1100℃のまま、不活性ガス(He)とフッ素化合物ガス(SiF;0.75%)を炉心管内に導入し、多孔質ガラス堆積体をヒーター上方より下方へ徐々に移動させて、フッ素添加を行った(第二工程)。
【0012】
さらに、多孔質ガラス堆積体をヒーターより上方に配置し、1420℃(1693K)の透明ガラス化温度まで昇温して、不活性ガス(He)とフッ素化合物ガス(SiF;0.30%)を炉心管内に導入し、ヒーター上方より下方へ徐々に移動させて、フッ素添加と共に透明ガラス化を行った(第三工程)。なお、[数1]式で算出されるQの値は0.41となった。
この方法によれば、第三工程でもフッ素化合物ガスを導入しているので、透明ガラス化のための高温に晒されても、第二工程で添加したフッ素の脱離・揮散を抑制することができ、フッ素添加層の径方向への比屈折率差Δの変動係数(標準偏差/算術平均)は0.011であった。
【0013】
(実施例2〜4)
各工程での処理温度T、T、T(K)、及び第二、第三工程でのフッ素源ガス濃度C、C(%)が、[数1]式で算出されるQの値がQ>0.14となるように適宜設定した。なお、Q値を変えた以外は、実施例1と同様にして、フッ素添加・透明ガラス化を行った。各実施例の処理条件は表1にまとめて示した。
【0014】
その結果、いずれの実施例においても、実施例1と同様にフッ素添加層の比屈折率差Δの変動係数を0.03以内に収めることができた。
【表1】

【0015】
(比較例1〜3)
比較例1〜3は、[数1]式のQの値、つまり焼結ガス条件以外は、実施例1と同様にしてフッ素添加・透明ガラス化を行った。各比較例の処理条件は表2にまとめて示した。
その結果、Q値が実施例よりも小さい条件となっているこれらの比較例では、フッ素添加層の比屈折率差Δの変動係数は0.03よりも大きくなった。
【表2】

【0016】
図1に、Qの値と比屈折率差Δの変動係数の関係を示した。
以上の結果から、フッ素添加工程後の透明ガラス化工程においても炉心管内にフッ素化合物ガスを導入し、かつ[数1]式で表されるQの値をQ>0.14となるように焼結条件を設定することで、フッ素添加層の径方向への比屈折率差Δのばらつきが小さいフッ素含有光ファイバ母材を製造することができた。
【産業上の利用可能性】
【0017】
フッ素添加層の径方向への比屈折率差のばらつきが小さいフッ素含有光ファイバを製造することができる。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
多孔質ガラス堆積体を塩素系ガス雰囲気中で加熱処理して脱水する第一工程と、フッ素源を含むガス雰囲気中で加熱処理してフッ素添加を行う第二工程と、フッ素源を含むガス雰囲気中で前記第二加工程よりも高い温度で加熱処理して透明ガラス化する第三工程とからなる焼結工程を経てフッ素含有光ファイバ母材を製造する方法であって、前記第一工程、第二工程及び第三工程の処理温度をそれぞれ順にT、T、T(K)とし、前記第二工程及び第三工程のフッ素源ガス濃度を順にC、C(%)とし、パラメータQが下記[数1]式で表されるとき、パラメータQの値がQ>0.14の範囲となる処理温度、フッ素源ガス濃度で製造することを特徴とするフッ素含有光ファイバ母材の製造方法。
[数1] Q=C×exp(−T/T) + C×exp(−T/T
【請求項2】
請求項1に記載の製造方法で得られたフッ素含有光ファイバ母材であって、石英レベルを基準としたフッ素添加層の径方向への比屈折率差Δの変動係数(標準編差;算術平均)が0.03以内であることを特徴とするフッ素含有光ファイバ母材。

【図1】
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