説明

フッ素変性重合体を含むゴム組成物およびそれからなるタイヤおよびスタッドレスタイヤ

【課題】本発明は、フッ素変性重合体を含み高い撥水性と湿潤路面または氷上路面において優れたグリップ性能を示すゴム組成物およびそれを用いたタイヤおよびスタッドレスタイヤに関する。
【解決手段】
ゴム成分100重量部に対して、式(1)で表されるフッ素化合物を、重合体の重合末端と反応させてなる変性重合体を1〜100重量部含むことを特徴とするゴム組成物およびこのゴム組成物を用いて製造したタイヤおよびスタッドレスタイヤ。


(Rは炭素数が1〜20の1価のフッ素含有炭化水素基を示す)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フッ素変性重合体を含み、高い撥水性と湿潤路面または氷上路面において優れたグリップ性能を示すゴム組成物およびそれを用いたタイヤおよびスタッドレスタイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、車両の高性能化、なかでも乗用車およびレース用車両の高性能化は著しく、この高性能化に対応して車両に装着する空気入りタイヤもまた、格別な性能の向上が望まれている。
【0003】
なかでも、雨天時に水膜に覆われた湿潤路面または氷で覆われた氷上路面に対して、高いグリップ性能を有する空気入りタイヤは、とくに開発が望まれている。
【0004】
従来、タイヤのグリップ性を向上させる技術として、タイヤの撥水性を向上させることが知られている。例えば、タイヤ表面における撥水性の改善を目的として、タイヤ用ゴム組成物にシリコーン系高分子(特許文献1参照)やフッ素およびケイ素含有界面活性剤(特許文献2参照)などを含有させる技術が知られている。しかしながら、シリコーン系高分子やフッ素およびケイ素含有界面活性剤などによる撥水性の改善には限界があった。
【0005】
また、氷上路面においては、スパイクタイヤの廃止に伴い、スタッドレスタイヤが開発され、改良が試みられてきた。しかし、このスタッドレスタイヤにおいても、グリップ性能は十分とはいえず、氷上路面でのさらなるグリップ力が要求されている。
【0006】
【特許文献1】特開2001−329116号公報
【特許文献2】特開2004−35727号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、高い撥水性と湿潤路面または氷上路面において優れたグリップ性能を示すゴム組成物およびそれを用いて製造した高い撥水性と湿潤路面または氷上路面において優れたグリップ性能を示すタイヤおよびスタッドレスタイヤを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記課題を解決するために鋭意検討を重ねた結果、式(1)で表されるフッ素化合物を重合体の重合末端と反応させてなる変性重合体が高い撥水性を示し、この変性重合体をゴム組成物に配合することで、湿潤路面または氷上路面においてグリップ性能が改善されることを見いだした。
【0009】
すなわち、本発明は、
ゴム成分100重量部に対して、式(1)で表されるフッ素化合物を、重合体の重合末端と反応させてなる変性重合体を1〜100重量部含むことを特徴とするゴム組成物に関する。
【0010】
【化1】

【0011】
(Rは炭素数が1〜20の1価のフッ素含有炭化水素基を示す)
前記重合体が、共役ジエン化合物および/または芳香族ビニル化合物の単独重合体または共重合体であることが好ましい。
前記重合体の共役ジエン化合物が1,3−ブタジエンまたはイソプレン、芳香族ビニル化合物がスチレンであることが好ましい。
前記変性重合体の重量平均分子量Mwが300〜50,000であることが好ましい。
また、本発明は前記ゴム組成物を用いて製造したタイヤに関する。
さらに、本発明は前記ゴム組成物を用いて製造したスタッドレスタイヤに関する。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、特定のフッ素含有炭化水素基を末端に有する新規な変性重合体を含み、高い撥水性と湿潤路面または氷上路面において優れたグリップ性能を示すゴム組成物、および該ゴム組成物を用いて製造した高い撥水性と湿潤路面または氷上路面において優れたグリップ性能を有するタイヤおよびスタッドレスタイヤを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明の変性重合体は、式(1)
【0014】
【化2】

【0015】
(Rは炭素数が1〜20の1価のフッ素含有炭化水素基を示す)
で表されるフッ素化合物を、重合体の重合末端と反応させて得られたものである。
【0016】
前記式(1)のRは炭素数が1以上のフッ素含有炭化水素基であり、炭素数が2以上のフッ素含有炭化水素基であることが好ましく、炭素数が3以上のフッ素含有炭化水素基であることがより好ましい。また、前記式(1)のRは炭素数が20以下のフッ素含有炭化水素基であり、炭素数が18以下のフッ素含有炭化水素基であることが好ましく、炭素数が16以下のフッ素含有炭化水素基であることがより好ましい。Rが炭素数が20をこえるフッ素含有炭化水素基であると、変性時にカップリング反応が起こりやすくなり、それに伴い変性重合体中のフッ素の数が減り、ゴム組成物の撥水性が低下する傾向がある。
【0017】
前記式(1)で表されるフッ素化合物としては、例えば、2,2,2−トリフルオロエチルアクリレート、2,2,3,3,3−ペンタフルオロプロピルアクリレート、1H,1H,3H−テトラフルオロプロピルアクリレート、1H,1H,5H−オクタフルオロペンチルアクリレート、1H,1H,7H−ドデカフルオロヘプチルアクリレートなどのRが直鎖であるもの、2−(パーフルオロブチル)エチルアクリレート、2−(パーフルオロヘキシル)エチルアクリレート、2−(パーフルオロオクチル)エチルアクリレート、2−(パーフルオロデシル)エチルアクリレート、2−(パーフルオロ−3−メチルブチル)エチルアクリレート、2−(パーフルオロ−5−メチルヘキシル)エチルアクリレート、2−(パーフルオロ−7−メチルオクチル)エチルアクリレートなどのRが分岐鎖を有するものがあげられるが、これらに限定されるものではない。
【0018】
前記式(1)で表されるフッ素化合物は、フッ素を2個以上含んでいることが好ましく、3個以上含んでいることが好ましい。式(1)で表されるフッ素化合物に含まれるフッ素が2個未満では、例えば、アニオン重合で変性する場合に、フッ素を失う可能性があるため、得られる変性重合体の添加効果が小さくなる傾向がある。また、前記式(1)で表されるフッ素化合物は、フッ素を40個以下含んでいることが好ましく、35個以下含んでいることがより好ましい。式(1)で表されるフッ素化合物に含まれるフッ素が40個をこえると、変性時にカップリング反応が起こりやすくなり、それに伴い重合体中のフッ素の数が減り、ゴム組成物の撥水性が低下する傾向がある。
【0019】
本発明においては、前記式(1)で表されるフッ素化合物を、重合体の重合末端と反応させることにより変性重合体を製造する。重合方法については特に制限はなく、溶液重合法、気相重合法、バルク重合法のいずれも用いることができる。なかでも、加工性や汎用性などの点から、溶液重合法が好ましい。また、重合形式は回分式および連続式のいずれであってもよい。
【0020】
前記溶液重合法においては、例えば、有機リチウム化合物を重合開始剤とし、共役ジエン化合物または芳香族ビニル化合物を単独で、または共役ジエン化合物および芳香族ビニル化合物を共にアニオン重合させることにより、目的の重合体を製造することができる。
【0021】
前記共役ジエン化合物としては、例えば、1,3−ブタジエン、イソプレン、1,3−ペンタジエン、2,3−ジメチルブタジエン、2−フェニル−1,3−ブタジエン、1,3−ヘキサジエンなどがあげられる。これらは単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。なかでも、モノマーの入手容易性などの実用性の面から、1,3−ブタジエン、イソプレンが好ましい。
【0022】
前記芳香族ビニル化合物としては、例えば、スチレン、α−メチルスチレン、1−ビニルナフタレン、3−ビニルトルエン、エチルビニルベンゼン、ジビニルベンゼン、4−シクロヘキシルスチレン、2,4,6−トリメチルスチレンなどがあげられる。これらは単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせても用いてもよい。なかでも、モノマーの入手容易性などの実用性の面から、スチレンが好ましい。
【0023】
また、溶液重合法を用いた場合には、溶媒中のモノマー濃度は、5質量%以上が好ましく、10質量%以上がより好ましい。溶液中のモノマー濃度が5質量%未満では、得られる重合体の量が少なく、コストが高くなる傾向がある。また、溶媒中のモノマー濃度は50質量%以下が好ましく、30質量%以下がより好ましい。溶媒中のモノマー濃度が50質量%をこえると、溶液粘度が高くなりすぎて撹拌が困難となり、重合しにくくなる傾向がある。
【0024】
アニオン重合を行なう場合、重合開始剤としては特に制限はないが、有機リチウム化合物が好ましく用いられる。前記有機リチウム化合物としては、炭素数2〜20のアルキル基を有するものが好ましく、例えば、エチルリチウム、n−プロピルリチウム、イソプロピルリチウム、n−ブチルリチウム、sec−ブチルリチウム、tert−ブチルリチウム、tert−オクチルリチウム、n−デシルリチウム、フェニルリチウム、2−ナフチルリチウム、2−ブチル−フェニルリチウム、4−フェニル−ブチルリチウム、シクロヘキシルリチウム、シクロペンチルリチウム、ジイソプロペニルベンゼンとブチルリチウムとの反応生成物などがあげられる。なかでも、入手容易性、安全性などの観点からn−ブチルリチウムが好ましい。
【0025】
前記有機リチウム化合物を重合開始剤として用い、アニオン重合によって共役ジエン系化合物の単独重合体、芳香族ビニル化合物の単独重合体、または共役ジエン系化合物および芳香族ビニル化合物の共重合体を製造する方法としては、とくに制限はなく、従来公知の方法を用いることができる。
【0026】
具体的には、反応に不活性な有機溶剤、例えば脂肪族、脂環族、芳香族炭化水素化合物などの炭化水素系溶剤中において、共役ジエン化合物または芳香族ビニル化合物をそれぞれ単独で、または共役ジエン化合物と芳香族ビニル化合物を共に、前記有機リチウム化合物を重合開始剤として、必要に応じてランダマイザーの存在化にアニオン重合させることにより、目的の重合体が得られる。
【0027】
前記炭化水素系溶剤としては、炭素数3〜8のものが好ましく、例えば、プロパン、n−ブタン、イソブタン、n−ペンタン、イソペンタン、n−ヘキサン、シクロヘキサン、プロペン、1−ブテン、イソブテン、トランス−2−ブテン、シス−2−ブテン、1−ペンテン、2−ペンテン、1−ヘキセン、2−ヘキセン、ベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼンなどをあげることができる。これらは単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0028】
また、前記ランダマイザーとは、共役ジエン重合体のミクロ構造の制御、例えばブタジエン重合体における1,2結合、イソプレン重合体における3,4結合の増加など、あるいは共役ジエン化合物−芳香族ビニル化合物共重合体におけるモノマー単位の組成分布の制御、例えば、ブタジエン−スチレン共重合体におけるブタジエン単位、スチレン単位のランダム化などの作用を有する化合物のことである。このランダマイザーとしては、特に制限はなく、従来ランダマイザーとして一般に使用されている公知の化合物の中から任意のものを用いることができる。ランダマイザーとしては、例えば、ジメトキシベンゼン、テトラヒドロフラン、ジメトキシエタン、ジエチレングリコールジブチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ビステトラヒドロフリルプロパン、トリエチルアミン、ピリジン、N−メチルモルホリン、N,N,N’,N’−テトラメチルエチレンジアミン、1,2−ジピペリジノエタンなどのエーテル類および第三級アミン類などをあげることができる。また、カリウム−t−アミレート、カリウム−t−ブトキシドなどのカリウム塩類、ナトリウム−t−アミレートなどのナトリウム塩類も用いることができる。これらのランダマイザーは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。これらのなかでも、汎用性や入手容易性などの点から、テトラヒドロフラン、N,N,N’,N’−テトラメチルエチレンジアミンが好ましい。また、ランダマイザーの使用量は、有機リチウム化合物1モル当たり、0.01モル当量以上が好ましく、0.05モル当量以上がより好ましい。ランダマイザーの使用量が0.01モル当量未満では、添加効果が小さく、ランダム化しにくい傾向がある。また、ランダマイザーの使用量は、有機リチウム化合物1モル当たり1000モル当量以下が好ましく、500モル当量以下がより好ましい。ランダマイザーの使用量が1000モル当量をこえると、モノマーの反応速度が大きく変化してしまい、逆にランダム化しにくくなる傾向がある。
【0029】
本発明においては、このようにして得られた重合体の末端に、前記式(1)で表されるフッ素化合物を、重合開始剤1モル当たり0.3モル当量以上配合して重合体の重合末端と反応させることが好ましく、重合開始剤1モル当たり0.5モル当量以上であることがより好ましい。前記式(1)で表されるフッ素化合物の配合量が重合開始剤1モル当たり0.3モル当量未満では、重合体中のフッ素含有率が低くなるために、変性効果が小さくなる傾向がある。また、前記式(1)で表されるフッ素化合物を重合開始剤1モル当たり5モル当量以下配合して重合体の重合末端と反応させることが好ましく、重合開始剤1モル当たり3モル当量以下配合することがより好ましい。前記式(1)で表されるフッ素化合物の配合量が重合開始剤1モル当たり5モル当量をこえると、重合末端と反応しないフッ素化合物が多くなるため、反応効率が低下しコストが高くなる傾向がある。
【0030】
本発明においては、この変性反応後に、必要に応じて、公知の老化防止剤や重合反応を停止する目的でアルコールなどを加えることができる。
【0031】
前記変性重合体の重量平均分子量Mwは300以上が好ましく、500以上がより好ましい。重量平均分子量Mwが300未満では変性重合体がブリードアウトしやすく、グリップ性能の改善効果が得られにくいだけでなく、耐摩耗性も低下する傾向がある。また、変性重合体の重量平均分子量Mwは50,000以下が好ましく、10,000以下がより好ましい。変性重合体の重量平均分子量Mwが50,000をこえると、フッ素含有基の含有割合が小さくなるためにグリップ性能の改善効果が得られにくい。
【0032】
本発明において、ゴム組成物のゴム成分としてはジエン系ゴムを用いることが好ましい。ジエン系ゴムは、天然ゴム(NR)および/またはジエン系合成ゴムからなり、ジエン系合成ゴムとしては、例えば、イソプレンゴム(IR)、ブタジエンゴム(BR)、スチレンブタジエンゴム(SBR)、アクリロニトリルブタジエンゴム(NBR)、クロロプレンゴム(CR)、ブチルゴム(IIR)などがあげられる。なかでも、グリップ性能および耐摩耗性をバランスよく示すことから、NR、BR、SBRが好ましい。これらのゴムは単独で用いてもよく、2種以上組み合わせてもよい。
【0033】
本発明のゴム組成物においては、前記変性重合体の配合量は、ゴム成分100重量部に対して、1重量部以上であり、3重量部以上であることが好ましい。配合量が1重量部未満であるとグリップ性能の改善効果が得られにくい。また、前記変性重合体の配合量は、ゴム成分100重量部に対して、100重量部以下であり、50重量部以下であることが好ましい。変性重合体の配合量が100重量部をこえると耐摩耗性が低下する傾向がある。この変性重合体は1種用いてもよく、2種以上を組み合わせてもよい。
【0034】
本発明のタイヤ用ゴム組成物には、その他の補強剤、加硫剤、加硫促進剤、各種オイル、老化防止剤、軟化剤、可塑剤、カップリング剤などのタイヤ用または一般のゴム組成物用に配合される各種配合剤および添加剤を配合することができる。また、これらの配合剤、添加剤の含有量も一般的な量とすることができる。
【0035】
前記補強剤としては、湿潤路面や氷上路面でのグリップ性能と低燃費性とのバランスの観点から、シリカを用いることができる。
【0036】
前記シリカの配合量は、ゴム成分100重量部に対して、5重量部以上であることが好ましく、10重量部以上であることがより好ましい。シリカの配合量が5重量部未満であると耐摩耗性が十分でない傾向がある。また、シリカの配合量は、ゴム成分100重量部に対して、150重量部以下であることが好ましく、100重量部以下であることがより好ましい。シリカの配合量が150重量部をこえると、加工性が悪化する傾向がある。シリカは単独で用いてもよく、2種以上組み合わせて用いてもよい。
【0037】
シリカを配合する場合、シランカップリング剤を併用することが好ましい。シランカップリング剤としては、例えば、ビス(3−トリエトキシシリルプロピル)テトラスルフィド、ビス(3−トリエトキシシリルプロピル)トリスルフィド、ビス(3−トリエトキシシリルプロピル)ジスルフィド、ビス(2−トリエトキシシリルエチル)テトラスルフィド、ビス(3−トリメトキシシリルプロピル)テトラスルフィド、ビス(2−トリメトキシシリルエチル)テトラスルフィド、3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリエトキシシラン、2−メルカプトエチルトリメトキシシラン、2−メルカプトエチルトリエトキシシラン、3−トリメトキシシリルプロピル−N,N−ジメチルチオカルバモイルテトラスルフィド、3−トリエトキシシリルプロピル−N,N−ジメチルチオカルバモイルテトラスルフィド、2−トリエトキシシリルエチル−N,N−ジメチルチオカルバモイルテトラスルフィド、3−トリメトキシシリルプロピルベンゾチアゾールテトラスルフィド、3−トリエトキシシリルプロピルベンゾチアゾリルテトラスルフィド、3−トリエトキシシリルプロピルメタクリレートモノスルフィド、3−トリメトキシシリルプロピルメタクリレートモノスルフィド、ビス(3−ジエトキシメチルシリルプロピル)テトラスルフィド、3−メルカプトプロピルジメトキシメチルシラン、ジメトキシメチルシリルプロピル−N,N−ジメチルチオカルバモイルテトラスルフィド、ジメトキシメチルシリルプロピルベンゾチアゾールテトラスルフィドなどがあげられる。なかでも、補強性改善効果などの点から、ビス(3−トリエトキシシリルプロピル)テトラスルフィドおよび3−トリメトキシシリルプロピルベンゾチアゾリルテトラスルフィドが好ましい。これらのシランカップリング剤は単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0038】
前記シランカップリング剤の配合量は、前記シリカ100重量部に対して1重量部以上であることが好ましく、2重量部以上であることがより好ましい。シランカップリング剤の配合量が1重量部未満では、未加硫ゴム組成物の粘度が高く加工性が悪くなる傾向がある。また、シランカップリング剤の配合量は、前記シリカ100重量部に対し、20重量部以下であることが好ましく、15重量部以下であることがより好ましい。シランカップリング剤の配合量が20重量部をこえると、その配合量ほどのシランカップリング剤の配合効果が得られず、コストが高くなる傾向がある。
【0039】
また、前記補強剤としてはカーボンブラックも用いることができる。カーボンブラックの配合量は、ゴム成分100重量部に対して5重量部以上であることが好ましく、10重量部以上であることがより好ましい。カーボンブラックの配合量が5重量部未満では、充分な補強姓が得られず、耐摩耗性が劣る傾向がある。また、カーボンブラックの配合量はゴム成分100重量部に対して、150重量部以下であることが好ましく、100重量部以下であることがより好ましい。カーボンブラックの配合量が150重量部をこえると、加工性が悪化し、硬度が高くなることから氷上路面でのグリップ性能が低下する傾向がある。
【0040】
加硫剤としては硫黄などの一般的なものが用いられ、これらは単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0041】
加硫剤の配合量は、ゴム成分100重量部に対して0.2重量部以上であることが好ましく、0.5重量部以上であることが好ましい。加硫剤の配合量が0.2重量部未満では架橋密度が低く、強度が得られない傾向がある。また、加硫剤の配合量は、ゴム成分100重量部に対して、10重量部以下であることが好ましく、5重量部以下であることがより好ましい。加硫剤の配合量が10重量部をこえると架橋密度の上昇にともない硬度が高くなることでグリップ性能が低下する傾向がある。
【0042】
加硫促進剤としては、とくに限定はないが、N−tert−ブチル−2−ベンゾチアゾリルスルフェンアミド、N−シクロヘキシル−2−ベンゾチアゾリルスルフェンアミド、ジベンゾチアゾリルジスルファイドなどがあげられる。これらは単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0043】
加硫促進剤の配合量は、ゴム成分100重量部に対して、0.1重量部以上であることが好ましく、1重量部以上であることがより好ましい。加硫促進剤の配合量が0.1重量部未満では、加硫速度が遅く生産性が低下する傾向がある。また、加硫促進剤の配合量がゴム成分100重量部に対して、10重量部以下であることが好ましく、5重量部以下であることがより好ましい。加硫促進剤の配合量が10重量部をこえると、ゴム焼けが生じ、物性が低下する傾向がある。
【0044】
本発明のタイヤ用ゴム組成物には、ゴム成分、補強剤、加硫剤、加硫促進剤、カップリング剤の外にも、通常タイヤ工業で使用することができる配合剤、たとえば、各種オイル、老化防止剤、軟化剤、可塑剤、ワックス、ステアリン酸、酸化亜鉛などのタイヤ用または一般のゴム組成物用に配合される各種配合剤および添加剤を配合することができる。また、これらの配合剤、添加剤の含有量も一般的な量とすることができる。
【0045】
本発明のゴム組成物は、一般的な方法で製造される。すなわち、バンバリーミキサーやニーダー、オープンロールなどで前記配合剤を混練したのち、加硫することによりゴム組成物を製造することができる。
【0046】
本発明のゴム組成物は、タイヤおよびスタッドレスタイヤに用いることができる。本発明のゴム組成物は、高い撥水性と湿潤路面または氷上路面において優れたグリップ性能を有するので、タイヤのトレッドに用いることが好ましい。
【0047】
本発明のタイヤは、本発明のゴム組成物を用いて通常の方法によって製造される。すなわち、必要に応じて前記各種薬品を配合した本発明のゴム組成物を未加硫の段階でタイヤの各部材の形状に合わせて押し出し加工し、タイヤ成型機上にて通常の方法にて成形し、未加硫タイヤを形成する。この未加硫タイヤを加硫機中で加熱加圧してタイヤを得る。このようにして得られた本発明のタイヤは、ウェット路面または氷上路面において優れたグリップ性能を示すものである。また、本発明のゴム組成物はスタッドレスタイヤにも好ましく使用することができる。
【実施例】
【0048】
以下、本発明を実施例に基づいて具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0049】
(重量平均分子量Mwの測定)
重量平均分子量Mwは、ゲルパーミエーションクロマトグラフ(GPC)(東ソー(株)製の8000シリーズ)を用い、検知機として示差屈折計を用い、分子量は標準ポリスチレンより換算した。
【0050】
以下に、重合体の合成例に用いた各種薬品を説明する。
シクロヘキサン:東京化成工業(株)製
1,3−ブタジエン:東京化成工業(株)製
イソプレン:東京化成工業(株)製
スチレン:東京化成工業(株)製
テトラヒドロフラン:東京化成工業(株)製
n−ブチルリチウム:東京化成工業(株)製
2,2,2−トリフルオロエチルアクリレート:ダイキン工業(株)製
1H,1H,5H−オクタフルオロペンチルアクリレート:ダイキン工業(株)製
1H,1H,7H−ドデカフルオロヘプチルアクリレート:ダイキン工業(株)製
2−(パーフルオロ−7−メチルオクチル)エチルアクリレート:ダイキン工業(株)製
【0051】
(重合体1の合成)
十分に窒素置換した100ml容器に、シクロヘキサン50ml、1,3−ブタジエン2.48g、テトラヒドロフラン0.5ml、1.6mol/l n−ブチルリチウムヘキサン溶液0.31mlを入れ、室温で撹拌した。1時間後、2,2,2−トリフルオロエチルアクリレート0.09gのシクロヘキサン溶液5mlを入れて室温で撹拌した。10分後、イソプロパノールを入れて反応を停止させた。
【0052】
(重合体2〜10の合成)
表1に示す処方に従って、重合体1と同様の方法にて合成した。
【0053】
【表1】

【0054】
フッ素化合物1:2,2,2−トリフルオロエチルアクリレート
フッ素化合物2:1H,1H,5H−オクタフルオロペンチルアクリレート
フッ素化合物3:1H,1H,7H−ドデカフルオロヘプチルアクリレート
フッ素化合物4:2−(パーフルオロ−7−メチルオクチル)エチルアクリレート
【0055】
実施例1〜20および比較例1〜2
表2および表3に示す配合処方に従って、混練り配合し、各種供試ゴム組成物を得た。これらの配合物を170℃で20分間プレス加硫して加硫物を得て、これらについて以下に示す試験方法により撥水性およびグリップ性能を評価した。
【0056】
【表2】

【0057】
【表3】

【0058】
以下に、実施例および比較例で用いた各種薬品について説明する。
天然ゴム(NR):RSS#3
スチレンブタジエンゴム(SBR):日本ゼオン(株)製のニッポールN116
ブタジエンゴム(BR):宇部興産(株)製のウベポールBR150B
カーボンブラック:キャボットジャパン(株)製のショウブラックN220
シリカ:デグッサ社製のウルトラシルVN3
シランカップリング剤:デグッサ社製のSi69(ビス(3−トリエトキシシリルプロピル)テトラスルフィド)
老化防止剤:大内新興化学工業(株)製のノクラック6C(N−1,3−ジメチルブチル−N’−フェニル−p−フェニレンジアミン)
ワックス:大内新興化学工業(株)製のサンノックワックス
ステアリン酸:日本油脂(株)製のステアリン酸
酸化亜鉛:三井金属鉱業(株)製の亜鉛華1号
硫黄:鶴見化学工業(株)製の粉末硫黄
加硫促進剤:大内新興化学工業(株)製のノクセラーCZ(N−シクロヘキシル−2−ベンゾチアゾリルスルフェンアミド)
【0059】
以下に加硫ゴムの評価方法について説明する。
【0060】
(撥水性)
ファーストテンオングストロームス(First ten Angstroms)社製の接触角測定装置(FTA125)を用いて測定を行なった。一定量の水滴をゴム表面に滴下し、滴下30秒後の接触角を測定した。比較例1および2の値を100として指数表示した。数字が大きいほど撥水性が高いことを示す。
【0061】
(湿潤路面でのグリップ性能1)
(株)上島製作所製フラットベルト式摩擦試験機(FR5010型)を用いてグリップ性能を評価した。幅20mm、直径100mmの円筒形のゴム試験片を用い、速度20km/時間、荷重4kgf、路面温度20℃の条件で、路面に対するサンプルのスリップ率を0〜70%まで変化させ、その際に検出される摩擦係数の最大値を読み取った。比較例1の値を100として指数表示した。指数が大きいほどグリップ性能が高いことを示す。
【0062】
(氷上路面でのグリップ性能1)
(株)上島製作所製インサイドドラム式摩擦試験機(FR6010型)を用いてグリップ性能を評価した。幅20mm、直径100mmの円筒形のゴム試験片を用い、速度10km/時間、荷重4kg、路面温度−5℃の条件で、路面に対するサンプルのスリップ率を0〜30%まで変化させ、その際に検出される摩擦係数の最大値を読み取った。比較例2の値を100として指数表示した。指数が大きいほどグリップ性能が高いことを示す。
【0063】
前記未加硫ゴム組成物をトレッドの形状に成形し、他のタイヤ部材とともに貼り合わせて未加硫タイヤを形成し、170℃の条件下で10分間プレス加硫し、タイヤ(サイズ195/65R15)を製造した。製造したタイヤを用いて以下の試験を行った。
【0064】
以下にタイヤの評価方法について説明する。
【0065】
(湿潤路面でのグリップ性能2)
水を撒いて湿潤路面としたテストコースにて、製造したタイヤを排気量2000ccの国産FR車に装着し、速度70km/hで制動し、タイヤに制動をかけてから停車するまでの走行距離(制動距離)を測定し、その距離の逆数を比較例1の値を100として、それぞれ指数表示した。数値が大きいほどグリップ性能が高いことを示す。
【0066】
(氷上路面でのグリップ性能2)
氷上路面のテストコースにて、製造したタイヤを排気量2000ccの国産FR車に装着し、速度30km/hで制動し、タイヤに制動をかけてから停車するまでの走行距離(制動距離)を測定し、その距離の逆数を比較例2の値を100として、それぞれ指数表示した。数値が大きいほどグリップ性能が高いことを示す。
【0067】
表2および表3に示すように、式(1)で表されるフッ素化合物で変性した重合体を配合したゴム組成物、およびそれを用いて製造したタイヤは高い撥水性と湿潤路面または氷上路面において良好なグリップ性能を示すことがわかる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゴム成分100重量部に対して、式(1)で表されるフッ素化合物を、重合体の重合末端と反応させてなる変性重合体を1〜100重量部含むことを特徴とするゴム組成物。
【化1】

(Rは炭素数が1〜20の1価のフッ素含有炭化水素基を示す)
【請求項2】
前記重合体が、共役ジエン化合物および/または芳香族ビニル化合物の単独重合体または共重合体である請求項1に記載のゴム組成物。
【請求項3】
前記重合体の共役ジエン化合物が1,3−ブタジエンまたはイソプレン、芳香族ビニル化合物がスチレンである請求項1または2に記載のゴム組成物。
【請求項4】
前記変性重合体の重量平均分子量Mwが300〜50,000である請求項1〜3のいずれかに記載のゴム組成物。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載のゴム組成物を用いて製造したタイヤ。
【請求項6】
請求項1〜4のいずれかに記載のゴム組成物を用いて製造したスタッドレスタイヤ。

【公開番号】特開2008−179727(P2008−179727A)
【公開日】平成20年8月7日(2008.8.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−15403(P2007−15403)
【出願日】平成19年1月25日(2007.1.25)
【出願人】(000183233)住友ゴム工業株式会社 (3,458)
【Fターム(参考)】