説明

フッ素系樹脂積層艶消しフィルムおよびその製造方法

【課題】優れた耐候性、耐汚染性、耐薬品性を備え、艶消しの外観を有するフッ素系樹脂積層フィルムおよびその製造方法を提供する。
【解決手段】艶消し剤を含有するアクリル系樹脂フィルム層に、艶消し剤を含有しないフッ素系樹脂層が積層されたフィルムであり、前記艶消し剤を含有するアクリル系樹脂フィルム層の凹凸によりフッ素系樹脂層の表面に凹凸を有する艶消しフィルムであって、前記フッ素系樹脂層のJIS B0601による表面粗さ(Ra)が0.6μm以上であることを特徴とするフッ素系樹脂積層艶消しフィルム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フッ素系樹脂積層艶消しフィルムおよびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
フッ化ビニリデン系樹脂フィルムは、耐候性、耐薬品性、さらには耐汚染性に優れているため、プラスチック、ガラス、スレート、ゴム、金属板、木板等の各種基材表面にラミネートされる保護フィルムとして広く使用されている。そしてこれらの表面が保護された基材は、建築物の内装材や外装材、家具その他の多くの用途で使用されている。
【0003】
しかし、近年、特に屋内で使用される壁紙やレザー家具等の基材について、イメージの高級化が要望されるようになり、そのためそれらの表面にラミネートするための艶消しフィルムが提供されている。それらの艶消しフィルムの製法としては、主として(1)表面を粗くした金属やゴムロール(マットロール)によってフィルム表面に微細な凹凸を付与し、熱成形する方法、(2)砂または金属等の微粒子を被処理フィルム表面に吹き付けて微細な凹凸を付与する方法(サンドブラスト法)、(3)被処理フィルムに艶消し剤をコーティングする方法、さらには(4)微細な有機あるいは無機充填剤(艶消し剤)をフィルム構成樹脂中に添加する方法等が知られている。
【0004】
しかし、マットロールによるフィルムの艶消し方法(1)は、フッ化ビニリデン系樹脂に添加した紫外線吸収剤などによりマットロールが目詰まりしやすいという問題のほか、薄いフィルムでは、厚み斑がそのまま艶斑となり、均質な艶消しフィルムが得られにくいという問題点や、二次加工での加熱によりフィルム表面の微細な凹凸が緩和され、艶消し効果が消失してしまうという問題点があった。またサンドブラスト法(2)においては、薄く柔らかいフィルムでは、サンドブラスト時に被処理フィルムが破断したり、伸びたりする問題があった。また艶消し剤をコーティングする方法(3)においては、フッ化ビニリデン系樹脂の場合、非粘着(非接着)性のためコーティングを容易に行うことができず、さらに艶消し剤を用いる方法(4)においては、前記のような問題は生じないものの、艶消し剤の選択は一般に容易ではない。すなわち、フッ化ビニリデン系樹脂との相溶性に乏しい充填剤では、得られたフィルム内にボイドが発生し易く、機械的強度が低下し、また充填剤の添加によりフィルムの透明性の低下が生じ、さらに充填剤を添加したフッ化ビニリデン系樹脂フィルムが着色してしまうという問題があった。
【0005】
艶消しフッ化ビニリデン系樹脂フィルムとしては、特許文献1に特定の無機充填剤を配合した組成物からなる、着色度が改善された艶消しフッ化ビニリデン系樹脂フィルムが開示されている。しかしながらこれは無機充填剤が添加されているため、フィルムの透明性が低く、透明性を要する用途では使用が困難であった。
【0006】
また特許文献2にはインサート成形またはインモールド成形を施した時に、成形品が白化しない、かつ車輌用途に用いることができる表面硬度、耐熱性、耐薬品性、および透明性または艶消し性を有するアクリル樹脂フィルム状物を得るために好適な多層構造重合体、およびこれを含む樹脂組成物が開示されている。さらに特許文献3には、インサート成形またはインモールド成形を施した時に成形品が白化せず、また寒冷地でVカット加工やラッピング加工を施した時に成形品が白化せず、かつ車輌用途、建材用途に用いることができる、表面硬度、耐熱性を満足するアクリル樹脂フィルム状物が開示されている。このアクリル樹脂フィルム状物にフッ素樹脂フィルム状物を積層した場合、フッ素樹脂フィルム状物の表面が艶消しにならず、艶消しにするにはフッ素樹脂に艶消し剤を添加したりフッ素樹脂フィルム状物を加工する際にエンボス加工をしたりしなければならず、艶消し剤添加によるフッ素樹脂フィルム状物表面の耐溶剤性の低下や、エンボス加工する場合はエンボスロール等の設備が必要となり、設備が複雑となるなどの問題があった。
【0007】
【特許文献1】特開平7−90152号公報
【特許文献2】特開2005−139416号公報
【特許文献3】特開2005−163003号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の課題は、優れた耐候性、耐汚染性、耐薬品性を備え、艶消しの外観を有するフッ素系樹脂積層フィルムおよびその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、上記課題を解決するため、下記の手段を提供する。
1.艶消し剤を含有するアクリル系樹脂フィルム層に、艶消し剤を含有しないフッ素系樹脂層が積層されたフィルムであり、前記艶消し剤を含有するアクリル系樹脂フィルム層の凹凸によりフッ素系樹脂層の表面に凹凸を有する艶消しフィルムであって、前記フッ素系樹脂層のJIS B0601による表面粗さ(Ra)が0.6μm以上であることを特徴とするフッ素系樹脂積層艶消しフィルム。
【0010】
2.フッ素系樹脂層のJIS Z8741における60°反射の表面光沢度が50以下であることを特徴とする上記1に記載のフッ素系樹脂積層艶消しフィルム。
【0011】
3.フッ素系樹脂層とアクリル系樹脂フィルム層の厚さの比が1/25〜1/3であることを特徴とする上記1または2に記載のフッ素系樹脂積層艶消しフィルム。
【0012】
4.艶消し剤が水酸基を含有する重合体であることを特徴とする上記1〜3のいずれかに記載のフッ素系樹脂積層艶消しフィルム。
【0013】
5.フッ素系樹脂がポリフッ化ビニリデンであることを特徴とする上記1〜4のいずれかに記載のフッ素系樹脂積層艶消しフィルム。
【0014】
6.アクリル系樹脂フィルム層が紫外線吸収剤、光安定剤を含有することを特徴とする上記1〜5のいずれかに記載のフッ素系樹脂積層艶消しフィルム。
【0015】
7.フッ素系樹脂層とアクリル系樹脂フィルム層を共押出法で成形することを特徴とする上記1〜6のいずれかに記載のフッ素系樹脂積層艶消しフィルムの製造方法。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、フッ素系樹脂が本来有する耐候性、耐汚染性、耐薬品性を備え、艶消しの外観を有するフッ素系樹脂積層フィルムを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明のフッ素系樹脂積層艶消しフィルムおよびその製造方法の好ましい形態について説明する。なお、本発明において、フィルムなる語はシート状物をも含む。
【0018】
本発明のフッ素系樹脂積層艶消しフィルムは、艶消し剤を含有するアクリル樹脂フィルムの片面または両面に、艶消し剤を含有しないフッ素系樹脂層が積層されたフィルムであり、JIS B0601で測定したときのフッ素系樹脂層の表面粗さ(Ra)が0.6μm以上であることを特徴とする。
【0019】
<フッ素系樹脂層表面の凹凸>
本発明のフッ素系樹脂積層艶消しフィルムは、艶消し剤を含有するアクリル系樹脂フィルム層に艶消し剤を含有しないフッ素系樹脂層が積層されたフィルムであり、前記艶消し剤を含有するアクリル系樹脂フィルム層の凹凸によりフッ素系樹脂層の表面に凹凸を有する艶消しフィルムであって、前記フッ素系樹脂層のJIS B0601による表面粗さ(Ra)が0.6μm以上であることを特徴とする。このフィルムにより、フッ素系樹脂層が艶消し剤を含有しないことから、フッ素系樹脂が本来有する、優れた耐候性、耐汚染性、耐薬品性などの効果を得ることができる。また、JIS B0601で測定したときのフッ素系樹脂層表面の表面粗さ(Ra)が0.6μm以上であることが必要である。表面粗さ(Ra)が0.6μm未満の場合、光沢が高くなり、フッ素系樹脂層表面が艶消し状とならない。
【0020】
<アクリル系樹脂>
本発明のフッ素系樹脂積層艶消しフィルムに用いられるアクリル系樹脂としては、特に限定はされないが、例えば、メチルメタクリレート、エチルメタクリレート、プロピルメタクリレートおよびブチルメタクリレートからなる群より選ばれる少なくとも1種を主原料とし、必要に応じて炭素数1〜8のアルキル基を有するアクリル酸エステル、酢酸ビニル、塩化ビニル、スチレン、アクリロニトリル、メタクリロニトリル等を共重合成分として得られる単一重合体または共重合体、およびアルキル(メタ)アクリレートを主成分とするアクリルゴム含有重合体等が挙げられる。また、特開昭52−56150号公報、特開昭57−140161号公報、特開昭58−215444号公報、特開昭63−77963号公報、特開平9−263614号公報、特開平11−228710号公報、特開2003−128735号公報、特開2003−211446号公報、特開2004−2665号公報および特開2005−163003号公報に記載されているような多層構造重合体、特開2006−110744号公報、特開2006−91847号公報、特開2007−91784号公報、特開2007−178514号公報に記載されているようなアクリル系樹脂が挙げられる。
【0021】
<艶消し剤>
本発明のフッ素系樹脂積層艶消しフィルムのアクリル系樹脂フィルム層に含有される艶消し剤としては、有機系、無機系に関わらず従来公知の各種の艶消し剤が挙げられる。艶消し剤は単独で、または2種以上を混合して使用することができる。
【0022】
本発明のフッ素系樹脂積層艶消しフィルムに使用される艶消し剤としては、透明性の観点からPMMA(ポリメチルメタクリレート)を主成分とする架橋樹脂からなる重量平均粒子径が2〜15μmの、例えば球状の、微粒子が好ましい。また、透明性、艶消し性、製膜性および成形性の観点から、以下に示す水酸基を含有する重合体(IV)および/または水酸基を含有する重合体(V)が好ましい。
【0023】
艶消し剤として、水酸基を含有する重合体(IV)および/または水酸基を含有する重合体(V)を用いると、フッ素系樹脂積層艶消しフィルムの伸度等の物性はほとんど低下しない。そのため、艶消し剤として水酸基を含有する重合体(IV)および/または水酸基を含有する重合体(V)を用いたフッ素系樹脂積層艶消しフィルムは、例えば、二次加工時等にフィルム切れ等を生じず、より好適に使用することができる。
【0024】
<水酸基を含有する重合体(IV)及び(V)>
水酸基を含有する重合体(IV)について説明する。
水酸基を含有する重合体(IV)は、炭素数1〜8のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸ヒドロキシアルキルエステル1〜80質量部、炭素数1〜13のアルキル基を有するメタクリル酸アルキルエステル10〜99質量部、および炭素数1〜8のアルキル基を有するアクリル酸アルキルエステル0〜79質量部の合計100質量部からなる単量体成分を共重合して得られるものである。
【0025】
炭素数1〜8のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸ヒドロキシアルキルエステルとしては、メタクリル酸2−ヒドロキシエチル、メタクリル酸2−ヒドロキシプロピル、メタクリル酸2,3−ジヒドロキシプロピル、アクリル酸2−ヒドロキシエチル、アクリル酸4−ヒドロキシブチル等が挙げられる。これらは単独で、または2種以上を混合して使用することができる。炭素数1〜8のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸ヒドロキシアルキルエステルとしては、なかでも、メタクリル酸2−ヒドロキシエチルが特に好ましい。
【0026】
水酸基を含有する重合体(IV)を与える単量体成分中の炭素数1〜8のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸ヒドロキシアルキルエステルの含有量は、1〜80質量%の範囲である。炭素数1〜8のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸ヒドロキシアルキルエステルの含有量を1質量%以上とすることにより、艶消し効果がより高くなる。また、炭素数1〜8のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸ヒドロキシアルキルエステルの含有量を80質量%以下とすることにより、粒子の分散性がより良好となり、フィルムの製膜性がより良好となる。水酸基を含有する重合体(IV)を与える単量体成分中の炭素数1〜8のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸ヒドロキシアルキルエステルの含有量は、艶消し性の観点から、5質量%以上が好ましく、20質量%以上がより好ましい。また、水酸基を含有する重合体(IV)を与える単量体成分中の炭素数1〜8のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸ヒドロキシアルキルエステルの含有量は、製膜性の観点から、50質量%以下が好ましい。
【0027】
耐薬品性が求められる用途では、耐性を十分に発現させる観点からは、水酸基を含有する重合体(IV)を与える単量体成分中の炭素数1〜8のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸ヒドロキシアルキルエステルの含有量は、5質量%以上が好ましく、また25質量%以下が好ましい。艶消し性と耐薬品性との両立の観点からは、水酸基を含有する重合体(IV)を与える単量体成分中の炭素数1〜8のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸ヒドロキシアルキルエステルの含有量は、10質量%以上が好ましく、また20質量%以下が好ましい。
【0028】
炭素数1〜13のアルキル基を有するメタクリル酸アルキルエステルとしては、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸ブチル等の低級メタクリル酸アルキルエステルが好ましく、なかでも、メタクリル酸メチルが特に好ましい。これらは単独で、または2種以上を混合して使用することができる。
【0029】
水酸基を含有する重合体(IV)を与える単量体成分中の炭素数1〜13のアルキル基を有するメタクリル酸アルキルエステルの含有量は、10〜99質量%の範囲である。水酸基を含有する重合体(IV)を与える単量体成分中の炭素数1〜13のアルキル基を有するメタクリル酸アルキルエステルの含有量は、製膜性の点から、30質量%以上が好ましい。また、水酸基を含有する重合体(IV)を与える単量体成分中の炭素数1〜13のアルキル基を有するメタクリル酸アルキルエステルの含有量は、艶消し性の点から、90質量%以下が好ましい。
【0030】
炭素数1〜8のアルキル基を有するアクリル酸アルキルエステルとしては、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、アクリル酸2−エチルヘキシル等の低級アクリル酸アルキルエステルが好ましい。これらは単独で、または2種以上を混合して使用することができる。
【0031】
水酸基を含有する重合体(IV)を与える単量体成分中の炭素数1〜8のアルキル基を有するアクリル酸アルキルエステルの含有量は、0〜79質量%の範囲である。水酸基を含有する重合体(IV)を与える単量体成分中の炭素数1〜8のアルキル基を有するアクリル酸アルキルエステルの含有量は、製膜性、艶消し性の点から、0.5質量%以上が好ましく、5質量%以上がより好ましい。また、水酸基を含有する重合体(IV)を与える単量体成分中の炭素数1〜8のアルキル基を有するアクリル酸アルキルエステルの含有量は、得られるフィルムの耐熱性の点から、40質量%以下が好ましく、25質量%以下がより好ましい。
【0032】
一方、水酸基を含有する重合体(IV)のガラス転移温度は、耐薬品性の観点からは、80℃以上が好ましく、90℃以上がより好ましい。この場合、水酸基を含有する重合体(IV)を与える単量体成分中の炭素数1〜8のアルキル基を有するアクリル酸アルキルエステルの含有量は、0質量%を超えて5質量%以下の範囲が好ましく、0質量%を超えて2質量%以下の範囲がより好ましい。
【0033】
水酸基を含有する重合体(IV)の固有粘度は、艶消し効果の発現性、外観の観点から、0.05〜0.3L/gの範囲内であることが好ましい。水酸基を含有する重合体(IV)の固有粘度は、0.06L/g以上がより好ましい。また、水酸基を含有する重合体(IV)の固有粘度は、0.15L/g以下がより好ましい。
【0034】
また、分子量を上記の範囲内に調節するために、メルカプタン等の重合調節剤を用いることが好ましい。メルカプタンとしては、例えば、n−オクチルメルカプタン、n−ドデシルメルカプタン、t−ドデシルメルカプタン等が挙げられるが、特にこれらのものに限定されず、従来公知の各種のメルカプタンを使用することができる。
【0035】
次に、水酸基を含有する重合体(V)について説明する。
水酸基を含有する重合体(V)は、炭素数1〜8のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸ヒドロキシアルキルエステル5〜80質量部、炭素数1〜13のアルキル基を有するメタクリル酸アルキルエステル10〜94質量部、および芳香族ビニル単量体1〜80質量部の合計100質量部からなる単量体成分を共重合して得られるものである。
【0036】
炭素数1〜8のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸ヒドロキシアルキルエステルとしては、水酸基を含有する重合体(IV)の場合と同様のものが挙げられ、好ましいものも同様である。炭素数1〜8のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸ヒドロキシアルキルエステルは単独で、または2種以上を混合して使用することができる。
【0037】
水酸基を含有する重合体(V)を与える単量体成分中の炭素数1〜8のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸ヒドロキシアルキルエステルの含有量は、5〜80質量%の範囲である。炭素数1〜8のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸ヒドロキシアルキルエステルの含有量を5質量%以上とすることにより、艶消し効果がより高くなる。また、炭素数1〜8のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸ヒドロキシアルキルエステルの含有量を80質量%以下とすることにより、粒子の分散性がより良好となり、フィルムの製膜性がより良好となる。水酸基を含有する重合体(V)を与える単量体成分中の炭素数1〜8のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸ヒドロキシアルキルエステルの含有量は、艶消し性の観点から、5質量%以上が好ましく、10質量%以上がより好ましい。また、水酸基を含有する重合体(V)を与える単量体成分中の炭素数1〜8のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸ヒドロキシアルキルエステルの含有量は、製膜性、耐薬品性の観点から、50質量%以下が好ましく、20質量%以下がより好ましい。
【0038】
炭素数1〜13のアルキル基を有するメタクリル酸アルキルエステルとしては、水酸基を含有する重合体(IV)の場合と同様のものが挙げられ、好ましいものも同様である。炭素数1〜13のアルキル基を有するメタクリル酸アルキルエステルは単独で、または2種以上を混合して使用することができる。
【0039】
水酸基を含有する重合体(V)を与える単量体成分中の炭素数1〜13のアルキル基を有するメタクリル酸アルキルエステルの含有量は、10〜94質量%の範囲である。水酸基を含有する重合体(V)を与える単量体成分中の炭素数1〜13のアルキル基を有するメタクリル酸アルキルエステルの含有量は、得られるフィルムの耐温水性の点から、50質量%以上が好ましい。また、水酸基を含有する重合体(V)を与える単量体成分中の炭素数1〜13のアルキル基を有するメタクリル酸アルキルエステルの含有量は、艶消し性の点から、90質量%以下が好ましい。
【0040】
芳香族ビニル単量体としては、公知のもののいずれも使用することができる。その具体例としては、スチレン、α−メチルスチレン等が挙げられる。これらは単独で、または2種以上を混合して使用することができる。芳香族ビニル単量体としては、なかでも、スチレンが好ましい。
【0041】
水酸基を含有する重合体(V)を与える単量体成分中の芳香族ビニル単量体の含有量は、1〜80質量%の範囲である。水酸基を含有する重合体(V)を与える単量体成分中の芳香族ビニル単量体の含有量は、製膜性、艶消し性の点から、5質量%以上が好ましい。また、水酸基を含有する重合体(V)を与える単量体成分中の芳香族ビニル単量体の含有量は、得られるフィルムの耐熱性の点から、40質量%以下が好ましく、20質量%以下がより好ましい。
【0042】
水酸基を含有する重合体(V)の固有粘度は、艶消し効果の発現性、外観の観点から、0.05〜0.3L/gの範囲内であることが好ましい。水酸基を含有する重合体(V)の固有粘度は、0.06L/g以上がより好ましい。また、水酸基を含有する重合体(V)の固有粘度は、0.15L/g以下がより好ましい。
【0043】
また、分子量を上記の範囲内に調節するために、メルカプタン等の重合調節剤を用いることが好ましい。メルカプタンとしては、例えば、n−オクチルメルカプタン、n−ドデシルメルカプタン、t−ドデシルメルカプタン等が挙げられるが、特にこれらのものに限定されず、従来公知の各種のメルカプタンを使用することができる。
【0044】
水酸基を含有する重合体(IV)および水酸基を含有する重合体(V)の製造方法としては、特に限定はされないが、懸濁重合、乳化重合等が好ましい。
【0045】
懸濁重合の開始剤としては、従来公知の各種の開始剤を使用することができる。その具体例としては、有機過酸化物、アゾ化合物等が挙げられる。これらは単独で、または2種以上を混合して使用することができる。
なお、開始剤の添加量は、重合条件等に応じて適宜決めればよい。
【0046】
懸濁安定剤としては、従来公知の各種の懸濁安定剤を使用することができる。その具体例としては、有機コロイド性高分子物質、無機コロイド性高分子物質、無機微粒子、およびこれらと界面活性剤との組み合わせ等が挙げられる。これらは単独で、または2種以上を混合して使用することができる。
なお、懸濁安定剤の添加量は、重合条件等に応じて適宜決めればよい。
【0047】
懸濁重合は、通常、懸濁安定剤の存在下にモノマー類を重合開始剤とともに水性懸濁して行う。それ以外にも、モノマーに可溶な重合物をモノマーに溶かし込んで使用し、懸濁重合を行うこともできる。
【0048】
本発明のフッ素系樹脂積層艶消しフィルムのアクリル系樹脂フィルム層に含有させる艶消し剤の量は、アクリル樹脂100質量部に対して1〜40質量部であるのが好ましい。アクリル系樹脂中の艶消し剤の含有量をアクリル系樹脂100質量部に対し1質量部以上とすることにより、より優れた艶消し効果が発現する。アクリル系樹脂中の艶消し剤の含有量は、さらに良好な艶消し性を得る点から、アクリル系樹脂100質量部に対して3質量部以上が好ましく、5質量部以上が最も好ましい。この含有量を好ましくは40質量部以下、さらに好ましくは30質量部以下、より好ましくは20質量部以下、最も好ましくは15質量部以下とすることにより良好な製膜性が得られる。
【0049】
<加工助剤>
本発明のフッ素系樹脂積層艶消しフィルムのアクリル系樹脂フィルム層には、還元粘度(重合体0.1gをクロロホルム100mLに溶解し、25℃で測定)が0.15L/gを超える熱可塑性重合体(VI)を含むこともできる。熱可塑性重合体(VI)としては、具体的には、メタクリル酸メチル50〜100質量%と、これと共重合可能な二重結合を有する他の単量体0〜50質量%とを重合または共重合して得られるものである。これと共重合可能な二重結合を有する他の単量体は単独で、または2種以上を混合して使用することができる。熱可塑性重合体(VI)は、フィルム製膜性、艶消し性をより良好とする成分である。
【0050】
熱可塑性重合体(VI)は、アクリル系樹脂100質量部に対して、0質量部を超えて20質量部以下の範囲で使用することが好ましい。さらに好ましくは、フィルム製膜性の観点から1〜10質量部の範囲である。
【0051】
<光沢度>
本発明のフッ素系樹脂積層艶消しフィルムのJIS Z8741による60°反射の表面光沢度は50以下であることが好ましい。60°反射の表面光沢度が50を超える場合、得られるフッ素系樹脂積層艶消しフィルムのフッ素系樹脂層表面が艶消し状とならない傾向にあるため好ましくない。
【0052】
<フッ素系樹脂層/アクリル系樹脂フィルム層の厚さ比>
本発明のフッ素系樹脂積層艶消しフィルムのフッ素系樹脂層とアクリル系樹脂フィルム層の厚さ比は1/25〜1/3であることが好ましい。フィルムのフッ素系樹脂層とアクリル系樹脂フィルム層の厚さ比が1/25より小さい場合、表面の荒れにより外観不良となる傾向にある。また、1/3より大きい場合、艶消し効果発現性の観点で好ましくない。この厚さ比は、好ましくは1/25〜1/3、さらに好ましくは1/20〜1/4、最も好ましくは1/15〜1/9である。
【0053】
<フッ素系樹脂>
本発明のフッ素系樹脂積層艶消しフィルムに用いられるフッ素系樹脂としては、特に限定はされないが、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリフッ化ビニル(PVF)、エチレン−四フッ化エチレン共重合体(ETFE)、三フッ化塩化エチレン、四フッ化エチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)等の公知のフッ素系樹脂などを挙げることができる。なかでも、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)が好ましく、具体例としてはARKEMA社製カイナー720、カイナー740などが挙げられる。
【0054】
<アクリル樹脂フィルム層に含有される紫外線吸収剤、光安定剤>
本発明のフッ素系樹脂積層艶消しフィルムのアクリル系樹脂フィルム層には、好ましくは、紫外線吸収剤、光安定剤が含有されていてもよい。かかる紫外線吸収剤としては、基材の耐候性を向上させる目的で公知の紫外線吸収剤を使用することができ、特に限定されないが、分子量が300以上の紫外線吸収剤が好ましく、さらに好ましくは分子量が400の紫外線吸収剤である。特に分子量400以上のベンゾトリアゾール系または分子量400以上のトリアジン系のものが好ましく使用でき、前者の具体例としては、チバ・スペシャルティ・ケミカルズ(株)のチヌビン234、旭電化工業(株)のアデカスタブLA−31等が挙げられ、後者の具体例としては、チバ・スペシャルティ・ケミカルズ(株)のチヌビン1577等が挙げられる。紫外線吸収剤の添加量は、アクリル系樹脂100質量部に対して0.1〜10重量部が好ましく、0.2〜5重量部がより好ましい。
【0055】
また、耐候性をより向上させるためには、ヒンダードアミン系の光安定剤等のラジカル捕捉剤を紫外線吸収剤と併用するのが好ましく、具体例としてアデカスタブ LA−57,アデカスタブ LA−62,アデカスタブ LA−67,アデカスタブ LA−63,アデカスタブ LA−68(以上いずれも(株)ADEKA製);サノールLS−770,サノールLS−765,サノールLS−292,サノールLS−2626,サノールLS−1114,サノールLS−744(以上いずれも三共ライフテック(株)製)などが挙げられる。光安定剤の添加量は、アクリル系樹脂100質量部に対して0.1〜10重量部が好ましく、0.2〜5重量部がより好ましい。
【0056】
<製造方法>
本発明のフッ素系樹脂積層艶消しフィルムの製造方法としては、特に限定されないが、製造工程を少なくすることができるという観点から、フッ素系樹脂とアクリル系樹脂とを溶融押出しながら同時に積層する共押出法が好ましい。具体的には、フィードブロック法などのダイ前で接着する方法、マルチマニホールド法などのダイ内で接着する方法や、マルチスロット法などのダイ外で接着する方法等が挙げられる。
【0057】
なお、フッ素系樹脂とアクリル系樹脂とを溶融押出しながら同時に積層する場合、フッ素系樹脂層表面の艶消し性の観点からアクリル系樹脂を冷却ロールに接するように溶融押出するのが好ましい。
【0058】
<配合剤>
本発明のフッ素系樹脂積層艶消しフィルムに用いられるフッ素系樹脂には、必要に応じて一般の配合剤、例えば、安定剤、酸化防止剤、滑剤、加工助剤、可塑剤、耐衝撃剤、発泡剤、充填剤、抗菌剤、防カビ剤、離型剤、帯電防止剤、着色剤、紫外線吸収剤、光安定剤、難燃剤等を添加することができる。また、アクリル系樹脂にも同様に上記のような一般の配合剤を添加することができる。
【0059】
酸化防止剤としては、例えば、フェノール系、硫黄系、リン系等、熱安定剤としては、例えば、ヒンダードフェノール系、硫黄系、ヒドラジン系等、可塑剤としては、樹脂の種類にもよるが、例えば、フタル酸エステル系、リン酸エステル系、脂肪酸エステル系、脂肪族二塩基酸エステル系、オキシ安息香酸エステル系、エポキシ系、ポリエステル系等、滑剤としては、例えば、脂肪酸エステル系、脂肪酸系、金属石鹸系、脂肪酸アミド系、高級アルコール系、パラフィン系等、帯電防止剤としては、例えば、カチオン系、アニオン系、ノニオン系、両イオン系等、難燃剤としては、例えば、臭素系、リン系、塩素系、窒素系、アルミニウム系、アンチモン系、マグネシウム系、ホウ素系、ジルコニウム系等、充填剤としては、例えば、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、滑石、蝋石、カオリン等から、それぞれ、選ばれる1種を単独でまたは2種以上を混合して用いることができる。
【0060】
上記配合剤の添加方法としては、フッ素系樹脂やアクリル系樹脂を形成するための押出機に供給する方法と、予めフッ素系樹脂やアクリル系樹脂に配合剤を添加した混合物を各種混練機にて混練混合する方法がある。後者の方法に使用する混練機としては、通常の単軸押出機、二軸押出機、バンバリミキサー、ロール混練機等が挙げられる。
【0061】
<二次加工>
本発明のフッ素系樹脂積層艶消しフィルムを、各種樹脂成形品、木工製品および金属成形品等の基材の表面に積層することで、フッ素系樹脂層を表面に有する積層体を製造することができる。
【0062】
また、本発明のフッ素系樹脂積層艶消しフィルムは、各種基材に意匠性を付与するために、必要に応じて適当な印刷法により印刷を施して使用することできる。この場合、フッ素系樹脂積層艶消しフィルムに片側印刷処理を施したものを用いることが好ましく、印刷面を基材樹脂との接着面に配することが印刷面の保護や高級感の付与の点から好ましい。また、基材の色調を生かし、低光沢な塗装の代替として用いる場合には、そのまま使用することができる。特に、このように基材の色調を生かす用途には、本発明のフッ素系樹脂積層艶消しフィルムは、ポリ塩化ビニルフィルムやポリエステルフイルムに比べ、透明性、深み感や高級感の点で優れている。
【実施例】
【0063】
以下実施例および比較例により本発明をさらに説明するが、本発明はこれらの例により何ら限定されるものではない。
【0064】
尚、実施例および比較例中の「部」は「質量部」を、「%」は「質量%」をそれぞれ表す。また、調製例中の略号は以下のとおりである。
【0065】
メチルメタクリレート MMA
メチルアクリレート MA
ブチルアクリレート BA
スチレン St
ヒドロキシエチルメタクリレート HEMA
アリルメタクリレート AMA
1,3−ブチレングリコールジメタクリレート 1,3BD
t−ブチルハイドロパーオキサイド tBH
ラウリルパーオキサイド LPO
クメンハイドロパーオキサイド CHP
n−オクチルメルカプタン n−OM
【0066】
乳化剤(1):モノ−n−ドデシルオキシテトラオキシエチレンリン酸ナトリウム[商品名フォスファノールRS−610NA、東邦化学(株)製]
【0067】
フッ素系樹脂としてアルケマ(ARKEMA)社製のカイナー720(ポリフッ化ビニリデン系樹脂)を用いた。
【0068】
評価は下記の方法で行った。
(1)固形分
重合体ラテックスの固形分は、ラテックス30mlをギアオーブン(180℃)で20分間乾燥させ、固形分重量を測定して求めた。
【0069】
(2)平均粒子径
重合体ラテックスの平均粒子径は、吸光度法により求めた。
【0070】
(3)ゴム含有多段重合体、ゴム含有重合体各層単独のガラス転移温度(Tg)
ポリマーハンドブック[Polymer HandBook(J.Brandrup,Interscience,1989)]に記載されている値を用いてFOXの式から算出した。
【0071】
(4)フッ素系樹脂積層艶消しフィルムの表面粗さ(Ra)
(株)KEYENCE製「超深度形状測定顕微鏡」を用いて測定した。
【0072】
(5)フッ素系樹脂積層艶消しフィルムの全光線透過率およびヘイズ
JIS K7136の試験方法に従って測定した。
【0073】
(6)フッ素系樹脂積層艶消しフィルムの表面光沢
グロスメーター(ムラカミカラーリサーチラボラトリー製 GM−26D型)を用い、60°での表面光沢を測定した。
【0074】
調製例1
<ゴム含有多段重合体(I)の製造>
攪拌機を備えた容器に脱イオン水8.5部を仕込んだ後、MMA0.3部、n−BA4.5部、1,3−BD0.2部、AMA0.05部およびCHP0.025部からなる単量体成分を投入し、室温下にて攪拌混合した。次いで、攪拌しながら、乳化剤(東邦化学工業(株)製、商品名「フォスファノールRS610NA」)1.1部を上記容器内に投入し、攪拌を20分間継続して乳化液を調製した。
【0075】
次に、冷却器付き重合容器内に脱イオン水186.5部を投入し、70℃に昇温した。さらに、イオン交換水5部にソジウムホルムアルデヒドスルホキシレート0.20部、硫酸第一鉄0.0001部およびEDTA0.0003部を加えて調製した混合物を重合容器内に一度に投入した。次いで、窒素下で攪拌しながら、調製した乳化液を8分間にわたって重合容器に滴下した後、15分間反応を継続させ、第一弾性重合体(I−A−1)の重合を完結した。続いて、MMA1.5部、n−BA22.5部、1,3−BD1.0部およびAMA0.25部からなる単量体成分を、CHP0.016部と共に、90分間にわたって重合容器に滴下した後、60分間反応を継続させ、第二弾性重合体(I−A−2)を含む弾性重合体(I−A)を得た。なお、第一弾性重合体(I−A−1)単独のTgは−48℃、第二弾性重合体(I−A−2)単独のTgは−48℃であった。
【0076】
続いて、MMA6部、n−BA4部およびAMA0.075部からなる単量体成分を、CHP0.0125部と共に、45分間にわたって重合容器に滴下した後、60分間反応を継続させ、中間重合体(I−B)を形成させた。なお、中間重合体(I−B)単独のTgは20℃であった。
【0077】
続いて、MMA55.2部、n−BA4.8部、n−OM0.19部およびt−BH0.08部からなる単量体成分を140分間にわたって重合容器に滴下した後、60分間反応を継続させ、硬質重合体(I−C)を形成して、ゴム含有多段重合体(I)の重合体ラテックスを得た。なお、硬質重合体(I−C)単独のTgは84℃であった。
【0078】
また、重合後に測定したゴム含有多段重合体(I)の重量平均粒子径は0.12μmであった。
【0079】
得られたゴム含有多段重合体(I)の重合体ラテックスを、濾材にSUS製のメッシュ(平均目開き:62μm)を取り付けた振動型濾過装置を用いて濾過した後、酢酸カルシウム3部を含む水溶液中で塩析させ、水洗して回収した後、乾燥し、粉体状のゴム含有多段重合体(I)を得た。
【0080】
調製例2
<ゴム含有多段重合体(II)の製造>
攪拌機を備えた容器に脱イオン水10.8部を仕込んだ後、MMA0.3部、n−BA4.5部、1,3−BD0.2部、AMA0.05部およびCHP0.025部からなる単量体成分を投入し、室温下に攪拌混合した。次いで、攪拌しながら、乳化剤(東邦化学工業(株)製、商品名「フォスファノールRS610NA」)1.3部を上記容器内に投入し、攪拌を20分間継続して乳化液を調製した。
【0081】
次に、冷却器付き重合容器内に脱イオン水139.2部を投入し、75℃に昇温した。さらに、イオン交換水5部にソジウムホルムアルデヒドスルホキシレート0.20部、硫酸第一鉄0.0001部およびEDTA0.0003部を加えて調製した混合物を重合容器内に一度に投入した。次いで、窒素下に攪拌しながら、調製した乳化液を8分間にわたって重合容器に滴下した後、15分間反応を継続させ、弾性重合体の第1段階目の重合を完結させた(II−A−1)。続いて、MMA9.6部、n−BA14.4部、1,3−BD1.0部およびAMA0.25部からなる単量体成分を、CHP0.016部と共に、90分間にわたって重合容器に滴下した後、60分間反応を継続させ、弾性重合体の2段目重合体の重合を完結させ(II−A−2)、弾性重合体(II−A)を得た。重合体(II−A−1)単独のTgは−48℃であり、重合体(II−A−2)単独のTgは−10℃であった。
【0082】
続いて、MMA6部、MA4部およびAMA0.075部からなる単量体成分を、CHP0.0125部と共に、45分間にわたって重合容器に滴下した後、60分間反応を継続させ、中間重合体(II−B)を形成させた。中間重合体(II−B)単独のTgは60℃であった。
【0083】
続いて、MMA57部、MA3部、n−OM0.264部およびt−BH0.075部からなる単量体成分を140分間にわたって重合容器に滴下した後、60分間反応を継続させ、硬質重合体(II−C)を形成させて、固形分40%のゴム含有多段重合体(II)の重合体ラテックスを得た。硬質重合体(II−C)単独のTgは99℃であった。また、重合後に測定したゴム含有多段重合体(II)の質量平均粒子径は0.11μmであった。
【0084】
得られたゴム含有多段重合体(II)の重合体ラテックスを、濾材にSUS製のメッシュ(平均目開き:62μm)を取り付けた振動型濾過装置を用い、濾過した後、酢酸カルシウム3部を含む水溶液中で塩析させ、水洗して回収した後、乾燥し、粉体状のゴム含有多段重合体(II)を得た。
【0085】
調製例3
<ゴム含有重合体(III)の製造>
窒素雰囲気下、還流冷却器付き反応容器に脱イオン水329部を入れ、80℃に昇温し、以下に示す(イ)を添加し、撹拌を行いながら以下に示す原料(ロ)(重合体(III−A)の原料)の混合物の1/10を仕込み、15分保持した。その後、残りの原料(ロ)を水に対する単量体混合物の増加率8%/時間で連続的に添加した。その後1時間保持して、重合体(III−A)のラテックスを得た。
【0086】
続いて、このラテックスにソジウムホルムアルデヒドスルホキシレート0.2部を加え、15分保持し、窒素雰囲気下80℃で撹拌を行いながら、以下に示す原料(ハ)(ゴム重合体(III−B)の原料)を水に対する単量体混合物の増加率4%/時間で連続的に添加した。その後2時間保持して、ゴム重合体(III−B)の重合を行うことにより、弾性重合体[(III−A)+(III−B)]のラテックスを得た。
【0087】
このラテックスに、引き続いてソジウムホルムアルデヒドスルホキシレート0.2部を加え、15分保持し、窒素雰囲気下80℃で撹拌を行いながら、以下に示す原料(ニ)(硬質重合体(III−C)の原料)を水に対する単量体混合物の増加率10%/時間で連続的に添加した。その後1時間保持して、硬質重合体(III−C)を行うことにより、ゴム含有重合体(III)のラテックスを得た。ゴム含有重合体(III)の平均粒子径は0.28μmであった。
【0088】
得られたゴム含有重合体(III)の重合体ラテックスを、濾材にSUS製のメッシュ(平均目開き:150μm)を取り付けた振動型濾過装置を用いて濾過した後、酢酸カルシウム3部を含む水溶液中で塩析させ、水洗して回収した後、乾燥し、粉体状のゴム含有重合体(III)を得た。
【0089】
(イ)
ソジウムホルムアルデヒドスルホキシレート 0.4部
硫酸第一鉄 0.00004部
エチレンジアミン四酢酸二ナトリウム 0.00012部
【0090】
(ロ)
MMA 18.0部
BA 20.0部
St 2.0部
AMA 0.15部
1,3BD 1.2部
tBH 0.07部
東邦化学工業(株)製、フォスファノールRS610NA 1.2部
【0091】
(ハ)
BA 49.5部
St 10.5部
AMA 1.05部
1,3BD 0.15部
CHP 0.17部
東邦化学工業(株)製、フォスファノールRS610NA 0.96部
【0092】
(ニ)
MMA 57.0部
MA 3.0部
nOM 0.18部
tBH 0.102部
【0093】
調製例4
<水酸基を含有する重合体(IV)の製造>
撹拌機、還流冷却器、窒素ガス導入口等が配設された反応容器に次の単量体混合物を仕込んだ。
【0094】
MA 10部
MMA 60部
HEMA 30部
n−OM 0.08部
LPO 0.5部
メタクリル酸メチル/メタクリル酸カリウム/メタクリル酸2−スルフォエチルナトリウム塩の共重合体 0.05部
硫酸ナトリウム 0.5部
イオン交換水 250重量部
【0095】
次に、容器内を十分に窒素ガスで置換した後、上記の単量体混合物を撹拌しながら75℃まで加熱し、窒素ガス気流中で重合を進めた。2時間後に90℃に昇温して、さらに45分保持して重合を完了し、引き続いて150メッシュ(目開き100μm)の条件で篩分けを行い、通過したビーズを脱水、乾燥して水酸基を含有する重合体(IV)を得た。
得られた水酸基を含有する重合体の固有粘度を測定した結果、0.11L/gであった。
【0096】
調製例5
<水酸基を含有する重合体(V)の製造>
撹拌機、還流冷却器、窒素ガス導入口等が配設された反応容器に次の単量体混合物を仕込んだ。
【0097】
MA 1部
MMA 79部
HEMA 20部
n−OM 0.14部
LPO 0.5部
メタクリル酸メチル/メタクリル酸カリウム/メタクリル酸2−スルフォエチルナトリウム塩の共重合体 0.05部
硫酸ナトリウム 0.5部
イオン交換水 250重量部
【0098】
次に、容器内を十分に窒素ガスで置換した後、上記の単量体混合物を撹拌しながら75℃まで加熱し、窒素ガス気流中で重合を進めた。2時間後に90℃に昇温して、さらに45分保持して重合を完了し、引き続いて150メッシュ(目開き100μm)の条件で篩分けを行い、通過したビーズを脱水、乾燥して水酸基を含有する重合体(V)を得た。
得られた水酸基含有直鎖状重合体の固有粘度を測定した結果、0.076L/gであった。
【0099】
調製例6
<熱可塑性重合体(VI)の製造>
反応容器に窒素置換したイオン交換水200部を仕込み、さらに乳化剤として花王(株)製、商品名「ラテムルASK」1部と、過硫酸カリウム0.15部とを仕込んだ。次に、MMA40部、n−BA2部およびn−OM0.004部を仕込み、窒素雰囲気下、65℃で3時間攪拌し、重合を完結させた。
【0100】
続いて、MMA44部およびn−BA14部からなる単量体成分を2時間にわたって滴下した後、2時間保持し、重合を完結した。
【0101】
得られた熱可塑性重合体(VI)の重合体ラテックスを0.25%硫酸水溶液に添加し、重合体を酸析させた後、脱水、水洗、乾燥し、粉体状の熱可塑性重合体(VI)を回収した。
得られた熱可塑性重合体(VI)の還元粘度は、0.38L/gであった。
【0102】
製造例1
以上の様にして得られたゴム含有多段重合体(I)100部、配合剤として水酸基を含有する重合体(IV)11部、(株)ADEKA製商品名「アデカスタブLA−31RG」2.1部、(株)ADEKA製商品名「アデカスタブLA−57」0.45部、チバ・スペシャルティ・ケミカルズ(株)製商品名「イルガノックス1076」(抗酸化剤)0.1部を、ヘンシェルミキサーを用いて混合した。この樹脂組成物を脱気式押出機[池貝工業(株)製PCM−30(商品名)]を用いてシリンダー温度200〜240℃、ダイ温度240℃で溶融混練して、ペレットを得た。
【0103】
製造例2
ゴム含有多段重合体(II)75部、熱可塑性重合体(A)[MMA/MA共重合体(MMA/MA=99/1(質量比)、還元粘度ηsp/c=0.06L/g)]25部、配合剤として水酸基を含有する重合体(IV)11部、チバ・スペシャルティ・ケミカルズ(株)製商品名「チヌビン234」1.4部、(株)ADEKA製商品名「アデカスタブLA−67」0.45部、チバ・スペシャルティ・ケミカルズ(株)製商品名「イルガノックス1076」0.1部を、ヘンシェルミキサーを用いて混合した。この樹脂組成物を製造例1と同様の方法で混練して、ペレットを得た。
【0104】
製造例3
ゴム含有重合体(III)23部、熱可塑性重合体(A)[MMA/MA共重合体(MMA/MA=99/1(質量比)、還元粘度ηsp/c=0.06L/g)]16部、熱可塑性重合体(B)[MMA/MA共重合体(MMA/MA=90/10(質量比)、還元粘度ηsp/c=0.056L/g)]51部、配合剤として水酸基を含有する重合体(V)10部、配合剤として熱可塑性重合体(VI)6部、チバ・スペシャリティ・ケミカルズ(株)製商品名「チヌビン234」1.4部、旭電化工業(株)製商品名「アデカスタブAO−60」(抗酸化剤)0.1部、旭電化工業(株)製商品名「アデカスタブLA−67」0.45部および城北化学工業(株)製商品名「JP333E」(改質剤)0.3部を、ヘンシェルミキサーを用いて混合した。この樹脂組成物を製造例1と同様の方法で混練してペレットを得た。
【0105】
実施例1
製造例1で得られたペレットをシリンダー温度230〜240℃の40mmφの単軸押出機に供給し、カイナー720をシリンダー温度200〜230℃の30mmφの単軸押出機に供給し、個別に溶融可塑化し、250℃に加熱したマルチマニホールドダイを用いて、フッ素系樹脂層の厚さが5μm、アクリル系樹脂層の厚さが45μmの2層の積層艶消しフィルムを得た。その際、冷却ロールの温度を85℃とし、アクリル系樹脂が冷却ロールに接するようにしてフィルムを得た。
【0106】
実施例2
製造例2で得られたペレットを用いたこと以外は実施例1と同様にして2層の積層艶消しフィルムを得た。
【0107】
実施例3
製造例3で得られたペレットを用い、アクリル系樹脂層の厚さを70μm、フッ素系樹脂層の厚さを8μmとしたこと以外は実施例1と同様にして2層の積層艶消しフィルムを得た。
【0108】
実施例4
30mmφのシリンダー温度を230〜260℃としたこと以外は実施例1と同様にして2層の積層艶消しフィルムを得た。
【0109】
実施例5
フッ素系樹脂層の厚さを10μm、アクリル系樹脂層の厚さを40μmとしたこと以外は、実施例1と同様にして2層の積層艶消しフィルムを得た。
【0110】
実施例6
フッ素系樹脂層を8μm、アクリル系樹脂層を72μmとしたこと以外は、実施例1と同様にして2層の積層艶消しフィルムを得た。
【0111】
比較例1
製造例1の水酸基を含有する重合体(IV)を配合しなかったペレットを用いたこと以外は実施例1と同様に2層の積層フィルムを得た。
上記実施例、比較例で得られた積層フィルムの表面粗さ、光学特性を表1に示す。
【0112】
【表1】

【0113】
上記の実施例および製造例より、次のことが明らかとなった。
【0114】
実施例1〜6におけるフッ素系樹脂積層艶消しフィルムにおいては、フッ素系樹脂が本来有する耐候性、耐汚染性、耐薬品性を備えつつフッ素系樹脂に艶消し剤を含有させなくてもフッ素系樹脂層表面に凹凸が発現し、良好な外観の艶消しフィルムが得られるため、本発明のフッ素系樹脂積層艶消しフィルムは工業的利用価値が高い。
【0115】
一方、比較例1はフッ素系樹脂層表面に凹凸が発現しておらず、艶消し外観が必要な部分での使用が困難である。
【産業上の利用可能性】
【0116】
本発明のフッ素積層艶消しフィルムは、耐候性、耐汚染性、耐薬品性を備え、艶消しの外観を有するフィルムであり、例えば、建築物の内外装用途、とりわけ直射日光の厳しい外装用途などに有効に使用できるので、本発明は産業上有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
艶消し剤を含有するアクリル系樹脂フィルム層に、艶消し剤を含有しないフッ素系樹脂層が積層されたフィルムであり、前記艶消し剤を含有するアクリル系樹脂フィルム層の凹凸によりフッ素系樹脂層の表面に凹凸を有する艶消しフィルムであって、前記フッ素系樹脂層のJIS B0601による表面粗さ(Ra)が0.6μm以上であることを特徴とするフッ素系樹脂積層艶消しフィルム。
【請求項2】
フッ素系樹脂層のJIS Z8741における60°反射の表面光沢度が50以下であることを特徴とする請求項1に記載のフッ素系樹脂積層艶消しフィルム。
【請求項3】
フッ素系樹脂層とアクリル系樹脂フィルム層の厚さの比が1/25〜1/3であることを特徴とする請求項1または2に記載のフッ素系樹脂積層艶消しフィルム。
【請求項4】
艶消し剤が水酸基を含有する重合体であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のフッ素系樹脂積層艶消しフィルム。
【請求項5】
フッ素系樹脂がポリフッ化ビニリデンであることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載のフッ素系樹脂積層艶消しフィルム。
【請求項6】
アクリル系樹脂フィルム層が紫外線吸収剤、光安定剤を含有することを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載のフッ素系樹脂積層艶消しフィルム。
【請求項7】
フッ素系樹脂層とアクリル系樹脂フィルム層を共押出法で成形することを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載のフッ素系樹脂積層艶消しフィルムの製造方法。

【公開番号】特開2010−131782(P2010−131782A)
【公開日】平成22年6月17日(2010.6.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−307769(P2008−307769)
【出願日】平成20年12月2日(2008.12.2)
【出願人】(000006035)三菱レイヨン株式会社 (2,875)
【Fターム(参考)】