説明

フラックスの不純物除去方法

【解決手段】不純物を含むフラックスを加熱溶融し、この溶融フラックス中に水蒸気及び酸素のいずれか一方又は両方を含む気体を吹き込むことにより、フラックス中の不純物を低減することを特徴とするフラックスの不純物除去方法。
【効果】冶金的手法による太陽電池用高純度Siの製造に用いるフラックス中の不純物、特にBを効果的に低減することができる。本発明により得られたフラックスは、含有するBが極めて少量あるいは実質的に含有しない。従って、これを冶金的手法による太陽電池用高純度Siの製造に用いることで、Si中のBを容易、迅速、かつ多量に除去することができる。こうしてBを除去したSiに、高真空下、局所高温加熱等によりPを揮発除去し、更に一方向凝固等により、金属不純物を低減し、極めて安価に純度6N程度の太陽電池に使用可能な高純度Siとすることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、冶金的手法による太陽電池用高純度シリコンの製造に用いるフラックスから不純物、特にホウ素(B)を簡単な方法で、効果的に低減するフラックスの不純物除去方法に関する。
【背景技術】
【0002】
金属グレードシリコン(純度98〜99質量%)から太陽電池用高純度シリコン(純度6N)を得る方法として、シーメンス法、亜鉛還元法、溶融塩電解法、冶金法等が提案されている。これらの中で、冶金法は、他の方法に比べて設備コスト、使用エネルギーが少なく、太陽電池用高純度シリコンを工業的規模で製造する方法と位置付けられている。
【0003】
冶金法において、鉄(Fe),アルミニウム(Al),チタン(Ti)等の金属不純物については、シリコン(Si)の固液間における分配係数が小さいことを利用して一方向凝固法で低減する方法が提案され、確立されている。
また、ドーパントとして作用するホウ素(B),リン(P)のうち、リンに対しては、ケイ素融点近傍でのリンの蒸気圧が比較的高いことから、高真空下、局所高温加熱のいずれか一方あるいは両方の処理により、揮発除去する方法が提案されている。
一方、ホウ素は、分配係数が0.8程度であり、工業的に一方向凝固法を利用して低減することは困難である。また、シリコン融点近傍でのホウ素の蒸気圧が低いため、リンのような揮発除去も困難である。そこで、ホウ素低減については、冶金的手法を用いた以下の方法が提案されている。
【0004】
特開2003−12317号公報(特許文献1)には、ホウ素濃度が100質量ppm以下であるシリコンに、塩基性成分を含むフラックスを添加し、これらを溶融させるフラックス添加工程と、溶融シリコン中にノズルを浸漬し、酸化性気体を吹き込む反応工程と、シリコンからフラックスを除去するフラックス除去工程とを有するシリコンの精製方法が提案されており、フラックスにはCaO、CaCO3又はNa2Oを含む化合物、特にCaO−CaF2混合フラックスが好ましい金属シリコン中のホウ素の低減方法が開示されている。
【0005】
特開平9−202611号公報(特許文献2)には、1400℃以下で分解し、H2O及び/又はCO2を発生する1種又は2種以上の固体を、Ar、H2、COなどのキャリアガスと共に溶融シリコン浴中に吹き込むことにより、ノズル先端部でのシリコンの酸化を抑えることができ、また固体から分解する大量のH2O又はCO2をシリコン浴中に導入することができ、ホウ素の酸化物ガスをキャリアガスと共に排出する金属シリコン中のホウ素の除去方法が開示されている。H2O及び/又はCO2を発生する物質の具体例としては、Ca(OH)2、CaCO3、MgCO3が示されている。
【0006】
これらはいずれもシリコン中の不純物であるホウ素をフラックスへ移行、蓄積させてホウ素濃度の高いスラグを生成し、相対的にホウ素濃度の低いシリコンを得ることを目的としている。
【0007】
しかし、一般的にフラックスとして用いられるCaO、CaCO3、Na2O、CaF2、Ca(OH)2、MgCO3等の酸化物、あるいは分解してH2O又はCO2を発生した後に酸化物となる物質は、少なくとも数ppm程度のホウ素を含有している。従って、これらの物質を数ppmのホウ素を含有したままフラックスとして高純度シリコンの製造に用いた場合、[B]≦0.3質量ppmが必須条件である太陽電池用高純度シリコンのホウ素濃度には決して到達し得ない。
【0008】
このように、冶金的手法で用いるフラックス中のホウ素は極力低減する必要がある。即ち、従来技術である特許文献1,2(特開2003−12317号公報,特開平9−202611号公報)には、金属珪素中のホウ素濃度及びこのホウ素濃度の低減に関する技術は開示されている。しかし、特許文献1,2には、フラックス中に含まれるホウ素濃度の低減に関する記述は無い。従って、より低コストに太陽電池用高純度シリコンの製造を可能とするホウ素等の不純物を低減したフラックスを有効に効率よく得る方法が望まれていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2003−12317号公報
【特許文献2】特開平9−202611号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、上記事情に鑑みなされたもので、冶金的手法による金属シリコンの精製に用いるフラックス中の不純物、特にホウ素を、簡便で効果的に低減する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記目的を達成するために鋭意検討を重ねた結果、不純物を含むフラックスを加熱溶融し、この溶融フラックス中に水蒸気及び酸素のいずれか一方又は両方を含む気体を吹き込むことにより、フラックス中の不純物、特にホウ素を効率よく低減することができることを見出し、本発明をなすに至った。
【0012】
即ち、本発明は、下記のフラックスの不純物除去方法を提供する。
〔請求項1〕
不純物を含むフラックスを加熱溶融し、この溶融フラックス中に水蒸気及び酸素のいずれか一方又は両方を含む気体を吹き込むことにより、フラックス中の不純物を低減することを特徴とするフラックスの不純物除去方法。
〔請求項2〕
前記気体が、更に、ヘリウム、ネオン及びアルゴンの1種又は2種以上を含む請求項1記載のフラックスの不純物除去方法。
〔請求項3〕
前記フラックスが、不純物としてホウ素を含む請求項1又は2記載のフラックスの不純物除去方法。
〔請求項4〕
前記フラックスが、ケイ素の酸化物、カルシウムの酸化物及びアルミニウムの酸化物の1種又は2種以上を含むものである請求項1〜3のいずれか1項記載のフラックスの不純物除去方法。
〔請求項5〕
前記フラックスが、更に、アルカリ金属、アルカリ金属の酸化物、アルカリ金属の塩化物、アルカリ金属のフッ化物、アルカリ金属の炭酸塩、アルカリ金属の水酸化物、アルカリ土類金属、アルカリ土類金属の酸化物、アルカリ土類金属の塩化物、アルカリ土類金属のフッ化物、アルカリ土類金属の炭酸塩、アルカリ土類金属の水酸化物、アルミニウム、アルミニウムの塩化物、アルミニウムのフッ化物、アルミニウムの炭酸塩、アルミニウムの水酸化物、チタン、チタンの酸化物、チタンの塩化物、チタンのフッ化物、チタンの炭酸塩及びチタンの水酸化物の1種又は2種以上を含む請求項1〜4のいずれか1項記載のフラックスの不純物除去方法。
〔請求項6〕
前記フラックスが、金属シリコンの精製用である請求項1〜5のいずれか1項記載のフラックスの不純物除去方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、冶金的手法による太陽電池用等の高純度シリコンの製造に用いるフラックス中の不純物、特にホウ素を効果的に低減することができる。この結果、極めて安価にホウ素が低減されたフラックスを得ることができる。
本発明を用いて得られたフラックスは、含有するホウ素が極めて少量あるいは実質的に含有しない。従って、本発明を用いて得られたフラックスを冶金的手法による太陽電池用等の高純度シリコンの製造に用いることで、シリコン中のホウ素を容易、迅速、かつ多量に除去することができる。こうしてホウ素を除去したシリコンに、一般的な高真空下、局所高温加熱等の処理によるリンの揮発除去を行い、更に一方向凝固等を施すことで、Fe,Al,Ca,Cr,Ni,Ta,Ti,V等の金属不純物を低減し、極めて安価に純度6N程度の太陽電池に使用可能な高純度シリコンとすることができる。
更に、本発明は、太陽電池用高純度シリコンの製造に使用され、ホウ素を高濃度に含有したフラックスに適用することもできる。太陽電池用高純度シリコンの製造に使用した後のホウ素を高濃度に含有したフラックスからホウ素を除去することで、再び太陽電池用高純度シリコンの製造用のフラックスとして使用することができる。この結果、廃棄するフラックスの量が抑制される。
本発明の方法により得られたフラックスは、太陽電池用高純度シリコンの製造に限定使用されることなく、ホウ素濃度の低いSiO2、CaO、Al23等の溶融混合物を必要とする各種産業分野の原材料、製品に利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】SiO2−CaO−Al23平衡状態図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明のフラックスの不純物除去方法は、ホウ素等の不純物を含むフラックスを加熱溶融し、この溶融フラックス中に処理気体として水蒸気及び酸素のいずれか一方又は両方を含む気体を吹き込むことにより、フラックス中の不純物を低減することを特徴とするもので、特にフラックス中の不純物であるホウ素を効率よく低減するもので、シリコンの精製用フラックスに有効に用いられる。
【0016】
ここで、水蒸気及び酸素のいずれか一方又は両方を含む気体は、溶融フラックス中のホウ素と反応し、ホウ素との化合物を生成すると考えられる。処理気体の反応例として、水蒸気及び酸素とホウ素との主な反応式をそれぞれ以下に示す。
6B+6H2O→2B333+3H2・・・(1)
2B+2H2O→2HBO+H2・・・(2)
2B+3H2O→B23+3H2・・・(3)

2B+O2→2BO・・・(4)
4B+3O2→2B23・・・(5)
2B+O2→(BO)2・・・(6)
【0017】
ここで、(3)及び(5)式の生成物は723Kの融点を有する。また、(1)式の生成物、(3)及び(5)式の生成物はそれぞれ360K、2330Kの沸点を有する。更に、(2)、(4)、(6)式の各生成物の沸点は常温以下である。
【0018】
従って、各生成物の融点以上で処理ガスを吹き込む場合、生成した各生成物は、各生成物固有の蒸気圧に則し、未反応の処理ガスに同伴されてフラックス系外へ揮発し、除去される。更に、各生成物の沸点以上で処理ガスを吹き込む場合、生成した各生成物は、直ちにフラックスの系外へ排出されると考えられる。この結果、処理気体とホウ素により生成した各生成物がフラックスの系外へ排出され、フラックス中のホウ素が低減されると考えられる。
【0019】
ここで、(1)〜(6)式において、ホウ素と処理気体である水蒸気及び酸素のいずれか一方又は両方を含む気体との反応は、反応場が高温であることから、不純物元素の原子(ホウ素)と処理気体が接触した段階で速やかに完了する。また、この反応は、気体と液体の界面において進行する。従って、不純物精製用ガスの吹き込み方法、撹拌、混合等による気液の接触効率の改善により、(1)〜(6)の反応速度は大きく増加すると考えられる。
【0020】
更に本発明の特徴は、処理気体が、ヘリウム、ネオン、アルゴンの1種又は2種以上の不活性ガスを含むことである。処理気体がヘリウム、ネオン、アルゴンの1種又は2種以上を含む場合、これらの気体は不純物との反応には関与せず、処理気体である水蒸気及び酸素のいずれか一方又は両方を含む気体の濃度を調節する目的で使用できる。
【0021】
更に、吹き込む処理気体の線速を増減し、撹拌状態を変化することで、処理気体とフラックス中の不純物との気液接触効率を改善、調節し、不純物との反応の進行を促進する。吹き込む処理気体の線速は、処理するフラックスの量に応じて適宜増減すれば良い。線速が小さすぎると反応速度、あるいは反応効率が低下し、処理に長時間を要する場合があり、大きすぎる未反応の処理気体が増加、あるいはフラックスが周囲に飛散するし、処理効率やフラックスの回収率が低下する場合がある。
また、処理気体は、吹き込むフラックスの温度を高温に保ち、反応をより促進する点から1000℃以上に加熱することが好ましく、より好ましくは1400℃以上である。
【0022】
また、撹拌翼等の機械を用いた撹拌方法が、撹拌装置の耐熱性あるいは被撹拌物に対する汚染の点から機構、材質の選定が困難であるのに対し、本発明で用いる気体による気液接触効率の改善効果は、撹拌装置の耐熱性あるいは被撹拌物に対する汚染の問題が無い。
【0023】
処理気体として、酸素及び水蒸気の両方を用いる場合、酸素と水蒸気は、容量比で1:9〜9:1の割合で用いることが好ましく、より好ましくは2:8〜8:2である。処理気体中の水蒸気及び/又は酸素と、ヘリウム、ネオン、アルゴン等の不活性ガスとの比は任意であるが、ヘリウム、ネオン、アルゴンの割合が高いと、ホウ素と反応する水蒸気及び/又は酸素の絶対量が不足する場合があり、少なすぎると吹き込むガスの線速が低下し、ホウ素と反応する水蒸気及び/又は酸素の反応効率が低下する場合がある。このため、水蒸気及び/又は酸素と、ヘリウム、ネオン、アルゴン等の不活性ガスとの比は、容量比で100:0〜10:90が好ましく、実用的な範囲として80:20〜20:80が好ましい。
【0024】
本発明の特徴は、フラックス中に含まれる不純物、特にホウ素を除去することである。
シリコン中のホウ素は、半導体におけるドーパントとしての作用があり、太陽電池用高純度シリコンして用いる場合は、その含有量を0.3質量ppm以下にする必要がある。効率的に太陽電池用高純度シリコンを製造するには、精製前のシリコンからより多くのホウ素をフラックス中へ移行、捕捉する必要がある。従って、純度6N程度の太陽電池用高純度シリコンを得るには、ホウ素濃度の極めて低い、あるいは実質的にホウ素を含有しないフラックスを用いる必要がある。
【0025】
工業的には、
精製前のシリコン中のB濃度が50質量ppmを超える場合、フラックスのB濃度は10質量ppm以下が好ましく、より好ましくは5質量ppm以下である。
精製前のシリコン中のB濃度が20質量ppmを超え50質量ppm以下の場合、フラックスのB濃度は5質量ppm以下が好ましく、より好ましくは1質量ppm以下である。
精製前のシリコン中のB濃度が5質量ppmを超え20質量ppm以下の場合、フラックスのB濃度は1質量ppm以下が好ましく、より好ましくは0.5質量ppm以下である。
精製前のシリコン中のB濃度が5質量ppm以下の場合、フラックスのB濃度は0.5質量ppm以下が望ましく、より好ましくは0.1質量ppm以下である。
【0026】
フラックス中のB濃度が低いと1回のシリコン精製で大量のホウ素がシリコン中からフラックス中へ捕捉、移行するため、B濃度の高いフラックスを用いた場合に対して精製回数を減らすことができる。また、使用するフラックスの量も削減できる。この結果、シリコン中のホウ素除去のコストを大幅に抑制できる。本発明においては、処理対象であるフラックスは、通常3〜100質量ppmのホウ素を含有するが、これを本発明の方法により上記値まで低減することができる。
なお、本発明において、不純物濃度は誘導結合プラズマ質量分析法(ICP−MS法)等により測定することができる。
【0027】
本発明で用いるフラックスとしては、ケイ素の酸化物、カルシウムの酸化物及びアルミニウムの酸化物の1種又は2種以上を含むものであることが好ましい。
ここで、フラックスは、一般的に、ケイ素の酸化物、カルシウムの酸化物、アルミニウムの酸化物等の溶融混合物からなり、一種のケイ酸塩と考えられる。ケイ素の酸化物、カルシウムの酸化物、アルミニウムの酸化物は、ケイ酸塩の網目構造を構成する物質と考えられる。このケイ酸塩の網目構造の一部、あるいは網目の中に目的とする金属(Si)以外の不純物元素が捕捉、移行し、スラグを生成する。冶金的手法による太陽電池用高純度シリコンの製造では、シリコン中の不純物、特にホウ素がフラックス中へ捕捉、移行し、シリコン中の不純物が除去される。
【0028】
また、フラックスは、処理温度において流動性を有した状態であることが好ましい。従って、フラックスを構成するケイ素の酸化物、カルシウムの酸化物、アルミニウムの酸化物の比率は、鉄鋼便覧第4.1版第1巻1編、図1・35(日本鉄鋼協会編)で示される平衡状態図において、処理気体を吹き込み、不純物除去の処理を行う温度における液相線の内部であればよい。
【0029】
なお、ケイ素の酸化物、カルシウムの酸化物、アルミニウムの酸化物の含有量は、フラックス中、30〜100質量%、特に60〜95質量%であることが好ましい。
【0030】
このフラックスには、必要に応じて、アルカリ金属、アルカリ金属の酸化物、アルカリ金属の塩化物、アルカリ金属のフッ化物、アルカリ金属の炭酸塩、アルカリ金属の水酸化物、アルカリ土類金属、アルカリ土類金属の酸化物、アルカリ土類金属の塩化物、アルカリ土類金属のフッ化物、アルカリ土類金属の炭酸塩、アルカリ土類金属の水酸化物、アルミニウム、アルミニウムの塩化物、アルミニウムのフッ化物、アルミニウムの炭酸塩、アルミニウムの水酸化物、チタン、チタンの酸化物、チタンの塩化物、チタンのフッ化物、チタンの炭酸塩、チタンの水酸化物を1種単独で又は2種以上を混合して用いることができる。アルカリ金属としては、リチウム、ナトリウム、カリウム等が挙げられ、アルカリ土類金属としては、ベリリウム、バリウム、カルシウム等が挙げられる。具体的な化合物としては、フッ化カルシウム、フッ化ナトリウム等が挙げられる。
【0031】
フラックス中におけるケイ素の酸化物、カルシウムの酸化物、アルミニウムの酸化物の比率が、処理温度において上記平衡状態図の液相線外、あるいは液相線内であるが粘性が高い場合は、フラックスの融点、粘度を下げる手段として、これらアルカリ金属、アルカリ金属の酸化物、アルカリ金属の塩化物、アルカリ金属のフッ化物、アルカリ金属の炭酸塩、アルカリ金属の水酸化物、アルカリ土類金属、アルカリ土類金属の酸化物、アルカリ土類金属の塩化物、アルカリ土類金属のフッ化物、アルカリ土類金属の炭酸塩、アルカリ土類金属の水酸化物、アルミニウム、アルミニウムの塩化物、アルミニウムのフッ化物、アルミニウムの炭酸塩、アルミニウムの水酸化物、チタン、チタンの酸化物、チタンの塩化物、チタンのフッ化物、チタンの炭酸塩、チタンの水酸化物を1種単独で又は2種以上を混合して用いてもよい。
【0032】
これらの物質を添加することで、特にフラックスの融点、粘度、密度、表面張力が大きく変化し、流動性を高くすることができる。これらの物質は、工程、操業条件に応じて適量を用いればよいが、フラックス中、0〜70質量%が好ましく、より好ましくは5〜40質量%である。多すぎるとフラックスがシリコン中のホウ素を捕捉、移行する能力が低下する場合がある。
【0033】
フラックス中におけるケイ素の酸化物、カルシウムの酸化物、アルミニウムの酸化物の比率が、処理温度において上記平衡状態図の液相線内であり、粘性が十分低い場合でも、これらアルカリ金属、アルカリ金属の酸化物、アルカリ金属の塩化物、アルカリ金属のフッ化物、アルカリ金属の炭酸塩、アルカリ金属の水酸化物、アルカリ土類金属、アルカリ土類金属の酸化物、アルカリ土類金属の塩化物、アルカリ土類金属のフッ化物、アルカリ土類金属の炭酸塩、アルカリ土類金属の水酸化物、アルミニウム、アルミニウムの塩化物、アルミニウムのフッ化物、アルミニウムの炭酸塩、アルミニウムの水酸化物、チタン、チタンの酸化物、チタンの塩化物、チタンのフッ化物、チタンの炭酸塩、チタンの水酸化物を1種単独で又は2種以上を混合して用いることに制約は無い。
【0034】
ここで、フラックスの融点は、シリコンの融点より低すぎる場合はシリコンが溶融する温度で組成が変化する可能性があり、シリコンの融点より高すぎる場合はフラックスを溶融するために多くの熱量が必要となる。従って、フラックスの融点は900〜1600℃が好ましく、より好ましくは1100〜1500℃である。
【0035】
本発明においては、不純物を含むフラックスを加熱溶融し、溶融フラックス中に処理気体を吹き込み作用させる。従って、加熱温度としては、フラックスが融解、あるいは流動状態を呈する温度であることが好ましいが、実用的には処理対象のフラックスの融点以上であればよく、局所的な低温部を避けるためにフラックスの融点+50℃以上であり、2000℃以下が好ましく、通常1000〜1700℃、特に1200〜1600℃が望ましい。これより高温であると、フラックス成分の蒸発量が多くなり、処理後に補う蒸発成分量が多くなる。また炉材の損傷が激しくなる場合がある。
【0036】
処理気体は、アルミナ、ジルコニア、黒鉛、石英等の耐火性材料からなる中空管等を用いて反応容器中のフラックス中に吹き込むことが好ましい。吹き込み時間は、処理対象のフラックス中のホウ素濃度に応じて1〜180分間、特に20〜120分間継続することが好ましい。
【0037】
なお、処理気体中の水蒸気及び酸素のいずれか一方又は両方はホウ素と反応するが、フラックスの成分であるケイ素の酸化物、カルシウムの酸化物、アルミニウムの酸化物等とは反応しない。従って、化学反応によるフラックス組成の変化はない。ただし、フラックス成分の一部は、処理温度におけるフラックス成分固有の蒸気圧に則した量が処理気体に同伴され蒸発する場合がある。そのため、フラックス中に吹き込む処理気体の量、吹き込み方法、及び成分比は、吹き込みにより蒸発するフラックス成分とその量を考慮することが望ましい。なお、処理気体の吹き込みにより蒸発したフラックス成分は、処理気体の吹き込みが完了した後、蒸発した量に相当する分量をフラックスに添加、補えばよい。
【0038】
ここで、処理対象となる不純物を含有するフラックスとしては、高純度シリコンの製造に用いる前、あるいは用いた後のものを対象とすることができる。一般的なケイ素の酸化物、カルシウムの酸化物、アルミニウムの酸化物、更にアルカリ金属、アルカリ金属の酸化物、アルカリ金属の塩化物、アルカリ金属のフッ化物、アルカリ金属の炭酸塩、アルカリ金属の水酸化物、アルカリ土類金属、アルカリ土類金属の酸化物、アルカリ土類金属の塩化物、アルカリ土類金属のフッ化物、アルカリ土類金属の炭酸塩、アルカリ土類金属の水酸化物、アルミニウム、アルミニウムの塩化物、アルミニウムのフッ化物、アルミニウムの炭酸塩、アルミニウムの水酸化物、チタン、チタンの酸化物、チタンの塩化物、チタンのフッ化物、チタンの炭酸塩、チタンの水酸化物は、ホウ素を3〜100質量ppm程度含有する。従って、これらを用いたフラックスは本発明の不純物除去方法を適用できる。
【0039】
更に、太陽電池用高純度シリコンの製造に用いたフラックスは、高濃度のホウ素を含有しており、本発明の方法を適用することで、ホウ素濃度を低減し、再び太陽電池用高純度シリコンの製造に使用することができる。
【実施例】
【0040】
以下、実施例を示し、本発明をより具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に制限されるものではない。なお、下記例において使用した不純物を含有する出発フラックスの組成及びB濃度は以下の通りである。
SiO2:60モル%,CaO:40モル%
B:10質量ppm
なお、不純物濃度の測定は、ICP−MS法(エスアイアイ・ナノテクノロジー(株)製SPQ9000)により行った。
【0041】
[実施例1]
内径80mmφ黒鉛製るつぼに出発フラックス400gを入れ、750℃/時で昇温し、1590℃に加熱した。フラックスが融解後、不純物測定用サンプルを10g採取した。その後、アルミナ製内径6mmφ円管を用いて水蒸気0.5 l/min、アルゴン0.5 l/minの混合気体をフラックスに吹き込んだ。50分後気体の吹き込みを終了し、1100℃まで100℃/時で降温し、以降自然放冷した。固化後のフラックスから不純物分析用サンプルを採取した。
サンプル中のB濃度は0.45質量ppmであった。
【0042】
[実施例2]
内径80mmφ黒鉛製るつぼに出発フラックス400gを入れ、750℃/時で昇温し、1590℃に加熱した。フラックスが融解後、不純物測定用サンプルを10g採取した。その後、アルミナ製内径6mmφ円管を用いて酸素0.4 l/min、アルゴン0.6 l/minの混合気体をフラックスに吹き込んだ。50分後気体の吹き込みを終了し、1100℃まで100℃/時で降温し、以降自然放冷した。固化後のフラックスから不純物分析用サンプルを採取した。
サンプル中のB濃度は0.47質量ppmであった。
【0043】
[実施例3]
出発フラックスを冶金的手法による太陽電池用高純度シリコンの製造に使用した。使用後のフラックスのB濃度は25質量ppmであった。この使用後のフラックス400gを内径80mmφ黒鉛製るつぼに入れ、750℃/時で昇温し、1590℃に加熱した。フラックスが融解後、アルミナ製内径6mmφ円管を用いて水蒸気0.5 l/min、アルゴン0.5 l/minの混合気体をフラックスに吹き込んだ。80分後気体の吹き込みを終了し、1100℃まで100℃/時で降温し、以降自然放冷した。固化後のフラックスから不純物分析用サンプルを採取した。
サンプル中のB濃度は1.0質量ppmであった。
【0044】
[実施例4]
実施例1で処理したフラックスを冶金的手法による太陽電池用高純度シリコンの製造に使用した。使用後のフラックスのB濃度は1.5質量ppmであった。この使用後のフラックス400gを内径80mmφ黒鉛製るつぼに入れ、750℃/時で昇温し、1590℃に加熱した。Al23(B濃度0.2質量ppm)20g及びNa2CO3(B濃度0.2質量ppm)40gを追加し、フラックスが融解後、アルミナ製内径6mmφ円管を用いて水蒸気0.5 l/min、アルゴン0.5 l/minの混合気体をフラックスに吹き込んだ。50分後気体の吹き込みを終了し、1100℃まで100℃/時で降温し、以降自然放冷した。固化後のフラックスから不純物分析用サンプルを採取した。
サンプル中のB濃度は0.47質量ppmであった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
不純物を含むフラックスを加熱溶融し、この溶融フラックス中に水蒸気及び酸素のいずれか一方又は両方を含む気体を吹き込むことにより、フラックス中の不純物を低減することを特徴とするフラックスの不純物除去方法。
【請求項2】
前記気体が、更に、ヘリウム、ネオン及びアルゴンの1種又は2種以上を含む請求項1記載のフラックスの不純物除去方法。
【請求項3】
前記フラックスが、不純物としてホウ素を含む請求項1又は2記載のフラックスの不純物除去方法。
【請求項4】
前記フラックスが、ケイ素の酸化物、カルシウムの酸化物及びアルミニウムの酸化物の1種又は2種以上を含むものである請求項1〜3のいずれか1項記載のフラックスの不純物除去方法。
【請求項5】
前記フラックスが、更に、アルカリ金属、アルカリ金属の酸化物、アルカリ金属の塩化物、アルカリ金属のフッ化物、アルカリ金属の炭酸塩、アルカリ金属の水酸化物、アルカリ土類金属、アルカリ土類金属の酸化物、アルカリ土類金属の塩化物、アルカリ土類金属のフッ化物、アルカリ土類金属の炭酸塩、アルカリ土類金属の水酸化物、アルミニウム、アルミニウムの塩化物、アルミニウムのフッ化物、アルミニウムの炭酸塩、アルミニウムの水酸化物、チタン、チタンの酸化物、チタンの塩化物、チタンのフッ化物、チタンの炭酸塩及びチタンの水酸化物の1種又は2種以上を含む請求項1〜4のいずれか1項記載のフラックスの不純物除去方法。
【請求項6】
前記フラックスが、金属シリコンの精製用である請求項1〜5のいずれか1項記載のフラックスの不純物除去方法。

【図1】
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