説明

フラックス入りワイヤ電極

本発明は、高力融接結合部を製造するためのフラックス入りワイヤ電極に関し、かつ2mmより小さい直径を持つフラックス入りワイヤ電極を製造する方法に関する。溶加材粉末の酸化及び水吸収を回避し、その鉱物成分の最初の熱反応ポテンシャルを維持するため、本発明によるフラックス入りワイヤ電極は、冷間変形される金属管が、長手方向に、管壁厚さに相当するより小さい溶込みを持つ密な融接結合部又は溶接継ぎ目を持ち、こうして粉末心に対する管壁の金属結合部の間隔が形成されていることを特徴としている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶着金属の690N/mmの最低降伏点(RP0.2)を持つ高力鋼から成る部品の融接結合部を製造するためのフラックス入りワイヤ電極であって、溶加材粉末心を包囲しかつ場合によっては被覆を持つ2mm以下の外径を持つ金属管から成るものに関する。
【0002】
更に本発明は、溶着金属の690N/mmの最低降伏点(RP0.2)を持つ高力鋼から成る部品の融接結合部を製造するため、実質的に次の順序で製造即ち金属帯を準備し、金属帯を長手方向に実質的にU字状の断面となるように形成し、溶加材粉末をU字状金属帯へ入れ、互いに当接する側方前面の突合わせ継ぎ目及び溶加材粉末心を持つ管となるように金属帯を変形し、溶接により突き合わせ継ぎ目を結合し、断面を変形し、場合によっては管又は電極の表面を被覆することにより、2mmより小さい直径を持つフラックス入りワイヤ電極を連続的に製造する方法に関する。
【背景技術】
【0003】
フラックス入りワイヤ電極は、部品を融接により結合するため、溶加材として使用され、その際貯蔵装置例えばワイヤコイルにおいて電極ワイヤが取外され、これが供給手段又は搬送手段いわゆる溶接ヘッドにより、アーク融接のため運び出され、溶接ヘッドにおいて電極への電気エネルギ供給も行われる。
【0004】
溶接ヘッドは手で案内されるか又は機械で動かされ、それにより場合によっては計算機で制御される溶接ロボットの使用まで自動溶接を行うことができる。
【0005】
フラックス入りワイヤ電極は管状電極であり、内部に主として鉱物質成分及び/又は脱酸剤及び/又は金属成分を、特に溶融物の合金形成のために含んでいる。溶加材粉末心の組成は慎重に選ばれ、成分は溶接過程において少なくとも不利に影響しない形で存在し、かつ高い溶接継ぎ目品質を保証するようにする。
【0006】
フラックス入りワイヤ電極への溶接エネルギの供給のために、その裸の金属表面が必要である。電流の一層良好な導入のために、電極表面がしばしば銅めっきされ、それが更に酸化を防止する。
【0007】
溶着金属に細孔及び/又は亀裂の形成を回避するため、特に電極の溶加材粉末中の湿気含有量をできるだけ低く保つことが重要なので、アーク溶接の際溶融液状の溶接添加材の水素吸収が大幅に回避される。
【0008】
電極の保管の際溶加材粉末による湿気の吸収を回避するため、従来技術によれば、実質的に2つの製造方法が利用可能である。
【0009】
フラックス入りワイヤ電極の製造の際、密な管へ溶加材粉末ができるだけ均質に入れられ、管端面が閉鎖され、このように形成される原材料がワイヤに圧延され、かつ/又は引張り変形を受ける。変形中における管壁の高度の加工硬化は、中間製品の焼鈍処理により打勝つことができる。
【0010】
フラックス入りワイヤ電極素材の別の公知の製造方法は、金属帯をUの断面形状に成形し、U形状に溶加材粉末を充填し、続いて管に変形し、軸線方向突合わせ面を誘導溶接することである。上述したように例えば30mmの外径を持つこのような素材は、場合によっては管材料の初期硬化のための中間焼鈍処理により、フラックス入りワイヤとなるように更に成形される。
【0011】
従来技術による方法は、溶加材粉末が少なくとも部分的に高い温度に加熱され、この温度で粉末成分の分解反応及び/又は酸化反応が起こる可能性がある、という欠点を持っている。
【0012】
溶接過程において電極の溶融の前にその金属表面が酸化され、それにより酸素が溶接継ぎ目の溶融金属へ入れられることによって、別の欠点が生じる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明の目的は、溶加材粉末心の酸化及び水分吸収を回避するため気密に溶接される管から形成される最初にあげた種類のフラックス入りワイヤ電極を提供し、少なくとも溶加材粉末中の鉱物成分がその最初に熱反応ポテンシャルを持つようにすることである。
【0014】
更に本発明の目的は、最初にあげた種類の方法を提示し、この方法により管となるように曲げられる板帯片の突合わせ継ぎ目の気密溶接を持つフラックス入りワイヤ電極が形成され、その際溶加材粉末が実質的に加熱なしに保たれるようにすることである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明の目的は、冷間変形される金属管が、長手方向に管壁厚さに相当するより小さい溶込みを持つ密な融接結合部又は溶接継ぎ目を持ち、こうして粉末心に対する管壁の金属結合部の間隔が形成されていることによって達せられる。
【0016】
本発明によるフラックス入りワイヤ電極によって得られる利点は、実質的に金属管の冷間変形と、小さい溶込みを持つ溶加材なしの溶接継ぎ目の密封性とによって与えられる。こうして溶加材粉末の金属成分の酸化及び溶加材粉末への湿気侵入が防止され、それぞれ鉱物成分の熱反応ポテンシャルが個々にかつ組合わせて維持されるので、アーク内で初めて、有利なように水素の分離のため試薬及び/又はガス例えば弗化物の遊離、及び溶接継ぎ目形成のため例えばフラックス形成のため化合物形成が行われる。
【0017】
素材の確実で亀裂のない突合わせ継ぎ目結合及びそれに続く冷間変形のため、管壁の金属結合部が、管壁厚さの0.3〜0.9倍なるべく0.5〜0.8倍より小さい値を持っていると有利である。
【0018】
有利なように、電極の全断面に関して、溶加材粉末心の面積割合が、60%より小さいけれども10%より大きく、なるべく45%より小さいけれども12%より大きい。それにより電極の溶接特性も合金形成も、溶加材溶融のために最適化することができる。
【0019】
フラックス入りワイヤ電極の粉末心が、スラグを形成する媒質特に弗化物、炭酸塩、酸化物から、かつ/又は金属粉末特に合金粉末、かつ/又は脱酸剤特にアルミニウム、珪素、マグネシウム、マンガン、ジルコン及びこれらの元素の化合物から、微量合金媒質を含めて形成されると、アーク中におけるその溶融の際、流動性で均質で脱酸されかつスラグ反応により浄化されて低い水素含有量を持つ溶湯、及び最終的に溶融相を少なくとも部分的に覆うのに役立つ流動スラグが生じる。粉末心の実質的に水分のない成分特に鉱物成分の溶融の際、保護ガス作用及び溶融金属のそれ以外の脱ガス作用を持つガス状反応生成物も遊離する。
【0020】
溶接の際フラックス入りワイヤ電極の溶融の直前に保護ガス発生のため、また通電を確実にするため、金属管が被覆を持っていると有利である。この被覆は、電極表面の酸化に対する保護にも役立つ。
【0021】
被覆が、弗素ポリマ場合によってはPTFE(ポリテトラフルオルエチレン)及び炭素から、なるべく1:2〜1:4の割合で形成されていると、特別な利点がある。その際PTFEは保護ガス形成及び水素結合を行い、炭素が管本体への通電を確実にする。0.5より小さい比の値は、溶接電流の導入を悪くし、それにより管本体が速く温度上昇し、電流導入手段が過負荷にある。0.25より小さい値では、炭素が合金技術上の問題を生じる。
【0022】
フラックス入りワイヤ電極から形成される溶着金属が、重量%で0.2未満の炭素痕跡、1.0未満の珪素痕跡、0.1〜2.0のマンガン、0.01〜0.5のクロム、0.01〜3.0のニッケル、0.001〜1.0のモリブデン及び場合によっては合計で0.5未満の特殊合金添加材、残部は鉄及び不純物元素を含んでいるように、フラックス入りワイヤ電極が有利に構成されている。
【0023】
このような溶接金属合金は、690N/mmより著しく上にある降伏点RP0.2を持つ高力で微粒の鉄基材料である。
【0024】
最初にあげた種類の方法を提示する本発明の別の課題は、次にようにすることによって解決される。即ち実質的に水分のない原料から溶加材粉末を混合し、この混合物を横方向にU字状に曲げられた帯の中へ入れ、続いて帯の側方範囲を管に形成し、それから長手方向に互いに当接する管の側方前面の突合わせ継ぎ目を、レーザビーム溶接又は電子ビーム溶接のような溶接添加物なしのビーム溶接により、溶込み又は管壁の溶融により形成される金属結合部が粉末心の方へ管壁の厚さより小さくなるという条件で、結合し、このように形成される管から冷間変形によりフラックス入りヤイヤ電極を製造する。
【0025】
この方法技術上の利点は、主として、全熱反応ポテンシャルを維持する際実質的に水分のない原材料特に鉱物成分の使用、及び続いて冷間変形により更に加工される電極素材の突合わせ継ぎ目における所望の密な金属結合に向けられる、溶接手段及び溶接技術の選択にある。添加物のないビーム溶接は、高い溶接出力においても、単位時間毎の溶接継ぎ目長さで測って、突合わせ継ぎ目の高品質な部分溶融を生じ、この部分溶融は、高い冷間変形度でも硬化される材料の亀裂形成や破壊傾向を全く示さない。本発明によれば、溶接が管の側方前面の外側部分においてのみ行われるので、その内部範囲には溶加材粉末の温度負荷がなく、それにより一方では少なくとも幾つかの粉末成分の熱反応ポテンシャルが維持され、他方では金属粉末が酸化しない。
【0026】
突合わせ継ぎ目の互いに当接する側方前面の結合溶接を、管壁の0.3倍及び0.9倍以下なるべく0.5及び0.8倍以下の溶込み深さで行うと、管に所望の種類の継ぎ目を形成するのに特に有利である。
【0027】
レーザビーム又は電子ビームとして形成される溶接ビームを、管軸線に対して5°〜45°なるべく10°〜30°の角をなして、管の側方前面の突合わせ継ぎ目へ向けると、方法技術的に突合わせ継ぎ目の外側部分の溶接の最高精度及び安全性を高い溶接出力又は溶接速度で得ることができる。
【0028】
40m/minなるべく65m/minの速度で、管の突合わせ継ぎ目を密に溶接すると、プロセス技術的に経済的な利点が得られる。
【0029】
溶接により結合される管を被覆し、冷間成形によりフラックス入りヤイヤ電極になるように加工すると、製造も溶接特性も最適化することができる。
【0030】
図について本発明を以下に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】 溶接される管壁を概略的に示す。
【図2】 フラックス入りワイヤ電極の断面を拡大して示す。
【図3】 フラックス入りワイヤ電極の断面を拡大して示す。
【図4】 フラックス入りワイヤ電極の断面を拡大して示す。
【図5】 フラックス入りワイヤ電極の断面を拡大して示す。
【図6】 フラックス入りワイヤ電極の断面を拡大して示す。
【図7】 フラックス入りワイヤ電極の断面を拡大して示す。
【発明を実施するための形態】
【0032】
図1は、フラックス入りワイヤ電極を製造するための冷間変形前の素材Fの結合範囲を断面で示す。形成される管1の互いに当接する側方前面の突合わせ継ぎ目3は、外側を融接部により金属結合されている。厚さWを持つ管壁の内側部分Eは、粉末心2の方へ、管材料の流動化により形成される結合部を持っていない。
【0033】
図2〜7は、それぞれ1.2mmの直径を持つフラックス入りワイヤ電極を示す。
【0034】
4.0mmの直径を持つ素材が、例えば12mmの幅及び0.8mmの厚さを持つ合金化されない鋼帯から製造され、U字状帯への成形後、管の後続の成形を伴うこのU字状帯へ、溶加材粉末が入れられた。管成形中に形成されて互いに当接する側方前面の突合わせ継ぎ目は、60m/min装入量の溶接速度でレーザ技術により溶接されて、突合わせ継ぎ目の約50%が金属の融接結合部を持つようにされた。検査において、境界で望まれる融接結合部及び経済的な製造の品質に関して、40m/min〜100m/min及びそれ以上の溶接速度で、良好な結果が確かめられ、管軸線に対するレーザ装置の溶接ビームの角度は、5°〜45°の範囲、最適には約20°で良好な溶接結合部を生じた。
【0035】
素材の冷間変形は、普通の型で、ドラッグロール及び/又は駆動されるロール及び/又は引抜きダイスにより、フラックス入りワイヤとなるように行われた。
【0036】
図2〜4は、断面積に関して47%の溶加材粉末割合と残りは管割合を持つフラックス入りワイヤの断面を示す。
【0037】
図5〜7は、18%の粉末割合と残りは管壁部分の面積を持つフラックス入りワイヤ電極の断面を示す。
【0038】
検査において一層良い区別のため、溶接の際形成される流動金属が添加された。
【0039】
フラックス入りワイヤ電極のすべての図は、変形された溶接範囲を示し、金属結合部11は粉末心から離れている。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶着金属の690N/mmの最低降伏点(RP0.2)を持つ高力鋼から成る部品の融接結合部を製造するためのフラックス入りワイヤ電極であって、溶加材粉末心を包囲しかつ場合によっては被覆を持つ2mm以下の外径を持つ金属管から成るものにおいて、冷間変形される金属管が、長手方向に管壁厚さに相当するより小さい溶込みを持つ密な融接結合部又は溶接継ぎ目を持ち、こうして粉末心に対する管壁の金属結合部の間隔が形成されていることを特徴とする、フラックス入りワイヤ電極。
【請求項2】
管壁の金属結合部が、管壁厚さの0.3〜0.9倍なるべく0.5〜0.8倍より小さい値を持っていることを特徴とする、請求項1に記載のフラックス入りワイヤ電極。
【請求項3】
電極の全断面に関して、溶加材粉末心の面積割合が、60%より小さいけれども10%より大きく、なるべく45%より小さいけれども12%より大きいことを特徴とする、請求項1又は2に記載のフラックス入りワイヤ電極。
【請求項4】
粉末心が、スラグを形成する媒質特に弗化物、炭酸塩、酸化物から、かつ/又は金属粉末特に合金粉末、かつ/又は脱酸剤特にアルミニウム、珪素、マグネシウム、マンガン、ジルコン及びこれらの元素の化合物から、微量合金媒質を含めて形成されることを特徴とする、請求項1〜3の1つに記載のフラックス入りワイヤ電極。
【請求項5】
金属管が被覆を持っていることを特徴とする、請求項1〜4の1つに記載のフラックス入りワイヤ電極。
【請求項6】
被覆が、弗素ポリマ場合によってはPTFE(ポリテトラフルオルエチレン)及び炭素から、なるべく1:2〜1:4の割合で形成されていることを特徴とする、請求項5に記載のフラックス入りワイヤ電極。
【請求項7】
フラックス入りワイヤ電極から形成される溶着金属が、重量%で0.2未満の炭素痕跡、1.0未満の珪素痕跡、0.1〜2.0のマンガン、0.01〜0.5のクロム、0.01〜3.0のニッケル、0.001〜1.0のモリブデン及び場合によっては合計で0.5未満の特殊合金添加材、残部は鉄及び不純物元素を含んでいることを特徴とする、請求項1〜6の1つに記載のフラックス入りワイヤ電極。
【請求項8】
溶着金属の690N/mmの最低降伏点(RP0.2)を持つ高力鋼から成る部品の融接結合部を製造するため、実質的に次の順序で製造即ち金属帯を準備し、金属帯を長手方向に実質的にU字状の断面となるように形成し、溶加材粉末をU字状金属帯へ入れ、互いに当接する側方前面の突合わせ継ぎ目及び溶加材粉末心を持つ管となるように金属帯を変形し、溶接により突き合わせ継ぎ目を結合し、断面を変形し、場合によっては管又は電極の表面を被覆することにより、2mmより小さい直径を持つフラックス入りワイヤ電極を連続的に製造する方法において、実質的に水分のない原料から溶加材粉末を混合し、この混合物を横方向にU字状に曲げられた帯の中へ入れ、続いて帯の側方範囲を管に形成し、それから長手方向に互いに当接する管の側方前面の突合わせ継ぎ目を、レーザビーム溶接又は電子ビーム溶接のような溶接添加材なしのビーム溶接により、溶込み又は管壁の溶融により形成される金属結合部が粉末心の方へ管壁の厚さより小さくなるという条件で、結合し、このように形成される管から冷間変形によりフラックス入りヤイヤ電極を製造することを特徴とする、方法。
【請求項9】
突合わせ継ぎ目の互いに当接する側方前面の結合溶接を、管壁の0.3倍及び0.9倍以下なるべく0.5及び0.8倍以下の溶込み深さで行うことを特徴とする、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
レーザビーム又は電子ビームとして形成される溶接ビームを、管軸線に対して5°〜45°なるべく10°〜30°の角をなして、管の側方前面の突合わせ継ぎ目へ向けることを特徴とする、請求項8又は9に記載の方法。
【請求項11】
40m/minなるべく65m/minの速度で、管の突合わせ継ぎ目を密に溶接することを特徴とする、請求項8〜10の1つに記載の方法。
【請求項12】
溶接により結合される管を被覆し、冷間変形によりフラックス入りヤイヤ電極になるように加工することを特徴とする、請求項8〜11に1つに記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公表番号】特表2012−519598(P2012−519598A)
【公表日】平成24年8月30日(2012.8.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−502385(P2012−502385)
【出願日】平成22年3月8日(2010.3.8)
【国際出願番号】PCT/AT2010/000070
【国際公開番号】WO2010/102318
【国際公開日】平成22年9月16日(2010.9.16)
【出願人】(506424243)ベーレル・シユヴアイステヒニク・アウストリア・ゲゼルシヤフト・ミツト・ベシユレンクテル・ハフツング (2)