説明

フラッシュ火災およびアーク防護を改善するためのアンチモン含有量を限定したモダクリル/アラミド混紡品およびアンチモン無含有のモダクリル/アラミド混紡品

アラミド繊維とモダクリル繊維を含み、モダクリル繊維が1.5パーセント未満のアンチモンを有し、アンチモン無含有であるのが好ましい、アークおよび火炎防護に使用するのに適切な糸、布帛、および衣服。一実施形態においては、糸、布帛、および/または衣服は、成分(a)、(b)、(c)、および(d)の総重量を基準として、(a)少なくとも20%の結晶化度を有するメタ系アラミド繊維50〜80重量パーセント、(b)アンチモン無含有のモダクリル繊維10〜40重量パーセント、(c)パラ系アラミド繊維5〜20重量パーセント、および(d)帯電防止繊維1〜3重量パーセントから基本的になる。幾つかの実施形態においては、この糸から作製された衣服は、着用者がASTM F1930に従い4秒間フラッシュ火災暴露に暴露された場合に受けることが予測される体の火傷が65パーセント未満になるような熱防護を提供すると同時に、ASTM F1959およびNFPA70Eに準拠するカテゴリー2のアーク等級を維持している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、防護用布帛および衣服、並びにアークおよび火炎防護性を有するだけでなくフラッシュ火災(flash fire)に暴露した際に改善された性能を有する布帛および衣服を製造するのに有用な糸に関する。
【背景技術】
【0002】
作業者を防護衣によってフラッシュ火災の可能性から防護しようとする場合、考慮すべき重要な事項は実際に火炎に暴露される時間である。一般に、「フラッシュ」火災という用語は、火炎暴露が非常に短時間(数秒間程度)であるという理由で使用されている。さらに、わずか1秒間の差は小さいように思われるが、火炎に暴露された場合は、火炎暴露時間が1秒長くなることで火傷に大変な差が生じる可能性がある。
【0003】
フラッシュ火災における材料の性能は、ASTM F1930の試験手順を用いて、試験用機器を装備したマネキンを使用することによって測定することができる。マネキンに被測定材料の衣服を着用させた後、バーナーの火炎に暴露する。マネキン全体に分布した温度センサーが、人体が同じ量の火炎に暴露された場合に体感するであろう温度として、マネキンの局部温度を測定する。標準的な火炎強度を想定し、人間が受けるであろう火傷の程度(すなわち、第1度、第2度等)および火傷を受ける体の割合をマネキンの温度データから求めることができる。
【0004】
Zhuらに付与された米国特許第7,348,059号明細書には、アークおよび火炎防護用布帛および衣服に使用するためのモダクリル/アラミド繊維混紡品が開示されている。このような混紡品は、概してモダクリル繊維含有量が高く(40〜70重量パーセント)、結晶化度が少なくとも20%であるメタ系アラミド繊維(10〜40重量パーセント)およびパラ系アラミド繊維(5〜20重量パーセント)の含有量がより低い。このような混紡品から作製された布帛および衣服は、電気アークおよびフラッシュ火災暴露から最長で3秒間の防護を提供する。Zhuの米国特許出願公開第2005/0025963号明細書には、少なくとも1種のアラミドステープル繊維を10〜75部、少なくとも1種のモダクリルステープル繊維を15〜80重量部、および少なくとも1種の脂肪族ポリアミドステープル繊維を5〜30重量部の混繊品から作製された、難燃性が改善された混繊品、糸、布帛、および衣料の物品が開示されている。この混繊品は、混繊品中の可燃性脂肪族ポリアミド繊維の比率が高いことから、186.5〜237グラム毎平方メートル(5.5〜7オンス毎平方ヤード)の範囲の布帛ではカテゴリー2のアーク等級(arc rating)が得られないであろう。Lovasicらに付与された米国特許第7,156,883号明細書には、非晶質メタ系アラミド繊維、結晶化メタ系アラミド繊維、および難燃性セルロース系繊維を含み、メタ系アラミド繊維が50〜85重量パーセントであり、メタ系アラミド繊維の3分の1〜3分の2が非晶質であり、メタ系アラミド繊維の3分の2〜3分の1が結晶性である、混繊品、布帛、および防護服が開示されている。この場合も同様に、このような混繊品から作製された布帛は、186.5〜237グラム毎平方メートル(5.5〜7オンス毎平方ヤード)の範囲の布帛でカテゴリー2のアーク等級は得られないであろう。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
NFPA 2112標準に準拠するフラッシュ火災用防護衣に要求される最低限の性能は、3秒間の火炎暴露による体の火傷が50%未満となることである。フラッシュ火災は一部の産業従事者にとって非常に現実的な脅威であり、また、個人が火炎に巻き込まれるであろう時間を完全に予測することは不可能であるため、防護衣用布帛および衣服のフラッシュ火災性能に何らかの改善を施すことによって生命が助かる可能性がある。特に、3秒間を超えて、例えば4秒間以上火災に暴露された場合の防護性が向上した防護衣を提供することができた場合、このことは、暴露可能な時間が33%以上も延長されることを表している。フラッシュ火災は作業者が経験する可能性のある熱的な脅威の中で最も過酷なものの1つであり、このような脅威は単純な火炎暴露よりもはるかに深刻である。
【0006】
Zhuの2008年7月11日出願の米国特許出願番号第12/218215号明細書は、アークおよび火炎防護に使用するための糸、ならびにその糸から作製された布帛および衣服に関し、この糸は、成分(a)、(b)、(c)、および(d)の総重量を基準として、(a)結晶化度が少なくとも20%であるメタ系アラミド繊維を50〜80重量パーセント、(b)モダクリル繊維を10〜30重量パーセント、(c)パラ系アラミド繊維を5〜20重量パーセント、および(d)帯電防止繊維を1〜3重量パーセントから基本的になる。布帛および衣服の目付は186.5〜237グラム毎平方メートル(5.5〜7オンス毎平方ヤード)の範囲である。一実施形態においては、この糸から作製された衣服は、着用者がASTM F1930に従い4秒間フラッシュ火災暴露に暴露された場合に受けることが予測される体の火傷が65パーセント未満になるような熱防護を提供すると同時に、カテゴリー2のアーク等級を維持している。モダクリル繊維は、2〜40重量パーセントのアンチモン化合物を有する繊維を含むと言われている。アンチモンは、安全な廃棄について検討される可能性がある周知の重金属である。
【0007】
アークおよび火炎防護は、人命救助と関係するので、低い目付で、改善されたフラッシュ火災性能と高水準のアーク防護性との組み合わせを提供するいずれの改善も望まれる。特に、環境フットプリント(environmental footprint)を低減する可能性も提供するいずれの改善も望まれる。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、アークおよび火炎防護に使用するための、アラミド繊維とモダクリル繊維を含む糸、布帛、および衣服に関し、モダクリル繊維は、1.5パーセント未満のアンチモンを有し、幾つかの実施形態においては、アンチモン無含有である。好ましい一実施形態においては、糸、布帛、および/または衣服は、成分(a)、(b)、(c)、および(d)の総重量を基準として、(a)少なくとも20%の結晶化度を有するメタ系アラミド繊維50〜80重量パーセント、(b)アンチモン無含有のモダクリル繊維10〜40重量パーセント、(c)パラ系アラミド繊維5〜20重量パーセント、および(d)帯電防止繊維1〜3重量パーセントから基本的になる。
【0009】
本発明は、アークおよび火炎防護に使用するのに適切な布帛とその布帛から作製された衣服にも関し、その布帛は、アラミド繊維とモダクリル繊維を含み、モダクリル繊維は、1.5パーセント未満のアンチモンを有し、幾つかの実施形態においては、アンチモン無含有であり、布帛は、135〜407グラム毎平方メートル(4.0〜12オンス毎平方ヤード)の範囲の目付を有する。一実施形態においては、前述の衣服は、ASTM F1930に準拠する4秒間の火炎暴露による体の火傷が65%未満に相当する熱防護を提供すると同時に、ASTM F1959およびNFPA 70Eに準拠するカテゴリー2のアーク等級を維持する。
【発明を実施するための形態】
【0010】
一実施形態においては、本発明は、驚くほど優れたアーク防護を提供する布帛および衣服を製造できる、アラミド繊維とモダクリル繊維の混紡品を含む糸の提供に関する。アンチモンは伝統的に、追加の難燃剤としてモダクリル繊維に使用されてきたが、繊維のこの混紡品から作製された糸、布帛、および衣服は、アンチモンの量を増加しなくても、驚くほど優れたアーク性能を有すると考えられている。一実施形態においては、モダクリル繊維は、1.5パーセント未満のアンチモン含有量を有し、および好ましい一実施形態においては、モダクリル繊維は、1.0パーセント未満のアンチモン含有量を有する。最も好ましい一実施形態においては、モダクリル繊維は、アンチモン無含有であり、ポリマー中に存在し得るいかなる痕跡量のアンチモンをも上回るアンチモン含有量を繊維に追加的に提供するいかなるアンチモン系化合物の意図的な添加なしに、繊維が作製されることを意味する。これらの低含有量のアンチモンまたはアンチモン無含有の繊維の使用は、防護性を提供しながらも廃棄物の環境への影響を低減する可能性を有する布帛を提供する。
【0011】
一実施形態においては、優れたフラッシュ火災防護と共に、布帛の平方ヤード当り1.5カロリー毎平方センチメートル毎オンスを超える驚くほど優れたアーク防護を提供する布帛および衣服が、製造され得る。電気アークは、典型的には、数千ボルトおよび数千アンペアの電流を伴い、衣服または布帛は強力な入射エネルギーに曝される。着用者を保護するためには、このエネルギーが衣服または布帛を通過して着用者に伝達されるのを阻止しなくてはならない。このことは、布帛が入射エネルギーの一部を吸収することと、布帛が破れ(break open)ないこととに加えて、布帛と着用者の体との間の空隙によって起こると考えられている。破れる際に布帛に穴が空き、表面または着用者が直接入射エネルギーに曝される。
【0012】
電気アークからの強力な入射エネルギーを阻止することに加えて、本衣服および布帛は、3秒間を超える長時間のフラッシュ火災暴露によるエネルギーの熱伝達も阻止する。本発明は、一部の入射エネルギーの吸収と、伝達された熱エネルギーの低減を可能にする炭化の改善とによってエネルギーの伝達を低減すると考えられている。
【0013】
幾つかの実施形態においては、糸、布帛、または衣服は、メタ系アラミド繊維、モダクリル繊維、パラ系アラミド繊維、および任意に帯電防止繊維の混紡品から基本的になり得る。典型的に、一実施形態においては、糸は、少なくとも20%の結晶化度を有するメタ系アラミド繊維50〜80重量パーセント、モダクリル繊維10〜40重量パーセント、およびパラ系アラミド繊維5〜20重量パーセントからなる。所望ならば、混紡品は、帯電防止繊維を1〜3重量パーセント含有してもよく、幾つかの実施形態においては、少なくとも50重量パーセントのメタ系アラミド繊維が本実施形態の混紡品に維持されるとする条件で、メタ系アラミド繊維を帯電防止繊維で置き換えることができる。従って、幾つかの好ましい実施形態においては、糸は、重量パーセントで、メタ系アラミド繊維を最低50パーセント最高80パーセント、アンチモン無含有のモダクリル繊維10〜40パーセント、パラ系アラミド繊維5〜20パーセント、および帯電防止繊維1〜3パーセントからなることができる。糸は、メタ系アラミド繊維を少なくとも55パーセント最高70パーセント、アンチモン無含有のモダクリル繊維20〜35パーセント、パラ系アラミド繊維5〜15パーセント、および帯電防止繊維1〜3パーセントから基本的になるのが好ましい。上の百分率は全て、3種存在するならば指定した3種の成分、或いは4種存在するならば指定した4種の成分を基準とする。「糸」とは、製織、製編、編組(braiding、plaiting)、または繊維材料または布帛に作製されるそれ以外の方法において使用することができる連続した撚り線を形成するために、一緒に紡績または合撚した繊維の集合体を意味する。幾つかの実施形態においては、混紡品は、既に列挙した量から基本的になる。本明細書に使用する「から基本的になる」とは、約25%までの量で繊維に使用されるポリマー中の様々な化学添加剤の使用を包含する。
【0014】
本明細書において用いられる「アラミド」は、アミド(−CONH−)結合の少なくとも85%が2個の芳香族環に直接結合しているポリアミドを意味する。アラミドと一緒に添加剤を使用してもよく、実際、最大で10重量パーセントもの量の他の高分子材料をアラミドと混合することができることまたはアラミドの10パーセントものジアミンを他のジアミンで置き換えるかもしくはアラミドの10パーセントものジ酸クロリドを他のジ酸クロリドで置き換えたコポリマーを使用することができることが見出されている。好適なアラミド繊維は、Man−Made Fibers−−Science and Technology、第2巻、Fiber−Forming Aromatic Polyamidesと題した項、p.297、W・Blackら、Interscience Publishers、1968に記載されている。アラミド繊維は、米国特許第4,172,938号明細書、米国特許第3,869,429号明細書、米国特許第3,819,587号明細書、米国特許第3,673,143号明細書、米国特許第3,354,127号明細書、および米国特許第3,094,511号明細書にも開示されている。メタ系アラミドはアミド結合が互いにメタ位にあるアラミドであり、パラ系アラミドはアミド結合が互いにパラ位にあるアラミドである。最も使用頻度の高いアラミドはポリ(メタフェニレンイソフタルアミド)およびポリ(パラフェニレンテレフタルアミド)である。
【0015】
メタ系アラミド繊維を糸に使用した場合は、限界酸素指数(LOI)が約26である耐炎性の炭化性繊維となる。メタ系アラミド繊維は、火炎暴露による糸の損傷の拡散も阻止する。メタ系アラミド繊維は、弾性率および伸びの物理的特性のバランスを有していることから、従来のシャツ、ズボン、およびカバーオールの形態で作業服(industrial apparel)として着用することが意図された単層布の衣服に有用な快適な布帛にもなる。長時間フラッシュ火災に暴露された際のエネルギーの熱伝達を阻止するべく軽量布帛および衣服の炭化を改善するためには、糸の少なくとも50重量パーセントをメタ系アラミド繊維とすることが重要である。好ましい幾つかの実施形態においては、糸の少なくとも55重量パーセントがメタ系アラミド繊維である。幾つかの実施形態においては、メタ系アラミド繊維の好ましい最大量は70重量パーセント以下であるが、80重量パーセントという高い量で用いることもできる。
【0016】
モダクリル繊維とは、主としてアクリロニトリルを含むポリマーから作製されたアクリル系合成繊維を意味する。好ましくは、このポリマーは、アクリロニトリルを30〜70重量パーセントおよびハロゲン含有ビニルモノマーを70〜30重量パーセントを含むコポリマーである。ハロゲン含有ビニルモノマーは、例えば、塩化ビニル、塩化ビニリデン、臭化ビニル、臭化ビニリデン等から選択される少なくとも1種のモノマーである。共重合可能なビニルモノマーは、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、この種の酸の塩またはエステル、アクリルアミド、メチルアクリルアミド、酢酸ビニル等である。
【0017】
好ましいモダクリル繊維は、アクリロニトリルと塩化ビニリデンとを組み合わせたコポリマーで作製され、このコポリマーは、さらに、1.5重量パーセント未満の1種もしくは複数種の酸化アンチモンのどちらかを有し、或いはコポリマーは、アンチモンを全く含有しない。このような有益なモダクリル繊維は、製造中に高い割合のアンチモン化合物の添加を開示するプロセスと同様な繊維製造プロセス(これに限定されない)を含むプロセスにより作製されることができる。このような場合、製造中にコポリマーに添加する任意のアンチモン化合物の量を制限するかもしくはアンチモン化合物を完全に排除するかにより、アンチモン含有量が非常に低い繊維およびアンチモン無含有の繊維を作製することができる。この方法において修正可能な代表的なプロセスが、米国特許第3,193,602号明細書(2重量パーセントの三酸化アンチモンを有する)に開示され、少なくとも2重量パーセント、好ましくは8重量パーセント以下の量で存在する種々の酸化アンチモンで作製された繊維が、米国特許第3,748,302号明細書に開示され、8〜40重量パーセントのアンチモン化合物を有する繊維が、米国特許第5,208,105号明細書および米国特許第5,506,042号明細書に開示される。
【0018】
幾つかの実施形態においては、モダクリル繊維は、糸中において、典型的には少なくとも26のLOIを有する耐炎性の炭化性繊維を提供する。好ましい一実施形態においては、モダクリル繊維は、アンチモン無含有であると同時に少なくとも26のLOIを有する。モダクリル繊維はまた、火炎暴露による糸の損傷の拡散も阻止する。モダクリル繊維は耐炎性が非常に高いが、その一方で、単独では糸またはその糸から作製された布帛に十分な引張強さが付与されず、電気アーク暴露時に所望の水準の耐破れ性が得られない。この糸はモダクリル繊維を少なくとも10重量パーセント有しており、幾つかの好ましい実施形態においては、この糸はモダクリル繊維を少なくとも15重量パーセント有している。幾つかの実施形態においては、モダクリル繊維の好ましい最大量は40重量パーセント以下である。
【0019】
幾つかの実施形態においては、アーク防護の改善を実現するために、メタ系アラミド繊維が特定の最小限の結晶化度を有する。メタ系アラミド繊維の結晶化度は、少なくとも20%、より好ましくは少なくとも25%である。これは例示目的であるが、最終繊維の形成を容易にするための実用上の結晶化度の上限は50%である(しかしながら、より高い百分率が好適とみなされる)。一般に、結晶化度は、25〜40%の範囲内であろう。この結晶化度を有する市販のメタ系アラミド繊維は、例えば、E.I.du Pont de Nemours&Company(Wilimington,Delaware)より入手可能なNomex(登録商標)T−450またはT−300である。
【0020】
メタ系アラミド繊維の結晶化度は2種類の方法の一方で測定される。第1の方法は、空隙のない繊維に用いられ、第2の方法は、完全に空隙を有しないわけではない繊維に用いられる。
【0021】
第1の方法におけるメタ系アラミドの結晶化度(%)は、まず最初に、良質の基本的に空隙のない試料を用いて結晶化度に関する直線性の検量線を作成することによって決定する。このような空隙のない試料の場合、比体積(1/密度)は、2相モデルを用いた場合の結晶化度と直接関連づけることができる。試料の密度は密度勾配管で測定する。x線散乱法により非晶質であることが確認されたメタ系アラミドフィルムを測定することにより、平均密度が1.3356g/cm3であることがわかった。次いで、完全に結晶性のメタ系アラミド試料の密度は、x線による単位格子の大きさから1.4699g/cm3であると決定された。結晶化度が0%および100%であるこれらの両端を確立してしまえば、この直線的な関係から、任意の空隙を有しない実験用試料の結晶化度(密度は既知)を決定することができる:
【数1】

【0022】
多くの繊維試料は空隙を全く含まないというわけではないので、結晶化度の決定に好ましい方法はラマン分光法である。ラマン測定は空隙の含有量の影響を受けないので、空隙の有無に関わらず、1650−1cmのカルボニル伸縮の相対強度を任意の形態のメタ系アラミドの結晶化度測定に使用することができる。これを達成するために、空隙が最小限であり、上述した密度測定によって予め決定しておいた既知の結晶化度を有する試料を使用して、1002cm−1の環伸縮モードの強度に対し標準化した1650cm−1のカルボニル伸縮強度と結晶化度との間の直線的な関係を構築した。Nicolet Model 910 FT−ラマン分光器を使用し、密度検量線に依存する結晶化度(%)に関する以下の経験的関係を構築した:
【数2】

(式中、I(1650cm−1)は、メタ系アラミド試料のその点におけるラマン強度である)。この強度を用いることにより、この式から実験試料の結晶化度(%)が求められる。
【0023】
メタ系アラミド繊維は、溶液から紡糸し、急冷し、さらなる熱または化学処理を行わずにガラス転移温度未満の温度を用いて乾燥した場合、得られる結晶化度はごく低水準である。このような繊維の結晶化度(%)をラマン散乱法を用いて測定すると、繊維の結晶化度は15パーセント未満である。結晶化度の低いこのような繊維は、熱および化学的手段を用いて結晶化させることができる非晶質メタ系アラミド繊維と見なされる。結晶化度は、ポリマーのガラス転移温度以上で熱処理することによって増大させることができる。このような熱の適用は、典型的には、繊維に所望の量の結晶化度を付与するのに十分な時間、繊維を張力下で加熱されたロールと接触させることによって実施される。
【0024】
m−アラミド繊維の結晶化度は化学処理によって増大させることができ、幾つかの実施形態においては、このことには、布帛に組み込む前に繊維を着色、染色、または疑似染色(mock dye)する方法が含まれる。幾つかの方法が、例えば、米国特許第4,668,234号明細書、米国特許第4,755,335号明細書、米国特許第4,883,496号明細書、および米国特許第5,096,459号明細書に開示されている。染料キャリアとしての周知の染色助剤を使用して、アラミド繊維による染料のピックアップの増加を促進してもよい。有用な染料キャリアとしては、アリールエーテル、ベンジルアルコール、またはアセトフェノンが挙げられる。
【0025】
パラ系アラミド繊維は、糸に十分な量で加えられた場合、この糸から作製された布帛の火炎暴露後の耐破れ性を改善する引張強さの高い繊維を提供する。幾つかの実施形態においては、糸は、パラ系アラミド繊維を少なくとも5重量パーセント有する。パラ系アラミド繊維が糸中に多量に含まれると、その糸を含む衣服は、着用者にとって不快なものとなり得る。幾つかの実施形態においては、パラ系アラミド繊維の最大量は好ましくは15重量パーセント以下であるが、20重量パーセントという高い量で使用してもよい。
【0026】
引張強さという用語は、その材料が破断または破損するまでに加えることができる応力の最大量を指す。引裂強さは布帛を引き裂くのに必要な力の大きさである。一般に、布帛の引張強さは、布帛の繊維を引き裂いたり(tear)縫い目に沿って引き裂く(rip)ことの容易さに関係する。引張強さはまた、布帛が永久的に伸縮または変形したままになるのを阻止する能力にも関連する可能性がある。布帛の引張強さおよび引裂強さは、衣類の意図された防護水準を大幅に損なうことになるような衣服のほころび、裂け、または永久的な変形を防止するのに十分な高さであるべきである。
【0027】
静電気放電は、損傷を受けやすい電気機器を用いて作業するまたは可燃性蒸気の近くで作業する作業者にとって危険であり得るので、糸、布帛、または衣服は、金属または炭素を含む帯電防止成分を含有してもよい。例示的な例としては、スチール繊維、炭素繊維、または既存の繊維に炭素を組み込んだものがある。使用される場合、帯電防止成分は、糸、布帛、または衣服の総量の1〜3重量パーセントの量で存在する。所望ならば、帯電防止成分を、糸、布帛、または衣服中の同重量のメタ系アラミド繊維と置き換えることができる。幾つかの好ましい実施形態においては、帯電防止成分は、わずか2〜3重量パーセントの量で存在する。米国特許第4,612,150号明細書(De Howittに付与)および米国特許第3,803453号明細書(Hullに付与)には、特に有用な導電繊維が記載されており、熱可塑性繊維中にカーボンブラックが分散されることにより、繊維に帯電を防止するコンダクタンスが付与される。好ましい帯電防止繊維は、炭素芯/ナイロン鞘繊維である。帯電防止繊維を使用することにより、帯電性が低減された糸、布帛、および衣服が得られ、したがって、見かけの電界強度および煩わしい静電気が低減される。
【0028】
糸は、これらに限定されるものではないが、リング紡績、コアスピニング、および空気を用いてステープル繊維を撚糸するムラタ空気紡績(Murata air jet spinning)等の空気紡績技術を含む紡績技術によって製造することができる。単糸を製造した場合は、次いで、これを布帛に変える前に、好ましくはこれらを引き揃えて少なくとも2本の単糸を含む双糸を形成する。
【0029】
電気アークによって生じる強力な熱応力から防護するためには、アーク防護布帛およびこの布帛から形成された衣服が、耐炎性を得るための空気中の酸素濃度を超える(すなわち、21を超え、好ましくは25を超える)LOI、布帛への損傷の伝播が遅いことを示す短い炭化長、防護層下の表面に入射エネルギーが直接当たるのを防ぐための良好な耐破れ性等の特徴を有することが望ましい。
【0030】
本明細書および添付の特許請求の範囲において使用される布帛という用語は、前述した1種またはそれ以上の異なる種類の糸を用いて、製織、製編、またはそれ以外の方法で集合させた所望の防護層を指す。好ましい実施形態は織布であり、好ましい製織は綾織りである。幾つかの好ましい実施形態においては、布帛は、1.5カロリー毎平方センチメートル毎オンス毎平方ヤード(0.185ジュール毎平方センチメートル毎グラム毎平方メートル)より大きい、目付に関して正規化された耐アーク性を有する。幾つかの実施形態においては、目付に関して正規化された耐アーク性は、少なくとも1.7カロリー毎平方センチメートル毎オンス毎平方ヤード(0.21ジュール毎平方センチメートル毎グラム毎平方メートル)であるのが好ましい。
【0031】
布帛の幾つかの実施形態においては、本布帛には、上述の比率のメタ系アラミド繊維、モダクリル繊維、パラ系アラミド繊維、および任意の帯電防止繊維を有する糸のみが存在することが望ましい。織布の場合は、この糸が布帛の経糸および緯糸の両方に使用される。所望により、糸の組成が上述の範囲内にある限りは、糸中のメタ系アラミド繊維、モダクリル繊維、パラ系アラミド繊維、および帯電防止繊維の相対量を変化させてもよい。
【0032】
幾つかの実施形態においては、布帛は、布帛の耐久性を改善するために、20重量パーセントまでナイロン繊維をさらに有することができる。幾つかの好ましい実施形態においては、ナイロンが、10パーセント以下の量で存在し、幾つかの好ましい実施形態では、5パーセント以下である。ナイロン繊維は、布帛にリップストップ糸等の別の糸として、またはステープル繊維の混紡品に追加のステープル繊維として組み込まれることができる。
【0033】
ナイロン繊維を含む布帛の幾つかの実施形態においては、布帛中のモダクリル繊維の全体的な割合を増大して十分な耐アーク性の達成を確実にすることができる。このような布帛は、存在するこれら3つの全種類の繊維の総量を基準として、モダクリル繊維50〜70重量パーセント、アラミド繊維25〜40パーセント、およびナイロン繊維1〜20パーセントを有することができ、アラミド繊維は、パラ系アラミドとメタ系アラミドがおおよそ1:2〜1:3の比率で存在する。最も好ましい実施形態においては、モダクリル繊維は、アンチモン無含有である。
【0034】
幾つかの実施形態においては、上述の繊維から作製された衣服は、殊にアンチモン無含有のモダクリル繊維を有する衣服は、フラッシュ火災に4秒間暴露された場合に受けることが予測される体の火傷が65パーセント未満に相当する熱防護を着用者に提供すると同時に、カテゴリー2のアーク等級を維持する。これは、3秒間暴露で予測される着用者の体の火傷を50パーセント未満にするという最低基準から大幅に改善されている。一部の他の耐炎性布帛の場合、火傷は、その性質上、火炎暴露に対し基本的に指数関数的に増加する。衣服で火炎防護する場合、暴露時間が1秒間長くなることは生死を分け兼ねない可能性を意味する。
【0035】
アーク等級に慣用されているカテゴリー等級付け体系には2種類ある。National Fire Protection Association(NFPA)の場合は4つの異なるカテゴリーがあり、カテゴリー1は性能が最も低く、カテゴリー4は性能が最も高い。NFPA 70E体系に基づくと、カテゴリー1、2、3、および4は、布帛に通過させる熱流束がそれぞれ4、8、25、および40カロリー毎平方センチメートルであることに対応する。National Electric Safety Code(NESC)にも3つの異なるカテゴリーに等級付けする体系があり、カテゴリー1は最も性能が低く、カテゴリー3は最も性能が高い。NESC体系に基づけば、カテゴリー1、2、および3は、布帛に通過させる熱流束がそれぞれ4、8、および12カロリー毎平方センチメートルであることに対応する。したがって、アーク等級がカテゴリー2である布帛または衣服は、ASTM F1959の一連の標準的方法に従い測定すると、8カロリー毎平方センチメートルの熱流束に耐えることができる。
【0036】
フラッシュ火災における衣服の性能は、ASTM F1930の試験手順を用いて試験用機器を装備したマネキンを使用して測定される。マネキンに衣服を着用させ、バーナーの火炎に暴露し、人体が同じ量の火炎に曝された場合に経験するであろう局所的な皮膚温度をセンサーで測定する。標準的な火炎強度を想定し、人間が受けるであろう火傷の程度(すなわち、第1度、第2度等)および火傷を受けた体の割合をマネキンの温度データから決定することができる。予測される体の火傷が低いことは、フラッシュ火災の危険時における衣服の防護性がより高いことを示す。
【0037】
上述したように、糸、布帛、および衣服中に結晶性メタ系アラミド繊維を使用することは、フラッシュ火災における性能を改善できるのみならず、洗濯による収縮を大幅に低減させると考えられている。この収縮の低減は、上述した結晶化度を有するメタ系アラミド繊維を使用したことおよび結晶化度を高めるための処理を施していないメタ系アラミド繊維を使用したことのみが異なる同一布帛の比較に基づいている。本明細書において、収縮は、140°Fの水温で20分間の洗濯サイクルを実施した後に測定される。好ましい布帛は、10回の洗濯サイクル後、好ましくは20サイクル後の収縮率が5パーセント以下である。単位面積当たりの布帛の量が増加するに従い、潜在的な危険と防護すべき対象との間の材料の量が増大する。布帛の目付が増加することによって、耐破れ性が増大し、熱防護係数(thermal protection factor)が増大し、かつアーク防護性が増大する。しかしながら、より軽量の布帛がどのようにして改善された性能を達成することができるのかは明らかではない。上述の糸に使用されるメタ系アラミド繊維、モダクリル繊維(好ましくはアンチモン無含有のモダクリル繊維)、パラ系アラミド繊維、および帯電防止繊維の組み合わせは、防護衣に、特に、改善された性能を有するより快適な単層布帛の衣服に、より軽量の布帛の使用を可能にする。幾つかの実施形態においては、所望のアークおよびフラッシュ火災性能の両方を有する布帛の目付は、135g/m2(4oz/yd2)以上であり、幾つかの実施形態においては、目付は、186.5g/m2(5.5oz/yd2)以上である。幾つかの好ましい実施形態においては、目付は、200g/m2(6.0oz/yd2)以上である。幾つかの実施形態においては、好ましい最大目付は、237g/m2(7.0oz/yd2)である。他の幾つかの実施形態においては、最大目付は、407g/m2(12oz/yd2)である。目付が高い布帛ほど増大した剛性を示すと考えられているため、この最大量を超えると、単層布帛の衣服により軽量な布帛を用いることによる快適性の利点が減じられると考えられている。
【0038】
炭化長は、生地の耐炎性の尺度である。炭化は、熱分解または不完全燃焼の結果形成される炭素質の残渣として定義される。本明細書において報告されるASTM 6413−99の試験条件下での布帛の炭化長は、火炎に直接暴露された布帛の端部から、規定の引裂力を加えた後に視認できる布帛の損傷の最も遠い点までの距離として定義される。フラッシュ火災基準NFPA 2112に従い、布帛は、4インチ(10.2cm)未満の炭化長を有するべきである。耐アーク性基準ASTM F1506に従い、布帛は、6インチ未満の炭化長を有するべきである。従って、一実施形態においては、布帛は、ASTM 6413−99により測定された炭化長6インチ未満(15.2cm)を有する。別の一実施形態においては、布帛は、ASTM 6413−99により測定された4インチ未満(10.2cm)の炭化長を有する。
【0039】
幾つかの好ましい実施形態においては、布帛は防護衣服において単層で使用される。本明細書において、布帛の防護的価値は、その布帛の単層に関し報告される。幾つかの実施形態においては、本発明には、この布帛から作製された多層衣服も包含される。
【0040】
幾つかの特に有用な実施形態においては、アークおよび火炎防護の使用に適切である布帛は、アラミド繊維とモダクリル繊維を含み、モダクリル繊維は、アンチモンを1.5パーセント未満有し、幾つかの実施形態においては、アンチモンを1パーセント未満有し、幾つかの実施形態においては、アンチモン無含有である。上述の繊維を含有するステープル紡績糸は、耐炎性の布帛および衣服を作製するのに使用されることができ、幾つかの実施形態においては、これらの布帛および衣服は、上述の帯電防止繊維を含有する。幾つかの実施形態においては、これらの衣服における布帛の好ましい目付は、150g/m2(4.5oz/yd2)以上である。幾つかの実施形態においては、好ましい最大目付は、290g/m2(8.5oz/yd2)である。
【0041】
幾つかの実施形態においては、衣服はステープル紡績糸から作製された防護布帛を基本的に1層有することができる。この種の例示的な衣服としては、消防士または軍人用のジャンプスーツおよびカバーオールが挙げられる。このような上下服は、典型的には消防服として使用され、森林火災を消火すべき地域にパラシュートで降下する際に使用することができる。他の衣服としては、非常に激しい熱的事象が起こる可能性がある化学処理産業や工業電力/施設等の状況で着用することができるズボン、シャツ、手袋、アームカバー等を挙げることができる。
【0042】
試験方法
布帛の摩耗性能は、ASTM D−3884−01「Standard Guide for Abrasion Resistance of Textile Fabrics(Rotary Platform,Double Head Method)」に従い測定する。
【0043】
布帛の耐アーク性は、ASTM F−1959−99「Standard Test Method for Determining the Arc Thermal Performance Value of Materials for Clothing」に従い測定する。
【0044】
製品安全データシート(Material Safety Data Sheet)に開示されるように、他の繊維のどれにもアンチモンを提供していないので、モダクリル繊維中のアンチモン含有量は、布帛の試料で測定する。この布帛から試料0.1グラムを得る。試料をまず4ミリリットルの環境等級(environmental grade)の硫酸と混合した後、追加の2ミリリットルの環境等級の硝酸を加える。200〜220℃の温度で、およそ2分間マイクロ波で酸に溶かした試料を加熱し、非金属材料を蒸解する。クラスAのメスフラスコ内で、酸の蒸解溶液をミリQ水(超純水)で100ミリリットルに希釈する。その後、酸溶液を3種の発光波長、206.836nm、217.582nm、および231.146nmを用いてICP発光分光分析により分析して、アンチモン含有量を測定する。
【0045】
布帛の破断強度は、ASTM D−5034−95「Standard Test Method for Breaking Strength and Elongation of Fabrics(Grab Test)」に従い測定する。
【0046】
布帛の限界酸素指数(LOI)は、ASTM G−125−00「Standard Test Method for Measuring Liquid and Solid Material Fire Limits in Gaseous Oxidants」に従い測定する。
【0047】
布帛の引裂抵抗は、ASTM D−5587−03「Standard Test Method for Tearing of Fabrics by Trapezoid Procedure」に従い測定する。
【0048】
布帛の熱防護性能は、NFPA 2112「Standard on Flame Resistant Garments for Protection of Industrial Personnel Against Flash Fire」に従い測定する。熱防護性能(またはTPP)という用語は、布帛が火炎または放射熱に直接暴露された場合に布帛の内側の着用者の皮膚を布帛が連続的かつ確実に保護する能力に関連する。
【0049】
フラッシュ火災防護レベル試験は、試験用布帛から作製された標準的なパターンのカバーオールを着用させた、試験用機器を装備したサーマルマネキンを使用して、ASTM F−1930に従い実施した。
【0050】
布帛の炭化長は、ASTM D−6413−99「Standard Test Method for Flame Resistance of Textiles(Vertical Method)」に従い測定する。
【0051】
初期に室温である場合に布帛の有炎燃焼をちょうど支持するであろう酸素および窒素の混合物中の最低酸素濃度(体積パーセントで表される)は、ASTM G125/D2863条件下で測定する。
【0052】
1回またはそれ以上の洗濯サイクルの後に布帛の単位面積を物理的に測定することによって収縮率を測定する。1サイクルとは、工業用洗濯機を用いて布帛を140°Fの水温で20分間洗濯することを指す。
【0053】
本発明を例示するために以下の実施例を提供する。特段の指定がない限り部および百分率はすべて重量によるものであり、度は摂氏度である。
【実施例】
【0054】
実施例1
本実施例は、アンチモン無含有のモダクリル繊維を使用することで布帛のアーク等級が驚くほど増大することを例示する。経糸および緯糸の両方にNomex(登録商標)type300繊維、Kevlar(登録商標)29繊維、およびアンチモン無含有のモダクリル繊維の緊密な混紡品の空気紡績糸を有する耐久性アークおよび熱防護布帛(品目1)を製造する。Nomex(登録商標)type300は、33〜37%の結晶化度を有するポリ(m−フェニレンイソフタルアミド)(MPD−I)である。モダクリル繊維は、アンチモンが全く測定されないACN/ポリ塩化ビニリデンコポリマー繊維(Kenekaにより作製されるModacrylic SEとして市販されていることが周知)である。Kevlar(登録商標)29繊維は、ポリ(p−フェニレンテレフタルアミド)(PPD−T)繊維である。
【0055】
65重量パーセントのNomex(登録商標)type300繊維、10重量パーセントのKevlar(登録商標)29繊維、および25重量パーセントのモダクリル繊維の打綿機(picker)で混打綿したスライバを製造し、綿紡方式の加工および空気精紡機を用いてステープル紡績糸にする。結果として得られた糸は、21tex(28綿番手)の単糸である。その後、2本の単糸を合撚機で合撚して撚り数が10回/インチの双糸を作製する。
【0056】
次いで、シャトル織機で3×1綾織組織に作られる布帛の経糸および緯糸として、この糸を用いる。綾織物の生機の目付は224g/m2(6.6oz/yd2)である。次いで、この綾織物の生機を熱水で洗い上げ、塩基性染料を用いて液流染色し、乾燥する。完成した綾織物は、打込本数が経31本×緯16本毎cm(経77本×緯47本毎インチ)の組織、224g/m2(6.6oz/yd2)の目付を有する。
【0057】
次に、モダクリル繊維が公称7%アンチモン(Protex(登録商標)Cとして市販されていることが周知)を有することのみが異なる比較の糸および布帛(品目A)を作製する。
【0058】
次に、2種の布帛の各々の一部に対してアーク、熱、および機械特性に関する試験をして、2種の布帛の各々の別の部分をフラッシュ火災試験用の単層防護カバーオールに変換する。アーク試験の性能を表1に示す。両方の布帛とも、ASTM F1959およびNFPA 70Eに準拠するカテゴリー2の所望のアーク等級と、ASTM F1930に準拠する試験用機器を装備したサーマルマネキンから予測される4秒間暴露による体の火傷が65%未満であることとの両方を有する。しかしながら、驚くことには、アンチモン無含有のモダクリルを含有する布帛は、アンチモン7%のモダクリルを有する布帛よりも14%大きい耐アーク性を有する。
【0059】
【表1】

【0060】
実施例2
3種の異なるモダクリル繊維を使用し糸の混紡品にナイロン繊維も含んだことを除いて、実施例1の全体的な手順を繰り返し、3種の異なる布帛および衣服を作製し、試験する。品目2は、1.2%という低いアンチモン含有量のモダクリル繊維(Fushun Rayva Fiber Company,Wanghua District,Fushun,Chinaが製造)を含有する。品目Bは、9.9%のアンチモン含有量を有するモダクリル繊維(Protex(登録商標)Cとして市販されていることが周知)を含有する。品目Cは、4.1%のアンチモン含有量を有するモダクリル繊維(Protex(登録商標)Mとして市販されていることが周知)を含有する。繊維構成およびアーク試験性能を表2に示す。
【0061】
【表2】

【0062】
実施例3
2重量パーセントのNomex(登録商標)メタ系アラミド繊維をP140として市販されていることが周知の炭素芯/ナイロン鞘繊維である帯電防止繊維に置き換えることを除いて、実施例1および2を繰り返す。結果として得られる布帛を実施例1および2と同様な予測される性能を有する単層防護カバーオールに変換する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アラミド繊維およびモダクリル繊維を含むアークおよび火炎防護に使用するための糸であって、前記モダクリル繊維が1.5パーセント未満のアンチモンを有する糸。
【請求項2】
前記モダクリル繊維が、1パーセント未満のアンチモンを有する請求項1に記載の糸。
【請求項3】
前記モダクリル繊維がアンチモン無含有である請求項2に記載の糸。
【請求項4】
さらに帯電防止繊維を含む請求項3に記載の糸。
【請求項5】
(a)少なくとも20%の結晶化度を有するメタ系アラミド繊維50〜80重量パーセント
(b)モダクリル繊維10〜40重量パーセント、
(c)パラ系アラミド繊維5〜20重量パーセント、および
(d)帯電防止繊維1〜3重量パーセント、
から基本的になり、前記百分率が、成分(a)、(b)、(c)、および(d)を基準とする請求項3に記載の糸。
【請求項6】
アラミド繊維とモダクリル繊維を含むアークおよび火炎防護に使用するのに適した布帛であって、前記モダクリル繊維が、1.5パーセント未満のアンチモンを有し、前記布帛が、135〜407グラム毎平方メートル(4.0〜12オンス毎平方ヤード)の目付を有する布帛。
【請求項7】
前記モダクリル繊維が、1パーセント未満のアンチモンを有する請求項6に記載の布帛。
【請求項8】
前記モダクリル繊維が、アンチモン無含有である請求項6に記載の布帛。
【請求項9】
帯電防止繊維をさらに含む請求項8に記載の布帛。
【請求項10】
(a)少なくとも20%の結晶化度を有するメタ系アラミド繊維50〜80重量パーセント、
(b)モダクリル繊維10〜40重量パーセント、
(c)パラ系アラミド繊維5〜20重量パーセント、および
(d)帯電防止繊維1〜3重量パーセント、
から基本的になる糸を含み、前記百分率が、成分(a)、(b)、(c)、および(d)を基準とし、150〜290グラム毎平方メートル(4.5〜8.5オンス毎平方ヤード)の目付を有する請求項8に記載の布帛。
【請求項11】
布帛の平方ヤード当り少なくとも1.5カロリー毎平方センチメートル毎オンスのASTM F−1959−99に準拠する耐アーク性を有する請求項8に記載の布帛。
【請求項12】
ナイロン繊維をさらに含む請求項8に記載の布帛。
【請求項13】
布帛の平方ヤード当り少なくとも1.7カロリー毎平方センチメートル毎オンスのASTM F−1959−99に準拠する耐アーク性を有する請求項12に記載の布帛。
【請求項14】
ASTM F1930に準拠する4秒間の火炎暴露による体の火傷が65%未満に相当する熱防護を提供すると同時に、ASTM F1959およびNFPA 70Eに準拠するカテゴリー2のアーク等級を維持する請求項11に記載の布帛を含む衣服。
【請求項15】
ASTM F1930に準拠する4秒間の火炎暴露による体の火傷が65%未満に相当する熱防護を提供すると同時に、ASTM F1959およびNFPA 70Eに準拠するカテゴリー2のアーク等級を維持する請求項13に記載の衣服。

【公表番号】特表2012−528954(P2012−528954A)
【公表日】平成24年11月15日(2012.11.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−514071(P2012−514071)
【出願日】平成22年6月2日(2010.6.2)
【国際出願番号】PCT/US2010/037028
【国際公開番号】WO2010/141554
【国際公開日】平成22年12月9日(2010.12.9)
【出願人】(390023674)イー・アイ・デュポン・ドウ・ヌムール・アンド・カンパニー (2,692)
【氏名又は名称原語表記】E.I.DU PONT DE NEMOURS AND COMPANY
【Fターム(参考)】