説明

フラットケーブルおよびフラットケーブルの製造方法

【課題】ケーブルの位置ずれを抑制することのできるフラットケーブルおよびそのフラットケーブルの製造方法を提供する。
【解決手段】このフラットケーブルは、複数の同軸ケーブル10と、これら同軸ケーブル10を挟み込む2枚の保持シート20とを備える。同軸ケーブル10はフッ素系樹脂に覆われている。同軸ケーブル10間には熱可塑性樹脂30が充填され、2枚の保持シート20同士が熱可塑性樹脂30により互いに固定されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数のケーブルが2枚の保持シートにより挟み込まれた構造のフラットケーブル、およびそのフラットケーブルの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
上記構造のフラットケーブルとして特許文献1に記載のものが知られている。
特許文献1では、保持シートの一方の面に粘着層を設けている。そして、粘着層のある面にケーブルを配置し、この粘着層によりケーブルを固定している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006−222059号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、ケーブルの外皮がフッ素系の樹脂により形成されている場合、当該フラットケーブルを高温または高温高湿環境下におくと粘着剤の接着力が低下してケーブルの位置がずれることがあった。
【0005】
本発明はこのような実情に鑑みてなされたものであり、その目的は、ケーブルの位置ずれを抑制することのできるフラットケーブルおよびそのフラットケーブルの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
(1)請求項1に記載の発明は、複数のケーブルと、これらケーブルを挟み込む2枚の保持シートとを備えるフラットケーブルにおいて、前記ケーブルはフッ素系樹脂に覆われたものであり、前記ケーブル間には熱可塑性樹脂が充填され、前記2枚の保持シート同士がこの熱可塑性樹脂により互いに固定されていることを要旨とする。
【0007】
この発明によれば、ケーブルを挟み込む2枚の保持シートが熱可塑性樹脂により互いに固定されるとともに、ケーブル間に熱可塑性樹脂が充填される。これにより、ケーブルが熱可塑性樹脂により固定されるため、ケーブルの位置がずれることが抑制される。
【0008】
(2)請求項2に記載の発明は、請求項1に記載のフラットケーブルにおいて、前記保持シートはポリエチレンテレフタレート系樹脂により形成されていることを要旨とする。ポリエチレンテレフタレート系樹脂は他の樹脂に比べて耐熱性や耐湿性が高い。このため、フラットケーブルについて所定レベルの耐熱性および耐湿性を確保する場合に、他の樹脂により形成されたシートを採用する場合よりもポリエチレンテレフタレート系樹脂製のシートを採用する方がそのシート厚を小さくすることができる。このため、上記構成により、当該フラットケーブルを携帯型電子機器等の小型製品に搭載することが容易となる。
【0009】
(3)請求項3に記載の発明は、少なくとも一方が保持シートに熱可塑性樹脂が積層された樹脂積層シートであることを要件として2枚のシートを用意し、当該2枚のシートの間にケーブルを挟み込み、加熱および加圧することにより前記シートの間に介在する前記熱可塑性樹脂で前記ケーブルを固定することを要旨とする。
【0010】
2枚の保持シートを熱可塑性樹脂により互いに接着させる方法としては種々の方法が考えられる。例えば、一方の保持シートにケーブルを配置し、ケーブルを覆うように熱可塑性樹脂の層を形成し、更にその上に保持シートを被せる等の方法がある。しかし、この場合、工程が煩雑となる。本発明では、熱可塑性樹脂が積層されている樹脂積層シートを用いることから、ケーブルを覆う熱可塑性樹脂の層を成形する成形工程が不要となり、製造工程を簡略にすることができる。
【0011】
(4)請求項4に記載の発明は、請求項3に記載のフラットケーブルの製造方法において、2つの前記ケーブル間に充填される前記熱可塑性樹脂の樹脂容積量が、2枚の前記保持シートと2本の前記ケーブルとの間に形成される空間の空間容積の半分の値よりも大きいことを要旨とする。
【0012】
2枚の前記保持シートと2本のケーブルとの間に形成される空間に熱可塑性樹脂が十分に充填されないとき、当該空間に空隙が形成される。フラットケーブル内部に空隙が存在するとき、空隙の膨張および空隙への水分浸入等により、熱可塑性樹脂が劣化したり、フラットケーブルが変形したりするため、ケーブルに対する熱可塑性樹脂の接着力が低下する。
【0013】
本発明では、この点を考慮し、上記構成の樹脂積層シートを2枚用いてケーブルを挟み込む。これにより、2枚の前記保持シートと2本の前記ケーブルとの間に形成される空間を熱可塑性樹脂により満たすことができ、空隙量を小さくすることができる。この結果、ケーブルに対する熱可塑性樹脂の接着力の低下を抑制することができる。
【0014】
(5)請求項5に記載の発明は、請求項3または4に記載のフラットケーブルの製造方法において、前記保持シートとしてポリエチレンテレフタレート系樹脂により形成されたシートを用いることを要旨とする。上記したように、ポリエチレンテレフタレート系樹脂は、耐湿性、耐熱性が高いため、他の樹脂製のシートを採用する場合に比べ、保持シートの厚さを薄くすることができる。これにより、フラットケーブルの厚さを小さくするこができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、ケーブルの位置ずれを抑制することのできるフラットケーブルおよびそのフラットケーブルの製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の一実施形態のフラットケーブルについて、斜視構造を示す斜視図。
【図2】同実施形態のフラットケーブルについて、断面構造を示す断面図。
【図3】同実施形態のフラットケーブルの製造方法について、各工程を模式的に示す斜視図。
【図4】同実施形態のフラットケーブルについて寸法関係を示す図であり、(a)は同軸ケーブルを保持シートにより挟み込む前の状態の断面図、(b)は同軸ケーブルを保持シートにより挟み込んだ後の状態を示す断面図。
【図5】同実施形態のフラットケーブルの各試験品について信頼性試験結果をまとめた表。
【発明を実施するための形態】
【0017】
図1および図2を参照して、本発明の一実施形態について説明する。
図1に示すように、フラットケーブル1は、複数の同軸ケーブル10と、これら同軸ケーブル10を挟み込む2枚の保持シート20とを備えている。
【0018】
同軸ケーブル10は等間隔に並べられている。各同軸ケーブル10の外径は等しい。同軸ケーブル10と保持シート20とは接触している。保持シート20同士はこれらシートの間に介在する熱可塑性樹脂30により互いに固定されている。隣り合う同軸ケーブル10同士は離間し、同軸ケーブル10同士の間には熱可塑性樹脂30が充填されている。
【0019】
同軸ケーブル10は、芯線11と、芯線11の外周を被覆する絶縁層12と、絶縁層12の外周を被覆するシールド層13と、シールド層13の外周を被覆する被覆層14とを備えている。芯線11は、複数の銅合金線を撚って形成されている。絶縁層12は、四フッ化エチレンパーフロロアルキルビニルエーテル樹脂(以下、「PFA樹脂」)により形成されている。シールド層13は、錫めっき銅合金線により形成された導線を横巻きにして形成されている。被覆層14はPFA樹脂により形成されている。同軸ケーブル10の外径は100μm〜800μmである。
【0020】
保持シート20は、ポリエチレンテレフタレートにより形成されている。
ポリエチレンテレフタレートは、耐熱性および耐湿性に優れ、かつ柔軟性が高いため、ケーブルを保持するための保持シート20の材料として採用されている。なお、保持シート20の厚さは10μm〜100μmである。
【0021】
熱可塑性樹脂30として、ポリエステル系樹脂またはポリオレフィン系樹脂が用いられる。ポリエステル系樹脂およびポリオレフィン系樹脂は、他の熱可塑性樹脂に比べて、高温高湿試験、高温放置試験、低温放置試験、ヒートサイクル試験等(以下、「信頼性試験」)に対する耐久性があり、かつ接着力が大きい。特に、フッ素系樹脂に対する接着力については、ポリエステル系樹脂およびポリオレフィン系樹脂は、他の熱可塑性樹脂に比べても大きい。このため、フッ素系樹脂に覆われたケーブルを保持するための熱可塑性樹脂30として、ポリエステル系樹脂またはポリオレフィン系樹脂が採用されている。
【0022】
保持シート20との間に熱可塑性樹脂30が充填されている。これにより、保持シート20同士が熱可塑性樹脂30により固定される。また、同軸ケーブル10が熱可塑性樹脂30により保持される。
【0023】
<フラットケーブルの製造方法>
図3を参照して、フラットケーブル1の製造方法について説明する。
まず同軸ケーブル10を等間隔に整列し、その両面にラミネートフィルム40を貼り付ける。これは、整列された同軸ケーブル10のピッチを維持して搬送可能とするためである。以降、このラミネートフィルム40に保持された複数の同軸ケーブル10をラミネート品という。
【0024】
次に、図3(a)に示すように、ラミネート品について一方のラミネートフィルム40を剥す。そして、図3(b)に示すように、ラミネート品においてラミネートフィルム40を剥がした方の面に樹脂積層シート21を積層し、ヒートツール100により、樹脂積層シート21と同軸ケーブル10とを接着する。
【0025】
樹脂積層シート21は、保持シート20の片面に、同軸ケーブル10同士の間に充填される樹脂層20Aが積層されたものである。樹脂積層シート21と同軸ケーブル10との接着では、樹脂層20Aと同軸ケーブル10との表面を接触させて、樹脂積層シート21に対して同軸ケーブル10を仮固定する。仮固定とは、樹脂層20Aの全部を溶融するのではなく樹脂層20Aの表面部分を溶融して樹脂層20Aと同軸ケーブル10とを固定することを示す。
【0026】
次に、同軸ケーブル10を反転させて、上記と同様に、ラミネート品の残りのラミネートフィルム40を引き剥がし、当該ラミネートフィルム40を剥がした面に樹脂積層シート21を積層し、ヒートツール100により、樹脂積層シート21と同軸ケーブル10とを接着する。樹脂積層シート21同士は互いに対向するように貼り付けられる。このようにして、樹脂積層シート21に対して同軸ケーブル10が一旦仮固定される。以降の説明では、この仮固定された製品を「仮固定品50」という。
【0027】
次に、2枚の緩衝材60を用意する。緩衝材60はアルミニウム製の保持板61の一方の面にシリコンゴム62が積層されたものである。そして、図3(c)に示すように、仮固定品50を2枚の緩衝材60により挟み込む。すなわち、シリコンゴム62が仮固定品50に接触するように、緩衝材60と仮固定品50とを重ねる。
【0028】
図3(d)に示すように、緩衝材60により挟み込まれたアッセンブリ品70をプレス金型200に配置し、上下方向から加熱および加圧する。これにより、熱可塑性樹脂30を溶融し、隣り合う同軸ケーブル10同士の間の空間に熱可塑性樹脂30を充填する。
【0029】
なお、仮固定品50を緩衝材60により挟み込む理由は次のとおりである。1つのプレス金型200で複数のアッセンブリ品70を同時に加熱および加圧するとき、アッセンブリ品70の配置する場所によって当該アッセンブリ品70に加わる圧力にばらつきが生じる。このため、圧力のばらつきを小さくし、各アッセンブリ品70に均等な力が加えられるようにする。
【0030】
図4を参照して、樹脂積層シート21の樹脂層20Aの厚さDBについて説明する。
以下、説明するにあたり、フラットケーブル1の構成要素を次のように定義する。
・樹脂積層シート21の樹脂層20Aにおいて、隣り合う同軸ケーブル10同士の間に入り込む部分を「充填部分」とし、2枚の樹脂積層シート21の各充填部分についての断面積の総和を「充填樹脂断面積SA」とする。すなわち、図4の網掛け部が充填樹脂断面積SAに相当する。充填樹脂断面積SAの大きさは、樹脂積層シート21の樹脂層20Aの厚さDBと、同軸ケーブル10のピッチDAとの積の2倍に相当する。
【0031】
・フラットケーブル1において、同軸ケーブル10同士の間および保持シート20同士の間に形成される空間を「充填空間」とする。
・フラットケーブル1において、充填空間に対応する断面積を「充填断面積SB」とする。すなわち、図4のドット部分が当該充填断面積SBに相当する。充填断面積SBは、同軸ケーブル10のピッチDAと同軸ケーブル10の外径DCとの積から、同軸ケーブル10の断面積SCと、プレスにより保持シート20が内方に入り込む量に対応する断面積(以下、「凹部断面積SD」)とを引いた値に相当する。
【0032】
シリコンゴム62が樹脂積層シート21を押すことにより樹脂積層シート21が撓み、樹脂積層シート21が内方向に入り込む。この量、すなわちプレスにより樹脂積層シート21が内方に入り込む量は、シリコンゴム62が内側に入り込む量に相当する。凹部断面積SDは同軸ケーブル10のピッチに応じて変化する。
【0033】
上記充填空間に熱可塑性樹脂30が十分に充填されなかったとき、すなわち充填空間に大きい空隙が存在するとき、保持シート20に対して同軸ケーブル10が保持されず、同軸ケーブル10が抜けやすくなる。また、高温高湿試験に晒すと空隙に水分が浸入するため、熱可塑性樹脂30の接着力が低下する。高温放置試験に晒すと空隙が膨張するため、内部応力が増大し、熱可塑性樹脂30と同軸ケーブル10または熱可塑性樹脂30と保持シート20との間で剥離が生じる。このような剥離の発生を抑制するため、充填空間に熱可塑性樹脂30を十分に充填する。
【0034】
具体的には、充填断面積SBに対する充填樹脂断面積SAの比(以下、「面積比」)を0.5よりも大きくする。すなわち以下の(1)式を満たすようにする。これにより、充填空間に熱可塑性樹脂30が十分に充填されることが担保される。(2)式は、上記に説明した充填樹脂断面積SAの内容を式で示したものである。(3)式は、上記に説明した充填断面積SBの内容を式で示したものである。
【0035】
(充填樹脂断面積SA/充填断面積SB)>0.5 ・・・ (1)
充填樹脂断面積SA =DA×DB×2 ・・・ (2)
充填断面積SB =DA×DC−π×(DC/2)−SD×2 ・・・ (3)
・DA:同軸ケーブル10のピッチ
・DB:樹脂層20Aの厚さ
・SB:充填断面積
・DC:同軸ケーブル10の外径
・SD:凹部断面積
凹部断面積SDの大きさは、近似値として、「SD=DA×凹み長L/2」として与えられる。凹み長Lは、保持シート20が同軸ケーブル10に対して平面状に貼り付けられた状態を基準として、保持シート20が内方に入る込む量として定義される。凹み長Lは、同軸ケーブル10のピッチDAに応じて変わる。すなわち、同軸ケーブル10のピッチDAが大きいほど凹み長Lが大きくなる(図5参照)。
【0036】
図5を参照して、フラットケーブル1の各試験品について行った信頼性試験の結果を説明する。
(A)試験品1〜試験品11は、熱可塑性樹脂として、ポリエステル系樹脂(リケンテクノス製L−HMT(12−30))を用いている。図5に示されるように、各種信頼性試験では、各試験品とも良好な結果が得られた。すなわち、以下の条件の高温高湿試験、ヒートサイクル試験、高温放置試験、低温放置試験のいずれにおいても、ポリエステル系樹脂と同軸ケーブル10との間に剥離はなかった。
・高温高湿試験条件 :60℃95%RH 500時間
・ヒートサイクル試験条件:85℃、−40℃、500サイクル
・高温放置試験条件 :85℃、500時間
・低温放置試験条件 :−40℃、500時間
・評価内容 :剥離有無の確認(顕微鏡による外観観察)
・判定条件 :試験品5個中1個以上剥離があるとき不良判定[×]とし、試験品5個中全てにおいて剥離がないとき良判定[○]とする。
・判定結果 :いずれの信頼性試験においても良判定となった。
【0037】
(B)試験品12〜試験品15は、熱可塑性樹脂30としてポリオレフィン系樹脂(東海ゴム工業製(L−HMXT(25−40)N))を用いている。図5に示されるように、各種信頼性試験では、各試験品とも良好な結果が得られた。すなわち、以下の条件の高温高湿試験、ヒートサイクル試験、高温放置試験、低温放置試験のいずれにおいても、ポリオレフィン系樹脂と同軸ケーブル10との間に剥離はなかった。信頼性試験条件は、上記試験品1〜試験品11で行った試験と同じである。
【0038】
(C)試験品16は、従来構造のフラットケーブルであり、粘着テープにより同軸ケーブル10を保持した構造のものである。図5に示されるように、高温高湿試験および高温放置試験において、粘着テープと同軸ケーブル10との間に剥離があった。
【0039】
以上(A)〜(C)の結果によれば、2枚の保持シート20により同軸ケーブル10を挟み込むとともに同軸ケーブル10を熱可塑性樹脂30で固定する構造にし、かつ熱可塑性樹脂30としてポリエステル系樹脂またはポリオレフィン系樹脂を用いることにより、高い信頼性を得られることが分かる。このような高信頼性が得られる理由は、保持シート20同士の間に熱可塑性樹脂30を介在させて当該熱可塑性樹脂30により両者を固定すること、および当該熱可塑性樹脂30として、耐湿性および耐熱性および耐ヒートサイクル性が高いポリエステル系樹脂またはポリオレフィン系樹脂を用いていることによる。
【0040】
[引張強度について]
次に、試験品1〜試験品11の結果を参照して、上記(A)の構造と引張強度との関係について説明する。なお、引張試験においては、保持シート20の長さ(同軸ケーブル10の配線方向に沿う長さ)が25mmであるものを用いた。
【0041】
上記(A)の構造において、樹脂積層シート21の樹脂層20Aの厚さDBと、同軸ケーブル10の外径DCと、および同軸ケーブル10のピッチDAとの関係について説明する。
【0042】
試験品1〜5のそれぞれは、同軸ケーブル10のピッチDAと外径DCとを同一にしている。一方、樹脂層20Aの厚さDBを異ならせている。これにより、試験品1から試験品5の順に面積比を大きくしている。
・試験品1の樹脂層20Aの厚さDBを15μmとし、面積比を0.3としている。
・試験品2の樹脂層20Aの厚さDBを20μmとし、面積比を0.4としている。
・試験品3の樹脂層20Aの厚さDBを30μmとし、面積比を0.6としている。
・試験品4の樹脂層20Aの厚さDBを50μmとし、面積比を1.0としている。
・試験品5の樹脂層20Aの厚さDBを70μmとし、面積比を1.5としている。
【0043】
信頼性試験前における引張試験によれば、試験品1および試験品2の引張強度は判定値よりも小さい。試験品3〜5については引張強度が判定値以上であった。なお、引張試験の判定基準は2N(判定値)とした。
【0044】
試験品6〜9のそれぞれは、同軸ケーブル10の外径DCおよび同軸ケーブル10のピッチDAを異ならせている。各試験品の樹脂積層シート21の保持シート20の厚さDTおよび樹脂層20Aの厚さDBについては同一としている。すなわち、各試験品は、基準寸法として、保持シート20の厚さDTを12μmとし、樹脂層20Aの厚さDBを30μmとし、同軸ケーブル10の外径DCを200μmとし、同軸ケーブル10のピッチDAを300μmとしている。そして、次のように、試験品6〜9の面積比を異ならせている。
・試験品6の同軸ケーブル10の外径DCを220μmとし面積比を0.6としている。
・試験品7の同軸ケーブル10の外径DCを180μmとし面積比を0.6としている。
・試験品8の同軸ケーブル10のピッチDAを210μmとし、面積比を1.2としている。
・試験品9の同軸ケーブル10のピッチDAを500μmとし、面積比を0.4としている。
【0045】
信頼性試験前における引張試験によれば、試験品9の引張強度は判定値よりも小さい。試験品6〜8については引張強度が判定値以上であった。
試験品10と試験品11は、保持シート20の厚さDTを変更している。すなわち、試験品10および試験品11に用いられる保持シート20の厚さDTは、試験品1〜9に用いられた保持シート20の厚さDTよりも大きい。また、試験品10と試験品11との間では、試験品11のほうが試験品10よりも厚さDTが大きい。樹脂層20Aの厚さDB、同軸ケーブル10の外径DC、および同軸ケーブル10のピッチDAは、試験品3と同じである。これらの試験品の信頼性試験前の引張試験によれば、引張強度は判定値よりも大きい。
【0046】
以上のことから、面積比を0.5よりも大きくすることが好ましいことが分かる。すなわち、信頼性および引張強度の観点からすると、充填樹脂断面積SAの値を充填断面積SBの半分の値よりも大きい値に設定することが好ましい。この構成によれば、充填空間における未充填部分が小さくなるため、接着力が向上する。
【0047】
以上に説明した本実施形態によれば、以下の効果を得ることができる。
(1)本実施形態では、同軸ケーブル10間には熱可塑性樹脂30が充填され、2枚の保持シート20同士が熱可塑性樹脂30により互いに固定されている。
【0048】
同軸ケーブル10を挟み込む2枚の保持シート20が熱可塑性樹脂30により互いに固定され、かつ同軸ケーブル10間には熱可塑性樹脂30が充填されている。これにより、同軸ケーブル10が熱可塑性樹脂30により固定される。同軸ケーブル10と熱可塑性樹脂30との接着力は強く、引張試験によっても同軸ケーブル10は抜けない。すなわち、同軸ケーブル10は熱可塑性樹脂30に強固に固定されているため、外部から力が加えられたとしても大きな力でなければ同軸ケーブル10は移動しない。すなわち、上記構成によれば、同軸ケーブル10の位置ずれの発生を抑制することができる。
【0049】
また、従来構造のフラットケーブル1に比べてフラットケーブル1の厚さを薄くすることができるという効果もある。すなわち、従来の構造、すなわち粘着層を介して同軸ケーブル10を固定するという構造の場合、同軸ケーブル10と保持シート20との間に粘着層が介在するため、フラットケーブル1の厚さは、保持シート20と粘着層と同軸ケーブル10との和になる。これに対し、本実施形態のフラットケーブル1は、保持シート20と同軸ケーブル10とを接触させている。このため、粘着層のない分だけ従来構造のフラットケーブル1を薄くすることができる。
【0050】
(2)本実施形態では、保持シート20はポリエチレンテレフタレート系樹脂により形成されている。他の樹脂に比べて、保持シート20の厚さを薄くすることができるため、当該フラットケーブル1を携帯型電子機器等の小型製品に搭載することが容易である。
【0051】
(3)本実施形態では、次のようにフラットケーブル1を製造する。保持シート20の面上に熱可塑性樹脂30が積層されている樹脂積層シート21を2枚用意する。そして、2枚の樹脂積層シート21の間に整列された同軸ケーブル10を挟み込み、加熱および加圧する。これにより、熱可塑性樹脂30で同軸ケーブル10を固定する。
【0052】
この構成では、予め熱可塑性樹脂30が積層されている樹脂積層シート21を用いることから、同軸ケーブル10を覆う熱可塑性樹脂30を成形する成形工程を得る必要がない。このため、製造工程を簡略にすることができる。
【0053】
(4)本実施形態では、フラットケーブル1の製造において、樹脂積層シート21として次の条件が成立する2枚の樹脂積層シート21を用いる。すなわち、2つの同軸ケーブル10間に充填される熱可塑性樹脂30の樹脂量が充填空間の空間容積の半分の値よりも大きくなる樹脂積層シート21が用いられる。すなわち、同軸ケーブル10のピッチDAおよび同軸ケーブル10の外径DCの大きさを考慮して、面積比が0.5よりも大きくなるように樹脂層20Aの厚さが設定されている樹脂積層シート21が用いられる。
【0054】
これにより、充填空間を熱可塑性樹脂30により満たすことができ、空隙量を少なくすることができる。この結果、同軸ケーブル10に対する熱可塑性樹脂30の接着力の低下を抑制することができる。
【0055】
(その他の実施形態)
なお、本発明の実施態様は上記各実施形態にて例示した態様に限られるものではなく、これを例えば以下に示すように変更して実施することもできる。また以下の各変形例は、上記各実施形態についてのみ適用されるものではなく、異なる変形例同士を互いに組み合わせて実施することもできる。
【0056】
・上記実施形態では、フラットケーブル1の製造方法において、2枚の樹脂積層シート21を用いているが、これに代えて、2枚のうち一方のみに樹脂積層シート21を用い、他方のシートに樹脂層20Aのないシートを用いてもよい。この場合は、同軸ケーブル10間に充填される熱可塑性樹脂30の樹脂量を充填空間の容積(空間容積)の半分の値よりも大きくすることが好ましい。このような構成により上記実施形態と同様の効果を奏する。
【0057】
・上記実施形態のフラットケーブル1では、2枚の保持シート20の間に挟みこまれている同軸ケーブル10の間隔は等しいが、同軸ケーブル10の間隔は異なっていてもよい。この場合でも、上記実施形態と同様の効果を奏する。
【0058】
・上記実施形態のフラットケーブル1では、2枚の保持シート20の間に挟みこまれている各同軸ケーブル10の外径は等しいが、同軸ケーブル10の外径を異ならせてもよい。この場合、同軸ケーブル10と保持シート20とが接触しない場合もあるが、このような構成でも、本実施形態に準じた効果を奏する。
【0059】
・上記実施形態では、保持シート20としてポリエチレンテレフタレート系樹脂により形成されているシートを用いているが、保持シート20の材料はこれに限定されない。また保持シート20の厚さも用途により変更される。
【符号の説明】
【0060】
1…フラットケーブル、10…同軸ケーブル、11…芯線、12…絶縁層、13…シールド層、14…被覆層、20…保持シート、20A…樹脂層、21…樹脂積層シート、30…熱可塑性樹脂、40…ラミネートフィルム、50…仮固定品、60…緩衝材、61…保持板、62…シリコンゴム、70…アッセンブリ品、100…ヒートツール、200…プレス金型。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のケーブルと、これらケーブルを挟み込む2枚の保持シートとを備えるフラットケーブルにおいて、
前記ケーブルはフッ素系樹脂に覆われたものであり、
前記ケーブル間には熱可塑性樹脂が充填され、前記2枚の保持シート同士がこの熱可塑性樹脂により互いに固定されている
ことを特徴とするフラットケーブル。
【請求項2】
請求項1に記載のフラットケーブルにおいて、
前記保持シートはポリエチレンテレフタレート系樹脂により形成されている
ことを特徴とするフラットケーブル。
【請求項3】
少なくとも一方が、保持シートに熱可塑性樹脂が積層された樹脂積層シートであることを要件として2枚のシートを用意し、当該2枚のシートの間にケーブルを挟み込み、加熱および加圧することにより前記シートの間に介在する前記熱可塑性樹脂で前記ケーブルを固定する
ことを特徴とするフラットケーブルの製造方法。
【請求項4】
請求項3に記載のフラットケーブルの製造方法において、
2つの前記ケーブル間に充填される前記熱可塑性樹脂の樹脂容積量が、2枚の前記保持シートと2本の前記ケーブルとの間に形成される空間の空間容積の半分の値よりも大きい
ことを特徴とするフラットケーブルの製造方法。
【請求項5】
請求項3または4に記載のフラットケーブルの製造方法において、
前記保持シートとしてポリエチレンテレフタレート系樹脂により形成されたシートを用いる
ことを特徴とするフラットケーブルの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図4】
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【図5】
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【図3】
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