説明

フラットケーブル

【課題】耐摩耗性に優れ、センサ等の筐体への接続作業性に優れたフラットケーブルを提供する。
【解決手段】中心導体4がポリオレフィン系樹脂により絶縁被覆された複数本の絶縁電線1と、並列に整列させた複数本の絶縁電線1の周囲にポリウレタンを含む樹脂が押出被覆されて形成された外被2とを備え、外被2の外周面における絶縁電線1の並列面に沿う部分が平面状である。絶縁電線1の周囲に外被2となる樹脂が充実されている。外被2は、熱可塑性ポリウレタンエラストマーと熱可塑性ポリエステルエラストマーとの混合物を主体とする樹脂組成物の架橋体から構成され、架橋体100重量部に対して3重量部以上35重量部以下の金属水酸化物または窒素系難燃剤を含み、熱可塑性ポリウレタンエラストマーと熱可塑性ポリエステルエラストマーとの重量比が20/80以上80/20以下である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、並列に整列させた複数本の絶縁電線を有するフラットケーブルに関する。
【背景技術】
【0002】
並列に整列させた複数本の絶縁電線を有するフラットケーブルとして、架橋されたポリオレフィン系樹脂を主成分とする絶縁層で中心導体を被覆した複数の絶縁電線を並列に配置し、これらの絶縁電線を、絶縁層における樹脂の主成分と同系樹脂を主成分とする接着層を含む樹脂フィルムに接着したものが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009−117144号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
自動車の電動パワーステアリング装置のトルクセンサの一部であるポジションセンサに上記のようなフラットケーブルが用いられるが、この車両用のセンサに用いられるフラットケーブルとしては、センサの筐体への良好な接続作業性が要求される。また、車両に用いられるフラットケーブルは、車両走行時の振動等によっても極力摩耗が生じないような耐摩耗性も要求される。
したがって、車両用のセンサに用いられるフラットケーブルとしては、優れた耐摩耗性を有し、センサ等の筐体への接続作業性に優れたものが要求されている。
【0005】
本発明の目的は、耐摩耗性に優れ、センサ等の筐体への接続作業性に優れたフラットケーブルを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決することのできる本発明のフラットケーブルは、中心導体がポリオレフィン系樹脂により絶縁被覆された複数本の絶縁電線と、
並列に整列させた複数本の前記絶縁電線の周囲にポリウレタンを含む樹脂が押出被覆されて形成された外被とを備え、
前記外被の外周面における前記電線の並列面に沿う部分が平面状であることを特徴とする。
【0007】
本発明のフラットケーブルにおいて、前記絶縁電線の周囲に前記外被となる樹脂が充実されていることが好ましい。
本発明のフラットケーブルにおいて、前記絶縁電線と前記外被とは互いに接触し、かつ、隣り合う前記絶縁電線と前記外被との間に隙間が形成されていることが好ましい。
【0008】
本発明のフラットケーブルにおいて、前記外被は、熱可塑性ポリウレタンエラストマーと熱可塑性ポリエステルエラストマーとの混合物を主体とする樹脂組成物の架橋体から構成され、前記架橋体100重量部に対して3重量部以上35重量部以下の金属水酸化物または窒素系難燃剤を含み、熱可塑性ポリウレタンエラストマーと熱可塑性ポリエステルエラストマーとの重量比が20/80以上80/20以下であることが好ましい。
【0009】
本発明のフラットケーブルにおいて、前記外被は、熱可塑性ポリウレタンエラストマー100重量部に窒素系難燃剤を40重量部以上55重量部以下の割合で添加した樹脂組成物からなることが好ましい。
【発明の効果】
【0010】
本発明のフラットケーブルによれば、並列に整列させた複数本の絶縁電線の周囲が外被によって被覆されていることにより、例えば、ケーブル端末加工時や車両の各種センサの筐体等に接続する際に、それぞれの絶縁電線がばらけるようなことがない。各絶縁電線の位置関係が定まることで加工機による自動加工が可能である。さらに、センサの筐体等へフラットケーブルを接続する際の接続作業性を大幅に向上させることができる。また、外被の外周面の大部分が平面であるので、筐体等へ接続する際に、当該筐体とケーブルとを直接熱融着することができる。そして、これにより防水性を確保できる。また、複数本の絶縁電線を被覆する外被がポリウレタンを含むものであるので、耐摩耗性を高めることができ、車両走行時の振動等によっても摩耗を抑えることができ、長期間にわたって高い信頼性を維持することができる。従来、フラットケーブルとしての耐摩耗性を確保するために保護チューブを被せていたが、本発明では保護チューブを必要としない。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の実施の形態に係るフラットケーブルを示す断面図である。
【図2】図1のフラットケーブルの端部における斜視図である。
【図3】本発明の実施の形態に係るフラットケーブルの変形例を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明に係るフラットケーブルの実施の形態の例を、図面を参照して説明する。
図1及び図2に示すように、本実施形態に係るフラットケーブル10は、複数本(本実施形態では4本)の絶縁電線1を有している。これらの絶縁電線1は、中心導体4とその外周を覆う絶縁体5からなるものであり、互いに並列に整列されている。このフラットケーブル10は、例えば、電動パワーステアリング装置のトルクセンサ等の車両に搭載されるセンサ用のセンサコードとして用いられる。
【0013】
互いに並列に整列された複数本の絶縁電線1は、その周囲が外被2によって被覆されている。中心導体4は、例えば、錫めっき軟銅線からなる外径0.16〜0.26mm程度の19本〜37本程度の素線4aを撚り合わせた撚り線からなるものであり、外径が0.80〜1.80mm程度、断面積が0.38〜1.96mm程度とされている。
【0014】
中心導体4を覆う絶縁体5は、ポリオレフィン系樹脂からなるものであり、架橋されたポリオレフィン系樹脂を主成分として形成されることが好ましい。
【0015】
架橋性樹脂としては、好ましくは架橋ポリオレフィン系樹脂であり、より好ましくは架橋ポリエチレン系樹脂である。架橋ポリエチレン系樹脂としては、低密度ポリエチレン樹脂(LDPE)、高密度ポリエチレン樹脂(HDPE)、エチレン・ビニルアセテート樹脂(EVA)、エチレン・エチルアクリレート樹脂(EEA)等の架橋ポリエチレン樹脂または架橋変性ポリエチレン樹脂から選択される1種の樹脂又は2種以上の樹脂の混合物が挙げられる。架橋ポリエチレン系樹脂は、中心導体4の周囲に、ポリエチレン樹脂または変性ポリエチレン樹脂を含む樹脂組成物を押出被覆した後、ポリエチレン樹脂または変性ポリエチレン樹脂をγ線照射や電子線照射によって架橋することによって得られる。架橋することにより、耐熱性、耐油性、耐薬品性などの電線特性が向上する。
【0016】
絶縁体5は難燃性を有していることが望ましく、例えば、有機系では臭素系または塩素系の難燃剤、無機系では金属水酸化物の難燃剤やアンチモン系の難燃助剤を含有することができる。また、上記以外にも、銅害防止剤、老化防止剤、架橋助剤等、適宜含有してもよい。
【0017】
外被2は、ポリウレタンを含む樹脂から形成されている。具体的には、熱可塑性ポリウレタンエラストマーと熱可塑性ポリエステルエラストマーの混合物を主体とする樹脂組成物であって架橋された架橋体が用いられる。外被2が架橋されていることにより、フラットケーブル10の端部を車両のセンサの筐体等へモールドによって融着させて防水させる樹脂モールド時の外被2の変形を防ぐことができ、樹脂モールドされるセンサーケーブルとして使用に耐えられるものが得られる。
【0018】
外被2の樹脂を架橋させる方法としては、架橋剤による化学架橋も用いることができるが、外被2に電離放射線を照射することによる架橋が、架橋度の制御が容易であるなどの利点があり好ましい。電離放射線としては、電子線や電離粒子線、X線、γ線などの高エネルギー電磁波が例示されるが、電子線が制御や取扱いの容易さから好ましい。電子線の照射線量としては、10〜400kGyの範囲が好ましい。照射線量が少ないと樹脂モールド時に外被2が変形する傾向があり、反対に照射線量が多すぎると熱融着性が低下する傾向があるが、照射線量をこの範囲内とすることにより、外被2の変形を十分に防ぐことができ、優れた熱融着性を得ることができる。
【0019】
また、外被2の樹脂は、熱可塑性ポリウレタンエラストマーと熱可塑性ポリエステルエラストマーとの混合物を主体とする樹脂組成物の架橋体100重量部に対して、3重量部以上35重量部以下の金属水酸化物または窒素系難燃剤を含んでいるとよい。金属水酸化物及び窒素系難燃剤から選ばれる非ハロゲン系難燃剤の含有量が、架橋体100重量部に対して3重量部未満であると、十分な難燃性が得られない。また、架橋体100重量部に対して35重量部を越えると、モールド樹脂に対する外被2の熱融着性が不十分になる。
【0020】
また、外被2の樹脂は、熱可塑性ポリエステルエラストマーの混合比率を高くすると、モールド樹脂との熱融着性が向上する。一方で、熱可塑性ポリウレタンエラストマーの比率が高い方が、材料の強度的には好ましい。熱可塑性ポリウレタンエラストマーと熱可塑性ポリエステルエラストマーとの混合比率を重量比で20/80以上80/20以下とすることで、モールド樹脂との熱融着性及び材料の強度を共により優れたものとすることができる。熱可塑性ポリウレタンエラストマーと熱可塑性ポリエステルエラストマーとの混合比率を重量比で40/60以上60/40以下とすることが、より好ましい。
【0021】
外被2を、上記のような樹脂により形成することにより、車両のセンサの筐体等への接続箇所で、優れた防水性を確保することができる。フラットケーブル10を筐体に融着させることにより、接続箇所が車両のエンジンルーム内などの防水性を要する場所に配置される場合であっても、接続箇所における良好な防水性を確保し、長期間にわたって高い信頼性を維持することができる。
【0022】
フラットケーブル10の外被2の表面とセンサの筐体との間で防水性を確保する必要がない場合、外被2としては、熱可塑性ポリウレタンエラストマー100重量部に窒素系難燃剤(例えばメラミンシアヌレート)を40重量部以上55重量部以下の割合で添加した樹脂組成物である難燃ポリウレタンから形成しても良い。なお、この樹脂組成物は、添加剤(酸化防止剤や架橋助剤)5〜15重量部を加えたものであっても良い。外被2を難燃ポリウレタンから形成することにより、ポリエステルを混入させるよりも安価なフラットケーブル10とすることができる。なお、センサの筐体との融着による防水構造が不要なフラットケーブル10では、センサの筐体との接続箇所は、樹脂モールドなどを施してもよい。
【0023】
外被2は、並列に整列された複数本の絶縁電線1に対して、それらの外周を覆うように設けられており、外被2の外周面の大部分である絶縁電線1の並列面に沿った部分(図1の上下にある左右方向の面)は平面となるように形成されている。図1のフラットケーブル10では、絶縁電線1の周囲に隙間なく外被2となる樹脂が充実されている。
【0024】
このフラットケーブル10によれば、並列に整列させた複数本の絶縁電線1の周囲に外被2を押出被覆により形成したことにより、例えば、車両の各種センサの筐体等に接続する際に、それぞれの絶縁電線1がばらけるような不具合をなくすことができる。これにより、各絶縁電線1の位置関係が定まることで加工機による自動加工が可能である。さらに、センサの筐体等へフラットケーブル10を接続する際の接続作業性を大幅に向上させることができる。また、外被2の外周面の大部分が平面であるので、筐体等へ接続する際に、当該筐体とフラットケーブル10とを直接熱融着することができる。そして、これにより防水性を確保できる。
【0025】
また、複数本の絶縁電線1を被覆する外被2がポリウレタンを含むものであるので、耐摩耗性が良好である。そのため、車両走行時の振動等によっても摩耗を抑えることができ、長期間にわたって高い信頼性を維持することができる。
【0026】
フラットケーブル10の外被の厚さ(図1にaまたはbで示す部分)は絶縁電線1の径の0.1〜1.0倍とすることができる。フラットケーブル10の長径方向(絶縁電線の並列方向)の厚さaと短径方向の厚さbとは必ずしも一致しなくてよい。
【0027】
上記実施形態では、絶縁電線1の周囲に隙間なく外被2が形成されたフラットケーブル10について説明したが、図3に示すフラットケーブル10Aのように、絶縁電線1間と外被2との間に隙間Sを形成するように被覆しても良い。外被2は、その内面が互いに並列に整列された各絶縁電線1と接触するように、複数本の絶縁電線1の全体の周囲を覆うように設けられている。このように外被2を被覆するには、並列に整列させた複数本の絶縁電線1の周囲に外被2を引き落とし方式の押出被覆により形成する。そして、引き落とし被覆時に、押し出したチューブ状の外被2に張力をかけて長さ方向に引き伸ばすことにより、その外径、内径及び厚さを減少させながら絶縁電線1に被覆すれば良い。これにより、絶縁電線1と外被2との間には、隙間Sが形成される。隙間Sに面した外被2の内周面が、凸状に形成されていてもよい。
【0028】
絶縁電線1と外被2とは互いに接触しているが、離れて隙間Sを有する部分があるので、フラットケーブル10の可撓性を高めることができる。これにより、面方向のみならず、絶縁電線1の配列方向である幅方向にも容易に曲げることができ、接続作業性のさらなる向上を図ることができ、また、加工性も向上させることができる。
【符号の説明】
【0029】
1:絶縁電線、2:外被、4:中心導体、5:絶縁体、10,10A:フラットケーブル、S:隙間

【特許請求の範囲】
【請求項1】
中心導体がポリオレフィン系樹脂により絶縁被覆された複数本の絶縁電線と、
並列に整列させた複数本の前記絶縁電線の周囲にポリウレタンを含む樹脂が押出被覆されて形成された外被とを備え、
前記外被の外周面における前記電線の並列面に沿う部分が平面状であることを特徴とするフラットケーブル。
【請求項2】
請求項1に記載のフラットケーブルであって、
前記絶縁電線の周囲に前記外被となる樹脂が充実されていることを特徴とするフラットケーブル。
【請求項3】
請求項1に記載のフラットケーブルであって、
前記絶縁電線と前記外被とは互いに接触し、かつ、隣り合う前記絶縁電線と前記外被との間に隙間が形成されていることを特徴とするフラットケーブル。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれか一項に記載のフラットケーブルであって、
前記外被は、熱可塑性ポリウレタンエラストマーと熱可塑性ポリエステルエラストマーとの混合物を主体とする樹脂組成物の架橋体から構成され、前記架橋体100重量部に対して3重量部以上35重量部以下の金属水酸化物または窒素系難燃剤を含み、熱可塑性ポリウレタンエラストマーと熱可塑性ポリエステルエラストマーとの重量比が20/80以上80/20以下であることを特徴とするフラットケーブル。
【請求項5】
請求項1ないし3のいずれか一項に記載のフラットケーブルであって、
前記外被は、熱可塑性ポリウレタンエラストマー100重量部に窒素系難燃剤を40重量部以上55重量部以下の割合で添加した樹脂組成物からなることを特徴とするフラットケーブル。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−228043(P2011−228043A)
【公開日】平成23年11月10日(2011.11.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−95008(P2010−95008)
【出願日】平成22年4月16日(2010.4.16)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】