説明

フラットケーブル

【課題】安価で簡易な構造で差動信号ラインを含むフラットケーブルの放射ノイズをシールドする。
【解決手段】フラットケーブル100は、複数の機器間で差動信号を伝送するため、2本の導電ラインで構成される差動対ライン125と、共に差動対ライン125の両側に沿って配置される第1のGNDライン122および第2のGNDライン128を備え、第1のGNDライン122および第2のGNDライン128の少なくとも一方の外側には、電源を供給する電源ライン120、または制御信号を伝送する制御信号ライン130が、第1のGNDライン122および第2のGNDライン128に沿って配置される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、機器間を電気的に接続するフラットケーブルに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、プリンター等の印刷装置は、設置先での占有面積を抑えるべく、印刷する用紙を内部に受け入れる体積を確保しつつ、小型化されている。印刷装置が有する機能は、メインボードと呼ばれる回路基板で制御されるが、このような要求に伴いメインボードに対しても小型化が要求されている。
このような要求に応じて、メインボードには全ての機能が実装されることなく、主たる機能のみが実装され、ユーザーが操作する操作パネルや、メモリー等のカードリーダーのように、印刷装置に具備された機能は子基板(ドーターボード)に実装される。このドーターボードは、印刷装置の内部に効率的に配置される。そして、ドーターボードとメインボードとの間は、フレキシブルフラットケーブル(FFC)等のインターフェイスを介して電気的に接続される。
【0003】
メインボードとドーターボード間でデータのトラフィック量が多い場合、LVDS(Low Voltage Differential Signaling:低電圧差動伝送)や、USB(Universal Serial Bus)などの差動信号を用いたバスライン(ケーブル)を用いたデータの通信が行なわれる。この場合、データバス内で通信する2本のデータ信号(以降、D+およびD−と呼ぶ。)は差動信号と呼ばれ、理想的にはD+とD−の各電位は共通グランド電位に対して等しく、且つ180度の位相差を持たせ、D+の電位とD−の電位の差によりパルスを構成してデータを転送する。
例えば、USBのバスラインでは、D+およびD−の2本の差動データラインと、接続先に電源を供給する電源ラインおよびそのグランドラインの計4本を有した構成となっている。
【0004】
ところで、上述の差動信号によるデータ通信においては、D+、D−のライン間における共通グランド電位に対する電圧振幅の差や位相差(ジッター等による180度の位相差に加わる位相誤差)、パルスの立ち上がり、立下りの時間差およびパルスのON/OFF時間差等により、実使用においては本来の差動信号成分(ディファレンシャルモード)以外に同相信号成分(コモンモード)が生じる。このコモンモード成分は、上述のUSB等のケーブルから外界にノイズとして放射したり、電源ラインやグランドラインに結合して、メインボードやドーターボードに流れ込み、そこでノイズ放射の原因となったりすることがある。
このような現象に対応すべく、下記特許文献1〜4に示すように、データラインを含むフラットケーブル全体をグランド電位で被覆することにより、ノイズ放射をシールドする方法が提案されている。また、下記特許文献5に示すように、フェライトコア等を用いたノイズ対策が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009−146694号公報
【特許文献2】特開2001−351443号公報
【特許文献3】特開2009−32685号公報
【特許文献4】特開2009−238722号公報
【特許文献5】特開2006−191006号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、高速のデータ伝送ラインでは使用される基本周波数は、数100MHz以上であり、D+およびD−の各信号の振幅も500mV程度以下と小さいため、D+やD−を覆うようにグランド電位で被覆した場合、D+およびD−のグランド電位に対するインピーダンスが低下し、前記各信号振幅が減衰しやすい。そのため、D+およびD−の差動信号の振幅も小さくなることにより信号のS/N比が低下し、伝送するデータのエラーレートが悪化する。加えて、一般的なフラットケーブルに対してグランド電位を被覆する構造とするために付加的な処理を施す必要があり、上記ケーブルの製造工程を考慮すると部材の増加、及び作業工数が増加し、製造コストが上昇する。そもそも、フラットケーブルに対してグランド電位を被覆する構造はケーブルを構成する各ラインとグランド電位の距離をとる必要があることから、ケーブル自体が分厚い、硬直した構造体となり、フラットケーブルの本来の特長である柔軟性(フレキシビリティー)が損なわれ、基板間接続を行なう上でその柔軟性・自由度が失われる。
また、フェライトコア等を用いたフラットケーブルのノイズ対策では、対象機器の量産の際、フェライトコア及びそれを機器に固定する部材の追加が必要となり、且つそれらを装着する作業工数が追加されるため、機器の製造コスト上昇の要因となる。
そこで本発明は、前記課題に鑑みてなされたものであり、安価で簡易な構造で差動信号ラインを含むフラットケーブルからの放射ノイズを抑制することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上述の課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、以下の形態又は適用例として実現することが可能である。
【0008】
[適用例1]
本適用例にかかるフラットケーブルは、導電ラインで構成され、複数の機器間を電気的に接続するフラットケーブルであって、前記フラットケーブルは、前記複数の機器間で差動信号を伝送するための差動対を構成する前記導電ラインと、前記差動対を構成する前記導電ラインに沿った両サイドにそれぞれ配列された導電ラインからなるグランドラインと、を備え、前記導電ラインからなるグランドラインが配列された少なくとも一方であって、前記差動対を構成する前記導電ラインとは反対の側には、前記複数の機器間に電源を供給する電源ラインが、前記導電ラインからなるグランドラインに沿って配列されることを特徴とする。
【0009】
このような構成によれば、差動対を構成する導電ラインを伝導するコモンモードの高周波電流に対して、リターンパスとなるグランドラインに前記コモンモードの高周波電流がそれぞれ相反する方向で且つ一方(差動対を構成する導電ライン側)を他方(グランドライン側)が挟みこむ関係で流すことができる。これにより良好に該フラットケーブルからの放射電磁界を低減できる。更に、このような構成により、グランドラインの有するリアンクタンス成分を低減することができ、差動対ラインを構成するラインからのコモンモード電流をより良好にグランドライン側に流すことができ、これによりフラットケーブルからの放射電磁界を低減できる。また、該フラットケーブルからの放射電磁界を低減できることは即ち、該フラットケーブルの外部からの放射電磁界の影響を受けづらいことと等価である。従って、外部からの放射電磁界による機器への誤動作を起こさない、堅牢な機器とすることができる。
【0010】
[適用例2]
上記適用例にかかるフラットケーブルにおいて、前記差動対を構成する前記導電ラインに対し、その両サイドに配列された前記グランドラインと前記差動対を構成する前記ラインとのそれぞれの距離が略等しくなるように配列されることが好ましい。
【0011】
このような構成によれば、フラットケーブルの長手方向に対する幅方向の断面において、前記差動対を構成するラインに対し、前記グランドラインが左右対称配置された関係となり、これにより前記差動対を構成するラインにおけるコモンモード電流に対してもそのリターン電流が対称関係で流すことができる。これにより、より良好にフラットケーブルからの放射電磁界をより低減できる。
【0012】
[適用例3]
上記適用例にかかるフラットケーブルにおいて、前記グランドラインは、前記差動対を構成する前記導電ラインに沿った両サイドにそれぞれ複数本配列されることが好ましい。
【0013】
このような構成によれば、前記グランドラインを複数としたことにより、フラットケーブルが有するグランドラインのリアンクタンス成分を更に低減することができ、差動対ラインを構成する導電ラインからのコモンモード電流をより良好にグランドライン側にリターン電流として流すことができ、これにより、より良好にフラットケーブルからの放射電磁界を低減できる。また、該フラットケーブルからの放射電磁界を低減できることは即ち、該フラットケーブルの外部からの放射電磁界の影響を受けづらいことと等価である。従って、外部からの放射電磁界による機器への誤動作を起こさない、より堅牢な機器とすることができる。また更にグランドラインを複数にする副次的な効果として、前記フラットケーブルにより電気的に接続される複数の機器を構成する回路基板においては、それぞれのグランド電極が前記複数のグランドラインにより接続されていることにより、前記複数の機器の回路基板を構成するそれぞれのグランド電極間のリアクタンス成分を低下させて電気的な接続をすることができる。これにより、外部より静電気等のサージ電圧を受けた際、接続されたそれぞれの前記回路基板のグランド電極にたいしてスムーズにサージ電流を分散することができるので、受けたサージ電圧の過度の電圧上昇を抑制でき、結果として、外界のサージ電圧等の瞬時の電圧変動に対して機器の誤動作を回避することができる。
【0014】
[適用例4]
上記適用例にかかるフラットケーブルにおいて、前記導電ラインは線幅が略同一であり、略同一な間隔で配置されることが好ましい。
【0015】
このような構成によれば、フラットケーブルは目的用途が限定されたものではなく、一般的なフラットケーブルから部品選択が可能となり、部品のコストの低減が可能となる。
【0016】
[適用例5]
上記適用例にかかるフラットケーブルにおいて、機器の接続する両端子部の少なくとも一方は、前記導電ラインが露出したエッジコネクターを形成することが好ましい。
【0017】
このような構成によれば、エッジコネクターを利用することによる部品コストの低減が可能になると共に、ケーブルからコネクター、コネクターから基板への導体の配線の位置関係・形状を維持して接続できるので、接続部に起きる伝送信号の電界の形態(モード)の不連続性を小さくすることができ、即ち、差動信号(ディファレンシャルモード)からのコモンモードの生成を低減することができる。
【0018】
[適用例6]
上記適用例にかかるフラットケーブルにおいて、長さは40mm以上であって、前記導電ラインの配置間隔は0.3mm以上であることが好ましい。
【0019】
このような構成によれば、機器からの漏洩電磁界の規制に対する対策ができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】プリンターの外観を示した図。
【図2】本発明の実施形態1に係るフラットケーブルの構成を示す図。
【図3】実施形態1での放射効率のシミュレーション結果を示す図。
【図4】実施形態1のシミュレーション空間を示す図。
【図5】本発明の実施形態1に係るフラットケーブルの端部の構成を示す図。
【図6】本発明の実施形態2に係るフラットケーブルの構成を示す図。
【図7】本発明の実施形態3に係るフラットケーブルの構成を示す図。
【図8】実施形態3での放射効率のシミュレーション結果を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、フラットケーブルについて図面を参照して説明する。
【0022】
(実施形態1)
図1は、印刷装置としてのプリンター10の外観を示した図である。このプリンター10は、所謂スタンドアローンタイプである。プリンター10の側面には、メモリーカード挿入部15が設けられている。ユーザーがメモリーカード挿入部15にメモリーカード(図示は略す。)を挿入し、図示を略した操作部を操作することで、プリンター10は、メモリーカードに書き込まれている画像データを読み込み、読み込んだ画像データの中からユーザーにより印刷指示された画像データを画像処理して用紙12に転写して排出する。
このプリンター10の内部には、印刷を含め主体となる機能を制御するための電子回路が実装されたメインボード20や、メモリーカードを読み取るための電子回路が実装されたドーターボード30が離れて配置されている。メインボード20およびドーターボード30は、FFCのようなフラットケーブル100で電気的に接続され、このフラットケーブル100が有する複数の導電ライン150(図2)を介して、メインボード20とドーターボード30との間で、電源の供給、データ通信が行なわれる。
尚、本実施形態1では、フラットケーブル100を介して接続された機器として、メインボード20とドーターボード30を想定するが、これには限定されない。
【0023】
本実施形態1では、メインボード20とドーターボード30には、それぞれUSBのバスコントローラー(図示は略す。)が実装されておりフラットケーブル100によるメインボード20とドーターボード30間で送受信するデータ通信を制御している。
図2はフラットケーブル100の構成を示す図である。本実施形態1では、フラットケーブル100は5本の導電ライン150で構成される。即ち、5本の導電ライン150は、フラットケーブル100の長手方向に沿った一方の側から幅方向に、電源ライン120、第1のGNDライン122、第1のデータライン124、第2のデータライン126および第2のGNDライン128で構成されている。
【0024】
フラットケーブル100において第1のデータライン124と第2のデータライン126は、差動信号を伝送する差動対を構成する。以降、第1のデータライン124と第2のデータライン126を合わせて差動対ライン125と呼ぶ。
差動対ライン125は、フラットケーブル100上で隣接するように配置され、更に、第1のGNDライン122と第2のGNDライン128は、差動信号ライン125の両側に沿うと共に、この差動対ライン125を等距離で挟むように配置されている。尚、第1のGNDライン122と第2のGNDライン128はメインボード20およびドーターボード30のグランド電極と電気的に接続される。
【0025】
また、電源ライン120は、第1のGNDライン122の差動対ライン125が配置された側とは反対側、即ち、図2ではフラットケーブル100の長手方向に沿った最外側部に配置されている。
本実施形態1では、フラットケーブル100の構成としては、補強板102の面上に導電ライン150が形成され、導電ライン150を保護するために、保護膜104により覆われている。補強板102については150〜300μm程度の厚みであって比誘電率が2〜8程度の樹脂材料で構成されることが好ましい。導電ライン150は、厚みが35〜50μm程度で、その線幅は、0.7〜1mm程度とし、導電ライン150の各線間の距離は、0.3〜1mm程度とし、線幅やピッチは略同一になるように形成されていることが好ましい。また導電ライン150の上部を覆う保護膜104は比誘電率が2〜8程度の樹脂材料が好ましい。
【0026】
本実施形態1では、フラットケーブル100の機器に接続する両端端子部は、一定の長さで保護膜104が被覆されない部分を有し、これをコネクター部110として、エッジコネクターの凸部(オス部)として機能させていることが好ましい。尚、図示は略すが、メインボード20とドーターボード30は、エッジコネクターとなるコネクター部110と勘合関係となる凹部(メス部)を有し、コネクター部110をエッジコネクターとして前記凹部に挿入されることにより、電気的に接続されることが好ましい。
次に、上述したフラットケーブル100の効果について説明する。図3は、差動対ライン125の第1のデータライン124と第2のデータライン126のそれぞれに流れる信号振幅に差を付けることによりコモンモードを生成し、そのときのフラットケーブル100より外部への放射電磁界に係る放射効率に関して検討したシミュレーション結果を示した図である。尚、シミュレーションモデルは、以下のように設定した。
【0027】
図4は、上記検討を行なった電磁界シミュレーションのモデルと空間を示した図である。フラットケーブル100は第1のデータライン124と第2のデータライン126からなる差動対ライン125と、第1のGNDライン122および第2のGNDライン128で構成し、単純化のため、電源ライン120は省略している。何れのラインも銅箔よりなり、厚みは35μm、ライン幅は0.7mm、各ライン間のスペースは0.3mmとした。また、フラットケーブル100の長さは300mmであり、補強板102(比誘電率3.5)の厚さは190μm、導電ライン150上部の保護膜104(比誘電率3.5)の厚さは60μmとした。
また電磁界シミュレーションの空間は、図4に示す直方体であって、フラットケーブル100の一方の端部には信号源180を接続すると共に、フラットケーブル100の他方の端部には後述する抵抗を設定し、フラットケーブル100のそれぞれの端部側の壁面をGND壁165とし、それらと垂直となる側面方向の壁面を電界吸収壁160とした。
【0028】
次に、フラットケーブル100の一方の端部と信号源との接続の仕方であるが、信号源の二つの極は、それぞれ第1のデータライン124と第2のデータライン126のそれぞれの一方(電源側)の端部に接続し、これにより第1のデータライン124と第2のデータライン126間に差動信号を励振することができる。また第1のGNDライン122および第2のGNDライン128の一方の端部は共に、フラットケーブル100の一方の端部の側に設けたGND壁165に接続させている。
更に、フラットケーブル100の他方端部には、図5に示す様に、第1のデータライン124の他方の端部は、抵抗R1の端部190と接続し、第2のデータライン126の他方の端部は、抵抗R2(但し、R1≠R2:抵抗値が等しくない。)の端部195を接続する。また、抵抗R1、抵抗R2のそれぞれの他方の端子185を、第1のGNDライン122および第2のGNDライン128の他方の端部に接続すると共に、フラットケーブル100の他方の端部の側に設けたGND壁165に接続させている。
【0029】
抵抗R1、抵抗R2を設定したことにより、第1のデータライン124と第2のデータライン126で信号の振幅差を生じ、これにより差動対ライン125においてコモンモード信号を生じさせることができる。
これに対し、比較するための基準とする従来例として、第1のGNDライン122および第2のGNDライン128を有さず、差動対ライン125のみで構成される場合を想定した。この時、前記抵抗R1、R2の他方の端子185は直接フラットケーブル100の他方の端部の側に設けたGND壁に接続させている。
【0030】
図3に示すように、差動対ライン125に沿った両サイドにそれぞれ第1のGNDライン122および第2のGNDライン128を配置することで、放射効率が低下することが確認された。また、フラットケーブル100からの外界への電磁界放射と、外界からの電磁界のフラットケーブル100への結合は等価であるため、放射効率が低いことは、即ち、外界からの電磁界との結合が低く、外部電磁界からの電磁耐性(イミュニティ)が高いと言える。
【0031】
尚、検討した周波数帯は、情報処理装置等電波障害自主規制協議会(VCCI)等が規定した、機器からの漏洩電界強度が規制される帯域である。この帯域におけるフラットケーブル100からの漏洩は、対象周波数帯の波長の関係からフラットケーブル100の長さに依存する。従って、フラットケーブル100の長さは、周波数が1GHz以下の帯域において、誘電体による波長短縮を考慮した際の実効波長の1/4に満たない長さにおいては、それほど問題にならない。以上のことから、本実施形態1で適用するフラットケーブル100の長さは、40mm以上が好適である。また本願実施の形態で説明したプリンター内部での基板間の接続を行なう場合は600mm以下程度となる。
また、差動対ライン125の構成において、その伝送路のインピーダンスは、一般的に100Ω程度に設定される場合が多く、例えばUSBの規格では90Ωに設定されている。これはデータを送る信号において、必要とする振幅を得るために送信するICのドライブ回路の能力に依存するためと思われる。従って、伝送路のインピーダンスは伝送路構成する部材の物理的な構造・寸法・材料定数により決まるが、フラットケーブル100の構造においては特にフラットケーブル100の幅方向の大きさに関わる導体間のスペースの設計に関して、0.3mmから1mm以下程度に設定されることが好適である。
【0032】
以上述べた実施形態によれば、以下のような効果を奏する。
(1)フラットケーブル100において、差動対ライン125に沿った両サイドには、第1のGNDライン122および第2のGNDライン128が配置されるため、フラットケーブル100からのコモンモードノイズの放射を抑制できる。また、コネクター部110においては、第1のGNDライン122と第2のGNDライン128が差動対ライン125に対して対称に配置された構造であることから、メインボード20またはドーターボード30と、フラットケーブル100の電気的接続において、フラットケーブル100からコネクター部110、コネクター部110からメインボード20またはドーターボード30へとの導体の配線の位置関係・形状を維持して接続できる。従って、コネクター部110に起きる伝送信号の電界の形態(モード)の不連続性を小さくすることができ、差動信号(ディファレンシャルモード)からのコモンモードの発生を抑制できる。
【0033】
(2)本実施形態1のフラットケーブル100は、メインボード20とドーターボード30を接続する際、外部からの電磁界放射に対するイミュニティにおいて、ノイズの電磁界放射に関して、その放射効率を低減させたことにより、外界からの妨害電磁界に対しても影響を受けない堅牢なイミュニティ(EMI)有した機器を実現できる。
【0034】
(3)フラットケーブル100は、コネクター部110を含む構成であるため、別部品としてコネクターを装着する構成に比べて安価に製造できる。
【0035】
(実施形態2)
次に、本発明の実施形態2について、図6を参照して説明する。尚、以下の説明では、既に説明した部分と同じ部分については、同一符号を付してその説明を省略する。
実施形態1では、フラットケーブル100は5本の導電ライン150で構成されたが、本実施形態2では、6本の導電ライン150で構成されるフラットケーブル100を想定する。
即ち、6本の導電ライン150は、フラットケーブル100の長手方向に沿った一方の側から幅方向に、電源ライン120、第1のGNDライン122、第1のデータライン124、第2のデータライン126、第2のGNDライン128および制御信号ライン130として機能する。
制御信号ライン130は、第1のデータライン124、第2のデータライン126以外にメインボード20とドーターボード30間で信号の送受信等を行なうラインであって、実施形態1でのコモンモードノイズによるノイズ放射を抑制の効果を保持させるため、制御信号ライン130はフラットケーブル100の長手方向に対する幅方向において第1のデータライン124又は第2のデータライン126の外側に配置している。
上述した実施形態2においても、実施形態1と同様な効果を奏する。
【0036】
(実施形態3)
次に、本発明の実施形態2について、図7を参照して説明する。実施形態1では、フラットケーブル100は5本の導電ライン150で構成されたが、本実施形態3では、8本の導電ライン150で構成されるフラットケーブル100を想定する。
即ち、8本の導電ライン150は、フラットケーブル100の長手方向に沿った一方の側から幅方向に、電源ライン120、第1のGNDライン122、第2のGNDライン128、第1のデータライン124、第2のデータライン126、第3のGNDライン132、第4のGNDライン134および制御信号ライン130として機能する。本実施形態3では、差動対ライン125に沿っての両サイドに、それぞれ2本のグランドラインを配置している。尚、グランドラインの数は限定されず、一定数の導電ライン150をグランドラインとして設定しても良い。
【0037】
次に、実施形態3で想定したフラットケーブル100の効果について説明する。図8は、差動対ライン125の第1のデータライン124と第2のデータライン126のそれぞれに流れる信号振幅に差を付けることによりコモンモードを生成し、そのときのフラットケーブル100より外部への放射電磁界に係る放射効率に関して検討したシミュレーション結果を示した図である。尚、シミュレーションモデルは実施形態1と同様であって、差動対ライン125に沿って両サイドにグランドラインを各1本追加形態にしただけで、その他の詳細な条件は実施形態1と同一である。
【0038】
図8に示すように、差動対ライン125に沿った両サイドにそれぞれ2本のグランドライン(第1のGNDライン122および第2のGNDライン128、並びに、第3のGNDライン132および第4のGNDライン134)を形成することで、差動対ライン125のみの場合と比較して、放射効率が大きく低下する。また、差動信号ライン125の両隣に1本のグランドライン(第1のGNDライン122および第2のGNDライン128)を形成した実施形態1と比較して、放射効率は更に低下する。
【0039】
従って、上述した実施形態3においても、実施形態1と同様な効果に加え、実施形態1よりも放射効率を更に低下させることができ、外部電磁界からのイミュニティがより優れたフラットケーブル100を実現できる。
更に、付加的効果として、外部からのサージ電圧に対する堅牢性が挙げられる。その評価の方法としては、例えば上記説明に用いたプリンター10のメインボード20又はドーターボード30のそれぞれのGND電極に瞬時の高電圧を印加し、これによる機器の誤動作の有無を確認する試験が行なわれる。これに対し実施形態3の構成ではメインボード20とドーターボード30間はフラットケーブル100により複数のグランドラインで接続されることになるため、メインボード20とドーターボード30のそれぞれのグラン電極間のインピーダンスを低下させることができる。
従って、一方のボードのグランド電極に印加した瞬時電圧に対して、より早く他のボードのグランド電極に該瞬時電圧の電流を流すことができるので、前記印加電圧を瞬時に低下させることができ、機器の誤動作の発生を低減することができる。よって、実施形態3の構成のフラットケーブル100により静電気等による誤動作に対しても耐性を持つ機器を提供することがきる。
【符号の説明】
【0040】
10…プリンター、12…用紙、15…メモリーカード挿入部、20…メインボード、30…ドーターボード、100…フラットケーブル、102…補強板、104…樹脂被覆、110…コネクター部、120…電源ライン、122…第1のGNDライン、124…第1のデータライン、125…差動信号ライン、126…第2のデータライン、128…第2のGNDライン、130…制御信号ライン、132…第3のGNDライン、134…第4のGNDライン、150…導電ライン。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電ラインで構成され、複数の機器間を電気的に接続するフラットケーブルであって、
前記フラットケーブルは、前記複数の機器間で差動信号を伝送するための差動対を構成する前記導電ラインと、
前記差動対を構成する前記導電ラインに沿った両サイドにそれぞれ配列された前記導電ラインからなるグランドラインと、を備え、
前記導電ラインからなるグランドラインが配列された少なくとも一方であって、前記差動対を構成する前記導電ラインとは反対の側には、前記複数の機器間に電源を供給する電源ラインが、前記導電ラインからなるグランドラインに沿って配列されることを特徴とするフラットケーブル。
【請求項2】
請求項1に記載のフラットケーブルにおいて、
前記差動対を構成する前記導電ラインに対し、その両サイドに配列された前記導電ラインからなるグランドラインと前記差動対を構成する前記ラインとのそれぞれの距離が略等しくなるように配列されることを特徴とするフラットケーブル。
【請求項3】
請求項1乃至2のいずれかに記載のフラットケーブルにおいて、
前記導電ラインからなるグランドラインは、前記差動対を構成する前記ラインに沿った両サイドにそれぞれ複数本配列されることを特徴とするフラットケーブル。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれか1項に記載のフラットケーブルにおいて、
前記導電ラインは線幅が略同一であり、略同一な間隔で配置されることを特徴とするフラットケーブル。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれか1項に記載のフラットケーブルにおいて、
機器の接続する両端子部の少なくとも一方は、前記導電ラインが露出したエッジコネクターを形成することを特徴とするフラットケーブル。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれか1項に記載のフラットケーブルにおいて、
長さは40mm以上であって、前記導電ラインの配置間隔は0.3mm以上であることを特徴とするフラットケーブル。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2013−4506(P2013−4506A)
【公開日】平成25年1月7日(2013.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−138238(P2011−138238)
【出願日】平成23年6月22日(2011.6.22)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】