説明

フラットディスプレイパネル

【課題】パネル面への衝撃荷重による破損を有効に防止してパネルの薄型化を図ることが出来るフラットディスプレイパネルを提供する。
【解決手段】内面側が誘電体材料によって形成された誘電体層によって被覆されている前面ガラス基板と、この前面ガラス基板に重ね合わされた背面ガラス基板をフラットディスプレイパネルの前面ガラス基板とこの前面ガラス基板の内面側に形成された誘電体層との熱膨張係数および誘電体層のヤング率が、
(183.76/E+0.0018×△α−2.29)×t/1.8≧1
E:誘電体層のヤング率(GPa)
△α(>0):前面ガラス基板の熱膨張係数α1と誘電体層の熱膨張係数α2の差α1−α2(×10−7/℃)
t:前面ガラス基板の厚さ(mm)
の式を満たしている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、フラットディスプレイパネルの構成に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、フラットディスプレイパネルの一つであるプラズマディスプレイパネル(以下、PDPという)は、前面ガラス基板の内面側に行電極対とこの行電極対を被覆する誘電体層等の構造物が形成され、背面ガラス基板の内面側に放電セルを区画する隔壁や各放電セル毎に色分けされて形成された蛍光体層等の構造物が形成されて、この前面ガラス基板と背面ガラス基板が、それぞれの構造物が形成されている側を対向させて放電空間を介して重ね合わされた構造を有している。
【0003】
このような構成を有するPDPは、前面ガラス基板によって形成されるパネル面に外部から衝撃が加わると、この衝撃荷重によって、前面ガラス基板に圧縮応力が生じるとともにこの前面ガラス基板の内面側に形成された誘電体層に引張り応力が生じ、この引張り応力によって誘電体層にクラックが発生し、この誘電体層のクラックが前面ガラス基板に拡がって、前面ガラス基板が破損してしまう虞がある。
【0004】
このため、従来のPDPには、前面ガラス基板の熱膨張率よりもこの前面ガラス基板の内面側に形成される誘電体層の熱膨張率が小さくなるように設定し、この両者の熱膨張率の差によって前面ガラス基板に引張り応力を残留させ誘電体層に圧縮応力を残留させることにより、外部からの衝撃によるパネルの破損を防止するようにしたものがある(例えば、特許文献1参照)。
【0005】
ここで、フラットディスプレイパネルの薄型化への要求は、近年一層高まって来ており、このパネルの薄型化を図る際に、ガラス基板の薄型化を図ることが不可欠となる。
【0006】
このガラス基板の薄型化を図る際には、パネル全体の耐衝撃性を考慮する必要があり、パネル全体の耐衝撃性の低下を防止するとともに耐衝撃性の強化を図る必要がある。
【0007】
上記従来のPDPでは、パネルの耐衝撃性は、前面ガラス基板の内面側に形成される誘電体層の熱膨張率の設定によって変化することに着目して、誘電体層の熱膨張率を選択することによって、パネルの耐衝撃性の強化を図ろうとしている。
【0008】
しかしながら、誘電体層の熱膨張率のみを考慮してパネルの耐衝撃性を検討することは、パネルの十分の耐衝撃性を得るのに限界があり不十分であることがその後の研究で判明して来ている。
【0009】
このような問題は、PDPの場合に限らず、パネル面がガラス基板によって構成される例えばFED(フィールド・エミッション・ディスプレイ)等の他のフラットディスプレイパネルについても発生する。
【0010】
このため、薄型化および軽量化が図られるとともにパネル面に加わる外部からの衝撃に対する十分な強度を有するフラットディスプレイパネルの開発がより一層強く望まれて来ている。
【0011】
【特許文献1】特開2007−212801号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
この発明は、上記のような従来のフラットディスプレイパネルに対する要望に応えることをその技術的課題の一つとしている。
【課題を解決するための手段】
【0013】
この発明(請求項1に記載の発明)によるフラットディスプレイパネルは、上記課題を達成するために、内面側が誘電体材料によって形成された誘電体層によって被覆されている前面ガラス基板と、この前面ガラス基板に重ね合わされた背面ガラス基板を備えたフラットディスプレイパネルであって、前記前面ガラス基板と誘電体層の熱膨張係数および誘電体層のヤング率が、
(183.76/E+0.0018×△α−2.29)×t/1.8≧1
E:誘電体層のヤング率(GPa)
△α(>0):前面ガラス基板の熱膨張係数α1と誘電体層の熱膨張係数α2の差α1−α2(×10−7/℃)
t:前面ガラス基板の厚さ(mm)
の式を満たしていることを特徴としている。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
この発明は、内面側が誘電体材料によって形成された誘電体層によって被覆されている前面ガラス基板と、この前面ガラス基板に重ね合わされた背面ガラス基板を備えたフラットディスプレイパネルであって、前記前面ガラス基板と誘電体層の熱膨張係数および誘電体層のヤング率が、
(183.76/E+0.0018×△α−2.29)×t/1.8≧1
E:誘電体層のヤング率(GPa)
△α(>0):前面ガラス基板の熱膨張係数α1と誘電体層の熱膨張係数α2の差α1−α2(×10−7/℃)
t:前面ガラス基板の厚さ(mm)
の式を満たしているフラットディスプレイパネルを最良の実施形態としている。
【0015】
この実施形態におけるフラットディスプレイパネルは、前面ガラス基板の熱膨張率が誘電体層の熱膨張率よりも大きくなるように設定されていて、前面ガラス基板内に引張り応力が残留され、誘電体層内に圧縮応力が残留されており、さらに、前面ガラス基板と誘電体層の熱膨張係数および誘電体層のヤング率が、上記の式を満たす誘電体材料によって誘電体層が形成されていることによって、十分な耐衝撃性を備えることが出来る。
【0016】
そして、上記式を用いて、前面ガラス基板に対してその内面側を被覆する誘電体層の熱膨張係数とヤング率Eが設定されていることによって、フラットディスプレイパネルの誘電体層を形成する誘電体材料を変更する毎に耐衝撃性試験を実施する必要がなく、簡単に、そのフラットディスプレイパネルが、実用上有用な耐衝撃性(パネル強度)を有しているか否かを判定することが出来る。
【0017】
上記実施形態のフラットディスプレイパネルにおいて、前面ガラス基板と誘電体層の熱膨張係数の差△αの値が13(×10−7/℃)未満であることが望ましい。
これによって、前面ガラス基板と誘電体層の熱膨張係数の差によって前面ガラス基板の反りが大きくなるのを防止することが出来る。
【0018】
さらに、上記実施形態のフラットディスプレイパネルにおいて、前面ガラス基板の外面側に樹脂性のフィルムのみが貼り付けられているようにするのが好ましく、さらに、この樹脂性のフィルムの厚さを450μm以上にするのが好ましい。
【0019】
前面ガラス基板に樹脂性のフィルムを貼り付けることによって、パネル強度を増すことができ、この樹脂性のフィルムの厚さが増せば増すほどパネル強度が増加するので、この樹脂性のフィルムの厚さを450μm以上にすることによって、パネル強度をさらに増すことが出来る。
【0020】
前記実施形態のフラットディスプレイパネルにおいて、誘電体層を鉛成分を含んでいない誘電体材料によって形成するようにするのが好ましく、その主成分を酸化ホウ素,酸化ケイ素,酸化亜鉛とするのが好ましい。
【0021】
前記実施形態のフラットディスプレイパネルにおいて、前面ガラス基板の厚さが1.8(mm)のとき、前面ガラス基板と誘電体層の熱膨張係数および誘電体層のヤング率が、
183.76/E+0.0018×△α≧3.29
E:誘電体層のヤング率(GPa)
△α(>0):前面ガラス基板の熱膨張係数α1と誘電体層の熱膨張係数α2の差α1−α2(×10−7/℃)
の式を満たすようにするのが好ましい。
【0022】
厚さが1.8(mm)の前面ガラス基板と誘電体層の熱膨張係数および誘電体層のヤング率が、上記の式を満たす誘電体材料によって誘電体層を形成すれば、十分な耐衝撃性を有するフラットディスプレイパネルを制作することが出来る。
【0023】
そして、上記式を用いて、厚さが1.8(mm)の前面ガラス基板に対してその内面側を被覆する誘電体層の熱膨張係数とヤング率Eを設定する様にすれば、フラットディスプレイパネルの誘電体層を形成する誘電体材料を変更する毎に耐衝撃性試験を実施する必要がなく、簡単に、そのフラットディスプレイパネルが、実用上有用なの耐衝撃性(パネル強度)を有しているか否かを判定することが出来るようになる。
【0024】
前記実施形態のフラットディスプレイパネルにおいて、前面ガラス基板と誘電体層が、プラズマディスプレイパネルのパネル面を構成する前面ガラス基板と誘電体層である場合には、十分な耐衝撃性を有するプラズマディスプレイパネルを制作することが出来る。
【実施例1】
【0025】
この発明は、PDPの他、ガラス基板に他の構造物の層が積層して形成された構造を有するFED等の種々のフラットディスプレイパネルに適用することが可能であるが、以下においては、この発明を、フラットディスプレイパネルの一つであるPDPに適用した場合の実施例を例に挙げて説明する。
【0026】
図1および2は、この発明によるフラットディスプレイパネルの実施形態における一実施例を示しており、図1はこの実施例におけるPDPの正面図、図2は図1のV−V線における断面図である。
【0027】
この図1および2において、PDPのパネル面を構成する前面ガラス基板1の内面上に、複数の行電極対(X,Y)が、それぞれ行方向(図1の左右方向)に延びるとともに列方向(図1の上下方向)に互いに平行に並設されている。
さらに、前面ガラス基板1の内面側には誘電体層2が形成されており、この誘電体層2によって行電極対(X,Y)が被覆されている。
そして、この誘電体層2の内面側には、誘電体保護層3が形成されて、この誘電体保護層3によって誘電体層2の内面が被覆されている。
【0028】
パネルの表示面となる前面ガラス基板1の外面上には、表示色の光学的調整や外光の反射防止,電磁波の遮断,近赤外線の遮断といったパネルの表示動作に係わる諸機能を備えた樹脂性の機能フィルム8が直接貼り付けられている。
【0029】
なお、前面ガラス基板1の外面側には、この機能フィルム8のみが設けられており、防護ガラス等のガラス基板の破損を防ぐ為の他の防護手段は設けられていない。
【0030】
前面ガラス基板1には、背面ガラス基板4が所要の間隔の放電空間を空けて平行に対向されており、この背面ガラス基板4の内面(前面ガラス基板1に対向する側の面)上に、列方向に延びる複数の列電極Dが、行方向に互いに所定の間隔を開けて平行に並設されている。
さらに、この背面ガラス基板4の内面上には、列電極保護層5が形成されて、この列電極保護層5によって列電極Dが被覆されている。
【0031】
この列電極保護層5上には略格子形状の隔壁6が形成されて、この隔壁6によって、放電空間が各行電極対(X,Y)と列電極Dが交差する部分毎に区画されて、それぞれ方形の放電セルCが形成されている。
この各放電セルC内には、それぞれ放電セルC毎に赤,緑,青に色分けされた蛍光体層7が形成されている。
放電空間内には、キセノンを含む放電ガスが封入されている。
ここで、実施例の説明を行う前に、上記PDPのパネル面に加わる衝撃によって前面ガラス基板1に破損が発生するメカニズムについて説明を行う。
図3は、前面ガラス基板1の表面(パネル面)に衝撃荷重Fが加わった際に前面ガラス基板1に破損(ひび割れ)が発生したときの状態を示している。
【0032】
この図3において、前面ガラス基板1の表面(パネル面)に衝撃荷重Fが加わると、前面ガラス基板1に圧縮応力γが発生し、誘電体層2には反対に引張り応力δが発生し、この引張り応力δによって、誘電体層2の隔壁6との接触部分等に、ひび割れcが生じてくる。
そして、この誘電体層2のひび割れcが前面ガラス基板1にまで拡がることによって、前面ガラス基板1が、その背面側から損傷してゆく。
【0033】
この実施例のPDPは、従来のPDPの場合と同様に、図4に示されるように、誘電体層2が前面ガラス基板1の熱膨張率よりも小さい熱膨張率を有する誘電材料によって形成されていて、PDPの製造工程における焼成工程の終了後に、前面ガラス基板1に引張り応力f1が残留し、誘電体層2に圧縮応力f2が残留している。
【0034】
この前面ガラス基板1の残留引張り応力f1と、誘電体層2の残留圧縮応力f2は、前述したような前面ガラス基板1のパネル面に加わる衝撃荷重Fによって前面ガラス基板1に発生する圧縮応力γと誘電体層2に発生する引張り応力δ(図4参照)にそれぞれ対抗することによって、誘電体層2および前面ガラス基板1に損傷が発生するのを防止するように作用する。
【0035】
ここで、誘電体層2を前面ガラス基板1の熱膨張率よりも小さい熱膨張率を有する誘電材料によって形成することのみではPDPの十分の耐衝撃性を得るには不十分であるため、この実施例のPDPは、さらに、本願発明者が実験に基づいて解明した所要の構造を備えている。
以下、この発明の発明者が行った実験とその結果に基づいて解明したパネルの耐衝撃性に関するメカニズムについて説明を行う。
先ず、図5に示される装置による硬球落下試験が行われた。
【0036】
この硬球落下試験は、PDPの前面ガラス基板S1の内面側に後述する各条件の誘電体層が形成され、外面側に図2の機能フィルム8と同様の図示しない厚さ450μmの樹脂性の機能フィルムのみが貼り付けられ、背面ガラス基板S2が重ね合わされた試験対象パネルSに対して行われた。
この試験対象パネルSの前面ガラス基板S1には、
熱膨張係数α1=83×10−7/℃
厚さt=1.8mm
の旭硝子社製PD200ガラス基板が用いられた。
【0037】
また、前面ガラス基板S1の内面側の誘電体層は、その主成分が酸化ホウ素,酸化ケイ素,酸化亜鉛で全て鉛成分を含まない誘電体材料によって形成されており、誘電体層の厚さ等の成形条件は、誘電体層を形成する誘電体材料以外は全ての試験対象パネルSにおいて同一条件とされており、構造は図1および2のPDPと同様であり、誘電体層が前面ガラス基板S1の熱膨張率よりも小さい熱膨張率を有する誘電体材料によって形成されていて、前面ガラス基板S1に引張り応力が残留し、誘電体層に圧縮応力が残留している。
【0038】
硬球落下試験は、上記の様な態様で準備された試験対象物Sを前面ガラス基板S1が上向きになるように水平に支持した状態で、上方から重さ500gの鋼球Mを所要の高さから落下させて試験対象物Sに衝突させた後、目視観察によって前面ガラス基板S1にクラックが生じているか否かを判定することによって行われた。
この硬球落下試験において、試験対象パネルSのパネル強度を示す値として、以下のような態様で相対値化が行われた。
【0039】
すなわち、鋼球Mを落下させる高さは、通常のPDPの使用で想定される最大衝撃力を加えられる高さを基準高さとし、用意された複数の試験対象パネルSに対する各硬球落下試験により、試験対象パネルSにクラックが発生しなかった最大高さを求めて、その求まった高さを基準高さで除算した値がパネル強度(実測値)とされた。
【0040】
具体的には、通常の使用で想定される最大衝撃力を受けてもクラックが発生しない耐衝撃性を有する試験対象パネルSのパネル強度(実測値)が「1以上」とされ、クラックが発生した試験対象パネルSのパネル強度(実測値)が「1未満」とされた。
【0041】
次に、試験対象パネルSの誘電体層が二種類のヤング率E(単位:GPa)と複数の熱膨張係数(単位:×10−/℃)を有する誘電体材料で形成された複数の試験対象パネルSが用意され、これらの試験対象パネルSに対して上記の落下試験がそれぞれ行われ、その結果に基づいて上記パネル強度の判定が行われて、その判定結果が、図6に示されるグラフにされた。
【0042】
この図6のグラフの結果から、試験対象パネルSの強度は、誘電体層の熱膨張係数のみではなく、誘電体層のヤング率にも相関関係を有していることが分かった。
すなわち、同一の熱膨張係数を持つ誘電体層であっても、ヤング率によっては試験対象パネルSのパネル強度、すなわち耐衝撃性が異なることが分かった。
【0043】
次に、図6の結果に基づいて、試験対象パネルSの前面ガラス基板S1の熱膨張係数α1と誘電体層の熱膨張係数α2との差α1ーα2=△αを求め、△αを横軸としてプロットし直して図7のグラフを作成した。
【0044】
この△αを横軸としたのは、後述するように、試験対象パネルSに作用する面方向の圧縮応力を考慮すると、試験対象パネルSの強度は△αの二乗に比例すると考えられたからである。
【0045】
なお、ここで、前述したように、試験対象パネルSは前面ガラス基板S1に引張り応力が残留され、誘電体層に圧縮応力が残留されていることによって、以下、全ての場合において△α>0(誘電体層の熱膨張係数α2が前面ガラス基板S1の熱膨張係数α1よりも小さい)が前提となっている。
この図7から、試験対象パネルSの強度は△αおよびヤング率と相関関係を有していることが分かった。
【0046】
次に、誘電体層がそれぞれ異なる複数のヤング率と異なる複数の熱膨張係数を有する誘電体材料によって形成された複数の試験対象パネルSが用意され、これらの試験対象パネルSに対して前述した硬球落下試験がそれぞれ行われ、その結果に基づいて前述したパネル強度の判定が行われて、その判定結果が、図8に示される横軸を1/ヤング率にしたグラフにされた。
【0047】
この図8のグラフからも、誘電体層の熱膨張係数が同一であった場合(特に、誘電体層の熱膨張係数が◆の70(×10−/℃)の場合と、■の75(×10−/℃)の場合)から、試験対象パネルSのパネル強度はヤング率と相関関係を有していることが分かった。
【0048】
以上の硬球落下試験の結果から、PDPのパネル強度は前面ガラス基板1および2の熱膨張係数のみならず、ヤング率との相関関係を有していることが分かったため、次に、PDPの十分な強度を得ることができる熱膨張係数と誘電体層のヤング率との関係の検証が行われた。
すなわち、先ず、PDPが殆ど変形しない誘電体層を備えていると仮定して、下記の関係式が導かれた。
【0049】
すなわち誘電体層のヤング率が無限大である場合でも、この誘電体層もある程度の強度を有していることを考慮すると、1/ヤング率を比例係数とした以下の関係式が成り立つ。
α2≒70(×10−/℃)の場合 K=a/E+b
α2≒75(×10−/℃)の場合 K=c/E+d
(K:パネル強度,E:ヤング率,α2:誘電体層の熱膨張係数)
上記の二つの関係式は、図8のグラフ結果にも合致している。
そして、上記二つの関係式のパラメータaとcおよびbとdの違いは、誘電体層の熱膨張係数α2の違いによるものと想定できるので、上記の二つの関係式は、
K=f(α2)/E+g(α2) …(1)
と表すことが出来る。
【0050】
一方、前述した図6のグラフから、ヤング率がほぼ同じであれば、パネル強度が誘電体層の熱膨張係数に比例することが分かっており、パネルの面方向の圧縮応力を考慮してパネル強度は前面ガラス基板の熱膨張係数と誘電体層の熱膨張係数との差△αの二乗に比例することが分かっているため、このことから、パネル強度は、
K=p△α+h(E) …(2)
と表すことが出来る。
この式(2)は、誘電体層のヤング率Eが無限大の場合には、Kは誘電体層の熱膨張係数のみの関数となるため、
K=p△α+q
と表すことが出来、さらに、この式から、前記式(1)は、
K=f(α2)/E+p△α+q …(3)
と表すことが出来る。
ここで、実際にPDPの誘電体層として適応可能であるヤング率Eの範囲は、誘電体層として必要な諸特性を得る為に当然限定される。
【0051】
このため、PDPの誘電体層として適応可能であるヤング率Eの範囲内ではその熱膨張係数によってヤング率Eのパネル強度への影響は変わらないと仮定すると、上記式(3)は、
K=r/E+p△α+q …(4)
と表される。
【0052】
そして、この式(4)に対して、図9に示される誘電体層を形成する誘電体材料の各サンプルのデータから、最小二乗法により、相関係数が最大で前述したパネル強度の実測値との差分が最小になる様に、p,q,rの各パラメータを求めると、
p=0.0018
q=−2.29
r=183.76
のそれぞれの値を求めることが出来る。
すなわち、前記式(4)は、
K=183.76/E+0.0018×△α−2.29 …(5)
と表される。
【0053】
なお、図9の誘電体層を形成する誘電体材料の各サンプルのデータに示された各サンプルの組成から、ヤング率が小さい(低ヤング率)誘電体材料は、比較的酸化亜鉛の含有量が少なく、その分、酸化ホウ素や酸化ケイ素の含有量が多い傾向にあることが分かる。
【0054】
次に、上記式(5)を検証する為、図9の誘電体材料の各サンプルに対して、縦軸を前述した硬球落下試験によるパネル強度実測値とし、横軸を式(5)から算出されるパネル強度計算値としてプロットした図10のグラフが作成された。
この図10のグラフからも、上記式(5)は妥当な式であるが理解出来た。
【0055】
そして、PDPの通常の使用で想定される最大衝撃力を受けてもクラックが発生しない耐衝撃性を有するパネル強度は、K≧1であることから、前記式(5)は、さらに、
K=183.76/E+0.0018×△α−2.29≧1
→ K=183.76/E+0.0018×△α≧3.29 …(6)
と表される。
【0056】
以上により、PDPの前面ガラス基板が、厚さt=1.8mmの場合には、上記式(6)を満たす△α(前面ガラス基板の熱膨張係数α1と誘電体層の熱膨張係数α2との差)と誘電体層のヤング率Eを有する誘電体層を選択すれば、十分な耐衝撃性を有するフラットディスプレイパネルを形成出来ることが分かった。
【0057】
すなわち、式(6)を用いて、前面ガラス基板1に対してその内面側を被覆する誘電体層2の熱膨張係数とヤング率Eを設定する様にすれば、PDPの誘電体層を形成する誘電体材料を変更する毎に耐衝撃性試験を実施する必要がなく、簡単に、そのPDPが、実用上有用なの耐衝撃性(パネル強度)を有しているか否かを判定することが出来る。
【0058】
図1および2のPDPは、前面ガラス基板1が厚さt=1.8mmでかつ熱膨張係数α1=83×10−/℃のガラス基板によって構成され、誘電体層2が上記式(6)を満たす誘電体材料によって形成されている。
【0059】
これまでの誘電体層の熱膨張係数だけの設定でパネル強度を得ようとしていたので誘電体層の熱膨張係数を小さくするほどパネル強度を大きくすることが出来たが、誘電体層の熱膨張係数があまり小さいと前面ガラス基板が大きく反ってしまい、PDPを実用に供することが出来ない。
【0060】
上記実施例のPDPは、誘電体層2の熱膨張係数だけでなくヤング率も考慮して、上記式(6)に適合した最適なヤング率Eを有する誘電体層を備えているので、比較的大きい熱膨張係数を有する誘電体層を備えていても、パネルの反り等を発生させることなく、耐衝撃性(パネル強度)を十分に得ることが可能になるとともに、誘電体層2を形成する誘電体材料の選択の範囲を広げることが出来るという効果を有する。
【0061】
上記実施例のPDPの誘電体層2のヤング率を調整する方法としては、ヤング率を小さくする場合には誘電体材料の酸化亜鉛の含有量が減らされ、その分、酸化ホウ素や酸化ケイ素の含有量を増やす方法が挙げられる。
ヤング率を大きくする場合はその逆の方法が採られる。
【0062】
なお、上記実施例のPDPにおいては、前面ガラス基板1に外面に貼り付ける機能フィルム8の厚さを450μmしたが、機能フィルム8の厚さが厚くなればなる程、パネル強度は増すので、機能フィルム8の厚さは450μm以上とするのが好ましい。
【0063】
また、上記実施例のPDPにおいて、前面ガラス基板1の熱膨張係数α1と誘電体層2の熱膨張係数α2との差△αが13以上となると前面ガラス基板1の反りが大きくなるため、前面ガラス基板1の熱膨張係数と誘電体層2の熱膨張係数との差△αが、
0<△α<13
となるように、誘電体層2を形成する誘電体材料を選択するようにするのが好ましい。
そして、上記式(6)は、PDPに限らず、FEDの様にガラス基板上に誘電体層を重ねて形成するフラットディスプレイパネル全般に適応可能である。
【実施例2】
【0064】
上記実施例1では、前面ガラス基板1の厚さがt=1.8mmの場合について行われた検証について説明を行ったが、この実施例では、前面ガラス基板1が他の厚さを有している場合について行われた検証について、説明を行う。
【0065】
先ず、三つのモデルi,ii,iii毎に、前面ガラス基板S1の厚さがt=1.8mmと2.8mmの2種類の試験対象パネルSが用意されて、硬球落下試験(図5参照)が行われ、そのときに判定されたパネル強度が図11の表にまとめられた。
【0066】
ここで、各モデルi,ii,iiiの試験対象パネルSの誘電体層は、全て図9に示された誘電体材料s(熱膨張係数:70(×10−/℃),ヤング率:62(GPa))によって形成され、それぞれのモデル毎に、前面ガラス基板S1の厚さ以外は、誘電体層の成形条件は、全て同一にされている。
【0067】
この図11の表の結果から、各モデルi,ii,iiiにおいて、それぞれ(誘電体層の厚さt=1.8mmの場合のパネル強度)/(誘電体層の厚さt=2.8mmの場合のパネル強度)の値は、前面ガラス基板S1の厚さの比「1.8/2.8=0.64」と略等しいこと、すなわち、パネル強度は前面ガラス基板S1の厚さに比例することが分かった。
前記実施例1における式(5)においてt=1.8mmの場合を
K(1.8)=183.76/E+0.0018×△α−2.29 …(7)
とすれば、
図11の結果から、パネル強度は前面ガラス基板1の厚さに比例するので、Kは前面ガラス基板1の厚さtの関数として
K(t)=K(1.8)×t/1.8
=(183.76/E+0.0018×△α−2.29)
×t/1.8 …(8)
とパネル強度を表すことができる。
PDPが、通常の使用状態で想定される最大衝撃力を受けてもクラックが発生しない耐衝撃性を有するパネル強度はK≧1であるから、上記式(8)は、
K(t)=(183.76/E+0.0018×△α−2.29)
×t/1.8≧1 …(9)
となる。
【0068】
以上により、PDPの前面ガラス基板1の厚さtが1.8mm以外の場合であっても、式(9)を満たす前面ガラス基板1の熱膨張係数α1と誘電体層2の熱膨張係数α2の差△αおよび誘電体層のヤング率Eを選択すれば、従来よりもより十分な耐衝撃性を有するPDPを制作することが出来る。
そして、上記式(9)は、PDPに限らず、FEDの様にガラス基板上に誘電体層を重ねて形成するフラットディスプレイパネル全般に適応可能である。
【0069】
上記各実施例のPDPは、内面側が誘電体材料によって形成された誘電体層によって被覆されている前面ガラス基板と、この前面ガラス基板に重ね合わされた背面ガラス基板を備えたフラットディスプレイパネルであって、前記前面ガラス基板と誘電体層の熱膨張係数および誘電体層のヤング率が、
(183.76/E+0.0018×△α−2.29)×t/1.8≧1
E:誘電体層のヤング率(GPa)
△α(>0): 前面ガラス基板の熱膨張係数α1と誘電体層の熱膨張係数α2の差α1−α2(×10−7/℃)
t:前面ガラス基板の厚さ(mm)
の式を満たしている実施形態のフラットディスプレイパネルを、その上位概念の実施形態としている。
【0070】
この実施形態によるフラットディスプレイパネルによれば、前面ガラス基板の熱膨張率が誘電体層の熱膨張率よりも大きくなるように設定されていて、前面ガラス基板内に引張り応力が残留され、誘電体層内に圧縮応力が残留されており、さらに、前面ガラス基板と誘電体層の熱膨張係数および誘電体層のヤング率が、上記の式を満たす誘電体材料によって誘電体層を形成すれば、十分な耐衝撃性を有するフラットディスプレイパネルを制作することが出来る。
【0071】
そして、上記式を用いて、前面ガラス基板に対してその内面側を被覆する誘電体層の熱膨張係数とヤング率Eを設定する様にすれば、フラットディスプレイパネルの誘電体層を形成する誘電体材料を変更する毎に耐衝撃性試験を実施する必要がなく、簡単に、そのフラットディスプレイパネルが、実用上有用な耐衝撃性(パネル強度)を有しているか否かを判定することが出来るようになる。
【図面の簡単な説明】
【0072】
【図1】この発明の実施形態における一実施例を示す正面図である。
【図2】図1のV−V線における断面図である。
【図3】PDPにおけるパネル面への衝撃荷重による破損の発生の状態を示す説明図である。
【図4】同実施例における前面ガラス基板と誘電体層の残留応力の状態を示す説明図である。
【図5】硬球落下試験の説明図である。
【図6】パネル強度と熱膨張率とヤング率の関係を示すグラフである。
【図7】パネル強度と熱膨張率の差の二乗とヤング率の関係を示すグラフである。
【図8】パネル強度と熱膨張率と1/ヤング率の関係を示すグラフである。
【図9】誘電体材料のガラス組成を示す表図である。
【図10】パネル強度の実測値と計算値との関係を示すグラフである。
【図11】前面ガラス基板の厚さとパネル強度との関係を示す表図である。
【符号の説明】
【0073】
1 …前面ガラス基板(ガラス基板)
2 …誘電体層
8 …機能フィルム
S …試験対象物
S1 …前面ガラス基板
M …鋼球
F …衝撃荷重
f1 …残留引張り応力
f2 …残留圧縮応力

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内面側が誘電体材料によって形成された誘電体層によって被覆されている前面ガラス基板と、この前面ガラス基板に重ね合わされた背面ガラス基板を備えたフラットディスプレイパネルであって、
前記前面ガラス基板と誘電体層の熱膨張係数および誘電体層のヤング率が、
(183.76/E+0.0018×△α−2.29)×t/1.8≧1
E:誘電体層のヤング率(GPa)
△α(>0): 前面ガラス基板の熱膨張係数α1と誘電体層の熱膨張係数α2の差α1−α2(×10−7/℃)
t:前面ガラス基板の厚さ(mm)
の式を満たしていることを特徴とするフラットディスプレイパネル。
【請求項2】
前記△αの値が13(×10−7/℃)未満であることを特徴とする請求項1に記載のフラットディスプレイパネル。
【請求項3】
前記前面ガラス基板の外面側に樹脂性のフィルムのみが貼り付けられていることを特徴とする請求項1に記載のフラットディスプレイパネル。
【請求項4】
前記樹脂性のフィルムの厚さが450μm以上であることを特徴とする請求項3に記載のフラットディスプレイパネル。
【請求項5】
前記誘電体層が、鉛成分を含んでいない誘電体材料によって形成されることを特徴とする請求項1に記載のフラットディスプレイパネル。
【請求項6】
前記前面ガラス基板の厚さが1.8(mm)のとき、前面ガラス基板と誘電体層の熱膨張係数および誘電体層のヤング率が、
183.76/E+0.0018×△α≧3.29
E:誘電体層のヤング率(GPa)
△α(>0):前面ガラス基板の熱膨張係数α1と誘電体層の熱膨張係数α2の差α1−α2(×10−7/℃)
の式を満たしていることを特徴とする請求項1に記載のフラットディスプレイパネル。
【請求項7】
前記前面ガラス基板と誘電体層が、プラズマディスプレイパネルのパネル面を構成する前面ガラス基板と誘電体層であることを特徴とする請求項1に記載のフラットディスプレイパネル。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2010−27267(P2010−27267A)
【公開日】平成22年2月4日(2010.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−184655(P2008−184655)
【出願日】平成20年7月16日(2008.7.16)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】