説明

フラップまたはドアをスプリングで支援して旋回する装置を車両に取り付ける方法

【課題】簡単で、迅速かつ確実に、フラップまたはドアをスプリングで支援して旋回する装置を車両に取り付けることができるようにする。
【解決手段】フラップまたはドア8の取り付け位置Cの近傍の調整可能な所定位置において連結ロッド7を一時的に固定するステップと、フラップ又はドア8を、取り付け位置Cより上方の開放位置Bまたは中間位置Dに保持するステップと、車両11に前記装置16を配置するステップと、フラップまたはドア8を、開放位置Bまたは中間位置Dから取り付け位置Cへと徐々に下降させて、連結ロッド7を有するヒンジレバー9に結合するステップと、前記連結ロッド7の一時的な固定を解除するステップとを含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スプリングで支援する装置、特に、トーションバー機構から車両に導入するトルクに影響を及ぼす手段を有し、重力に抗して、閉鎖位置と開放位置との間におけるフラップまたはドアの回転をトーションバー機構で支援する装置を、車両に取り付ける方法に関する。
【背景技術】
【0002】
冒頭の装置は、自動車の構造において、閉鎖位置と開放位置との間で、重力に抗して、フラップまたはドアを旋回運動させるときの操作力を低減することに使用され、必要に応じて、フラップまたはドアを、1つまたは複数の開放位置で自己保持することにも使用される。
【0003】
国際公開第2010/025817号には、様々な種類の、フラップまたはドアをスプリングで支援して旋回する装置が示されている。
例として、トーションバー機構において、複数のトーションバーを、平行かつ蛇行状に配置し、プレストレスを与えて互いに回転不能に結合した、同号国際公開の図1に記載の実施の形態について説明する。
ここでは、外側のトーションバーのうち一方を、軸受台の中に回転不能に配置し、他方の外側のトーションバーを、長さ可変式レバーの一端に回転不能に結合している。この長さ可変式レバーの他端は、制御リンク機構により案内されるとともに、旋回運動が可能なフラップまたはドアに結合されたヒンジレバーに並進運動を伝達できる連結ロッドに係合されている。この制御リンク機構の中を案内される長さ可変式レバーにより、フラップまたはドアの開放角度に応じて、フラップまたはドアの重量によるトルクとは反対方向に作用するトルクを、フラップ又はドアに結合されたヒンジレバーに導入することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開第2010/025817号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、上記従来技術では、フラップまたはドアをスプリングで支援して旋回するこの種の装置を、車両に取り付けるための好ましい方法が開示されていない。
このような場合、特に、ばね式アキュムレータによるプレストレスが与えられた装置の確実な取り扱いが困難であることが判明している。
【0006】
したがって、本発明の課題は、簡単で、迅速かつ確実に、フラップまたはドアをスプリングで支援して旋回する装置を車両に取り付けることができる方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題は、請求項1に記載の特徴部分によって解決される。
すなわち、本発明の方法は、閉鎖位置と開放位置との間で、重力に抗して、フラップまたはドアをスプリングで支援して旋回する装置を車両に取り付ける方法であって、
少なくとも1つのばね式アキュムレータと、当該ばね式アキュムレータに結合され、当該ばね式アキュムレータからトルクを導入する追従リンク機構とを備え、
フラップまたはドアに取り付けられ、かつ車体側に結合されたヒンジレバーを、前記追従リンク機構の連結ロッドにより回転操作可能とする方法であって、
フラップまたはドアの取り付け位置の近傍の調整可能な所定位置において連結ロッドを一時的に固定するステップと、
フラップ又はドアを、取り付け位置より上方の開放位置または中間位置に保持するステップと、
車両に前記装置を配置するステップと、
フラップまたはドアを、開放位置または中間位置から取り付け位置へと徐々に下げて、連結ロッドを有するヒンジレバーに結合するステップと、
前記連結ロッドの一時的な固定を解除するステップと、
を含むことを特徴とする。
【0008】
上記のフラップまたはドアをスプリングで支援して旋回する装置を車両に取り付ける方法を適用することにより、前記装置を車両の外側にほぼ完全に取り付けることが可能とされる。
これにより、車両のボディの制限された取り付けスペースへの取り付けが簡単となり、その結果、予めプレストレスが与えられた装置や前調整されたばね式アクチュエータとを共に利用可能とすることができる。そのため、連結ロッドは、所定位置において間接的または直接的に固定される。連結ロッドの所定位置は、取り付け位置において、この連結ロッドに結合されたフラップまたはドアが占める位置に相当する。
なおかつ、車両について、亜鉛めっきや塗装などの製造工程を、フラップまたはドアをすでに固定した状態で進めることができるため、フラップまたはドアを残りのボディと同様に取り扱うことができる。
【0009】
上記課題を解決するために、フラップまたはドアは、両側に配設されたヒンジレバーを介して、車体側で旋回可能となるように車両のボディに取り付けられる。
続いて、前記装置を車両に取り付けるために、フラップまたはドアは、その開放位置、または取り付け位置と開放位置との間の中間位置へと旋回されてから保持される。
続いて、予め製造された前記装置が車両に取り付けられて固定される。
続いて、フラップまたはドアを、取り付け位置へと徐々に下降させることにより、各ヒンジレバーが対応する連結ロッドに接触し、当該ヒンジレバーを連結ロッドに連結することができる。
続いて、連結ロッドの固定を解放することで装置が解除され、ばね式アキュムレータによりフラップまたはドアの支持が引き継がれる。
【0010】
ばね式アキュムレータから伝達されたトルクは、追従リンク機構により適切に調整されてヒンジレバーに導入され、開放角度に応じたフラップまたはドアの重量によるトルクとは反対方向に作用するトルクに変換される。
【0011】
追従リンク機構の好ましい実施の形態では、例えば、旋回経路に沿った各位置において、フラップまたはドアの自己保持が可能となる。
またドアとしては、シザーズドアなどのように、車両の横へ水平に延びる回転軸周りに旋回可能なドアが特に好適である。
【0012】
好ましい実施の形態では、取り付け位置は、閉鎖位置と開放位置との間において、フラップまたはドアの開放角度が半分になる位置に相当する。
またフラップまたはドアの開放角度が半分になる位置を取り付け位置としたとき、取り付け位置において、前記装置のばね式アキュムレータが、2つの旋回方向について同じ保持力を発生するように形成されていることが好適である。通常は、この取り付け位置は、フラップまたはドアの支援に必要な最大トルクを有する位置に相当する。
【0013】
好ましい実施の形態では、連結ロッドを固定するために、安全ピンが追従リンク機構の中に挿入可能とされる。
追従リンク機構の中に安全ピンを挿入して連結ロッドを間接的または直接的に固定することにより、ヒンジレバーを連結ロッドに係合した後、安全ピンを引き抜き、迅速に固定を解放することができる。この安全ピンは、車両の内部からの容易な接触を担保できるように配設されることが好適である。
【0014】
好ましい実施の形態では、ばね式アキュムレータが、平行かつ蛇行状に配設され、互いに回転不能に結合された複数のトーションバーからなるトーションバー機構として形成されている。
加えて、トーションバー機構において、直線状のトーションバーは、端部側に配設された結合要素に形状嵌合式または材料結合式に結合されていることが好適である。
この結合要素は、フラップまたはドアの取り付け位置に配設され、予めねじりを加えられたトーションバー機構で、本質的に水平な均一のねじり角度を有する平面内で、両方向へ向けられて配置されていることが好適である。
【0015】
前記トーションバー機構に結合される追従リンク機構は、スライドブロック装置の制御曲線により長さが可変とされるレバーを有することが好適であり、この長さ可変式レバーは、トーションバーに対して回転不能に結合され、スライドブロック装置において、連結ロッドに直接係合されることが好適である。
【0016】
前記スライドブロック装置は、長さ可変式レバーが前記スライドブロック装置上を移動可能となるような滑り面が形成されている。またスライドブロック装置は、制御曲線で案内されるローラを支持している。
【0017】
さらに、前記追従リンク機構は、レバートーションバーおよび軸受トーションバーを支持する軸受台を有している。加えて、この軸受台は、部品を保護するためのハウジングとしての機能を果たす。
このようにして、ばね式アキュムレータおよび追従リンク機構を形成することにより、装置を特にコンパクトに製造でき、取り付けスペースを活用する上で有利となり、車両に取り付ける際の負担が軽減される。
【0018】
好ましい実施の形態では、トーションバー機構のプレストレスの影響を及ぼすことができる調整装置が、軸受トーションバーに対して回転不能に配設されている。
この調整装置によって、装置を車両に取り付けた後であっても、トーションバー機構のプレストレスの調整が可能とされ、これにより、例えば、部品の製造許容差や、様々に変化するフラップもしくはドアの重量によるトルクを補償することができる。
【0019】
好ましい実施の形態では、安全ピンにより、長さ可変式レバーが軸受台に固定される。安全ピンにより、長さ可変式レバーを軸受台に固定することにより、連結ロッドの間接的な固定を特に簡単に行うことができる。
プレストレスを与えられたばね式アキュムレータから伝達されたトルクは、特に、すでに非常に早い時点で力路に沿って追従リンク機構により捕捉されるため、プレストレスを与えられた装置の保管および輸送中において、後置された部品は、広範囲において力がかかっていない状態にとどめられる。
【0020】
好ましい実施の形態では、車両のルーフ領域内に、2台の装置が左右対称に配設され、各ヒンジレバーがフラップの周縁領域に係合される。
ルーフ領域内に2台の装置が左右対称に配置されることにより、フラップ、例えば後部フラップを、取り付けスペースを利用して目立たないように取り付けることができ、均一な支持を行うことができる。
【発明の効果】
【0021】
本発明の方法によって、フラップまたはドアをスプリングで支援して旋回する装置を、車両のボディの制限された取り付けスペースへ簡単に取り付けることができることから、予めプレストレスが与えられた装置や前調整されたばね式アクチュエータを、共に車両の取り付けに利用可能とすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】フラップのばねアシスト式旋回のための組み込まれた装置を備えた車両の側面図である。
【図2】フラップまたはドアをスプリングで支援して旋回する装置の追従リンク機構の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
図1は、後部フラップとして形成されたフラップ8をスプリングで支援して旋回する装置16を車両11に取り付けた状態を示している。
後部フラップ8は、車両11の両側に配設されたヒンジレバー9を介して、車両11のボディのルーフ領域に旋回可能に取り付けられる。
閉鎖位置Aでは、後部フラップ8により、車両11のボディへの搭載用の開口部が閉鎖され、一方、開放位置Bでは、この開口部を開放するため、開放角度αだけ後部フラップ8が旋回されて開放される。
ヒンジレバー9に取り付けられた後部フラップ8を旋回する2台の装置16が、同様に車体のルーフ領域に配設されている。
【0024】
図2は、前記装置16をより詳細に示しており、前記装置16は、ばね式アキュムレータとしてのトーションバー機構1と、トーションバー機構1から伝達された回転トルクを、ヒンジレバー9より導入され、後部フラップ8の重量によるトルクとは反対方向に作用するトルクに変換するために接続された追従リンク機構3とを有する。
そのため、追従リンク機構3は、連結ロッド7でヒンジレバー9に係合される。
続いて、車両11の中に装置16を取り付けるために、後部フラップ8は、まず取り付け位置Cと開放位置Bとの間の中間位置Dに移動される。この取り付け位置Cは、後部フラップ8の開放角度αの半分の位置および/または最大反対トルクをもつ位置に相当する。
続いて、プレストレスを予め与えた装置16を所定位置に固定した後、車両11のルーフ領域に固定する。
続いて、後部フラップ8の取り付け位置Cにおいて連結ロッド7が各ヒンジレバー9に接触するように、装置16が固定される。
続いて、連結ロッド7およびヒンジレバー9が互いに結合され、少なくとも1つの装置16の固定が解放される。
【0025】
図2に示すように、フラップまたはドアをスプリングで支援して旋回する装置16は、本質的に、トーションバー機構1と、トーションバー機構1に結合された調整装置2を備える追従リンク機構3とから構成される。
トーションバー機構1は、平行かつ蛇行状に配置され、結合要素15を介して、互いに回転不能に結合された複数のトーションバー1a、1bおよび1cから形成される。
外側のトーションバー1aおよび1cは、内側のトーションバー1bよりもいくらか長く形成されており、これにより、トーションバー1a,1cは、追従リンク機構3の軸受台4の中へ突出させることができる。この軸受台4は、外側のトーションバー1aおよび1cを対応する軸受座の中に支持するとともに、追従リンク機構3のその他の部品のハウジングを形成している。
【0026】
また長さ可変式レバー6は、一方側がレバートーションバー1aに回転不能に結合され、他方側がスライドブロック装置17を介して制御曲線5によって案内される。
スライドブロック装置17は、長さ可変式レバー6のスライドレール20上で縦方向に移動可能に支持されたスライドブロック17aと、前記スライドブロック17aに回転可能に配設されたローラ17bとから構成されている。このローラ17bは、ほぼ遊びなしで制御曲線5に沿って案内され、これにより、ローラ17bが制御曲線5の輪郭に追従して、スライドブロック17aをスライドレール20に沿って移動させる。
【0027】
別の方法では、長孔を用いたり、または、長さ可変式レバー6の表面もしくは内側においてスライドブロック17aを弾性的に支持したりすることによっても、スライドブロック17aの移動を達成することができる。
さらに、スライドブロック17aには、シーリングスリーブ18で密閉され、軸受台4より外へと導出される連結ロッド7が係合される。
また、長さ可変式レバー6は、挿入可能な安全ピン19により、軸受台4に対して一時的に固定することができる。
【0028】
調整装置2の調整レバー10は、その一端で軸受トーションバー1cに回転不能に結合され、その他端でクランプ山形材12に回転不能に結合されている。このクランプ山形材12は、屈曲部分12aで軸受台4の下側まで延ばされている。
屈曲部分12aは、特に、調整ねじ13を作動させることで、調整レバー10の回転を調整することが可能とされるとともに、結果として、トーションバー機構1のねじりを変化させることが可能なように、軸受台4に調整ねじ13が支持されている。
【符号の説明】
【0029】
α 開放角度
A 閉鎖位置
B 開放位置
C 取り付け位置
D 中間位置
1 トーションバー機構
1a レバートーションバー
1b 内側のトーションバー
1c 軸受トーションバー
2 調整装置
3 追従リンク機構
4 軸受台
5 制御曲線
6 長さ可変式レバー
7 連結ロッド
8 フラップまたはドア
9 ヒンジレバー
10 調整レバー
11 車両
12 クランプ山形材
12a 屈曲部分
13 調整ねじ
15 結合要素
16 スプリングで支援して旋回する装置
17 スライドブロック装置
17a スライドブロック
17b ローラ
18 シーリングスリーブ
19 安全ピン
20 スライドレール


【特許請求の範囲】
【請求項1】
閉鎖位置(A)と開放位置(B)との間で、重力に抗して、フラップまたはドア(8)をスプリングで支援して旋回する装置(16)を車両に取り付ける方法であって、
少なくとも1つのばね式アキュムレータ(1)と、当該ばね式アキュムレータ(1)に結合され、当該ばね式アキュムレータ(1)からトルクを導入する追従リンク機構(3)とを備え、
フラップまたはドア(8)に取り付けられ、かつ車体側に結合されたヒンジレバー(9)を、前記追従リンク機構(3)の連結ロッド(7)により回転操作可能とする方法であって、
フラップまたはドア(8)の取り付け位置(C)の近傍の調整可能な所定位置において連結ロッド(7)を一時的に固定するステップと、
フラップ又はドア(8)を、取り付け位置(C)より上方の開放位置(B)または中間位置(D)に保持するステップと、
車両(11)に前記装置(16)を配置するステップと、
フラップまたはドア(8)を、開放位置(B)または中間位置(D)から取り付け位置(C)へと徐々に下降させて、連結ロッド(7)を有するヒンジレバー(9)に結合するステップと、
前記連結ロッド(7)の一時的な固定を解除するステップと、
を含むことを特徴とする方法。
【請求項2】
取り付け位置(C)が、閉鎖位置(A)と開放位置(B)との間において、フラップまたはドア(8)の開放角度(α)が半分になる位置に相当すること
を特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
連結ロッド(7)を固定するために、追従リンク機構(3)の中に安全ピン(19)を挿入可能であること
を特徴とする請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
ばね式アキュムレータ(1)を、平行かつ蛇行状に配設し、互いに回転不能に結合した複数のトーションバー(1a、1b、1c)からなるトーションバー機構として形成したこと
を特徴とする請求項1ないし3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
追従リンク機構(3)が、制御カム(5)で案内される長さ可変式レバー(6)を有し、
前記長さ可変式レバーを、レバートーションバー(1a)に回転不能に結合し、かつ連結ロッド(7)に係合したこと
を特徴とする請求項1ないし4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
追従リンク機構(3)が、レバートーションバー(1a)および軸受トーションバー(1c)を支持する軸受台(4)を有すること
を特徴とする請求項1ないし5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
トーションバー機構(1)のプレストレスの影響を及ぼすことができる調整装置(2)を、軸受トーションバー(1c)に対して回転不能に配設したこと
を特徴とする請求項6に記載の方法。
【請求項8】
安全ピン(19)により、長さ可変式レバー(6)を軸受台(4)に固定すること
を特徴とする請求項3ないし7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
車両(11)のルーフ領域内に、2台の装置(16)を左右対称に配設し、各ヒンジレバー(9)をフラップ(8)の周縁領域に係合すること
を特徴とする請求項1ないし8のいずれか1項に記載の方法。


【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−1207(P2012−1207A)
【公開日】平成24年1月5日(2012.1.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−133764(P2011−133764)
【出願日】平成23年6月16日(2011.6.16)
【出願人】(591006586)アウディ アクチェンゲゼルシャフト (34)
【氏名又は名称原語表記】AUDI AG
【住所又は居所原語表記】D−85045 Ingolstadt,Germany