説明

フラボノイド合成系の制御による黄色の花の作製方法

例えば、配列番号:2または配列番号70に示すアミノ酸配列をコードする遺伝子を提供する。この4’CGT遺伝子とAS遺伝子を、本来オーロン類合成能のない植物において共発現することにより、オーロン類を蓄積することに成功し、花色が黄色味を帯びた色に変化した。さらに、両遺伝子の発現に加えて、宿主植物自身のフラボノイド色素合成系を制御することで、より鮮明な黄色の花を得ることができた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
本発明はカルコン類に糖を転移する活性を有するタンパク質をコードする遺伝子、および当該遺伝子を利用して花色が変換された植物に関するものである。更に詳しくは、カルコン類の4’位配糖体を合成する活性を有するタンパク質をコードする遺伝子、好ましくはゴマノハグサ科由来の、より好ましくはキンギョソウあるいはリナリア由来のカルコン類の4’位配糖体を合成する活性を有するタンパク質をコードする遺伝子、及びこれらの遺伝子とオーレウシジン合成酵素(以下、ASという)遺伝子を単独または同時に発現させカルコン類またはオーロン類を蓄積させることにより花の色を改変する手法、好ましくは黄色く改変する手法に関するものである。
【背景技術】
花色は人が花卉を鑑賞あるいは購入する際に重要な形質であり、古くから様々な色の花が育種されてきた。単一の種ですべての色の花をもつ場合はむしろ稀であるが、これは花色として発現する色素の生合成が遺伝的に規定されていることによる。交配育種では利用できる遺伝子資源が交配可能な近縁種に限定されているため、交配によって目的の種においてすべての色の花を作ることは実質的に不可能であった。最近になって、遺伝子組換え技術を利用して、花色素を合成する遺伝子をある植物から取得し、当該遺伝子を別の種で発現することにより花の色を改変することが可能となった(Plant Cell Physiol.39,1119(1998)、Curr.Opin.Biotechnol.12,155(2001))。
花の色のうち、橙、赤、紫、青は主にアントシアニンと総称されるフラボノイドに由来する。黄色は、カロチノイド、ベタレインといったフラボノイド以外の化合物に由来することが多いが、一部の植物種の黄色はフラボノイドに由来する。たとえば、黄色カーネーションには4,2’,4’,6’−テトラヒドロキシカルコン(以下THC)の2’位配糖体が花弁中に存在することが知られている(Phytochemistry 5,111(1996))。また、キンギョソウ、リナリアにはTHCの4’位配糖体が存在する。
カルコン類としては、THCのほか、ブテイン、イソリクイチゲニン等及びこれらの誘導体の配糖体が知られており、カーネーション、アサガオ、ボタン、アスター、ムギワラギク、ニチニチソウ、シクラメン、ペチュニアはTHC、キンギョソウやスターチスは3,4,2’4’,6’)−ペンタヒドロキシカルコン(PHC)、コスモス、キクイモはブテイン、ダリアはブテインおよびイソリクイチゲニンをアグリコンとする配糖体を含んでいる。また、キンギョソウ、リナリア、アサガオなどの限られた種にはオーレウシジン(以下AU)、ブラックテアチンなどのオーロン類と呼ばれる黄色の花色素が存在する。
オーロンの吸収極大は399nmから403nmであるのに対し、カルコンの吸収極大は372nmから382nmであるから、両者の色調は異なり、蛍光のためオーロンのほうが鮮やかな黄色を呈する(バイオホルティ 1 49−57(1990)誠文堂新光社)。一般にカルコン類、オーロン類、アントシアニンは植物細胞中では配糖体として液胞中に蓄積する。アントシアニンの生合成経路はよく研究されており、アントシアニンの合成に関与する酵素やそれらをコードする遺伝子が知られている(Comprehensive Natural Products Chemistry,vol I(ed.Sankawa)pp713−748,Elsevier,Amsterdam(1999))。
フラボノイドの生合成経路は高等植物には広く存在しており、また、種間で共通している。THCは、3分子のマロニルCoAと1分子のクマロイルCoAからカルコン合成酵素の触媒作用により生合成される。THCは薄い黄色を呈するが、植物細胞内では、通常カルコン異性化酵素(CHI)により速やかに無色のナリンゲニンに変換される。また、THCは中性付近のpHではきわめて不安定であり、自発的に閉環してナリンゲニンに変換する。THCが植物細胞中で安定に存在、すなわち黄色を安定に呈するためには、THCの2’位が糖により修飾され閉環できなくなることが必要である。この反応はTHCの2’位にグルコースを転移する酵素(UDP−グルコース:4,2’,4’,6’−テトラヒドロキシカルコン2’位−糖転移酵素 以下2’CGT)により触媒される。
THC2’位配糖体はカーネーション、シクラメンなどに存在することから、2’CGTもこれらの花に存在すると予測される。したがって、2’CGT遺伝子を得る事ができれば、この酵素遺伝子を植物において発現し、THC2’位配糖体を蓄積させ、黄色の花を作成できると考えられていた(Biotechnology of Ornamental Plants,Edited by Geneve,Preece and Merkle,pp259−294,CAB International Wallingford,UK(1997))。また、THC2’位配糖体を十分蓄積し黄色を発色させるためにはCHI遺伝子が欠損し、THCからナリンゲニンへの酵素的変換が抑制されること、さらに明瞭な黄色の発色のためにはCHI遺伝子と他にフラバノン3−水酸化酵素(以下、F3Hという)遺伝子も欠損する必要があることが知られていた(Plant Cell Physiol.43,578(2002))。
これまでにカーネーションの2’CGT遺伝子をクローニングしたという報告はある(Plant Cell Physiol.44,s158(2003))がその配列は開示されていない。また、カーネーションから2’CGT活性をコードする遺伝子を取得し、ペチュニアで発現させ、ペチュニア花弁においてTHC2’位配糖体を蓄積した例もある(PCT/JP03/10500)。しかしながら、2’CGTによって生成するTHC2’位配糖体は、その化学構造上、オーロン合成の前駆体となることが不可能となる。また、前述のようにTHC2’位配糖体の蓄積では、うすい黄色の花弁にしかならない。
THCの2’位の水酸基がメチル化された化合物が蓄積した場合も花弁は淡い黄色となることは知られているが、このメチル化を触媒する酵素やその遺伝子の実体は知られていない。ダリア、コスモスなどの黄色の品種には6’−デオキシカルコンが含まれる。マメ科植物においては、6’−デオキシカルコンは5−デオキシフラボノイドの前駆体であり、カルコンシンターゼ(CHS)とカルコンリダクターゼ(CHR)の触媒作用により生合成される。ペチュニアにアルファルファのCHR遺伝子を導入したところ、ブテインなどの6’−デオキシカルコン類が生成したことが報告されているが、当該CHR遺伝子を白い花をもつペチュニアに導入した場合、つぼみの段階ではごく薄い黄色が見られたが、開花時にはほとんど白であり、産業上有用な黄色の花を作出するに至らなかった(Plant J.13,259(1998))。
前述のようにカルコン配糖体よりもオーロンのほうが鮮やかな黄色を呈するため、オーロンを蓄積させる方法を開発できれば産業上きわめて有用である。オーロンの生合成に関わる酵素の1つであるASとその遺伝子については既に報告されている(Science,290,1163(2000))。この報告によればASはTHC、PHCや、これらの配糖体を基質としてAU、ブラクテアチンならびにこれらの配糖体を生成する。しかしながら、AS遺伝子を用いてAUやブラックテアチンなどのオーロンを生物において蓄積させた報告はない。
我々はAS遺伝子を構成的プロモーターの制御下に結合したバイナリーベクターを構築し、アグロバクテリウム法によりペチュニアやトレニアにAS遺伝子を導入したが、オーロンの蓄積は認められなかった。一方、アントシアニジンの3位の配糖化がアントシアニンの液胞への移行に必須であると報告されているが(Nature 375,397(1995))、これと同様にオーロンの配糖化が液胞への移行シグナルとして必須である可能性が考えられる。実際に黄色キンギョソウ花弁に蓄積している主要なオーロンはAUの6位の配糖体である。そこで、AUの6位に配糖化活性を示すGT(AU6GT)を取得し(WO 00/49155)、このAU6GT遺伝子とAS遺伝子を共にペチュニアで構成的に発現させたが、オーロンの蓄積は見られなかった。
フラボノイドやアントシアニンの生合成に関与する酵素は細胞内では細胞質か小胞体に存在すると考えられている。これらの酵素の働きでフラボノイドやアントシアニンは液胞の外側、すなわち細胞質側で合成され、配糖化された後、液胞に輸送される(Natural Product Reports 20,288,(2003))。ところが、鋭意検討の結果、ASは例外的に液胞内に存在することを本発明者らは明らかにした。このことから生体内では、配糖化されたカルコンが液胞に輸送され、これを基質として液胞内でオーロンが合成されるのではないかという着想を得た。
前述のように黄色キンギョソウ花弁の液胞に蓄積する主要なオーロンはAU 6位配糖体である。AUの6位はTHCの4’位に対応し、黄色キンギョソウ花弁にはTHC4’配糖体も存在する。これらに基づき、細胞質で合成されたTHCの4’位が配糖化された後、液胞に輸送され、それを基質としてASによってAU6位配糖体が合成されるという一連のオーロン合成経路を推測するにいたった。よってAU6位配糖体などのオーロンを異種植物で合成させるためには、THC4’位配糖体を合成することが必須であると考えた。そのためには、THCの4’位を配糖化するUDP−グルコース:4,2’,4’,6’−テトラヒドロキシカルコン4’位糖転移酵素、以下4’CGT)が必要であり、4’CGT遺伝子を取得する必要がある。しかしながら、4’CGT遺伝子は今までにクローニングされた報告もなく、4’CGTが単離された報告もない。
フラボノイドをはじめ多様な化合物の配糖化反応を触媒して配糖体を生成する酵素は、一般に糖転移酵素(GT)と呼ばれ、植物は、基質及び転移する糖の種類に対応した多様な分子種のGTおよびそれらをコードする遺伝子を持っている。GTは通常UDP−グルコースをグルコース供与体として利用するので、そのアミノ酸配列中にUDP−グルコースに結合するモチーフを含んでいる(Plant Physiol.112,446(2001))。このモチーフを有するGT遺伝子は、すでにゲノムの全構造が明らかになっているアラビドプシスには99種あることが知られている(J.Biol.Chem.276,4338,(2001))。
また他の植物からも、いくつかのGTのアミノ酸配列と機能が解明されている。フラボノイドあるいはアントシアニジンの3位の水酸基に糖を転移する反応を触媒する酵素(UDP−グルコース:フラボノイド3−糖転移酵素、以下3GT)の遺伝子は、シソ、トウモロコシ、リンドウ、ブドウなどから得られている(J.Biol.Chem.274,7405(1999);J.Biol.Chem.276,4338,(2001))。また、アントシアニンの5位の水酸基に糖を転移する反応を触媒する酵素(UDP−グルコース:アントシアニン5−糖転移酵素、以下5GT)の遺伝子は、シソ、バーベナなどから得られている(J.Biol.Chem.,274,7405,(1999))。
3GTや5GTのアミノ酸配列の解析から、同一機能を有するGTは植物種が異なっていてもアミノ酸配列は類似していること、すなわちファミリーを形成することが知られている(J.Biol.Chem.276,4338,(2001))。よって、既知のGTと同一機能を有する酵素(オルソログ)を他の植物種から得る事は、現在の技術水準からすれば困難ではない。たとえば、ペチュニアの5GT遺伝子は、シソの5GT遺伝子を用いてクローニングされた(Plant Mol Biol.48,401(2002).)。しかしながら、同一の機能を有する酵素が全く得られていない新規GT遺伝子の取得には多大の試行錯誤と困難が伴う。
前述のように全ゲノム構造が明らかになっているアラビドプシスであるが、その花弁は白く、カルコン4’位配糖体の蓄積は報告されていない。したがって、アラビドプシスのGT遺伝子の情報を利用して4’CGT遺伝子のクローニングを行うことはできない。また、カーネーションから2’CGTが単離(PCT/JP03/10500)されているが、4’CGT遺伝子と2’CGTの相同性が高いことは必ずしも期待できない。なぜならば、基質が共通であっても糖を付加する位置が異なれば、それぞれのGTの生化学的および分子生物学的特性は大きく異なる可能性が考えられるからである。これは、3GTと5GTが別のGTファミリーに属することによっても支持される。また、ベタニジンの5GTと6GTは基質が共通にも関わらず、アミノ酸同一性は19%しかないことが報告されている(Planta 214,492(2002))。
事実、共通のアントシアニジン骨格の3位、5位または3’位に糖を転移する各GTは、GTスーパーファミリーの中の異なるファミリーに属し、これらのファミリー間のアミノ酸同一性は20%程度に過ぎない(Plant Physiol.132,1652,(2003),Natural Product Reports 20,288,(2003))。4’CGT遺伝子のみならず、新規の遺伝子を取得するには一般にいくつかの方法が考えられる。たとえば花弁で発現しているバラの香り成分の合成に関与する酵素の遺伝子は、遺伝子を網羅的に配列決定し、それらの構造、発現様式、大腸菌での発現によって同定された(Plant Cell.14,2325(2002))。そこで4’CGT遺伝子を同定するためにオーロンおよびカルコン4’配糖体を蓄積する黄色キンギョソウ(品種バタフライイエロー)花弁由来のcDNAライブラリーからランダムに5000クローンを選び、これらの塩基配列を決定した。
公知のDNAデータベースを用いたホモロジー検索の結果、3種のGT遺伝子が得られた。そのうち2種は3GT遺伝子および前述の、AU6GTをコードする遺伝子(WO00/49155)、残る1種が新規GT(pSPB662と命名)であった(配列番号:13)。しかし、pSPB662にコードされるGTはTHCに対する配糖化活性を示さず、4’CGTではないことが明らかとなった。また、前述のように同遺伝子とAS遺伝子とを共にペチュニアにおいて高発現させた結果、カルコン配糖体およびオーロンの生成は確認されず、花色についても変化は認められなかった。これらの結果から、5000クローン程度のランダムスクリーニングによってはカルコン配糖化酵素遺伝子を単離できないことが示唆され、4’CGT遺伝子を取得するのは、困難であった。
【特許文献1】 PCT/JP03/10500
【特許文献2】 WO 00/49155
【非特許文献1】 Plant Cell Physiol.39,1119(1998)
【非特許文献2】 Curr.Opin.Biotechnol.12,155(2001)
【非特許文献3】 Phytochemistry 5,111(1996)
【非特許文献4】 バイオホルティ 1 49−57(1990)誠文堂新光社
【非特許文献5】 Comprehensive Natural Products Chemistry,vol I(ed.Sankawa)pp713−748,Elsevier,Amsterdam(1999)
【非特許文献6】 Biotechnology of Ornamental Plants,Edited by Geneve,Preece and Merkle,pp259−294,CAB International Wallingford,UK(1997)
【非特許文献7】 Plant Cell Physiol.43,578(2002)
【非特許文献8】 Plant Cell Physiol.44,s158(2003)
【非特許文献9】 Plant J.13,259(1998)
【非特許文献10】 Science,290,1163(2000)
【非特許文献11】 Nature 375,397(1995)
【非特許文献12】 Natural Product Reports 20,288,(2003)
【非特許文献13】 Plant Physiol.112,446(2001)
【非特許文献14】 J.Biol.Chem.276,4338,(2001)
【非特許文献15】 J.Biol.Chem.274,7405(1999)
【非特許文献16】 Plant Mol Biol.48,401(2002)
【非特許文献17】 Planta 214,492(2002)
【非特許文献18】 Plant Physiol.132,1652,2003(2003)
【非特許文献19】 Plant Cell.14,2325(2002)
【発明の開示】
本発明は、カルコン類の4’位の水酸基に糖を転移する活性を有するタンパク質及びその遺伝子、好ましくはカルコン類の4’位の水酸基に特異的に糖を転移する活性を有するタンパク質及びその遺伝子を提供することにある。さらに当該GT遺伝子を用いて花色を改変、好ましくは黄色に変化させた植物体を提供することにある。
前述のように、4’CGTの生化学的あるいは分子生物学的な性質は知られておらず、酵素が精製されたり、その遺伝子がクローニングされたこともなかった。発明者らは、黄色キンギョソウ(バタフライイエロー)の花弁cDNAライブラリーからGTファミリーの保存アミノ酸配列に対応した塩基配列を有するプローブを用いて、当該保存アミノ酸配列の塩基配列を有するGT遺伝子を十種類取得した。さらに、当該GT遺伝子群を各々大腸菌で発現させ、その中に、当該大腸菌の抽出液中にカルコンの4’位にグルコースを転移する活性、すなわち4’CGT活性を確認し、クローン化した遺伝子が4’CGTをコードすることを確認した。この遺伝子を植物中で発現させ、花色を改変し、本発明を完成した。
すなわち、本発明は、(1)カルコン類の4’位に糖を転移する活性を有するタンパク質をコードする遺伝子を提供する。
本発明はまた、(2)配列番号2に記載のアミノ酸配列を有する前記(1)記載の遺伝子を提供する。
本発明はまた、(3)配列番号1に記載する塩基配列の一部または全部に対して、5xSSC、50℃の条件下でハイブリダイズし、かつカルコン類の4’位に糖を転移する活性を有する蛋白質をコードする前記(1)記載の遺伝子を提供する。
本発明はまた、(4)配列番号2に記載のアミノ酸配列に対して1個又は複数個のアミノ酸の付加、欠失及び/又は他のアミノ酸による置換によって修飾されているアミノ酸配列を有し、カルコン類の4’位に糖を転移する活性を有するタンパク質をコードする前記(1)に記載の遺伝子を提供する。
本発明はまた、(5)配列番号1に記載する塩基配列の一部または全部からなるDNAとストリジェントな条件下でハイブリダイズし、かつカルコン類の4’位に糖を転移する活性を有するタンパク質をコードする前記(1)記載の遺伝子を提供する。
本発明はまた、(6)ゴマノハグサ科由来である前記(1)〜(5)のいずれか1項に記載の遺伝子を提供する。
本発明はまた、(7)前記(1)〜(6)のいずれか1項に記載の遺伝子を含んでなるベクターを提供する。
本発明はまた、(8)前記(7)に記載のベクターにより形質転換された宿主細胞を提供する。
本発明はまた、(9)前記(1)〜(6)のいずれか1項に記載の遺伝子によってコードされるタンパク質を提供する。
本発明はまた、(10)前記(7)に記載の宿主細胞を培養し又は生育させ、当該宿主細胞からカルコン類の4’位に糖を転移する活性を有するタンパク質を採取することを特徴とする該タンパク質の製造方法を提供する。
本発明はまた、(11)前記(1)〜(6)のいずれか1項に記載の遺伝子が導入された植物体もしくは当該植物体と同一の性質を有する該植物体の子孫となる植物体、またはそれら植物体の組織を提供する。
本発明はまた、(12)前記(11)に記載の植物体の切り花を提供する。
本発明はまた、(13)前記(1)〜(6)のいずれか1項に記載の遺伝子を用いてカルコン類の4’位に糖を転移する方法を提供する。
本発明はまた、(14)前記(1)〜(6)のいずれか1項に記載の遺伝子を植物体に導入・発現して得られる、花色が改変された当該植物体もしくは当該植物体と同一の性質を有する該植物体の子孫となる植物体を提供する。
本発明はまた、(15)花色が黄色味を帯びていることを特徴とする前記(14)に記載の植物体を提供する。
本発明はまた、(16)前記(1)〜(6)のいずれか1項に記載の遺伝子と共にオーレウシジン合成酵素をコードする遺伝子を植物体に導入、発現させ、花色を黄色く改変させる方法を提供する。
本発明はまた、(17)前記(1)〜(6)のいずれか1項に記載の遺伝子と共にオーレウシジン合成酵素をコードする遺伝子を植物体に導入、発現させ、さらに宿主のフラボノイド合成系遺伝子の発現を抑制することによって花色を黄色く改変させる方法を提供する。
本発明はまた、(18)前記(1)〜(6)のいずれか1項に記載の遺伝子と共にオーレウシジン合成酵素をコードする遺伝子を植物体に導入、発現させ、さらに宿主のジヒドロフラボノール還元酵素遺伝子の発現を抑制することによって花色を黄色く改変させる方法を提供する。
本発明はまた、(19)前記(1)〜(6)のいずれか1項に記載の遺伝子と共にオーレウシジン合成酵素をコードする遺伝子を植物体に導入、発現させ、さらに宿主のフラバノン3−水酸化酵素遺伝子の発現を抑制することによって花色を黄色く改変させる方法を提供する。
【図面の簡単な説明】
図1は、植物における典型的なフラボノイド合成経路を示す。ここに記載された酵素遺伝子の有無により植物種ごとに代謝経路の末節は異なる。たとえば、黄色のキンギョソウ花弁においてはアントシアニン合成経路と共にオーロン合成に至る経路も存在するが、同じゴマノハグサ科の植物であるトレニアは、4’CGT、AS遺伝子を有しないため、オーロン類を合成することは出来ない。図中の略称については以下参照。CHS,カルコン合成酵素;CHI,カルコン異性化酵素;F3H,フラバノン3−水酸化酵素;DFR,ジヒドロフラボノール4−還元酵素;ANS,アントシアニジン合成酵素;3GT,UDP−グルコース:アントシアニジン3−配糖化酵素;FLSフラボノール合成酵素;FNS,フラボン合成酵素;F3’H,フラボノイド3’−水酸化酵素;F3’,5’H,フラボノイド3’,5’−水酸化酵素;2’CGT,UDP−グルコース:4,2’,4’,6’−テトラヒドロキシカルコン2’位糖転移酵素;4’CGT,UDP−グルコース:4,2’,4’,6’−テトラヒドロキシカルコン4’位糖転移酵素;AS,オーレオシジン合成酵素
図2は、図1の続きである。
図3は、形質転換体トレニアのサザンハイブリダイゼーションの結果を示す。pSFL201、pSFL307、pSFL308導入の形質転換体トレニア(品種サマーウェーブブルー)葉よりゲノムDNAを抽出し、KpnI切断後、4’CGT遺伝子をプローブとしたサザンハイブリダイゼーションに供した。各レーンの上の数字は導入遺伝子コンストラクトおよび形質転換体系統番号を記す。SWBは宿主として用いたサマーウェーブブルーである。M1、M2はDIGラベルしたサイズマーカー(ロシュ)であり、各バンドのサイズを図の左右に記す。
【発明を実施するための最良の形態】
本発明の遺伝子としては、例えば配列番号2に記載したアミノ酸配列をコードするものが挙げられる。しかしながら、複数個のアミノ酸の付加、欠失または他のアミノ酸との置換によって修飾されたアミノ酸配列を有するタンパク質も、もとのタンパク質と同等の酵素活性を維持することが知られている。従って本発明は、4’CGT活性を保持しているタンパク質である限り、配列番号2に記載のアミノ酸配列に対して1個または複数個のアミノ酸配列の付加、欠失および/または他のアミノ酸との置換によって修飾されたアミノ酸配列を有するタンパク質および当該タンパク質をコードする遺伝子も本発明に属する。なお、複数個とは、2〜30個、好ましくは2〜9個をいう。
本発明はまた、配列番号1に記載の塩基配列を有するDNAに対し、5xSSC、50℃といった比較的温和な条件下でハイブリダイズし、かつ4’CGT活性を有するタンパク質をコードする遺伝子に関するものである。さらに、配列番号1に記載の塩基配列を有するDNAに対しストリンジェントな条件でハイブリダイズし、かつ4’CGT活性を有するタンパク質をコードする遺伝子も、本発明の技術的範囲に属する。ここでいうストリンジェントな条件とは、例えば2xSSC、65℃があるが、ハイブリダイゼーションの条件はプローブに用いるDNAの長さ及び塩基組成によって異なるから、この条件に限定されない。
上述ようなハイブリダイゼーションによって選択される遺伝子としては、天然由来のもの、例えば植物由来のもの、好ましくはゴマノハグ科由来のもの、さらに好ましくはキンギョソウ、リナリア、ウンラン由来の遺伝子が挙げられるが、植物由来に限定されるものではない。すなわち、本発明の4’CGT遺伝子は、キンギョソウ、リナリア、ウンラン由来の4’CGT遺伝子に限定されるものではなく、カルコン類4’位配糖体を含む他の生物種に由来する4’CGT遺伝子であれば、いずれでも黄色の花を育種するのに用いることができる。4’CGT遺伝子を含む合成DNAも、植物由来の遺伝子と同様に用いることができる。
また、ハイブリダイゼーションによって選択される遺伝子はcDNAであってもよく、ゲノムDNAであってもよい。
GTの保存領域の相同性を有する遺伝子は実施例に示すように、例えばキンギョソウやリナリア花弁から作製したcDNAライブラリーをスクリーニングすることによって得られる。また、配列番号2に記載のアミノ酸配列が改変されたアミノ酸配列を有するGTをコードするDNAは、配列番号1に記載の塩基配列を有するDNAを用いて、公知の部位特定変異誘発法やPCR法を用いて合成することができる。例えばアミノ酸配列を改変したいDNA断片をcDNAまたはゲノムDNAの制限酵素処理によって得、これを鋳型にして、所望のアミノ酸配列の改変に対応したプライマーを用い、部位特異的変異誘発またはPCR法を実施し、所望のアミノ酸配列の改変に対応したDNA断片を得ることができる。その後、この改変を導入したDNA断片を目的とする酵素の他の部分をコードするDNA断片と連結すればよい。このようなDNAを化学的に合成することもできる。
あるいはまた、短縮されたアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするDNAを得るには、例えば目的とするアミノ酸配列より長いアミノ酸配列、例えば全長アミノ酸配列をコードするDNAを所望の制限酵素により切断し、その結果得られたDNA断片が目的とするアミノ酸配列の全体をコードしていない場合は、不足部分のアミノ酸配列に対応するDNA断片を合成し、連結すればよい。
このようにして得られたGT遺伝子を大腸菌又は酵母での遺伝子発現系を用いて発現させ、当該大腸菌又は酵母の抽出液中の4’CGTの活性を測定することにより、得られたGT遺伝子が4’CGTを示すタンパク質をコードすることを確認することができる。4’CGTの活性は、例えば実施例3に記載したように、逆相樹脂に4’CGTの基質となるカルコン類を吸着させ後、当該逆相樹脂をGT遺伝子で形質転換した大腸菌又は酵母の抽出液と反応させ、生成したカルコン4’配糖体を高速液体クロマトグラフィー(HPLC)で分析することにより測定できる。
さらに、得られた4’CGT遺伝子を適切な宿主細胞で発現させることにより、当該遺伝子の産物である4’CGTタンパク質を得ることができる。あるいはまた、配列番号2に記載のアミノ酸配列の全部又は一部を有するタンパク質又はペプチドに対する抗体を用いて他の生物の4’CGT遺伝子を発現クローニングによって得ることもできる。
本発明はまた、4’CGT遺伝子を含む組換えベクター、特に発現ベクター、及び当該ベクターによって形質転換された宿主細胞に関するものである。宿主としては、原核生物または真核生物を用いることができる。原核生物としては細菌、例えばエシェリヒア(Escherichia)属に属する細菌、例えば大腸菌(Escherichia coli)、バシルス(Bacillus)属微生物、例えばバシルス.スブシルス(Bacillus subtilis)など従来公知の宿主細胞を用いることができる。
真核細胞としては、例えば真核微生物、好ましくは酵母または糸状菌が使用できる。酵母としては例えばサッカロミセス.セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)等のサッカロミセス(Saccharomyces)属酵母が挙げられ、また糸状菌としては、例えばアスペルギルス.オリゼ(Aspergillus oryzae)、アスペルギルス.ニガー(Aspergillus niger)等のアスペルギルス(Aspergillus)属微生物、及びペニシリウム(Penicillium)属微生物等が挙げられる。さらに動物細胞または植物細胞も宿主細胞として使用でき、動物細胞としては、マウス、ハムスター、サル、ヒト等の細胞系が使用される。さらに昆虫細胞、例えばカイコ細胞、またはカイコの成虫それ自体も宿主として使用される。
本発明の発現ベクターはそれらを導入すべき宿主の生物種に依存したプロモーターおよびターミネーター等の発現制御領域、及び複製起点等を含有する。細菌用、特に大腸菌における発現ベクターのプロモーターとしては、従来公知のプロモーター、例えばtrcプロモーター、tacプロモーター、lacプロモーター等が使用できる。また、酵母用プロモーターとしては、例えばグリセルアルデヒド3リン酸デヒドロゲナーゼプロモーター、PH05プロモーター等が使用され、糸状菌用プロモーターとしては例えばアミラーゼ、trpC等のプロモーターが使用できるが、これらのプロモーターに限定されるものではない。また動物細胞用プロモーターとしてはウイルス性プロモーター、例えばSV40アーリープロモーター、SV40レートプロモーター等が使用される。発現ベクターの作製は制限酵素、リガーゼ等を用いて常法に従って行うことができる。また、発現ベクターによる宿主細胞の形質転換も従来公知の方法に従って行うことができる。
植物の発現ベクターの構築は、例えばアグロバクテリウムを用いる場合にはpBI121などのバイナリーベクターを、パーティクルガンを用いる場合にはpUC19などの大腸菌ベクターを用いることができる。さらに、当該植物の発現ベクターで形質転換された植物細胞を例えば抗生物質耐性遺伝子などのマーカー遺伝子を用いて選抜し、適切な植物ホルモン等の条件を用いて再分化させ、4’CGT遺伝子を導入した形質転換植物体を得ることができる。当該形質転換植物を栽培することにより、開花させ、花色が改変された植物体を得ることができる。
発現ベクターによって形質転換された宿主細胞又は形質転換植物体を培養又は栽培し、培養物等から常法に従って、例えば、濾過、遠心分離、細胞の破砕、ゲル濾過クロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー等により目的とする4’CGTタンパク質を回収、精製することができる。
本発明はキンギョソウやリナリアの4’CGT遺伝子のみに限定されるものではなく、4’CGTあるいは4’CGT遺伝子の起源としては、植物でも動物でも微生物でも合成したものであってもよく、4’CGT活性を有していれば同様に花色改変へ利用できる。本発明はまた、4’CGT遺伝子の利用に関するものであり、4’CGT遺伝子を植物体に導入・発現することにより、花色が改変された植物体もしくはその子孫の植物体もしくはこれらの植物の栄養増殖体又はこれら植物体の組織も本発明の技術的範囲であり、組織の形態としては切り花であってもよい。また4’CGT遺伝子のみでなく、4’CGT遺伝子に加えAS遺伝子も共に植物体へ導入、発現させたり、さらに加えて、宿主が本来有するフラボノイド合成系遺伝子の発現を抑制することによって花色が改変された植物体もしくはその子孫の植物体もしくはこれらの植物の栄養増殖体またはこれら植物体の組織も本発明の技術範囲であり組織の形態としては切花であってもよい。
現在の技術水準をもってすれば、植物に遺伝子を導入し、その遺伝子を構成的あるいは組織特異的に発現させることは可能であるし、またアンチセンス法、コサプレッション法、RNAi法などによって目的の遺伝子の発現を抑制することも可能である。形質転換可能な植物の例としては、バラ、キク、カーネーション、金魚草、シクラメン、アサガオ、ベゴニア、インパチエンス、ゼラニウム、ラン、トルコギキョウ、フリージア、ガーベラ、グラジオラス、カスミソウ、カランコエ、ユリ、ペラルゴニウム、ゼラニウム、ペチュニア、トレニア、チューリップ、イネ、レンギョウ、ベゴニア、オオムギ、小麦、ナタネ、ポテト、トマト、ポプラ、バナナ、ユーカリ、サツマイモ、タイズ、アルファルファ、ルーピン、トウモロコシ、カリフラワーなどがあげられるがこれらに限定されるものではない。
【実施例】
以下実施例に従って、発明の詳細を述べる。分子生物学的手法はとくに断らない限り、WO96/25500あるいはMolecular Cloning(Sambrook et.al.Cold Spring Harbour Laboratory Press,1989)に記載されている方法に従った。
[実施例1]黄色キンギョソウ花弁cDNAライブラリーの構築
黄色のキンギョソウである品種バタフライイエローの新鮮な花弁5gから論文(Science 290,1163(2000))に記載のようにしてcDNAライブラリーを構築した。得られたライブラリーは、1.6x10plaque forming unitからなっていた。
[実施例2]4’CGT遺伝子のスクリーニング1
すでに開示されているGTのアミノ酸配列を比較し、これらのアミノ酸配列の保存領域に相当する塩基配列を増幅し、これをプローブとして実施例1で述べたキンギョソウcDNAライブラリーをスクリーニングした。
プローブに用いたGTはアサガオ由来のUDP−グルコース:アントシアニジン3−グルコシド糖転移酵素(3GGT)(特開2003−289884)、ペチュニア由来3GT(Plant Mol.Biol.48,401、(2002))、バーベナ由来5GT(J.Biol.Chem.274,7405(1999))、コガネバナGT(SBGT、Planta 210,1006(2000))、リンドウ由来のUDP−グルコース:アントシアニン3’−糖転移酵素(3’GT)(Plant Physiol.132,1652,(2003))配列の5種である。それぞれGTについて、保存された領域の配列を増幅できるように1組のオリゴヌクレオチドを合成した。これらオリゴヌクレオチドの配列を配列番号:3〜12に示す。
アサガオ3GGT

ペチュニア3GT

バーベナ5GT

コガネバナGT

リンドウ3’GT

プローブはノンラジオアイソトープDIG−核酸検出システム(ロシュ・ダイアグノスティックス)を用いて、製造者が推奨する条件に従いPCRによりラベルした。この際、鋳型として1ngのそれぞれのcDNAを含むプラスミドを用い、プライマーとして、上記の各遺伝子特異的なオリゴヌクレオチド100ngを使用し、95℃1分、55℃1分、72℃2分からなる反応を1サイクルとし、これを25サイクル行った。各遺伝子のPCR増幅産物を等量混合したものをハイブリダイゼーションのプローブとして、実施例1に記載のキンギョソウ由来のcDNAライブラリーをスクリーニングした。
ハイブリダイゼーションは、30%ホルムアミド、1%SDSを含む5XSSC中、37℃で一晩行い、フィルターの洗浄は5x SSC,1%SDSを用いて55℃で30分間行った。スクリーニングによるポジティブシグナルの検出はノンラジオアイソトープDIG−核酸検出システム(ロシュ・ダイアグノスティックス)を用い、製造者の推奨する方法に従った。約30万プラークをスクリーニングし、最終的に10種類の完全長糖転移酵素遺伝子を含むクローンを得、これらをpSPB264,1621,1620,1622,1610,1609,1617,1615,660,658とした。DNA Sequencer model 3100(Applied Biosystems)を用い、合成オリゴヌクレオチドプライマーによるプライマーウォーキング法によってこれらcDNA配列を決定した。これらcDNAのアミノ酸コード領域の塩基配列を配列番号14〜23に示した。
[実施例3]大腸菌を用いたカルコンGT活性の測定
3−1 大腸菌発現ベクターの構築と大腸菌におけるGTの発現
実施例2で得られた10種類のcDNAにコードされるGT活性を大腸菌発現系を用いて解析した。まず、各cDNAの大腸菌発現コンストラクトを作製した。PCR法によって各cDNAの開始コドンと考えられる塩基配列ATGに重なる様にNcoIサイトを導入し、開始メチオニンから終止コドンに至る領域を大腸菌発現ベクターpQE61(QIAGEN)のNcoIおよびKpnI、またはNcoIおよびEcoRVサイトに連結した。
開始メチオニンに重なるNcoIサイト導入のためのPCR液(25μl)は、各GTcDNAを鋳型とし、開始メチオニン部位に重なるNcoI認識配列を導入したプライマー、及びストップコドン付近の3’側から5’側に向けてのプライマー各0.2pmol/μl,1x ExTaq buffer(Takara),0.2mM dNTPs,,ExTaq polymerase 1.25Uからなる。反応は、94℃で5分反応させた後、94℃、1分、55℃、1分、72℃、2分の反応を28サイクル行い、最後に72℃で5分間処理した。得られたPCR産物をpCR2.1 TOPO vector(INVITROGEN)に製造者が推奨する方法でサブクローニングした。増幅されたDNA断片のDNA配列を解析し、PCRによるエラーがないことを確認したのち、大腸菌発現ベクターp QE61(QIAGEN)に導入した。
例えばp SPB1617にコードされるcDNA(配列番号:20)については、配列表に示した1617BamHINcoI−FW(配列番号:24)ならびに1617XhoIKpnI−RV(配列番号:25)の二種のプライマーを用いてPCRを行い、開始メチオニン部位に重なるNco1サイトと、終始コドンの3’側にKpnI認識配列を導入した。増幅されたDNA断片をpCR2.1 TOPO vectorにサブクローニングした。塩基配列にPCRによるエラーがないことを確認後、NcoIとKpnIで切り出したDNA断片をp QE61のNcoIおよびKpnIサイトに連結し、p SPB1617cDNAの大腸菌発現ベクターであるpSPB1642を得た。同様にして10種類のGT cDNAの大腸菌発現ベクターを構築した。
1617BamHINcoI−FW

1617XhoIKpnI−RW

各発現ベクターを大腸菌株JM109(TOYOBO)に導入し、37℃で終濃度20ug/mlのアンピシリンを含むLB培地で一晩前培養した。前培養液の1mlをアンピシリン50μg/ml,カザミノ酸0.5%を含むM9培地、50mlに加えA600=0.6−1.0に達するまで培養した後、IPTG(Isopropyl−β−D−thiogalactopyranoside)を終濃度0.1mMになるよう加え、さらに27℃で一晩振とう培養し、3000rpm,10分間、4℃で遠心し、集菌した。菌体を10mlの緩衝液(30mM Tris−HCl pH7.5、30mM NaCl)に懸濁し、SONIFIER250(BRANSON社)での超音波処理により大腸菌を破砕した後、15,000rpm,10分、4℃で遠心分離を行い、得られた上清を粗酵素液とし、以下の活性測定に用いた。
3−2 酵素活性の測定
Oで平衡化済みの逆相樹脂、TOYOPEARL HW−40F(TOSOH)1mlにTHC(500μg/mlエタノール溶液)をHOで希釈しながら負荷した後、水洗することにより、樹脂に固定された基質THCを得た。この樹脂固定されたTHC 100μlに3−1で得られた粗酵素液200μlおよび5mM UDP−glucose 10μlを加え、30℃で1時間反応させた。遠心して上清を除去後、沈殿した樹脂を水洗し、0.1% TFA(Trifluoroacetic acid)を含む50%アセトニトリル300μlに懸濁し、超音波処理によりフラボノイドを樹脂より遊離した。15,000rpm、5分、4℃で遠心分離し、得られた上清をフィルター(ポアサイズ0.45mm、4mm Millex−LH、ミリポア)を用いて不溶物を除去して、上清を液体高速クロマトグラフィー(以下HPLC)で分析した。カルコンおよびその配糖体の分析条件は以下の通りである。
カラムはDevelosil C−30−UG−5(4.5mmφxl50mm、野村化学)を用いて、移動相にはA液として0.1%TFAを含むHO、B液として0.1%TFAを含む90%アセトニトリルを用い、B液20%からB液70%の直線濃度勾配10分間の溶出後、B液70%で5分間維持した。流速は0.6ml/min.、検出は360nmにおける吸光度、及びPDA検出器SPD−M6A(島津製作所)による250−400nmの吸収スペクトルにより行った。この条件で、THCは保持時間10.7分に溶出され、その2’位配糖体および4’位配糖体は8.5分に溶出されることをTHC及びTHCの2’位および4’位配糖体の標品を用いて確認した。
pSPB1642を発現する大腸菌の抽出液を反応させたとところ、基質THCに加え、8.5分に溶出される新たな生成物が検出された。これらはpQE61ベクターのみを発現させた大腸菌から同様に調製した粗抽出液およびpSPB1642を発現する大腸菌の粗酵素液を煮沸した溶液を反応させたものでは検出されなかったことからpSPB1642から発現されるGTによって生じた生成物と考えられる。さらにH NMR分析によって本生成物の構造を調べた。分析にはJNM−EX400(JEOL)を用い、その他の分析条件は論文(Plant Physiology 132、1652(2003))に記載のとおりである。この結果、pSPB1642の発現産物によって生じたTHC配糖体はTHC2’位配糖体であることが明らかとなった。よって、p SPB1642によって発現されるcDNA、つまりpSPB1617cDNAは2’CGT活性を有するタンパク質をコードしていると考えられた。
[実施例4]4’CGT遺伝子のスクリーニング2
黄色キンギョソウ花弁のcDNAライブラリー約30万クローンをpSPB1617cDNA全長をプローブとして再度スクリーニングした。PCRによるプローブラベリングには、1617−F(配列番号:26)ならびに1617−R(配列番号:27)プライマーを用い、実施例2記載の方法と同様に行った。スクリーニングと塩基配列の解析方法も実施例2と同様である。
1617−F

1617−R

その結果、新規GT遺伝子を5種、pSPB1721、1724、1723、1719、1725を得た。それぞれの配列を配列表に示した(配列番号:28〜31及び1)。
このうちp SPB1725cDNAは、457アミノ酸からなる分子量50.8kDa、等電点6.82のタンパク質をコードする1374bp(ストップコドンを除く)の翻訳領域を含んでいた。p SPB1725cDNAがコードするアミノ酸配列(配列番号:2)を、すでに報告のあるGTのアミノ酸配列と比較したところリビングストーンデージー由来GT(Plant J.19、509(1999))と14%、シソ由来5GTと18%、シソ由来3GTと18%、リンドウの3’GTと23%、プローブとして用いたp SPB1617にコードされるタンパク質のアミノ酸配列とは31%の同一性しか示さなかった。なお、ホモロジー解析に使用したソフトフェアはMacVector ver.6.5.3(Oxford Molecule)に含まれるClustalWで、条件は、Matrix Blosum 30、ketuple:1、Gap penalty:3、Topdiagonals:5、Windows Size:5で行った。
[実施例5]得られたcDNAの大腸菌における発現
5−1.発現ベクターの構築
実施例4で得られた5種類のcDNAについて、大腸菌発現系を用い各cDNAにコードされるタンパク質の酵素活性の測定を調べた。発現ベクターの構築ならびに発現方法、活性測定方法は実施例3と同様である。例えばpSPB1725については、開始コドンの5’側にNcoI認識配列を導入するために、以下に示すプライマー2種1725−NcoI(配列番号:32)、1725−KpnI(配列番号:33)を用いてPCR反応を行った。
1725−NcoI

1725−KpnI

PCR液(25μl)は、p SP1725 DNA 10ng,1x ExTaq buffer(Takara),0.2mM dNTPs,1725−NcoI,1725−KpnIプライマー各0.2pmol/μl,ExTaq polymerase 1.25Uからなる。
反応は、94℃で5分反応させた後、94℃、1分、55℃、1分、72℃、2分の反応を28サイクル行い、最後に72℃で7分間処理した。得られたPCR産物をpCR2.1 TOPO vector(INVITROGEN)に製造者が推奨する方法でサブクローニングした。増幅産物の塩基配列を確認したのち、NcoIおよびKpnI処理によってpCR2.1 TOPO vectorから切り出される約1.4KbのフラグメントをpQE61(QIAGEN)のNcoIとKpnIサイトに連結し、大腸菌発現ベクターp SPB1768を得た。これを大腸菌JM109株(TOYOBO)に導入した。他の4種類のcDNAについても同様にしてそれぞれpQE61を用いた大腸菌発現ベクターを構築し、JM109に導入した。
5−2 組換えタンパク質の大腸菌における発現とGT活性測定
実施例5−1で得られた大腸菌形質転換株を、実施例3と同様の条件で培養し、それぞれのcDNAにコードされるタンパク質の活性測定を行った。その結果、p SPB1768を含む大腸菌の粗酵素液とTHCの反応物中に、THC配糖体と思われるピークを検出した。このTHC配糖体をさらに詳しく同定するために、以下に記載のTHC2’位配糖体とTHC4’位配糖体を分離する条件にて再度HPLC分析を行った。
カラムはYMC−ODS−A312(6mmφx150mm、株式会社ワイエムシー)を用いて、移動相にはA液として2%酢酸を含むHO,B液としてメタノールを用い、B液15%からB液40%の直線濃度勾配15分間の溶出後、B液40%で5分間維持し、さらにB液40%からB液62%の直線濃度勾配10分間の溶出の後、B液62%で2分間維持した。流速は1.0ml/min.で行った。検出は360nmにおける吸光度、及びPDA検出器SPD−M6A(島津製作所)による250−400nmの吸収スペクトルにより行った。
この条件で、THCは保持時間26.7分に溶出され、THC2’位配糖体は19.8分、THC4’位配糖体は20.6分に溶出される。pSPB1768を発現する大腸菌抽出液とTHCの反応液中に見出されたTHC配糖体は本条件による分析で20.6分に溶出されたのでTHC4’位配糖体であると考えられた。これはpQE61ベクターのみを発現させた大腸菌から同様に調製した粗抽出液を反応させたものでは検出されなかったことからp SPB1725にコードされるGTによって生じた産物と考えられる。以上の結果から、p SPB1725cDNAにコードされるGTはTHCの4’位の水酸基にグルコースを転移する活性を有することが確認された。
また、本反応液中にはTHC4’位配糖体に加えて15.5分に溶出される新たなピークが検出された。この物質はナリンゲニンの吸収スペクトルを示し、ナリンゲニン7位配糖体標品と保持時間が一致した。よってこの15.5分に溶出された生成物はpSPB1725にコードされる4’CGTによって生成したTHC4’位配糖体が、配糖化後に閉環して生じたナリンゲニン7位配糖体あるいはTHCが閉環して生じたナリンゲニンに、4’CGTが作用して生じたナリンゲニン7位配糖体と考えられる。
[実施例6]キンギョソウ花弁における4’CGT遺伝子の発現解析
RT−PCR法によってpSPB1725にコードされる4’CGT遺伝子の黄色キンギョソウ花弁における発現様式を解析した。オーロン類を蓄積する黄色キンギョソウ(バタフライイエロー品種)の花弁を成長段階に沿って5ステージに分離した。若い順に、ステージ1(蕾花弁長1cm以下),2(蕾か弁長1.0−1.5cm),3(蕾花弁長1.5−2.0cm),4(花弁長2.0−2.5cm、開花直前)および5(花弁長2.5cm以上、開花後の花弁)の5段階とし、ステージ5は成熟した花弁に対応する。
分離した花弁から1gからRNeasy Plant Mini Kit(QIAGEN)を用いてRNAを抽出した。得られたRNA 1μgを鋳型として逆転写反応を行い、cDNAを得た。cDNA合成にはSuperScript First−Strand Synthesis System for RT−PCR(GIBCO BRL)を利用し、合成条件は本システム製造業者が推奨する条件に従った。得られたステージ別のcDNAを鋳型に、実施例5に記載の1725−Nco1(配列番号:32)および1725−Kpn1プライマー(配列番号:33)を用いてPCRを行った。また、4’CGT遺伝子発現量と内在遺伝子発現量とを比較するために、内部標準遺伝子としてキンギョソウのグリセルアルデヒド−3−リン酸脱水素酵素(GAPDH)遺伝子(配列番号:34)を用い(Nature 339,46(1989))、本遺伝子増幅のためにAmGAPDH−F(配列番号:35)、AmGAPDH−R(配列番号:36)のプライマーを合成した。また、比較対象遺伝子としてキンギョソウのAS遺伝子増幅のためにAmAS−F(配列番号:37)、AmAS−Rプライマー(配列番号:38)を合成した。
AmGAPDH−F

AmGAPDH−R

AmAS−F

AmAS−R

PCR条件は実施例3と同様の反応組成で、94℃、1分、55℃、1分、72℃、2分を12サイクル行った。PCR産物を1%アガロースゲル電気泳動で分離した後、常法によってHybond−Nナイロンメンブレン(アマシャム)にブロッティングし、ハイブリダイゼーションによる増幅産物の検出を行った。ハイブリダイゼーション方法については前述のノンラジオアイソトープDIG−核酸検出システムDIG DNA標識及び検出キットを用い、製造者の推奨する方法に従った。プローブには、キンギョソウのAS、GAPDHおよびpSPB1725にコードされる4’CGTのcDNAを用い、実施例2同様にして、上記の各遺伝子特異的プライマー(配列番号32,33,35〜38)を用いてDIGラベリングを行った。
その結果、4’CGT遺伝子及びAS遺伝子はともにステージ4で発現がピークに達し、経時的に同様の発現パターンを示すことが分かった。さらに両遺伝子の発現パターンは黄色キンギョソウ花弁に含まれるカルコン4’位配糖体およびオーロン類の蓄積パターンに矛盾しないと考えられた(Plant Sci.160,229(2001))。
以上の結果からpSPB1725にコードされる4’CGT遺伝子は、キンギョソウ花弁内においてAS遺伝子と同一の発現制御支配下に存在することが考えられ、両者は同一の生合成経路、すなわちオーロン類の生合成経路に関わっていると考えられる。
[実施例7]植物における4’CGTとASの共発現
7−1 4’CGT発現カセットの構築
pBE2113−GUS(Plant Cell Physiol.37,45(1996))をSnaBIで消化し、再連結することによりomega配列を除き、得られたプラスミドをpUE6とした。一方、pUCAP(van Engelen et al.Transgenic Research 4,288−290,1995)をAscIで消化し、平滑末端化後、PacIリンカーを挿入したプラスミドをpUCPPとした。pUE6のEl35SプロモーターからNOSターミネーターまでを有する断片を、pUCPPのHindIIIとEcoRIサイトに挿入しpSPB540を得た。pSPB540のGUS遺伝子部分をpSPB1725から切り出される4’CGT cDNA断片に置換し得られたプラスミドをpSFL203とした。すなわち、pSFL203はpUCPPをベクターとし、El35SプロモーターとNOSターミネーターで制御される4’CGT発現カセットを有するものである。
7−2 AS発現カセットの構築
キンギョソウ由来のAS cDNA(Science290,1163,(2000))がpBluescript II SK−ベクター(Stratagene)のEcoRIとXhoIサイトに挿入したプラスミドをpSPB251とした。pBINPLUS(van Engelen et al.Transgenic Research 4,288−290,1995)にMacIプロモーター、pSPB251から切り出したAS cDNA断片、MASターミネーターを連結したAS発現コンストラクトをpSPB1624とした。
7−3 4’CGTとASの共発現コンストラクトの作製
7−1に記載のpSFL203をPacIで切断し、カルコン配糖化酵素遺伝子発現カセットを切り出し、これを7−2記載のpSPB1624のPacIサイトに挿入した。得られたコンストラクトをpSFL201とした。よってpSFL201は植物細胞に導入された場合、4’CGT遺伝子とAS遺伝子が構成的に発現するように設計されている。
[実施例8]植物における4’CGTとASの共発現ならびにトレニアのDFRの抑制
8−1トレニア由来のDFR遺伝子発現抑制カセットの構築
トレニアのジヒドロフラボノール還元酵素(DFR)cDNAについては論文(Plant Science 153,33,2000)に記載のようにして取得した。トレニアDFR cDNAがベクターpBluescriptII SK−と連結したプラスミドをpTDF10とした。これを鋳型とし、ベクター配列に由来するM13リバースプライマー(配列番号39)とトレニアDFRcDNA配列に塩基置換でNcoI認識部位を導入したプライマーThDFR−NcoI(配列番号40)を用いて、実施例3に記載のようにしてPCRを行った。得られた約0.75kbのフラグメントをpCR2.1−TOPO(インビトロジェン)にクローニングし、塩基配列を確認したのち、SacIとNcoIで0.75kbのトレニアDFR cDNA配列を切り出した。
またpTDF10をBamHIとNcoIで切断し、トレニアDFR cDNAの5’末端から1.1kbを含むフラグメントを回収した。一方、7−1記載のpUCAPをPacIで消化し、平滑末端化後、AscIリンカーを挿入したプラスミドをpUCAAとした。このpUCAAのHindIIIとEcoRIサイトに、pUE6から切り出したEl35Sプロモーター〜GUS〜NOSターミネーターに至るフラグメントを挿入し、得られたプラスミドをpSPB541とした。pSPB541をBamHIとSacIで切断し、GUS遺伝子部分を除き、ここに、トレニアDFR cDNA由来の0.75kbのフラグメントとおよび1.1kbのフラグメントを、両フラグメントのNcoI部位が連結する方向に挿入した。このようにして得られたプラスミドpSFL314は、植物体内の導入された場合、El35Sプロモーターの制御下、トレニアのDFR cDNA配列に由来する二本鎖RNAを転写し、RNAi法によってトレニアのDFR遺伝子発現を抑制することができるものである。
M13リバースプライマー

ThDFR−NcoI

8−2 4’CGTとASの共発現ならびにトレニアのDFR遺伝子発現の抑制のためのコンストラクトの構築
7−1記載のpUE6のNOSターミネーター上流にXhoIリンカーを挿入した。このプラスミドをBamHIとXhoIで消化して得られるEl35Sプロモーター〜ベクター〜NOSターミネーターからなる断片と7−2記載のpSPB215からBamHIとXhoIで切り出したAS cDNA断片を連結しpSPB211を得た。pSPB211からHindIIIとEcoRIでAS発現カセットを切り出し、これをpBINPLUSのHindIIIとEcoRIサイトに挿入した。このようにして得られたプラスミドのPacIサイトに、7−1記載のpSFL203をPacI切断して得られる4’CGT発現カセットを挿入し、4’CGTとASの発現カセットがタンデムに連結したpSFL304を得た。さらに8−1記載のトレニアDFR二本鎖RNA転写カセットをpSFL304のAscIサイトに挿入し、pSFL307を得た。つまりpSFL307は4’CGTとASの発現ならびにトレニアのDFR遺伝子発現抑制のための3つのカセットを有する。
[実施例9]植物における4’CGTとASの共発現ならびにトレニアのF3H遺伝子発現の抑制
9−1トレニア由来のF3HcDNAのクローニングと同遺伝子発現抑制カセットの構築
シソから得られたF3H cDNA(Plant Mol Biol.,35,915(1997))をプローブとして、トレニアの同酵素をコードするcDNAを取得した。すなわち、実施例2同様にして、トレニアcDNAライブラリー(Molecular Breeding,6,239,2000)約20万のファージをスクリーニングした結果、配列番号41に示すトレニアF3H cDNAを得た。トレニアF3H cDNAがベクターpBluescriptII SK−と連結したプラスミドをpSPB266とした。これを鋳型とし、ベクター配列に由来するM13リバースプライマー(配列番号39)とトレニアF3H cDNA配列に塩基置換でSalI認識部位を挿入したプライマーThF3H−SalI−1(配列番号42)を用いて、実施例3同様にしてPCRを行った。
得られた約0.9kbのフラグメントをpCR2.1−TOPO(インビトロジェン)にクローニングし、塩基配列を確認した。同様にして、トレニアF3H cDNA配列に塩基置換でSalI認識部位を挿入したプライマーThF3H−SalI−2(配列番号43)とM13リバースプライマーを用いて、約0.75kbのDNA断片を調整し、pCR2.1−TOPOにクローニングし、塩基配列を確認した。実施例8−1に記載のpSPB541をBamHIとSacIで切断し、GUS遺伝子部分を除き、ここにpCR2.1−TOPOからBamHIとSalI切断で切り出した0.9kbのフラグメントと、pCR2.1−TOPOからSacIとSalI切断で切り出した0.7kbのフラグメントを両フラグメントのSalI部位が連結するように挿入した。このようにして得られたプラスミドpSFL313は、植物体内に導入された場合、El35Sプロモーターの制御下、トレニアのF3H cDNA配列に由来する二本鎖RNAを転写し、RNAi法によってトレニアのF3H遺伝子発現を抑制するものである。
ThF3H−SalI−1

ThF3H−SalI−2

9−2 4’CGTとASの共発現ならびにトレニアのF3H遺伝子発現の抑制のためのコンストラクトの構築
9−1記載のpSFL313からAscI切断によりトレニアF3H RNAiカセットを切り出し、実施例8−2記載のpSFL304のAscIサイトに挿入し、pSFL308を得た。つまりpSFL308は4’CGTとASの発現ならびにトレニアのF3H遺伝子発現抑制のための3つのカセットを有する。
[実施例10]植物における遺伝子発現と花色分析
実施例7−9で述べたpSFL201、pSFL307およびpSFL308を公知の方法でトレニア(品種サマーウェーブブルー(サントリーフラワーズ株式会社))に導入した。形質転換の方法はMol.Breeding.6,239,(2000)に記載の方法にしたがった。選択マーカー耐性を示した個体を選抜し、それぞれの花色を観察した。pSFL201導入株では、得られた35系統の形質転換体のうち、22系統において宿主と比べて花色変化が見られ、黄色味を帯びた青、もしくは黄色味を帯びたグレーを示した。
しかし、完全に黄色になったものはなかった。pSFL307導入株では得られた36系統の形質転換体のうち、19系統において宿主と比べて花色変化が見られた。さらに、花色が変化した19系統のうち6系統については宿主本来の青い色がほとんど混在せず、ほぼ完全な黄色花色を呈していた。またpSFL308導入株では得られた39系統の形質転換体のうち、24系統において宿主と比べて花色変化が見られた。さらに、花色が変化した24系統のうち17系統については宿主本来の青い色がほとんど混在せず、ほぼ完全な黄色花色を呈していた。
花色変化が比較的顕著であったものについて色素分析を行った。
元株および各形質転換体の花弁を0.1%トリフルオロ酢酸(TFA)を含む50%アセトニトリルに浸潤し、フラボノイドを抽出後、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)によりオーレウシジン6位配糖体およびアントシアニジンの分析を行った。アントシアニジン分析については花弁より抽出したフラボノイドを6N HClに溶解し、沸騰水中に20分間保持することにより加水分解後、アミルアルコールにてフラボノイドを再抽出したものを分析に供した。HPLC条件はそれぞれ以下のとおりである。
まずAU6位配糖体の検出には、SHIM−PACK FC−ODSカラム(50×4.6mm、島津製作所)を用い、移動相にはA液として0.05%TFAを含むHO、B液として0.05%TFAを含むアセトニトリルを用いた。B液10%から23%の直線濃度勾配3分間の溶出後、B液23%で17分間維持し、さらにB液23%から80%の直線濃度勾配2分間の溶出後、B液80%で3分間維持した。さらにB液80%から10%の直線濃度勾配2分間で溶出した。流速は0.8ml/minで行った。検出は360、400nmにおける吸光度、およびPDA検出器SPD−M10AVP(島津製作所)による250−500nmの吸収スペクトルにより行った。本条件下で、THC 4’位配糖体、AU6位配糖体標品はそれぞれ保持時間14.17分および6.19分に溶出される。
次にアントシアニジンはカラムはYMC−ODS−A A312(6×150mm、株式会社ワイエムシー)を用いた。移動相には酢酸、メタノール、HOをそれぞれ60:70:270に混合したものを用い、11分間維持した。検出は520nmにおける吸光度、およびPDA検出器SPD−M10AVP(島津製作所)による400−600nmの吸収スペクトルにより行った。本条件下で、マルビジンは保持時間9.12分に溶出される。
その結果、pSFL201を導入した形質転換体ではTHC4’位配糖体ならびにAU6位配糖体と保持時間および吸収スペクトルが一致する生成物が、それぞれ花弁中に0.02%および0.05%(花弁新鮮重量中のW/W)生成していることが確認された。また宿主が本来含有するアントシアニジン類も形質転換体に存在するため、これら形質転換体で観察された黄色がかった青またはグレーの花色は、THC4’位配糖体ならびAU6位配糖体と、マルビジンなどのアントシアニジン類が共存したためと考えられる。
一方、pSFL307および308を導入した形質転換体ではオーロンの一種であるAU6位配糖体のみと保持時間および吸収スペクトルが一致する生成物が、ともに花弁中に0.09%(花弁新鮮重量中のW/W)生成していることが確認された。pSFL307またはpSFL308が導入された系統では、宿主が本来有するアントシアニジン類が宿主花弁に含まれる当該アントシアニジンの10〜50%と著しく減少していることが確認された。
[実施例11]ゲノミックサザンハイブリダイゼーションによる4’CGT遺伝子導入の確認
実施例10で得られた形質転換体のうち、花弁の色素分析結果からTHC4’位配糖体ならびにAU6位配糖体の蓄積量が比較的多かった系統を、各コンストラクト導入株から3系統ずつ選抜し、ゲノミックハイブリダイゼーションをおこなった。形質転換体の葉、約1gからPhytopure Plant DNA Extraction kit(Amersham)を用い、製造業者推奨の方法によってゲノムDNAを抽出した。得られたゲノムDNA各20μgを制限酵素KpnIで切断し、0.7%アガロースゲル電気泳動にて分離後、常法にしたがってHybond−Nナイロンメンブレンに転写後、ノンラジオアイソトープDIG−核酸検出システムを用い、ハイブリダイゼーションを行った。
4’CGT遺伝子プローブのDIGラベリング、ハイブリダイゼーションならびに検出方法は実施例6同様に製造業者推奨の方法に従った。ハイブリダイゼーションの結果を図2に示す。pSFL201、pSFL307、pSFL308の制限酵素地図を考慮するとゲノミックサザンで検出されたバンドの数から各形質転換体に導入された4’CGT遺伝子コピー数を推定することができる。
pSFL201導入系統については、いずれの系統でも1本のバンドが見られることから1コピーの導入遺伝子を有することが推定される。pSFL307導入系統については、系統番号2および4の個体は1コピー、系統番号13の個体では2本のバンドが見られることから2コピーの4’CGT cDNAが導入されたものと考えられる。pSFL308導入系統については、いずれの系統でも1本のバンドが見られることから1コピーの導入遺伝子を有することが推定される。
[実施例12]定量RT−PCRによる導入遺伝子の発現解析
RNeasy Plant Mini Kit(QIAGEN)を用いて元株および形質転換体各系統のつぼみからtotal RNAを抽出し、得られたtotal RNA 1μgよりSuper ScriptTM First−Strand Synthesis System for RT−PCR(Invitrogen)を用いてcDNAを合成した。得られたcDNAのうち1μlをテンプレートとし、ABI PRISM 7000 Sequence Detection System(Applied Biosystems)にてトレニアDFRとF3Hおよび外来性遺伝子であるASと4’CGTの転写産物の発現定量を行った。製造者が推奨するソフトウェア’Primer Express’にて、各遺伝子を特異的に増幅するようなオリゴプライマーおよび特異的にハイブリダイズするような両末端を蛍光ラベルしたTaq Manプローブを設計し反応に供した。トレニアDFRには、配列番号:54と55のオリゴプライマーおよび配列番号:56のTaq Manプローブを、トレニアF3Hには、配列番号:57と58のオリゴプライマーおよび配列番号:59のTaqManプローブを、ASには配列番号:60と61のオリゴプライマーおよび配列番号:62のTaq Manプローブを、4’CGTには配列番号:63と64のオリゴプライマーおよび配列番号:65のTaq Manプローブを用いて発現定量を行った。
トレニアDFR
SWB DFR−1158F

SWB DFR−1223R

SWB DFR−1180T

トレニアF3H
Torenia F3H−1035F

Torenia F3H−1101R

Torenia F3H−1055T

AS
AmAS−1545F

AmAS−1638R

AmAS−1582T

4’ CGT
AmGTcg12−908F

AmGTcg12−966R

AmGTcg12−929T

また内在性コントロールとして、トレニアのグリセルアルデヒドリン酸デヒドロゲナーゼ(GAPDH)を用いた。オリゴプライマーにはSWB GAPDH−794F(5’−GCA TTG AGC AAG ACG TTT GTG−3’)(配列番号:66)とSWB GAPDH−859R(5’−ACG GGA ACT GTA ACC CCA TTC−3’)(配列番号:67)を、Taq ManプローブにはSWB GAPDH−816T(5’−AGC TTG TGT CGT GGT ACG−3’)(配列番号:68)を用いた。
反応液は、元株または形質転換体各系統のcDNA,1x Taq Man Universal Master Mix(Applied Biosystems),オリゴプライマー各100nM,Taq Manプローブ100nMからなる総体積50μlに調整した。反応条件は、50℃で2分、95℃、10分反応させた後、95℃、15秒、60℃、1分の反応を40サイクル行いPCRでの増幅産物の生成過程をリアルタイムで検出した。その結果、pSFL201導入系統では導入したAS,4’CGTがともに高発現していることを確認した。pSFL307導入系統では導入したAS,4’CGTがともに発現し、内在性のDFRmRNAが元株に比べて約10%程度にまで抑制されていることが確認された。また、pSFL308導入系統においては導入したAS,4’CGTがともに発現し、内在性のF3HmRNAが元株に比べて約5%程度にまで抑制されていることが確認された。
[実施例13]4’CGTのPHCに対する配糖化活性の測定
黄色キンギョソウ花弁内においてPHC4’位配糖体が確認されており(Sato,T.,et al.Plant Sci.160,229−236(2001))、ASがこれらPHCおよびPHC4’位配糖体を基質としてブラクテアチンおよびブラクテアチン6位配糖体を生成できることが知られている。4’CGTがPHCの4’位の配糖化反応を触媒できるかどうかを明らかにするために、4’CGTのPHCに対する配糖化活性を測定した。実施例5−2にしたがって、大腸菌で発現した組換え4’CGTを用いて実施例3−2と同様の方法で樹脂に固定したPHCを基質として、酵素反応を行った。HPLC分析条件は以下の通りである。
カラムはYMC−ODS−A312(6mmφx150mm、株式会社ワイエムシー)を用いて、移動相にはA液として2%酢酸を含むHO、B液としてメタノールを用い、B液15%からB液40%の直線濃度勾配22分間の溶出後、B液40%で5分間維持し、さらにB液40%からB液62%の直線濃度勾配で14分間溶出後、B液62%で2分間維持した。流速は1.0ml/分で行った。検出は360nmにおける吸光度、及びPDA検出器SPD−M10AP(島津製作所)による220−400nmの吸収スペクトルを測定することにより行った。この条件で、THCは保持時間38.2分に溶出され、THC2’位配糖体は27.7分、THC4’位配糖体は30.0分、PHCは32.4分、PHC4’位配糖体は24.3分に溶出される。pSPB1768を発現する大腸菌抽出液とPHCの反応液中に見出されたPHC配糖体は、本条件による分析で24.3分に溶出されたので、PHC4’位配糖体であると同定した。pQE61ベクターのみを発現させた大腸菌から同様に調製した粗抽出液とPHCを反応させた場合には、PHC配糖体は検出されなかった。したがって、PHC4’位配糖体はpSPB1725にコードされるGTによって生じた産物であると考えられる。以上の結果から、pSPB1725cDNAにコードされるGTはPHCの4’位の水酸基にグルコースを配糖化する活性を有することが確認された。以上の結果から、4’CGTはTHCの4’位の配糖化のみならずPHCの4’位の配糖化反応を触媒することが示された。
[実施例14]形質転換トレニアを用いた4’CGTおよびASの機能解析
14−1 コンストラクトの構築
実施例7に記載のpSFL203からPacIで2.4kbの4’CGTの発現カセット部分を切り出し、これをpBINPLUSのPacIサイトに導入したものをpSFL209とした。pSFL209は植物体内において4’CGTを単独で発現させるものである。
実施例9に記載のpSFL313からAscIで2.7kbのF3H発現抑制用カセットを切り出し、これをpBINPLUSのAscIサイトに導入したものをpSFL210とした。pSFL210は、トレニア植物体内においてトレニアのF3H遺伝子の2本鎖RNAを転写させることにより、F3Hの発現を抑制することを意図したものである。
一方、ASについては、特許出願(P2003−293121)にあるpSPB120’のBamHIとXhoIサイトに、実施例7に記載のpSPB251からBamHIとXhoIで切り出したAS cDNA断片を挿入することによって、植物体内でASを発現するベクターpSPB211を得た。
14−2 RT−PCRによる導入遺伝子の発現解析と花色分析
実施例14−1で述べたpSFL209、pSFL210およびpSPB211を実施例10に記載の方法でトレニア(品種サマーウェーブブルー(サントリーフラワーズ株式会社))に導入した。形質転換の方洙はMol.Breeding.6,239,2000に記載の方法にしたがった。選択マーカー耐性を示した個体を選抜した。得られた形質転換体および元株サマーウェブブルー各系統のつぼみからRNeasy Plant Mini Kit(QIAGEN)を用いてtotal RNAを抽出し、得られたtotal RNA 1μgよりSuper ScriptTM First−Strand Synthesis System for RT−PCR(Invitrogen)を用いて逆転写反応を行い、cDNAを合成した。さらにEx Taq(TaKaRa)を用いて製造者の推奨する方法によりRT−PCR反応を実施した。ASのmRNAの増幅にはプライマーAmAS−INSITU−FW(5’−aattatttcccaatgttcaaaaat−3’)(配列番号44)とAmAS−INSITU−RV(5’−tggagctttaggtttgtgaaa−3’)(配列番号45)を、キンギョソウ4’CGTのmRNAの増幅にはプライマーKIR−INSITU−FW(5’−atgggagaagaatacaagaaaac−3’)(配列番号46)とKIR−INSITU−RV(5’−tcttacgataaaacaaactca−3’)(配列番号47)を、内在性F3HのmRNAの増幅にはプライマーT.F3H−923F(5’−ATC ATC GAG CGG TGG TGA A−3’)(配列番号48)とT.F3H−1339R(5’−TGG CCG ACT AGG CAA TAC AAT−3’)(配列番号49)を、さらに内部標準遺伝子としたGAPDHのmRNAの増幅にはプライマーT.GAPDH−F87(5’−CCC TTC TGT TTG GTG AAA AGC C−3’)(配列番号50)とT.GAPDH−R692(5’−CCT CGG ATT CCT CCT TGA TAG C−3’)(配列番号51)を用いた。その結果、pSFL209導入系統では取得した形質転換体41系統のうち、導入したキンギョソウ4’CGT転写物が検出できたのは37系統であったが、いずれの系統においても花色変化は認められなかった。pSFL210導入系統では取得した形質転換体44系統のうち内在性F3’Hの転写物の量が有為に減少していることを検出できたのは37系統であり、これらの系統は白色あるいは紫と白色の混色の花色を示した。さらに、pSPB211導入系統では取得した形質転換体41系統のうち導入したASが発現していることを確認できたのは31系統であり、いずれの系統においても花色変化は認められなかった。
pSFL209導入系統およびpSPB211導入系統は導入した遺伝子の転写産物が検出できた系統について、pSFL210導入系統は花色が白色を示した系統について色素分析を行った。サマーウェブブルーおよび各形質転換体の花弁を0.1%トリフルオロ酢酸(TFA)を含む50%アセトニトリルに浸潤し、フラボノイドを抽出後、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)によりAU6位配糖体およびアントシアニジンの分析を行った。アントシアニジン分析は実施例10に記載のように行った。HPLC条件はそれぞれ以下のとおりである。
まずAU6位配糖体の検出には、Shim−Pack FC−ODSカラム(50×4.6mm、島津製作所)を用い、移動相にはA液として0.05%TFAを含むHO、B液として0.05%TFAを含むアセトニトリルを用いた。B液10%から23%の直線濃度勾配3分間の溶出後、B液23%で17分間維持し、さらにB液23%から80%の直線濃度勾配2分間の溶出後、B液80%で3分間維持した。さらにB液80%から10%の直線濃度勾配2分間で溶出した。流速は0.8ml/分で行った。検出は、360及び400nmにおける吸光度、およびPDA検出器SPD−M10AVP(島津製作所)による250−500nmの吸収スペクトルの測定により行った。本条件下で、THC 4位’配糖体、AU6位配糖体標品はそれぞれ保持時間14.17分および6.19分に溶出される。次にアントシアニジンはカラムはYMC−ODS−A A312(6×150mm、株式会社ワイエムシー)を用いた。移動相には酢酸、メタノール、HOをそれぞれ60:70:270に混合したものを用い、11分間維持した。検出は520nmにおける吸光度、およびPDA検出器SPD−M10AVP(島津製作所)による400−600nmの吸収スペクトルの測定により行った。本条件下で、マルビジンは保持時間9.12分に溶出される。
その結果、pSFL209導入系統ではTHC4’位配糖体と保持時間および吸収スペクトルが一致する生成物が、新鮮花弁重量1gあたり0.036〜0.762mg生成していることが確認された。また宿主が本来含有するアントシアニジン類も存在した。
pSFL210導入系統ではアントシアニジン量は、宿主花弁に含アントシアニジン量の約1%程度に減少していることがわかった。
またpSPB211導入系統では、宿主と比較してフラボノイド色素に変化は認められなかった。いずれの形質転換体においてもオーロン類と保持時間および吸収スペクトルが一致する生成物は検出されなかった。
したがって、F3Hの発現抑制ならびにASの過剰発現だけではカルコン配糖体あるいはオーロンは植物体内で合成されないこと、4’CGTとASの共発現によりオーロンが合成されることが示された。4’CGT単独の過剰発現により、カルコン4’位配糖体を蓄積させることができ、花色の変化に役立つことがわかった。
[実施例15]リナリアからの4’CGTcDNAのクローニング
実施例1と同様にして、リナリア(Linaria bipartita)の蕾及び開花した花の花びらから抽出したRNAを用い、cDNAライブラリーを作製した。蕾由来のRNAから8.0x10pfu/mlのライブラリーが得られ、一方、開花花弁のcDNAを用いたものからは1.0x10pfu/mlのcDNAライブラリーが得られた。
これら各ライブラリーの約3.0x10pfuのファージ、実施例4に記載のキンギョソウのpSPB1725にコードされる4’CGTcDNAをプローブとしてスクリーニングを行った。プローブの標識、ハイブリダイゼーションとその後のメンブレンの洗浄、検出方法は実施例2と同様に行った。その結果、最終的に19個の陽性クローンが得られた。これらのうちカルコン糖転移酵素をコードするcDNAとして期待される長さ(約1.5kb)の8個のcDNAについて塩基配列を決定したところ、これら8クローンは全て同じ配列を有しており、最長のcDNAを有するクローンをpSFL409とした。このcDNAの塩基配列を配列番号:69に示し、それによりコードされるアミノ酸配列を配列番号:70に示す。pSFL409のcDNAにコードされるアミノ酸配列はキンギョソウのカルコン4’位糖転移酵素のものと高いホモロジーを有することが明らかとなった。しかし、キンギョソウのカルコン4’位糖転移酵素cDNAと比較すると、pSFL409cDNAにコードされるアミノ酸配列は開始メチオニンから10bp程度を欠く不完全長cDNAであった。そこで、Gene Racer RACEキット(Invitrogen社)を用い、5’RACE法にて推定開始メチオニンを含む上流のcDNAフラグメントを増幅し、これをpCRII−TOPOベクターにクローニングしたものをpSFL417とした。この完全長を含むリナリアcDNAはキンギョソウ4’位糖転移酵素とアミノ酸レベルで65%配列同一性を示した。
[実施例16]リナリアのcDNAの大腸菌における発現と活性測定
大腸菌発現ベクターpQE61のNcoIサイトとKpnIサイトへ完全長のリナリアcDNAを導入し、大腸菌発現系によって本リナリアcDNAにコードされるタンパク質の活性について解析した。まず、大腸菌発現コンストラクト作製のため、pSFL417を鋳型とし、417−NcoIプライマー(CCCATATATAGCCATGGAAGATACCATCG)(配列番号52)と409−EcoRI(TAGTGTTGTGGAGTCGGGGGATTTCG)(配列番号53)を用いPCRを行った。これにより、pSFL417の開始メチオニンの位置にNcoIサイトが挿入され、3’側にEcoRIサイトが挿入された。これをNcoI/EcoRIで切断したものとpSFL409cDNAをEcoRI/KpnIで切断したものを、大腸菌発現ベクターpQE61のNcoI/KpnIサイトにクローニングし、完全長リナリアcDNAを有する大腸菌発現用コンストラクト(pSFL418)が得られた。
これを大腸菌JM109に導入し、実施例12と同様にして組換えタンパク質の活性測定を行った。基質にTHCを用い、pSFL418を有する大腸菌抽出液を反応させた場合は保持時間30.0分にTHCの4’位配糖体が検出された。一方、対照実験として、pQE61ベクターを有する大腸菌抽出液をTHCに反応させた場合は、THCの4’位配糖体は全く検出されなかった。さらに実施例12にしたがって、PHCに対する配糖化活性を測定した。その結果、pSFL418を有する大腸菌抽出液を反応させた場合には保持時間24.3分にPHC4’位配糖体が検出された。一方対照実験ではPHC配糖体は検出されなかった。以上の結果から、SFL418にクローニングされたリナリアのcDNAは4’CGTをコードするものと考えられる。
【図1】

【図2】

【図3】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
カルコン類の4’位に糖を転移する活性を有するタンパク質をコードする遺伝子。
【請求項2】
配列番号2又は70に記載のアミノ酸配列を有する請求項1記載の遺伝子。
【請求項3】
配列番号1又は69に記載する塩基配列の一部または全部に対して、5xSSC、50℃の条件下でハイブリダイズし、かつカルコン類の4’位に糖を転移する活性を有する蛋白質をコードする請求項1記載の遺伝子。
【請求項4】
配列番号2又は70に記載のアミノ酸配列に対して1個又は複数個のアミノ酸の付加、欠失及び/又は他のアミノ酸による置換によって修飾されているアミノ酸配列を有し、カルコン類の4’位に糖を転移する活性を有するタンパク質をコードする請求項1に記載の遺伝子。
【請求項5】
配列番号1又は69に記載する塩基配列の一部または全部からなるDNAとストリジェントな条件下でハイブリダイズし、かつカルコン類の4’位に糖を転移する活性を有するタンパク質をコードする請求項1記載の遺伝子。
【請求項6】
ゴマノハグサ科由来である請求項1〜5のいずれか1項に記載の遺伝子。
【請求項7】
キンギョソウ又はリナリア由来である、請求項6に記載の遺伝子。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか1項に記載の遺伝子を含んでなるベクター。
【請求項9】
請求項8に記載のベクターにより形質転換された宿主細胞。
【請求項10】
請求項1〜7のいずれか1項に記載の遺伝子によってコードされるタンパク質。
【請求項11】
請求項9に記載の宿主細胞を培養し又は生育させ、当該宿主細胞からカルコン類の4’位に糖を転移する活性を有するタンパク質を採取することを特徴とする該タンパク質の製造方法。
【請求項12】
請求項1〜7のいずれか1項に記載の遺伝子が導入された植物体もしくは当該植物体と同一の性質を有する該植物体の子孫となる植物体、栄養増殖した植物、またはそれら植物体の組織。
【請求項13】
請求項12に記載の植物体の切り花。
【請求項14】
請求項1〜7のいずれか1項に記載の遺伝子を用いてカルコン類の4’位に糖を転移する方法。
【請求項15】
請求項1〜7のいずれか1項に記載の遺伝子を植物体に導入・発現して得られる、花色が改変された当該植物体もしくは当該植物体と同一の性質を有する該植物体の子孫となる植物体。
【請求項16】
花色が黄色味を帯びていることを特徴とする請求項15に記載の植物体。
【請求項17】
請求項1〜7のいずれか1項に記載の遺伝子と共にオーレウシジン合成酵素をコードする遺伝子を植物体に導入、発現させ、花色を黄色く改変させる方法。
【請求項18】
請求項1〜7のいずれか1項に記載の遺伝子と共にオーレウシジン合成酵素をコードする遺伝子を植物体に導入、発現させ、さらに宿主のフラボノイド合成系遺伝子の発現を抑制することによって花色を黄色く改変させる方法。
【請求項19】
請求項1〜7のいずれか1項に記載の遺伝子と共にオーレウシジン合成酵素をコードする遺伝子を植物体に導入、発現させ、さらに宿主のジヒドロフラボノール還元酵素遺伝子の発現を抑制することによって花色を黄色く改変させる方法。
【請求項20】
請求項1〜7のいずれか1項に記載の遺伝子と共にオーレウシジン合成酵素をコードする遺伝子を植物体に導入、発現させ、さらに宿主のフラバノン3−水酸化酵素遺伝子の発現を抑制することによって花色を黄色く改変させる方法。

【国際公開番号】WO2005/059141
【国際公開日】平成17年6月30日(2005.6.30)
【発行日】平成19年7月12日(2007.7.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−516394(P2005−516394)
【国際出願番号】PCT/JP2004/019461
【国際出願日】平成16年12月17日(2004.12.17)
【出願人】(599093731)インターナショナル フラワー ディベロプメンツ プロプライアタリー リミティド (5)
【Fターム(参考)】