説明

フラン樹脂中のホルムアルデヒドの分析方法

【課題】分析精度の高い、高速液体クロマトグラフィーによるフラン樹脂中のホルムアルデヒドの分析方法を提供する。
【解決手段】ポストカラム誘導化高速液体クロマトグラフ法によりフラン樹脂中のホルムアルデヒドを分析する際に、プレカラムとして逆相液体クロマトグラフカラムを、メインカラムとしてサイズ排除クロマトグラフカラムを用いる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高速液体クロマトグラフィー(以下HPLCと略)を用いたフラン樹脂中のホルムアルデヒドの分析方法及び装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
溶液中のホルムアルデヒド分析方法としては、例えば、以下のものが知られている。
方法(1)塩化アンモニウム法:試料溶液を水酸化ナトリウムで中和し、塩化アンモニウムと一定量の水酸化ナトリウムを加え、生成するアンモニアがホルムアルデヒドと反応してヘキサメチレンテトラミンとなるので、残っているアンモニアを酸で滴定する。
方法(2)塩酸ヒドロキシルアミン法:ホルムアルデヒドは塩酸ヒドロキシルアミンと反応して塩酸を遊離するので、これをアルカリで滴定し定量する。
方法(3)ガスクロ法:試料をそのまま、あるいは2,4−ジニトロフェニルヒドラジン誘導体化して分析する。
方法(4)ラウリルアミン法:試料溶液をアルコール・ベンゼン混液に溶解し、ラウリルアミンのエチレングリコール・イソプロピルアルコール溶液を加え、サリチル酸で電位差滴定する。
方法(5)アセチルアセトン法:ホルムアルデヒドはアセチルアセトンおよびアンモニアあるいはアンモニウム塩と反応してジアセチルジヒドロルチジンを生じる。これは黄色を示し、412nmに吸収があるのでその強度を測定して定量される。
【0003】
また、カラム分離した試料と所定の反応薬とを反応させて蛍光物質等に誘導して定量する、いわゆるポストカラムHPLC法が知られており、特許文献1には、ポストカラムHPLC法において、ポストラベル反応試薬としてヒドラジン又はその誘導体を用いるアルデヒド類の測定方法及びアルデヒド類の測定装置が開示されている。また、特許文献2には、ポリエステル樹脂に含まれる微量のアルデヒドを定量分析する際に使用し得るアルデヒド誘導体を含有する溶液に関する技術が開示されており、当該溶液を液体クロマトグラフにより分析してアルデヒドを定量する方法が開示されている。
【0004】
ポストカラムHPLC法では、分析カラム(メインカラム)を汚染から防ぎ、長寿命化するために、プレカラムもしくはガードカラムが、メインカラムの上流に設置されることがある。通常、プレカラムもしくはガードカラムには、メインカラムと同じ種類且つ粒子径の充填剤、同じ内径のカラムが用いられる。
【特許文献1】特開2000−266739号
【特許文献2】特開2005−351838号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、これらの方法のうち、方法(1)は指示薬滴定法のため、フラン樹脂のような褐色を呈した試料の場合、滴定終点が見極めにくく、特にホルムアルデヒドの含有量が少ない場合、測定精度に課題がある。方法(2)では、遊離した塩酸により、酸硬化性であるフラン樹脂の縮合反応を起こし、その反応により発生すると考えられるホルムアルデヒドが懸念される。また方法(3)では、インジェクション部の温度による影響が懸念される。方法(4)は、フラン樹脂中のフルフラールも同時に定量されてしまう課題がある。一方、方法(5)は、ポストカラム法として、HPLC法と組み合わされて分析される場合、試料の種類によっては、ホルムアルデヒドとフラン樹脂中の他成分の分離が十分でない場合があり、分析精度の点で満足できるものではなかった。また、前記特許文献1、2の方法でも分析精度のさらなる向上が望まれる。
【0006】
本発明の課題は、分析精度の高い、高速液体クロマトグラフィーによるフラン樹脂中のホルムアルデヒドの分析方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、ポストカラム誘導化高速液体クロマトグラフ法によりフラン樹脂中のホルムアルデヒドを分析する方法であって、プレカラムとして逆相液体クロマトグラフカラムを、メインカラムとしてサイズ排除クロマトグラフカラムを用いる、フラン樹脂中のホルムアルデヒドの分析方法に関する。
【0008】
また、本発明は、移動相供給装置、試料注入装置、分離カラム、反応試薬供給装置、検出器を含む、高速液体クロマトグラフ法によるフラン樹脂中のホルムアルデヒドの測定装置であって、前記分離カラムが、逆相液体クロマトグラフカラムと、試料の移動経路において該逆相液体クロマトグラフカラムの下流に位置するサイズ排除クロマトグラフカラムとを含んで構成される、ホルムアルデヒドの測定装置に関する。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、フラン樹脂中のホルムアルデヒドを簡易かつ選択的に高感度で検出できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明では、逆相液体クロマトグラフカラムとサイズ排除クロマトグラフカラムとが用いられる。
【0011】
本発明の分析方法は、ポストカラム誘導化高速液体クロマトグラフ法において、プレカラムとして逆相液体クロマトグラフカラムを、メインカラムとしてサイズ排除クロマトグラフカラムを用いるフラン樹脂中のホルムアルデヒドの分析方法である。この方法によって、フラン樹脂中のホルムアルデヒドを簡易かつ選択的に高感度で検出できる。
【0012】
このように格別優れた効果が発現されるのは定かではないが、プレカラムとして逆相液体クロマトグラフカラムを用いることにより、フラン樹脂中のホルムアルデヒドと、その他の成分とを十分に分離できる結果、サイズ排除クロマトグラフカラムであるメインカラムにより、ホルムアルデヒドが選択的に高感度で検出できるものと考えられる。
【0013】
本発明においてプレカラムとして用いられる逆相液体クロマトグラフカラムとしては、シリカゲルを基材としてこれに任意の炭化水素基を結合してなるものをステンレス製等のカラムに充填したものであり、例えば、オクタデシル基をシリカゲルに結合してなるものをカラムに充填したオクタデシルシリル化シリカゲル( O D S ) カラムの他、オクタデシル基にかえて、オクチル基、ブチル基、トリメチル基、トリメチルシリル基、フェニル基、シアノプロピル基、アミノプロピル基、ジオール基等をシリカゲルに結合してなるものを充填したカラムなどが挙げられる。本発明においては、O D S カラム(例えば、LiChroprepR RP-18 (25-40μm) MERCK製)が好ましい。
【0014】
本発明においてメインカラムとして用いられるサイズ排除クロマトグラフカラムとしては、平均粒径2〜20μm程度、平均孔径10〜50Å程度の架橋ポリスチレンを固定相として所定のカラムに充填したものが挙げられる。尚、架橋ポリスチレンの平均粒径はコールターカウンター法により、また平均孔径は液体クロマトグラフィー法により測定した値である。カラムを構成する架橋ポリスチレンとしては、多孔性スチレン−ジビニルベンゼン系重合体球状微粒子が好ましく、スチレン−ジビニルベンゼン系重合体としては、スチレン−ジビニルベンゼン共重合体、ジビニルベンゼン重合体、エチルビニルベンゼン−ジビニルベンゼン共重合体、スチレン−エチルビニルベンゼン−ジビニルベンゼン三元共重合体等が挙げられる。本発明においては、スチレン−ジビニルベンゼン共重合体や、スチレン−ジビニルベンゼン共重合体にスルホン酸基を結合された陽イオン交換樹脂を使用しているカラム(例えば、Shim-pack SCR-101N 島津製作所製)等が好ましい。
【0015】
移動相としては、水、特に、蒸留水、超純水、または脱イオン水が好ましい。
【0016】
また、本発明において、ホルムアルデヒド発色試薬で発色定量するには、フロログルシン法、ヨウ素法、アセチルアセトン法、クロモトロープ酸法を用いることができ、その中でもアセチルアセトン法が好ましい。アセチルアセトン法を用いる場合、アセチルアセトンは0.01〜1.0mol/Lの濃度で使用可能であるが、0.05〜0.5mol/Lの範囲で使用するのが好ましい。溶液は0.1〜2.0mol/L、好ましくは1.0〜2.0mol/Lの酢酸アンモニウムと少量(約0.05mol/L)の酢酸を含有する緩衝溶液(pH5.0〜6.5)とするのが好ましい。発色反応は50〜90℃、好ましくは70〜80℃で行われる。
【0017】
発色定量法としては、比色及び蛍光定量いずれも使用することができるが、蛍光分光光度計による定量が好ましい。
【0018】
次に、本発明のホルムアルデヒドの測定装置を、図1に基づき、液の流れに従って順次説明する。本発明の装置は、移動相供給装置、試料注入装置、分離カラム、反応試薬供給装置、検出器を含む、高速液体クロマトグラフ法によるフラン樹脂中のホルムアルデヒドの測定装置であって、前記分離カラムが、逆相液体クロマトグラフカラムと、試料の移動経路(移動相の移動経路)において該逆相液体クロマトグラフカラムの下流に位置するサイズ排除クロマトグラフカラムとを含んで構成される。該装置は、フラン樹脂中のホルムアルデヒドの分析装置であって、その機能から、(A)ホルムアルデヒド分離部と(B)ホルムアルデヒド発色定量部とに分けられる部分を含む。
【0019】
(A)ホルムアルデヒド分離部
分離部は、恒温槽(10)に入れられた分離カラム(プレカラム(7)、ガードカラム(8)、メインカラム(9))を含んで成り、分離カラムには試料を供給するためのインジェクター(6)及び、移動相(2)を供給するための送液ポンプ(4)、デガッサー(3)が連結されている。尚、ガードカラムは、必須ではないが、メインカラムを汚染から防ぎ長寿命化する観点から、ガードカラムを使用することが好ましい。ガードカラムは、通常、メインカラムの種類と同様なものが使用される。
【0020】
(B)ホルムアルデヒド発色定量部
発色定量部は、化学反応槽(12)に入れられた発色反応用コイル(11)及び、ホルムアルデヒドを発色定量するための蛍光検出器(13)とから成り、反応コイル(11)の入口部には発色液(1)を供給するための送液ポンプ(5)が連結されている。
【0021】
反応コイル(11)の管径及び長さは、試料の流速、反応時間及び検出感度等に応じて適宜選択可能であるが、内径は0.25〜1.0mmのものが好ましく、また長さは5〜20mの範囲であれば使用できる。
【0022】
以上の如く、本発明装置は構成されるものであるが、更に蛍光検出器(13)に、システムコントローラ(14)及びワークステーション(15)を接続すれば、目的とするホルムアルデヒドの分析をより迅速に行うことができ、有利である。
【0023】
次に、本発明に用いる装置の作動について説明する。
まず、試料インジェクター(6)により分離カラム(プレカラム(7)、ガードカラム(8)、メインカラム(9))に試料を注入し、次いでこれを送液ポンプ(4)により移動相液(2)を送液して溶出を行い、ホルムアルデヒドを連続的に分離する。次に、この溶出液に随時送液ポンプ(1)により発色液(1)を送液し、反応コイル(11)の中で発色反応を行い、ホルムアルデヒドを蛍光検出器(13)を用いて発色定量する。これにより実施例に示すようなクロマトグラムが得られる。尚、ホルムアルデヒドのピークの同定と定量は、市販の標準物質を注入し、保持時間を比較するとともに、あらかじめ作成した検量線により行うことができる。
【実施例】
【0024】
図1に示す装置を用い、以下に示す測定条件において、花王クエーカー株式会社製フラン樹脂「カオーライトナー EF−5102」の分析を行った。その際、プレカラム(8)を設置した場合(実施例1)のクロマトグラムを図2に、また、プレカラム(8)を設置しない場合(比較例1)のクロマトグラムを図3に示した。比較例1では、図3のクロマトグラムからわかるように、実施例1に比べてホルムアルデヒドとその他フラン樹脂中成分のピークの分離が十分でなく、分析精度という面で問題がある。
【0025】
(1)分離条件
プレカラム:充填剤(LiChroprep RP-18(25-40μm)(MERCK製)
ガードカラム:SCR(N)(島津製作所製)
メインカラム:SCR−101N(島津製作所製)
移動相:蒸留水
移動相流速:1.0ml/min(ポンプ:LC−10AS(島津製作所製))
カラム温度:25℃
【0026】
(2)分析条件
試料注入量:40μL(オートインジェクター:SIL−20A(島津製作所製))
発色液:酢酸アンモニウム150g+蒸留水1L+酢酸3mL+アセチルアセトン5mL
発色液流速:0.5ml/min(ポンプ:LC−10AS(島津製作所製))
反応コイル:内径0.5mm×長さ10m
反応温度:80℃(化学反応槽:CRB−6A(島津製作所製))
発色定量蛍光検出器:励起波長 395nm, 蛍光波長 545nm(RF−10AXL(島津製作所製))
【0027】
(3)データ処理
制御:システムコントローラ(CBM−20A(島津製作所製))
ワークステーション:LC−solution(島津製作所製))
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明のホルムアルデヒドの測定装置の概略図。
【図2】実施例1の測定結果を示すクロマトグラム。
【図3】比較例1の測定結果を示すクロマトグラム。
【符号の説明】
【0029】
(7):逆相液体クロマトグラフカラム(プレカラム)
(8):ガードカラム
(9):サイズ排除クロマトグラフカラム(メインカラム)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポストカラム誘導化高速液体クロマトグラフ法によりフラン樹脂中のホルムアルデヒドを分析する方法であって、プレカラムとして逆相液体クロマトグラフカラムを、メインカラムとしてサイズ排除クロマトグラフカラムを用いる、フラン樹脂中のホルムアルデヒドの分析方法。
【請求項2】
移動相供給装置、試料注入装置、分離カラム、反応試薬供給装置、検出器を含む、高速液体クロマトグラフ法によるフラン樹脂中のホルムアルデヒドの測定装置であって、前記分離カラムが、逆相液体クロマトグラフカラムと、試料の移動経路において該逆相液体クロマトグラフカラムの下流に位置するサイズ排除クロマトグラフカラムとを含んで構成される、ホルムアルデヒドの測定装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−51762(P2008−51762A)
【公開日】平成20年3月6日(2008.3.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−230703(P2006−230703)
【出願日】平成18年8月28日(2006.8.28)
【出願人】(000000918)花王株式会社 (8,290)