説明

フラーレン高分子およびその製造方法

【課題】フラーレン間の分子間相互作用を効果的に減少させることができる共モノマー構造を設計してフラーレンと重合することで、ネットワーク型構造を採用して溶媒可溶な高分子量体フラーレンを提供する。
【解決手段】アルキル長鎖を有する多価ホルミル芳香族化合物、アミノ酸およびフラーレンを反応させて、フラーレンを架橋部位とするネットワーク構造を有するフラーレン高分子を得ることを特徴とするフラーレン高分子の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フラーレン高分子およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
1985年に発見されたフラーレンを材料として応用するために、フラーレンを含む高分子の合成研究が続けられてきた。しかしながら、フラーレンは非常に強い分子間相互作用(π−π相互作用)のため溶媒への溶解性が低く、成形加工しにくいことが問題となっている。高分子にフラーレンを部分導入することで機械強度の向上を達成した例も存在するが、フラーレン機能を最大限活かすため高密度にフラーレンを含有した高分子を設計・合成すると不溶不融になっていた。このように、高分子中のフラーレン密度が増加すると急激に溶解性が減少する問題があり、フラーレンを高密度に含有する可溶性高分子の合成は難しかった。
【0003】
溶媒可溶な高密度フラーレン高分子を得る分子設計には以下の3種類が考えられる。
(a)高分子主鎖中にフラーレンを配置する。
(b)高分子の側鎖にフラーレンを配置する。
(c)ネットワーク構造の架橋部位としてフラーレンを用いる。
【0004】
(a)主鎖型と(b)側鎖型のアプローチで得られる高分子は直線状であるのに対し、(c)ネットワーク型は三次元構造である。特に、デンドリマーやハイパーブランチポリマーと異なり、ネットワーク型高分子は架橋構造が溶解性を大きく減少させるため、これまで溶媒可溶な高分子合成には向いていないと考えられてきた。そのため、従来のアプローチは(a)主鎖型および(b)側鎖型が主であり、(c)ネットワーク型はほとんど試みられていなかった。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】T. Michinobu, T. Nakanishi, J. P. Hill, M. Funahashi, K. Ariga, J. Am. Chem. Soc. 128, 10384-10385 (2006)
【非特許文献2】F. Giacalone, N. Martin, Chem. Rev. 106, 5136-5190 (2006)
【非特許文献3】N. Martin, F. Giacalone Eds. “Fullerene Polymers” Wiley-VCH, Weinheim, 2009
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、フラーレン間の分子間相互作用を効果的に減少させることができる共モノマー構造を設計してフラーレンと重合することで、フラーレンをネットワーク型構造の架橋部位として、溶媒可溶な高分子量体フラーレンを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本願発明は、上記の課題を解決するために以下の発明を提供する。
(1)アルキル長鎖を有する多価ホルミル芳香族化合物、アミノ酸およびフラーレンを反応させて、フラーレンを架橋部位とするネットワーク構造を有するフラーレン高分子を得ることを特徴とするフラーレン高分子の製造方法。
(2)多価ホルミル芳香族化合物のアルキル長鎖が炭素数8〜24のアルコキシ基またはアルキル基である上記(1)に記載のフラーレン高分子の製造方法。
(3)多価ホルミル芳香族化合物のアルキル長鎖が炭素数12〜22のアルコキシ基またはアルキル基である上記(1)または(2)に記載のフラーレン高分子の製造方法。
(4)多価ホルミル芳香族化合物の芳香族構造単位がベンゼン環、ナフタレン環、アントラセン環、ピレン環、ビフェニル環、フルオレン環またはカルバゾール環である上記(1)〜(3)のいずれかに記載のフラーレン高分子の製造方法。
(5)アミノ酸がグリシンまたはその置換体である上記(1)〜(4)のいずれかに記載のフラーレン高分子の製造方法。
(6)フラーレンがC60、C70、C72、C74、C76、C84またはそれらの金属内包物ある上記(1)〜(5)のいずれかに記載のフラーレン高分子の製造方法。
(7)反応が溶媒中で行われる上記(1)〜(6)のいずれかに記載のフラーレン高分子の製造方法。
(8)反応が不活性ガス雰囲気下で行われる上記(1)〜(7)のいずれかに記載のフラーレン高分子の製造方法。
(9)フラーレンと多価ホルミル芳香族化合物のモノマー仕込み比が1/5〜5である上記(1)〜(8)のいずれかに記載のフラーレン高分子の製造方法。
(10)多価ホルミル芳香族化合物が2,4−ジホルミル−1,3,5−トリス(オクタデシルオキシ)ベンゼン、アミノ酸がN−メチルグリシン、およびフラーレンがC60である上記(1)〜(9)のいずれかに記載のフラーレン高分子の製造方法。
(11)1つのフラーレン上にピロリジン環が1〜6個形成されており、1つのフラーレン上のピロリジン環が、アルキル長鎖を有する芳香族構造単位を介して他のフラーレン上のピロリジン環に連結されることにより、三次元網目状に架橋されたフラーレン高分子。
(12)芳香族構造単位のアルキル長鎖が炭素数8〜24のアルコキシ基またはアルキル基である上記(11)に記載のフラーレン高分子。
(13)芳香族構造単位のアルキル長鎖が炭素数12〜22のアルコキシ基またはアルキル基である上記(11)または(12)に記載のフラーレン高分子。
(14)芳香族構造単位がベンゼン環、ナフタレン環、アントラセン環、ピレン環、ビフェニル環、フルオレン環またはカルバゾール環を含む上記(11)〜(13)のいずれかに記載のフラーレン高分子。
(15)末端フラーレン上にピロリジン環が1個形成されている上記(11)〜(14)のいずれかに記載のフラーレン高分子。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、フラーレン間の分子間相互作用を効果的に減少させることができる共モノマー構造を設計してフラーレンと重合することで、ネットワーク型構造を採用して溶媒可溶な高分子量体フラーレンを提供し得る。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明に係るフラーレン高分子のGPC光散乱法による分子量測定結果を示す図。
【図2】本発明に係るフラーレン高分子の分子サイズを小角X線散乱より求めた図。
【図3】本発明に係るフラーレン高分子の原子間力顕微鏡(AFM)観察写真。
【図4】本発明に係るフラーレン高分子の紫外可視吸収スペクトル。
【図5】本発明に係るフラーレン高分子のサイクリックボルタモグラム図。
【図6】本発明に係るフラーレン高分子の溶液をポリテトラフルオロエチレン板状にキャストして得られた濃赤色薄膜をピンセットで保持している写真。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明のフラーレン高分子の製造方法においては、アルキル長鎖を有する多価ホルミル芳香族化合物、アミノ酸およびフラーレンを反応させて、フラーレンを架橋部位とするネットワーク構造を有するフラーレン高分子を得ることができる。
【0011】
共モノマーの1つである多価ホルミル芳香族化合物の芳香族構造単位としては、ベンゼン環、ナフタレン環、アントラセン環、ピレン環、ビフェニル環、フルオレン環またはカルバゾール環が好適であるが、合成上の点から、ベンゼン環が最適である。
【0012】
そして、本発明においては、多価ホルミル芳香族化合物はアルキル長鎖を有し、そのために通常炭素数8〜24のアルコキシ基またはアルキル基、さらに好ましくは炭素数12〜22のアルコキシ基またはアルキル基、を有する。アルキル長鎖の数は、3個が最も好ましいが、2個または4個以上であってもよい。すなわち、多価ホルミル芳香族化合物は、上記のアルコキシ基またはアルキル基を、隣合わない位置に3個有するのが最適である。本発明において、多価ホルミル芳香族化合物は上記のアルキル長鎖を有するので、フラーレン間の相互作用を抑制し、得られるフラーレン高分子の溶解性を確保することができる。多価ホルミル芳香族化合物は、通常2つ以上のホルミル基を有するものが使用される。多価ホルミルとしては、ジホルミルが好適であり、以下、多価ホルミル芳香族化合物として主にジホルミル芳香族化合物の場合について説明するが、他のトリホルミル等の多価ホルミルも使用され得る。
【0013】
アルキル長鎖を有するジホルミル芳香族化合物としては、たとえば2,4−ジホルミル−1,3,5−トリス(オクタデシルオキシ)ベンゼン、2,4−ジホルミル−1,3,5−トリス(ヘキサタデシルオキシ)ベンゼン、1,6−ジホルミル−2,5,7−トリス(オクタデシルオキシ)ナフタレン、2,7−ジホルミル−3,6,9−トリス(ヘキサデシルオキシ)アントラセン、等が挙げられる。
【0014】
一方の共モノマーであるアミノ酸としては、グリシン等、またはその置換体が挙げられ、たとえばN−メチルグリシン、N−エチルグリシン等が好適に使用される。
【0015】
フラーレンとしては、特に制限されないが、通常C60、C70、C72、C74、C76、C84またはそれらの金属内包物であり、これらはよく知られているが、C60が最も一般的である。
【0016】
上記のジホルミル芳香族化合物は、上記のアミノ酸と反応してアゾメチンイリドを形成し、フラーレンの6員環と6員環との間の二重結合に1,3−双極子付加反応が生じて、その結果フラーレン上に5員環、すなわちピロリジン環が形成されると考えられる。ここで、ジホルミル芳香族化合物の2つのホルミル基は、異なるフラーレン上に形成されたピロリジン環となる。すなわち、アゾメチンイリドとフラーレン間においては重付加反応となる。
【0017】
こような反応は通常溶媒中で行われるが、溶媒としては、有機溶媒が一般的に用いられ、たとえばジクロロベンゼン、ベンゼン、ジクロロメタン、テトラヒドロフラン、クロロホルム等が挙げられる。
【0018】
反応は、窒素、アルゴン等の不活性ガス雰囲気下で行われるのが好適である。
【0019】
ジホルミル芳香族化合物、アミノ酸およびフラーレンの仕込み比は、得られるフラーレンポリマーの分子量、末端構造等を調節するためにFlory式(P. J. Flory, Principles of Polymer Chemistry, Cornell Univ. Press, Ithaca, N.Y., 1953)に従い適宜選定される。
【0020】
すなわち、多官能性モノマー間の重合は上記文献のようにFloryにより詳細に研究されている。一般に2官能性モノマーとf官能性モノマーの重縮合の場合、分子内環化反応がないと仮定すると仕込み官能基比aが1/(f-1)<a<(f-1)の時、無限に重合が進行しゲル化することが理論予測されている。一方、a<1/(f-1)およびa>(f-1)の時は、溶媒可溶なオリゴマーが得られることになる。
【0021】
本発明においては、上記のように、2官能性のジホルミルベンゼン誘導体モノマーとC60の重縮合反応が実施される。C60は6官能性モノマーとして機能できるとの報告例もあるが、本発明の2官能性のジホルミルベンゼン誘導体は嵩高い置換基を有するため、C60が6官能性モノマーとして機能できるかは不明である。そのため、まず、C60の官能基数fを見積もるため、いくつか仕込み官能基比が異なる重合条件を試す。生成するゲル量あるいは可溶高分子の分子量(分子サイズ)よりC60の官能基数fを算出できる。また、その結果より、得られた高分子の溶媒溶解性と分子量(分子サイズ)の相関を明らかにする。溶媒溶解性は、可視吸収測定強度の濃度依存性から見積ることができる。また、光散乱より分子量を算出し、小角X線散乱および原子間力顕微鏡測定より実際の分子サイズを決定することができる。
【0022】
反応温度および時間は、目的に応じて適宜選定されるが、通常80〜150℃、3 〜24時間、程度から選ばれる。
【0023】
反応終了後、反応生成物は、常法により溶媒が除去され、オリゴマーが溶解する程度の貧溶媒に再沈殿またはソックスレー抽出により精製される。
【0024】
次に、本発明の好適な1つの態様例についてさらに詳細に説明する。共モノマーであるジホルミルベンゼン誘導体は、フロログルシノール(1,3,5-トリヒドロキシベンゼン)を出発物質とし、臭化アルキルとのWilliamson反応によりアルコキシ基構築、続くVilsmeier反応により二つのホルミル基を導入して得た。フラーレン間相互作用を抑制できる十分長いアルキル鎖として、オクタデカン(C18H37-)を採用した。
【0025】
C60とジホルミルベンゼン誘導体の重合は、o-ジクロロベンゼン中、過剰量のN-メチルグリシン存在下、窒素雰囲気下、125℃で24時間反応させた。C60:ジホルミルベンゼン誘導体の仕込みモル比は、1:1、1:1.5、1:2、1:2.5、1:3で実施した。反応終了後、ろ過して不溶物を除去回収した後、可溶成分はメタノールに再沈澱精製して目的高分子とした。
【0026】
【化1】

【0027】
全ての重合条件で、溶媒可溶な高分子が得られた。C60:ジホルミルベンゼン誘導体の仕込み比が1:1.5および1:2の時のみ少量の不溶物が得られたが、その量は1%以下と無視できるものであった。
【0028】
まず、有機溶媒への溶解性を調べたところ、ジクロロメタン、ベンゼン、テトラヒドロフラン、クロロホルムに可溶であった。また、ヘキサンにも少量溶解することが分かった。溶解性は、ジホルミルベンゼン誘導体の仕込み比が多くなるにつれて向上した。試験した溶媒の中ではベンゼンへの溶解性が最も高く、仕込みモノマー比1:3の高分子の溶解度は約10 g L-1であった。アルキル長鎖が高分子の溶解性向上に大きく寄与していることを示している。クロロホルム中、30℃で粘度測定したところ、仕込みモノマー比が1:1および1:1.5の時、すなわちC60比率が大きい時に、極限粘度が0.0427および0.0449 dL g-1と大きいのに対し、C60の仕込み比率が小さい時は0.007〜0.01 dL g-1と粘度の低下を示した。これは、フラーレン間のπ−π相互作用が粘性の主な原因であり、溶解性の低下と密接に関連していることを示唆している。
【0029】
次に、GPC光散乱法を用いて分子量を測定した(図1)。各高分子の数平均分子量Mnは10万を超える高分子量体であった。モノマー仕込み比が1:2の時が頂点となる山型になっており、Flory式を考慮すると、本重合においてC60が4官能性モノマーとして機能していることを示している。
【0030】
さらに、トルエン中に溶解している高分子の分子サイズを小角X線散乱より求めた(図2)。この場合も、算出した慣性半径Rgをプロットするとモノマー仕込み比が1:2の時が最大で96.1Åになった。GPC光散乱法で算出した分子量とよい相関があり、C60の4官能性を支持している。
【0031】
一方、トルエン希薄溶液をシリコン基板上にスピンコートした試料を原子間力顕微鏡(AFM)測定したところ、仕込みモノマー比によらず各高分子は平均直径約20nmの球形微粒子として観測された(図3)。仕込みモノマー比1:3で重合して得られた高分子の実際のAFM像を示す。今回の重合で得られた高分子は約20nm直径の微粒子となり、溶媒を含まない固体状態での微粒子サイズはモノマー仕込み比によらない。溶液中で観測された直径(慣性半径×2)より若干大きいのは、1)固体状態の微粒子が潰れているため2)AFM探針の影響で大きめに検出されているためと考えられる。また、この結果から、溶液中では溶媒が高分子ネットワーク中に入り込み、高分子微粒子が膨潤していることも明らかになった。
【0032】
得られた高分子の熱分析を熱重量測定(TGA)により実施したところ、5%分解温度は293〜324℃の範囲にあり、十分高い熱安定性を有していた。また、分解温度とモノマー仕込み比の相関は見られなかった。示差走査熱量測定(DSC)測定したところ、-30〜200℃の範囲で明確な転位温度は観測されなかった。
【0033】
クロロホルム中で紫外可視吸収測定したところ、242nm付近に吸収極大を有し、約700nmまでブロードに伸びたフラーレン部位由来の吸収が観測された。Prato反応で置換基導入した低分子のフラーレン誘導体と同様のスペクトルである。仕込み比1:2の高分子のクロロホルム中の吸収スペクトルを例示する(図4)。
【0034】
また、ジクロロメタン(0.1M n(C4H9) 4NClO4)中、20℃で電気化学測定したところ、フラーレン部位に由来する3段の可逆な還元波が観測された。これは、Prato反応で置換基導入した低分子のフラーレン誘導体と同様の挙動であるため、高分子化してもフラーレン特有の性質を保持していることの証明になる。実際に仕込みモノマー比1:2の高分子に対して測定したサイクリックボルタモグラム図を示す(図5)。
【0035】
本発明における溶媒可溶な高分子は、たとえば約43%のフラーレン成分を含む巨大高分子微粒子である。通常、デンドリマーやハイパーブランチ高分子などの三次元構造体は、高分子鎖の絡み合いが少ないためにバルク状態での機械特性が弱く、自立膜を作製できない場合が多い。本発明で得られたフラーレン高分子溶液をテフロン(登録商標)(ポリテトラフルオロエチレン)板状にキャストし薄膜作製を試したところ、分子量が大きいモノマー仕込み比1:2および1:2.5の試料について十分な強度の膜が得られることが分かった。モノマー仕込み比1:2.5で重合して得られた高分子の濃赤色膜をピンセットで保持している写真を示す(図6)。
【0036】
本発明により得られるフラーレン高分子は、 1つのフラーレン上にピロリジン環が1〜6個形成されている。通常、末端フラーレン上にピロリジン環が1個形成されており、一方末端以外の1つのフラーレン上にはピロリジン環が2〜6個、好適には2〜4個、形成されているのが好適である。
【0037】
そして、1つのフラーレン上のピロリジン環が、上記の多価ホルミル芳香族化合物に由来する、アルキル長鎖を有する芳香族構造単位を介して他のフラーレン上のピロリジン環に連結されることにより、三次元網目状に架橋されている。芳香族構造単位のアルキル長鎖は炭素数8〜24、好ましくは炭素数12〜22、のアルコキシ基またはアルキル基であるのが、溶媒可溶性の点等から好適である。
【0038】
芳香族構造単位はベンゼン環、ナフタレン環、アントラセン環、ピレン環、ビフェニル環、フルオレン環またはカルバゾール環を含む。
【0039】
本発明により得られるフラーレン高分子には、2本以上の、好適には3本の、アルキル長鎖が存在しているため、溶解性も確保でき、たとえばフラーレン密度40%を超える溶媒可溶なネットワーク型高分子を提供できる。
【実施例】
【0040】
(実施例1)
共モノマーであるジホルミルベンゼン誘導体は以下の経路で合成した。
【0041】
(1,3,5-トリス(オクタデシルオキシ)ベンゼンの合成)
【0042】
【化2】

【0043】
300mLの四ッ口フラスコに1-ブロモオクタデカン46.8 g(140.2 mmol)を入れ、70℃で30分間攪拌した。その後、窒素雰囲気下で脱水DMF150 mL、フロログルシノール5.75 g (45.6 mmol)、炭酸カリウム36.96 g(267.4 mmol)を加え、70℃で20時間反応させた。反応終了後、溶液を氷水中に注ぎ、析出した固体を濾集した。クロロホルムに溶解させた後、メタノールに再沈澱させた。シリカゲルカラム(クロロホルム/ヘキサン = 1:4)、再沈澱(メタノール/アセトン = 19:1)により精製し、目的物を20.41 g(23.10 mmol)得た。
【0044】
収率51%、IR (KBr): 2918, 2850, 1600, 1467, 1386,1165, 1965, 908, 8156, 760, 736 cm-11H NMR (400 MHz, CDCl3): δ = 0.87 (t, J = 7 Hz, 9 H), 1.20-1.42 (m, 96 H), 1,67-1,80 (m, 6 H), 3.87-3.90 (t, J = 7 Hz, 6 H), 6.05 (s, 3 H) ppm、13C NMR (100 MHz, CDCl3): δ =14.24, 22.80, 26.15, 29.34, 29.48, 29.69, 29.72, 29.80, 32.04, 68.09, 93.79, 161.02 ppm。
【0045】
(2,4-ジホルミル-1,3,5-トリス(オクタデシルオキシ)ベンゼンの合成)
【0046】
【化3】

【0047】
100mLの4ツ口フラスコに脱水DMF60 mL(774 mmol)を入れ、0℃に冷却した。ホスホリルクロリド40 mL (430 mmol)を加え、さらに0℃で3時間攪拌した。1,3,5-トリス(オクタデシルオキシ)ベンゼン9.14 g(10.3 mmol)を加えた後、70℃に加熱して14時間反応させた。反応終了後、反応溶液を氷水に注ぎ、1時間攪拌した。クロロホルムで抽出した後、減圧留去により溶媒を除去し、再沈澱(メタノール:アセトン = 4:1)精製した。シリカゲルカラム(クロロホルム:ヘキサン = 2:3)でさらに精製し、目的物を2.31 g(2.46 mmol)得た。
【0048】
収率24%、IR (KRS-5): 2918, 2850, 2360, 1697, 1582, 1469, 1376, 1297, 1229, 1111, 813, 720 cm-11H NMR (400 MHz, CDCl3): 0.86 (t, J = 6 Hz, 9 H), 1.24-1.48 (m, 90 H), 1.82 (m, 9 H), 3.69-3.99 (t, J = 8 Hz, 2 H), 4.05-4.08 (t, J = 8 Hz, 4 H), 6.20 (s, 1 H), 10.31 (s, 2 H) ppm、13C NMR (100 MHz, CDCl3): δ =14.20, 22.78, 25.86, 26.00, 28.91, 29.40, 29.46, 29.61, 29.68, 29.76, 29.80, 29.93, 32.02, 69.43, 76.82 , 78.28 , 91.93 , 112.80, 166.79, 166.88, 187.24 ppm。
【0049】
Prato法による重合は以下の方法により実施した。
【0050】
【化4】

【0051】
C60:ジホルミルベンゼン誘導体仕込み比 = 1:1
20mLナスフラスコに脱水o-ジクロロベンゼン7 mL、2,4-ジホルミル-1,3,5-トリス(オクタデシルオキシ)ベンゼン52.1 mg(55.5 μmol)、N-メチルグリシン295.3 mg(3.3 mmol)、C60 40.1 mg(55.6 μmol)を入れ、減圧脱気により窒素置換を行なった。125℃で24時間反応させた。反応終了後、メタノールに再沈澱した。クロロホルム可溶な成分を抽出し、溶媒を減圧留去して目的高分子を得た(99.6 mg)。
【0052】
GPC(光散乱): Mn 1,491,000、Mw/Mn 1.05、[η] = 0.0427 dL g-1、Rg (SAXS): 79.3 Å、分解温度 (5%): 323.6oC、IR (KRS-5): 2924, 2852, 2769, 1729, 1593, 1464, 1378, 1332, 1272, 1122, 1073, 1039, 768, 742 cm-11H NMR (400 MHz, CDCl3): δ= 0.3-2.0 (br m, 111 H), 3.15-5.88 (br, 12 H), 5.90-6.80 (br, 1 H) ppm、UV/Vis (CHCl3): λ = 243, 273, 320 nm、元素分析: C 86.38, H 7.43, N 1.86。
【0053】
C60:ジホルミルベンゼン誘導体仕込み比 = 1:1.5
20mLナスフラスコに脱水o-ジクロロベンゼン7 mL、2,4-ジホルミル-1,3,5-トリス(オクタデシルオキシ)ベンゼン79.2 mg(84.3 μmol)、N-メチルグリシン296.3 mg(3.3 mmol)、C60 39.8 mg(55.2 μmol)を入れ、減圧脱気により窒素置換を行なった。125℃で24時間反応させた。反応終了後、メタノールに再沈澱した。クロロホルム可溶な成分を抽出し、溶媒を減圧留去して目的高分子を得た(99.9 mg)。
【0054】
GPC(光散乱): Mn 2,002,000、Mw/Mn 1.04、[η] = 0.0449 dL g-1、Rg (SAXS): 96.0 Å、分解温度 (5%): 323.4oC、IR (KRS-5): 2923, 2852, 2771, 2360, 1594, 1465, 1339, 1222, 1144, 1101, 769, 721, 669, 526 cm-11H NMR (400 MHz, CDCl3): δ= 0.50-3.00 (br, 111 H), 3.23-5.80 (br, 12 H), 6.73-6.86 (br, 1 H) ppm、UV/Vis (CHCl3): λ = 242, 249, 291 nm、元素分析: C 83.89, H 8.48, N 2.39。
【0055】
C60:ジホルミルベンゼン誘導体仕込み比 = 1:2
20mLナスフラスコに脱水o-ジクロロベンゼン7 mL、2,4-ジホルミル-1,3,5-トリス(オクタデシルオキシ)ベンゼン104.0 mg(111 μmol)、N-メチルグリシン292.3 mg(3.3 mmol)、C60 40.0 mg(55.4 μmol)を入れ、減圧脱気により窒素置換を行なった。125℃で24時間反応させた。反応終了後、メタノールに再沈澱した。クロロホルム可溶な成分を抽出し、溶媒を減圧留去して目的高分子を得た(139.1 mg)。
【0056】
GPC(光散乱): Mn 2,238,000、Mw/Mn 1.16、[η] = 0.00799 dL g-1、Rg (SAXS): 96.1 Å、分解温度 (5%): 316.3oC、IR (KRS-5): 2923, 2852, 2771, 1729, 1683, 1595, 1465, 1378, 1339, 1271, 1137, 1102, 1073, 1039, 763, 721, 523 cm-11H NMR (400 MHz, CDCl3): δ= 0.88-3.08 (br, 111 H), 4.26-4.69 (br, 12 H), 5.34-5.93 (br, 6 H), 6.69-6.72 (br, 1 H) ppm、UV/Vis (CHCl3): λ = 242, 249, 287 nm、元素分析: C 84.04, H 9.33, N 2.83。

C60:ジホルミルベンゼン誘導体仕込み比 = 1:2.5
20mLナスフラスコに脱水o-ジクロロベンゼン7 mL、2,4-ジホルミル-1,3,5-トリス(オクタデシルオキシ)ベンゼン130.9 mg(139 μmol)、N-メチルグリシン296.8 mg(3.3 mmol)、C60 40.4 mg(56.1 μmol)を入れ、減圧脱気により窒素置換を行なった。125℃で24時間反応させた。反応終了後、メタノールに再沈澱した。クロロホルム可溶な成分を抽出し、溶媒を減圧留去して目的高分子を得た(170.9 mg)。
【0057】
GPC(光散乱): Mn 1,639,000、Mw/Mn 1.03、[η] = 0.00776 dL g-1、Rg (SAXS): 74.3 Å、分解温度 (5%): 293oC、IR (KRS-5): 2924, 2853, 2771, 1730, 1684, 1596, 1466, 1378, 1339, 1288, 1216, 1141, 1101, 799, 756, 721, 668, 580, 522 cm-11H NMR (400 MHz, CDCl3): δ= 0.60-2.78 (br, 111 H), 2.90-4,59 (br, 12 H), 5.81-6.51 (br, 1 H) ppm、UV/Vis (CHCl3): λ = 241, 245, 287 nm、元素分析: C 81.01, H 9.40, N 3.15。
【0058】
C60:ジホルミルベンゼン誘導体仕込み比 = 1:3
20mLナスフラスコに脱水o-ジクロロベンゼン7 mL、2,4-ジホルミル-1,3,5-トリス(オクタデシルオキシ)ベンゼン156.3 mg(166 μmol)、N-メチルグリシン296.7 mg(3.3 mmol)、C60 39.9 mg(55.4 μmol)を入れ、減圧脱気により窒素置換を行なった。125℃で24時間反応させた。反応終了後、メタノールに再沈澱した。クロロホルム可溶な成分を抽出し、溶媒を減圧留去して目的高分子を得た(178.6 mg)。
【0059】
GPC(光散乱): Mn 1,151,000、Mw/Mn 1.16、[η] = 0.0104 dL g-1、Rg (SAXS): 71.6 Å、分解温度 (5%): 306oC、IR (KRS-5): 2923, 2853, 2771, 1733, 1684, 1596, 1465, 1339, 1268, 1218, 1142, 1102, 1039, 772, 721, 668, 523 cm-11H NMR (400 MHz, CDCl3): δ= 0.71-3.27 (br, 111 H), 5.07-5.68 (br, 12 H), 6.47-6.67 (br, 1 H) ppm、UV/Vis (CHCl3): λ = 241, 245, 286 nm、元素分析: C 81.86, H 9.75, N 3.18。
【産業上の利用可能性】
【0060】
本発明によれば、フラーレン間の分子間相互作用を効果的に減少させることができる共モノマー構造を設計してフラーレンと重合することで、ネットワーク型構造を採用して溶媒可溶な高分子量体フラーレンを提供し得る。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルキル長鎖を有する多価ホルミル芳香族化合物、アミノ酸およびフラーレンを反応させて、フラーレンを架橋部位とするネットワーク構造を有するフラーレン高分子を得ることを特徴とするフラーレン高分子の製造方法。
【請求項2】
多価ホルミル芳香族化合物のアルキル長鎖が炭素数8〜24のアルコキシ基またはアルキル基である請求項1に記載のフラーレン高分子の製造方法。
【請求項3】
多価ホルミル芳香族化合物のアルキル長鎖が炭素数12〜22のアルコキシ基またはアルキル基である請求項1または2に記載のフラーレン高分子の製造方法。
【請求項4】
多価ホルミル芳香族化合物の芳香族構造単位がベンゼン環、ナフタレン環、アントラセン環、ピレン環、ビフェニル環、フルオレン環またはカルバゾール環である請求項1〜3のいずれかに記載のフラーレン高分子の製造方法。
【請求項5】
アミノ酸がグリシンまたはその置換体である請求項1〜4のいずれかに記載のフラーレン高分子の製造方法。
【請求項6】
フラーレンがC60、C70、C72、C74、C76、C84またはそれらの金属内包物である請求項1〜5のいずれかに記載のフラーレン高分子の製造方法。
【請求項7】
反応が溶媒中で行われる請求項1〜6のいずれかに記載のフラーレン高分子の製造方法。
【請求項8】
反応が不活性ガス雰囲気下で行われる請求項1〜7のいずれかに記載のフラーレン高分子の製造方法。
【請求項9】
フラーレンと多価ホルミル芳香族化合物のモノマー仕込み比が1/5〜5である請求項1〜8のいずれかに記載のフラーレン高分子の製造方法。
【請求項10】
多価ホルミル芳香族化合物が2,4−ジホルミル−1,3,5−トリス(オクタデシルオキシ)ベンゼン、アミノ酸がN−メチルグリシン、およびフラーレンがC60である請求項1〜9のいずれかに記載のフラーレン高分子の製造方法。
【請求項11】
1つのフラーレン上にピロリジン環が1〜6個形成されており、1つのフラーレン上のピロリジン環が、アルキル長鎖を有する芳香族構造単位を介して他のフラーレン上のピロリジン環に連結されることにより、三次元網目状に架橋されたフラーレン高分子。
【請求項12】
芳香族構造単位のアルキル長鎖が炭素数8〜24のアルコキシ基またはアルキル基である請求項11に記載のフラーレン高分子。
【請求項13】
芳香族構造単位のアルキル長鎖が炭素数12〜22のアルコキシ基またはアルキル基である請求項11または12に記載のフラーレン高分子。
【請求項14】
芳香族構造単位がベンゼン環、ナフタレン環、アントラセン環、ピレン環、ビフェニル環、フルオレン環またはカルバゾール環を含む請求項11〜13のいずれかに記載のフラーレン高分子。
【請求項15】
末端フラーレン上にピロリジン環が1個形成されている請求項11〜14のいずれかに記載のフラーレン高分子。

【図1】
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【図2】
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【図4】
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【図5】
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【図3】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−126993(P2011−126993A)
【公開日】平成23年6月30日(2011.6.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−286611(P2009−286611)
【出願日】平成21年12月17日(2009.12.17)
【出願人】(304021417)国立大学法人東京工業大学 (1,821)
【出願人】(504132881)国立大学法人東京農工大学 (595)
【Fターム(参考)】