説明

フリーラジカルの捕捉による溶解動的核分極(DNP)を使用したNMR分光測定またはMRI測定の方法

【課題】NMRにおける縦緩和時間および横緩和時間を延ばし、同時に、過分極化された溶液からフリーラジカルを除去する方法を提供する。
【解決手段】本発明は、1.1)調査中の溶質に加えて、常磁性体を含む第1種の凍結ビーズを調製するステップと、2.1)分極マグネットへその凍結ビーズを挿入するステップと、3.1)磁場中で、核の高い分極状態を作り出すステップと、4.1)試料を室温まで加熱するステップと、5.1)試料をMRマグネットへ移すステップと、6.1)MR測定を行うステップと
を含む、溶解動的核分極による過分極を使用した、磁気共鳴測定用の試料を調製する方法であって、追加のステップとして、1.2)還元剤を含む第2種の凍結ビーズを調製するステップと、2.2)第2種の凍結ビーズを、第1種の凍結ビーズと共に分極マグネットへ挿入するステップとを含むことを特徴とする方法を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、
1.1)適当な、特にガラス形成溶媒に含まれる調査中の溶質に加えて、常磁性体、特にラジカルを含む第1種の凍結ビーズを調製するステップと、
2.1)分極マグネットへその凍結ビーズを挿入するステップと、
3.1)低温の磁場中で、試料中の核の高い分極状態を作り出すステップと、
4.1)試料を室温まで加熱するステップと、
5.1)分極した試料を分極マグネットからMRマグネットへ移すステップと、
6.1)MR測定を行うステップと
を含む、溶解動的核分極による過分極を使用した、磁気共鳴(=MR)測定用の試料を調製する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
上記の方法は、特許文献1および特許文献2から既知である。
【0003】
動的核分極(DNP)は、核分極、すなわち、スピンIが1/2の場合のゼーマンレベル/α>及び/β>の間の分布差を、室温でのボルツマン分布に対して10000倍にまで高めることができる(非特許文献1参照)。
【0004】
凍結する前に調査中の試料と混合しなければならない安定ラジカルのEPR遷移によるマイクロ波の飽和によってもたらされる熱混合が、核スピン分極を高める原因となる。
【0005】
溶解DNPでは、試料は通常、低温かつ中程度の磁場(本発明者らの研究所ではT=1.2KおよびB=3.35または5T)で分極化され(非特許文献2〜4参照)、急速に溶解して(非特許文献5参照)、水蒸気の爆発によって周囲温度に加熱される。核スピン分極の損失をできるだけ少なくするために、機械的振動および対流電流の安定化、ならびに必要に応じて生きている有機体への注入作業を含む、分極装置からNMR分光計またはMRIマグネットへの移動は、間隔T<T以内で完了させなければならない。本発明者らの研究所では、間隔Tは最近4.5sまで減少した(非特許文献6参照)。
【0006】
過分極した溶液中のラジカルは、溶質の縦緩和速度R=1/Tの増加をもたらし、これが、過分極した核で監視することができる動的過程の時間尺度を制限する。これに付随する横緩和速度R=1/Tの増大により、望ましくない線の広がりが生じる。長寿命状態(LLS)の分布に関しては、緩和速度RLLS=1/TLLSとなり(非特許文献7〜10参照)、長寿命コヒーレンス(LLC)に関しては、崩壊速度RLLC=1/TLLC(非特許文献21参照)となる。この緩和速度RLLS及び崩壊速度RLLCは、固有状態の分布の場合や単一量子コヒーレンスの場合よりもフリーラジカルの存在に対する感度が高い。
【0007】
フリーラジカルは毒性をもつ傾向があり、そのラジカルを除去しない限り、過分極化された溶液を生きている有機体に注入すべきではない。
【0008】
その他、本願従来技術としては非特許文献11〜20がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】米国特許出願公開第2006/0173282号明細書
【特許文献2】GB0711048.9
【非特許文献1】アブラガム,A.、ゴールドマン,M.「Rep.Prog.Phys.」1978年、41巻、P395〜467
【非特許文献2】コメント,A.、ファン デン ブラント,B.、ウフマン,K.、クードゼソー,F.、ジャニン,S.、コンテール,J.A.、ホートル,P.、ウェンケバッハ,W.T.H.、グルッター,R.、ファン デル クリンク,J.J.「Concepts Magn.Reson.B」2007年、31B巻、P255〜269
【非特許文献3】コメント,A.、ファン デン ブラント,B.、ウフマン,K.、クードゼソー,F.、ジャニン,S.、コンテール,J.A.、ホートル,P.、ウェンケバッハ,W.T.、グルッター,R.、ファン デル クリンク,J.J.「Appl.Magn.Reson.」2008年、34巻、P313〜319
【非特許文献4】ジャニン,S.、コメント,A.、クードゼソー,F.、コンテール,J.A.、ホートル,P.、ファン デン ブラント,B.、ファン デル クリンク,J.J.「J.Chem.Phys.」2008年、128巻、P241102
【非特許文献5】アルデンクジャール−ラーセン,J.H.、フリドランド,B.、グラム,A.、ハンソン,L.、ラルケ,M.H.、セーヴィン,R.、タン,M.、ゴールマン,K.「P Natl Acad Sci USA」2003年、100巻、P10158〜10163
【非特許文献6】どこかで出版予定
【非特許文献7】カラヴェッタ,M.、ジョアンセン,O.G.、レヴィット,M.H.「Phys.Rev.Lett.」2004年、92巻、P153003〜153007
【非特許文献8】カラヴェッタ,M.、レヴィット,M.H.「J.Chem.Phys.」2005年、122巻、P214505
【非特許文献9】ピレイオ,G.、レヴィット,M.H.「J.Chem.Phys.」2009年、130巻、P214501。
【非特許文献10】サーカー,R.、ヴァソス,P.R.、ボーデンハウゼン,G.「J.Am.Chem.Soc.」2007年、129巻、P328〜334。
【非特許文献11】ピレイオ,G.、カラヴェッタ,M.、レヴィット,M.H.「Phys.Rev.Lett.」2009年、103巻、P083002
【非特許文献12】サーカー,R.、コメント,A.、ヴァソス,P.R.、ジャニン,S.、グルッター,R.、ボーデンハウゼン,G.、ホール,H.、キリック,D.、デニソフ,V.P.「J.Am.Chem.Soc.」2009年、131巻、P16014〜16015
【非特許文献13】ヴァソス,P.R.、コメント,A.、サーカー,R.、アフジャ,P.、ジャニン,S.、アンセルメ,J.P.、コンテール,J.A.、ホートル,P.、ファン デン ブラント,B.、ボーデンハウゼン,G.「P.Natl.Acad.Sci.USA」2009年、106巻、P18475〜18479
【非特許文献14】サーカー,R.、アフジャ,P.、ヴァソス,P.R.、ボーデンハウゼン,G.「Chem.Phys.Chem.」2008年、9巻、P2414〜2419
【非特許文献15】ファン ヘースワイク,R.B.、ウフマン,K.、コメント,A.、クードゼソー,F.、パラッツォーロ,C.、クダルブ,C.、ジャニン,S.、コンテール,J.A.、ホートル,P.、ファン デン ブラント,B.、ナヴォン,G.、ファン デル クリンク,J.J.、グルッター,R.「Magn.Reson.Med.」2009年、61巻、P1489〜1493
【非特許文献16】Nature Methodsに投稿された原稿
【非特許文献17】投稿される予定の原稿
【非特許文献18】バルデラン,D.、バナザック,K.、カロイ,H.、アンタル,R.、ウェイト,M.、ウダチン,K.、リップミースター,J.A.、ラトクリフ,C.I.、オウアリ,O.、トルド,P.「J.Am.Chem.Soc.」2009年、131巻、P5402〜5404
【非特許文献19】ウォーレン,J.J.、メイヤー,J.M.「J.Am.Chem.Soc.」2008年、130巻、P7546〜7547
【非特許文献20】ビエルスキ,B.H.J.、アレン,A.O.、シュヴァルツ,H.A.「J.Am.Chem.Soc.」1981年、103巻、P3516〜3518
【非特許文献21】Phys.Rev.Lett.で印刷中の原稿
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の目的は、NMRにおける縦緩和時間および横緩和時間を延ばし、同時に、過分極化された溶液からフリーラジカルを除去することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
この目的は、請求項1に記載の方法により達成される。本発明の方法による調製は、上記調製に加えて、
1.2)溶媒に溶解した還元剤を含む第2種の凍結ビーズを調製するステップ、
2.2)第2種の凍結ビーズを、第1種の凍結ビーズと共に分極マグネットへ挿入するステップ、
を含む。
【0012】
適当な、特にガラス形成溶媒に含まれる調査中の溶質に加えて、フリーラジカルを含む第1種の凍結ビーズを調製した後、適当な溶媒中に還元剤を含む第2種の凍結ビーズを調製する。これらの第2種の凍結ビーズは、第1種の凍結ビーズと共に、同質量、分極マグネットに挿入する。溶液の濃度を変えることによって、フリーラジカルと還元剤との間のモル比を調整できる。
【0013】
溶解過程中、すべてのビーズは急速に融解し、2つの溶液は互いに混ざり合うので、ラジカルは、分極マグネットからNMR分光計またはMRIマグネットに移動する間に還元剤によって還元される。
【0014】
研究所の実験で、還元剤の添加により、長寿命状態(LLS)および長寿命コヒーレンス(LLC)の寿命を著しく延ばすことができることが証明された。要約すると、調査中の物質および安定ラジカルを含む凍結ビーズと還元剤を含む凍結ビーズを混合することによって、溶解DNPに必要とされる安定ラジカルによる常磁性緩和をクエンチすることができる。
【0015】
本発明の方法の好ましい変形例は、第2種のビーズ中の還元剤の濃度が、第1種のビーズ中の常磁性体の濃度よりも高く、好ましくはその2倍から100倍であることを特徴とする。
【0016】
研究所の実験で、2.5mMの常磁性体および30mMの還元剤を用いた場合、二次反応速度定数k=0.201±0.005s−1×M−1と求められた。還元剤が過剰にあるため、この還元反応は擬一次反応速度定数k=0.0060±0.0002s−1によって記述することができる。
【0017】
好ましくは、還元剤は、アスコルビン酸ナトリウムである。実験で、アスコルビン酸ナトリウムがフリーラジカルを還元するのに非常に有効であることが証明された。
【0018】
本発明の変形例では、還元剤が水、特に重水(DO)に溶解していることを特徴とするものが非常に好ましい。実験で、この溶媒が非常に有効であることが分かった。
【0019】
本発明の方法の他の好ましい変形例は、第1種のビーズ中の常磁性体(ラジカル)がニトロキシルラジカルを含むことを特徴とする。ニトロキシルラジカルは、低温でのDNPに広く使用されている。
【0020】
好ましくは、第1種のビーズ中の常磁性体は、4−ヒドロキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−1−オキシル(=TEMPOL)を含む。TEMPOLは、最も一般的なニトロキシルラジカルである。
【0021】
本発明の方法の変形例では、第1種の凍結ビーズの溶媒が、グリセロールおよび水の混合物であることを特徴とするものが有利である。低温で、この溶媒はガラス様固体液滴を形成する。
【0022】
第1種および第2種のビーズが、分極マグネットへ同質量挿入される場合が有利である。ラジカルと還元剤との間のあるモル関係を得るためには、ラジカルまたは還元剤を含む溶液の夫々が同濃度であるものを使用するよりも、その溶液の夫々が所定の濃度であるものを使用して必要とされるビーズの数を計算するほうがずっと容易である。
【0023】
本発明方法の好ましい変形例では、ステップ5.1)において低温の磁場中でマイクロ波を照射することによって、試料中の核の分極を高めた状態を作り出す。
【0024】
ステップ6.1)におけるMR測定を、核磁気共鳴(=NMR)分光計または磁気共鳴映像(MRI)装置、特に断層撮影装置で行う場合が有利である。これらの機器は、長寿命状態(LLS)および長寿命コヒーレンス(LLC)の測定に特によく適している。これらの装置は、対象物が生きている場合の調査にも適している。
【0025】
さらなる利点は、説明および付属の図面から引用することができる。上記および下記の特徴は、本発明に従って、任意の組み合わせで、個々にまたは集合的に使用することができる。言及した実施形態は、網羅的な列挙として理解すべきでなく、むしろ本発明を説明するための代表的な性質を有している。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】(a),(b)は、DNPなしの、T=296K、磁場B=7.05T(プロトンに関して300MHz)における、DO中での2.5mMのTEMPOLと30mMのアスコルビン酸ナトリウムの反応を示す図である。反磁性TEMPOHL中の4つの縮退メチル基による一重項(黒丸)は、常磁性のTEMPOLの還元後にのみ現れる。単一の指数関数によるフィッティング(黒線)により、還元過程について擬一次反応速度定数k=0.0060±0.0002s−1が求められる。
【図2】(a)は、TEMPOLを含むアクリル酸の凍結ビーズと3Mのアスコルビン酸ナトリウム(ビタミンC)の凍結ビーズの混合物の高温DOによる溶解の4.5s後に測定した、アクリル酸(CH=CHCOOH)中のプロトンHの過分極化された磁化の崩壊(T=14.79±0.27s)を示す図である。(b)は、捕捉剤を含まず、2.5mMのTEMPOLを含むDO中のアクリル酸中のプロトンHのDNPなしの反転回復(黒丸、T=5.35±0.1s)、および、30mMのアスコルビン酸ナトリウムの添加した場合(灰色丸、T=14.9±0.8s)を示す図である。
【図3】(a)は、T=296KおよびB=7.05T(300MHz)における、アクリル酸(CH=CHCOOH)中の2つのプロトンHおよびHに作用する長寿命状態(LLS)の崩壊を示す図である。捕捉剤がない場合(黒丸)、2.5mMのTEMPOLによって急速な崩壊が引き起こされる(TLLS=11.19±0.46)。30mMのアスコルビン酸ナトリウムを添加した場合(灰色丸)、TLLS=17.52±0.93(1.6倍)まで延ばすことができる。(b)は、T=296KおよびB=7.05T(300MHz)における、Ala−Gly中のグリシンの2つのジアステレオトピックなHαプロトンに作用する長寿命状態(LLS)の崩壊を示す図である。捕捉剤がない場合(黒丸)、2.5mMのTEMPOLによって急激な崩壊が引き起こされる(7.82±0.24s)。30mMのアスコルビン酸ナトリウムを添加した場合(灰色丸)、37.4±4.4s(4.8倍)まで延ばすことができる。
【図4】(a)は、Ala−Gly中のグリシンの2つのHαプロトンに作用する長寿命コヒーレンス(LLC)の崩壊は、2.5mMのTEMPOの存在に影響される(TLLC=1.43s)ことを示す図である。T=296KおよびB=7.05Tで信号測定し、これを正弦関数で乗じた単一の指数関数的減衰でフィッティングした。この変調はスカラーカップリング定数J=17.242Hzから生じる。(b)は、30mMのアスコルビン酸ナトリウムの添加した場合、寿命TLLC=3.82が2.7倍延びることを示す図である。T=296KおよびB=7.05Tで信号測定し、これを正弦関数で乗じた単一の指数関数的減衰でフィッティングした。この変調はスカラーカップリング定数J=17.242Hzから生じる。
【発明を実施するための形態】
【0027】
研究所の実験において、低温でのDNPに広く使用されている4−ヒドロキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−1−オキシル(TEMPOL)などのニトロキシドラジカルが、化学式(1)の溶解過程中に、アスコルビン酸ナトリウム(ビタミンC)のような捕捉剤によって、どのように、2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−1,4−ジオール(TEMPOHL)へ還元され、溶質の横緩和時間および縦緩和時間を延ばし得るのかを実測した。
【0028】
化学式(1)は、アスコルビン酸ナトリウムによるTEMPOLの還元反応が、非局在化したアスコルビン酸ナトリウムラジカルおよび反磁性のTEMPOHLの形成をもたらすことを示す。
【0029】
【化1】

【0030】
グリセロール/水混合物などのガラス形成溶媒により、調査中の溶質(研究所の実験では、アクリル酸、コリンおよびアセチルコリン(非特許文献12参照)、アラニン−グリシン(非特許文献13参照)、ユビキチン(非特許文献14参照)、リチウム−6(非特許文献15参照)、キセノン−129(非特許文献16参照)、イットリウム−89(非特許文献17参照)などが調査された)に加えて、30mMのTEMPOLを含む凍結ビーズを、ほぼ同数のDO中3Mのアスコルビン酸ナトリウムを含む凍結ビーズと共に分極装置へ挿入する。
【0031】
溶解過程中、すべてのビーズは急速に融解し、2つの溶液は互いに混じり合うので、TEMPOLラジカルは、分極マグネットからNMR分光計またはMRIマグネットに移動する間にアスコルビン酸ナトリウムによって還元される。
【0032】
この還元過程の反応速度論は、図1(a),(b)に示すように、NMRまたはESRによって室温で調査することができる(非特許文献18参照)。研究所の実験で、アスコルビン酸塩によるTEMPOLの還元から生じるTEMPOHLの4つの縮退メチル基によるプロトンシグナルの増大が観察された。2.5mMのTEMPOLおよび30mMのアスコルビン酸ナトリウムを用いた場合、二次反応速度定数k=0.201±0.005s−1.M−1と求められた。アスコルビン酸ナトリウムが過剰にあるため、この還元反応は擬一次反応速度定数k=0.0060±0.0002s−1によって記述することができる。
【0033】
アスコルビン酸塩によるTEMPOLの捕捉により、非局在化したアスコルビルラジカルが生じる。このラジカルに関してはアセトニトリルなどの溶媒中において研究されてきている(非特許文献19参照)。溶解DNPで一般的に使用される水/グリセロールまたは水/エタノール混合物のような、プロトン供与溶媒の存在下では、アスコルビルラジカルは、化学式(2)の捕捉過程と並行して急速に不均化し(kは約3×105s−1.M−1)(非特許文献20参照)、この結果、いかなる常磁性ラジカルも含まない溶液が得られる。
【0034】
化学式(2)は、アスコルビン酸塩および反磁性の5−(1,2−ジヒドロキシエチル)フラン−2,3,4(5H)−トリオンへのアスコルビルラジカルの不均化を示す。
【0035】
【化2】

【0036】
図2(b)は、アスコルビン酸ナトリウムによるTEMPOLの捕捉がどのように、最も長い寿命Tを有するアクリル酸(CH=CHCOOH)中の最も孤立したプロトンHの縦緩和時間を3倍近く延ばすのかを示している。
【0037】
長寿命状態(非特許文献7〜11参照)(LLS)の寿命TLLSは、常磁性緩和に対して非常に影響される。アスコルビン酸ナトリウムによるTEMPOLの捕捉により、アクリル酸(CH=CHCOOH)中の2つのプロトンHおよびHに関係するLLSの寿命が劇的に延びる(図3(a))。同様に、ジペプチドAla−Gly中のグリシンの2つのジアステレオトピックなHαプロトンに関係するLLSは、捕捉後に寿命が著しく伸びる(図3(b))。LLSは、DNPなしのT=296KおよびB=7.05Tで、CW照射によって励起され(非特許文献10参照)、維持された。
【0038】
長寿命コヒーレンス(非特許文献21参照)(LLC)もまた常磁性効果に対して大きな影響を受ける。アスコルビン酸ナトリウムによるTEMPOLの捕捉は、Ala−Gly中の2つのジアステレオトピックなHαグリシンプロトンに作用するLLCの寿命TLLCを1.18から2.75sに延ばす(図4(a)および図4(4b))。これは、線幅270〜115mHzの還元に相当する。LLCは、CW照射によって励起され(非特許文献21参照)、維持された。
【0039】
要約すると、調査中の物質および安定ラジカルを含む凍結ビーズと、アスコルビン酸(ビタミンC)などの還元剤を含む凍結ビーズを混合することによって、溶解DNPに必要とされる安定ラジカルによる常磁性緩和をクエンチすることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
1.1)適当な、特にガラス形成溶媒に含まれる調査中の溶質に加えて、常磁性体、特にラジカルを含む第1種の凍結ビーズを調製するステップと、
2.1)分極マグネットへ前記凍結ビーズを挿入するステップと、
3.1)低温の磁場中で、試料中の核の高い分極状態を作り出すステップと、
4.1)前記試料を室温まで加熱するステップと、
5.1)前記分極化した試料を前記分極マグネットからMRマグネットへ移すステップと、
6.1)MR測定を行うステップと
を含む、溶解動的核分極による過分極を使用した、磁気共鳴(=MR)測定用の試料を調製する方法であって、
追加のステップとして、
1.2)溶媒に溶解した還元剤を含む第2種の凍結ビーズを調製するステップと、
2.2)前記第2種の凍結ビーズを、前記第1種の凍結ビーズと共に前記分極マグネットへ挿入するステップと
を含むことを特徴とする方法。
【請求項2】
前記第2種のビーズ中の前記還元剤の濃度が、前記第1種のビーズ中の前記常磁性体の濃度よりも高く、好ましくはその2倍から100倍であることを特徴とする請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記還元剤が、アスコルビン酸ナトリウムであることを特徴とする請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記還元剤が、水、特に重水に溶解していることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記第1種のビーズ中の前記常磁性体が、ニトロキシルラジカルを含むことを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記第1種のビーズ中の前記常磁性体が、4−ヒドロキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−1−オキシル(=TEMPOL)を含むことを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
前記第1種の凍結ビーズの前記溶媒が、グリセロールおよび水、特に重水の混合物であることを特徴とする請求項1乃至6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
前記第1種および前記第2種のビーズが、前記分極マグネットへ同質量挿入されることを特徴とする請求項1乃至7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
ステップ3.1)において低温の磁場中でマイクロ波を照射することによって、前記試料中の核の分極を高めた状態を作り出すことを特徴とする請求項1乃至8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
ステップ6.1)における前記MR測定が、核磁気共鳴(=NMR)分光計または磁気共鳴映像(MRI)装置、特に断層撮影装置で行われることを特徴とする請求項1乃至9のいずれか1項に記載の方法。

【図1】
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【図3】
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【図4】
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【図2】
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