説明

フルオレン含有ポリウレタン及びその効率的製造方法

【課題】光学材料や高強度材料等として利用できるフルオレノン含有ポリウレタンを効率的に製造する方法を提供する。
【解決手段】フルオレノン含有ジオールとジイソシアネートを、マイクロ波照射下で反応させ、一般式(III)


(式中、Rは水素原子又はメチル基を示し、R’はアルキレン基、アリーレン基、アルキレンアリーレンアルキレン基、又はアリーレンアルキレンアリーレン基を示す。環上の水素原子の一部やR’の水素原子の一部が反応に関与しない置換基で置換されていても差し支えない。)
で表されるフルオレン含有ポリウレタンを製造する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、9,9−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル]フルオレン等のフルオレン誘導体(以下、「BPEF類」とする。)とジイソシアネートから製造されるフルオレン含有ポリウレタンの効率的製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
フルオレン環とジオール構造を有するBPEF類から製造されるポリエステル、ポリウレタン、エポキシ樹脂等は、透明性、高屈折性、耐熱性、高強度性等に優れた高機能材料として、光学レンズ、光学フィルム、光ファイバー、高強度材料等への応用が期待されている。
この中のフルオレン含有ポリウレタンの製造方法としては、BPEF類とジイソシアネートを反応させる方法が知られているが(たとえば特許文献1、2)、高分子量のポリウレタン類を得るために長時間の加熱(たとえば100℃以上で数時間)が必要であり、工業的に有利な方法とはいえなかった。
【特許文献1】特開2000−44645号公報
【特許文献2】特開2001−2751号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明は、以上のような事情に鑑みてなされたものであって、BPFE類とジイソシアネートから、高分子量のフルオレン含有ポリウレタンを、短時間でより効率的に製造することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、上記反応についても、マイクロ波照射により著しく加速されることを見いだし、本発明を完成させるに至った。
すなわち、本発明は、下記の一般式(I)
【化1】

(式中、Rは水素原子又はメチル基を示し、環上の水素原子の一部が反応に関与しない置換基で置換されていてもよい。)
で表されるフルオレン誘導体を、下記の一般式(II)
O=C=N−R’−N=C=O (II)
(式中、R’は、アルキレン基、アリーレン基、アルキレンアリーレンアルキレン基、又はアリーレンアルキレンアリーレン基を示し、これら基の水素原子の一部が反応に関与しない置換基で置換されていてもよい。)
で表されるジイソシアネートと、マイクロ波を照射して反応させることを特徴とする、下記の一般式(III)
【化2】

(式中、R及びR”は前記と同じ意味であり、nは2以上の整数である。)
で表されるポリウレタンの製造方法、及びそれにより得られる下記の一般式(IV)
【化3】

(式中、Rは水素原子又はメチル基を示し、R”はメチレンシクロヘキシレンメチレン基を示す。nは2以上の整数である。)
で表される新規なポリウレタンである。
【発明の効果】
【0005】
本発明の製法方法を用いることにより、従来の通常加熱に比べ、極めて短時間で高分子量のフルオレン含有ポリウレタンが得られるという利点がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明の製造方法では、BPEF類とジイソシアネートを、マイクロ波を照射して反応させることを特徴とする。
本発明において使用されるBPEF類は、下記の一般式(I)
【化1】

で表されるもので、式中、Rは水素原子又はメチル基を示し、環上の水素原子の一部が反応に関与しない置換基で置換されていてもよい。
BPEF類の具体例としては、9,9−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル]フルオレン、9,9−ビス[4−(2−ヒドロキシプロポキシ)フェニル]フルオレン等を挙げることができる。
【0007】
また、本発明において使用されるジイソシアネートは、下記の一般式(II)
O=C=N−R’−N=C=O (II)
で表されるもので、式中、R’は、アルキレン基、アリーレン基、アルキレンアリーレンアルキレン基、又はアリーレンアルキレンアリーレン基を示し、それら基の水素原子の一部が反応に関与しない置換基で置換されていても差し支えない。
アルキレン基、アリーレン基、アルキレンアリーレンアルキレン基、又はアリーレンアルキレンアリーレン基の具体例としては、ヘキサメチレン基、ペンタメチレン基、シクロヘキシレン−1,3−又は−1,4−ジメチレン基、ビス(1,4−シクロヘキシレン)メチレン基、1,3−又は1,4−フェニレン基、2,4−トルイレン基、1,4−,1,5−,2,6−,又は2,7−ナフチレン基、4,4’−ジフェニレン基、1,3−又は1,4−フェニレンジメチレン基、ビス(1,4−フェニレン)メチレン基等を挙げることができ、それらの基を有するジイソシアネートの具体例としては、ヘキサメチレンジイソシアネート、ペンタメチレンジイソシアネート、シクロヘキシレン−1,3−ジメチレンジイソシアネート、ビス(1,4−シクロヘキシレン)メチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、フェニレン−1,3−ジイソシアネート、トルイレン−2,4−ジイソシアネート、4,4’−ジフェニレンジイソシアネート、1,5−ナフチレンジイソシアネート、フェニレン−1,3−ジメチレンジイソシアネート、ビス(1,4−フェニレン)メチレンジイソシアネート等を挙げることができる。
本発明で製造されるポリウレタンは、下記の一般式(III)
【化2】

(式中、R及びR’は前記と同じ意味であり、nは2以上の整数である。)
で表されるもので、R及びR’の具体例としては前記のもの等が挙げられる。また、nは2以上の整数であり、好ましくは2以上100000以下、より好ましくは3以上80000以下の整数である。
【0008】
本発明の反応で使用されるBPEF類とジイソシアネートとのモル比は、目的とするポリウレタンの構造や性状に応じて任意に決めることができるが、通常、BPEFを1モルに対し、ジイソシアネートを等モル用いることにより、目的とする高分子量のポリウレタンを高収率で得ることができる。
【0009】
本発明は、通常、無触媒でも効率よく進行するが、オクチル酸スズ、三級アミンなど、従来公知の触媒を用いることも可能である。
【0010】
反応の温度は、−20℃以上、好ましくは0〜300℃、より好ましくは、40〜280℃であり、反応時間は反応温度にもよるが、0.2〜120分、好ましくは0.3〜100分、より好ましくは0.5〜60分程度である。
【0011】
また、反応は、溶媒の有無にかかわらず実施できるが、溶媒を用いる場合には、デカリン、デカン等の炭化水素、ジメチルアセトアミド等のアミド、クロロベンゼン等のハロゲン化炭化水素、炭酸プロピレン等の炭酸エステル、ジブチルエーテル等のエーテル等、原料と反応するものを除いた各種の溶媒が使用可能で、2種以上混合して用いることもできる。
【0012】
本発明の反応におけるマイクロ波の照射では、接触式または非接触式の温度センサーを備えた各種の市販装置等を使用できる。さらに、マイクロ波照射の出力、キャビティの種類(マルチモード、シングルモード)、照射の形態(連続的、断続的)等は、反応のスケールや種類等に応じて任意に決めることができる。
【0013】
本発明の方法において得られるポリウレタンは、ほぼ定量的に生成するため、通常、精製を必要としないが、高分子量体を得るための精製は、再沈殿、クロマトグラフィー等の通常用いられる手段により容易に達せられる。
【0014】
さらに、本発明により、下記の一般式(IV)
【化3】

(式中、Rは水素原子又はメチル基を示し、R”はメチレンシクロヘキシレンメチレン基を示す。nは2以上の整数である。)
で表される新規なポリウレタンが提供される。R”の具体例としては、シクロヘキシレン−1,3−ジメチレン基、又はシクロヘキシレン−1,4−ジメチレン基を挙げることができる。また、nは2以上の整数であり、好ましくは2以上100000以下、より好ましくは3以上80000以下の整数である。
【0015】
次に、本発明を実施例および比較例によりさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
(実施例1)
9,9−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル]フルオレン(Ia) 1.2mmol、ヘキサメチレンジイソシアネート(IIa) 1.2mmol、デカリン 0.5mlの混合物を、放射温度計を備えたマイクロ波照射装置(CEM社製、Discover、シングルモード型)を用いて、200℃で5分撹拌しながら反応を行った。
得られた固体生成物をGPC(ゲル浸透クロマトグラフィー、ポリスチレン標準)で分析した結果、重量平均分子量30700(数平均分子量5800)のポリウレタン(IIIa)がほぼ定量的に生成したことがわかった。
その固体状ポリウレタンをテトラヒドロフランに溶解し、2−プロパノールで再沈殿させると、高分子量成分のIIIaが86%の収率で得られた。その分子量は、GPCで分析した結果、重量平均分子量36200(数平均分子量7000)であった。
【0016】
(実施例2)
ヘキサメチレンジイソシアネート(IIa)のかわりにシクロヘキシレン−1,3−ジメチレンジイソシアネート(IIb)を用いる他は、実施例1と同様に反応及び分析を行った結果、重量平均分子量20300(数平均分子量4800)の固体状ポリウレタン(IIIb)がほぼ定量的に生成したことがわかった。
【0017】
(実施例3)
ヘキサメチレンジイソシアネート(IIa)のかわりにフェニレン−1,3−ジメチレンジイソシアネート(IIc)を用い、反応温度を160℃とする他は実施例1と同様に反応及び分析を行った結果、重量平均分子量62300(数平均分子量5800)の固体状ポリウレタン(IIIc)がほぼ定量的に生成したことがわかった。
その固体状ポリウレタンをテトラヒドロフランに溶解し、2−プロパノールで再沈殿させると、高分子量成分のIIIcが84%の収率で得られた。その分子量は、GPCで分析した結果、重量平均分子量74100(数平均分子量9000)であった。
【0018】
(実施例4)
ヘキサメチレンジイソシアネート(IIa)のかわりにトリレン−1,3−ジイソシアネート(IId)を用いる他は、実施例1と同様に反応及び分析を行った結果、重量平均分子量2250(数平均分子量1300)の固体状ポリウレタン(IIId)がほぼ定量的に生成したことがわかった。
その固体状ポリウレタンをテトラヒドロフランに溶解し、メタノールで再沈殿させると、高分子量成分のIIIdが51%の収率で得られた。その分子量は、GPCで分析した結果、重量平均分子量3200(数平均分子量1700)であった。
【0019】
(実施例5〜17)
反応条件(ジイソシアネート、溶媒、温度、時間)を変えて、実施例1と同様に反応を行い、GPCで生成したポリウレタンの分子量を測定した結果を表1に示す。
【表1】

【0020】
(実施例18)
放射温度計を備えたマイクロ波照射装置として、CEM社製のDiscoverのかわりにバイオタージ社製のInitiatorを用い、反応時間を20分とするほかは実施例2と同様に反応を行った。生成した固体状ポリウレタンをテトラヒドロフランに溶解し、2−プロパノールで再沈殿させると、IIIbが93%の収率で得られた。その分子量は、GPCで分析した結果、重量平均分子量69900(数平均分子量10900)であった。
IIIbは文献未載の新規化合物で、そのスペクトルデータは下記の通りであった(IIIbのシクロヘキサン環部分のシス:トランス比は約2:1)。
H−NMR(CDCl):0.44−0.58及び0.66−0.84(br m,2H),1.08−1.24及び1.28−1.54(br m,4H),1.56−1.76(br m,4H),2.84−3.14(br m,4H),3.92−4.12(br m,4H),4.26−4.42(br m,4H),4.70−4.90(br m,2H),6.66−6.76(br m,4H),7.02−7.14(br m,4H),7.16−7.26(br m,2H),7.26−7.38(br m,4H),7.66−7.76(br m,4H).
13C−NMR(CDCl):20.67,25.11,29.14,30.33,31.80,33.16,34.53,37.85,44.91,47.22,61.40,63.12,64.13,66.41,69.12,114.20,120.15,125.95,127.37,127.69,129.18,138.50,139.91,151.66,156.35,156.51,157.26.
IR(KBr):3424,3354,2922,2854,1723,1606,1507,1448,1238,1180,1148,1117,1060,1013,823,746,730,628,617cm−1
【0021】
(比較例1)
マイクロ波照射装置の代わりにオイルバスを用いる他は実施例1と同様に反応を行い、GPCで生成したIIIaを分析した結果、その分子量は重量平均分子量1300(数平均分子量840)であり、実施例1で得られた重量平均分子量30700(数平均分子量5800)よりも低いものであった。このことは、マイクロ波照射の反応が、同じ反応温度・時間でのオイルバスによる通常加熱の反応に比べ、短時間でより高分子量のポリウレタンを与えることを示している。
【0022】
(比較例2〜12)
他の代表的な実施例において、比較例1と同様に、オイルバスでの反応を行いGPCで生成したポリウレタンを分析した結果を、対応する実施例の結果と共に表2に示す。
【表2】

【0023】
いずれの比較例においても、ポリウレタンの分子量は対応する実施例の値よりも小さく、マイクロ波照射を用いることにより、原料の種類や温度等の反応条件に関わりなく、高分子量のポリウレタンをより効率的に製造できることが示された。
【産業上の利用可能性】
【0024】
本発明の方法により、各種機能性材料として広範に利用されている高分子量のフルオレン含有ポリウレタンを、より効率的かつ安全に製造できる。特に、本発明により得られるポリウレタンは、耐熱性、透明性、高屈折性、高強度性等に優れ、光学レンズ、光学フィルム等の光学材料や高強度材料等への応用が期待される高機能材料用として有用であり、本発明の工業的意義は多大である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の一般式(I)
【化1】

(式中、Rは水素原子又はメチル基を示し、環上の水素原子の一部が反応に関与しない置換基で置換されていてもよい。)
で表されるフルオレン誘導体を、下記の一般式(II)
O=C=N−R’−N=C=O (II)
(式中、R’は、アルキレン基、アリーレン基、アルキレンアリーレンアルキレン基、又はアリーレンアルキレンアリーレン基を示し、これらの基の水素原子の一部が反応に関与しない置換基で置換されていてもよい。)
で表されるジイソシアネートと、マイクロ波を照射して反応させることを特徴とする、下記の一般式(III)
【化2】

(式中、R及びR’は前記と同じ意味であり、nは2以上の整数である。)
で表されるポリウレタンの製造方法。
【請求項2】
下記の一般式(IV)で表されるポリウレタン。
【化3】

(式中、Rは水素原子又はメチル基を示し、R”はメチレンシクロヘキシレンメチレン基を示す。nは2以上の整数である。)

【公開番号】特開2009−138073(P2009−138073A)
【公開日】平成21年6月25日(2009.6.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−314837(P2007−314837)
【出願日】平成19年12月5日(2007.12.5)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成19年11月1日 インターネットアドレス「http://www.spsj.or.jp/ppc10/ppctop.html」に発表
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成19年度独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構委託研究「革新的部材産業創出プログラム/新産業創造高度部材基盤技術開発・省エネルギー技術開発プログラム/革新的マイクロ反応場利用部材技術開発」産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】