説明

フルオレン骨格を有する新規なポリカルボン酸およびその製造方法

【課題】耐熱性などにおいて優れた新規なフルオレン骨格を有するポリカルボン酸を提供する。
【解決手段】下記式(1)で表されるポリカルボン酸。


(式中、環Zは、ナフタレン環などの縮合多環式芳香族炭化水素環を示し、Rはシアノ基、ハロゲン原子又はアルキル基、Rは、炭化水素基、アルコキシ基、アリールオキシ基などを示し、Rはメチレン基などの脂肪族炭化水素基を示す。kは0〜4の整数、mは0以上の整数、nは1以上の整数である。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フルオレン骨格(詳細には、9,9−ビス(縮合多環式アリール)フルオレン骨格)を有する新規なポリカルボン酸およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
9,9−ビスフェニルフルオレン骨格などのフルオレン骨格を有する化合物は、屈折率、耐熱性などにおいて優れた機能を有しており、樹脂原料などとして用いることが知られている。このようなフルオレン骨格の優れた機能を樹脂に発現する方法としては、反応性基(ヒドロキシル基、アミノ基など)を有するフルオレン化合物、例えば、ビスフェノールフルオレン(BPF)、ビスクレゾールフルオレン(BCF)、ビスアミノフェニルフルオレン(BAFL)、ビスフェノキシエタノールフルオレン(BPEF)などを樹脂の構成成分として利用し、樹脂の骨格構造の一部にフルオレン骨格を導入する方法が一般的である。例えば、このようなフルオレン骨格を有するポリエステル樹脂として、特開2002−284864号公報(特許文献1)には、9,9−ビスフェニルフルオレン骨格を有するポリエステル樹脂で構成された成形材料が開示されている。また、特開2004−339499号公報(特許文献2)には、ビスフェノールフルオレン、ビスアミノフェニルフルオレン、ビスフェノキシエタノールフルオレンなどを重合成分とする樹脂(ポリエステル系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ウレタン系樹脂、アクリル系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリイミド系樹脂、エポキシ系樹脂、ビニルエステル樹脂、フェノール系樹脂、アニリン系樹脂など)と、添加剤とを含有する組成物が開示されている。
【0003】
このように、従来、樹脂原料などに用いるフルオレン骨格を有する化合物としては、反応性置換基としてヒドロキシル基(フェノール性ヒドロキシル基を含む)やアミノ基を有する化合物が一般的であったが、新たな機能や特性を有するフルオレン骨格を有する樹脂などを開発するうえで、カルボキシル基を有するフルオレン骨格を有する化合物が求められつつある。
【0004】
このような反応性置換基としてのカルボキシル基を有するフルオレン骨格含有化合物としては、9,9−ビス(4−カルボキシフェニル)フルオレンのような芳香族系ジカルボン酸の他、脂肪族系ジカルボン酸(芳香脂肪族系ジカルボン酸)の開発が求められている。このようなフルオレン骨格を有する脂肪族系ジカルボン酸は、未だ開発途上であるが、Chem. Lett, 1998, 27, 1055〜1056(非特許文献1)には、9,9−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル]フルオレンなどとともに、その一化合物として、9,9−ビス[4−(2−カルボキシエトキシ)フェニル]フルオレンが開示されている。
【0005】
このような9,9−ビス[4−(2−カルボキシエトキシ)フェニル]フルオレンは、9,9−ビスフェニルフルオレン骨格を有しているため、樹脂原料などとして用いたとき、高耐熱性や高屈折性などの特性の付与が期待される。しかし、近年の急速な技術革新に伴い、このような特性のさらなる向上が要求されており、このようなさらなる高い要求性能を充足するフルオレン骨格を有するポリカルボン酸の開発が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2002−284864号公報(特許請求の範囲)
【特許文献2】特開2004−339499号公報(特許請求の範囲、段落番号[0032])
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Chem. Lett, 1998, 27, 1055〜1056
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従って、本発明の目的は、耐熱性などの特性において優れ、樹脂原料などとして使用可能な新規なフルオレン骨格を有するポリカルボン酸を提供することにある。
【0009】
本発明の他の目的は、上記のような新規なフルオレン骨格を有するポリカルボン酸を、簡便にかつ効率よく製造する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、前記課題を達成するため鋭意検討した結果、9,9−ビス(縮合多環式アリール)フルオレン骨格(例えば、9,9−ビス(ナフチル)フルオレン骨格)と脂肪族炭化水素骨格(例えば、C1−4アルキレン骨格など)とを組み合わせて有する新規なフルオレン骨格含有ポリカルボン酸が、従来の9,9−ビス[4−(2−カルボキシエトキシ)フェニル]フルオレンなどに比べ、より一層の高耐熱性や低屈折性などの優れた特性を有しており、樹脂原料などとして有用であること、さらに、このようなポリカルボン酸は、9,9−ビス(ヒドロキシナフチル)フルオレン類などのフェノール類と、ハロ脂肪酸(例えば、ハロ酢酸などのハロアルカン酸)又はその誘導体(例えば、C1−4アルキルエステル、ナトリウム塩などのアルカリ金属塩)とを反応させるという簡便な方法により、高い収率で効率よく得られることを見出し、本発明を完成した。
【0011】
すなわち、本発明のカルボン酸(ポリカルボン酸)は、下記式(1)で表されるカルボン酸である。
【0012】
【化1】

【0013】
(式中、環Zは縮合多環式芳香族炭化水素環を示し、Rはシアノ基、ハロゲン原子又はアルキル基、Rは、炭化水素基、アルコキシ基、シクロアルコキシ基、アリールオキシ基、アラルキルオキシ基、アシル基、ハロゲン原子、ニトロ基、シアノ基又は置換アミノ基を示し、Rは脂肪族炭化水素基を示す。kは0〜4の整数、mは0以上の整数、nは1以上の整数である。)
前記式(1)において、環Zは、例えば、ナフタレン環であってもよい。また、前記式(1)において、Rは、C1−4アルキレン基であってもよい。特に、Rは、メチレン基であってもよい。
【0014】
本発明には、前記カルボン酸を製造する方法であって、塩基性化合物の存在下、下記式(2)
【0015】
【化2】

【0016】
(式中、Z、R、R、k、m、nは前記と同じ。)
で表される化合物と、下記式(3)
【0017】
【化3】

【0018】
(式中、Xはハロゲン原子を示し、Rは前記と同じ。)
で表されるカルボン酸又はその誘導体(反応性誘導体)とを反応させる工程を含む製造方法も含まれる。
【0019】
このような方法において、前記式(2)で表される化合物と、前記式(3)で表されるカルボン酸のアルキルエステル(例えば、C1−4アルキルエステルなどのアルキルエステル)および塩(例えば、アルカリ金属塩などの金属塩)から選択された化合物とを反応させてもよい。
【0020】
本発明の方法では、比較的理論量に近い使用割合であっても収率よく式(1)で表されるカルボン酸が得られる。そのため、本発明の方法では、例えば、前記式(2)で表される化合物のヒドロキシル基1モルに対して、式(3)で表されるカルボン酸又はその誘導体1〜1.5モル程度を使用してもよい。
【0021】
前記方法において、前記式(2)で表される化合物と前記式(3)で表されるカルボン酸又はその誘導体との反応は、特に、極性有機溶媒(例えば、アルコール類およびスルホキシド類から選択された少なくとも1種の溶媒)の存在下で行ってもよい。
【0022】
なお、本明細書において、化合物名などの「類」とは、「置換基を有さない」場合と「置換基を有する」場合とを含み、「置換基を有していてもよい」ことを意味する場合がある。
【発明の効果】
【0023】
本発明の新規なフルオレン骨格を有するポリカルボン酸は、9,9−ビス[4−(2−カルボキシエトキシ)フェニル]フルオレンなどに比べ、より一層、耐熱性などの特性において優れ、樹脂原料などとして使用可能である。また、本発明の方法では、上記のような新規なフルオレン骨格を有するポリカルボン酸を、濃硫酸、メルカプトプロピオン酸などの触媒を要することなく、簡便にかつ効率よく製造できる。特に、本発明の方法は、溶媒の種類などを選択することにより、比較的理論量に近い割合で反応させても、高収率でフルオレン骨格を有するポリカルボン酸が得られる。しかも、原料のカルボン酸又はその誘導体も安価に得られる場合が多い。そのため、本発明の方法は、工業的にも有利であり、実用性が極めて高い製造プロセスである。
【発明を実施するための形態】
【0024】
[式(1)で表されるカルボン酸]
本発明のカルボン酸は、下記式(1)で表される。
【0025】
【化4】

【0026】
(式中、環Zは縮合多環式芳香族炭化水素環を示し、Rは置換基、Rは置換基を示し、Rは脂肪族炭化水素基を示す。kは0〜4の整数、mは0以上の整数、nは1以上の整数である。)
上記式(1)において、環Zで表される縮合多環式芳香族炭化水素環としては、縮合二環式炭化水素環(例えば、インデン環、ナフタレン環などのC8−20縮合二環式炭化水素環、好ましくはC10−16縮合二環式炭化水素環)、縮合三環式炭化水素環(例えば、アントラセン環、フェナントレン環など)などの縮合二乃至四環式炭化水素環などが挙げられる。好ましい縮合多環式芳香族炭化水素環としては、ナフタレン環、アントラセン環などが挙げられ、特にナフタレン環が好ましい。なお、フルオレンの9位に置換する2つの環Zは同一の又は異なる環であってもよく、通常、同一の環であってもよい。
【0027】
なお、フルオレンの9位に置換する環Zの置換位置は、特に限定されず、例えば、フルオレンの9位に置換するナフチル基は、1−ナフチル基、2−ナフチル基などであってもよく、特に2−ナフチル基であるのが好ましい。
【0028】
また、前記式(1)において、基Rで表される置換基としては、例えば、シアノ基、ハロゲン原子(フッ素原子、塩素原子、臭素原子など)、炭化水素基[例えば、アルキル基、アリール基(フェニル基などのC6−10アリール基)など]などの非反応性置換基が挙げられ、特に、ハロゲン原子、シアノ基又はアルキル基(特にアルキル基)である場合が多い。アルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、t−ブチル基などのC1−6アルキル基(例えば、C1−4アルキル基、特にメチル基)などが例示できる。なお、kが複数(2以上)である場合、基Rは互いに異なっていてもよく、同一であってもよい。また、フルオレン(又はフルオレン骨格)を構成する2つのベンゼン環に置換する基Rは同一であってもよく、異なっていてもよい。また、フルオレンを構成するベンゼン環に対する基Rの結合位置(置換位置)は、特に限定されない。好ましい置換数kは、0〜1、特に0である。なお、フルオレンを構成する2つのベンゼン環において、置換数kは、互いに同一又は異なっていてもよい。
【0029】
また、前記式(1)において、Rで表される置換基としては、カルボキシル基以外の置換基(特に、非反応性置換基)、例えば、アルキル基(例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、s−ブチル基、t−ブチル基などのC1−20アルキル基、好ましくはC1−8アルキル基、さらに好ましくはC1−6アルキル基など)、シクロアルキル基(シクロペンチル基、シクロへキシル基などのC5−10シクロアルキル基、好ましくはC5−8シクロアルキル基、さらに好ましくはC5−6シクロアルキル基など)、アリール基[例えば、フェニル基、アルキルフェニル基(メチルフェニル基(又はトリル基、2−メチルフェニル基、3−メチルフェニル基など)、ジメチルフェニル基(キシリル基)など)、ナフチル基などのC6−10アリール基、好ましくはC6−8アリール基、特にフェニル基など]、アラルキル基(ベンジル基、フェネチル基などのC6−10アリール−C1−4アルキル基など)などの炭化水素基;アルコキシ基(メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、n−ブトキシ基、イソブトキシ基、t−ブトキシ基などのC1−20アルコキシ基、好ましくはC1−8アルコキシ基、さらに好ましくはC1−6アルコキシ基など)、シクロアルコキシ基(シクロへキシルオキシ基などのC5−10シクロアルキルオキシ基など)、アリールオキシ基(フェノキシ基などのC6−10アリールオキシ基)、アラルキルオキシ基(例えば、ベンジルオキシ基などのC6−10アリール−C1−4アルキルオキシ基)などのエーテル基(置換ヒドロキシル基);アルキルチオ基(メチルチオ基、エチルチオ基、プロピルチオ基、n−ブチルチオ基、t−ブチルチオ基などのC1−20アルキルチオ基、好ましくはC1−8アルキルチオ基、さらに好ましくはC1−6アルキルチオ基など)、シクロアルキルチオ基(シクロへキシルチオ基などのC5−10シクロアルキルチオ基など)、アリールチオ基(チオフェノキシ基などのC6−10アリールチオ基)、アラルキルチオ基(例えば、ベンジルチオ基などのC6−10アリール−C1−4アルキルチオ基)などのチオエーテル基(置換メルカプト基);アシル基(アセチル基などのC1−6アシル基など);ヒドロキシル基;ハロゲン原子(フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子など);ニトロ基;シアノ基;置換アミノ基(ジアルキルアミノ基など)などが挙げられる。
【0030】
これらのうち、基Rは、炭化水素基、アルコキシ基、シクロアルコキシ基、アリールオキシ基、アラルキルオキシ基、アシル基、ハロゲン原子、ニトロ基、シアノ基、置換アミノ基であるのが好ましく、特に、好ましい基Rは、炭化水素基[例えば、アルキル基(例えば、C1−6アルキル基)など]、アルコキシ基(C1−4アルコキシ基など)、ハロゲン原子(フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子など)などである。
【0031】
なお、同一の環Zにおいて、mが複数(2以上)である場合、基Rは互いに異なっていてもよく、同一であってもよい。また、2つの環Zにおいて、基Rは同一であってもよく、異なっていてもよい。また、好ましい置換数mは、0〜8、好ましくは0〜6(例えば、1〜5)、さらに好ましくは0〜4、特に0〜2(例えば、0〜1)であってもよい。なお、2つの環Zにおいて、置換数mは、互いに同一又は異なっていてもよい。
【0032】
前記式(1)において、基Rで表される脂肪族炭化水素基としては、飽和脂肪族炭化水素基[例えば、アルキレン基(アルキリデン基を含む。例えば、メチレン基、エチレン基、エチリデン基、トリメチレン基、プロピレン基、プロピリデン基、テトラメチレン基、ペンタメチレン基、ヘキサメチレン基などのC1−10アルキレン基、好ましくはC1−6アルキレン基、さらに好ましくはC1−4アルキレン基)などの鎖状飽和脂肪族炭化水素基;シクロアルキレン基(例えば、シクロヘキシレン基などのC5−10シクロアルキレン基)などの脂環族飽和炭化水素基など]、不飽和脂肪族炭化水素基[例えば、アルケニレン基(例えば、ビニレン基、プロペン−1,3−ジイル基などのC2−6アルケニレン基など)などの鎖状不飽和脂肪族炭化水素基;シクロアルケニレン基(例えば、シクロヘキセン−1,4−ジイル基などのC5−10シクロアルケニレン基)などの脂環族不飽和炭化水素基など]などが含まれる。
【0033】
また、基Rには、下記式(3A)で表される基なども含まれる。
【0034】
−R3a−R3b− (3A)
(式中、R3aはカルボキシル基に結合した脂肪族炭化水素基、R3bはR3aとは異なる脂肪族炭化水素基、又は芳香族炭化水素基を示す。)
上記式(3A)において、R3aは、式(1)で表される化合物のカルボキシル基に結合又は隣接した脂肪族炭化水素基であり、脂肪族炭化水素基としては、前記例示の基(例えば、アルキレン基など)などが挙げられる。また、基R3bにおいて、脂肪族炭化水素基としては、通常基R3aと異なる前記例示の脂肪族炭化水素基が挙げられる。また、基R3bにおいて、芳香族炭化水素基としては、例えば、アリーレン基[例えば、フェニレン基(1,4−フェニレン基など)、ナフチレン基などのC6−10アリーレン基]などが挙げられる。代表的なR3aとR3bとの組み合わせとしては、例えば、(1)R3aがアルキレン基であり、R3bがアルキレン基でない脂肪族炭化水素基(例えば、シクロアルキレン基)である組み合わせ、(2)R3aがアルキレン基であり、R3bがアリーレン基である組み合わせなどが含まれる。
【0035】
なお、基Rで表される脂肪族炭化水素基は、置換基(例えば、ニトロ基、シアノ基、置換アミノ基など)を有していてもよく、脂肪族炭化水素基には、このような置換基を有する基も含まれる。
【0036】
好ましい基Rは、鎖状脂肪族炭化水素基(例えば、C1−10アルキレン基など)であり、特にアルキレン基[例えば、メチレン基、エチレン基などの低級アルキレン基(例えば、C1−4アルキレン基)など]が好ましく、特に、Rがメチレン基であるカルボン酸が好ましい。このようなカルボン酸は、Rがエチレン基である化合物などに比べて、より一層、耐熱性などの特性の向上効果が期待できる。
【0037】
また、前記式(1)において、基Rを含む基(すなわち、−O−R−COOH、カルボキシル基含有基などということがある)の置換数nは、1以上であればよく、例えば、1〜4、好ましくは1〜3、さらに好ましくは1〜2、特に1であってもよい。なお、置換数nは、それぞれの環Zにおいて、同一又は異なっていてもよく、通常、同一である場合が多い。なお、カルボキシル基含有基の置換位置は、特に限定されず、環Zの適当な置換位置に置換していればよい。特に、カルボキシル基含有基は、縮合多環式炭化水素環において、フルオレンの9位に結合した炭化水素環とは別の炭化水素環(例えば、ナフタレン環の5位、6位など)に少なくとも置換している場合が多い。
【0038】
前記式(1)で表される代表的な化合物には、下記式(1A)で表される化合物(すなわち、環Zがナフタレン環である化合物)などが含まれる。
【0039】
【化5】

【0040】
(式中、m1およびm2はそれぞれ0〜3の整数を示し、m1+m2=mであり、R、R、R、k、mおよびnは前記と同じ。)
なお、上記式(1A)において、m1およびm2は、それぞれ、前記mに対応しており、m1は、0〜3であればよく、好ましくは0〜2、さらに好ましくは0〜1、特に0である。また、m2は、0〜3(例えば、1〜3)であればよく、好ましくは0〜2、さらに好ましくは0〜1、特に0である。なお、m1およびm2は、それぞれのナフタレン環において、同一又は異なる数であってもよく、また、異なるナフタレン環において同一又は異なる数であってもよい。また、置換基Rは、前記と同じであり、同一のナフタレン環及び異なるナフタレン環においてそれぞれ、同一又は異なる置換基であってもよい。
【0041】
また、前記式(1A)において、カルボキシル基含有基の置換数nは、例えば、1〜4、好ましくは1〜3、さらに好ましくは1〜2、特に1であってもよい。さらに、前記式(1A)において、カルボキシル基含有基の置換位置は、特に制限されないが、フルオレンに置換するナフチル基(1又は2−ナフチル基)の置換位置などに応じて、5〜8位のいずれか(例えば、5位)であればよく、特に、2−ナフチル基(β−ナフチル基)が置換している場合には、ナフチル基の6位に少なくともカルボキシル基含有基が置換している場合が多く、1−ナフチル基(α−ナフチル基)が置換している場合には、ナフチル基の5位又は8位(特に5位)に少なくともカルボキシル基含有基が置換している場合が多い。
【0042】
前記式(1)で表される具体的な化合物としては、例えば、9,9−ビス(カルボキシアルコキシナフチル)フルオレン類{例えば、9,9−ビス(カルボキシアルコキシナフチル)フルオレン[例えば、9,9−ビス[6−(カルボキシメトキシ)−2−ナフチル]フルオレン、9,9−ビス[5−(カルボキシメトキシ)−1−ナフチル]フルオレン、9,9−ビス[6−(1−カルボキシエトキシ)−2−ナフチル]フルオレン、9,9−ビス[6−(2−カルボキシエトキシ)−2−ナフチル]フルオレン、9,9−ビス[6−(1−カルボキシプロポキシ)−2−ナフチル]フルオレン、9,9−ビス[6−(2−カルボキシプロポキシ)−2−ナフチル]フルオレン、9,9−ビス[6−(3−カルボキシプロポキシ)−2−ナフチル]フルオレンなどの9,9−ビス(カルボキシC1−4アルコキシナフチル)フルオレンなど]など}などの前記式(1)においてnが1である化合物;9,9−ビス(ポリカルボキシアルコキシナフチル)フルオレン類などの前記式(1)においてnが2以上である化合物などが挙げられる。
【0043】
[式(1)で表されるカルボン酸の製造方法]
式(1)で表されるカルボン酸は、特に制限されないが、例えば、下記式(2)
【0044】
【化6】

【0045】
(式中、Z、R、R、k、m、nは前記と同じ。)
で表される化合物と、下記式(3)
【0046】
【化7】

【0047】
(式中、Xはハロゲン原子を示し、Rは前記と同じ。)
で表されるカルボン酸又はその誘導体とを反応させる工程を含む製造方法により製造できる。
【0048】
(式(2)で表される化合物)
前記式(2)において、Z、R、R、k、m、nは前記と同じであり、好ましい態様なども前記と同じである。
【0049】
代表的な前記式(2)で表される化合物には、9,9−ビス(ヒドロキシナフチル)フルオレン類{例えば、9,9−ビス(ヒドロキシナフチル)フルオレン[例えば、9,9−ビス(6−ヒドロキシ−2−ナフチル)フルオレン、9,9−ビス(5−ヒドロキシ−1−ナフチル)フルオレンなど]など}などの前記式(2)においてnが1である化合物;9,9−ビス(ポリヒドロキシナフチル)フルオレン類[例えば、9,9−ビス(ジ又はトリヒドロキシナフチル)フルオレンなど]などの前記式(2)においてnが2以上である化合物が挙げられる。
【0050】
なお、式(2)で表される化合物は、市販品を使用してもよく、特に、式(2)において環Zがナフタレン環である化合物は、特開2007−99741号公報に記載の方法などにより合成して使用してもよい。
【0051】
(式(3)で表されるカルボン酸又はその誘導体)
前記式(3)において、Xで表されるハロゲン原子としては、例えば、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子などが挙げられる。
【0052】
なお、前記式(3)において、基Rは前記と同じであり、好ましい態様なども前記と同じである。特にこれらの中でも、Rがメチレン基であるカルボン酸(又はその誘導体)は、副反応(ハロゲン化水素の発生など)が生じず、また、得られるポリカルボン酸の耐熱性向上効果なども期待できるため好ましい。
【0053】
代表的な式(3)で表されるカルボン酸には、ハロ脂肪酸、例えば、ハロ飽和脂肪酸[例えば、ハロアルカン酸(例えば、クロロ酢酸、2−クロロプロピオン酸、3−クロロプロピオン酸、α−クロロ酪酸、β−クロロ酪酸、γ−クロロ酪酸、これらのクロロアルカン酸に対応するブロモアルカン酸などのハロC2−10アルカン酸、好ましくはハロC2−6アルカン酸、さらに好ましくはハロC2−4アルカン酸)など]、ハロ不飽和脂肪酸[例えば、ハロアルケン酸(例えば、3−クロロアクリル酸、3−クロロクロトン酸、これらのクロロアルケン酸に対応するブロモアルケン酸などのハロC3−10アルケン酸、好ましくはハロC3−6アルケン酸)など]などが挙げられる。
【0054】
式(3)で表される化合物は、上記のような脂肪酸(遊離の脂肪酸)であってもよく、式(2)で表される化合物との反応(脱ハロゲン化水素反応)をより効率よく進行させるため、誘導体化されていてもよい。このようなカルボン酸の誘導体(反応性誘導体)としては、前記脂肪酸のカルボキシル基を保護(キャップ)し、式(2)で表される化合物との反応を阻害しない化合物であれば特に限定されず、例えば、カルボン酸のエステル[例えば、アルキルエステル(例えば、メチルエステル、エチルエステル、n−プロピルエステル、イソプロピルエステル、n−ブチルエステル、s−ブチルエステル、t−ブチルエステルなどのC1−10アルキルエステル、好ましくはC1−6アルキルエステル、さらに好ましくはC1−4アルキルエステル)、シクロアルキルエステル(例えば、シクロヘキシルエステルなどのC5−10シクロアルキルエステル)、アリールエステル(例えば、フェニルエステルなどのC6−10アリールエステル)など]、カルボン酸の塩{例えば、金属塩[例えば、アルカリ金属塩(例えば、リチウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩など)、アルカリ土類金属塩(例えば、カルシウム塩など)など]、アミン塩(例えば、ジメチルアミン塩、トリメチルアミン塩、トリエチルアミン塩などのモノ乃至トリアルキルアミン塩、ピリジン塩など)、アンモニウム塩など}などが挙げられる。
【0055】
好ましい前記誘導体には、カルボン酸のエステル{例えば、アルキルエステル[例えば、メチルエステル、エチルエステルなどの低級アルキルエステル(C1−4アルキルエステル)など]など}、カルボン酸の塩[特に、金属塩(アルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩など)など]などが含まれる。
【0056】
式(3)で表されるカルボン酸又はその誘導体は、単独で又は2種以上組み合わせてもよい。
【0057】
反応において、式(2)で表される化合物と、式(3)で表されるカルボン酸又はその誘導体との割合(使用割合)は、例えば、式(2)で表される化合物のヒドロキシル基1モルに対して、式(3)で表されるカルボン酸又はその誘導体1モル以上(例えば、1〜10モル)、好ましくは1〜8モル(例えば、1.01〜7モル)、さらに好ましくは1.05〜5モル(例えば、1.1〜3モル)程度であってもよい。特に、本発明では、理論量付近の割合、例えば、式(2)で表される化合物のヒドロキシル基1モルに対して、式(3)で表されるカルボン酸又はその誘導体1〜2モル(例えば、1〜1.5モル、好ましくは1〜1.3モル、さらに好ましくは1〜1.2モル)程度であっても、高収率で効率よく目的生成物を得ることができる。
【0058】
反応は、通常、塩基性化合物(塩基性触媒、塩基触媒)の存在下で行ってもよい。塩基性化合物としては、例えば、無機塩基{例えば、金属水酸化物[例えば、アルカリ金属水酸化物(例えば、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなど)、アルカリ土類金属水酸化物(例えば、水酸化カルシウムなど)など]、金属水素化物(例えば、水素化ナトリウム、水素化カリウムなどのアルカリ又はアルカリ土類金属水素化物)、金属炭酸塩(例えば、炭酸リチウム、炭酸カリウム、炭酸ナトリウムなどのアルカリ又はアルカリ土類金属炭酸塩)、金属炭酸水素塩(例えば、炭酸水素カリウム、炭酸水素ナトリウムなど)など}、有機塩基{例えば、脂肪族アミン[第1乃至3級脂肪族アミン、例えば、トリアルキルアミン(トリエチルアミン、ジエチルメチルアミン、ジイソプロピルエチルアミン、トリn−プロピルアミン、トリブチルアミンなど)、トリシクロアルキルアミン(トリシクロヘキシルアミンなど)、メチルジシクロヘキシルアミンなどの脂肪族第3級アミン]、芳香族アミン(第1乃至3級芳香族アミン、例えば、N,N−ジメチルアニリンなどの芳香族第3級アミン)、複素環式アミン(第1乃至3級複素環式アミン、例えば、ピコリン、ピリジン、ピラジン、ピリミジン、ピリダジン、1−メチルイミダゾール、トリエチレンジアミン、N,N−ジメチルアミノピリジン、1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデ−7−センなどの複素環式第3級アミン、ピペリジンなどの複素環式第2級アミンなど)など]などのアミン類;カルボン酸金属塩(酢酸ナトリウム、酢酸カルシウムなどの酢酸アルカリ金属又はアルカリ土類金属塩など);第4級アンモニウム塩(塩化テトラエチルアンモニウムなどのテトラアルキルアンモニウムハライド;塩化ベンジルトリメチルアンモニウムなどのベンジルトリアルキルアンモニウムハライドなど);第4級ホスホニウム塩(塩化ベンジルトリフェニルホスホニウムなど)など}などが例示できる。
【0059】
これらのうち、特に、金属水酸化物[例えば、アルカリ金属水酸化物(例えば、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなど)、アルカリ土類金属水酸化物(例えば、水酸化カルシウムなど)など]などの無機塩基が好ましい。
【0060】
これらの塩基性化合物は、単独で又は2種以上組み合わせてもよい。
【0061】
塩基性化合物の使用量は、その種類などにもよるが、例えば、前記式(2)で表される化合物のヒドロキシル基1モルに対して、例えば、0.1〜10モル当量、好ましくは0.5〜7モル当量、さらに好ましくは1〜6モル当量(例えば、1.2〜5モル当量)、特に1.3〜4モル当量(例えば、1.5〜3モル当量)程度であってもよい。
【0062】
式(2)で表される化合物と式(3)で表されるカルボン酸又はその誘導体との反応は、溶媒の非存在下で行ってもよく、溶媒の存在下(又は溶媒中)で行ってもよい。溶媒としては、反応を阻害しない溶媒であれば限定されないが、例えば、アルコール類{例えば、アルカノール(例えば、メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、1−ブタノール、2−ブタノールなどのC1−6アルカノール、好ましくはC1−4アルカノール、さらに好ましくはC1−3アルカノール)、アルキレングリコールモノアルキルエーテル(2−メトキシエタノールなどのC1−4アルコキシ−C2−4アルカノール)、シクロアルカノール(シクロヘキサノールなど)など]、グリセリンなど}、アミド類(例えば、N−メチルホルムアミド、N,N−ジメチルホルムアミドなどのN−モノ又はジC1−4アルキルホルムアミド;N−メチルアセトアミド、N,N−ジメチルアセトアミドなどのN−モノ又はジC1−4アルキルアセトアミドなど)、ニトリル類(例えば、アセトニトリル、プロピオニトリルなど)、硫黄化合物[スルホキシド類(例えば、ジメチルスルホキシドなど)、スルホン類(例えば、スルホランなどの環状スルホン)など]、エーテル類(例えば、ジエチルエーテルなどのジアルキルエーテル類;ジエチレングリコールジメチルエーテルなどの(ポリ)アルキレングリコールジアルキルエーテル類;テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサンなどの環状エーテル類など)、炭化水素類(例えば、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、シクロヘキサンなどの脂肪族炭化水素類;トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素類)などの有機溶媒;水などの無機溶媒などが挙げられる。また、前記アミン類などを溶媒として用いてもよい。これらの溶媒は単独で又は2種以上組み合わせてもよい。
【0063】
好ましい溶媒には、極性有機溶媒(例えば、アルコール類、アミド類、スルホキシド類など)が挙げられ、特に、アルコール類[アルカノール(例えば、C1−4アルカノール)など]、スルホキシド類(ジメチルスルホキシドなど)などが好ましい。これらの中でも、イソプロパノールなどのアルカノール類は、安価であるにもかかわらず、目的生成物を高収率で生成できるため極めて有用である。
【0064】
溶媒の割合は、例えば、式(2)で表される化合物と式(3)で表されるカルボン酸又はその誘導体との総量1重量部に対して、0.3〜100重量部、好ましくは0.5〜50重量部、さらに好ましくは1〜30重量部程度であってもよい。
【0065】
反応温度は、例えば、0〜250℃(例えば、20〜220℃)、好ましくは30〜200℃(例えば、50〜180℃)、さらに好ましくは60〜150℃(例えば、70〜130℃)程度であってもよい。また、反応は、溶媒を還流させながら行ってもよい。
【0066】
反応時間は、特に限定されず、反応温度などに応じて適宜選択できるが、通常、1〜72時間、好ましくは2〜48時間、さらに好ましくは5〜36時間程度であってもよい。また、反応は、攪拌しながら行ってもよく、空気中又は不活性雰囲気(窒素、希ガスなど)中で行ってもよく、減圧下、常圧下又は加圧下で行ってもよい。
【0067】
なお、生成した化合物は、慣用の方法、例えば、濾過、濃縮、抽出、晶析、再結晶、カラムクロマトグラフィーなどの分離手段や、これらを組み合わせた分離手段により分離精製してもよい。
【0068】
上記のようにして、式(1)で表されるカルボン酸(又はその誘導体)が得られる。なお、式(2)で表される化合物と、式(3)で表されるカルボン酸の誘導体とを反応させると、対応する式(2)で表される化合物の誘導体が得られる。なお、本発明には、このようなカルボン酸の誘導体も含まれる。例えば、式(3)で表されるカルボン酸のエステルを使用すると、式(1)で表されるカルボン酸のエステルが得られ、式(3)で表されるカルボン酸の金属塩を使用すると、式(1)で表されるカルボン酸の金属塩が得られる。このような場合には、式(2)で表される化合物と式(3)で表されるカルボン酸の誘導体との反応生成物に、加水分解処理や、中和処理などを行うことにより、目的生成物(式(1)で表されるカルボン酸)を得ることができる。
【0069】
このような方法では、濃硫酸などの触媒を使用することなく、簡便にかつ効率よく式(1)で表されるカルボン酸(フルオレン骨格を有するポリカルボン酸)を得ることができる。特に、本発明の方法は、高収率でフルオレン骨格を有するポリカルボン酸を得ることができ、大量合成も可能である。例えば、本発明の方法により得られる式(1)で表されるカルボン酸の収率は、前記式(2)で表される化合物基準で、50モル%以上(例えば、55〜100モル%)、好ましくは60モル%以上(例えば、65〜99.99モル%)、さらに好ましくは70モル%以上(例えば、75〜99.95モル%)であってもよく、90モル%以上[例えば、93モル%以上(例えば、94〜100モル%)、好ましくは95モル%以上(例えば、96〜99.99モル%)]とすることもできる。
【実施例】
【0070】
以下に、実施例に基づいて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
【0071】
なお、HPLCは以下の機器および条件にて測定した。
【0072】
使用機器:HITACHI L−71シリーズ
検出器:HITACHI L−7405 λ=254nm
カラム:ナカライテスク COSMOSIL 5C18−AR−11 150−4.6mm Monf. No. K52820
溶出液:THF(テトラヒドロフラン):水=50:50
流速:1mL/分。
【0073】
(実施例1)
9,9−ビス(6−ヒドロキシ−2−ナフチルフルオレン)(BNF、大阪ガスケミカル(株)製)10.00g(0.02857モル)、水酸化ナトリウム2.50g(0.0625モル)及びジメチルスルホキシド100mLを加え、100℃で1時間加熱した後、クロロ酢酸ナトリウム13.30g(0.144モル)を加えて、反応温度100℃で24時間反応させた。反応後の反応液を、水350mLに注ぎ、濃塩酸8mLを加え、析出物を濾取し、水洗後乾燥させることで、目的物を収量14.2g(収率88%)で得た。HPLC(高速液体クロマトグラフィー)により測定された結果から、反応物の組成は、BNFが0.31%、下記式で表されるジカルボン酸{9,9−ビス[6−(カルボキシメトキシ)−2−ナフチル]フルオレン}が93.1%であり、高収率および高純度で対応するジカルボン酸が得られた。
【0074】
【化8】

【0075】
(実施例2)
アルゴン気流下、3−クロロプロピオン酸2.43g(0.0224モル、ナカライテスク社製)、水素化ナトリウム0.89g(0.039モル、ナカライテスク社製)及びジメチルスルホキシド(DMSO)10mLを加え室温で1時間攪拌した(これを1液とする)。9,9−ビス(6−ヒドロキシ−2−ナフチル)フルオレン(BNF、大阪ガスケミカル(株)製)4.17g(0.00926モル)、水酸化カリウム1.15g(0.0205モル)及びDMSO40mLを加え、100℃で1時間加熱した後、1液を加えて、反応温度100℃で終夜反応させた。反応後の反応液を、氷水に注ぎ、塩酸を加えて酸性とし、酢酸エチルで抽出した。シリカゲルクロマトグラフィーで精製することで、目的物[3,3’−(6,6’−(9H−フルオレン−9,9−ジイル)ビス(ナフタレン−6,2−ジイル))ビス(オキシ)ジプロパノイックアシッド、又は9,9−ビス[6−(2−カルボキシエトキシ)−2−ナフチル]フルオレン]を得た。
【0076】
【化9】

【0077】
H−NMR(DMSO−d6 270MHz):δ(ppm)=2.66(t、4H)、4.18(t、4H)、6.96(d、2H、J=7.3Hz)、7.22−7.54(m、18H)、7.65(d、2H、J=7.9Hz)、7.88(d、2H、J=6.7Hz)
13C−NMR(DMSO−d6 67.5MHz):δ(ppm)=34.06、63.66,64.79,106.39,118.66,120.51,125.07,126.04,126.93,127.04,127.61,127.78,127.93,129.24,132.94,139.49,140.49,150.41,156.12,172.06
【産業上の利用可能性】
【0078】
本発明のフルオレン骨格を有するポリカルボン酸は、高耐熱性、高屈折率、低線膨張性、高透明性などの優れた特性を有しており、これらの特性を付与又は向上させるための化合物として有用であり、例えば、樹脂原料{例えば、ポリエステル系樹脂、液晶性ポリマー、ポリアミド系樹脂、ポリイミド系樹脂、ポリベンズイミダゾール、アクリル系樹脂などのポリカルボン酸又はその誘導体(低級アルキルエステルなど)を重合成分とする樹脂のポリカルボン酸原料}、機能性材料[例えば、添加剤(レジスト用添加剤など)、試薬(医薬、農薬など)の原料又は中間体など]などとして有用である。
【0079】
また、本発明の方法では、フルオレン骨格を有するポリカルボン酸を簡便にかつ効率よく製造できる。特に、本発明の方法は、比較的理論量に近い割合で反応させても、高収率でフルオレン骨格を有するポリカルボン酸が得られるため、工業的に極めて有利である。
【0080】
このようなフルオレン骨格を有するポリカルボン酸は、さまざまな用途に使用できる。具体的には、レジストなどの感光性樹脂、プリント配線基板、液晶配向膜、インク材料、発光材料(例えば、有機EL用発光材料など)、有機半導体、黒鉛化前駆体、ガス分離膜(例えば、COガス分離膜など)、コート剤(例えば、LED(発光ダイオード)用素子のコート剤などの光学用オーバーコート剤又はハードコート剤など)、レンズ[ピックアップレンズ(例えば、DVD(デジタル・バーサタイル・ディスク)用ピックアップレンズなど)、マイクロレンズ(例えば、液晶プロジェクター用マイクロレンズなど)、眼鏡レンズなど]、偏光膜(例えば、液晶ディスプレイ用偏光膜など)、光学フィルム又は光学シート{例えば、タッチパネル用フィルム、有機EL用フィルム、フレキシブル基板用フィルム、ディスプレイ用フィルム[例えば、PDP(プラズマディスプレイ)、LCD(液晶ディスプレイ)、VFD(真空蛍光ディスプレイ)、SED(表面伝導型電子放出素子ディスプレイ)、FED(電界放出ディスプレイ)、NED(ナノ・エミッシブ・ディスプレイ)、ブラウン管、電子ペーパーなどのディスプレイ(特に薄型ディスプレイ)用フィルムなど]など}、反射防止フィルム(又は反射防止膜、例えば、表示デバイス用反射防止フィルムなど)、燃料電池用膜、光ファイバー、光導波路、ホログラムなどの材料として好適に使用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)で表されるカルボン酸。
【化1】

(式中、環Zは縮合多環式芳香族炭化水素環を示し、Rはシアノ基、ハロゲン原子又はアルキル基、Rは、炭化水素基、アルコキシ基、シクロアルコキシ基、アリールオキシ基、アラルキルオキシ基、アシル基、ハロゲン原子、ニトロ基、シアノ基又は置換アミノ基を示し、Rは脂肪族炭化水素基を示す。kは0〜4の整数、mは0以上の整数、nは1以上の整数である。)
【請求項2】
式(1)において、環Zがナフタレン環である請求項1記載のカルボン酸。
【請求項3】
式(1)において、RがC1−4アルキレン基である請求項1又は2に記載のカルボン酸。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載のカルボン酸を製造する方法であって、塩基性化合物の存在下、下記式(2)
【化2】

(式中、Z、R、R、k、m、nは前記と同じ。)
で表される化合物と、下記式(3)
【化3】

(式中、Xはハロゲン原子を示し、Rは前記と同じ。)
で表されるカルボン酸又はその反応性誘導体とを反応させる工程を含む製造方法。
【請求項5】
式(2)で表される化合物と、式(3)で表されるカルボン酸のアルキルエステルおよび塩から選択された化合物とを反応させる請求項4記載の製造方法。
【請求項6】
式(2)で表される化合物のヒドロキシル基1モルに対して、式(3)で表されるカルボン酸又はその誘導体1〜1.5モルを使用する請求項4又は5に記載の製造方法。
【請求項7】
極性有機溶媒の存在下で反応させる請求項4〜6のいずれかに記載の製造方法。
【請求項8】
アルコール類およびスルホキシド類から選択された少なくとも1種の溶媒の存在下で反応させる請求項4〜7のいずれかに記載の製造方法。

【公開番号】特開2009−256332(P2009−256332A)
【公開日】平成21年11月5日(2009.11.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−66862(P2009−66862)
【出願日】平成21年3月18日(2009.3.18)
【出願人】(000000284)大阪瓦斯株式会社 (2,453)
【Fターム(参考)】