説明

フルオロフェノール誘導体の製造方法

【課題】 本発明の製造方法は、有機ホウ素化合物の製造において、一般式(I)とホウ酸エステルの混合物をリチウムジアルキルアミドと反応させることにより、生産性に優れかつ高品質な一般式(II)の製造方法を提供する。
【解決手段】 フルオロベンゼン誘導体及びホウ酸エステルの混合物を、極低温を必要とせずリチウムジアルキルアミドと反応させ、加水分解した後に、酸化することによるフルオロフェノール誘導体の製造方法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液晶化合物等の製造中間体として有用なフルオロフェノール誘導体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
液晶表示素子は、低電圧作動、薄型表示等の優れた特徴から現在広く用いられている。従来の液晶表示素子の表示方式にはTN(ねじれネマチック)、STN(超ねじれネマチック)、又はTNをベースにしたアクティブマトリックス(TFT:薄膜トランジスタ)等があり、これらは誘電率異方性値が正の液晶組成物を利用するものである。しかし、これら表示方式の欠点の一つとして視野角の狭さがあり、近年高まっている液晶パネルの大型化の要求に伴い、その改善が大きな課題となっている。
【0003】
この解決策として近年、垂直配向方式、IPS(インプレインスイッチング)等の表示方式が新たに実用化されてきた。垂直配向方式は液晶分子の垂直配向を利用して視野角の改善を図った方式であり、誘電異方性値が負の液晶組成物が使用される。またIPSは、ガラス基板に対して水平方向の横電界を用いて液晶分子をスイッチングさせることで視野角の改善を図った方法であり、誘電異方性値が正又は負の液晶組成物が使用される。このように、視野角改善のために有効な表示方式である垂直配向方式及びIPSには誘電率異方性値が負である液晶化合物ならびに液晶組成物が必要であり、強く要望されるようになってきた。
【0004】
誘電率異方性が負の液晶組成物に使用される液晶化合物としては、2,3-ジフルオロベンゼン誘導体が挙げられる(特許文献1〜5参照)。その製造方法における水酸基導入工程を以下に示した。
【0005】
【化1】

【0006】
この製造方法では、(1)をリチオ化後ホウ素化して有機ホウ素化合物を製造し、引き続き酸化することによって(2)を製造していた。しかしながらこの方法では、リチオ化後に発生するフッ素を0から3個有する4種類の2量体(3)の抑制が困難であった。それらは通常の精製法では除去が非常に困難であり、更に液晶組成物の信頼性を低下させてしまう。また、ブチルリチウム(BuLi)の塩基性が乏しいと収率の低下を招くため、濃度の高いn-ブチルリチウム溶液を用いる、あるいは、取り扱いがより困難なsec-ブチルリチウムを使用する等の工夫が必要であった。このため、リチオ化及びホウ素化工程は極低温で反応を行う必要があるため生産設備が限定され、スケールアップ・コストダウンを困難にする要因となり生産性を改善する手段がこれまでなかった。
【0007】
【特許文献1】特公表2−503568号公報
【特許文献2】特開2007−119423号公報
【特許文献3】特開2007−145785号公報
【特許文献4】特開2007−176818号公報
【特許文献5】特開2007−204389号公報
【特許文献6】特開2007−291093号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ホウ素体を経由するフルオロフェノール誘導体の製造において、リチオ化工程での2量体の生成を抑え極低温反応条件を必要としないリチオ化及びホウ素化工程を開発し、高品質かつ生産性に優れたフルオロフェノール誘導体の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、上記課題を解決するために反応試薬の種類、添加条件等を鋭意検討した結果、本件発明を完成するに至った。本願は一般式(I)
【0010】
【化2】

【0011】
(式中、X1はフッ素原子又は塩素原子を表し、X2及びX3は、それぞれ独立的にフッ素原子、塩素原子、水素原子、炭素原子数1から7の直鎖状アルキル基、炭素原子数1から7の直鎖状アルコキシル基、炭素原子数2から7の直鎖状アルケニル基又は炭素原子数2から7の直鎖状アルケニルオキシ基を表し、該アルキル基、アルコキシル基、アルケニル基又はアルケニルオキシ基中の1個又は2個以上の炭素原子は−O−、−C=C−又は−C≡C−により置き換えられても良く、1個又は2個以上の水素原子はフッ素原子、フッ素化されていても良いアルキル基、又はフッ素化されていても良いアルコキシル基により置き換えられても良く、分子内に不斉炭素原子を持つ場合にはラセミ体であっても光学活性体であっても良く、一般式(II)
【0012】
【化3】

【0013】
(式中、Aはフッ素原子、ジフルオロメトキシ基、トリフルオロメトキシ基、トリフルオロメチル基、炭素原子数1から7の直鎖状アルキル基、炭素原子数1から7の直鎖状アルコキシル基、炭素原子数2から7の直鎖状アルケニル基又は炭素原子数2から7の直鎖状アルケニルオキシ基を表し、1個又は2個以上の炭素原子が−O−、−C=C−又は−C≡C−により置き換えられても良く、1個又は2個以上の水素原子がフッ素原子、フッ素化されていても良いアルキル基、フッ素化されていても良いアルコキシル基により置き換えられても良く、分子内に不斉炭素原子を持つ場合にはラセミ体であっても光学活性体であっても良く、一般式(II-1)又は一般式(II-2)
【0014】
【化4】

【0015】
(式中、R1及びR2はそれぞれ独立的にメチル基、エチル基又はプロピル基を表すか、R1及びR2は-CH2CH2-、-CH2CH2CH2-又は-CH2C(CH3)2CH2-を表す。)を表すが、nが0を表す場合、Aは一般式(II1)又は一般式(II-2)を表し、Zは単結合、−CHCH−、−(CH−、−CHCHCH−、−CHCHCH−、−CHCHO−、−OCHCH−、−OCH−、−CHO−、−OCF−、−CFO−、−CFCF−、−CF=CF−、−CH=CH−又は−C≡C−を表し、Bはトランス−1、4−シクロへキシレン基、1、4−シクロヘキセニレン基、1、4−ビシクロ[2.2.2]オクチレン基、1,4−フェニレン基、ナフタレン−2、6−ジイル基、デカヒドロナフタレン−2、6−ジイル基及び1、2、3、4−テトラヒドロナフタレン−2、6−ジイル基を表わし、これら基中に含まれる1個又は2個以上の水素原子はフッ素原子により置き換えられても良く、これら基中に存在する1個又は2個以上の−CH−は−O−により置き換えられても良く、nは0、1、2又は3を表わすが、nが2及び3を表わす場合において2個あるいは3個存在するB及びZは同一であっても異なっていても良い。)で表される置換基を表してもよいが、X2又はX3の少なくともひとつはフッ素原子又は塩素原子を表し、X4及びX5はそれぞれ独立的に水素原子、炭素原子数1から7の直鎖状アルキル基、炭素原子数1から7の直鎖状アルコキシル基、炭素原子数2から7の直鎖状アルケニル基又は炭素原子数2から7の直鎖状アルケニルオキシ基を表すが、該アルキル基、アルコキシル基、アルケニル基又はアルケニルオキシ基中の1個又は2個以上の炭素原子は−O−、−C=C−又は−C≡C−により置き換えられても良く、1個又は2個以上の水素原子はフッ素原子、フッ素化されていても良いアルキル基、フッ素化されていても良いアルコキシル基により置き換えられても良く、分子内に不斉炭素原子を持つ場合にはラセミ体であっても光学活性体であっても良く、X4又はX5は一般式(II)を表していてもよい。)で表される化合物及びホウ酸エステルの混合物を、リチウムジアルキルアミドと反応させ、加水分解した後に、酸化することを特徴とする一般式(III)
【0016】
【化5】

【0017】
(式中、X1、X2、X3、X4又はX5は一般式(I)と同じ意味を表す。)で表される化合物の製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0018】
本発明の製造方法は、一般式(I)とホウ酸エステルの混合物をリチウムジアルキルアミドと反応させ脱プロトン化と同時にホウ素化を行うことで有機ホウ素化合物を製造し、該有機ホウ素化合物を酸化することによる一般式(II)の製造において、副反応を抑えかつ極低温反応を必要としない有機ホウ素化合物の製造を可能にする方法であり、高品質かつ生産性に優れた一般式(II)を製造できる製造方法を提供するものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
一般式(I)で表される化合物とホウ酸エステルの混合物をリチウムジアルキルアミドと反応させることにより、脱プロトン化と同時にほう素化を行う。その後該有機ホウ素化合物を酸化することにより一般式(III)の製造ができる。
【0020】
一般式(I)で表される化合物としてはX5が炭素原子数1から7の直鎖状アルキル基、炭素原子数1から7の直鎖状アルコキシル基、炭素原子数2から7の直鎖状アルケニル基又は炭素原子数2から7の直鎖状アルケニルオキシ基又は一般式(II)で表される化合物が好ましく、一般式(II)のBが、1、4−フェニレン基、ナフタレン−2、6−ジイル基及び1、2、3、4−テトラヒドロナフタレン−2、6−ジイル基を表し、これら基中に含まれる1個又は2個以上の水素原子がフッ素原子により置き換えられている場合及び/又はRがフッ素原子である場合には、それらBに置換したフッ素原子の総数が1、2、3、4又は5個が好ましく、1又は隣り合わない2個が更に好ましく、1個が更に好ましい。また、R1及びR2はメチル基、エチル基、プロピル基、-CH2CH2-又は-CH2CH2CH2-が好ましく、メチル基、エチル基、-CH2CH2-又は-CH2CH2CH2-が更に好ましく、-CH2CH2-又は-CH2CH2CH2-が更に好ましい。X1はフッ素原子が好ましく、X2及びX3のうち少なくともひとつがフッ素原子であることが好ましい。 一般式(I)で表される化合物のホウ素化は、一般式(I)とホウ酸エステルの混合物をリチウムジアルキルアミドと反応させることにより、脱プロトン化と同時にホウ素化を行うことで可能である。該有機ホウ素化合物を酸化することにより一般式(II)の製造ができる。
【0021】
溶媒としては、反応を好適に進行させるものであればいずれでも構わないが、エーテル系溶媒および炭化水素系溶媒等を挙げることができる。エーテル系溶媒としては、1,4-ジオキサン、1,3-ジオキサン、テトラヒドロフラン、ジエチルエーテルおよびt-ブチルメチルエーテル、シクロペンチルメチルエーテル等を、炭化水素系溶媒としてはペンタン、ヘキサン、シクロヘキサン、ヘプタンおよびオクタン等が挙げられ、中でもテトラヒドロフランが好ましい。
置換基を有していても良いリチウムアミド化合物としては、一般式(I)で表される化合物のベンゼン環のフッ素に隣接する炭素原子上の水素を引き抜く能力があれば実質的に何れでも構わないが、例えばアルキル基が炭素原子数1から12の直鎖、枝分かれ及び環状のリチウムジアルキルアミドを挙げることができる。そのようなものとしては、リチウムジメチルアミド、リチウムジエチルアミド、リチウムジプロピルアミド、リチウムジイソプロピルアミド、リチウムジブチルアミド、リチウムジイソブチルアミド、リチウムジtert-ブチルアミド、リチウムジペンチルアミド、リチウムジイソペンチルアミド、リチウムジヘキシルアミド、リチウムジヘプチルアミド、リチウムジオクチルアミド、リチウムジノニルアミド、リチウムジデシルアミド、リチウムジウンデシルアミド、リチウムジドデシルアミド、リチウムアジリジド、リチウムアゼチジド、リチウムピロリジド、リチウムピペリジド、ジリチウムピペラジド、トリリチウムヘキサヒドロトリアジド、リチウムモルホリドなどが挙げられ、中でもリチウムジイソプロピルアミドが好ましい。また、その他の置換基を有していても良いリチウムアミド化合物として、置換基を有していても良いリチウムジシラザンを挙げることができ、そのようなものとしてリチウムヘキサメチルジシラザンを例示することができる。
【0022】
ホウ酸エステルとしては、ホウ素原子に結合しているアルコキシ基の炭素原子数が1から5である化合物が上げられ、具体的にはホウ酸トリメチル、ホウ酸トリエチル、ホウ酸トリプロピル、ホウ酸トリイソプロピル、ホウ酸トリブチル、ホウ酸トリイソブチル、ホウ酸トリtert-ブチル、ホウ酸トリペンチル、ホウ酸トリイソペンチルなどが挙げられ、中でもトリイソプロピルホウ酸を用いるのが好ましい。また、その他のホウ酸エステルとして、アルコキシ基が環状構造を有しているようなものを挙げることもできる。例えば、アルコキシ(ピナコラト)ボラン、アルコキシ(カテコラト)ボラン、を挙げる事が出来、そのようなものとして2-イソプロポキシ-4,4,5,5-テトラメチル-1,3,2-ジオキサボロランを例示することが出来る。
有機ホウ素化合物を製造する際の反応温度は-60℃から40℃が好ましく、-40℃から30℃がより好ましい。
得られた有機ホウ素化合物は一度単離してもよく、単離せずそのまま酸化してもよい。また、得られたほう素化合物を加水分解してホウ酸化合物へと変換した後に酸化しても構わない。
【0023】
前記有機ホウ素化合物を酸化する際、必要に応じて酸化剤を用いることが出来る。そのような酸化剤としては、酸素の他、無機酸化剤、有機酸化剤が挙げられる。無機系酸化剤としてはハロゲンオキソ酸及びその金属塩、過酸化水素水及びその金属塩、クロム酸、過マンガン酸カリウム、オゾン、オキソンなどが挙げられ、有機酸化剤としては過酢酸、過ギ酸、メタクロロ過安息香酸、ジメチルジオキシラン、tert-ブチルヒドロペルオキシド、tert-ブチルペルオキシド、その他アルコール過酸化物、ジエチルエーテルヒドロペルオキシド、ジエチルエーテルペルオキシド、テトラヒドロフランヒドロペルオキシド、テトラヒドロフランペルオキシド、その他エーテル過酸化物、N-メチルモルホリンN-オキシド、ピリジンN-オキシドなどのアミンN-オキシド類が挙げられ、中でも過酸化水素、過酢酸及び過ギ酸を用いるのが好ましい。反応温度は-78℃から70℃が好ましく、0℃から50℃がより好ましい。また、酸化剤との反応時には、溶媒に水が含まれていても構わない。
【実施例】
【0024】
以下、実施例を挙げて本発明を更に詳述するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。化合物の構造は、核磁気共鳴スペクトル(NMR)、質量スペクトル(MS)等により確認した。
【0025】
化合物記載に下記の略号を使用する。
【0026】
THF :テトラヒドロフラン
i-Pr :イソプロピル基
(実施例1)
4-(トランス,トランス-4'-(1,3-ジオキソラン-2-イル)ビシクロヘキシル-4-イルメトキシ)-2,3-ジフルオロフェノール (2a)の製造
【0027】
【化6】

【0028】
窒素で置換した反応器に150mLのTHFおよび13.8mLのジイソプロピルアミンを入れ-10℃に冷却する。55.4mLのn-ブチルリチウム1.6Mヘキサン溶液を-10〜0℃で滴下した。0℃以下で1時間攪拌した後、ここに25gの1-(トランス,トランス-4'-(1,3-ジオキソラン-2-イル)ビシクロヘキシル-4-イルメトキシ)-2,3-ジフルオロベンゼン(1a)と18.5gのホウ酸トリイソプロピルを100mLのTHFに溶解し-10〜0℃で滴下した。1時間攪拌後、100mLの10%塩化アンモニウム水溶液を滴下した。有機層を酸化反応に使用した。
【0029】
【化7】

【0030】
反応器に、上記で得られた有機層及び28mLの水を入れる。室温下、10gの30%過酸化水素水を滴下し、更に35℃で3時間加熱した。室温に冷却後、100mLの10%亜硫酸ナトリウム水溶液を滴下した。有機層を分取後、水層を100mLのトルエンで抽出し、先に分取した有機層とあわせて100mLの水、100mLの飽和食塩水の順に洗浄した。無水硫酸ナトリウムで乾燥後、有機層を減圧下に濃縮して得られた残渣にトルエン100mLとヘキサン100mLを加え35℃で1時間攪拌する。室温に戻した後固体をろ過して25.3gの4-(トランス,トランス-4’-(1,3-ジオキソラン-2-イル)ビシクロヘキシル-4-イルメトキシ)-2,3-ジフルオロフェノール (2a)を得た。
MS m/z : 396 (M+)
1H-NMR (60 MHz, CDCl3)
δ: 0.90 1.15 (m, 10 H), 1.44 1.54 (m, 1 H), 1.65 1.96 (m, 9 H), 3.75 (d, J = 6.4 Hz, 2 H), 3.83 3.89 (m, 2 H), 3.90 3.96 (m, 2 H), 4.60 (d, J = 4.8 Hz, 1 H), 6.59 6.68 (m, 2 H).
(実施例2)
4-(トランス-4'-(1,3-ジオキソラン-2-イル)シクロヘキシルメトキシ) -2,3-ジフルオロフェノール (2b)の製造
【0031】
【化8】

【0032】
窒素で置換した反応器に150mLのTHFおよび54.1gのジイソプロピルアミンを入れ-10℃に冷却する。147mLのn-ブチルリチウム1.6Mヘキサン溶液を-10〜0℃で滴下した。0℃以下で1時間攪拌した後、ここに25gの1,2-ジフルオロ-3-(トランス-4-(1,3-ジオキソラン-2-イル)-シクロヘキシルメチルオキシ)ベンゼン(1b)と47.2gのホウ酸トリイソプロピルを150mLのTHFに溶解し-10〜0℃で滴下した。1時間攪拌後、200mLの10%塩化アンモニウム水溶液を滴下した。有機層を酸化反応に使用した。
【0033】
【化9】

【0034】
反応器に、上記で得られた有機層及び26mLの水を入れる。室温下、24.6gの30%過酸化水素水を滴下し、更に35℃で3時間加熱した。室温に冷却後、200mLの10%亜硫酸ナトリウム水溶液を滴下した。有機層を分取後、水層を200mLのトルエンで抽出し、先に分取した有機層とあわせて200mLの水、200mLの10%食塩水さらに10%塩化アンモニウム水溶液の順に洗浄した。無水硫酸ナトリウムで乾燥後、有機層を減圧下に濃縮して得られた残渣を106mLのアセトニトリルで再結晶して48.3gの4-(トランス-4'-(1,3-ジオキソラン-2-イル)シクロヘキシルメトキシ) -2,3-ジフルオロフェノール(2b)を得た。
MS m/z : 314 (M+)
1H-NMR (60 MHz, CDCl3)
δ: 1.0 1.3 (m, 4 H), 1.5 1.6 (m, 1 H), 1.7 1.8 (m, 1 H), 1.9-2.0(m,4H),3.8 (d, J = 6.4 Hz, 2 H), 3.8 4.0 (m, 4 H), 4.60 (d, J = 4.8 Hz, 1 H), 5.7(br,1H),6.6 6.7 (m, 2 H)
(比較例1)
4-(トランス,トランス-4'-ビニルビシクロヘキシル-4-イルメトキシ)-2,3-ジフルオロフェノール (2c)の製造
【0035】
【化10】

【0036】
39 gの3-(トランス,トランス-4'-ビニルビシクロヘキシル-4-イルメトキシ)-1,2-ジフルオロベンゼン(Ic)をTHF 320 mLに溶解し、sec-ブチルリチウム(0.95 M 溶媒:ヘキサン及びシクロヘキサンの混合溶媒)196 mLを内温-60℃で滴下し、内温を保ったまま2時間攪拌した。ほう酸トリメチル21 gを内温-60℃で滴下し、0℃まで昇温した。水7.2mLを加えて10分攪拌後、30%過酸化水素水34 mLを5分で滴下し、35℃で5時間攪拌した。10%亜硫酸水素ナトリウム水溶液を加えた後、10%塩酸を加えてpH=7とした後有機層を分取し、水層をトルエンで抽出した。有機層を合わせ、10%食塩水で洗浄後、無水硫酸ナトリウムで乾燥した。溶媒を減圧留去し、残渣を再結晶で精製し、36 gの4-(トランス,トランス-4'-ビニルビシクロヘキシル-4-イルメトキシ)-2,3-ジフルオロフェノール(2c) を得た。
この方法では、純度が高いフェノール体が得られるが、極低温反応が必要であった。
(比較例2)
4-(トランス,トランス-4'-ビニルビシクロヘキシル-4-イルメトキシ)−2,3−ジフルオロフェニルボロン酸 (4c)の製造
【0037】
【化11】

【0038】
18mLのTHFおよび1.9mLのジイソプロピルアミンを-30℃に冷却し、8.6mLのn-ブチルリチウム1.6Mヘキサン溶液を-20℃で滴下した。15分間攪拌した後、ここに3gの1-(トランス,トランス-4'-ビニルビシクロヘキシル-4-イルメトキシ)-2,3-ジフルオロベンゼン(1c)を12mLのTHFに溶解し-20℃で滴下した。1時間攪拌後、2.5gのホウ酸トリイソプロピルを-20℃で滴下し2時間攪拌後、20mLの10%塩化アンモニウム水溶液を滴下した。有機層を分取後、水層を60mLのトルエンで抽出し、先に分取した有機層とあわせて60mLの10%塩化アンモニウム水溶液、60mLの10%食塩水の順に洗浄した。有機層を無水硫酸ナトリウムで乾燥後、有機層を減圧下に濃縮して2.5gの4-(トランス,トランス-4'-ビニルビシクロヘキシル-4-イルメトキシ)−2,3−ジフルオロフェニルボロン酸 (4c)を得た。副生成物として、原料に使用した(1c)が2量化することによって、フッ素を0個から3個有するビフェニル誘導体(3c)が生成した。ガスクロマトグラフィー分析の結果、トリフルオロビフェニル誘導体(3c-1)が0.25%、ジフルオロビフェニル誘導体(3c-2)が0.67%、モノフルオロビフェニル誘導体(3c-3)が0.10%そしてフッ素が結合してないビフェニル誘導体(3c-4)が0.07%検出された。
【0039】
反応温度を-20℃とし、段階的にリチオ化とホウ素化を行った場合、除去が困難なビフェニル誘導体が極めて多く生成するため、この方法では反応温度を上げることは不可能であった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(I)
【化1】

(式中、X1はフッ素原子又は塩素原子を表し、X2及びX3は、それぞれ独立的にフッ素原子、塩素原子、水素原子、炭素原子数1から7の直鎖状アルキル基、炭素原子数1から7の直鎖状アルコキシル基、炭素原子数2から7の直鎖状アルケニル基又は炭素原子数2から7の直鎖状アルケニルオキシ基を表し、該アルキル基、アルコキシル基、アルケニル基又はアルケニルオキシ基中の1個又は2個以上の炭素原子は−O−、−C=C−又は−C≡C−により置き換えられても良く、1個又は2個以上の水素原子はフッ素原子、フッ素化されていても良いアルキル基、又はフッ素化されていても良いアルコキシル基により置き換えられても良く、分子内に不斉炭素原子を持つ場合にはラセミ体であっても光学活性体であっても良く、一般式(II)
【化2】

(式中、Aはフッ素原子、ジフルオロメトキシ基、トリフルオロメトキシ基、トリフルオロメチル基、炭素原子数1から7の直鎖状アルキル基、炭素原子数1から7の直鎖状アルコキシル基、炭素原子数2から7の直鎖状アルケニル基又は炭素原子数2から7の直鎖状アルケニルオキシ基を表し、1個又は2個以上の炭素原子が−O−、−C=C−又は−C≡C−により置き換えられても良く、1個又は2個以上の水素原子がフッ素原子、フッ素化されていても良いアルキル基、フッ素化されていても良いアルコキシル基により置き換えられても良く、分子内に不斉炭素原子を持つ場合にはラセミ体であっても光学活性体であっても良く、一般式(II-1)又は一般式(II-2)
【化3】

(式中、R1及びR2はそれぞれ独立的にメチル基、エチル基又はプロピル基を表すか、R1及びR2は-CH2CH2-、-CH2CH2CH2-又は-CH2C(CH3)2CH2-を表す。)を表すが、nが0を表す場合、Aは一般式(II-1)又は一般式(II-2)を表し、Zは単結合、−CHCH−、−(CH−、−CHCHCH−、−CHCHCH−、−CHCHO−、−OCHCH−、−OCH−、−CHO−、−OCF−、−CFO−、−CFCF−、−CF=CF−、−CH=CH−又は−C≡C−を表し、Bはトランス−1、4−シクロへキシレン基、1、4−シクロヘキセニレン基、1、4−ビシクロ[2.2.2]オクチレン基、1,4−フェニレン基、ナフタレン−2、6−ジイル基、デカヒドロナフタレン−2、6−ジイル基及び1、2、3、4−テトラヒドロナフタレン−2、6−ジイル基を表わし、これら基中に含まれる1個又は2個以上の水素原子はフッ素原子により置き換えられても良く、これら基中に存在する1個又は2個以上の−CH−は−O−により置き換えられても良く、nは0、1、2又は3を表わすが、nが2及び3を表わす場合において2個あるいは3個存在するB及びZは同一であっても異なっていても良い。)で表される置換基を表してもよいが、X2又はX3の少なくともひとつはフッ素原子又は塩素原子を表し、X4及びX5はそれぞれ独立的に水素原子、炭素原子数1から7の直鎖状アルキル基、炭素原子数1から7の直鎖状アルコキシル基、炭素原子数2から7の直鎖状アルケニル基又は炭素原子数2から7の直鎖状アルケニルオキシ基を表すが、該アルキル基、アルコキシル基、アルケニル基又はアルケニルオキシ基中の1個又は2個以上の炭素原子は−O−、−C=C−又は−C≡C−により置き換えられても良く、1個又は2個以上の水素原子はフッ素原子、フッ素化されていても良いアルキル基、フッ素化されていても良いアルコキシル基により置き換えられても良く、分子内に不斉炭素原子を持つ場合にはラセミ体であっても光学活性体であっても良く、X4又はX5は一般式(II)を表していてもよい。)で表される化合物及びホウ酸エステルの混合物を、リチウムジアルキルアミドと反応させ、加水分解した後に、酸化することを特徴とする一般式(III)
【化4】

(式中、X1、X2、X3、X4又はX5は一般式(I)と同じ意味を表す。)で表される化合物の製造方法。
【請求項2】
一般式(I)
【化5】

(式中、X1、X2、X3、X4又はX5は一般式(I)と同じ意味を表す。)で表わされる化合物及びホウ酸エステルの混合物を、リチウムジアルキルアミドと反応させた後に、加水分解することによる一般式(IV)
【化6】

(式中、X1、X2、X3、X4又はX5は一般式(I)と同じ意味を表す。)で表わされる有機ホウ素化合物の製造方法。
【請求項3】
該混合物とリチウムジアルキルアミドとの反応温度が−40から30℃の範囲である請求項1又は2記載の製造方法。
【請求項4】
ホウ酸エステルとしてトリアルキルホウ酸を用いる請求項1、2又は3記載の製造方法。
【請求項5】
リチウムジアルキルアミドとしてリチウムジイソプロピルアミドを用いることを特徴とする請求項1、2、3又は4記載の製造方法。
【請求項6】
一般式(I)におけるX5が一般式(II)で表される化合物である請求項1、2、3、4又は5記載の製造方法。
【請求項7】
一般式(I)におけるX2がフッ素原子又は塩素原子で表される化合物である請求項1、2、3、4、5又は6記載の製造方法。

【公開番号】特開2010−18540(P2010−18540A)
【公開日】平成22年1月28日(2010.1.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−180079(P2008−180079)
【出願日】平成20年7月10日(2008.7.10)
【出願人】(000002886)DIC株式会社 (2,597)
【Fターム(参考)】