説明

フレキシブルフラットケーブル

【課題】従来に比べて更に可撓性を向上させたフレキシブルフラットケーブルを提供する。
【解決手段】所定の間隔を有して並列に配置された複数の導体2と、導体2の両面に設けられた絶縁層3と、絶縁層3の外面に設けられた不織布層4と、不織布層4の外面に設けられたシールド層5と、を備えるフレキシブルフラットケーブル11において、不織布層4は、対向する1対の長辺SLと対向する1対の短辺SSとで囲まれてなる凹部42が表面に複数形成された不織布41を有するものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フレキシブルフラットケーブルに係り、特に、電子機器内で電気信号を伝達する配線材として使用されるシールド層付きのフレキシブルフラットケーブルに関するものである。
【背景技術】
【0002】
フレキシブルフラットケーブル(FFC)は、一般的に、その柔軟性(可撓性)を活かして種々の電気・電子機器における回路間のジャンパ線(固定配線)、或いはフレキシブルプリント基板の代替として電気・電子機器の可動部に配線される配線材として広範に用いられている。特に近年では、パソコン用インクジェット型プリンタの印字ヘッド部分や、CD−ROMドライブ、カーナビゲーション、DVD(デジタル多用途ディスク)プレーヤのピックアップ部分などへ配線する配線材としての適応も進んでいる。
【0003】
近年、電子機器の小型・軽量化、多機能化が進展してきている。そのため、高速且つ大容量の伝送が可能な配線材が求められている。特に、伝送周波数が高周波になってきているために電子機器内の電気信号ノイズも増大するので、配線材には優れたシールド特性が要求されている。更に配線材には、電子機器側の特性インピーダンスと整合させる特性インピーダンスが必要である。
【0004】
従来の特性インピーダンス整合が可能なシールド層付きのフレキシブルフラットケーブルとして、特許文献1では、絶縁層の外面に設けられた不織布層と、不織布層の外面に設けられたシールド層と、を備えたフレキシブルフラットケーブルが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009−170291号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
前述したように、従来、フレキシブルフラットケーブルは電子機器内などの配線材に利用されているが、近年の電子機器の小型化に伴い、フレキシブルフラットケーブルは、折り曲げ加工を施して、電子機器内に実装されることが多くなっている。そのため、フレキシブルフラットケーブルは、複雑な形状に変形させる折り曲げ加工にも対応できる柔軟性(可撓性)が必要である。
【0007】
特許文献1に開示されているフレキシブルフラットケーブルでは、折り曲げ加工を施した場合の可撓性が不十分であり、折り曲げ時の復元力が依然として高い。このため、スプリングバックにより折り曲げた形状を保つことができず、アセテートテープ等の固定部材で折り曲げた部分を固定するなどの作業が必要になることもある。なお、このような固定部材が必要であると、作業性やコストパフォーマンスという観点からも欠点がある。
【0008】
そこで、本発明の目的は、従来に比べて更に可撓性を向上させたフレキシブルフラットケーブルを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この目的を達成するために創案された本発明は、所定の間隔を有して並列に配置された複数の導体と、前記導体の両面に設けられた絶縁層と、前記絶縁層の外面に設けられた不織布層と、前記不織布層の外面に設けられたシールド層と、を備えるフレキシブルフラットケーブルにおいて、前記不織布層は、対向する1対の長辺と対向する1対の短辺とで囲まれてなる凹部が表面に複数形成された不織布を有するフレキシブルフラットケーブルである。
【0010】
前記不織布は、前記凹部の長辺の長さa[mm]、前記凹部の短辺の長さd[mm]、短辺方向に沿って並列に配置された前記凹部の中心間の距離c[mm]、長辺方向に沿って並列に配置された前記凹部の中心間の距離b[mm]が関係式2d<b<2a<cを満たすエンボス形状を有すると良い。
【0011】
前記不織布は、目付け量が50g/m2以上、90g/m2以下であると良い。
【0012】
前記不織布層は、前記絶縁層の片面のみに設けられても良い。
【0013】
この場合、前記不織布は、目付け量が40g/m2以上、50g/m2以下であると良い。
【0014】
前記不織布は、空隙量が170cm3/m2以上、280cm3/m2以下であると良い。
【0015】
前記不織布は、所定の外径を有する第1の繊維糸と、前記第1の繊維糸よりも外径が大きい第2の繊維糸とで形成されてなると良い。
【0016】
前記不織布は、前記第1の繊維糸で形成された第1の層と、前記第1の層の両面側に設けられて前記第2の繊維糸で形成された第2の層と、前記第1の層及び前記第2の層の間に設けられて前記第1の繊維糸及び前記第2の繊維糸で形成された第3の層と、を有すると良い。
【0017】
前記不織布層は、ケーブル長手方向に沿って前記凹部の長辺が配置されていると良い。
【0018】
前記不織布層は、ケーブル長手方向に沿って前記凹部の短辺が配置されていると良い。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、従来に比べて更に可撓性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の第1の実施の形態に係るフレキシブルフラットケーブルを示す断面図である。
【図2】図1のフレキシブルフラットケーブルの詳細な構造を示すA−A線断面図である。
【図3】(a),(b)は、図1のフレキシブルフラットケーブルの不織布層を構成する不織布の一例を示す平面図である。
【図4】図1のフレキシブルフラットケーブルの不織布層を構成する不織布の詳細な構造を示す断面図である。
【図5】本発明の第2の実施の形態に係るフレキシブルフラットケーブルを示す断面図である。
【図6】図5のフレキシブルフラットケーブルの詳細な構造を示すB−B線断面図である。
【図7】実施例における折り曲げ応力試験方法を説明する図である。
【図8】実施例における折り曲げ部形状保持試験方法を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の好適な実施の形態を添付図面にしたがって説明する。
【0022】
本発明者は、鋭意検討を進めた結果、本発明の目的である可撓性を向上させ、インピーダンスの整合を達成する上で、フレキシブルフラットケーブルにおいて不織布層を構成する不織布の表面に形成された凹部の形状が重要であることを見出し、この知見に基づいて本発明を為すに至った。
【0023】
図1は、本発明の第1の実施の形態に係るフレキシブルフラットケーブルを示す断面図である。また、図2は、図1で示すフレキシブルフラットケーブルのA−A線断面図である。
【0024】
図1,2に示すように、第1の実施の形態に係るフレキシブルフラットケーブル11は、所定の間隔を有して並列に配置された複数の導体2と(図2参照)、導体2の両面に設けられて導体2を被覆する絶縁層3と、両方の絶縁層3の外面にそれぞれ設けられた不織布層4と、不織布層4の外面に設けられたシールド層5と、を備える。
【0025】
各層の詳細な構造を図2を用いて説明する。
【0026】
図2に示すように、絶縁層3は、プラスチックからなる絶縁フィルム31の表面に接着剤32が塗布された接着剤付き絶縁フィルムで構成される。この絶縁フィルムを接着剤32が導体2に付着するように導体2の両側から挟むことで絶縁層3が形成される。
【0027】
絶縁フィルム31の材質としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリフェニレンサルファイドなどが挙げられ、これらのうちいずれか1種を用いることが望ましい。また、接着剤32としては、例えば、ポリエステル系樹脂やポリオレフィン系樹脂に難燃剤などの添加剤を添加した接着剤を用いることが望ましい。
【0028】
絶縁層3は、その端部が導体2と共に不織布層4及びシールド層5から露出されており、その露出された絶縁層3の一方が剥離されて導体2の片面が露出される。これにより、露出された導体2の片面が端子21とされる(図1参照)。
【0029】
不織布層4は、図3(a),(b)に示すように、対向する1対の長辺SLと対向する1対の短辺SSとで囲まれてなる凹部(エンボス)42が表面に複数形成された不織布41からなる。不織布41は、凹部42の長辺SLの長さa[mm]、凹部42の短辺SSの長さd[mm]、短辺方向(短辺SSが配置される方向、即ち、図3(a)ではy方向、図3(b)ではx方向)に沿って並列に配置された凹部42の中心間の距離c[mm]、長辺方向(長辺SLが配置される方向、即ち、図3(a)ではx方向、図3(b)ではy方向)に沿って並列に配置された凹部42の中心間の距離b[mm]が関係式2d<b<2a<cを満たすエンボス形状を有する。なお、不織布層4は、不織布41の絶縁層3と接する表面に、オレフィン系接着剤などの接着剤が塗布されている。
【0030】
このようなエンボス形状を有する不織布を使用することにより、フレキシブルフラットケーブルを折り曲げたときの復元力を低減することができる。このため、折り曲げた形状でフレキシブルフラットケーブルを保持しやすくなる。
【0031】
このとき、隣り合う2つの凹部42において対向する距離e1,e2が1mm以上、3mm以下であることが好ましい。その理由は、距離e1,e2がこの範囲であることで、折り曲げ時の応力(復元力)が軽減され、且つ任意の位置において空隙量を均一に保てるからである。
【0032】
この不織布41は、例えば、スパンボンド不織布からなることが望ましいが、特に、所定の外径を有する第1の繊維糸と、第1の繊維糸よりも外径が大きい第2の繊維糸とで形成されたスパンボンド不織布からなることが望ましい。より具体的には、不織布41は、図4に示すように、第1の繊維糸で形成された第1の層411と、第1の層411の両面側に設けられて第2の繊維糸で形成された第2の層412と、第1の層411及び第2の層412の間に設けられて第1の繊維糸及び第2の繊維糸で形成された第3の層413と、を有する。
【0033】
なお、第1の層411、第3の層413を構成する第1の繊維糸の外径(繊径)は、0.001mm以上、0.010mm以下が望ましい。また、第2の層412、第3の層413を構成する第2の繊維糸の外径(繊径)は、0.011mm以上、0.040mm以下が望ましい。
【0034】
このように、外径の異なる複数の繊維糸で形成された各層を積層して不織布41を形成することで、不織布41内における空隙の大きさのバラツキを無くし、より安定した特性インピーダンスを得ることができる。
【0035】
また、不織布41は、目付け量が50g/m2以上、90g/m2以下であり、且つ、空隙量が170cm3/m2以上、280cm3/m2以下であることが好ましい。
【0036】
不織布41の目付け量が50g/m2未満の場合、特性インピーダンスが100±10Ωの範囲を外れてしまう可能性があるため、機器側との特性インピーダンスの整合を図ることが難しくなる。一方、不織布41の目付け量が90g/m2を超える場合、目付け量の増加に伴って可撓性が低下してしまう。なお、ここでいう目付け量とは、平方メートルあたりの第1の繊維糸の質量と第2の繊維糸の質量とを合計した質量を示すものである。
【0037】
また、不織布41は、170cm3/m2以上、280cm3/m2以下の空隙量を有することにより、不織布41の誘電率を1.4以上、1.7以下の範囲とすることができる。その結果、不織布41が50g/m2以上、90g/m2以下の目付け量である場合において、誘電率が1.4以上、1.7以下の範囲であると、フレキシブルフラットケーブル11の特性インピーダンスの値を100±10Ωの範囲内に再現性よく収めることができる。なお、不織布の空隙量とは、平方メートルあたりの不織布に含まれる隙間の度合いであり、不織布の全容積に対する不織布に含まれる隙間の容積の割合を示したものである。
【0038】
このような不織布41を用いて、不織布層4は、ケーブル長手方向に沿って凹部42の長辺SLが配置されるか、或いはケーブル長手方向に沿って凹部42の短辺SSが配置されるように構成されると良い。
【0039】
シールド層5は、プラスチックからなる絶縁フィルム51の表面上に金属箔52が設けられ、この金属箔52の表面上に接着剤53が塗布されたシールド材で構成される。
【0040】
シールド層5は、例えば、シールド材の接着剤53が不織布層4に接すると共に絶縁フィルム51が最外層となるように、シールド材を不織布層4の表面に巻き付けることによって形成される。
【0041】
絶縁フィルム51の材質としては、絶縁層3を構成する絶縁フィルム31の材質と同様、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリフェニレンサルファイドなどが挙げられ、これらのうちいずれか1種を用いることが望ましい。
【0042】
金属箔52の材質としては、特に高周波帯域における減衰量の増大を抑制するためにはアルミニウム箔が最適である。
【0043】
接着剤53としては、絶縁層3を構成する接着剤32と同様、例えば、ポリエステル系樹脂やポリオレフィン系樹脂に難燃剤などの添加剤を添加した接着剤を用いることが望ましい。
【0044】
なお、シールド材を巻き付ける際、フレキシブルフラットケーブル11が、その端末でグランド用金属層に接地する構造を採用する場合は、接着剤53として導電性を有する接着剤を用いることが望ましい。
【0045】
以上説明したフレキシブルフラットケーブル11によれば、従来に比べて更に可撓性を向上させることができ、且つ、電子機器側との特性インピーダンスの整合が可能となる。
【0046】
次に、本発明の第2の実施の形態を説明する。
【0047】
第2の実施の形態に係るフレキシブルフラットケーブルでは、当該フレキシブルフラットケーブルにおいて特定の不織布層4及びシールド層5を片面にのみ有することが更なる復元力の軽減に有効であることを見出し、この知見に基づいて以下の構成を為すに至った。
【0048】
図5は、本発明の第2の実施の形態に係るフレキシブルフラットケーブルを示す断面図である。また、図6は、図5で示すフレキシブルフラットケーブルのB−B線断面図である。
【0049】
図5,6に示すように、第2の実施の形態に係るフレキシブルフラットケーブル12は、第1の実施の形態に係るフレキシブルフラットケーブル11と比較して、絶縁層3の片面のみに不織布層4が設けられている点が相違する。なお、図5では、導体2の両端部の片面にグランド用金属層60を貼り付けてある例を示してある。
【0050】
フレキシブルフラットケーブル12では、不織布は、目付け量が40g/m2以上、50g/m2以下であることが好ましい。
【0051】
不織布41の目付け量が50g/m2を超える場合、特性インピーダンスが100±10Ωの範囲を外れてしまう可能性があるため、機器側との特性インピーダンスの整合を図ることが難しくなる。一方、不織布41の目付け量が40g/m2未満の場合、位置によるインピーダンスのばらつきが問題である。
【0052】
また、不織布41の目付け量を40g/m2以上、50g/m2以下とすることで、誘電率を1.5〜1.75の範囲とすることができる。誘電率が1.5〜1.75の範囲であると、フレキシブルフラットケーブル12の特性インピーダンスの値を100±10Ωの範囲内に再現性よく収めることができる。
【0053】
以上説明したフレキシブルフラットケーブル12によれば、従来に比べて更に可撓性を向上させることができ、且つ、電子機器側との特性インピーダンスの整合が可能となるという第1の実施の形態に係るフレキシブルフラットケーブル11の効果に加え、両面テープのみであっても折り曲げ加工形状が保持されるという効果も得られる。
【実施例】
【0054】
先ず、第1の実施の形態に関する実施例を説明する。
【0055】
本発明の効果を検証するために、表1に示す実施例1及び比較例1の2種類のシールド層付きのフレキシブルフラットケーブルを試作し、特性インピーダンスと折り曲げ応力を測定した。
【0056】
なお、フレキシブルフラットケーブルの基本的な構成は、第1の実施の形態に係るフレキシブルフラットケーブルと同様とし、実施例1と比較例1で不織布の種類を変えた。
【0057】
【表1】

【0058】
(特性インピーダンスの測定)
特性インピーダンスの測定は、作製したフレキシブルフラットケーブルの両端末に、グランド用金属層を貼り付けた後、フレキシブルフラットケーブルを2つの評価用基板(日本航空電子(株)社製 FM08)の間に挿入し接続して、オシロスコープ(アジレントテクノロジー(株)社製 DCA86100B)にてディファレンシャルモードの特性インピーダンスを測定した。このとき、測定して得られた特性インピーダンスの値が100±10Ωの範囲であるものを合格とした。
【0059】
(折り曲げ応力試験)
折り曲げ応力試験は、図7に示すように、作製したフレキシブルフラットケーブル100を試験台上に直線状に配置した後、先端から0.1mの位置を幅20mmのテープ101で固定する。次に、フレキシブルフラットケーブル100をテープ101で固定した位置から湾曲部102までの長さが20mmとなるように180度に折り曲げてその状態を保持する。その後、プッシュプルスケール(日本電産シンポ(株)社製 FGC−5B)103を、その測定部104の先端がフレキシブルフラットケーブル100の先端から20mm離れた位置に配置されるように試験台上に配置し、この折り曲げた状態を開放したときにフレキシブルフラットケーブル100がプッシュプルスケール103を押す力を折り曲げ応力として測定した。このとき、測定して得られた折り曲げ応力の値が0.26kgf未満である場合を合格とした。
【0060】
(実施例1)
導体として厚さ0.035mm、幅0.3mmの錫めっき平角軟銅線を51本用意し、これら導体を0.5mmの導体ピッチ(各導体の間隔)で並列に配置した後、ポリエチレンテレフタレートからなる絶縁フィルム上に接着剤が付着した厚さ0.06mmの接着剤付き絶縁フィルムを2枚用いて、接着剤同士が接着するように並列に配置した導体を挟んで絶縁層を形成した。その後、図4に示すような層構造を有し、表面に凹部が複数形成された不織布I(スパンボンド不織布)を2枚用いて、不織布の表面に付着した接着剤側が絶縁層と接するように絶縁層の両側から挟んで不織布層を形成し、その後、シールド材(接着剤/アルミ箔/絶縁フィルム=0.01mm/0.007mm/0.009mm)を不織布層の周囲に螺旋状に巻きつけることでシールド層を形成してケーブル長が約300mmのフレキシブルフラットケーブルを作製した。なお、不織布Iは、目付け量が50g/m2、空隙量が170cm3/m2である。表面の凹部の間隔は、それぞれ(a)〜(d)とすると、(a)=2.5mm、(b)=3.4mm、(c)=5.4mm、(d)=0.4mmである。
【0061】
(比較例1)
導体として厚さ0.035mm、幅0.3mmの錫めっき平角軟銅線を51本用意し、これら導体を0.5mmの導体ピッチ(各導体の間隔)で並列に配置した後、ポリエチレンテレフタレートからなる絶縁フィルム上に接着剤が付着した厚さ0.06mmの接着剤付き絶縁フィルムを2枚用いて、接着剤同士が接着するように並列に配置した導体を挟んで絶縁層を形成した。その後、表面に凹部が複数形成された不織布II(スパンボンド不織布)を2枚用いて、不織布の表面に付着した接着剤側が絶縁層と接するように絶縁層の両側から挟んで不織布層を形成し、その後、シールド材(接着剤/アルミ箔/絶縁フィルム=0.01mm/0.007mm/0.009mm)を不織布層の周囲に螺旋状に巻きつけることでシールド層を形成してケーブル長が約300mmのフレキシブルフラットケーブルを作製した。なお、不織布IIは、目付け量が100g/m2、空隙量が290cm3/m2である。表面の凹部の間隔は、それぞれ(a)〜(d)とすると、(a)=0.5mm、(b)=1.0mm、(c)=1.0mm、(d)=0.5mmである。また、不織布IIは不織布Iより厚さが薄いものである。
【0062】
なお、表1中の(a)〜(d)は、前述の不織布41の説明で用いたa〜dに対応している。
【0063】
実施例1及び比較例1のフレキシブルフラットケーブルは、いずれも特性インピーダンス値100±10Ωを満足した。
【0064】
折り曲げ応力の評価において、不織布Iを使用した実施例1の方が折り曲げ応力の値が小さいことが分かった。一方、不織布IIを使用した比較例1では、不織布Iよりも厚さが薄いにも関わらず、折り曲げ応力の値が実施例1よりも高いことが分かる。このことから、不織布の表面に形成されたエンボス形状の形態を本発明のように規定する、すなわち、「2d<b<2a<c」の関係式を満たすエンボス形状とすることで、可撓性が向上することが検証できた。
【0065】
応力低減をもたらした要因としては、不織布上における凹部の占有率(密度)の差と考えられる。不織布IIは、凹部の占有率が高く、繊維糸を圧縮している状態であるため、凹部の占有率が高いと繊維同士の密着が非常に強くなり、反発力が増大し、折り曲げ応力が高くなると推察される。一方、不織布Iでは、適度な隙間を有しているため、凹部による繊維糸の圧縮が軽減された状態であるため、反発力が低減されて折り曲げ応力が小さくなったと推察される。
【0066】
なお、不織布Iのエンボス形状は、図3(a),(b)のいずれの場合であっても同様の結果が得られた。
【0067】
次に、第2の実施の形態に関する実施例を説明する。
【0068】
本発明の効果を検証するために、実施例2及び参考例1の2種類のシールド層付きのフレキシブルフラットケーブル(FFC)を試作し、前述した方法で特性インピーダンスと折り曲げ応力を測定した。
【0069】
また、折り曲げ加工部の経時変化後の形状を確認するために折り曲げ部形状保持試験を実施した。折り曲げ部形状保持試験に関し、耐熱環境、耐湿環境、低温環境による試験は各々500時間まで実施した。また、当該試験に関し、温度サイクル環境による試験は100サイクルまで実施した。
【0070】
なお、実施例2のフレキシブルフラットケーブルの構成は、第2の実施の形態に係るフレキシブルフラットケーブルと同様とし、参考例1のフレキシブルフラットケーブルの構成は、第1の実施の形態に係るフレキシブルフラットケーブルと同様とした。
【0071】
(折り曲げ部形状保持試験)
折り曲げ部形状保持試験は、図8に示すように、折り曲げ部に両面テープ(日東電工(株)社製 No.5000)を貼り付け、耐熱環境(105℃)、耐湿環境(60℃、90〜95RH%)、温度サイクル環境(−40℃/30分→25℃/5分→105℃/30分→25℃/5分)、低温環境(−40℃)に各々放置し、形状が保たれているかを観察し、形状が保たれている時間、あるいはサイクル数を測定した。なお、実施例2のフレキシブルフラットケーブルについては、図8(a)に示すように、シールド層5が無い側を折り込んで破線部に両面テープを貼り付けたものと、図8(b)に示すように、シールド層5が有る側を折り込んで破線部に両面テープを貼り付けたものとを作製し、両者とも上記した折り曲げ部形状保持試験を実施した。試験結果を表3に示す。
【0072】
(実施例2)
導体として厚さ0.035mm、幅0.3mmの錫めっき平角軟銅線を51本用意し、これら導体を0.5mmの導体ピッチ(各導体の間隔)で並列に配置した後、ポリエチレンテレフタレートからなる絶縁フィルム上に接着剤が付着した厚さ0.06mmの接着剤付き絶縁フィルムを2枚用いて、接着剤同士が接着するように並列に配置した導体を挟んで絶縁層を形成した。その後、前述した不織布Iを1枚用いて、不織布の表面に付着した接着剤側が絶縁層と接するように絶縁層の片面のみに不織布層を形成し、その後、シールド材(接着剤/アルミ箔/絶縁フィルム=0.01mm/0.007mm/0.009mm)を不織布層の上部に貼り付けることでシールド層を形成してケーブル長が約500mmのフレキシブルフラットケーブルを作製した。
【0073】
(参考例1)
導体として厚さ0.035mm、幅0.3mmの錫めっき平角軟銅線を51本用意し、これら導体を0.5mmの導体ピッチ(各導体の間隔)で並列に配置した後、ポリエチレンテレフタレートからなる絶縁フィルム上に接着剤が付着した厚さ0.06mmの接着剤付き絶縁フィルムを2枚用いて、接着剤同士が接着するように並列に配置した導体を挟んで絶縁層を形成した。その後、前述した不織布Iを2枚用いて、不織布の表面に付着した接着剤側が絶縁層と接するように絶縁層の両側から挟んで不織布層を形成し、その後、シールド材(接着剤/アルミ箔/絶縁フィルム=0.01mm/0.007mm/0.009mm)を不織布層の周囲に螺旋状に巻きつけることでシールド層を形成してケーブル長が約500mmのフレキシブルフラットケーブルを作製した。
【0074】
実施例2及び参考例1のフレキシブルフラットケーブルは、いずれも特性インピーダンス値100±10Ωを満足した。
【0075】
【表2】

【0076】
表2に示すように、折り曲げ応力の評価において、不織布及びシールド層が絶縁層の片面のみに設けられた実施例2の方が折り曲げ応力の値が小さく、平均の復元力が小さいことが分かった。
【0077】
【表3】

【0078】
表3に示すように、折り曲げ部形状保持試験の評価において、絶縁層の片面のみに不織布層及びシールド層を有している実施例2は、不織布層及びシールド層を絶縁層の両面に有している参考例1よりも各環境試験において長い時間形状を保つことを確認できた。なお、表3中の「タイプI」が図8(a)の形状で試験した場合で、「タイプII」が図8(b)の形状で試験した場合を示す。
【0079】
なお、不織布Iのエンボス形状は、図3(a),(b)のいずれの場合であっても同様の結果が得られた。
【符号の説明】
【0080】
11 フレキシブルフラットケーブル
2 導体
3 絶縁層
4 不織布層
5 シールド層
21 端子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定の間隔を有して並列に配置された複数の導体と、前記導体の両面に設けられた絶縁層と、前記絶縁層の外面に設けられた不織布層と、前記不織布層の外面に設けられたシールド層と、を備えるフレキシブルフラットケーブルにおいて、
前記不織布層は、対向する1対の長辺と対向する1対の短辺とで囲まれてなる凹部が表面に複数形成された不織布を有することを特徴とするフレキシブルフラットケーブル。
【請求項2】
前記不織布は、前記凹部の長辺の長さa[mm]、前記凹部の短辺の長さd[mm]、短辺方向に沿って並列に配置された前記凹部の中心間の距離c[mm]、長辺方向に沿って並列に配置された前記凹部の中心間の距離b[mm]が関係式2d<b<2a<cを満たすエンボス形状を有する請求項1に記載のフレキシブルフラットケーブル。
【請求項3】
前記不織布は、目付け量が50g/m2以上、90g/m2以下である請求項1又は2に記載のフレキシブルフラットケーブル。
【請求項4】
前記不織布層は、前記絶縁層の片面のみに設けられる請求項1又は2に記載のフレキシブルフラットケーブル。
【請求項5】
前記不織布は、目付け量が40g/m2以上、50g/m2以下である請求項4に記載のフレキシブルフラットケーブル。
【請求項6】
前記不織布は、空隙量が170cm3/m2以上、280cm3/m2以下である請求項1〜5のいずれかに記載のフレキシブルフラットケーブル。
【請求項7】
前記不織布は、所定の外径を有する第1の繊維糸と、前記第1の繊維糸よりも外径が大きい第2の繊維糸とで形成されてなる請求項1〜6のいずれかに記載のフレキシブルフラットケーブル。
【請求項8】
前記不織布は、前記第1の繊維糸で形成された第1の層と、前記第1の層の両面側に設けられて前記第2の繊維糸で形成された第2の層と、前記第1の層及び前記第2の層の間に設けられて前記第1の繊維糸及び前記第2の繊維糸で形成された第3の層と、を有する請求項7に記載のフレキシブルフラットケーブル。
【請求項9】
前記不織布層は、ケーブル長手方向に沿って前記凹部の長辺が配置されている請求項1〜8のいずれかに記載のフレキシブルフラットケーブル。
【請求項10】
前記不織布層は、ケーブル長手方向に沿って前記凹部の短辺が配置されている請求項1〜8のいずれかに記載のフレキシブルフラットケーブル。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−182113(P2012−182113A)
【公開日】平成24年9月20日(2012.9.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−285746(P2011−285746)
【出願日】平成23年12月27日(2011.12.27)
【出願人】(300055719)日立電線ファインテック株式会社 (96)
【Fターム(参考)】