説明

フレキシブル回路およびこれを利用した電子装置

【課題】機能層へのダメージを回避しながら容易に曲げ可能なフレキシブル回路およびこれを利用した電子機器を提供すること。
【解決手段】第1の機能層102と、第1の機能層102を埋設する埋包層103と、埋包層103上に形成された突起部104と、突起部104上に形成された第2の機能層105とを備え、第1の機能層102が、曲げによって生じる応力の中立となる厚さ方向の位置に配置されたフレキシブル回路を提供することにより、上記課題を解決する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フレキシブル回路およびこれを利用した電子装置に関し、さらに詳しくは、半導体素子を集積した曲げ可能なフレキシブル回路とこれを利用した電子装置に関する。
【背景技術】
【0002】
薄く、軽く、柔軟性に優れ、壊れにくい電子機器の実現が、特に携帯用電子機器において期待されている。特に、柔軟性に優れた電子機器は、落としたり曲げたりした際にその柔軟性故に破壊しにくく、また、携帯時に、折り曲げる、巻くなどにより見かけ上の面積を小さくすることができるので、携帯が容易になる。また、携帯用以外の電子機器でも、折り曲げたり巻き取ったりすることができれば、見かけ上の面積が小さくなるので、不使用時の収納が容易となる。
【0003】
柔軟性が良好な電子機器を得るための1つの方法として、柔軟な回路を得る方法が提案されている(従来技術1:例えば特許文献1参照)。この従来技術1では、フレキシブルな基板の表面上に複数個の半導体素子がマトリックス状に設けられたマトリックスアレイデバイスにおいて、各半導体素子の間の領域に曲げが容易な弱い領域を形成し、デバイス全体を湾曲する際には、前記弱い領域が実質的に主に湾曲することが開示されている。従来技術1において、弱い領域は、物性自体として容易に曲がる性質を付与されているか、あるいは、厚さを薄くすることにより形成される。容易に曲がる弱い領域として、具体的には、材料の処理によって硬さが改変された領域や、局所的に薄い領域(凹部や切込み)が挙げられている。
【0004】
また、他の従来技術2として、フレキシブルな基板の上に形成された薄膜半導体素子と、これを被覆する被覆層からなる回路において、基板および被覆層の弾性係数と厚さを選択することにより、回路を曲げた際の厚み方向における応力の中立となる位置に薄膜半導体素子を配置することにより、薄膜半導体素子が破壊しにくいフレキシブルな回路を得る方法が開示されている(例えば、特許文献2参照)。この場合、曲げに対して、回路の湾曲外面(凸面)では伸張応力、湾曲内面(凹面)では圧縮応力となるが、材料の弾性定数に応じて、伸張応力も圧縮応力も受けない面が存在し、この面の厚み方向における位置を中立となる位置と称している。例えば、均一な材料の平板の場合は、厚み方向に、厚さの半分の位置が中立となる位置に相当する。
【0005】
【特許文献1】特表2004−519866号公報
【特許文献2】特開平2−113584号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、従来技術1では、弱い領域を横切って延在する層は、曲げの際には、伸張や圧縮の応力を受けることになる。つまり、通常の回路では、例えば配線のように一定の機能を担う機能層を弱い領域にも横切って配置せざるを得ない場合が多く、曲げにより機能層に狭窄や破壊が生じ、回路機能に重大な支障をきたすおそれがある。
【0007】
また、従来技術2では、厚さ方向に異なる位置に存在する2層については、両方の層を曲げ時の応力の中立となる位置に配置することはできない。通常の回路では、厚さ方向に異なる位置に異なる機能層を配置することが一般的である。特に、ディスプレイを構成する回路においては、互いにほぼ垂直に交差する格子状にゲート線とソース線を配置しており、少なくとも交差部では所定厚さの絶縁層を介してゲート線とソース線が厚さ方向に異なる位置に存在する。したがって、厚さ方向に異なる位置に配置された2層の機能層は、いずれか一方あるいは両方が曲げ時に伸張あるいは圧縮の応力を受けることとなり、たとえ一方の機能層の1箇所でも狭窄や破断などのダメージを受けると回路は正常に動作しなくなる。
【0008】
本発明は、上記課題を鑑み、機能層へのダメージを回避しながら容易に曲げ可能なフレキシブル回路およびこれを利用した電子機器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
かくして、本発明によれば、第1の機能層と、第1の機能層を埋設する埋包層と、埋包層の表面に設けられた突起部上に形成された第2の機能層とを備え、前記第1の機能層が、曲げによって生じる応力の中立となる厚さ方向の位置およびその近傍位置に配置されたフレキシブル回路が提供される。
また、本発明の別の観点によれば、上記のフレキシブル回路を備えた電子装置が提供される。
【発明の効果】
【0010】
本発明のフレキシブル回路は、フレキシブル回路を湾曲させた場合に、主として第1の機能層の両面側に位置する層の平面に引張応力と圧縮応力が加わるため、突起部が無く埋包層上に直接第2の機能層を形成する場合と比較して、第2の機能層にはほとんど応力が加わらず歪を生じない。さらに、第1の機能層はフレキシブル回路の厚み方向における応力の中立となる位置に配置されているため、第1の機能層にもほとんど応力が加わらず歪を生じない。
【0011】
したがって、本発明のフレキシブル回路は、2つの機能部を回路平面に対して垂直な方向(厚さ方向)に異なる位置にそれぞれ配置した構造でありながら、曲げに対する耐久性、信頼性に優れた回路を実現することができる。
また、曲げ耐性に優れているため、平板状に広げた状態のみならず、筒状に丸めた状態でも動作可能であり、使用範囲が大幅に拡大する。例えば、フレキシブル回路を表示素子に応用すれば、広げた使用状態で表示させ、使用後は丸めて小さく収納できるフレキシブルディスプレイを実現することができる。また、筒状に小さく丸めて動作させることが可能であるため、携帯用の小型電子機器にも適用でき、この場合、筒状であるためフレキシブル回路自体が外部からの振動や衝撃を吸収するため耐衝撃性にも優れたものとなる。
【0012】
また、応力により機能が低下あるいは破壊されやすい機能部位を第1の機能層および第2の機能層に配置し、応力により機能が比較的低下しにくいあるいは破壊されにくい機能部位をその他の領域(例えば埋包層の上面、突起部の側面等)に配置することができるため、設計の自由度が拡大し、様々な用途、機能を有する電子機器用回路の実現を可能とする。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明のフレキシブル回路は、第1の機能層と、第1の機能層を埋設する埋包層と、埋包層の表面に設けられた突起部上に形成された第2の機能層とを備え、前記第1の機能層が、曲げによって生じる応力の中立となる厚さ方向の位置およびその近傍位置に配置されたことを特徴としている。
【0014】
本発明において、機能層とは、基板のような単に構造を支える部材、表面保護層のような外部からの遮蔽用部材および層間絶縁層のような単なる充填材等とは異なり、電子機能を担うか、電子機能を担う層と連携して機能する層をすべて含む。具体的には、機能層としては、トランジスタ、メモリ、表示素子、キャパシタ、抵抗等を有する機能素子層のみならず、電極や配線などのような単に電気的な接続機能を担う層も包含する。
【0015】
また、本発明において、「応力の中立となる厚さ方向の位置」とは、フレキシブル回路全体を曲げた際に、湾曲外面(凸状面)側に生じる引張応力および湾曲内面(凹状面)側に生じる圧縮応力が加わらない位置を意味する。応力の中立となる厚さ方向の位置に第1の機能層が配置されるための条件は、各層の厚み、材質(弾性定数)等に関係しており、これについて詳しくは後述する。
【0016】
通常の回路基板は、複数の機能層が層状に複雑に集積されて配置されているため、すべての機能層を曲げによる応力が中立となる位置に配置することはできない。
そこで、本発明では、第1の機能部を応力の中立となる位置に配置し、第2の機能部を突起部の上面に直接もしくは間接に配置することにより、回路を曲げた際には突起部より下が主として変形し、第2の機能層にはほとんど応力が加わらず、かつ、第1の機能層にも応力がほとんど加わらず、曲げに対して機能低下や破壊を起こしにくい回路を実現している。
【0017】
本発明のフレキシブル回路は、第1の機能層を表面で支持するフレキシブル基板をさらに備え、前記フレキシブル基板の表面上に埋包層が積層された構造としてもよく、あるいは、フレキシブル基板を省略し、埋包層が第1の機能層を内包する構造としてもよい。フレキシブル基板を有する場合、フレキシブル基板上に第1の機能層を形成し、その上に埋包層、突起部および第2の機能層を順に形成してフレキシブル回路を製造することができる。フレキシブル基板を有しない場合、支持板上に埋包層の下層部を形成し、その上に第1の機能層を形成し、その上に埋包層の上層部を形成して、下層部および上層部からなる埋包層にて第1の機能部を包み込み、その上に突起部および第2の機能層を形成した後、埋包層を支持板から剥離してフレキシブル回路を得る方法にて製造することができる。
【0018】
また、本発明において、突起部が、埋包層の一部からなってもよく、または埋包層とは別部材からなってもよい。突起部が埋包層の一部からなる場合、埋包層の上層を所望の形状に加工することにより突起部を形成することができる。突起部が埋包層とは別部材からなる場合、埋包層の形成後、埋包層と同じ材料もしくは異なる材料にて所定形状の突起部を埋包層の上層表面に形成することができる。この場合、例えば突起部を形成する材料に紫外線硬化性樹脂を用いて樹脂膜を埋包層上に塗布し、フォトリソグラフィ技術およびエッチング技術により樹脂膜を所定形状に加工して突起部を形成することができる。
【0019】
本発明において、突起部は、帯形で複数本ストライプ状に配置されてなるものでもよい。このようにすれば、突起部の長手方向と直交する方向にフレキシブル回路を容易に曲げることができる。つまり、電子装置の使用用途において、曲げの方向があるひとつの方向に限られている場合(例えば巻物のように巻いて収納できる情報表示部を有する電子装置など)には、第1の機能層および第2の機能層にほとんど応力がかからなくなるため、本発明のフレキシブル回路の電子機器への適用例としては、特に好適である。この場合、突起部の少なくとも埋包層と接する底面形状が一定幅の帯形であることが好ましく、横断面形状は例えば正方形、長方形、台形、半円形等もしくはこれらの組み合わせとすることができるが、これらに限定されない。
また、本発明のフレキシブル回路の曲げ方向は、突起部が外側になるように曲げる場合に適しているが、隣接する突起部同士およびその上の第2の機能層同士が接触しない程度ならば突起部が内側になるように曲げることも可能である。この場合、フレキシブル回路を筒状に丸めることにより、突起部上の第2の機能層をフレキシブル基板あるいは埋包層にて外部から保護することができる。
【0020】
また、本発明において、突起部は、ドット形で複数個マトリックス状に配置されてなるものでもよい。このようにすれば、フレキシブル回路を面内の何れの方向にも容易に曲げることが可能となる。この場合、突起部の少なくとも埋包層と接する底面形状は特に限定されず、例えば正方形、長方形、菱形、円形、長円形、楕円形等とすることができ、横断面形状は例えば正方形、長方形、台形、半円形等もしくはこれらの組み合わせとすることができるが、これらに限定されない。
【0021】
本発明において、隣接する2つの突起部の間に弾性層が設けられた構造としてもよい。つまり、突起部を構成する材料よりも弾性変形率が大きな弾性体にて突起部と突起部の間の空間を埋めることにより、フレキシブル回路の表面の平坦化を図りながら、フレキシブル回路を曲げた場合でも、突起部よりも弾性体の変形量が大きいため、突起部上の第2の機能層に歪を生じさせることがない。また、弾性体を設けることにより、突起部と突起部の間の空間に水が侵入したり、異物、特に、剛性率の高い異物が侵入し曲げた際に突起部やその上の第2の機能層にダメージを与えることを防止することが可能となる。また、フレキシブル回路の平坦化により、フレキシブル回路の第2の機能層上に別の層(例えば第3の機能層)を積層することが可能となり、その場合は第2の機能層に応力が伝播しないように別の層との間に弾性体を介在させることが好ましい。このような弾性体としては、例えば、好適なものとして、オレフィン系熱可塑性エラストマー、スチレン系熱可塑性エラストマー、ポリエステル系熱可塑性エラストマー等のエラストマーなどが挙げられる。
【0022】
本発明において、フレキシブル基板を有する場合、埋包層と突起部の何れか一方、好ましくは両方が、フレキシブル基板のヤング率よりも大きいヤング率を有する材料から構成されてもよい。また、フレキシブル基板を有しない場合は、埋包層の上層部と突起部の何れか一方、好ましくは両方が、埋包層の下層部のヤング率よりも大きいヤング率を有する材料から構成されてもよい。
さらには、第1の機能層と埋包層(あるいは埋包層の上層部)との間、埋包層と突起部との間および突起部と第2の機能層との間の何れか1箇所以上に、フレキシブル基板(あるいは埋包層の下層部)のヤング率よりも大きいヤング率を有する層を設けてもよい。
このように構成することにより、フレキシブル回路を曲げた際の応力の中立となる位置に第1の機能層を配置するために必要な埋包層および/または突起部の厚さを小さく抑えることが可能となる。その結果、フレキシブル回路全体の厚さを薄く抑えることが可能となる。また、第1の機能層と第2の機能層を機械的あるいは電気的に接続する必要がある場合には、層間配線の長さを短く抑えることが可能となり、コスト面、信頼性の面でも有利になる。
【0023】
本発明において、第1の機能層および第2の機能層の少なくとも一方が構成材料として有機化合物を含むものであってもよい。有機化合物は、一般的に無機化合物と比較してヤング率が小さいため、応力に対する耐久性が優れている。そのため、同じ回路構造であっても、機能層が有機化合物で構成される場合の方が、機能層の破壊が生じ難く、曲げの曲率半径も小さくでき、フレキシブル回路をよりコンパクトな筒状に丸めることができる。
さらに、機能層を構成する有機化合物として高分子重合体を用いてもよい。有機化合物材料の中でも、低分子量の材料と比較して、高分子量の重合体は応力に対する耐久性が優れている。そのため、同じ回路構造であっても、機能層が高分子重合体で構成される場合の方が、機能層の破壊が生じ難く、曲げの曲率半径も小さくできる。また、高分子重合体は、スピンコート法やインクジェットプリント法などの溶液プロセスで作製することが可能であるため、真空蒸着法やCVD法などの真空装置が必要な無機化合物と比較して、装置や設備コストが一般に安価であり、製品のコストを抑える効果が期待できる。このような高分子(重合体)としては、例えば、ピリジンおよびその誘導体を骨格にもつポリマー、キノリンおよびその誘導体を骨格にもつポリマー、ベンゾフェナンスロリン類およびその誘導体によるラダーポリマー、シアノ−ポリフェニレンビニレンなどの高分子フェニレンおよびその誘導体を骨格にもつポリマー、チオフェンおよびその誘導体を骨格にもつポリマー、フェニレン−ビニレンおよびその誘導体を骨格にもつポリマー、チエニレン−ビニレンおよびその誘導体を骨格にもつポリマー、カルバゾールおよびその誘導体を骨格にもつポリマー、ビニルカルバゾールおよびその誘導体を骨格にもつポリマー、ピロールおよびその誘導体を骨格にもつポリマー、アセチレンおよびその誘導体を骨格にもつポリマー、イソチアナフェンおよびその誘導体を骨格にもつポリマー、ヘプタジエンおよびその誘導体を骨格にもつポリマー、ポリフッ化ビニリデン、フッ化ビニリデン−3フッ化エチレン共重合体、シアン化ビニリデン−酢酸ビニル共重合体等が挙げられる。
また、このような高分子重合体を構成材料に含む機能層としては、例えば、ポリアセチレンを材料とする配線、ポリチエニレンビニレンを半導体層の材料とする薄膜トランジスタ(TFT)、ポリフッ化ビニリデンを誘電体の材料とするキャパシタ等が挙げられる。
【0024】
本発明において、第1の機能層または第2の機能層が、配線、駆動用トランジスタ、画素電極およびキャパシタのうちの少なくとも1つを含み、フレキシブル回路全体として表示素子用の回路を構成するものであってもよい。このように構成すれば、フレキシブルな表示素子を実現することが可能となる。このような表示素子は、曲げに対する耐久性および衝撃に対する耐久性に優れる。したがって、不使用時に丸めて小さなスペースに収納できる表示素子や、使用時において曲げたり丸めたりしながら表示させることができる表示素子を得ることができる。
以下、本発明のフレキシブル回路およびこれを利用した電子装置の実施形態の一例について、図面を参照しながら詳説する。なお、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。
【0025】
<フレキシブル回路の構造>
図1は本発明のフレキシブル回路の一実施の形態の構成を示す断面図であり、図2は図1のフレキシブル回路を基板側から見た図である。なお、図1および図2では、フレキシブル回路を半円弧状に曲げた状態で図示しており、図1は図2のA−B線に沿った断面図に対応している。
【0026】
このフレキシブル回路は、フレキシブル基板101と、フレキシブル基板101上に帯状に複数本並列して形成された第1の機能層102と、第1の機能層102を埋設するように基板101上に形成された埋包層103と、第1の機能層102の長手方向と略直交する方向に延びるように埋包層103上に複数本並列して形成された突起部104と、各突起部104の上面に形成された帯状の第2の機能層105とを備え、第1の機能層102の長手方向に略一致する湾曲方向(円周方向)に湾曲可能である。
【0027】
(フレキシブル基板)
フレキシブル基板101の材料としては、シート状の形態で柔軟性および可撓性を有する材料であれば特に限定されず、例えば絶縁体、誘電体、半導体、導電体等を用いることができ、中でも絶縁体が好ましい。フレキシブル基板101が半導体、導電体から構成される場合は、第1の機能層との間に絶縁膜(酸化膜)を設けて電気的短絡を防止してもよい。なお、フレキシブル基板101を含むフレキシブル回路の各構成要素の材料について詳しくは後述する。
【0028】
フレキシブル基板の厚さは、基板材料の弾性定数(ヤング率、体積弾性率、ポアソン比など)と、要求される曲げ度合いによって選定されるが、薄いほど曲げ量を大きくする(曲率半径を小さくする)ことが可能となり、曲げに必要な力が少なくて済む。しかし、薄くなりすぎると、フレキシブル回路自体の自立性がなくなる(自己の形状を自分自身で保つことができ難くなる)ので、工程や搬送などでの取り扱いが困難になる。したがって、材料にもよるが、一般的にフレキシブル基板の厚さは、10μm〜10mm程度が好ましく、50μm〜1mm程度がより好ましい。
【0029】
(第1の機能層および第2の機能層)
第1の機能層102および第2の機能層105は、1つまたは複数の機能単位の集積で構成されている。ここで、機能単位とは、例えばトランジスタ、キャパシタ、抵抗、コイル、配線、電極などを意味する。
【0030】
第1の機能層102は、フレキシブル回路を曲げた際に厚み方向における応力の中立となる位置に配置されており、そのために、フレキシブル基板101、第1の機能層102、埋包層103および突起部104の構成材料(ヤング率)や厚さが適切に選択設定されている。
応力の中立となる位置は、厳密には厚みのない面であるため、本発明における第1の機能層102の全体としての厚さは、薄ければ薄いほどよい。但し、第1の機能層102において、応力の中立となる位置からずれた部分(上面および下面)ではズレの量(中立となる位置からの距離)に応じて引張応力および圧縮応力が生じるが、その応力により第1の機能層(構成材料)の破壊を生じる強度以内とさせるような厚さが、第1の機能層102全体としての厚さの許容範囲となる。したがって、ズレの量をなるべく小さく抑えるために、第1の機能層102の厚み中心位置を、応力の中立となる位置と一致させることが望ましい。例えば、第1の機能層がアルミ配線や金配線の場合では膜厚1μm程度以下に薄くするのが好ましい。
【0031】
第2の機能層105は、突起部104の上面に配置されているため、曲げ時の応力による歪を受けにくいが、薄いことが好ましい。
第1の機能層102および第2の機能層105の全体としての厚さの好ましい範囲は、曲げによる突起部104の変形量、突起部104の構成材料の弾性定数などに依存するが、100nm〜1mm程度が好ましく、100nm〜10μm程度がより好ましい。
【0032】
本実施の形態では、図1および図2に示すように、第1の機能層102および第2の機能層105は連続した帯状の形状に形成された場合を例示したが、これに限定される訳ではなく、機能単位がドット状に独立して配置された形態、あるいは、ドット状に配置された機能単位が配線にて連続的に接続された形態でも良い。
【0033】
(埋包層)
埋包層103の材料としては、シート状の形態で柔軟性および可撓性を有する材料であれば特に限定されず、例えば絶縁体、誘電体、半導体、導電体等を用いることができ、中でも絶縁体が好ましい。なお、埋包層103が半導体あるいは導電体から構成される場合は、埋包層103と第1の機能層102との間に絶縁膜(酸化膜)を設けて電気的短絡を防止すればよい。また、埋包層103は、1層でもよいが、2層以上の多層膜でもよく、この場合各層は材料が同じまたは異なっていてもよい。
【0034】
埋包層103の厚さおよび材料は、第1の機能層102が応力の中立となる位置に配置されるように、基板101の厚さおよび材料の弾性定数との関係で設定される。
まず、本発明のように、基板、第1の機能層、埋包層等の異種材料の層が積層されて成る多層膜の場合、応力の中立となる位置が一般にどのようにして決定されるかについて説明する。例えば、厚み(断面積)が異なる複数の層がm層積層されてなる多層膜(各層内では均質で、各層間の界面が平行)である場合には、全多層膜の上面側から数えてi番目の層の弾性定数をEi、全多層膜の上面から下部(第1の機能層102側)に向かって計った多層膜の任意の位置までの距離をyz、i番目の層の断面積(応力の中立となる面に対して垂直方向の断面積)をAiとすると、全多層膜の上面から全多層膜内における応力の中立となる面までの距離yは式(1)で表される。
【数1】

【0035】
式(1)は、多層膜を構成する各層の厚み(断面積)が異なる多層膜に関する一般式であるが、説明を簡単にするために、各層の幅(W)が同一でi番目の層の厚さがtiである膜が積層された多層膜の場合には、式1は、次の式(2)のように簡単に表される。
【数2】

【0036】
式(2)において、yiは、全多層膜の上面からi番目の層の中心までの距離である。多層膜における応力の中立となる位置は、一般論としては式1、又は、式2を用いて見積もる事ができる。本発明の構成においては、一般に機能層は基板や埋包層に対して十分薄いので、応力分布に及ぼす機能層の影響は十分小さいと仮定して、機能層を無視して、応力と歪の主要な影響を及ぼす基板と埋包層の2層の場合(機能層は、基板と埋包層の界面に厚さゼロで存在と仮定)に簡略化して考える事が可能である。全多層膜の上面側の層から順に、埋包層103、基板102で、それぞれ厚さがそれぞれt1、t2、ヤング率がそれぞれE1、E2とする。この場合、機能層1は、埋包層103と基板102の界面に位置するので、界面に応力の中立位置を設定する必要がある。2層の界面が応力の中立位置となるための条件は、式2において、y=t1とおいて式を変形する事により、式3のようになる。
【数3】

【0037】
この式3は、例えば、埋包層103が、基板101の材料のヤング率の2倍のヤング率である材料(E1=2×E2)から構成されることにより、埋包層103の厚さを基板の厚さのの1/√2に小さくできることを示している。
【0038】
埋包層103の厚さおよび所望の弾性定数により選択される材料は、式(1)にづき、第1の機能層102の厚み方向の位置が応力の中立位置(すなわち、yの位置)になるように選択設定される。なお、応力が中立となる位置に第1の機能層102を位置させることができるのであれば、フレキシブル基板101および埋包層103は、厚みが部分的に不均一であったり、材質が部分的に異なっていてもよい。
埋包層103の厚さや材料などに要求条件がある場合は、その要求条件に合わせて、式(1)にしたがって、埋包層103の厚さと材料(弾性定数)を基準にして、フレキシブル基板101の材料および厚さなどを設定しても良いことはいうまでもない。
【0039】
(突起部)
突起部104の材料としては特に限定されず、例えば絶縁体、誘電体、半導体、導電体等を用いることができ、埋包層103と同じ材料で一体的に形成しても、別工程にて同じ材料または異なる材料にて形成してもよいが、埋包層と同じ絶縁材料で一体的に形成することが、工程の短縮を図れる上で好ましい。なお、突起部104が半導体あるいは導電体から構成される場合は、突起部104と第2の機能部105との間に絶縁膜(酸化膜)を設けて電気的短絡を防止すればよい。
【0040】
突起部104の形状、高さおよび幅は、曲げ時の応力(歪)によって第2の機能層105が形成されている突起部104の上面に伝播する歪量が、第2の機能層105の破壊に必要な歪量に達しないように設定される。
【0041】
本実施の形態では、図1および図2に示すように、1つの突起部104とそれに隣接する別の突起部104の間の領域に、埋包層103の表面(上面)が露出した場合を例示したが、埋包層103の表面が必ずしも平面である必要ではなく、例えば隣接する突起部104の間がV字状の溝あるいは単なる切込みであってもよい。また、隣接する突起部104の間に弾性材料が充填されていても良い。また、埋包層と突起部とが同じ材料で別体としてあるいは一体として形成されていても良い。
【0042】
(各構成要素の構成材料)
フレキシブル基板101、第1の機能層102、埋包層103、突起部104および第2の機能層105の構成材料としては、公知の電子回路で一般的に使用されている公知の絶縁体、誘電体、半導体、導電体等を用いることができる。
【0043】
無機絶縁体や無機誘電体としては、酸化シリコン、酸化アルミニウム、5酸化タンタル、ニオブ酸リチウムなどが挙げられる。
また、有機絶縁体としては、一般的に曲げに対する耐久性が高いのでフレキシブル基板の材料として好適であり、例えばポリエチレン、ポリメチルメタクリレート、パーフルオロエチレン、ポリカーボネート、ポリエステル、エポキシ樹脂、アクリル樹脂、ポリアクリロニトリル、ポリアミドイミド、或いは、これらの樹脂にガラスやナノチューブなどの微小な繊維状の材料を混合した材料などを使用できる。これらの有機絶縁体のうち、ポリエチレン、ポリメチルメタクリレート、ポリカーボネート、ポリエステル等がフレキシブル基板101の構成材料として好ましく、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、ポリアクリロニトリル、ポリアミドイミド、或いは、これらの樹脂にガラスやナノチューブなどの微小な充填材を混合した材料等が埋包層103及び突起部104の構成材料として好ましい。
また、有機の誘電体としては、例えばポリフッ化ビニリデン、フッ化ビニリデン−3フッ化エチレン共重合体、シアン化ビニリデン−酢酸ビニル共重合体などが挙げられる。
【0044】
半導体としては、例えばシリコン、化合物半導体、酸化亜鉛、ピリジンおよびその誘導体を骨格にもつオリゴマーやポリマー、キノリンおよびその誘導体を骨格にもつオリゴマーやポリマー、ベンゾフェナンスロリン類およびその誘導体によるラダーポリマー、シアノ−ポリフェニレンビニレンなどの高分子、フッ素化無金属フタロシアニン、フッ素化金属フタロシアニン類およびその誘導体、ペリレンおよびその誘導体(PTCDA、PTCDIなど)、ナフタレン誘導体(NTCDA、NTCDIなど)、バソキュプロインおよびその誘導体などの低分子などの電子受容性材料、フェニレンおよびその誘導体を骨格にもつオリゴマーやポリマー、チオフェンおよびその誘導体を骨格にもつオリゴマーやポリマー、フェニレン−ビニレンおよびその誘導体を骨格にもつオリゴマーやポリマー、チエニレン−ビニレンおよびその誘導体を骨格にもつオリゴマーやポリマー、カルバゾールおよびその誘導体を骨格にもつオリゴマーやポリマー、ビニルカルバゾールおよびその誘導体を骨格にもつオリゴマーやポリマー、ピロールおよびその誘導体を骨格にもつオリゴマーやポリマー、アセチレンおよびその誘導体を骨格にもつオリゴマーやポリマー、イソチアナフェンおよびその誘導体を骨格にもつオリゴマーやポリマー、ヘプタジエンおよびその誘導体を骨格にもつオリゴマーやポリマー、無金属フタロシアニン、金属フタロシアニン類およびそれらの誘導体、ジアミン類、フェニルジアミン類およびそれらの誘導体、ペンタセンなどのアセン類やピレンおよびコロネンなどを含む炭素縮合環系化合物およびその誘導体、ポルフィリン、無金属ポルフィリンや金属ポルフィリンおよびそれらの誘導体、シアニン色素、メロシアニン色素、スクアリリウム色素、キナクリドン色素、アゾ色素、アントラキノン、ベンゾキノン、ナフトキノン等のキノン系色素およびそれらの誘導体などの電子供与性材料を使用することができる。金属フタロシアニンや金属ポルフィリンの中心金属としては、マグネシウム、亜鉛、銅、銀、アルミニウム、ケイ素、チタン、バナジウム、クロム、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、スズ、白金、鉛などの金属、金属酸化物、金属ハロゲン化物などが挙げられる。
【0045】
導電体としては、例えば金、銀、アルミニウム、銅、ITOや、鉄、ニッケル、ネオジウムなどの磁性体、ポリアセチレン、ポリアニリン、ポリピロール、ポリパラフェニレン、ポリフェニレンオキシド、ポリフェニレンスルフィド、ポリチオフェン、ポリチアジル、ポリイソチアナフテンなどのπ電子共役系の導電性高分子、ポリオキサジアゾール、ポリイミダゾールなどの焦成グラファイト化高分子、テトラチアフルバレン−テトラシアノキノヂメタンなどの電荷異動錯体などが挙げられる。
【0046】
<フレキシブル回路の製造方法>
本発明のフレキシブル回路は、前記の材料を用いて、公知の製造方法の組み合わせにより作製することができる。図1および図2を参照しながら製造手順を以下に説明する。
まず、フレキシブル基板上101の表面に所定パターン形状の第1の機能層102を形成する。第1の機能層102の形成方法は、第1の機能層102を構成する機能単位を作製する公知技術を用いることができる。例えば、第1の機能層102として配線を形成する場合は、フレキシブル基板101上に公知の薄膜作成法(例えばCVD法、蒸着法等)で作製した金属膜に対して既存のリソグラフィー技術、インプリント技術、イオンビーム加工技術、レーザー加工技術など膜を部分的に取り除く加工技術、あるいはイオンビームアシストデポジション法といった部分的に金属膜を成長させる選択成長技術などを用いることができる。
【0047】
続いて、公知の成膜技術を用いて埋包層103をフレキシブル基板101上に形成して前記の第1の機能層102を埋設する。
次に、埋包層103上に突起部104をリッジ状またはドット状に形成する。突起部104の方法としては、例えば、公知の薄膜技術で作製した膜に対して既存のフォトリソグラフィー技術、インプリント技術、イオンビーム加工技術、レーザー加工技術など膜を部分的に取り除く加工技術、あるいはイオンビームアシストデポジション法といった部分的に膜を成長させる選択成長技術などを用いることができる。
ここまでの工程において、基板101、埋包層103および突起部104の構成材料(ヤング率)や厚さは、前記のように式(1)にづき、フレキシブル回路を湾曲させたと仮定した場合の応力の中立となる位置に第1の機能層102が配置されるように適切に選ばれる。
【0048】
次に、第1の機能層102と第2の機能層105が電気的に接続される必要がある場合には、突起部104の上面の所定位置に、突起部104および埋包層103を貫通するビアホールを必要個数形成し、導電材料をビアホールに充填する。
その後、突起部104の表面に第2の機能層105を形成する。第2の機能層105の形成方法は、第2の機能層105を構成する機能単位を作製する公知技術を用いることができる。
【0049】
<フレキシブル回路を用いた電子機器>
本発明のフレキシブル回路は、曲げや巻き取りなどを行なえるフレキシブル性が要求される電子機器の他、フレキシブル性によって落下時などの衝撃に対して回路自体が衝撃を吸収しうることから、携帯電話、ノート型パソコン、個人用携帯端末(PDA)などの耐衝撃性が要求されるモバイル機器の演算回路、ディスプレイ駆動回路として使用可能である。特に、本発明のフレキシブル回路は、ある1方向に曲げの方向が固定された回路に好適であり、例えば、不使用時には筒状に巻き取って収納しておき、使用時には平面状に広げて表示面を表示させるいわゆる巻物型ディスプレイ、または、巻物型ディスプレイを備えた電子機器(携帯電話、PDAなど)に特に好適に用いられる。さらに、巻物型ディスプレイにチューナ、スピーカなどを接続することにより、不使用時には天井や壁などに配置された収納部に巻き取られて収納され、視聴時にはディスプレイ部を引きだして番組を表示させるテレビとして利用できる。
【0050】
本発明のフレキシブル回路をディスプレイとして利用するためには、第1の機能層101または第2の機能層105を、ストライプ状に複数本形成された配線として構成し、第2の機能層105または第1の機能層101に駆動回路(トランジスタ、キャパシタ、画素電極、配線などで構成)を形成し、第1の機能層101と第2の機能層102の間はビアホールを通した導電体で接続し、第2の機能層105の上に形成された液晶、PDPまたは有機ELなどの画素に前記の駆動回路からの電気信号を接続するようにすれば良い。
【0051】
具体例として、図3に、一つのスイッチングトランジスタで駆動する場合の基本的な有機EL素子に本発明のフレキシブル回路を応用してなるフレキシブル表示素子の概略構成の一例を示す。図3(a)は概略構成の断面図であり、図3(b)は図3(a)の平面図である。なお、図3(a)は図3(b)におけるC−D線に沿った断面として図示していおり、図3(b)は図3(a)で示された保護層317がない状態を図示している。
【0052】
この表示素子構造は、フレキシブル基板301上に、第1の機能層としてゲート配線302が配置され、ゲート配線302を埋設して、埋包層303が形成されている。埋包層303の上には、ゲート配線302が延びる方向と直交する方向に延びる突起部304が形成されている。埋包層303および突起部304を貫通してビアホールが形成されており、ビアホール中に形成された層間配線318により突起部304の表面に形成されたゲート電極310とゲート配線302が電気的に接続されている。ゲート電極310の上にはゲート絶縁膜311が形成され、ゲート電極310の上部を挟み対向してソース電極312およびドレイン電極313が形成されている。ドレイン電極313は、ゲート絶縁膜311上に形成された有機EL素子の下部電極321と電気的に接続されている。なお、有機EL素子の下部電極321とドレイン電極313を共通の電極として構成しても良い。
【0053】
ソース電極312とドレイン電極313の間の領域には、ゲート絶縁膜311、ソース電極312およびドレイン電極313に接する半導体層314が形成されている。また、有機EL素子の下部電極321の上には有機EL層315が形成され、有機EL層315の上には上部電極316が形成されている。このように、突起部304上に第2の機能層として有機EL素子が構成されている。
【0054】
また、突起部304の上面に沿って延びる一対の配線319、320が形成されており、ソース電極312および上部電極316は配線319、および配線320にそれぞれ電気的に接続されている。また、突起部304上には有機EL素子を封止する透明樹脂からなる保護層317が形成されていても良い。保護層317は、機能層を外部からの機械的、化学的、光学的な刺激から保護する効果を有する。
なお、図示しないが、フレキシブル基板301上には複数本のゲート配線302がストライプ状に設けられていると共に、ゲート配線302と直交する方向に複数本の突起部304がストライプ状に設けられており、各ゲート配線302と各突起部304との交差部には、図3の有機EL素子が設けられており、マトリックス状に複数個配置された各有機EL素子はゲート線302、層間配線318、配線319および配線320にて互いに電気的に接続されている。
【実施例】
【0055】
以下、図3で説明した表示素子構造の製造工程について、図4および図5に示す製造工程図を用いてさらに具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されない。なお、図4および図5において、図3と同一の要素には同一の符号を付している。
【0056】
図4(a)に示すように、フレキシブル基板301として縦10cm、横10cm、厚さ500μmのポリメチルメタクリレート(PMMA)からなるシートを用い、この基板301上に蒸着法により膜厚約150nmの金薄膜を形成し、フォトリソグラフィー法により金薄膜を幅50μmの帯状形に2mm間隔(中心位置の間隔)でストライプ状に加工し、 40本のゲート配線302(第1の機能層)を形成した。次いで、ゲート配線302を含む基板301上に、メチルメタクリレート(MMA)モノマー(5重量%)のメタノール溶液を塗布し、MMA膜を形成した。
【0057】
その後、ゲート配線302上に500μm角の略正方形の孔(ビアホール)が開くように、フォトマスクを通してビアホール形成領域を除く領域に紫外線で露光してMMAモノマーを重合させ、ビアホール形成領域の未重合のMMAモノマーをメタノール洗浄で除去し、図4(b)に示すように、ゲート配線302を埋設する膜厚500μmのPMMAによる埋包層303を形成した。
【0058】
次いで、埋包層303上にMMAモノマー(5重量%)のメタノール溶液を塗布し、MMA膜を形成した後、所定パターンのフォトマスクを通して露光してMMAモノマーを重合した後、未反応のMMAモノマーを除去することによって、図4(c)に示すようにゲート配線302から突起部304表面まで貫通したビアホールHを有し、幅約1mm、高さ約500μmの帯形のPMMAによる突起部304を2mm間隔(中心位置の間隔)で30本ストライプ状に形成した。帯型の突起部304の長手方向は、ゲート配線302の長手方向に対して略直交する方向に設定した。
以下、1本のゲート配線302と1本の突起部304とが交差する交差部に表示素子構造を形成する工程を説明するが、他のゲート配線と他の突起部とが交差する交差部も同様に表示素子構造が形成されているものとする。
【0059】
次に、得られた基板301上にめっき法を用いて金膜を形成してビアホールHの内部に金を充填し、その後、表面の金膜を研磨により除去してビアホール内に層間配線318を形成した。続いて、図4(d)に示すように、突起部304の上面の層間配線318が露出した部分に矩形のゲート電極310を形成した。このゲート電極310のサイズは、ゲート配線302の長手方向の長さが10μm、突起部304の長手方向の長さが100μm、厚さが150nmであった。ゲート電極310の形成には、メタルマスクを介した真空蒸着法を用いた。
【0060】
次いで、得られた基板101上に化学気相成長法(CVD法)によりシリコン酸化膜を形成し、フォトリソグラフィー法およびエッチング技術により、突起部304の上面領域を除く領域のシリコン酸化膜を除去し、突起部304の上面領域のみに膜厚約100nmのゲート絶縁膜311を形成した。続いて、ゲート絶縁膜311上におけるゲート電極310の上ではない位置に、マグネトロンスパッタ法、フォトリソグラフィー法およびエッチング技術によりITOからなる有機EL素子用の矩形の下部電極321を形成した。下部電極321のサイズは、突起部304の長手方向(チャンネル幅方向)の長さが約120μm、ゲート配線302の長手方向の長さが約300μm、厚さが約150nmであった。
【0061】
次に、ゲート絶縁膜311の上に、真空蒸着法、フォトリソグラフィー法およびエッチング技術を用いて、ゲート電極410の上方を挟むようにゲート配線302の長手方向に約50μm離れてソース電極312およびドレイン電極313を対向して形成した。ソース電極312とドレイン電極313は共に金からなり、それぞれの膜厚は約150nmであった。ドレイン電極313は、チャンネル幅方向の長さが約100μmであり、下部電極321に電気的に接続されるように配置された。
【0062】
次いで、突起部304上に膜厚約100nmのペンタセン薄膜を、所定形状のスリットを有するメタルマスクを通して真空蒸着し、ソース電極312とドレイン電極313に接し、かつ、ゲート絶縁層311表面のソース電極312とドレイン電極313の間の領域を覆うペンタセン薄膜からなる半導体層314を形成した。以上の工程を経て、図5(a)に示すように有機EL駆動用TFTが突起部304の上面に形成された。
【0063】
次に、図5(b)に示すように、有機EL素子用の下部電極321の上に、メタルマスクを通した真空蒸着法により、NPDから構成される膜厚約50nmの正孔輸送層と膜厚約20nmのAlq3から構成される発光層(兼電子輸送層)とが順次積層された有機EL層315を形成した。続いて、有機EL層315の上に、膜厚1nm以下のLiF膜と膜厚約70nmのAl膜を順次積層して上部電極316を形成し、有機EL素子を形成した。
【0064】
次に、メタルマスクを通した真空蒸着法により、突起部304上に膜厚約150nmのAl膜からなるソース配線319とドレイン配線320(図3(b)参照)を形成した。ソース配線319は突起部304上に形成された複数のTFTの各ソース電極312に電気的に接続され、ドレイン配線320は突起部304上に形成された複数の有機EL素子の各上部電極316に電気的に接続されている。
【0065】
その後、図5(c)に示すように、突起部304の上面に、外部からの機械的、化学的、光学的な刺激からTFT、有機素子、ソース配線319およびドレイン配線320などの機能部を保護するための厚さ0.1μmの保護層317を帯状に形成した。この保護層317の材料として透光性のシリコン窒化酸化膜(SiOxN1-x:x=0.5)を用いた。
【0066】
以上の工程で、第1の機能層としてゲート配線302を有し、第2の機能層としてゲート電極310、ゲート絶縁膜311、半導体層314、ソース電極312(ソース配線319)およびドレイン電極313を有するトランジスタアレイと、有機EL素子とを備えたフレキシブル回路を作製できた。
作製されたこのフレキシブル回路は、フレキシブル基板301(PMMA:ヤング率約2.3GPa)の厚さ:500μm、ゲート配線302(金)の厚さ:150nm、幅:50μm、埋包層303(PMMA)の厚さ:500μm、ゲート配線間の幅:約2mm、突起部304(PMMA)の高さ:約500μm、幅:約1mm、隣接する突起部の空間の幅:約1mmである。このフレキシブル回路について、ゲート配線302の長手方向に曲率半径約30mmで湾曲させた状態において有機EL素子の発光を確認できた。このことから、フレキシブル回路の湾曲状態において、ゲート配線302は応力の中立となる位置に配置されているため断線していないことがわかった。また、フレキシブル回路を湾曲状態から平板状に広げた状態でも有機EL素子の発光を確認できた。
【0067】
(他の実施の形態)
1.上記実施の形態では、フレキシブル回路の突起部が帯形であり、複数本ストライプ状に配置された場合を例示したが、突起部はゲート配線と交差する部位にのみドット形のマトリックス状に配置してもよい。あるいは、突起部をストライプ状に配置し、第1の機能層をドット形のマトリックス状に配置してもよい。さらには、フレキシブル基板の裏面側にも突起部を形成し、この突起部の上面に別の機能層を形成してもよい。
2.上記実施の形態では、第1の機能層を配線とし、第2の機能層を表示素子とした場合を例示したが、第1の機能層を表示素子とし、第2の機能層を配線としてもよい。この場合、第1の機能層は複数の積層膜から構成されるが、その積層膜の厚み中心位置が応力の中立位置に一致するように設定される。
3.上記実施の形態では、フレキシブル基板の材料であるPMMAと同じ材料で埋包層および突起部を形成したが、埋包層および突起部をPMMAよりもヤング率が大きい材料、例えば、ポリアクリロニトリル樹脂、ポリアミドイミド樹脂、エポキシ樹脂、樹脂にガラスやナノチューブなどの微小な充填材を混合した材料や、シリコン酸化膜などの無機材料等にて形成してもよく、あるいはフレキシブル基板をPMMAよりもヤング率が小さい材料、例えばポリプロピレン、ポリエチレン等にて形成してもよい。
4.上記実施の形態では、フレキシブル基板を有する構造のフレキシブル回路を例示したが、フレキシブル基板を省略し、埋包層を2層構造とし、上下2層にて第1の機能層を挟み込む(包み込む)ようにしてもよい。この場合、埋包層の下層部をフレキシブル基板に替えただけであり、フレキシブル基板を有する場合と同様に上述の方法にて応力の中心位置を求めることができる。
【産業上の利用可能性】
【0068】
本発明のフレキシブル回路は、具体的には、携帯用のキーボード、紙の代わりに利用され得る、情報の入力、出力、表示機能のいずれかを備えた電子ペーパー、情報の入力、出力、表示機能のいずれかを備え、かつ、曲面に貼り付け可能な電子ポスター、耐衝撃性に優れた表示装置(特に携帯機器)など、不定方向に曲げられる電子機器、不定方向からの衝撃を受ける可能性の高い(衝撃に耐える必要が有る)電子機器等に好適である。
【図面の簡単な説明】
【0069】
【図1】本発明のフレキシブル回路の一実施の形態の構成を示す断面図である。
【図2】図1のフレキシブル回路を基板側から見た図である。
【図3】本発明のフレキシブル回路を、一つのスイッチングトランジスタで駆動する場合の基本的な有機EL素子に応用してなるフレキシブル表示素子の概略構成を示す図である。
【図4】図3のフレキシブル表示素子の製造工程を示す図である。
【図5】図4の工程の続きを示す図である。
【符号の説明】
【0070】
101、301 フレキシブル基板
102 第1の機能層
103、303 埋包層
104、304 突起部
105 第2の機能層
302 ゲート配線
310 ゲート電極
311 ゲート絶縁膜
312 ソース電極
313 ドレイン電極
314 半導体層
315 有機EL層
316 上部電極
317 保護層
318 層間配線
319 ソース配線
320 ドレイン配線
321 下部電極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の機能層と、第1の機能層を埋設する埋包層と、埋包層の表面に設けられた突起部上に形成された第2の機能層とを備え、
前記第1の機能層が、曲げによって生じる応力の中立となる厚さ方向の位置およびその近傍位置に配置されたことを特徴とするフレキシブル回路。
【請求項2】
第1の機能層を表面で支持するフレキシブル基板をさらに備え、前記フレキシブル基板の表面上に埋包層が積層された請求項1に記載のフレキシブル回路。
【請求項3】
埋包層が第1の機能層を内包する請求項1に記載のフレキシブル回路。
【請求項4】
突起部が、埋包層の一部または埋包層とは別部材からなる請求項1〜3の何れか1つに記載のフレキシブル回路。
【請求項5】
突起部は、帯形で複数本ストライプ状に配置されてなる請求項1〜4の何れか1つに記載のフレキシブル回路。
【請求項6】
突起部は、ドット形で複数個マトリックス状に配置されてなる請求項1〜4の何れか1つに記載のフレキシブル回路。
【請求項7】
埋包層および/または突起部が、フレキシブル基板のヤング率よりも大きいヤング率を有する材料から構成された請求項1〜6の何れか1つに記載のフレキシブル回路。
【請求項8】
隣接する2つの突起部の間に弾性層が設けられた請求項1〜7の何れか1つに記載のフレキシブル回路。
【請求項9】
第1の機能層および第2の機能層の少なくとも一方が構成材料として有機化合物を含む請求項1〜8の何れか1つに記載のフレキシブル回路。
【請求項10】
有機化合物が高分子重合体である請求項9に記載のフレキシブル回路。
【請求項11】
第1の機能層または第2の機能層が、配線、駆動用トランジスタ、画素電極およびキャパシタのうちの少なくとも1つを含み、全体として表示素子用の回路を構成する請求項1〜10の何れか1つに記載のフレキシブル回路。
【請求項12】
請求項1〜11に記載のフレキシブル回路を備えたことを特徴とする電子装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate