説明

フレキソ印刷版およびフレキソ印刷機

【課題】大形の印刷版を用いても転写の精度が低下することなく、高精度の転写を長期にわたり維持することのできるフレキソ印刷版およびフレキソ印刷機を提供する。
【解決手段】フレキソ印刷版10Bは、その裏面に一体に貼着されたフィルム状基材2の裏面側に、刷り方向の一方の端部から他方の端部まで連続するステンレス箔3が配設されている。また、フレキソ印刷機は、印刷版10を装着する版胴21の外周面における、少なくとも印刷版10の印刷用凸部10wに対応する領域以外の位置に、版胴内部に貫通する溝21aが複数設けられ、この版胴21内部に、各溝21aと陰圧源とを連絡する陰圧供給手段30が形成され、印刷版10が版胴21外周面に吸着固定されるようになっている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フレキソ印刷版およびフレキソ印刷機に関する。
【背景技術】
【0002】
フレキソ印刷は、表面に印刷用の凸部が形成された樹脂製やゴム製の柔軟なフレキソ印刷版(以下、単に「印刷版」ともいう)を用いて、上記印刷用凸部の頂面に保持したインキを、低印圧で被印刷体に転写する印刷方式である。このフレキソ印刷は、上記印刷版の印刷用凸部が比較的柔らかく、種々の形状の被印刷体表面に追従可能なことから、様々な材質や厚みのある被印刷体等への印刷にも使用されている。
【0003】
図7は、フレキソ印刷機の一般的な構成を示す概略構成図である。この図のように、フレキソ印刷機(輪転式)は、フレキソ印刷版10を巻き付けて装着する版胴20と、上記印刷版10にインキを供給するためのアニロックスロール22と、インキ量調節手段(ドクター23)およびインキ供給手段(インキタンク24)等を主体として構成されている。印刷される被印刷体P(例えば、ロール紙やダンボール等)を挟んで上記版胴20(印刷版10)に対向する位置には、上記被印刷体Pを版胴20に押し付けるための圧胴26が配置されており、これら版胴20と圧胴26の間の位置で、上記印刷版10の印刷用凸部(10w)上に保持されたインキが、被印刷体P上に転写されるようになっている。なお、図中の符号11,11は、印刷版10を版胴20に取り付けるためのクランプであり、これらクランプ11,11に印刷(刷り)方向の端部を挟み込むことにより、上記印刷版10は、版胴周方向に張力をかけた状態で、この版胴20の外周に密着するように固定されている(例えば、特許文献1,2等を参照。)。
【0004】
上記フレキソ印刷機に用いられる印刷版10は、図8(a)に平面図,図8(b)に側面図を示すように、全体として、版胴(20)に巻き付けることのできる略長方形状に形成されており、その表面側(図示上側)には、文字や画像等のパターンに形成された印刷用凸部10wが設けられ、その裏面(図示上側)には、上記印刷版10の補強用のフィルム状基材2(この例では二層フィルム)が一体に貼り付けられている。このフィルム状基材2は、上記印刷版10に加わる、版胴20外周に沿った方向の張力を主として支持する「テンション・メンバー」として機能しているもので、例えば、多層のポリエチレンテレフタレート(PET)製フィルム等が用いられる。なお、図中の符号10xは、印刷に関与しない平板部(非印刷部)である。また、上記印刷版10の刷り方向(この例の場合は長手方向:図示左右方向)の端部には、比較的薄肉の曲げ部10yを介して、版胴(20)への取り付けに用いられる端部(以下「くわえ部」)10zが設けられており、このくわえ部10zに、前記クランプ11の締め付け用ねじ等を挿通するための貫通穴10hが、所定の間隔で複数形成されている(特許文献3を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−245417号公報
【特許文献2】特開2005−225153号公報
【特許文献3】特開2002−178484号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、フレキソ印刷は、近年、基板や配線等を傷つけることなく、均一な薄膜を、高速かつ高精度に転写できるという特徴を生かして、液晶,有機EL,有機TFT等の基板上に設けられる電極層やシール剤,マスキング剤等の印刷(転写)形成に利用され始めている。
【0007】
しかしながら、上記のようなフレキソ印刷を用いたシール剤等の印刷(転写)形成においては、フラットパネルディスプレイや太陽電池パネル用基板の大形化(大面積化)に伴い、転写に使用するフレキソ印刷版も大形化するため、版胴上での印刷版の位置ずれや引っ張りの伸びにより、その転写精度が低下する傾向にあることが分かってきた。高精度な転写を維持できない場合、上記フラットパネルディスプレイや太陽電池パネル等の歩留りが低下してしまうおそれがあり、その改善が望まれている。
【0008】
本発明は、このような事情を鑑みてなされたもので、大形の印刷版を用いても転写の精度が低下することなく、高精度の転写を長期にわたり維持することのできるフレキソ印刷版およびフレキソ印刷機の提供をその目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の目的を達成するため、本発明は、樹脂製のフレキソ印刷版と、上記フレキソ印刷版の裏面に一体に貼着されたフィルム状基材とを備えるフレキソ印刷版であって、フレキソ印刷版を版胴に固定するためのクランプに対応する上記フレキソ印刷版の部分に、上記フィルム状基材の端部が位置決めされているフレキソ印刷版を第1の特徴とする。
【0010】
また、同じ目的を達成するため、本発明は、樹脂製のフレキソ印刷版と、上記フレキソ印刷版の裏面に一体に貼着されたフィルム状基材とを備えるフレキソ印刷版であって、上記フィルム状基材の裏面側に、印刷版刷り方向の一方の端部から他方の端部まで連続するステンレス箔が配設され、フレキソ印刷版を版胴に固定するためのクランプに対応する上記フレキソ印刷版の部分に、上記フィルム状基材の端部および上記ステンレス箔の端部の少なくとも一方が位置決めされているフレキソ印刷版を第2の特徴とする。
【0011】
さらに、本発明は、樹脂製のフレキソ印刷版と、上記フレキソ印刷版の裏面に一体に貼着されたフィルム状基材とを備えるフレキソ印刷版であって、上記フィルム状基材の表面側に、印刷版刷り方向の一方の端部から他方の端部まで連続するステンレス箔が配設され、フレキソ印刷版を版胴に固定するためのクランプに対応する上記フレキソ印刷版の部分に、上記フィルム状基材の端部および上記ステンレス箔の端部の少なくとも一方が位置決めされているフレキソ印刷版を第3の特徴とする。
【0012】
そして、本発明は、外周面の所定位置にフレキソ印刷版を装着するロール状の版胴と、上記版胴に装着されたフレキソ印刷版にインキを供給するアニロックスロールと、このアニロックスロール上のインキ量を調節するインキ量調節手段と、インキ供給手段とを備えるフレキソ印刷機であって、上記版胴の外周面には、少なくともフレキソ印刷版の印刷用凸部に対応する領域以外の位置に、版胴内部に貫通する版胴軸方向の溝が複数設けられ、この版胴の内部には、上記各溝と版胴の外部に設置された陰圧源とを連絡する陰圧供給手段が形成され、上記フレキソ印刷版を版胴に装着した際に、このフレキソ印刷版が上記版胴外周面に吸着固定されるようになっているフレキソ印刷機を第4の特徴とする。
【0013】
本発明は、ディスプレイや太陽電池等に使用される平板状基板の表面に、シール剤やマスキング剤等からなる均一な薄膜を転写形成するのに用いられるフレキソ印刷において、版胴外周面に張力をかけた状態で固定される印刷版の「版胴周方向の伸縮(伸び)」を抑える構成を導入することにより、所期の目的を達成するものである。
【発明の効果】
【0014】
すなわち、本発明のフレキソ印刷版は、樹脂製のフレキソ印刷版と、上記フレキソ印刷版の裏面に一体に貼着されたフィルム状基材とを備えるフレキソ印刷版であって、フレキソ印刷版を版胴に固定するためのクランプに対応する上記フレキソ印刷版の部分に、上記フィルム状基材の端部が位置決めされている。そのため、このフレキソ印刷版を印刷機の版胴に装着する際、上記フィルム状基材の端部が、印刷版の把持用端部(くわえ部)としてクランプ装置等に挟み込まれ、このフィルム状基材のみで、フレキソ印刷版の刷り方向(版胴周方向)の引っ張りに対抗できるようになる。これにより、柔軟なフレキソ印刷版の寸法安定性および耐久性(耐刷性)を大幅に向上させることができる。
【0015】
また、本発明の請求項2に係るフレキソ印刷版は、上記フィルム状基材の裏面側に、印刷版刷り方向の一方の端部から他方の端部まで連続するステンレス箔が配設され、フレキソ印刷版を版胴に固定するためのクランプに対応する上記フレキソ印刷版の部分に、上記フィルム状基材の端部および上記ステンレス箔の端部の少なくとも一方が位置決めされている。そのため、このフレキソ印刷版を印刷機の版胴に装着する際、上記フィルム状基材の端部または上記ステンレス箔の端部、あるいは、その両者の端部を一緒に版胴のクランプ装置等に挟み込んで引っ張ることにより、フレキソ印刷版の刷り方向(版胴周方向)の引っ張り強度が、より向上する。さらに、フレキソ印刷版の寸法安定性および耐久性(耐刷性)が格段に向上する。これにより、本発明の請求項2に係るフレキソ印刷版は、印刷版を大形化(大面積化)しても転写の精度が低下することなく、高精度の転写を長期にわたり維持することのできる、寿命の長いフレキソ印刷版とすることができる。
【0016】
また、本発明の請求項3に係るフレキソ印刷版は、上記請求項2に係るフレキソ印刷版とは逆に、上記フィルム状基材の表面側に、印刷版刷り方向の一方の端部から他方の端部まで連続するステンレス箔が配設されている。この構成によっても、フレキソ印刷版を印刷機の版胴に装着する際、上記フィルム状基材の端部または上記ステンレス箔の端部、あるいは、その両者の端部を一緒に版胴のクランプ装置等に挟み込んで引っ張ることにより、フレキソ印刷版の寸法安定性および耐久性(耐刷性)を、より向上させることができる。なお、上記ステンレス箔が配設される「フィルム状基材の表面側」とは、このフィルム状基材と樹脂製フレキソ印刷版との間(界面)に配置される場合と、上記フレキソ印刷版を構成する樹脂の中に埋没するように配置される場合とを含む。
【0017】
そして、本発明の請求項4に係るフレキソ印刷機は、フレキソ印刷版を装着する版胴の外周面における、少なくともフレキソ印刷版の印刷用凸部に対応する領域以外の位置に、版胴内部に貫通する版胴軸方向の溝が複数設けられ、この版胴の内部に、上記各溝と版胴の外部に設置された陰圧源とを連絡する陰圧供給手段が形成され、上記フレキソ印刷版を版胴に装着した際に、上記陰圧源による吸引により、このフレキソ印刷版が上記版胴外周面に密着して固定されるようになっている。これにより、上記印刷版の印刷用凸部以外の領域(刷り方向両端部を含む)を、版胴軸方向に均等な力で固定(吸着)することができる。
【0018】
また、上記フレキソ印刷版吸着用の溝を、フレキソ印刷版の印刷用凸部に対応する領域を含む全面に設けた場合は、大形(大面積)のフレキソ印刷版であっても、この大形印刷版を、版胴外周面の所定位置に、版胴周方向に均等な力でしっかりと固定することができる。さらに、フレキソ印刷版が、転写の繰り返し(輪転)による応力を受けても、印刷版が全面で吸着されているため、この印刷版の伸びが抑えられる。したがって、本発明のフレキソ印刷機は、高精度の転写を長期にわたって安定して維持することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】(a)は本発明の第1実施形態におけるフレキソ印刷版の構成を示す断面図であり、(b)はその部分拡大図である。
【図2】(a)は本発明の第2実施形態におけるフレキソ印刷版の構成を示す断面図であり、(b)はその部分拡大図である。
【図3】(a)は本発明の第3実施形態におけるフレキソ印刷版の構成を示す断面図であり、(b)はその部分拡大図である。
【図4】(a)は本発明の第4実施形態におけるフレキソ印刷版の構成を示す断面図であり、(b)はその部分拡大図である。
【図5】本発明の第5実施形態におけるフレキソ印刷機の概略構成図である。
【図6】第5実施形態におけるフレキソ印刷機の版胴の拡大図である。
【図7】従来のフレキソ印刷機の概略構成図である。
【図8】(a)はフレキソ印刷版の平面図、(b)はフレキソ印刷版の側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
つぎに、本発明の実施の形態を、図面にもとづいて詳しく説明する。ただし、本発明は、この実施の形態に限定されるものではない。
【0021】
本発明の実施の形態におけるフレキソ印刷版10(10A,10B,10C,10D)は、液晶,有機EL,有機TFT等の製造工程において、電極層やシール剤,マスキング剤等の有機溶剤系のインキ(塗工液)を、印刷(転写形成)するのに用いられるものであり、図5(第5実施形態)に示すようなフレキソ印刷機(輪転式)を用いて、移動ステージ25上に載置した平板状の基板(ワークW)上に、版胴21に装着された上記印刷版10(10A,10B,10C,10D)上に保持されたインキを転写する。なお、図5(第5実施形態)のフレキソ印刷機の詳細は後記するが、その基本的な構成は従来例と同様であり、上記印刷版10にインキを供給するためのアニロックスロール22と、ドクター(ブレード)23およびインキ補充手段(インキタンク24)等を備えている。
【0022】
また、第1〜第4実施形態で用いるフレキソ印刷版10A,10B,10C,10Dは、樹脂やゴム等の柔軟性を有する材料を用いて構成されており、図1〜図4の断面図に示すように、従来例と同様の印刷用凸部1aおよび平板部1b、曲げ部1c、端部1dが形成され、これら各印刷版フレキソ印刷版10A,10B,10C,10Dの裏面(印刷用凸部1aの反対側)には、PET製のフィルム状基材2(単層または複層)が貼り付けられている。そして、第1実施形態におけるフレキソ印刷版10A(図1)では、印刷版の刷り方向両端のくわえ部10zが上記フィルム状基材2で構成され、第2実施形態におけるフレキソ印刷版10B(図2)では、印刷版の刷り方向両端のくわえ部10zが上記フィルム状基材2およびその裏面に貼着されたステンレス箔3で構成され、第3実施形態におけるフレキソ印刷版10C(図3)では、印刷版の刷り方向両端のくわえ部10zが上記フィルム状基材(2)の裏面に貼着されたステンレス箔3で構成されている。これが、本発明の第1〜第3実施形態におけるフレキソ印刷版10A,10B,10Cの特徴である。
【0023】
また、第4実施形態におけるフレキソ印刷版10D(図4)では、上記フィルム状基材2の表面側(図示上側)でかつ印刷版1を構成する樹脂の中に、刷り方向の一方の端部から他方の端部(くわえ部10zからくわえ部10z)まで連続するステンレス箔4が埋め込まれ、このステンレス箔4の端部が、版胴のクランプ11に対応する位置に位置決めされている。これが、本発明の第4実施形態におけるフレキソ印刷版10Dの特徴である。
【0024】
上記各フレキソ印刷版について、さらに詳しく説明すると、図1に示す第1実施形態のフレキソ印刷版10Aは、従来例〔図8参照〕と同様、全体として略長方形状であり、その表面側(図示上側)に、文字や画像等のパターンに形成された印刷用凸部1aを有する印刷版1と、この印刷版1の裏面(図示下側)に一体に貼り付けられた、印刷版1の補強用のフィルム状基材2からなる。
【0025】
上記印刷版1の刷り方向(図示左右方向)の中央部には、印刷用凸部1aと平板部1bとが設けられ、その刷り方向両端部に、比較的薄肉の曲げ部1c,1cを介して端部1d,1dが形成されている。上記印刷版1を構成する材料としては、樹脂やゴム等、版成形後にも一定の弾性を有する材料が用いられる。なお、本実施形態におけるフレキソ印刷版10Aは、先に述べたように、液晶,有機EL,有機TFT等の製造工程において、基板(ワークW)上に、電極層やシール剤,マスキング剤等の有機溶剤系のインキを、転写形成するのに用いられるものであることから、上記印刷版1の材料も、上記工程の使用インキに含まれる有機溶剤に対する膨潤度等を考慮して決定される。
【0026】
上記印刷版1の裏面側に位置するフィルム状基材2は、樹脂製のフィルム(あるいはシート)を一層または二層以上積層して形成されたものであり、この例(図1)では、ポリエチレンテレフタレート(PET)製の二層フィルムが用いられている。また、このフィルム状基材2の刷り方向(図示左右方向)の両端部は、版胴装着用のクランプ(11:仮想線)に対応する位置に位置決めされており、フレキソ印刷版10Aのくわえ部10zとなっている。なお、上記くわえ部10zには、上記クランプ11の締め付け用ねじ等を挿通するための貫通穴10hが設けられている。また、フィルム状基材2単体の厚さとしては、0.10〜0.80mm程度の厚さ(全厚)のフィルムが用いられる。
【0027】
上記第1実施形態のフレキソ印刷版10Aによれば、印刷機の版胴(21)への装着の際、上記フィルム状基材2の端部に設けられたくわえ部10zをクランプ11に挟み込んで引っ張ることにより、フレキソ印刷版10Aの刷り方向(版胴周方向)の引っ張り強度が向上する。これにより、第1実施形態のフレキソ印刷版10Aは、印刷版1の刷り方向の伸びが抑えられ、高精度の転写を長期にわたり維持することができる。
【0028】
つぎに、図2に示す第2実施形態のフレキソ印刷版10Bが、上記第1実施形態のフレキソ印刷版(10A)と異なる点は、上記フィルム状基材2のさらに裏面側(図示下側)に、ステンレス箔3が、貼り付けられている点である。
【0029】
上記ステンレス箔3は、SUS304等のステンレススチールからなる、厚さ0.005〜2.00mm程度の金属箔であり、上記フィルム状基材2に一体に貼り付けされる。このステンレス箔3は、印刷版刷り方向(図示左右方向)の端から端まで、すなわち、少なくともクランプ11に対応する位置(端部のくわえ部10z)にかかるように配設されており、印刷機の版胴(21)に装着する場合、図2のように、フィルム状基材2の端部とともにクランプ11に挟み込まれるようになっている。その他の構成は前記第1実施形態のフレキソ印刷版(10A)と同じである。
【0030】
上記第2実施形態のフレキソ印刷版10Bによれば、上記ステンレス箔3により、印刷版刷り方向の引っ張り強度が大幅に向上する。すなわち、このフレキソ印刷版10Bを印刷機の版胴(21)に装着する際、上記ステンレス箔3が存在する両端部(くわえ部10z)をクランプ11に挟み込み、上記フィルム状基材2とこのステンレス箔3を一緒に引っ張ることにより、フレキソ印刷版10Bの刷り方向(版胴周方向)の引っ張り強度が、大幅に向上する。これにより、第2実施形態のフレキソ印刷版10Bは、印刷版1を大形化(大面積化)しても転写の精度が低下することなく、高精度の転写を長期にわたり維持することができる。
【0031】
つぎに、図3に示す第3実施形態のフレキソ印刷版10Cが、上記第2実施形態のフレキソ印刷版(10B)と異なる点は、クランプ11に挟み込まれる、両端部のくわえ部10zに、フィルム状基材2が配設されておらず、上記クランプ11に対応する位置には、上記ステンレス箔3の端部のみが位置決めされている点である。
【0032】
上記第3実施形態の構成によっても、フレキソ印刷版10Cの刷り方向(版胴周方向)の引っ張り強度が大幅に向上し、高精度の転写を長期にわたり維持することができる。
【0033】
つぎに、上記第2,第3実施形態とステンレス箔(4)の配設位置が異なる第4実施形態について説明する。
【0034】
図4に示す第4実施形態のフレキソ印刷版10Dも、従来例〔図8参照〕と同様、全体として略長方形状であり、その表面側(図示上側)に、文字や画像等のパターンに形成された印刷用凸部1aを有する印刷版1と、この印刷版1の裏面(図示下側)に一体に貼り付けられた、印刷版1の補強用のフィルム状基材2からなり、外観上、従来のフレキソ印刷版(10)と差異はない。
【0035】
上記フレキソ印刷版10Dが、従来例と異なる点は、上記フィルム状基材2より表面側(図示上側)で、かつ、印刷版1を構成する樹脂の中に、ステンレス箔4が埋め込まれている点である。このステンレス箔4は、前記第2,第3実施形態におけるステンレス箔(3)と同様、SUS304等のステンレススチールからなる厚さ0.005〜2.00mm程度の金属箔で、上記印刷版1における印刷版刷り方向(図示左右方向)の端から端まで、すなわち、少なくともクランプ11に対応する位置(端部のくわえ部10z)にかかるように位置決めされている。
【0036】
なお、このような樹脂中にステンレス箔4を埋没させる方法は、例えば、印刷版1に対応する型枠(反転型)等に液状の樹脂組成物を充填して印刷版1を形成する際、一旦、所望の位置(深さ)まで上記樹脂組成物を充填し、上記ステンレス箔4を樹脂組成物上に載置した後、その上に所定量まで上記樹脂組成物を充填してステンレス箔4を覆い、その状態で樹脂を硬化させる等により行うことができる。
【0037】
上記構成によれば、印刷機の版胴(21)に装着した場合、印刷版1の端部1dおよびフィルム状基材2の端部とともに、上記ステンレス箔4の端部がクランプ11に挟み込まれるようになっている。これにより、印刷版刷り方向の引っ張り強度が向上する。すなわち、このフレキソ印刷版10Dを印刷機の版胴(21)に装着する際、上記ステンレス箔4が存在するくわえ部10zが、版胴(21)のクランプ11により引っ張られることにより、フレキソ印刷版10Dの刷り方向(版胴周方向)の引っ張り強度が、大幅に向上する。また、印刷版1の寸法安定性および耐久性(耐刷性)が格段に向上し、これにより、第4実施形態のフレキソ印刷版10Dは、印刷版1を大形化(大面積化)しても転写の精度が低下することなく、高精度の転写を長期にわたり維持することができる。
【0038】
つぎに、本発明の第5実施形態におけるフレキソ印刷機について述べる。
図5は、第5実施形態におけるフレキソ印刷機の概略構成図である。なお、従来のフレキソ印刷機と同様の機能を有する構成部材には、同じ符号を付記する。
【0039】
本実施形態におけるフレキソ印刷機は、上記各フレキソ印刷版の実施形態と同様、液晶,有機EL,有機TFT等の製造工程において、電極層やシール剤,マスキング剤等の有機溶剤系のインキ(塗工液)を、印刷(転写形成)するのに用いられるものであり、先に述べたように、移動ステージ25上に載置した平板状の基板(ワークW)上に、版胴21に装着されたフレキソ印刷版(従来品である10もしくは本発明品である10A,10B,10C,10D)上に保持されたインキを転写するものである。なお、上記版胴21は、大判(大面積)のフレキソ印刷版10(10A〜10D)に対応できるように、従来の印刷機の版胴(20:図7参照)より大径になっている。また、フレキソ印刷版10にインキを供給するためのアニロックスロール22と、ドクター(ブレード)23およびインキ補充手段(インキタンク24)等を備える点も同様である。
【0040】
本実施形態におけるフレキソ印刷機が、従来のフレキソ印刷機と異なる点は、図6の拡大図に示すように、その版胴21の外周面における、フレキソ印刷版10の印刷用凸部10wに対応する領域以外の位置(この例においては、印刷版10の端部近傍の平板部10xおよび曲げ部10yに対応する領域)に、版胴21内部に貫通する版胴軸方向の溝21a,21a,・・・が複数設けられ、この版胴21の内部に、上記各溝21aと版胴21の外部に設置された吸引ポンプ等の陰圧源(図示せず)とを連絡する陰圧連絡管30a,分配管30b,陰圧室30c等からなる陰圧供給手段30が形成されている点である。そして、これら版胴21外周面の溝21aと上記陰圧供給手段30により、上記フレキソ印刷版10をこの版胴21に装着した際に、このフレキソ印刷版10が、上記版胴21外周面に吸着固定されるようになっている。これが、第5実施形態におけるフレキソ印刷機の特徴である。
【0041】
より詳しく説明すると、版胴21内に設置された陰圧供給手段30は、版胴21外周面の各溝21aの裏側に位置する陰圧室30cと、版胴21の回転中心に位置する陰圧連絡管30aと、この陰圧連絡管30aを通じて供給される陰圧を各陰圧室30に分配する分配管30bとから構成されている。上記陰圧連絡管30aの一端の開口は、この版胴21の外部に設置された吸引ポンプ等の陰圧源に接続され、これら陰圧連絡管30aおよび各分配管30bを通じて供給された陰圧により、上記各陰圧室30内が負圧に保たれるようになっている。
【0042】
上記版胴21の外周面に設けられた貫通溝21aは、版胴軸方向に連続する長孔状あるいはスリット状であり、その版胴周方向に所定の間隔で多数設けられている。なお、上記溝21aの開口形状(パターン)は、必ずしも版胴軸方向に沿って版胴端面から端面まで平行に連続するものばかりではなく、版胴軸方向に対して不連続な形状のもの、軸方向に対して傾斜する形状のもの、千鳥状に相互に位相を変更してあるパターンや、長楕円形状の開口を有するパンチングメタル状等を使用することができ、これらの形状を組み合わせて用いてもよい。
【0043】
また、上記実施形態では、溝21a内への印刷版10の引き込み(吸着による不陸)に起因する印刷用凸部10w表面の凹凸化(すなわち、転写精度の低下)を避けるため、印刷版10吸着用の溝21aを設ける位置を、上記印刷用凸部10wにかからない、印刷版10の端部領域(平板部10xと薄肉の曲げ部10yとに対応する位置)としたが、上記溝21aの開口形状や吸引圧等の調整により上記印刷用凸部10w表面の凹凸化を回避可能であれば、溝21aは版胴21の外周面の全周にわたって、もしくは任意の位置に設けることができる。さらには、上記溝21aおよび陰圧供給手段30による印刷版10の吸着が充分であれば、クランプ11等を省略し、上記印刷版10の端部を、磁力(マグネット)吸着式としたりすることも可能である。
【0044】
上記のフレキソ印刷機によれば、陰圧源による吸引により、上記フレキソ印刷10の両端部側(平板部10x)を、版胴軸方向に均等な力で固定(吸着)することができる。また、フレキソ印刷版10が、転写の繰り返し(輪転)による応力を受けても、この印刷版10の伸びを抑えることができる。したがって、本実施形態のフレキソ印刷機は、高精度の転写を長期にわたって安定して維持することができる。
【0045】
なお、上記従来のフレキソ印刷版10に代えて、前記第1〜第4実施形態のようなフレキソ印刷版10A,10B,10C,10Dを用いてもよい。上記フレキソ印刷版10A,10B,10C,10Dを使用すれば、版の寸法安定性および耐久性(耐刷性)がより向上するとともに、これらフレキソ印刷版10A,10B,10C,10Dを大形化(大面積化)しても、高精度の転写をより長期にわたり維持することができ、好ましい。
【産業上の利用可能性】
【0046】
本発明のフレキソ印刷版およびフレキソ印刷機は、大形の印刷版であっても、転写の精度が低下することなく、高精度の転写を長期にわたり維持することができるため、フラットパネルディスプレイ用や太陽電池パネル用基板用等、近年、大面積化する基板上に、基板や配線等を傷つけることなく、均一な薄膜を、高速かつ高精度に転写できる。
【符号の説明】
【0047】
1 印刷版
2 基材
3 ステンレス箔
4 ステンレス箔
10 フレキソ印刷版
10A,10B,10C,10D フレキソ印刷版
11 クランプ
20 版胴
21 版胴
22 アニロックスロール
23 ドクター
24 インキタンク
25 移動ステージ
26 圧胴
30 陰圧供給手段
W ワーク

【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂製のフレキソ印刷版と、上記フレキソ印刷版の裏面に一体に貼着されたフィルム状基材とを備えるフレキソ印刷版であって、フレキソ印刷版を版胴に固定するためのクランプに対応する上記フレキソ印刷版の部分に、上記フィルム状基材の端部が位置決めされていることを特徴とするフレキソ印刷版。
【請求項2】
樹脂製のフレキソ印刷版と、上記フレキソ印刷版の裏面に一体に貼着されたフィルム状基材とを備えるフレキソ印刷版であって、上記フィルム状基材の裏面側に、印刷版刷り方向の一方の端部から他方の端部まで連続するステンレス箔が配設され、フレキソ印刷版を版胴に固定するためのクランプに対応する上記フレキソ印刷版の部分に、上記フィルム状基材の端部および上記ステンレス箔の端部の少なくとも一方が位置決めされていることを特徴とするフレキソ印刷版。
【請求項3】
樹脂製のフレキソ印刷版と、上記フレキソ印刷版の裏面に一体に貼着されたフィルム状基材とを備えるフレキソ印刷版であって、上記フィルム状基材の表面側に、印刷版刷り方向の一方の端部から他方の端部まで連続するステンレス箔が配設され、フレキソ印刷版を版胴に固定するためのクランプに対応する上記フレキソ印刷版の部分に、上記フィルム状基材の端部および上記ステンレス箔の端部の少なくとも一方が位置決めされていることを特徴とするフレキソ印刷版。
【請求項4】
外周面の所定位置にフレキソ印刷版を装着するロール状の版胴と、上記版胴に装着されたフレキソ印刷版にインキを供給するアニロックスロールと、このアニロックスロール上のインキ量を調節するインキ量調節手段と、インキ供給手段とを備えるフレキソ印刷機であって、上記版胴の外周面には、少なくともフレキソ印刷版の印刷用凸部に対応する領域以外の位置に、版胴内部に貫通する版胴軸方向の溝が複数設けられ、この版胴の内部には、上記各溝と版胴の外部に設置された陰圧源とを連絡する陰圧供給手段が形成され、上記フレキソ印刷版を版胴に装着した際に、このフレキソ印刷版が上記版胴外周面に吸着固定されるようになっていることを特徴とするフレキソ印刷機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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