説明

フレキソ印刷版用版材及びフレキソ印刷版

【課題】高分子型有機ELディスプレイのように高精細の画素を形成するための版、特に水系インキとして用いる正孔輸送層印刷用の版として、金属基材に対して表露光のみで製版できるフレキソ印刷用の版材を提供。
【解決手段】基材3上に樹脂層1が形成されたフレキソ印刷版用の版材において、基材3が金属であり且つ、樹脂層1がゴム状のポリマー成分と架橋性を有するモノマー成分と光重合開始剤とを主成分とする感光性樹脂層であって、感光性樹脂層の厚みが50μm以上300μm以下であることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フレキソ印刷に使用する感光性樹脂からなる印刷版用版材及びそれを用いた印刷版に関するもので、特に高精細印刷を可能とする印刷版に関する。
【背景技術】
【0002】
感光性樹脂からなる印刷版は、広義的には全て樹脂版と言えるが、感光性樹脂版の中でもゴム成分を主体とする感光性樹脂からなるものをフレキソ版と呼び、ポリアミド、ポリビニルアルコール、セルロース誘導体等の感光性樹脂を主体としゴム成分をほとんど含まない樹脂からなるものを樹脂版と区別して呼ぶ場合もある。本明細書でも、以下特別の断りがない限り、ゴム成分を主体とする感光性樹脂からなるものをフレキソ版、ゴム成分をほとんど含まない感光性樹脂からなるものを樹脂版と区別して記載する。
【0003】
ポリアミド、ポリビニルアルコール、セルロース誘導体等の感光性樹脂からなる樹脂版は耐溶剤性が高いことから、主に溶剤系インキの印刷に適し、ゴム成分を主体とするフレキソ版はモノマー成分を選ぶことである程度溶剤耐性を持たせることができ、脂肪族系の溶剤系インキに使用できるものもあるが、芳香族系溶剤インキには耐性がない。したがって、フレキソ版は水、アルコール耐性の高いものが多く、水系インキへの使用に適する。
【0004】
また、フレキソ版はゴム成分を主体としていることから、その弾性を利用してダンボール紙などの比較的表面に凹凸を有する印刷体に強く押し付けて印刷することが可能であり、従って樹脂層の厚みも大きくする必要があり、一般的なフレキソ版の樹脂層の厚みは3mmから7mm程度ある。樹脂版の一般的な樹脂層の厚みが1mm程度であるのと比べてかなり厚いといえる。
【0005】
感光性樹脂版の製版は、まず製版したいパターンのフォトマスクを通して版材を感光性樹脂層側からUV光で露光し、フォトマスクの光を透過した部分の樹脂を硬化させ、次いで未硬化部分の樹脂を洗い流して現像する。しかし、フレキソ版のように樹脂厚が3〜7mmもある場合、感光性樹脂層側からのみの露光では樹脂層と基材層の境界部付近にまで十分に光が届かず境界部の硬化が弱くなる。従って、フレキソ版を製版する場合は、先に基材側から裏露光を行い、基材と樹脂層の境界付近をあらかじめ硬化させてから、樹脂層側からの表露光を行うのが一般的である。そのため、フレキソ版に用いる基材は、光透過性を有する必要があり、プラスチックフィルム等の基材が用いられる。
【0006】
一方、印刷技術の様々な分野への利用が、近年盛んに行われるようになってきており、その一つにディスプレイ分野への応用がある。例えばディスプレイの画素形成に印刷技術を利用する例として、高分子型有機ELディスプレイの画素を形成する発光層や正孔輸送層などの有機層を印刷法で形成する試みがある。
【0007】
高分子型有機EL素子は、ふたつの対向する電極の間に高分子材料からなる正孔輸送層と有機発光層がそれぞれの膜厚数十nm程度で積層して形成されているのが一般的な構成である。正孔輸送層や発光層の高分子材料を用いて厚み数十nmの薄膜を形成するには、高分子材料を溶媒に分散または溶解させて塗工液にし、これをウェットコーティング法で薄膜形成する方法が適切である。ウェットコーティング法としては、スピンコート法、バーコート法、突出コート法、ディップコート法等があるが、高精細にパターニングしたりRGB3色に塗り分けしたりするためには、これらのウェットコーティング法では難しく、塗り分け・パターニングを得意とする印刷法による薄膜形成が最も有効であると考えられる。
【0008】
さらに、各種印刷法のなかでも、ガラスを基板とする有機EL素子やディスプレイでは、グラビア印刷法等のように金属製の印刷版等の硬い版を用いる方法は不向きであり、弾性を有するゴムブランケットを用いるオフセット印刷法や同じく弾性を有するゴム版や樹脂版を用いる凸版印刷法が適正である。ただ、オフセット印刷で3色塗分け等、複数回に分けて印刷する場合、2回目以降は先に印刷した膜に2回目以降版が接することになり、悪影響を及ぼす可能性がある。従って、2回目以降も先に印刷した膜に版が接触することのない凸版印刷法が最も適する。実際に凸版印刷法による試みとして(特許文献1)などが提唱されている。
【0009】
高分子有機EL素子の発光層を形成する高分子有機発光材料の塗工液(以下インキと記す)は有機溶剤であり、従って使用する版は凸版でも水現像タイプの樹脂凸版が適するが、正孔輸送層材料の塗工液は、水/アルコール系の溶剤のため、使用する版はゴム成分を主成分とするいわゆるフレキソ版が適する。
【0010】
ここで、高分子型有機ELディスプレイの画素を形成するための版という用途にもう一度立ち返って考えると、高精細に高精度印刷するという要求に答える必要があるが、フレキソ版や樹脂版などは、温湿度による伸縮が起こり易く、厳密なピッチ精度を要求される印刷には不向きである。そこで、樹脂版のベースとなる基材部分を金属等の熱膨張係数の低いものにすることで、版としてのピッチ変動を抑えることが考えられるが、前述したようにフレキソ版の場合は、裏露光が必要なことから基材には光透過性のあるプラスチックシートが用いられ、金属ベースにすることは不可能であった。
【0011】
以下に公知の文献を記す。
【特許文献1】特開2001−93668号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
前述したように、フレキソ印刷版では裏露光が必要なことから、金属等の熱膨張係数の低い基材を用いることが不可能であり、従ってピッチ精度を要求される印刷用の版材として使用するには不向きであった。
【0013】
フレキソ版で裏露光が必要な理由は、これも前述したように一般的にフレキソ版の樹脂層は樹脂版に比べて3〜7倍程度厚く、表露光のみでは樹脂層と基材の界面付近の露光が不十分であり、したがって裏側すなわち基材側からの露光によって樹脂層と基材界面付近も完全に露光硬化させる必要があるからである。また、樹脂層と基材界面の露光硬化が不十分であると、この界面での樹脂と基材の接着も不十分となり、耐刷性にも影響してくる。
【0014】
以上のことから、フレキソ版を高精細、高精度印刷用途に使用するには、表露光のみで製版できる版材にすることが必須であり、それにより基材の金属化を可能にすることが必要である。
【0015】
よって、本発明では、高分子型有機ELディスプレイのように高精細の画素を形成するための版、特に水系インキとして用いる正孔輸送層印刷用の版として、金属基材に対して表露光のみで製版できるフレキソ印刷用の版材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記目的を達成するために、本発明者等は、ゴム成分を主体とする光硬化性樹脂からな
るフレキソ版を、樹脂層側からのみの露光ですなわち表露光のみで製版可能とするにはどのような構成が適切であるかを検討し、それにより基材の金属化を可能とし、最終的に寸法変動が少ない版材を得るための手段を検討した結果、次のような手段が有効であることを見出した。
【0017】
本発明の請求項1に係る発明は、基材上に樹脂層が形成されたフレキソ印刷版用の版材において、基材が金属であり且つ、樹脂層がゴム状のポリマー成分と架橋性を有するモノマー成分と光重合開始剤とを主成分とする感光性樹脂層であって、感光性樹脂層の厚みが50μm以上300μm以下であることを特徴とするフレキソ印刷版用版材とした。
【0018】
請求項2に係る発明は、金属基材が、熱膨張係数12.1×10−6/K以下の金属からなることを特徴とする請求項1記載のフレキソ印刷版用版材とした。
【0019】
請求項3に係る発明は、フォトマスクを介して紫外線で露光し、その後感光性樹脂層の未露光部分を洗い流して現像することで製版するフレキソ印刷版用版材であって、版材の片面側からの露光のみで製版することが可能なことを特徴とする請求項1又は2に記載のフレキソ印刷版用版材とした。
【0020】
請求項4に係る発明は、感光性樹脂層と基材の間に、熱硬化性の樹脂層を有することを特徴とする請求項1乃至3いずれか1項に記載のフレキソ印刷版用版材とした。
【0021】
請求項5に係る発明は、熱硬化性の樹脂層に、エポキシ樹脂を含むことを特徴とする請求項4記載のフレキソ印刷版用版材とした。
【0022】
請求項6に係る発明は、熱硬化性の樹脂層に、感光性樹脂層に含まれるゴム状のポリマー成分と同一のポリマー成分を含むことを特徴とする請求項4又は5に記載のフレキソ印刷版用版材とした。
【0023】
請求項7に係る発明は、熱硬化性の樹脂層に、感光性樹脂層に含まれるゴム状のポリマー成分と同一のポリマー成分を1%乃至20%の範囲で含むことを特徴とする請求項4乃至6いずれか1項に記載のフレキソ印刷版用版材とした。
【0024】
請求項8に係る発明は、請求項1乃至7いずれか1項に記載のフレキソ印刷版用版材を用いて製版されたことを特徴とするフレキソ印刷版とした。
【発明の効果】
【0025】
本発明のフレキソ印刷版用版材及びフレキソ印刷版用版は以上のような構成であるので、基材の金属化が可能となり、これにより寸法精度が高く、高精細ディスプレイの画素形成等の高精細印刷分野に使用できる水系インキ用のフレキソ印刷用版材及びそれを用いた印刷版とすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
本発明の好適な実施の形態を、パッシブマトリックスタイプの有機ELディスプレイパネルを構成する正孔輸送層を印刷法によって形成する場合を例に説明する。ただし、本発明はこれらに限定されるものではない。本発明における有機ELディスプレイパネル断面の模式図を図1に示す。
【0027】
有機ELディスプレイパネルを構成する有機EL素子は、図1で、ガラス基板6の上に形成される。ガラス基板6の上には陽極としてパターニングされた画素電極5が設けられ、画素電極の材料としては、ITO(インジウムスズ複合酸化物)、IZO(インジウム亜鉛複合酸化物)、酸化錫、酸化亜鉛、酸化インジウム、亜鉛アルミニウム複合酸化物等の透明電極材料が使用できる。なお、低抵抗であること、溶剤耐性があること、透明性が高いことなどからITOが好ましい。ITOはスパッタ法によりガラス基板上に形成され、フォトリソ法によりパターニングされてライン状の画素電極5となる。
【0028】
ライン状の画素電極5を形成後、隣接する画素電極の間に感光性材料を用いてフォトリソ法により絶縁層7が形成される。
【0029】
絶縁層7形成後に、正孔輸送層4を形成する。正孔輸送層4を形成する正孔輸送材料としては、ポリアニリン誘導体、ポリチオフェン誘導体、ポリビニルカルバゾール(PVK)誘導体、ポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)(PEDOT)等が挙げらる。これらの材料はポリスチレンスルフォネート(PSS)等のポリマーと混合または付加させて溶媒に溶解または分散させて正孔輸送材料インキとし、本発明においては、フレキソ印刷法を用いて、画素パターンに合わせて正孔輸送材料インキを画素毎に塗りわけして、正孔輸送層4の形成を行う。
【0030】
正孔輸送層4の形成を行うフレキソ印刷法では、本発明におけるフレキソ印刷用版を用いる。本発明におけるフレキソ印刷用版材の構成例は、図2に示すように、ゴム状のポリマーを主成分とする厚さ50〜300μmの感光性樹脂層31と熱硬化性32の樹脂層からなる中間層と金属製の基材33で構成される。
【0031】
感光性樹脂層の主成分であるゴム状のポリマー成分としては、とくに制限はないが一般的にフレキソ印刷版として使用されるポリウレタン系ゴム、ブタジエン系ゴム等が使用できる。これに架橋性を有するモノマーとしてアクリレートやメタクリレート系のモノマー及び光重合開始材としてベンジルケタールやベンゾフェノン系の開始剤を加えて感光性樹脂層31を構成する。この感光性樹脂層が、露光・現像により製版されて凹凸による画像を形成して、フレキソ印刷版となる。製版は、まず製版したいパターンのフォトマスクを透して版を感光性樹脂層側からUV光で露光し、フォトマスクの光の透過した部分の樹脂を硬化させ、次いで未硬化部分の樹脂を洗い流して現像する。現像後は加熱乾燥を行うが、この加熱により中間層の熱硬化性樹脂層32の硬化を促進することもできる。
【0032】
感光性樹脂層31と基材33の間の中間層として構成される熱硬化性樹脂層32に用いる樹脂材も、熱硬化作用が高く、耐水性で金属との接着性が良いものであれば特に限定されないが、これらの条件を満たす熱硬化性樹脂としてエポキシ系の樹脂が好ましい。また、この中間層は感光性樹脂層と金属基材との接着性を高めることを目的とした層であるが、熱硬化による収縮時に、金属基材との界面側が収縮を妨げることから熱硬化性樹脂層が破断していまう可能性があるが、この層に弾性をもつゴム成分を含ませることでこの破断を防止できる。さらに、このゴム成分を感光性樹脂層の主成分と同一のものにすることで、感光性樹脂層との界面の相溶性が向上して感光性樹脂層との接着性も向上する。
【0033】
基材33は湿度や温度による寸法変化を起こしにくく、また印刷機の版胴に巻きつけて使用することが可能なものが望ましく、金属性の薄板からなる基材が適するが、加工性、経済性からスチール基板やアルミ基板が好適である。
【0034】
さらに、樹脂版が寸法変化を起こす要因として、温度変化による寸法変化が考えられるが、これについても基材自身が温度による寸法変化起こしにくいものであれば、版としての寸法変化も抑えることが可能であり、よって使用する基材としては熱膨張係数の小さいものが望ましい。ちなみに鉄等の金属は、熱膨張係数100×10−6/K以上のポリエステルフィルムに比べると十分い低い熱膨張係数を示し、この点からも本発明の樹脂版の基材として適する。ちなみに鉄の熱膨張係数は12.1×10−6/Kである。さらに、
鉄とニッケル系の合金は鉄よりも低い熱膨張率を示し、中でも鉄64%、ニッケル36%の比率の合金いわいるインバー材は、鉄や一般的な金属の10分の1以下の熱膨張率を示し、温度による寸法変化をさらに小さくできる。
正孔輸送層4形成後に、有機発光層3を形成する。有機発光層3を形成する有機発光材料は、例えばクマリン系、ペリレン系、ピラン系、アンスロン系、ポルフィレン系、キナクドリン系、N,N‘−ジアルキル置換キナクドリン系、ナフタルイミド系、N,N‘−ジアリール置換ピロロピロール系、イリジウム錯体系等の発光性色素を、ポリスチレン、ポリメチルメタクリレート、ポリビニルカルバゾール等の高分子中に分散させたものや、ポリアリーレン系、ポリアリーレンビニレン系やポリオレフィン系の高分子材料が挙げられる。
【0035】
これらの有機発光材料は溶媒に溶解または分散させて有機発光インキとなる。有機発光材料を溶解または分散させる溶媒としては、トルエン、キシレン、アセトン、アニソール、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等の単独またはこれらの混合溶媒が挙げられる。中でもトルエン、キシレン、アニソールといった芳香族有機溶媒が有機発光材料の溶解性の面から好適である。
【0036】
有機発光層の形成方法は、正孔輸送層と同様に印刷法による塗りわけで行うが、版材としては耐溶剤性の高い水現像タイプの樹脂凸版を用いて凸版印刷法で行う。水現像タイプの感光性樹脂としては、例えば親水性のポリマーと不飽和結合を含むモノマーいわゆる架橋性モノマー及び光重合開始剤を構成要素とするタイプが挙げられる。このタイプでは、親水性ポリマーとしてポリアミド、ポリビニルアルコール、セルロース誘導体等が用いられる。また、架橋性モノマーとしては、例えばビニル結合を有するメタクリレート類が挙げられ、光重合開始剤としては例えば芳香族カルボニル化合物が挙げられる。中でも、印刷適正の面からポリアミド系の水現像タイプの感光性樹脂が好適である。
【0037】
正孔輸送層及び有機発光層の形成に用いる印刷機は、平板に印刷する方式のフレキソ印刷機であれば使用可能であるが、以下に示すような印刷機が望ましい。図3に印刷機の概略図を示した。本製造装置は、インキタンク10とインキチャンバー12とアニロックスロール14とフレキソ版または樹脂凸版16を取り付けした版胴18を有している。インクタンク10には、正孔輸送剤インキまたは有機発光インキが収容されており、インキチャンバー12にはインクタンク10より有機発光インキが送り込まれるようになっている。アニロックスロール14は、インキチャンバー12のインキ供給部及び版胴18に接して回転するようになっている。
【0038】
アニロックスロール14の回転にともない、インキチャンバーから供給されたインキはアニロクスロール表面に均一に保持されたあと、版胴に取り付けされた樹脂凸版の凸部に均一な膜厚で転移する。さらに、被印刷基板24は摺動可能な基板固定台20上に固定され、版のパターンと基板のパターンの位置調整機構により、位置調整しながら印刷開始位置まで移動して、版胴の回転に合わせてフレキソ版の凸部が基板24に接しながらさらに移動し、基板24の所定位置にパターニングしてインキを転移する。
【0039】
有機発光層3の形成後、陰極層2を画素電極のラインパターンと直交するラインパターンで形成する。陰極層2の材料としては、有機発光層3の発光特性に応じたものを使用でき、例えば、リチウム、マグネシウム、カルシウム、イッテルビウム、アルミニウム等の金属単体やこれらと金、銀などの安定な金属との合金などが挙げられる。また、インジウム、亜鉛、錫などの導電性酸化物を用いることもできる。陰極層の形成方法としては、マスクを用いた真空蒸着法による形成方法が挙げられる。
【0040】
最後にこれらの有機EL構成体を、外部の酸素や水分から保護するために、ガラスキャ
ップ1と接着剤8を用いて密封封止し、有機ELディスプレイ用の素子パネルを得ることができる。
【実施例】
【0041】
以下、本発明の実施例について具体的に説明する。
【0042】
<実施例1>
実施例1においては、正孔輸送層を形成するための印刷に用いるフレキソ印刷版は、ブタジエン系ゴムポリマーを主成分とする厚さ0.3mm感光性樹脂層と、厚さ0.2mmのスチール製の基材と、感光性樹脂層と基材の中間に形成される厚さ0.01mmのエポキシ樹脂に10%のブタジエン系ゴム成分を含む熱硬化性樹脂層の三層で構成されるフレキソ印刷版用材を用い、これを画線部に光が透過するマスクすなわちネガマスクを用いて感光性樹脂層側からUV露光後、専用の現像液で現像して凸部を形成したものを使用した。現像後に版材の乾燥と中間層の熱硬化促進の目的で80℃30分の加熱を行ってフレキソ印刷版を作成した。このフレキソ印刷版を前述した印刷装置に取り付けて、正孔輸送材インキを印刷して正孔輸送層を形成した。
【0043】
その他、本実施例における有機ELディスプレイ用素子パネルの試作方法の詳細を以下に示す。
【0044】
300mm角のガラス基板の上に、スパッタ法を用いてITO(インジウム−錫酸化物)薄膜を形成し、フォトリソ法と酸溶液によるエッチングでITO膜をパターニングして、対角5インチサイズのディスプレイが2面取れるように画素電極を形成した。ディスプレイ1面当たりの画素電極のラインパターンは、線幅40μm、スペース20μmでラインが1950ライン形成されるパターンとした。
【0045】
その上に前述した方法で正孔輸送層を形成したが、正孔輸送材料インキとしてはPEDOT/PSSの水分散液からなるから成るインキを用いた。正孔輸送層の乾燥後の膜厚は50nmとした。
【0046】
さらに、有機発光材料であるポリフェニレンビニレン誘導体を濃度1%になるようにトルエンに溶解させた有機発光インキを用い、画素電極の上にそのラインパターンにあわせて有機発光層を凸版印刷法で印刷行った。このとき、150線/インチのアニロックスロールおよび水現像タイプの感光性樹脂版を使用した。印刷、乾燥後の有機発光層の膜厚は80nmとなった。
【0047】
その上にCa、Alからなる陰極層を画素電極のラインパターンと直交するようなラインパターンで抵抗過熱蒸着法によりマスク蒸着して形成した。最後にこれらの有機EL構成体を、外部の酸素や水分から保護するために、ガラスキャップと接着剤を用いて密閉封止し、有機ELディスプレイ用素子パネルを作成した。得られたパネルの表示部の周縁部には、各画素電極に接続されている陽極側および陰極側それぞれの取り出し電極があり、これらを電源に接続することでパネルの点灯表示確認を行い、発光状態のチェックを行った。
【0048】
また、正孔輸送層印刷後の画素に対する印刷ずれを評価した。さらに、このフレキソ印刷版で連続100回の印刷を実施し、その印刷耐性も評価した。
【0049】
<実施例2>
実施例2においては、正孔輸送層を形成するための印刷に用いるフレキソ印刷版材を、感光性樹脂層の厚さ0.05mmとした他は実施例1と同様のフレキソ印刷版とし、パネ
ル作製も実施例1と同様にして行った。
【0050】
また、作製したパネルの評価、印刷版の評価も実施例1と同様にして行った。
【0051】
<実施例3>
実施例3においては、正孔輸送層を形成するための印刷に用いるフレキソ印刷版材を、感光性樹脂層と基材の間の熱硬化性樹脂層にブタジエン系ゴム成分が含まれていない他は実施例1と同様のフレキソ印刷版とし、パネル作製も実施例1と同様にして行った。
また、作製したパネルの評価、印刷版の評価も実施例1と同様にして行った。
【0052】
<実施例4>
実施例4においては、正孔輸送層を形成するための印刷に用いるフレキソ印刷版材を、感光性樹脂層と基材の間の熱硬化性樹脂層に含まれるブタジエン系ゴム成分の濃度が1%にした他は実施例1と同様のフレキソ印刷版とし、パネル作製も実施例1と同様にして行った。
【0053】
また、作製したパネルの評価、印刷版の評価も実施例1と同様にして行った。
【0054】
<実施例5>
実施例5においては、正孔輸送層を形成するための印刷に用いるフレキソ印刷版材を、感光性樹脂層と基材の間の熱硬化性樹脂層に含まれるブタジエン系ゴム成分の濃度が20%にした他は実施例1と同様のフレキソ印刷版とし、パネル作製も実施例1と同様にして行った。
【0055】
また、作製したパネルの評価、印刷版の評価も実施例1と同様にして行った。
【0056】
<実施例6>
実施例6においては、正孔輸送層を形成するための印刷に用いるフレキソ印刷版材を、感光性樹脂層と基材の間の熱硬化性樹脂層に含まれるブタジエン系ゴム成分の濃度が30%にした他は実施例1と同様のフレキソ印刷版とし、パネル作製も実施例1と同様にして行った。
【0057】
また、作製したパネルの評価、印刷版の評価も実施例1と同様にして行った。
【0058】
<比較例1>
比較例1においては、正孔輸送層を形成するための印刷に用いるフレキソ印刷版材を、感光性樹脂層の厚さ1mmとした他は実施例1と同様のフレキソ印刷版とし、パネル作製も実施例1と同様にして行った。
【0059】
また、作製したパネルの評価、印刷版の評価も実施例1と同様にして行った。
【0060】
<比較例2>
比較例2においては、正孔輸送層を形成するための印刷に用いるフレキソ印刷版材を、感光性樹脂層の厚さ0.03mmとした他は実施例1と同様のフレキソ印刷版とし、パネル作製も実施例1と同様にして行った。
【0061】
また、作製したパネルの評価、印刷版の評価も実施例1と同様にして行った。
【0062】
<比較例3>
比較例3においては、正孔輸送層を形成するための印刷に用いるフレキソ印刷版材を、
感光性樹脂層と基材の間に熱硬化性樹脂層を無くした他は実施例1と同様のフレキソ印刷版とし、パネル作製も実施例1と同様にして行った。
【0063】
また、作製したパネルの評価、印刷版の評価も実施例1と同様にして行った。
【0064】
<比較例4>
比較例4においては、正孔輸送層を形成するための印刷に用いるフレキソ印刷版を、基材をポリエチレンテレルタレート製のプラスチックシートとした他は実施例1と同様のフレキソ印刷版とし、パネル作製も実施例1と同様にして行った。
【0065】
また、作製したパネルの評価、印刷版の評価も実施例1と同様にして行った。
【0066】
実施例1〜6及び比較例1〜4の各フレキソ版で正孔輸送層の印刷を行った場合の画素に対する印刷位置のずれを300mm基板サイズ当たりで測定した。また各フレキソ版で正孔輸送層印刷してパネル化した有機EL素子の発光状態も評価した。さらに、各版で100回印刷行った後の版の状態を調べ、耐刷性の評価も行った。これらの結果を表1に示す。
【0067】
印刷ずれの評価結果では、スチール基材を用いた実施例1〜6及び比較例1〜3の版ではいずれも5μm以下と問題なかったが、ポリエチレンテレフタレートシートを基材とした比較例4ではずれ量が20μmとパネルの発光ムラに影響するほど大きく問題であった。
【0068】
パネルの発光状態の評価については、比較例1と比較例2及び比較例4以外では良好であった。比較例1では製版時の露光不足による版のレリーフに歪みがみられ、このため正孔輸送層の印刷ムラが生じて、発光ムラに影響したものと思われる。露光不足の原因は、感光性樹脂層が1mmと厚いために、樹脂層の底部まで硬化しなかったためと思われる。比較例2では感光性樹脂層の厚みが0.03mmと薄いことから、製版で形成されたレリーフの高さも低くすぎることで、印刷のパターニングが鮮明にできなかった。比較例4は前述したように、印刷のピッチずれによって発光ムラが生じた。
【0069】
版の耐刷性の評価では、100回印刷後の版の状態で、比較例3においては樹脂層と基材の接着性に異常がみられ、実施例3と実施例6及び比較例1でもやや異常がみられた。
【0070】
比較例3は感光性樹脂層と基材の接着性を高める役目の中間層の熱硬化性樹脂層がないために、もともと樹脂層と基材の接着性が弱いことで耐刷性が低下したと思われる。実施例3は中間層の熱硬化性樹脂層にゴム成分を含まないため、中間層の熱硬化時の収縮による内部応力で中間層が破断しやすくなっていたことと、中間層と感光性樹脂層の接着性が低下していたことで耐刷性が低下したと思われる。実施例6は中間層に含まれるゴム成分の含有量が30%と高いために熱硬化性樹脂の硬化が阻害されて、接着力が低下したことによると考えられる。比較例1は感光性樹脂層の厚みが1mmと厚いため、感光性樹脂側からの露光では樹脂層の底部の露光が不完全であったために接着力がしたことで印刷耐性が低下したと思われる。
【0071】
以上より、本発明によるフレキソ版は、基材を金属にし、感光性樹脂層の厚みを0.05mm〜0.3mmの範囲にし、中間層に熱硬化性樹脂層を有し、さらにこの熱硬化性樹脂層に感光性樹脂層と同じ成分のゴム成分を1%から20%の範囲せ含ませることで、表露光のみで製版できるように設計されており、これにより寸法精度が高く、高精細ディスプレイの画素形成等の高精細印刷分野に使用できる水系インキ用の印刷版となる。
【0072】
【表1】

【図面の簡単な説明】
【0073】
【図1】本発明における有機ELディスプレイパネル断面の模式図である。
【図2】本発明のフレキソ印刷用版材の構成例を断面で示す説明図である。
【図3】本発明に係るフレキソ印刷機の例を示す概略図である。
【符号の説明】
【0074】
1・・・・封止ガラス
2・・・・陰極
3・・・・発光層
4・・・・正孔輸送層
5・・・・陽極
6・・・・基板
7・・・・絶縁層
8・・・・接着剤
10・・・インキタンク
12・・・インキチャンバー
14・・・アニロックスロール
16・・・樹脂凸版
18・・・版胴
24・・・被印刷基板
31・・・感光性樹脂層
32・・・熱硬化性樹脂層
33・・・金属基材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材上に樹脂層が形成されたフレキソ印刷版用の版材において、基材が金属であり且つ、樹脂層がゴム状のポリマー成分と架橋性を有するモノマー成分と光重合開始剤とを主成分とする感光性樹脂層であって、感光性樹脂層の厚みが50μm以上300μm以下であることを特徴とするフレキソ印刷版用版材。
【請求項2】
金属基材が、熱膨張係数12.1×10−6/K以下の金属からなることを特徴とする請求項1記載のフレキソ印刷版用版材。
【請求項3】
フォトマスクを介して紫外線で露光し、その後感光性樹脂層の未露光部分を洗い流して現像することで製版するフレキソ印刷版用版材であって、版材の片面側からの露光のみで製版することが可能なことを特徴とする請求項1又は2に記載のフレキソ印刷版用版材。
【請求項4】
感光性樹脂層と基材の間に、熱硬化性の樹脂層を有することを特徴とする請求項1乃至3いずれか1項に記載のフレキソ印刷版用版材。
【請求項5】
熱硬化性の樹脂層に、エポキシ樹脂を含むことを特徴とする請求項4記載のフレキソ印刷版用版材。
【請求項6】
熱硬化性の樹脂層に、感光性樹脂層に含まれるゴム状のポリマー成分と同一のポリマー成分を含むことを特徴とする請求項4又は5に記載のフレキソ印刷版用版材。
【請求項7】
熱硬化性の樹脂層に、感光性樹脂層に含まれるゴム状のポリマー成分と同一のポリマー成分を1%乃至20%の範囲で含むことを特徴とする請求項4乃至6いずれか1項に記載のフレキソ印刷版用版材。
【請求項8】
請求項1乃至7いずれか1項に記載のフレキソ印刷版用版材を用いて製版されたことを特徴とするフレキソ印刷版。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−207464(P2008−207464A)
【公開日】平成20年9月11日(2008.9.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−46704(P2007−46704)
【出願日】平成19年2月27日(2007.2.27)
【出願人】(000003193)凸版印刷株式会社 (10,630)
【Fターム(参考)】